2度目の人生の目的はパパ活です   作:粗茶Returnees

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藤原萌葉は遊びたい

 

 中等部の生徒会は常に忙しいわけでもない。いくら秀知院学園といえども、中学生は中学生。仕事量も程よいものであり、高等部よりも職業体験感が強い。そのため、基本的に仕事に取り組むのは週に3日程度。残りの2日は休みなのだが、適当に集まることが多い。

 今日も仕事がなく集まった日であり、ソファで向かい合っている陽と阿天坊は、トランプゲームの「スピード」で勝負している。阿天坊はゲームセンスで、陽は瞬発力で勝負。このゲームなら陽の方に分があると思いきや、阿天坊の差し込みが光って適切に妨害している。

 

「会長。コーヒー飲む?」

「あー。うん、飲む」

「ブラックにするね」

「それ死んじゃう!」

「スキあり!!」

「ぬあっ!! くそっ、負けたぁぁぁ!!」

 

 ゲームの流れを全く無視した圭の言葉に律儀に反応。その律儀さが勝負の命運を分けた。本気で悔しがる陽に、悪いことをしたなぁと思いつつ子供だなぁと微笑ましくなる。彼のそういう一面は、この秀知院学園という箱庭の中では希少な方だ。

 全員分のコーヒーを淹れてそれを配る。陽もトランプを箱にしまって、圭から渡されたコーヒーを口に含んですぐに離した。熱い。猫舌にはきつい。

 

「お味は?」

「コーヒーの苦さには慣れない。けど飲める」

「コーヒーで会長の口から美味しいって言葉が出る日来るんですかね?」

「会長が大人になったら来るかな」

「誰がお子様か」

 

 さて、3人でそうやって話しているのは理由がある。いつも何かしらしてるか話題を出してくる萌葉が黙っていることだ。圭にもその訳がわからず、コーヒーを渡すのも少し躊躇われる。萌葉の分のコーヒーを陽が受け取り、席で静かにしている萌葉の下へ。さっきの勝負はどちらがこの役をやるかを決めるためだ。

 机に肘を置き、ゲンドウポーズを取っている萌葉。役作りでもしたのか雰囲気が様になっている。3人の見解は「碌でもないことを考えている」である。

 

「藤原さん今日はどうしたの?」

「やっと声かけてくれた~! なんで誰も触れないの? ノータッチが一番辛くて止め時見失ってたんだけど?」

「そう言われてもな……。はいこれ白銀さんコーヒー」

「ども~。で、まぁふと気づいたんだけどね」

「なにを?」

 

 圭のコーヒーをズズズッと飲んだ萌葉。猫舌ではないらしい。猫っぽいのに。

 

「生徒会で遊びに行ったことないなって」

「ん~? んーー、そうだな」

「言われてみればたしかに」

「よかった。僕一人ハブられてたわけじゃないんすね」

「そんな事しねぇよ」

「お望みならやるよ~」

「おい」

 

 本当にやりかねない萌葉に釘を差しておく。やらないよと返してきたが、どうにもやりそうで怖い。日頃の行いというわけではないが、性格が信頼を欠いてしまうのは悲しい。

 

「そんなわけで、生徒会で遊びに行こうよ。暇でしょ?」

「ドストレートだなぁ。暇だけども」

「いつ行きます?」

「今週末。今度やる映画が面白そうだから~、みんなで観に行きたいなぁって」

「いいですね。行きましょ!」

「白銀さんもそれで大丈夫?」

「うん。大丈夫」

 

 そんなこんなで決まった映画鑑賞。

 時は流れてその当日。映画館がある大型ショッピングモールの正面入り口付近。そこに大型の時計台があり、集合場所がそこになっていた。待ち合わせがしやすく、目立つ目印のおかげで初めて来る人にもわかりやすい。生徒会メンバーも着々と集合を果たしていた。

 

 のだが──

 

 

「会長おっそい! あの人今どこいるの!?」

 

 生徒会長が来ていなかった。集合時間になっても姿を現さない。チケット自体はオンラインで抑えており、あとは発券するだけ。念の為に集合時間も早めにしておいて、映画の後にどこで食べるか決められるようにしている。それなのに陽が来ない。阿天坊が陽に電話をかけると、3回コール音がしたところで電話に出た。

 

「会長どこいるんですか? ショッピングモール付近にはいます?」

「付近というか、中なんだけど。むしろみんなどこ?」

「中!? なんで!? 大型時計台で集合って話だったでしょ!」

「うん。だからO型時計台の前にいる。屋上のやつのことじゃないの?」

「どんな間違え方だよ! むしろそっちの方がマイナー!」

「阿天坊くん代わって」

「あ、はい。白銀先輩に代わりますね」

 

 ショッピングモールの屋上は小さな子たちが遊べるように芝生があったり、噴水があったりしている。そこにもたしかに時計台があり、正円ではなく縦長の円。O型時計台とはよく言ったものだ。ややこしい。

 

「会長。今からそこ行くから動かないでね」

「え? いっそ映画館を集合場所にしたら──」

「そこに行くから動かないでね」

「あ、はい」

 

 圭の圧に押された。通話が切られてスマホを返される。阿天坊は苦笑するしかなかった。副会長より副会長らしいことをしているから。

 

「それじゃあ屋上行こっか~」

 

 萌葉が先頭を歩いていき、圭と阿天坊がそれに続く。エスカレーターやエレベーターがあるホールは、1階から天井までが見えるようになっており、そこから射し込む日光が開放感を引き立てる。週末のために家族連れが多く、カップルもそれなりに見受けられる。

 

(はっ! 今僕は両手に花じゃん! 藤原先輩は食虫植物だけど)

 

「あれー? 今失礼なことを言われた気がする」

「これだけ人が多いんですし、たぶん人違いですよ」

「そういうことにしとこうかぁ~」

「あははは。それがいいと思います」

 

 にっこりと嗤う萌葉に見逃され、阿天坊はほっと細く息を吐いた。エレベーターに乗り込んで最上階へ。ガラス張りになっており、エレベーター内からフロアを見ることもできるし、その逆も然り。痴漢防止にも役立っていたり。バカップル公開処刑も可能となるなど有能な仕様だ。

 何度か途中の階で止まり、ようやく最上階へ。そこからスロープを上がって自動ドアを通る。そこにいるのは大勢の小さな子どもたちに群がられている陽の姿が。

 

「何事!?」

「会長がっ! 幼女に囲まれて……!」

「守備範囲危険過ぎないそれ?」

「Don't touch ロリータの精神ですのでご心配なく」

「その血走った目で言われてもなー。でも面白いからGO!」

 

 萌葉の許可が出て阿天坊が陽の下へと突っ込む。ちびっ子たちにはちゃんと優しく声をかけて道を開けてもらっていた。理性はあるようだ。

 

「何してんすか会長」

「遊んでたら人気になっちゃった。みんなごめんなー。迎えが来たからここまでだわー」

「おにいちゃんばいばーい!」

 

 意外や意外。ここまで人気があったら、駄々をこねる子が出てくると思っていたのにそんな様子がない。みんなが手を振って陽と別れる。何をしたんだと阿天坊は陽に目で問いかけ、肩をすくめて返される。大したことはしてないと言いたげだ。

 萌葉と圭も合流し、事の経緯とあの聞き分けの良さについて問いかけた。陽からすれば本当に大したことじゃないのに。やれやれと首を振った。

 

「待ってる間に話しかけられたから話して、流れで遊んだだけ。聞き分けがいいのは、あの子たちがいい子ってことだろ」

「あぁ、そういえば会長って小さい子から好かれやすかったっけ。初等部の時とか凄かったな~」

「体育祭で出番があるだけで声援が集まってましたね」

「謎いことにな」

「一種のカリスマなんじゃない? 勘違いして迷子になるみたいだけど」

「迷子ではない」

 

 圭の言葉を否定しておく。時計台の前にはいた。自分がどこにいるのかわからなくなることが迷子なのであって、目的のショッピングモールには着いているし、時計台にも来てたんだから迷子ではないのだ。

 そんな言い訳も聞き流され、建物の中へと移動する。急激な気温の変化で最近は妙に暑い。梅雨はどこへ行ったのやら。日本の季節感とやらも引退したようだ。

 

「会長のせいで少し狂ったけど、予定通りお昼食べる場所決めようか」

「パンフレットなら取っといたぞ」

「さすが会長。ただでは転ばない男」

「1階にあるフードコートか、3階にある飲食店だな」

 

 転んでもいないと思ったけれど、いちいち反応していてはくどいと判断した。他の人の邪魔にならない位置で立ち止まり、パンフレットを開いて確認。他の3人も覗き込み、どんな店があるかを見ていく。

 

「誰かアレルギー持ちいたっけ?」

「僕は特にないです」

「私達もないし、みんな大丈夫だね」

 

 さらっと萌葉と陽のアレルギーの有無も把握している圭。以前にアレルギーの話をしていて、その時のことを覚えているだけなのだが、阿天坊はその事を知らない。なんで把握してんだろって少し呆けてしまった。

 阿天坊とは別の理由で意識が他所に向いている男がいる。生徒会長の陽だ。パンフレットを覗き込むために、萌葉が近くにいるせいだ。肩が触れており、萌葉の髪の香りが鼻腔をくすぐる。しかしこのタイミングで離れてしまえば露骨な反応であり、相手に失礼であるとともに傷つけてしまう可能性もある。それは避けたかった。

 結果、体は石像の如く固まり、首から上を動かして視線は他所に。パンフレットも他の3人も見ていなかった。

 

「会長? どうかしたの?」

 

 それに気づいた圭が顔を上げる。反応が返ってこず、ムスッとしてもう一度声をかけた。それでようやく気づいた。

 

「向こうに何かあったの?」

「あったというか……。ごめん、ちょっと行ってくる」

「へ? あっ、会長! もう!」

「あらら~。私追いかけてくるから、2人はここで待ってて」

「ちょっ、萌葉! ……はぁ」

「追いかけます?」

「……ううん。待っとこっか」

 

 お昼をどうするかも決めてない。待っていてという萌葉の指示も、2人で決めといてという意味が含まれているものだ。圭はそれを理解し、手元に残っているパンフレットへと視線を戻した。

 

「なんか、会長とじゃなくてすみません」

「? 何言ってるの? 私阿天坊くん好きだよ?」

「へ?」

 

 小首を傾げる圭を、ぽかんと口を開けながら見つめる。中等部1の人気を誇る彼女の口からそんな言葉が出るとは思わなかった。なんとかポーカーフェイスで表情を保ち、思考を落ち着かせる。

 

「後輩として、ですよね?」

「うん」

「今の言い方はややこしいですし、相手を勘違いさせますよ」

「勘違い? …………ぁ……ご、ごめん! 阿天坊くんは好きだけどそうは見てないというか魅力がないわけじゃないんだけど」

「わかってますって。他の人にやらかす前でよかったですね」

「本当、ごめんね」

 

 なんとも微妙な空気が流れ、やらかした圭は珍しく混乱していた。この空気をどうしようと目を泳がせ、思考も散漫になってしまっている。

 

「お店決めましょうか」

「あ、そ、そうだね」

 

 狼狽する圭などまず学校内で見られない。いつもの雰囲気とはまるで違うその姿を、かわいいなと思いつつ思考を切り替える。生徒会で修羅場など作りたくなかった。渦中の人間にはなりたくない阿天坊。あと、姉の影響があるせいで年上の異性は遠慮願いたいのである。

 どの店がいいかを話し合いつつ、思考の半分ほどはいなくなった2人のことを考えていた。早く帰ってきてほしい。阿天坊だってあんな事態初めてなのだ。心臓が持たない。

 

「会長どこ行ったんですかね」

 

 話を遮るように言ってしまった。やらかしたと思っても言葉は既に出ている。圭も言葉を止め、視線をパンフレットから前方へと移した。陽たちがいなくなった方へ。その視線に何が込められているのか、阿天坊には読み取れない。

 

「たぶん人助け」

「人助け……?」

「うん。たぶんだけど、あの時の目はそういう目だった」

「へ~。よく見てるんですね」

「……あの目は印象的だったから」

 

 だからってわかるようなものなのだろうか。目は口ほどに物を言うとは言っても、それなりにパターンは決まっている気がする。真剣な目とかならまだしも、人助けの目とはどういうものか。ちょっと気になった。

 

 

 

 最上階からエスカレーターで1つ下のフロアに移動し、しばらく真っ直ぐ進んだところで左に曲がる。従業員たちが使う部屋へと続く廊下は、一般客が通ることのない道だ。大人が横に3人並べる程度の広さ。他の通路よりは断然狭い。その廊下には自動販売機があり、陽はそこまで足を進めた。

 

「どうしたの?」

 

 自動販売機の陰には、3、4歳程度の少女が蹲っていた。陽はその前で膝をつき、なるべく視線を近い高さにして声をかけた。少女は恐る恐る視線を上げ、目に涙を溜めながら黙る。

 

「お父さんたちとはぐれちゃった?」

「……」

 

 言葉は返ってこなかった。首を小さく縦に振られ、この子が迷子なのだと断定する。この大きなショッピングモールで迷子となると、この子の両親を一緒に探し出すのは難しい。迷子センターに届けるのが一番だ。その前に、仲良くなるのが先決だ。警戒心を解いてもらわないと、誘拐扱いされてしまう。

 

「実はね。お兄ちゃんも迷子なんだ」

「ふぇ?」

「あはは、友達と来てたんだけどね~。みんなどっか行っちゃった~。俺たち一緒だね」

「いっ、しょ?」

「うん。一緒」

 

 にこっと微笑むと、少女の頬も緩んだ。少しは警戒心を解けただろうか。陽はチラッと横に視線を向ける。追いかけてきた萌葉が、やれやれと首を振ってスマホを操作しながら一旦離れていく。陽のスマホには、萌葉からのメッセージが届いた。

 

『今どこいんの?』

 

 それを少女にも見せて、本当に今逸れていると証明。それで信じ込んだ少女がくすっと笑う。

 

「あのね。まいごになったら、まいごせんたーってとこにいくんだって」

「そうなの? それを知ってるなんて偉いねぇ」

「えへへ。でもね、どこにあるかわかんないの。それでね……あるいてたのにね……」

「うん。じゃあお兄ちゃんと一緒に行こうか。お兄ちゃんたぶんそこ行けるよ」

「ほんと? まいごにならない?」

「ならない」

「いままいごなのに?」

「うぐっ! だ、大丈夫……。人に聞きながら行けば着けるから」

 

 けらけらと笑っている萌葉の様子を横目に見つつ、顔を引きつらせて少女を納得させる。笑い過ぎて目から涙が出ているようだ。あとで一言言わせてもらうとしよう。

 なんとか元気になった少女を抱っこする。視線が高くなってさらに明るさが増し、笑い合いながら出発。わざと2回ほど道を間違えて少女のご機嫌を取りながら、迷子センターへと到着した。決して本気で間違えたのではない。わざとと言ったらわざとなのだ。そういうことにしておこう。彼の小さな名誉のために。

 

「この子迷子みたいなんです」

「そうでしたか。ねぇ、お名前教えてもらってもいい? あなたのお名前とお父さんのお名前。迎えに来てもらうから」

「いいよ! あのね、おにいちゃんもまいごなんだって!」

「……おっと?」

「お兄ちゃんはたぶん迷子じゃないと思うんだけど……」

「ふぇ? うそつき?」

 

 涙目での一言がグサリと刺さる。嘘つきなんかにはなりたくない。この子を悲しませたくない。

 

「実は俺も迷子です」

 

 即断だった。

 

 

 

 

『迷子のお知らせです。藤原萌葉様、白銀圭様。お友達の小野寺陽様がお待ちです。3階南モールの迷子センターまでお越しください』

 

 

 そんな放送が流れたとか。

 

 




 つづく
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