「それじゃあ、テント建てるか」
今日はあおいと一緒のため、二人用の大きいテントを持ってきている。二人用と言っても、商品名に二人用と書かれているテントを持ってきてはいけない。それは一人用だからだ。二人で使うのであれば三人用。もっと荷物を置きたいのならば四人用を持ってこよう。ちなみに今日持ってきたものは三人用である。
「ほれ、グランドシート」
あおいからグランドシートを渡される。テントの下に敷くシートだ。これを敷かずに地面に直接テントを建ててしまうと、テントの底が汚れてしまう。掃除が大変になってしまうから必ず敷こうね。
「誰と喋ってんねん」
「おさらいさ。あおいがしっかり覚えているかの」
「キャンプやってる人なら誰でも知っとるやろ」
あおいと一緒にグランドシートを広げていく。一人用のテントなんかはテントが小さい為一人でも敷けるが、さすがに二人用テント(三人用)ともなると大きいので、二人がかりで広げないと風に煽られてなかなか広がらない。そもそも、このふもとキャンプ場は周りに木などほぼないような平原なので、風が強い。ここに一人で来た時なんかは、文字通り風に煽られながらテントを建てたもんだ。
「さて、じゃあテント出すか」
「ペグは鍛造のやつでええの?」
「もちろん」
テントを張る際に使うペグはいろいろあるが、ふもとキャンプ場みたいな柔らかく、石が少しある地面なんかには鍛造ペグを使っておけば間違いない。最近では結構安価で手に入るが、安価とは言っても如何せん高校生のお小遣いではなかなか値が張るお値段である。
「そーれ、トンテンカンっと」
「ちゃんとペグ打ててるな」
「当たり前やん。耳が痛くなるほど聞いたで。こう打てって」
ペグはテントに対して逆方向(頭を外側)にして打つと、強風でもペグが飛ぶことは無くなる。あおいには耳が痛くなる程は言っていないと思うけど注意はした。あおいはたまに誇張な言い方をするから困る。
そんなこんなでテントが建った。
「やっぱ広いなぁ。二人やと余裕やな」
「あおいが狭いのはいやや〜って言うから、わざわざ買ったんだよ」
おかげでバイトで得た金がほぼ無くなってしまった。
「せやから私も半分出すって言うたやんか」
「いや、それはプライドが許さない」
「変な所で強情なんやから」
俺も強情だがあおいも割と強情で、出す出さないの話で一度揉めた。俺が勝手に買ったテントだから、あおいに半分出させるのは少し違う気がするという事で何とか納得して貰ったが、ちょっと不服そうだった。たまに嘘をついたりするが、変な所で真面目な奴だ。そこがあおいの良いところなんだろうが。
「さーて、あおいさんよ。テントを建てたら次は何だったかな?」
「何なんそのノリ……。次は寝袋敷いたり、外に椅子出したり、まあ何でも良いんやないの」
「そう、ここからは自由だ」
「だから何なんやそのノリは……。じゃあ取り敢えず寝袋敷いとこか」
初めてのキャンプ場だと周りを散策したりする。俺は初めてではないが、あおいは今回が初めてだから後で散策に行くか。
「今日はちょっと食事に拘ってみようかと思う」
「やからスーパーであんなに食材買ってたんか。カレー作るにしては珍しいもん買うてたけど」
丁度昨日テレビでカレー特集なるものがやっていて、そこで紹介されていた究極のキーマカレーとかいうのが食べたくて仕方がなかった。まあ究極要素がどこかはわからんが、とにかく美味しそうだったから今日はずっとカレーの口だったのだ。
「ところで、まだ2時やけどもう作り始めるん?」
「あぁ。今日はとことん拘りたいからな。早めに作っておかないと間に合わない」
「どんなカレー作るねん……」
この後、特にやることもないから食事に拘るというのは大いに有意義であろう。なぜか不満そうなあおいは置いておき、とりあえずまずは準備から始めるか。
「あおいはどうする? 俺一人でも作れるから周りの散策行ってくるか?」
「いや、私ももちろん手伝うで。あんただけ働いてばっかやんか。それに周り散策するならあんたと一緒に行くわ」
「そうか。じゃあ食べ終わったらちょっとだけ行くか」
とりあえず持ってきてるテーブル類を広げ、その上に食材を置いていく。今日は玉ねぎいっぱいキーマカレーを作るつもりなので、玉ねぎ二玉を使う。あおいには玉ねぎとその他の野菜をひたすら切ってもらい、俺は挽肉等の下ごしらえを進める。
その後、持ってきた小さめのフライパンに先に肉を入れ中火で炒める。切ってもらった玉ねぎと野菜をドバッと入れて炒め、カレールーを入れて煮込めば完成だ。
「さて、まだ5時だがちょっと早めの晩飯にするか」
「お昼食べてないからお腹減ったわ」
出来上がった究極のキーマカレーを器によそう。我ながら上手く出来たな。まあ昨日のテレビのレシピ通りにやっただけなんだが。
「ところで、これどこが究極なん?」
「究極要素は俺もわかんね」
だってテレビが究極って言ってただけだしな。
「うーん、うまい!」
「切ってた時も思ったけど、玉ねぎ多すぎん?」
「これがいいんだよなぁ。ところで目は大丈夫か?」
「おかげさまで、涙が止まらんかったわ」
あおいは玉ねぎを切っている間涙が止まらなかったらしい。ちょっと申し訳ないのでカレーの量は多めにしておいた。
「よし、そろそろ行くか」
「んー、行こか」
カレーを食べ終わり小休止した後、あおいと周りの散策に出掛ける。散策と言っても建物はほとんど無いようなものなので、近くの池やテントを張れる良い場所が他に無いか探すぐらいだ。
「あの変な建物がトイレなんやろ?」
「そうそう。中に焚き木がたくさんあったりもする」
「顔みたいやな」
顔みたいな建物を見たり。
「池凍ってんな」
「冬は凍るさ。ちなみに晴れてて凍ってない日は上手くいけば富士山が湖面に写る」
「へぇ〜、1回見てみたいな」
「写真撮ったからまた見せてやるよ」
凍ってる湖を見たり。
「やっぱ冬やから人少ないな」
「人少ないから冬は良いんだよね。トイレも混まないし」
「あー確かに。特に女子トイレは混むもんなー」
「ちなみにトイレも結構数あるけど、いちばん綺麗なのはさっきの顔みたいな所のトイレね」
シーズン中は男子トイレは混まないが、女子トイレは本当に混むので気をつけよう。
「この場所も良いな。この、丁度富士山とこの岩の感じが凄く良い……」
「でもちょっと傾斜やない? 寝にくそう……」
「たまに傾斜の所で寝るけどいつの間にか転がってて笑う」
「いや笑い事ちゃうで……」
テントの設置場所を見繕ったりした。
そんなこんなで現時刻は19時。俺たちは散策を終えてテントまで戻ってきた。今日は快晴なので星がすごく輝いて見える。
「すっごい星やなぁ。富士山もうっすら見えて、すごい綺麗や」
「だろ? この前来たときは曇り気味だったから今日は見えてよかった」
あおいの横顔が星に照らし出され、いつもの倍くらい綺麗に見える。いつも一緒にバカやってるがこいつ普通に可愛いんだよなぁ。
「私はバカやってへんやろ」
「……声に出てた?」
「そんな顔してたで」
「ちなみにバカ以外の電波は受け取ってないよな……?」
「さぁ、どうやろ?」
はにかみながらあおいはそう言う。この件についてはあまり追求しないでおこう。
「んー、さすがに寒なってきたなぁ」
冬のふもとキャンプ場は当然ながら寒い。拓けている平地なので寒風も吹き荒れる。
「今日はいいかなって思ったけど、焚き火するか」
「ごめんやけどお願い」
今日は比較的マシだと思ったがさすがに寒いので焚き火の準備をする。こんな事もあろうかと焚き木は事前に買っておいた。ふもとキャンプ場では受付で焚き木が買えるようになっているぞ。
焚き火台を組み立ててからまず固形燃料を置きその上に新聞紙、その上から木を三角形になるように組んでいく。空気の通り道を作ってあげるのがコツだ。
ちなみに燃料等使わずに木を削ったり、麻縄を解したやつを火付けに使うのが個人的にかっこいいが、今日はあおいもいるので火の着きやすさ重視で固形燃料を使っていく。
「おー、手際ええなぁ」
「何回もやってるからな。ゲンさんはもっと手際いいぞ」
「いや誰やねん」
そんなこんなで火が着いた。やはり焚き火はいいなぁ。炎の揺らめきを見てるだけで心が洗われるようだ。
「暖かいなぁ。ウチ火がゆらゆらしてるの見るの好きやねん」
あおいもらしい。
「あんたはさぁ、1人キャンプの時はどんな事やってんの?」
「俺はまぁ、初めて来た所だったら周り散策して、近くに川とかあれば釣りして食料確保したり……」
「まさかの現地調達!?」
事前にキャンプ場をネットで探す時に近くに川とかないかを見ておき、荷物に余裕があれば竿を持っていくようにしている。釣った魚を料理して食うキャンプはマジで良い。
「あとは料理に凝ったり、コーヒー飲みながら読書したり、ボーッとしたり……かな」
「意外とやる事たくさんあるんやな。結構暇な時間あるんかと思ったけど」
「やっぱ1人だとやる事決めておかないとマジで暇だからなぁ。まあその暇な時間も案外悪くないけどな」
逆に2人以上だと話が弾んだりして楽しいのがキャンプだ。
「今日はあおいが来てくれたから良かったよ。ありがと」
「いや、私はどっちかと言うとあんたに連れて来られた感じなんやけど……。」
「そうだったかな?朝のことは覚えてないなぁ」
「都合の良い記憶してんなぁ……。でもキャンプは元々好きやし、あんたと一緒におれるし……たまにはええんちゃう?」
「じゃあまたいくか。てか、俺とはずっと一緒に居るじゃん」
「だから聞こえてても無視せぇって!」
あおいと焚き火を挟んで話している間に時刻は22時。そろそろあおいも眠そうだ。
「眠いー。そろそろ寝るわ」
「寝る前にそこの水場で歯磨きしとけよ」
「んー」
俺の言葉にあおいは気だるげに返事をしてから歯ブラシを持ち水場へ向かう。俺もそろそろ歯磨きして寝るか。と、そこへ歯磨き途中のあおいが焦りながら戻ってくる。
「な、なぁ!そういえばお風呂入ってないやん!」
「今更か。ここの風呂は今やってないぞ。シャワーもない。」
「じゃあどないすんの!?乙女的にお風呂入らんのはNGなんやけど!」
「まあ待て。こんな時はあれだ」
俺はそう言いながらカバンから肌触りのいいタオルを取り出す。
「あおいはこの鍋に水貯めてきてくれ。」
「ええけど……まさかタオルで拭くだけ、やんなぁ」
「しゃあない。近くの銭湯は2キロくらい離れてるしな。歩くか?」
「いや……それはさすがにええかな……」
あおいに水を貯めてもらってる間、木を追加して焚き火の火力を少し強くしておく。そう、今回は風呂の代わりに濡れタオルで体を拭くだけだ。まあこんなのでもやるとやらないのでは爽快感が全然違う。
「ほい、水入れてきたで〜」
あおいは眠たいせいか、ふらふらしながら帰ってくる。
「じゃあ焚き火の上置いて……いや、危ないからやっぱ渡して。お湯沸くまでちょっとかかるから、その間に歯磨き終えて、寝ないようにがんばれ」
「めっちゃ眠い……」
あおいが今にも寝そうなので、意味はないが早く沸くように念をかける。いやこれ本当に意味ないな……。
「沸いたらタオル渡してやるから、今のうちに早く歯磨きして寝巻きに着替えとけ」
「ん〜」
あおいが歯磨きを終えて着替えている間にお湯が沸いたので、お湯にタオルを浸してからテント内のあおいに声を掛ける。
「あおいー。濡れタオル完成したぞー。」
しかしテントにいるはずのあおいから返事がない。
「まさか寝たか?おーいあお……い?」
あおいを呼びながらテント内を覗く。と、そこには下着姿で倒れるあおいの姿が!
「いや、やっぱ寝てるだけだなこいつ……。おーいあおい!お待ちかねの濡れタオルだぞ!」
「んー。もう無理やぁ……。あんたが拭いてぇ。あと寒い……」
上も下も下着姿でそう曰うあおい。冬にその格好はそりゃ寒いだろ。
「お前は恥とかないのか。乙女的に男に拭かれるのはNGでは?」
「あんたやったらええよぉ……。」
「馬鹿言ってないで、さっさと体拭いて寝ろ。」
とりあえずあおいの顔をタオルで拭ってやってから濡れタオルを渡す。普通に刺激的な格好なので男としては反応するが、あおいに反応してしまうとちょっと負けた気になるから意地でもしたくない。てか早く拭いてくれないと外で待ってる俺がすごく寒い。
「拭いたで〜。おやすみ〜……」
「おい、ちゃんと寝巻きは……着てるな」
体を拭いてからもう用済みとばかりに無造作に投げ捨てられたタオルを拾う。お前はよくやったよタオルくん。
どうでもいいがこのタオル高値で売れそう。売らんけど。
「俺も体拭いて寝るか」
お湯はまだ残っていたのでお湯に浸してから体をタオルで拭いていく。あおいの使った後だからなのか、すごい甘い香りが香ってくる。俺が使った事でこのタオルが高値で取引される事は無くなったな。別に売らんけど。
「やっぱ外で半裸になって体拭くのは寒い……。けどちょっとクセになる……」
俺も眠さの所為か、そんな馬鹿みたいな言葉が口をついて出てくる。実際寒いのは本当だ。こんな真冬の星空の下で体を拭く奴がいるのか。ここにいたな。
体を拭き終わり、鍋を干し焚き火の火を消化する。寝る前には絶対消火しようね!
「こいつ……。堂々と真ん中占領しやがって」
テントに入ると先に寝てるあおいがテントの真ん中で悠々自適に寝ていた。
デカめのテントだから他に寝れるスペースは結構あるが、ちょっとムカつくのでわざと密着して寝てやる事にする。
明日で終わりか……と毎回キャンプの度に思っている事を考えながら、俺も眠りに着いた。
遅くなりました。