自分関西人なんであおいちゃんの関西弁については書きやすさから作者の地元基準にしちゃってます。
まあたぶんそんな変わらないと思いますが。
「お〜、今回もあったあった。毎回置いてくれとるなぁ」
授業も全て終わり放課後。
毎回誰かさんが置いてくれているであろうキャンプ雑誌、ビバークを借りに私は図書室へ赴いた。
誰かさん言うても1人しかおらんけども。やすは図書委員の立場を利用して図書室の一画をキャンプ雑誌コーナーにしてもうてる。
一見職権乱用のようにも思えるけど、まあ先生の許可得てるってことはまたうまいこと言ったんやろなぁ……。
「志摩さん、これ借りたいんやけどー」
「ああ、うん」
図書委員の志摩さんに渡してバーコードを読み取ってもらう。チラっと見えたけど、今志摩さんが読んでるんもあそこの棚のキャンプ雑誌やね。たぶんこの学校でキャンプ雑誌借りてくのなんて野クルの私かあきか、志摩さんくらいちゃうんかな。
「それ今月号のだよね? 私もまた貸して欲しい」
「もちろんええよー。明後日くらいになるけどええ?」
「うん」
志摩さんにも貸す約束をしてから私は図書室を後にした。今日の野クルの活動は雑誌読んで話すだけやろなぁ。落ち葉焚きは昨日しちゃったから落ち葉あるかわからんし。
部室棟に入って階段を上がると、野クルの部室の前にあきを見つけた。
「お〜いあき〜。図書室からビバークの新刊借りて……何やっとるの」
あきがなぜか扉の隙間から部室を覗いとる。この子はなにやっとるんや……。
「あっイヌ子! ヤバイぞ、空き巣だ……」
「空き巣ぅ〜?」
部室の中を覗いてみる。と、確かに見ない顔の女子生徒がおる。いやでもウチの制服やし、こんな堂々と空き巣せんやろ……。
というかあの子も困惑顔でこっち見てるやん。
「あき、普通に考えて空き巣ちゃうで。もしかしたら入部希望者かもしれへんし」
「入部希望者〜? 部室狭くなっちゃうじゃん……」
「人が増えたら部に昇格して大きな部室貰えるやん」
「大きな部室!」
「ひゃっ!」
私の言葉を聞いてあきが勢い良く扉を開けると、中の子の驚く声が聞こえる。
「ようこそ野クルへ!!」
「いやあき、まだ入部希望者と決まったわけやないで……」
「あっあの! 空き巣じゃないです! 入部希望です!」
ほんまに入部希望者やったんか……。
とりあえず私たちも中に入ってから、なんでウチのサークルに入ってくれるんかと理由を聞いてみる。
「なるほど。本栖湖で行き倒れていたら謎のキャンプ少女に助けられ、ラーメンまでご馳走になったと」
「うん! 夜の富士山がすっごくきれいだったんだよ!」
「へぇー、それでアウトドアに興味出たんや。ウチらのサークルもそれで来てくれたんやね」
「うん。アウトドアの部活は登山部もあったんだけど、こっちの方がまったり系って聞いたんだ〜」
登山部と比べたら確かにまったりやな。ウチらにとって富士山は見るものやけど、あそこにとっては登るもんやと思っとるから。
「とりあえず自己紹介しよか。私は犬山あおい。こっちが大垣千明」
「よろしくな」
「各務原なでしこです!! よろしくね!」
野クルへようこそー、とあきと同時に言い、各務原ちゃんを歓迎する。バンザイをしたら部室が狭い弊害で足があきの鳩尾を強打してもうた……。すまんあき……。
「ぐぐぅ……鳩尾入った……」
「ごめんあき……。やっぱ狭いなぁ」
「なんでここの部室、こんなに幅が狭いの……?」
「もともと普段使っとらん用具入れやったからねぇ。4月にウチらが作ったばかりやから部員も2人しかおらんし」
入学してからあきと一緒に作った野クルやけど、2人しかいないから余ってた部室しか貰えんかった。あの時はあきと一緒にがっかりしてたなぁ。
「各務原が入ってくれるから後1人入れば部に昇格できるんだろ? なあイヌ子、なんとか小牧誘ってくれよー」
「やから無理やって。一回誘ったけどあかんかったやん」
「幽霊でいいからさ! 名前ちょっと借りるだけで」
「やすって変な所で真面目やから、それは無理やで」
「小牧……? やす……?」
それにやすって、ちょっとあきの事苦手らしいしなぁ……。ノリが付いていけないとかなんとかで。
「小牧安っていうイヌ子の彼氏がいるんだよ。キャンプ好きな奴だから入ってくれーって誘ったんだけどさ、見事に断られたよ」
「彼氏やなくて幼馴染! もー……なんでみんなして彼氏言うんかなぁ」
「いやイヌ子、携帯の待受、各務原に見せてみろ」
待受? 普通にやすとの2ショット設定してるだけやけど……。今は、昨日ふもとキャンプ場で富士山バックに撮った写真を待受にしとったはず。
「ん? おいイヌ子、また待受変わってるじゃねぇか! しかも前より密着してる!」
「うわー……。これは恋人同士の距離だよあおいちゃん……。本当に付き合ってないの?」
「やから付きおうてへんって! もー、各務原ちゃんまでそんな事言うて……。この距離普通ちゃうの?」
「「普通じゃない」」
2人に強く否定されてもうた。昔から一緒にいるから、むしろこの距離じゃないと落ち着けない所まで来てしもうてるんやけど。
「てかこの写真、またキャンプ行ってきたのか? また2人で?」
「そやでー。ふもとキャンプ場ってとこ行ってきてん」
「え! あおいちゃんキャンプ行ったの!? 話聞かせてよ!」
「えーしゃあないなぁー。えっとな〜……」
「やめろ各務原! イヌ子に小牧と行ったキャンプの話を喋らすな!」
仕方なく一昨日から話そうと思ったら、なんでかあきが話を遮ってきた。せっかく今からやすとのキャンプ話を小一時間喋ろう思ってたのに……。
「え〜、なんでなのあきちゃん?」
「いいか各務原。今後砂糖を吐きたくなければイヌ子に小牧との思い出を喋らしたらダメだ。あいつ無意識に惚けやがるから」
「砂糖は吐きたくないなぁ。虫歯になっちゃいそう」
「いやそういう問題ではなくてだな……」
あきが各務原ちゃんにコソコソと耳打ちする。それよりもう話す準備は万端なんやけど〜。
「とっとりあえずだな、話を戻そう」
「むー。ちょっと納得いかんけど、しゃあないなぁ」
「わかったー。確かこの狭い部屋をどうにかしなきゃいけないんだよね」
「そうだ。だが心配はするな2人とも。部室がいくら狭かろうが、あたしたちの活動場所は外だ」
「「確かに!」」
「それじゃあ外に出発だ!」
「「お〜」」
やることを特に決めずに、とりあえずウチたちは外に出てきた。
「いつもは2人でどんなことしてるの?」
「いつもは落ち葉焚きだな」
「校内の落ち葉とか枝集めてコーヒー飲んだりしとるんよ」
「ほぇ〜。他には?」
「他には……アウトドア雑誌読んだり、話したりやな……」
私の言葉を聞いて各務原ちゃんがあからさまに落ち込んでしまう。やけど校内でできる事ってそれくらいしかないしなぁ。
「おいイヌ子、がっかりしちゃってるぞ! なんとかしろ!」
「でもほんまにそれくらいしかやっとらんし……。あ、各務原ちゃん、ラーメンもあるよ?」
ふと、そういえばラーメンがあったなと思って取り出すと、各務原ちゃんの目が輝きだす。ラーメン好きなんかな……?
「今日も落ち葉焚きするの? 落ち葉ないけど……」
「昨日焚き火やっちゃったからな」
「……部室帰ろか」
部室に帰ってからなんとか各務原ちゃんを楽しませる方法を考えてると、そういえばキャンプ道具の本があった事を思い出した。
この雑誌は私がやすから個人的に貰ったキャンプ道具の雑誌で、せっかくやから部室に置いて暇があればあきとあれ欲しいこれ欲しいと言いあってる。金額的に手は届かへんねんけどな……。
「そうだ各務原ちゃん。キャンプ道具の本あるんやけど見る? これはテント特集会の本なんやけど」
「見る!」
一瞬でテンションが上がった各務原ちゃん。よかったーキャンプの本あって。
「テントって色々あるんだねー。あっこれすごい! ワンタッチテントだって!」
傘みたいに一発で開くんだって! と言いながらテンション高く読み進めていく各務原ちゃん。
「ねぇねぇあおいちゃん。この自立式と非自立式ってなに?」
「それはなー、まあ詳しく話すと長くなるから簡潔に説明するとな」
自立式テントとはフレームがあってペグや張り網が無くても建てられるテント。非自立式テントが立てるのにペグや張り網が必要なテント。
フレームがなかったりする分、非自立式の方がコンパクトにできる。
「って書いてあるよ」
「ほんとだー」
やすに聞くともっと詳しく話してくれるやろけど、2〜3時間は覚悟しとかなあかん
「お前ら雑誌だけ読んで満足するなよ。道具は使ってナンボなんだからさ」
というわけで実物をご用意しました! と言って、あきはなんか見覚えのあるテントを取り出してきた。各務原ちゃんは「おぉー」なんて言って驚いてくれとるけど、あれってたしか……。
「それ夏休みにキャンプやろうとしてネットで注文したら9月に届いたやつやん。しかもその後ほったらかしにしてた激安テント……」
お値段なんと980円。各務原ちゃんも思わず「きゅうひゃくはちじゅうえん……」と驚きを露わにする。
「各務原。その本に載ってるテントの価格、読み上げてみろ」
「価格?」
あきに言われて各務原ちゃんは本に載ってるテントの価格を読み上げていく。
「3万9千円、……4万5千円、……6万6千円。……8万……」
読み上げていく毎に各務原ちゃんの目が心なしかお金の形になっていくのが見える。テントは高いのはほんまに高いからなぁ。その分性能もええんやけどね。
「め、めがチカチカしてきたよ……」
「だろ? だからな、あたしたちの財力ではこれぐらいしか買える奴なかったんだよ!」
という事で、ウチらは中庭に移動して実際にこの激安テントを組み立てることにした。
「じゃあ組み立てるか! テントと一緒に入ってたこの説明書通りにやるぞー」
「「おー!」」
テントを説明書通りに組み立てていく。ペグを刺すために柔らかい地面を探して、場所を決めてからテントを広げる。畳んであるポールをつなぎ合わせて伸ばして、各務原ちゃんがみょんみょんさせる──ってその工程はいらんやろうけど……。
「そんで、ポールをテントの四隅の穴に固定して……固定……。いやはまらんぞ。これ長さあってんの──うぉぉ!」
あきがはまらないポールを無理やりはめようと奮闘していたら、ポールの真ん中がいきなり折れてしまった。バキィッってすごい音したで……。
こりゃ組み立てるのはもう無理かなー……と、誰かこっちに来てる。ていうか斉藤さんやん。
「おーい。よかったらこれ使ってよ」
2人がギャーギャと喚いてどうしよーどうしよーと言ってると、斉藤さんが変な筒みたいなんを渡してきた。
「これなにー? どうやって使うの?」
「これはねーこう使うらしいよ」
斉藤さんがポールの折れた箇所を、持ったきた筒とテープで繋ぎ合わせる。へぇーそれってそう使うんや。
斉藤さんのおかげで980円テントがなんとか完成した。
「980円テントだけどちゃんとしてるねー」
「材質はそれなりだけどな」
2人が早速テントに入っていく。980円でも結構立派に見えるなぁ。
「斉藤さんありがとなぁ、助かったわー。あんな事よう知っとったねぇ」
「いえいえー。私は聞いてきただけだから。あの子に」
「あー! あの子だ、謎のキャンプ女子!」
斉藤さんが指差した方を見てみると、図書室で座っている志摩さんがいた。なるほど、志摩さんならこんなんも詳しいやろなぁ。各務原ちゃんが言うてた謎のキャンプ女子も志摩さんの事やったんやね。
「おーしまりんじゃん」
「そんなゆるキャラみたいな言い方やめぇや……」
「しっ、しまりん?」
「志摩が名字で、リンが名前だよ」
「同じ学校だったんだ! リンちゃーん! こないだはありがぶへ!」
各務原ちゃんは図書室の開いていない窓に向かって駆けて行き、窓に顔を強打する。普通に痛そうやな……。って、よう見たら志摩さんの近くにやすもおるやん。しかもすごく怪訝そうな目でこっち見とる……。どうやらやすは鞄を持ってもう帰るようで、ジェスチャーで帰ることを伝えてきたから私は手を振って見送る。とりあえず事情は明日言えばええかな……。
△△△△△△
「なにやってんだあいつら……」
俺は思わず口に出してしまう。仕方ないだろ。図書室の外でテント組み立て始めたと思えば、ポールを折って慌てふためいてるんだから。
野クルはあおいと大垣の2人だったはずだが、1人知らない奴がいるな。見ない顔だから噂の転入生とやらだろう。大垣にでも捕まったか?
「あっ、棒が折れちゃったよ。テントってあの棒折れたらどうするの?」
「まあ……メーカーに送って修理かな」
俺と同じく窓の外を見ていたらしい斉藤さんと志摩さんが、ポールが折れたテントの今後についての話をしている。
確かにメーカーに送って修理が妥当だが、応急処置としてポール補修用パイプという物を使って折れたポールを繋ぎ合わせることもできる。とか考えていたら志摩さんも同じようなことを斉藤さんに言ったらしい。斉藤さんがどこからかパイプを拾ってきていた。いやなんであるんだよ。思わず志摩さんとツッコミが被ってしまった。
「それっぽいのがそこの落とし物箱にあったよ。リン、これ持ってって助けてあげなよ」
志摩さんがあからさまに嫌そうな顔をする。この人すごい顔に出るんだよな……。
すると斉藤さんがこちらに顔を向けて同じようなことを言ってきた。
「小牧君は行かない?」
「行かない。絶対面倒な事なるでしょ……」
「えー、じゃあ私行ってくるけど、これでどうやって修理するの?」
「折れた箇所にそのパイプ通して、テープで固定するだけ」
「なるほどー。じゃあ行ってくるね」
修理方法を斉藤さんに教えたらすぐに向かって行った。相変わらず行動力すごいなあの人。
折れたポールを修理している斉藤さんを見ていると、志摩さんが話しかけてきた。
「小牧はあれ使った事ある?」
「一回だけあるな。一番最初に買ったテントが中古の激安のだったんだが、3回目の使用で折れた」
小学生の頃に少ない貯金を崩して買ったテントだったが、さすがに中古だった為か3回目のキャンプで限界を迎えてしまった。ポールが折れてしまいどうしようかと悩んでいると、近くにいたベテランっぽいキャンパーさんが補修用パイプをくれて事なきを得た。もうめちゃくちゃに感謝しまくったのを覚えている。その後に晩飯を一緒にご馳走になってしまったりと、凄くいい人だった。テントはその後に買い換えてしまったが、頂いた補修用パイプは今でも家に大切に飾っている。
「あーそれは……。よく中古なんかで買おうと思ったね」
「小学生の頃だったから金がなかったんだ。逆に志摩はなんであんな良いテント持ってんだ。あれなかなか高いだろ」
最初に持っているテントを聞いた時度肝を抜かれた。3〜4万はする代物だったからだ。志摩もバイトをしているらしいが……まさか危ないバイトなんかじゃないよな?
「テントはおじいちゃんのお下がりだよ。綺麗に使ってくれてたからまだまだ使えるけど。他は自分で買った」
「そうなのか。良いじいちゃんだな」
人から道具を受け継ぐっていうのも、なかなかロマンがあるな。そういう意味では中古で買ったテントも人から受け継いだ物なのか? いや多分違うな。
志摩さんとの馴れ初めは、簡単に言えばキャンプだ。同じ図書委員になった際、俺が意気揚々とキャンプ本専用棚を設けているのを見てお互いにキャンプ好きだと分かった。まあそこからはちょいちょいキャンプの話をする程度の仲だ。ちなみに志摩さんと話していると大体斉藤さんが近くにいるので、その経緯で斉藤さんともちょいちょい喋る仲になっている。
「さて、じゃあ俺はそろそろ帰るな。後は任せた」
「ん。元々今日は私が当番の日だったんだけどね。ありがとう」
「気にすんなよ。同じ図書委員だろ」
今日は図書当番の日ではなかったので図書室に来ないつもりだったが、今日の当番の志摩さんが最初だけ行けないと言うので最初の30分程代わりに当番を務めていた。当番をしている間は結構暇なのでキャンプの本を読んでいたが、読み進めていく毎に夢中になってしまい志摩さんと交代してからも結局1時間ほど長居をしてしまった。
さて帰ろうかなと鞄を持ち歩き出そうとすると、突然中庭側の窓からすごい音が図書室に響く。思わず窓の方を見てみると、さっきまでテントを組み立てていた子がなぜか窓に激突して、そのまま窓下までずるずると倒れていく。すごい痛そうだが大丈夫か……。
テントの方を見てみると、折れたポールもしっかり繋がったらしく、しっかりとテントが建っていた。それは良いんだが、あの子がなぜ窓に突撃してきたのかが気になるな……。
窓の外のあおいもこっちを見ていたので、ジェスチャーで帰ることを伝える。汲み取ってくれたのか手を振られたので、振り返してから図書室を後にした。
さっきの事情は明日聞こうか。
しまりん図書委員設定にしてますけど、原作での座ってる位置からして図書委員ですよねあれ。
ちなみにあおいちゃんとしまりんは主人公経由でちょいちょい話す仲になってます。
原作では今はあんまり仲良くなかったと思います。