2度目の人生の目的はパパ活です   作:粗茶Returnees

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 被殺願望杯楽しかったです。


6歩目 小野寺陽はパパ活がしたいったらしたい

 

 体育祭の準備がいつから行われるのか。そんなの前日の放課後と当日の朝だろと答える人が多いだろう。それは間違いではない。多くの生徒の認識はそうなる。けれど、人によってその認知に差が生じるのも事実だ。  

 

 たとえば生徒会。体育祭のプログラムを記したしおりを用意しないといけない。表紙はどうするか。プログラムの順番も教師陣と協議する。

 たとえば応援団。体育祭には必ず彼ら彼女らがいる。紅白戦となる秀知院の体育祭では、1つのチームとして纏まるのが難しい。そこで応援団の存在だ。学年クラス関係なく集まることで、自ずと皆の注目を集める。応援団はその組の中心となれるわけだ。そのためにも、応援団は事前に絆を深め、練習している。

 

 そして、各競技において練習を行う者も。

 

「会長」

「白銀さん? どうしたの?」

 

 そのうちの1人である白銀圭は、競技のための事前準備をしている小野寺陽の下を訪れていた。彼は今技術部たちと一緒にボードを作っている。競技の1つで用いられるこれは、各出場者の要望を聞いたオーダーメイド。ここで基盤を作り、最後の作業は美術部に任される。

 陽は器用な人間だ。頼まれればたいていの事ができてしまう。技術部に協力に来るのも頷けてしまうほどに。

 まずは形からということなのか。職人のような服装をしている。工事現場の人たちが穿くようなズボン。上はわざとタンクトップ。頭にタオルを巻いている。ちなみにズボンは家庭部の手作り。応援団の服もそこで作られたりする。

 

「時間取れる?」

 

 圭は作業状態を見てからそう聞いた。陽がいなくても大丈夫なのか。正直言って判断はつかない。それが分かるのは作業をしている当人たち。

 陽は自分が作っている物を見て微妙な顔をした。大体のことは終わっているが、作るものはこれだけではない。他にもやることはある。全体の作業も、陽がいることを前提に進行しているのだ。

 

「行ってやれよ小野寺」

「いいんですか?」

「余裕はあるからな。1人消えたところで間に合う」

 

 技術部は3年生の引退が遅い。部長の引き継ぎだってまだだ。技術部の部長はそれだけ言って作業に戻った。陽は他の部員を見渡し、頷きを返されたところで納得した。圭に少しの間待ってもらい、キリのいいところまで進める。それが終わると作業状況をメモに書いて部室を出た。

 

「それで、どうしたの?」

「その……手伝ってほしいことがあって」

「それぐらいならいくらでも。何を手伝えばいい?」

「……特訓」

「なんの?」

「障害物競争」

「んー?」

 

 陽は首を傾げた。同じクラスにいるため、圭が出場する競技の1つにそれがあることは知っている。けれどそれは、運動を苦手とする人でも楽しめるように用意された競技だ。中等部ではそれを2種用意し、イージーモードとハードモードを作っている。ハードモードは運動部向け。圭はイージーモードの方に出るはず。特訓の意味がわからない。

 

「内容見たんだけど」

「簡単にしてあるだろ?」

「うん。でも最後が」

「ただのパン食いだが?」

「ただのじゃない!」

「えぇ……」

 

 イージーモードの方は本当に簡単だ。小学生向けかと言われても言い返せないほどに。

 けんけんぱを参考にしたリングジャンプから始まり、バレーボールを乗せて走るラケットダッシュ。通常より幅を広くした平均台。そして最後にパン食い。ジャンプして口で取るアレだ。

 そして圭が危惧してるのもそれだ。

 

「白銀さんって運動苦手じゃないよな?」

「そうなんだけど、アレはちょっと……」

「白銀さんなら問題なく他の人より先に取れる気がするけど」

「イメージトレーニングしてみたんだけど、苦戦する気がして」

「あそこだけは手動だしな」

 

 パン食いする人間の身長を考慮しながら、教師たちが高さを調整する。それはつまり、簡単に取られないように避けることも可能ということ。圭が危惧するのはそこだ。

 イメージトレーニングとか言いつつ、実は家で即席で用意して試してみた。その結果わかったのは、口だけで取るのが難しいということ。これで避けられたりしたら、口を開けながら何度か跳ねないといけない。圭はそれを避けたかった。周囲に作られているイメージもあるから。

 圭のその懸念を汲み取り、陽はその特訓に付き合うことにした。何より圭からの頼みだ。断る理由もない。

 

「問題はどこでするかだよなー。部活は普通にやってるし、体育館も使えない」

「どこかの空き教室とか?」

「他の生徒に覗かれてもいいなら」

「……それは嫌」

「だろうなー」

 

 プライドの高い彼女が、いつも凛としている少女が、特訓の姿を見られることを肯定するわけがない。場合によってはそれでなお魅せるのだろうが、パン食いとなるとどう足掻いても珍妙な姿を見せる。餌を乞う鯉のような姿を。そんなの誰でも嫌である。陽でも躊躇う。

 そうなるとどこがいいのだろうか。他の生徒に見られることなく、その心配もなく特訓できる場所。

 

「……校長に頼るか」

「へ? 校長先生?」

「校長室なら誰も来ない。他の先生が訪ねるのも日にちが決まってるから」

「けど体育祭前だと変わるんじゃないの?」

「変わらない。むしろ校長室に先生が来ることはなくなる」

 

 校長室を出入りすることもある陽だから知り得る情報。校長と息が合うためにその辺の事情だって簡単に手に入る。そした、この程度の頼みを押し通すことだって可能だ。

 そうと決まればその足は校長室へと向かう。一瞬呆けた圭も、足早にその隣に移動して並んで歩く。

 

「それにしても、なんで俺? 藤原さんじゃなくていいの?」

「萌葉はいろいろと回ってるから。邪魔したくなくて」

「俺って暇に思われてる……?」

「ううん。会長なら付き合ってくれるって思ってる」

「……そりゃどうも」

 

 よくそんなことをさらりと言えるなと思いつつ視線を斜めに逸らした。

 圭も自然と言葉が出てしまったことで内心驚いていた。その動揺に耳が赤くなっている。

 しばらく無言が続くも、それは耐えられないものではない。気まずさなどよりも、ただ隣にいることの落ち着きが勝る。

 

 萌葉がいろいろなところに顔を出しているのは、圭を気遣ってのことである。萌葉の目は誰も誤魔化せず、本来圭がやるべきことまで萌葉が引き受けてしまっているのだ。そこに申し訳なさもあるのだが、言いくるめられてしまって今に至る。陽に協力を仰ぐように言ったのも萌葉だ。

 

「おや小野寺くんと白銀さん。見回り……ではないね。何その格好」

「校長丁度いいところに。これから数日の間、放課後に校長室を貸してください」

「別に構わないよ。私もウォーカーしたいし。それでその格好は?」

「ありがとうございます。さすが校長。体育祭が終わったら改めてお礼しますね」

「私からも、ありがとうございます。校長先生」

「いやいや、これくらい構わないさ。生徒の頼みであり、君たちのことは信頼してるからね。で、その格好は?」

「校長室は開いてますよね。失礼します」

 

 校長の質問を完全スルーしての交渉。友好な関係だからこそ許されることで、校長もやれやれと微笑しながら肩を竦めた。突かれたら嫌なことではなく、ノリでやってることだと分かったから。

 

「会長。パン買ってこなくてよかったの?」

「それは問題ない」

 

 にやりと笑う陽を見て、何か考えがあるのかなと推察する。そしてすぐにそれを否定する。こういう時の陽が、深い考えをするわけがないのだから。

 校長室に入ると、慣れない場所に圭は固くなる。そんな圭をソファに座らせ、慣れている陽は私室のように勝手に物を漁り始めた。

 

「それは駄目でしょ」

「校長は食べ物をいろいろと持っててな。たしかここに入ってるんだが……、ジャムパン見っけ! これでやるぞー」

「頭が痛くなってくる……」

「はっはっは! なにせ俺を気に入る校長だぞ」

「変に説得力あるねそれ」

 

 指し棒を発見し、コマの紐を見つけ出す。そしてなぜかある洗濯バサミ。校長はいったい何に使っているのか。陽と圭は考えることをやめた。大人の事情ってやつなのだろう。

 

「パン食いのところは教師が2人。それぞれ1つずつ棒を持って、計6個のパンが吊るされる。簡単に取れる箇所は、教師に一番近い場所にあるパン」

「振り幅が小さいから?」

「そういうこと。楽な持ち方だと、こうやって左右どちらかの脇を通す形になるから。まぁそんなことさせないけどな!」

「だと思った」

 

 半目でじっとりと見つめるも、陽はそれを受け流す。会長として、楽しめる学校行事を提供したい。そのためなら、細かなところだって調整を惜しまないのだ。コレの場合、パンを揺らす時の振り幅がブレないような持ち方をしてもらう。

 それを今陽が示し、圭は吊るされているパンを見つめる。

 

「ジャンプしたら届く程度。それも小さなジャンプでいいように調整する。スキップくらいの高さだな」

「私の場合がこれくらいの高さってことね」

「イージーモードの方だし、軽く揺らす程度にしてもらう。手を使っちゃいけないってだけで難しいし」

 

 高さを調整し、ひとまずは動かさずに取ってもらう。背伸びでは微妙に届かない高さ。場合によっては高さを下げてもらうのも視野だが、1回目は誰しもジャンプすることにはなる。

 圭がジャンプし、袋に入ってるジャムパンを鼻に当てて着地。何事もなかったように涼しい顔をしているが無理がある。

 

「白銀さんそんな不器用だったっけ?」

「今のは目測を誤っただけ」

「この至近距離でか」

「次は取るから」

 

 ジャンプの高さは申し分ない。あとは口で取るだけなのだ。そこが難しいのだが、圭は自信ありげだ。

 

「白銀さん。鼻でダーツする遊びじゃないからな?」

「わ、分かってるから静かにして!」

 

 自信ありげなのに、5連続で失敗した。5連続でジャムパンに鼻を当てていた。新しい競技だろうか。流行りそうにないから採用しない。

 その後も失敗が続き、陽はなんとも言えない顔で圭を見つめる。何でもそつなくこなす圭が、滑稽を通り越して哀れに思えるほどに不器用な姿を見せている。小さな口を開けて懸命にジャンプする姿は可愛らしいのだが、オチが鼻ダーツでは苦笑するしかない。

 

「そんな顔して! 会長もやってみたらいいよ! 難しいんだからね!」

「俺障害物競争出ないんだけどな……」

 

 圭が上靴を脱いでソファの上に立ち、高さを調整する。

 陽はそれを難なく一発で取ってみせた。

 

「なんでできるの!」

「なんで怒られてんだろ……」

 

 試しに揺らしてみるも、やはり一発で取られる。思いっきり動かしてみても同じだった。ここまで来ると畏怖が勝ってくる。人間を辞めているのか。もしくはパンに魂を狂わされた化物か。

 

「まず、吊るされてる程度なら角度を調整すると取りやすい。白銀さんの場合、ほとんど顔を動かしてないから鼻が当たるわけだし」

「でも本番だと揺らされるから……」

「止まってる状態のが取れなくて揺れてるのが取れるわけないだろ」

「うっ……」

「何時までやるか決めとかないとな。遅くなると夕飯とかの問題も出てくるし」

「時間は大丈夫。遅くなるって伝えてあるから」

「じゃあ夕飯は食べて帰るってことにすればいいか」

 

 そうと決まれば母親に連絡だ。今日の夕飯が不要だということを伝え、了承を貰う。これで心置きなく圭の特訓に付き合える。

 

「食べて帰るって……」

「大丈夫。奢るから」

「それは駄目。ただでさえ付き合ってもらってるのに」

「いや、奢らせてくれ。俺はそうしたいんだ」

 

 珍しく強気な陽に押され、圭は渋々頷いた。

 いや、好きな彼の真剣な瞳がそうさせたのかもしれない。

 

 圭がパン食いを苦手とする理由に見当はついた。それは単純なことで「恥じらい」だ。並大抵の人間なら、どう足掻いても鮮やかに取ることは不可能。陽みたく遊び要素が濃いものにめっぽう強い人間ならまだしも、大衆は圭と同じでそれが普通だ。

 わざわざ特訓するようなものではない。けれど特訓している。それはつまり、圭の目標地点が陽の領域だということ。

 

「最後まで付き合うから、しばらくは恥じらいを捨てるように」

「……うん」

 

 意識している相手を目の前に恥じらいを捨てる。

 圭にとっての試練が改めてスタートするのだった。

 

 

 

 

「で、夕飯も2人で食べて、奢って、家まで送り届けて帰ったと」

「おうよ。いやー、ようやくパパ活らしいことできたわー! これパパ活だよな阿天坊!」

「まぁ……世間的にパパ活と呼ばれるものに該当する部分はありますね」

「だよな!」

 

 昼休みに生徒会室で陽と阿天坊は昼食を取り、阿天坊はその流れでパパ活の報告を聞いていた。圭のことを気遣って伏せられている話もあるが、そこは阿天坊も聞かない。乙女の秘密はドントタッチなのである。

 念願のパパ活らしいことを達成した陽は、メジャーリーガーに出会った野球少年みたく目を輝かせている。人生楽しそうだなと思いつつ、阿天坊は箸を置いた。

 

「会長」

「ん?」

「パパ活楽しかったですか?」

「楽しかったぞ」

「それは良かったです。実はパパ活って年齢差があるものでして、それを近い年齢でやると一般的に()()()って言うんですよ」

「…………ん?」

「ですから、会長は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 




 パン食い競争のアレって難しいですよね。
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