2度目の人生の目的はパパ活です   作:粗茶Returnees

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阿天坊書記は喋りたい

 

 生徒会というのは内閣みたいなもので、学校という1つの集合体から代表者が集まる。秀知院学園は中等部も高等部も選出方法が同じで、選挙を行うのは会長職のみ。選ばれたその人が、残りのメンバーを選出していく。

 生徒会は生徒たちの代表であり、秀知院学園という曲者揃いの代表だ。その役員たちに癖がないわけがなく、かと言って一応それなりの人格者じゃないと務まらない。その肩書きには一種のプレミア感があるもので、多くの生徒からそれなりの敬意が向けられる。

 そして、頼りになる存在だと思われたりする。

 

「相談がありまして」

「相談とな」

 

 中等部の生徒会室は、役員たちが作業するための席が4つ。机の形は職員室にある教員たちのものに近く、違いは木製というところぐらい。コの字になるように配置され、真ん中が会長席。圭と萌葉が親友という理由から、副会長席と会計席が横並び。その対面に書記席となっている。

 それとは別に、来客者用のソファも置かれており、これもまた向かい合う形に。ソファは高等部同様横に長く、数人で座れるものだ。今はそのうちの一席に男子生徒が座り、陽が対面に座っている。阿天坊と萌葉は自分の席に座ったまま、話を聞く態勢に。

 

「どうぞ」

「あ、すみません。ありがとうございます」

「私たちは席を外そうか?」

「いえ、そこまでしていただかなくても大丈夫ですよ」

 

 圭が紅茶を淹れ、それを男子生徒に渡す。内密にしたいのなら席を外そうと気を遣ったのだが、そこまでのことでもないようだ。圭は陽に視線を向け、いたらいいと視線で返された。それで圭も納得し、萌葉の隣へと戻る。ニヤニヤと意地悪く笑う友人に、圭はため息だけを返した。

 

「それで、相談っていうのは?」

「はい。小野寺ハーレムを作ってる会長に聞きたいんですけど」

「そんなハーレムを作った覚えはない」

「えっ!? 生徒会って会長の好みで集まったメンバーじゃないんですか!?」

「俺はバイセクシャルになった覚えはない!」

 

 これは違う意味で席を外したほうがよかったなぁと圭は後悔する。萌葉と阿天坊は苦笑するだけ。そんな考えが出るのもまぁ仕方ないだろうと納得できるから。もっとも、萌葉の目は笑ってなかったが。

 生徒会長は選挙で決まり、他の役員は指名制。会長の好みで集めることはたしかに可能だ。実際、阿天坊が入学してくるまでのほとんどの期間は、圭と萌葉しかいなかったのだから。そうなっていたのも「1人は新入生から選びたい」と拘っていたから。学年が違えば空気も違う。新鮮な意見を取り込みやすいとの考えである。

 見方を変えれば、見事な「小野寺ハーレム」である。アロハシャツのおっさんはいないし脱退もしてないけど。

 

「どんなエンディングを飾るおつもりで?」

「話が逸れてるぞ。俺は異性愛者だし、生徒会役員はそれぞれの能力の高さで選んでる。人に対する好き嫌いはあるし、そういう意味ではたしかに好みのメンバーではあるけど」

 

 ハーレムって相手が何人いるところからハーレムと呼ぶのだろうか。どうでもいいことが気になったが、知らなくてもいいやとその疑問を投げ捨てる。

 

「実は今付き合っている彼女がいるんですけど。かわいい子が」

「この人自慢しに来たんすかね。追い返したい」

「そのヨーヨーをしまえ阿天坊」

「阿天坊くんそれ没収するね」

「許して白銀先輩!」

 

 キルアの動きを真似るためにはどうしてもヨーヨーの特訓が欠かせないのだ。これも部活動に関わること。どんな部活だ。

 後ろで行われていることは気にせず、陽は話を促した。自慢するような一言も流せばいいだけ。言いたくなっちゃうお年頃なのだろう。同い年だが。

 

「最近うまくいってなくて」

「よぅし別れろ」

「阿天坊くんガムテープ口に貼られたい?」

「圭ちゃん猿ぐつわ(こっち)にしようよ」

 

 阿天坊が圭に抑えられ、にこにこと愉しそうに萌葉が阿天坊の口に猿ぐつわを嵌める。どっから取り出したのか、なんで持っているのか。それは萌葉にしかわからない。思春期男子としては「猿ぐつわ」というワードにちょっとときめくのだが、女子が男子に嵌める光景を見て幻想が崩壊する。

 

「白銀さんこっち来て~」

「? うん」

 

 圭にはあまり見せないほうがいい光景だと判断し、装着が終わる前に圭を呼び寄せる。圭がいなくなったところで、萌葉の圧に阿天坊は逃げられないのだから問題ないだろう。助けを求められたが無視した。口を抑えたところで、手を抑えなければ外されるものだが、阿天坊の真横に萌葉が立つことで抑止となる。完全にヤバイ絵面だった。

 圭を隣に座らせ、男子生徒に話の続きを促す。ヤバイ絵面に衝撃を受けているようだが、現実に引き戻させた。

 

「うまくいってない、というのは具体的にどういうこと? 付き合って長い?」

「いえ。ご夫妻ほど長くはないです」

「……ご夫妻?」

「ちなみにそれ誰と誰?」

「会長と白銀さんです。白銀さんは正妻って話が」

「どんな話だ!!」 

 

 それさっき否定したハーレム話が続いているだけじゃん。否定したんだからその話もないって脳内処理されてくれ。陽は頭を抱え、圭は冷ややかな視線を男子生徒に向ける。

 

「お二人はよく一緒におられるので、そのせいかと」

「単純だなぁ」

 

 仲のいい男女は付き合っている。そんな単純で厄介な思い込みが激しいのが多感な時期というもの。しかし噂はあくまで噂。相手にしようとは思わない。圭もそのつもりのようで、話を引き戻す。脱線する原因は双方にあるようだから、舵取りは自分がやろうと決めた。

 

「それで、付き合ってどれぐらい?」

「2ヶ月です」

「長いのか短いのかわからん」

「ぼちぼちじゃない?」

「会長は半年間お付き合いされたことがあると聞きまして」

「そうなの?」

「デマだからな。告られたのを振ったら付き合ってることにされた」

 

 実に面倒な時期だったと記憶している。中等部に入学してすぐに告白され、断っても食い下がられ。挙げ句の果てには勝手に付き合ってるということにされた。それが夏休み明けまで続き、この期間は機嫌が悪いことが多かったものだ。

 

「2人の付き合い方がどういうのかは分からんが、互いに見えてなかった部分が見えてきて戸惑ってるとかそんなんじゃないの?」

「実はそうなんです」

「なんでわかるの?」

「よくある話じゃん。第一印象と違うってやつ。初めからオープンにしてる人は少ない。誰もが壁を用意して、人によってはそれが何層にも重ねられる。相手との距離感次第で、その壁が取り払われるってわけ」

「見せてなかった一面が見られるようになるってこと?」

「そういうこと」

 

 それは誰しも実感するものだろう。自分の好きなものも嫌いなものも。打ち明けなければ誰にも伝わらない。誰かと付き合うということは、場合によっては友達以上に距離が近くなる。友達に見せていない面も、見せることになるだろう。

 

「彼女の知らない一面を知って、嫌だったの? それとも意外だっただけ?」

「……嫌、ではないですね」

「それなら、受け止めないとな。向こうだって勇気出したと思うぞ? 器を見せるときだと思うね」

「会長が真面目なこと言ってる……!」

「はっはっはー。藤原さん黙ろうか。白銀さんは何かある? 女子目線で」

「え、うーん……」

 

 男子の視点だけでは足りないかもしれない。情報は欠けているし、相手がどういう女子かもわからない。女子目線とか言われても、判断に困る話だった。それでも1つくらい言っておくべきかと考え、おおよそ間違っていなさそうなことを選ぶ。

 

「同じことをしてほしい、かな」

「同じこと……ですか?」

「うん。同じ分だけ歩み寄ってほしい。一方的だと、好きじゃないかもしれないって不安になると思う。彼女のことを考えるなら、相互的になるのがいいかな。一意見だけど」

「十分参考になりましたよ。ありがとうございました! 頑張ってみます!」

 

 紅茶を飲み干し、勢いづいて生徒会室を出ていく。それを見送ったところで阿天坊も解放された。椅子から立ち上がって軽く体を動かしている。

 

「喋っていいよ」

「もう喋ることないっすよ。気になることとしては、相談って感じがあんましなかったことですかね」

「そりゃあな」

 

 阿天坊の疑問も当然だろうと肯定する。すぐにそれに気づいたのは、陽と萌葉ぐらいだろう。圭は最後に気づいていた。

 

「本人の自覚はなかっただろうけど、求められていたのは後押しだ。ぼんやりと気持ちだけは固まっていて、実際にどうするかは固められてなかった。だから相談に来た」

「あのカップルなら放っておいてもなんとかなっただろうけどね~」

「知ってたのかよ……」

「余計なことしないようにちゃーんと黙ってんだからいいじゃん」

「たしかに! 偉いな藤原さん!」

「あはは! でしょ~!」

「え、何この茶番」

 

 萌葉による劇薬投与がなかったことがどれだけマシな話なのか。何も知らない阿天坊にはわからなかった。そして知らなくていい世界である。ちなみに圭も知らない。陽が徹底して情報封鎖したから。

 

「会長」

「なに? 白銀さん」

「会長ってよく告白されるの?」

「2、3ヶ月に1回くらいは」

「へー。なのに付き合わないんだ。欲ないの?」

「あるよ。失礼だな」

 

 生徒会メンバーは基本モテる。阿天坊は例外だが、他三人の人気は高い。陽の場合、「()()いい」「成績優秀」「生徒会長」などそれなりに要素が揃っている。中身までを知る生徒は少ないが。生徒会役員くらいでは。

 萌葉は「中学生離れした容姿」「気さくな性格」とか、「時々見えるサイコさがいい」という一部の意見もあったり。

 圭は「例えられないほど整った容姿」「学業優秀」「他人思い」など、可愛さと格好良さを兼ね備えた人物。男女合わせて総合評価を出した場合、一番人気があるのは彼女だと言われている。

 

 そんなわけで、それぞれモテる。阿天坊以外は。陽も萌葉も時々告白される。人気があるのに告白されないのは圭ぐらいだ。プライドの高さによって生まれる近寄りがたさ。それに加えて、基本的に萌葉が隣にいて誘い出しにくい。萌葉がいない時は陽がいてまさかの鉄壁の布陣。圭への告白はそれができるだけで伝説扱いされる。

 だから、圭からすれば告白されるというシチュエーションは馴染みがない。新鮮なものに思えてくる。そんな思いとは別に、告白を受けないなんて一途だなと加点した。一途に思ってもらえるのは嬉しいものだから。ただし、圭は陽が自分に好意を寄せていると勘違いしているが。

 

「会長は…………。ううん、やっぱいい」

「なんだそりゃ」

「なんでもないから」

 

 

 ──()()()告白しないのか

 

 そう聞こうとしてやめた。こういうのは聞くものじゃないし、告白するよりされたい。されたところでOKを出すかは別として。

 

(これ……捻れなかったらいいなぁ……)

 

 徐々に不安が募る阿天坊だった。

 

 

 


 

 

 

 小野寺家は、大手ジュエリーショップの社長の一家である。富裕層にいる一家で、その家の大きさは藤原家と迫るものがある。さすがに四宮家のような怪物級ではない。東京にあるのは別邸だが、別邸でもやたらと大きい。

 玄関を開けると、気だるそうな目をしながらアイスを噛って立っている姉。家の大きさによる印象を台無しにする威力がそこにはあった。小野寺家の長女。秀知院学園高等部の1年生。ギャルにして陽キャの仲間。弟でもついていけない時がしばしば。頼むから初等部の妹に変な影響を与えないでほしい。切実な願いである。

 

「ただいま」

「ん。おかえり。今日だけど──」

「わかってる。晩飯はいいよ。部屋にランチパックとお菓子あるし」

「……ん」

 

 靴を脱いで下駄箱にしまう。何か言いたげな姉には気づかないフリをして、階段を登っていく。2階の一番奥にある部屋。一番狭い部屋だが、7畳の広さ。十分なものだ。

 階段を登りきったところで足を止め、姉と目を合わせてヘラっと笑う。姉以外には見せられないほど力のない顔。ただの作り笑顔(弱い顔)

 

「よく言ってるけど、姉さんには一番感謝してるんだよ。姉さんのおかげでまだ家にいられる」

「……陽はほんとバカね」

「よく言われる。でもま、経営者としては壊滅的に才能ないからさ」

「ホントな。……後でラインするからその時間に風呂に入っときな」

「ありがとう姉さん」

 

 それだけ言って部屋に入る。姉の麗があそこで待っていた意味は、父が帰ってきてるということ。基本的に海外での商談ばかりの父でも時々帰ってくる。陽は顔を合わせないように部屋に篭もるしかない。

 跡継ぎの話でいろいろとあったが、収まり方としては姉が会社を継ぐことが決まり、陽は用無しとなった。家から追い出されかけたが、父以外の全員が反対。母は離婚を迫り、姉が「追い出したら跡を継がない」と言い、次女は父と口を利かなくなった。それに堪えて一応家での生活が許されている。

 

「お兄ちゃんやっほー!」

「いや来ていいのか今……」

「髭と話してても面白くないもーん」

「せめて父と呼んでやれ……」

 

 この通り、妹の舞は父に懐いていない。物心ついた頃からほとんど顔を合わせない父より、いつも一緒にいる兄に懐いたのは無理からぬことだろう。自業自得だが、陽が父親から反感を買う理由にこれも含まれている。

 

「一緒にお風呂行こ!」

「何言ってんの!? 来年には中学生だろ!?」

「え、妹には手を出さないでしょ? 欲情するの?」

「しないけど! 待って。どこでそんなこと覚えてきたの?」

「学校の保健体育。変態増えたから気をつけろって先生が」

「間違ってはないけど……!」

 

 ちゃんと身を守るための意識を持たせるように教えてくれているのはありがたいのだが、なんだか妹の成長が寂しく思えてしまう。

 それはそれとして、さすがにお年だから駄目でしょと窘めた。納得してくれたことに安堵すると、足を抱えられて連行される。華奢な妹のどこにそんな力があるのやら。

 

「私が運んで仕方なくお兄ちゃんはお風呂に入った。口実が完璧だね」

「なんて強硬手段を取りやがる!」

「あ、階段痛いだろうけど我慢してね」

「鬼か!?」

 

 手すりの支柱を掴んで抵抗する。さすがに洒落にならない。下手したら打ちどころ悪くて死ぬかもしれない。そんな決死の攻防も姉の介入によって止められ、妹との混浴も阻止されるのだった。

 自作自演じゃないだろうなという冷たい視線が辛かったとか。

 

 

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