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その事を通して己の精神、人間性を高める。それが日本における『道』というもの。例えば剣道や弓道。華道や茶道もそれに当たる。大会があり、競い合い、勝敗を付けるようになっているが、本来なら競うものじゃない。あくまでも自身の精神を鍛えるものなのだ。
とはいえ、剣道や弓道というのは歴史が浅い。元々は戦のためのものであり、名前も剣術や弓術だったのだから。それらの細かいことは流すとして、秀知院学園に新たな『道』が誕生していた。
「パンツァーゴー!!」
戦車道である!!
「うぉぉぉ! くらえぇぇ!!」
「なんのぉぉ!」
的にならないように動き、隙を見つけては砲弾を発射する。空間を震わすは砲撃。大地を鳴らすはキャタピラ。秀知院学園中等部を二分した大戦である。
「ぐぁぁぁ!」
「隊長! っ、おのれー!」
東へ3動き、射角を40度に調整。狙いを定めて砲撃開始。
「おわっ! このパワーは……禁忌兵器か……!」
砲撃直後に横からの強い衝撃。これは通常の砲撃ではありえない。条約を無視したというのか。そんな事をしては信頼を失い、勢力の内部崩壊に繋がりかねないというのに。戦争の亡者となったというのか。
「何やってるの会長」
「あぁ、白銀さんか」
ハッチを開いて圭と視線を合わせる。呆れた様子の圭に何か用事でもあるのかと問いかけた。ちなみに禁忌兵器とは、物理攻撃のことである。
「総会に向けての話し合いでもしようかと」
「真面目だなー。もう少し肩の力を抜いたらいいよ」
「会長は気を抜きすぎ! 今だってこんなことして!」
場所は中等部の講堂。体育館はさすがに部活の邪魔になるから場所をここにしている。周囲にはダンボール戦車が6門。砲弾がそこかしこに落ちていたり、ダンボール戦車にくっついていたり。
圭の登場により戦闘が中断される。各々がハッチを開き、外に出て休憩。中等部名物生徒会痴話喧嘩をつまみに水分を補給する。
「いやな。ガルパン見たらやりたくなって」
「それでこれ作れるってのもおかしいけど!」
ダンボールで作られた戦車。キャタピラや砲門も作られ、ハッチも作るなど外見の完成度は無駄に高い。中身はさすがに本物同様とはいかないが。そのレベルの出来のものを6門。短期間で制作できるものなのか。
もちろん1人で作ったわけもなく、今休憩している他の5人の協力もある。他にも技術部の協力があったりと、圭が思っているより多くの人の手が加わっているのだ。
「総会に関しては明日話し合おう」
「なんでそんなに余裕なの……」
「会長だからね~」
「萌葉」
後ろから飛びついてくる萌葉を受け止める。背中に当たる膨らみに多少思うところはあるけれど、それを気にしても仕方がない。尊敬する先輩である四宮かぐやは絶壁なのに美しいのだから。
「会長が大丈夫って言ったら大丈夫~。今までもそうだったでしょ?」
「そうだけど……。はぁ、会長明日は時間作ってよ」
「もちろんそうする」
「で、会長は何してたの~?」
「ダンボール戦車で遊んでた。っと、フィードバックしないとな」
戦闘が中断となったが、それなりに遊んでたのも事実。全員でのフィードバックは必要だ。陽が他の男子たちと合流しにいき、圭と萌葉もそれについていく。
「会長痴話喧嘩終わった?」
「痴話喧嘩ではない。それよりフィードバックするぞ」
「そうなー。思ってたよりは楽しめたな」
「弾もちゃんと飛んだしな」
「飛距離は課題だがな」
このダンボール戦車の主砲は空気によって放たれる。筒の先端に弾を込め、後方にも弾を入れる。それを押していき、圧縮された空気によって先端の弾が発射されるというわけだ。弾を撃つ際に、ダンボールの砲身から毎度筒を抜かないといけないのは手間だ。急造のため簡略化されているせいだが。
「石上師匠は何かあります?」
「あれ? なんで石上会計がここに?」
「呼ばれたから」
かぐやにも後輩との交流も悪くないだろうと背中を押された。石上からすれば行ってこいという圧をかけられたような感覚ではあるが。
「この人が石上さんなんだ~」
「僕って有名じゃないと思うんだけど」
「うちの姉の話にたまに出てきてたので。初めまして、藤原萌葉です」
「藤原……あー! あの人の妹さん。いろいろとお世話になってます」
「聞いてたより断然いい人ですね。私好きだな~」
「えっ?」
予想外の言葉に石上がピタリと硬直する。陽と圭は萌葉の目を見て察した。男女の色恋などではないと。
「調教しがいがありそう」
「え……?」
「今度是非うちに来てください!」
「絶対嫌だわ!!」
「藤原さんその辺で」
「はーい」
先輩を揶揄うものじゃないとかは言わない。萌葉のそれは揶揄いではなくガチだから。女子に免疫のない石上が相手だと、押して行けばできちゃいそうだなとか思ってる。
「うちの副会長がすみません」
「中等部の生徒会ってどうなってんの」
「あははー。ほら、俺が会長ですから!」
「まともじゃないのは自覚ありか!」
指名制なのだから必然といえば必然か。唯一の良心である圭の苦労が窺えた。
「それでまぁ、このダンボール戦車のことなんですけど」
「そうだなー。これ何かに使う気?」
「体育祭で盛り込もうかと」
「意外性で言えば盛り上がるだろうけど、1回戦、よくても2回戦が限界かな。耐久性も難ありだし、難しいと思う。移動面も視界の狭さからして危ないし」
「なら文化祭で一度切りのイベントに使ったほうがいいかな。小学生対象に変えよっと」
「移動の姿勢のしんどさも、小学生の身長なら特に問題ないだろうけど、今度は攻撃面の課題が出るよ。結構力込めることになるし」
「ですよね」
セカンドプランとしての文化祭。こっちでの実践の方が現実的だろうとは思っていた。期間的にも、実用性からしても。
対象となるのは小学生男子。ダンボール戦車の高さと身長を考えれば丁度いいだろう。問題となるのはやはり攻撃の部分なのだが、これは技術部の開発を待つしかない。
「バズーカみたいな感覚で撃てるように、技術部に開発してもらう予定です」
「それが完成しないと日の目を浴びることはないと思うけど」
「そこは承知の上ですよ」
「ならいいや。弾はあれでいいと思う。マジックテープでくっつくようだし、それで被弾率を示して勝敗を決める。わかりやすさは利点だ」
問題は剥がれ落ちることはないかという点だ。視界も限られるため、動き回れば必ず戦車同士が接触する。その時に弾が剥がれ落ちるのは容易に想像できる。
「審判の数も揃えるつもりです。それぞれが被弾回数を記録すれば解決するかと」
「小学生がそれで納得したらいいけどな。被弾した時の振動もないし、自分が思ってるよりは被弾するわけだから」
「その辺はなんとかしますよ」
「なんとかするって……」
「まあ会長だし、なんとかできちゃうんだろうね~」
「何その信頼」
萌葉も圭も、陽なら大丈夫だと信じきった目をしていた。陽と会ったのは今日で2回目の石上には、その感覚がまるでわからない。わかることは、陽がなんとかできる人だと信頼されているということだけ。
陽は技術部の生徒やダンボール戦車に入ってた人とも話を始める。石上はその様子を静かに観察した。御行が一般生徒と話している時の雰囲気とは違う。彼は周囲から尊敬の念や畏怖が向けられるのだが、陽の場合はそれがない。友人という距離感。親しみやすさが滲みに出てるのだろう。
それを見ながら石上は先日のことを思い出した。陽が高等部の生徒会室に来た時のことを。
『石上優さんで合ってますか?』
『え、合ってるけど』
『一度お会いしてみたかったんですよね』
『……そうなんだ』
『会長が探してた人?』
『いやそれはまた違う人』
陽が高等部の生徒で会ってみたい人は他に何人かいる。生徒会長の白銀御行だったり、萌葉の姉の藤原千花だったり。兄弟姉妹関係なしに会ってみたい人もいるわけで、石上はそのうちの1人だ。
『僕みたいな人間に会いたいって相当な物好きだな」
『そうですかね?
『っ!』
『小野寺くん』
『白銀さんのお兄さんが選んだ人ですし、その時点で噂がネジ曲がってるものだとはわかりますけどね。噂を信じず自分の目と耳で確かめて判断する。うちの姉の教訓です』
石上ならそれでピンとくる。同じクラスにいる小野寺麗が、目の前にいる少年の姉だということが。その教訓とやらを下の子に伝えている。麗との接点はないものの、彼女への印象が少し変わった。
『……それで、小野寺くんの判断はどうなのですか?』
『確信に変わりましたよ。石上先輩は信頼できる人だと。尊敬すらしますね。俺はそこまでの行動はできませんから。結構薄情なので』
『ええー。萌葉はそうは言ってなかったですよ?』
薄情という部分を千花が否定する。いや、この場の誰もがそれは違うだろうと思った。軽くではあるが、圭から話を聞いたばかりなのだから。
しかし、かぐやはすぐに切り替えた。本当に薄情なのだとしたらと。基準こそ不明だが、すでに何か薄情なことをしているのではと。それをこの場で聞き出す気もなかった。自分が変われたように、彼も変わっていってるかもしれないから。圭と話している姿を見ると、そうも思えてくる。
『そういえば総会の資料はチェックしてもらえた?』
『とっくに終わってる。会長が迷子になってる間に』
『あはは、ごめん。じゃあ中等部に戻ろうか』
『あら、白銀会長に会わなくてもよろしいのですか?』
『またの機会にします。お時間を取っていただきありがとうございました』
ちゃんとする時はちゃんとする。メリハリをつけるにしても、その差は激しかった。
その答えが中等部に来たことで得られたと石上は思った。彼は生徒会長でありながらも、常に生徒会長として振る舞っているわけじゃない。それが白銀御行との大きな違い。生徒会長として過ごす時間は、決まった条件下のみなのだろう。
「会長。ハッチどうするよ。小学生が対象だと出入り口は別で用意しないと無理だぜ」
「下から入ってもらえばいいんじゃね? ハッチ自体は付ける」
「何そのハッチへの拘り」
「女子にはわかりにくいだろうけど、そこにはロマンがあるんだ」
「わかりにくいどころかわからない」
男子なら誰もが共感するだろう。戦車のハッチから上体を出すというシチュエーション。あれへの憧れ。そこにあるカッコよさ。
「仕方ないよ圭ちゃん。男子は穴という穴に突っ込みたくなる生き物だから」
「そうなの?」
「おいこら。変なことを吹き込むな」
萌葉の言葉を信じ込もうとする圭に修正を加える。今のは極端な言い方だと。ならばどういう穴に突っ込みたくなるのかを聞かれ、陽は適当に誤魔化した。日本の城にある狭間。丸や三角の形をしていて、そこから銃を撃つあの穴のことだが、それを説明して、萌葉の話は戦闘での話だということにしておく。
圭ばかりが苦労しているのかと思いきや、陽も陽で苦労してるんだなぁと他人事として石上は処理した。さすがは藤原千花の妹だと妙な感心と納得と共に。
「
「今呼び方おかしくなかった?」
「気のせいです。進展があったらまた足を運んでもらっても構いませんか?」
「……まぁ、それぐらいなら。どう完成するのか興味あるし」
「だってよ技術部!」
「「イェーイ!! よろしくお願いします!」」
「こ、こちらこそよろしく」
謎の熱烈歓迎。なぜこんなに慕われるのかさっぱりわからなかった。一緒にダンボール戦車を動かし、思ったことを言っただけなのに。裏があるのかと疑いたくなる。自分が慕われるわけがない。何かの間違いだと。それでも、彼らの目は真っ直ぐで、その感覚が何やら心地良いとは思えた。
ダンボール戦車の試乗会は終わりとなったその瞬間に、慌ただしく阿天坊が駆けてきた。走るなと圭が注意するも、陽がそれを宥める。
「どした?」
「目安箱見てきたんですけど」
「何入ってた?」
「これ見てください! 会長への挑戦状です!」
これは果たし状と読むのだよ少年。