『シリアル入りまーす』
「よっし、もうちょいで出来るな」
「なあ
「これはなー、ロボットって言うんだぞー」
ロボット……、と完全に見惚れている遊希を見下ろしながらロボットの頭部の作成に取り掛かった。
「待ってろよーリッカにマシュに所長ー。これで度肝抜いてやるからなー」
もうすぐ出来上がりそうな、物騒な特異点の雰囲気をぶち壊しそうなロボットのデザインを見たぐだ子らの顔が楽しみだ。
「ところで
「ああ、それかー。少し長くなるがいいか?」
「かまわぬ!ドーンとはなせ!」
「そんなにインパクトねえよ。そうだなー、あれは確か──」
──俺が小学生の頃だったか。その時の俺は、まあ、調子に乗ってたな。その当時から今のような能力があったから仕方がないのかもしれないが、今にして思えば馬鹿としか言いようがない。そのまま悪堕ちしなかっただけ良い方だ。能力を使えば人間なんて蟻のように潰せてしまうのだ。何のMODも使わない普通のゾンビを数体。それだけで人類を滅ぼせてしまうだろう。武力を持った人間が戦おうとした時には何百倍にも増えている、そんな恐ろしいゾンビだが俺の能力で出せるやつでは弱い部類に入るのだ。それこそ、下から数えた方が早いくらいに。
そんな危険な能力を持った俺だが、悪いことに使おうとは思っていなかった。むしろ、正義のヒーローのようになりたいと思っていた。まあ今からしたらイキってるだけの三流主人公だがな。ある日の事、家で能力の実験をしていると、外から聞くに絶えない戯言が響いてきた。人の価値観や存在意義を全否定するような言葉の羅列に、そしてたまに響く女の甲高い嫌な笑い声がうるさくて、気づけば家を飛び出していた。
声が聞こえてきたのは近所の公園だった。中心にある砂場の近くに何人かの男女がいた。もうすぐ日が暮れるというのに騒がしいヤツらだと思って見ていたら、どうやら男女達の中心に何かがいて、それを殴る蹴る&言葉のダブル暴力で攻めているようだ。浦島太郎の亀を苛めていた子供が今の時代にいたらこうなるだろう。しかしながら何を虐めているのか、犬か猫か、そう思っていたが、甘かった。
虐められているのは、少女だった。明るいオレンジ色の髪は泥に汚れ、服はボロボロに穴が開いている。しかし何よりもその時の俺の目を引いたのは、前髪に隠れてよく見えない少女の目が一瞬見えた時だった。目のハイライトがほぼ消えかけていたのだ。そんな絶望一歩手前の女の子を見て、俺は居てもたってもいられなかった。
「ヘイヘイヘイ、そこのレディースアンドジェントルメンズ、集団で無抵抗の女の子ボコすのってカッコ悪いと思わねーの?」
このセリフを言った時の俺はさぞかしドヤ顔が決まっていただろう。
「あ?お前には関係ないだろ!帰れチビ!」
「お前もこいつで遊ぶか?」
「やーねーそんな目で見ないでよ、私達はただこの子と遊んでるだけよ?」
「そうよ、この子一人も友達がいないから、わ ざ わ ざ 遊んであげてるのよ?」
「そんで?そろそろ言いたいことは終わったかい?じゃあ俺も一つ言わせてもらうぞ?俺ん家の傍でワーワーギャーギャーうるせーわ!そんなに暴力大好きか?人を虐めるのたーのしー!ってタイプの頭がアレな人ですか?ああ?家に帰ってR18ゲームでもやってろや!」
そう啖呵を切ると、男女らの顔が一気に赤くなった。トマトのほうが白いんじゃないかと思うくらい。
「ならお前で遊んでやるよ!」
「黙って聞いていればこのチビがあああっ!」
あ、煽りすぎた。そう思った時にはもう目の前に男の拳が迫っていた。しかし、俺の能力は肉体的な要素も持っている。マインクラフターは、数秒あれば素手で大木も岩も破壊出来るのだ。しかも数秒で何度も何度もパンチする敏捷性も持っている。そんな拳を一般ピーポー君にまともに当てようものならちょっと命が危ない。当時小学生だからと甘く見てはいけない。小さな拳がプロボクサーを上回る破壊力と速度で当たろうものなら、最悪“貫通”する。故に殴り合いだけは避けなければならないのだが、避けるだけでは彼ら彼女らは満足してくれないだろう。むしろより過激になりそうだ。だから、できるだけカウンターで終わらせる。
正面から来た拳に俺の小さな拳を合わせ、あえて直ぐに殴らずに一瞬力を込めることで拳の勢いを殺し、力が拮抗する直前で勢いよく俺の拳を押し込む。すると面白いように飛んでいって地面を転がり、起き上がることは無かった。後に確認するとちゃんと生きていたのでご安心を。
(んー、めんどい)
力加減をする戦いほどめんどくさいものは無い。それは戦いではなくただの作業だ。
そんな思考をしている時、別の男が俺の左手側に周ると勢いよく蹴りを繰り出した。しかしその軌道は低く、俺の足を狙っていることは明らか。足払いのつもりなのだろう。俺のジャンプ力が低ければ多分コケてたと思う。だがマインクラフターは、余裕で一メートルはジャンプするし、ポーションの力を借りれば二メートル以上跳べる。跳んで足払いを避けるとその場で回るように男に蹴りを食らわせた。マインクラフターは蹴りはそんなにしないので死にはしないだろう、ヤクザキックだったらジャンプ力の補正が乗るかもしれないが。
(決まった!こんな技決められる俺KAKKOIIIIII!!)
二人を倒した俺だったが、違和感に気づいた。
(なんか人数が足りない?)
もしや逃げたか、いや、あの怒りようではそれは無いだろう。しかしまだ何人かスタンバイしているのだから悠長に探している時間もない。
(だったら!)
インベントリに入れている特殊な懐中時計を取り出し、ボタンを押した。
カチリと音がした瞬間、俺以外の全てが停止した。これは【五つの難題MOD】で追加される【咲夜の懐中時計】というアイテムであり、効果は満腹度を使用して時間を止めるというチートアイテムである。お腹が空くので長く使えないのが欠点である。
くるりと一周当たりを見回すと、俺の真後ろに女子が拳を突き出した体制で止まっていた。あとちょっと止めるのが遅かったら後頭部に直撃していただろう。本来なら普通に移動すれば避けられる攻撃なのだが、彼ら彼女らは一般人な為に不自然な動きは出来ない。そう、立っていた場所から瞬時に移動するなんて普通は有り得ないのだ。なのでめんどくさいが隠蔽工作という名の余計な動きがいるのだ。
時計発動前の場所に戻って時間停止を解除し、即座にしゃがむと一瞬前まで俺の頭があった位置に腕があった。それは完全にさっき見た女子のものだった。
(よくもめんどくさいことやらしてくれたな?)
女子にしてやられた、そんな考えが頭に浮かんだ時には俺は反撃に出ていた。
右手に砂ブロックを出現させ、それをあえてブロック化を解除する。手の中から砂が溢れ出る中、それを俺の背後に向けてぶん投げた。大量の砂を浴びた女子は白く染まり、目に砂が入ったのか目を抑えて金切り声を上げている。ここで俺は一旦冷静になった。すなわち、女子に殴る蹴るの暴行を加えるのはヒーローとして大丈夫なのか?と。だがその思考はあっという間に終わる。ああなんだ、投げればいいじゃん、という結論で。
女子の足首を掴むと、ジャイアントスイングの要領で振り回して投げた。砂場に向かって投げたので柔らかい砂がクッションになるだろう、気絶はしていたが。ちなみに、その女子はスカートを穿いていたが下に短パンを穿いていたので下着は見ていない。見ていないったら見ていない。
暫くして周りを見回すと、俺以外に立っているやつは居なかった。
(さ、あの子は大丈夫か?)
死にかけの目の女の子は俺を見ていた。しかしその目には怯えが浮かんでいる。
(あー…………やり過ぎたな)
取り敢えず落ち着かせなければ、そう思ってできるだけ女の子を刺激しないようにゆっくりと近づくと、女の子は立ち上がってジリジリと後ろに下がりだした。が、足元にあった大きめの石に運悪くつまづき転んでしまった。尻餅を着いた少女は俺を見上げて震えている。その目には涙が零れそうな程に溜まっている。ここまで怯えられるとなんて話しかければいいのか、その時の俺は思いつかなかった。結局俺が言えたのは、
「ほら、もう大丈夫だから、な?」
ごく在り来りな言葉だった。これ以上怖がらせないように笑ってみたが、上手く笑えているのか自信が無かった。
転んだままの少女に手を差し出すと、少女は恐る恐る手を握った。
(えーっと、こういう時ってどうすりゃいいんだ!?)
当時の俺の思考をまとめると、ヒーロー気取りがヒーローっぽいことをする過程のみを考えていた結果、最終的に何をすればヒーローっぽくなるのか考えていなかった、ということだ。
わかりにくいようなら、その時の俺に泣きそうな女の子を慰める語彙力は持っていなかったと解釈してくれればいい。
だから、小難しい思考を諦めた。
少女が握ったままの手にほんの少しだけ力を込めて引き寄せ、そのまま抱きしめた。
「怖かったろ?辛かったよな?もう心配は要らない、もう終わったんだ」
(だから泣かないでくれ!マジで女の子泣かすのだけはしたくねえんだよ!)
もうヒーローっぽくとかそういう思いは無く、ただ泣き止んで欲しい、それだけを思っていた。
だがそんな思いも虚しく少女の目から涙がポロリと零れた。
「ありゃ、泣かせる気は無かったんだけどな」
(待ってこれどうすれば泣き止んでくれるんだよ)
「……そうだ、コレ食うかい?」
右手にリンゴを出現させ、少女に渡したところで気がついた。
(あ、やべ。一般人に神秘を見せちゃだめなんだよな?)
しかし少女は疑問にも思っていないのか、それとも今の状況を把握するのにいっぱいいっぱいなのか、小さな口でリンゴを齧った。
リンゴを咀嚼した瞬間に滝のように涙が溢れたのはさすがに予想していなかった。
「え!?何でより泣くの!?リンゴ嫌いだったか!?待て待て待て待て!俺が虐めて泣かせたみたいになるから!せめて俺が離れてからにしてくれー!」
この現場を誰かが見ていたりしたら、俺が複数の男女をボコボコにして少女を泣かせている光景にしか見えないだろう。即座にこの場を離れなければ!
全力疾走で後を離れたが、一部始終を目撃していた姉に言い訳する間もなくゲンコツを食らわされたことは誠に遺憾である。
まあそれで終われば良かったんだが、そうは行かなかったんだよなー。
あれは少女から逃げて三日後、学校の廊下をふらふらと歩いているときだった。
「あ!!居たああああああああっ!!」
俺の後方からそんな叫びが聞こえた。何だ何だ?と野次馬感覚で振り返った。
鮮やかなオレンジ色の髪の奥に、燃え盛っているような光を灯した少女が全力疾走で此方へ迫っていた。思わず逃げ出しても仕方がない迫力があった。
「逃げないでよおおおおおおおおっ!!」
「コッチ来んなあああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ────────」
なんだなんだと他のクラスの人達が見ている中、廊下を全力疾走する二人の姿があったとさ。追われている方の叫びが虚しく廊下に響き渡った。
「────んで、結局捕まって強引に友達にされたとさ。これで出会いの話はお終いだ……今冷静に考えると、視点変えてれば時止めなくても背後の奇襲気づけてたな…………」
「
「しかもその時ポーション飲んで速度上げたのに追いつかれたんだぜ」
「よけいにリツカがわからなくなったぞ……」
頭を抱える遊希にリンゴを投げ渡し、ロボット作りの最終段階に取り掛かった。もう間もなく完成だ。
「ヤツらの驚く顔が目に浮かぶようだ……ククク、クハハ、ハハハハハ!!」
『アンケート結果、にょたいかーになりました。ということで、くらえや匠ぃぃぃ!』
匠が反応する間もなく、怪しい色のポーションが直撃した。毒物的な色のモヤが匠を覆い、姿が見えなくなった……。
『次回、【クリーパーカーはキャラクターでもあるんだよ】でお会いしましょう☆』
「しゅー!(しません!)」
『あら可愛い』
「しゅー……」
『あ、やば』
この後、黒焦げになって倒れた作者と、勝者の踊りを踊る少女の姿があったらしい。
『爆発オチなんて最低……』