遊戯王~(GXの)アカデミアに転生~   作:不可視の人狼

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霊長類みな決闘者

 亮とのデュエルで十代が敗北を喫してから数日が経った。

 

 その間、隼人が父親によって退学させられそうになったりと様々なことがあったものの、無事に十代と翔は迷宮兄弟との制裁タッグデュエルを制し、退学を免れた。

 更にその後、紆余曲折を経て万丈目のイエロー降格と三沢のブルー昇格を賭けたデュエルが行われたのだが……

 

 

「──行け!【ウォーター・ドラゴン】!──アクア・パニッシャー!」

 

「ぐぅっ…ああああああぁっ!」

 

 

 万丈目:LP1000→0

 

 

 ……と、結果は三沢の勝利。ここ最近(主に十代に)負けが込んでいた万丈目は、皮肉にも自らが課した「負けた方が退学」という条件によってこの学園を去ることが決まったかに思われた。

 しかし、当の三沢は「十代を倒し、トップに上り詰めるまでブルーへは上がらない」と昇格の話を蹴り、万丈目はその穴埋め同然という屈辱的な形でこの学園に残ることが許されたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「──万丈目が消えた?」

 

「うん!」

 

 

 

──「今朝早く、荷物纏めて逃げ出したって話だぜ?」──

──「それってやっぱ、三沢に負けたからか?なんかだっせぇよなぁ。がっかりだよ」──

──「負け犬はとっとと出て行けって感じぃ?」──

 

 

 

 教室で授業開始を待っていた昴達の耳に飛び込んできた万丈目失踪の報せ。しかし彼の事を心配している者は少なく、数日前まで万丈目の事を崇拝していた取り巻き達でさえも、あっさりと彼を見限ったようだ。

 いくら実力主義のアカデミアと言えど、学友が姿を消したというのに出てくる感想が罵倒と嘲笑だとは思わなかった。

 

「ねぇアニキ、昴君…万丈目君、デュエルに負けたのを苦に崖から身を投げたりしないよね……?」

 

「馬鹿言うな!そんな事あるはずねぇだろ!──無い、よな…?」

 

「そこは断言するところだぞ十代……俺も同意見だ。あの万丈目だぞ?負けっぱなしで逃げ出すようなタマじゃない」

 

 テストの後、独り十代に負けた自分を痛めつけていた万丈目の姿を思い出す。あれだけの執念があるならば、また必ず十代に挑んでくるはずだ。

 とはいえ、心配なのも事実。十代は昴と翔を連れて、教室を離れた。

 

 

 

 

 

 

「──よし、大丈夫そうだ」

 

「……まさか、こんな抜け穴があったのか」

 

「アニキが授業サボるのによく使ってるんスよ……っと」

 

 教室を抜け出した十代達は、校舎の壁に空いた穴から這い出てくる。この穴はかつて十代が見つけた外への秘密ルートであり、抜ける場所も柱と茂みに隠れてバレにくい。

 制服に付いた土埃をはたき落としていると──

 

「──授業をサボってどこに行く気かしら?」

 

 と、3人を咎める声が。振り向いた先にいたのは、明日香を筆頭にしたオベリスク・ブルーの女子3人組だった。後ろにいるのは、明日香を慕っている枕田ジュンコと浜口ももえ。

 

「なんだ明日香か……万丈目を探しに行くんだよ。流石に心配だろ」

 

「そうだぜ。あっ、先生には言うなよ?」

 

 謹厳実直な明日香のことだ。大方自分達を止めにでも来たのだろうと思っていたのだが、明日香の返答は意外なものだった。

 

「別にいいけど、条件があるわ」

 

「条件……?」

 

「私達も一緒に行くわ。あなた達と同じで、万丈目君のこと放っておけないもの」

 

 そういうことならば話が早い。探し物は人手が多いに越したことはないし、昴達としても心強い。有り難く彼女達の力を借りることにする。

 

 メンバーも増えたことだし、手始めに森の方を探してみようということで出発しようとした一行だが、またもその背中を呼び止める声が──

 

「──私も、ご一緒していいかしら?」

 

「雪乃……!?」

 

「藤原…お前何でここに」

 

「嫌ね、名前で呼ぶように言ったでしょう?私のカワイイ昴──偶々そこを通りかかったら、何だか面白そうな話をしてるじゃない。是非私も混ぜて欲しいわ」

 

「俺は別に構わないが……」

 

 昴は明日香や十代の意見も聞こうと思ったのだが、

 

「ふふっ、決まりね。行きましょう」

 

 と、そんな暇も与えずに雪乃は昴を連れて森へ入っていってしまう。

 

「ちょっと雪乃!待ちなさい──!」

 

 一行は明日香を先頭にその後を追いかけ、万丈目搜索が開始された。

 

 

 

 

 

 

 

「──おーい!万丈目ー!」

 

「まんじょうめくーん!」

 

「出てこい万丈目ー!」

 

 森に入って30分程──男性陣が呼びかけながら進んでいるが、万丈目が出てくる気配はない。

 

「万丈目の奴、どこまで行ったんだ……」

 

 探せど探せど見えるのは木ばかり。島の中で隠れるといえばこの場所くらいしか思いつかなかった為ここを捜索場所に選んだが、もしや見当違いだったりするのだろうか。

 そこへ、澄んだ声が語りかけてきた。

 

『どうやらお困りのようだね。マスター』

 

 つい先日会話ができるようになった【リチュア・エリアル】は手乗りサイズまで身体を縮めた上で昴以外に認識できないよう術をかけているらしく、翔や明日香達は勿論、同じく【ハネクリボー】と対話できる十代も彼女の存在に気づいていないようだ。本人曰く"コミュ障"なのだとか。

 

「ああ、めっちゃ困ってる。……そうだ、万丈目の居場所占いとかで分からないか?」

 

【リチュア】は異界の力を自らの体に取り込む禁呪を扱う集団だ。こういったオカルティックな儀式の代表である占いで万丈目の大まかな位置を割り出すことができるかもしれない。

 

『あー…悪いけどそういうのは僕苦手なんだ。【ディバイナー】だったら占い得意なんだけどね……』

 

「今デッキにいないんだよなぁ……」

 

 デッキに入っていない調整用カード達は自室で昴の帰りを待っている。流石に今から戻っていたのでは時間のロスだし、教師に見つかる危険性もある。

 

『──あ、一応僕にもできそうなやつが1つだけあるけど、どうする?』

 

「この際だ。とにかくやってみてくれ」

 

 昴の肩から下りたエリアルは道を少し進んだ先へ飛んでいくと、持っている銀色の杖を地面に突き立てる。そして何かを念じた後──

 

『ほっ──』

 

 突き立てた杖からパッと手を離す。浅く地面に立っているだけの杖は当然、支えを失ったことでバランスを崩し、パタリと倒れた。

 

『こっちにいる………かも?』

 

 エリアルが指し示したのは倒れた杖の先端が向いている方向──要するに今彼女がやったのは、迷った時にどっちへ進むかを決める古典的なアレだ。確かにこれなら特別な技能がなくても誰でもできる。何なら昴にすら。

 

「……うん。まぁその、なんだ…ありがとな。行ってみる」

 

『……役に立てなくてごめんね』

 

 心なしかショボンとしたエリアルはそのまま姿を消す。彼女の頑張りを無為にしない為にも、昴は皆をその方向へと導いた。

 

 だがやはりと言うべきか、探し人の姿は見当たらない。

 

「全く……」

 

 いつまでも出てこない万丈目に業を煮やしたのか、明日香は大きく息を吸い込むと……

 

 

「出て来なさーい!デュエルに負けたくらいで雲隠れなんて、情けないわよーっ!」

 

 

 力強い声が森に木霊し、驚いた鳥達が何羽か飛び去っていく。

 

「……ダメね。見つからない」

 

「前から思ってたけど、お前って結構キツいよな……」

 

 若干引き気味にそうこぼした十代。それを見たジュンコは得意げに口を開いた。

 

「当然よ!最近の男子は軟弱な奴らばっかりだもの!」

 

「でも、きっと万丈目さんは違いますわ。だってイケメンなんですもの~!」

 

「あなた前は三沢さんと加々美さんが素敵って言ってたじゃない…顔が良ければ誰でもいいわけ?」

 

 フォローと言うべきかイマイチ謎な理由で万丈目を評価するももえ。そういえば以前女子寮で昴と初めて会った時も"素敵な殿方ランキング"なるものを勝手に作り、男子生徒たちを格付けしていたのを思い出す。

 

「ももえ、男性の顔だけしか見ていないようではまだまだお子様よ。男ならまずは強くあることが最低条件……容姿や性格はその次で構わないわ」

 

「確かに…私よりデュエルが弱い殿方は幻滅ですわ……そういう雪乃さんは、好みの殿方はいらっしゃるんですの?」

 

「私?私は───この昴よ」

 

 悪戯っぽい笑みを浮かべた雪乃は、そう言って昴の腕に抱きつく。

 

「なっ──!?」

 

「ちょっと雪乃!?」

 

「あらぁ~!雪乃さんたら大胆ですわ~!」

 

 狼狽する昴と明日香。それとは裏腹に興奮気味のももえ。そんな彼女達を他所に万丈目搜索を続ける十代と翔は、完全に蚊帳の外だ。

 

「お、おいふじわ──雪乃!ふざけてる場合じゃないだろ!」

 

「私は本気よ?ほら、こうして触れているだけで私の胸がドキドキしてるの──分かるでしょう?」

 

 一層深く腕を絡めて密着してくる雪乃。すると、明日香に負けず劣らずの豊満な胸がこれでもかと押し付けられる。昴の腕に当たってマシュマロのように形を変える雪乃の胸は、以前の事故で昴の脳裏にしっかりと刻み込まれてしまった明日香のそれとはまた感触が違った。

 

「雪乃、くっつきすぎよ!昴も困ってるじゃない!」

 

「あら、どうしたの明日香?いつもより顔が赤いようだけど、熱でもあるのかしら?」

 

「そっ、そんな事……!」

 

「具合が悪いなら戻って休んでいてもいいのよ?万丈目君の捜索は私たちでやっておくわ」

 

「っ…そんなのダメに決まってるでしょ!とにかく一度離れなさい──!」

 

 昴の空いてる方の腕を引っ張って雪乃から引き剥がそうとする明日香。雪乃も昴の腕を引いて抵抗する。

 

「ちょっ……と待て!痛い!痛いって!」

 

 綱引きの縄状態の昴は、両腕に走る痛みを和らげようと力を込めて左右の引力に逆らう。しかしあまり力を込め過ぎると2人に怪我をさせてしまう恐れがある上に、制止の声は彼女たちの耳に届いていないようだ。

 

「明日香…っ!?嫉妬なんて可愛らしいところもあるじゃない…っ!やっと正直になってきたってことかしら……っ!?」

 

「し、嫉妬なんかしてないわよ!私は昴が困ってるから……と、とにかく!いいからその手を離しなさい……っ!」

 

 明日香が昴を引く手に一層力を込める。これが決め手となり、綱引き勝負は明日香が勝利を収めた。ようやく両腕の痛みから解放されたと思った昴だったが……

 

 

「あっ──!」

 

「うぉっ──!?」

 

 

 昴の腕を引っ張った勢いで、明日香は仰向けに転んでしまう。そして彼女に引っ張られる形で昴もバランスを崩し───

 

 

「っ………!!??」

 

「むぐ……っ!?」

 

 

 以前の事故とは立場が真逆──明日香の上に、昴が倒れこむ。

 当然昴は腕で踏ん張ろうとしたのだが、綱引きの痛みに耐えるためずっと力んでいたせいで腕が痺れており、それは叶わなかった。

 更に運の悪いことに──一概にそうとも言えないかもしれないが──今現在昴の頭は丁度明日香の胸の辺りに位置しており、傍目には……昴が明日香に対し不埒な行為を働いているように見える。

 

「あらあら昴ったら……少し妬けちゃうわ」

 

「まぁ…明日香さんも大胆ですわぁ……!──でも、このお2人が相手では私に勝ち目がありませんわね……」

 

 雪乃達の言葉で、自分がしでかした事の重大さに気付いた昴はバビュンッ!という音が似合いそうな俊敏さで明日香から離れると、地面に膝を付き、頭を擦りつけた。

 

 

「許してくれとは言わない。本当にすまないと思っている。この通りだ」

 

 

 誠心誠意の土下座を披露した昴。

 

「加々美さん…自分の非を潔く認めるなんて、男らしいですわぁ……!」

 

「結構付き合い長いけど、私あなたのツボがよく分かんないわ……」

 

 そんなジュンコとももえを他所に、体を起こした明日香は顔を真っ赤にして、制服を持ち上げる2つの膨らみを両腕で覆い隠す。今回も事故ではあるのだが、ただ倒れこむだけだった前回とはまた訳が違う。

 明日香が下で、昴が上、しかも胸に顔を埋められるという下手すれば絶交ものの大事故なのだ。

 

「故意じゃないとはいえ、お前に怖い思いをさせてしまったのは事実だ。俺に出来る事なら、なんでもする」

 

 明日香は変わらず無言のままだったが、彼女に代わって昴の言葉に反応を示したのはこうなった遠因でもある雪乃だった。

 

「へぇ…()()()()…ねぇ?明日香、───」

 

 何やらゴニョゴニョと明日香に耳打ちする雪乃。それを聞いている明日香は、とうとう耳まで真っ赤に染めていき……

 

「──なんて、どうかしら?これくらいのご褒美は許されると思うけど?」

 

「なっ…なっ…な何言ってるのよ!?あなた自分が何を言ってるのかわかってるの!?」

 

「勿論よ。──でももし明日香が良ければ、私も混ぜてもらえるかしら?」

 

「~~~ッ!!!!遊んでないで早く行くわよっ!ほら、十代達あんな遠くに居るじゃない──!」

 

 諸々限界に達したのか、明日香はズカズカと先を急ぐ。その様子をニヤニヤしながら見送る雪乃。そして未だに土下座したままの昴を、ジュンコとももえが立ち上がらせていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──遅いぞお前ら!何してたんだよ?」

 

「いや、まあ、色々とな……」

 

「何か元気ないけど、大丈夫昴君?」

 

「俺は大丈夫だ。……ああ、俺はな」

 

 どこか萎びた雰囲気の昴が一番最後に合流し、また全員が集まった。昴達があんなことになっている間も十代達は懸命な捜索を続けていたようだが、成果はゼロだったとのことだ。

 

 気を取り直して周辺を見渡していると、明日香の目が何かを捉えた。

 

「待って!……そこの茂みに何か居るわ」

 

 彼女が指さした茂みは、確かに不自然に揺れている。

 

「万丈目か?俺だ、遊城十代だ。他にも昴とか明日香もいるぜ。隠れてないで出て来いよ」

 

 茂みの向こうに居るのが万丈目だと考えた十代は、彼を励ます言葉を投げかけながら茂みに近づいていく。

 

「なぁ万丈目───」

 

 やがて至近距離まで一同が近づいた時だった。

 

 

「ウキーーーーーーッ!」

 

 

「んなぁっ!?」

 

 茂みから飛び出してきたのは、何やら物々しい機械を身につけた1匹の猿だった。

 飛び掛かって来た猿は一頻り暴れて一行をパニックに陥れた後、何かを抱えて去っていく。

 

「………な、何だったの?」

 

「猿……ってことしか……」

 

 嵐の様に過ぎ去っていった謎の猿。一先ず全員怪我は無いようなのだが……

 

「……ねぇ、ジュンコはどこかしら?」

 

 雪乃に言われて周囲を見回すと、確かに1人足りない──ジュンコが姿を消していた。戸惑う昴達の耳に、助けを求める声が遠くから聞こえる。ジュンコの声だ。

 

「とにかく追うぞ!」

 

 昴が先頭になり、一行はジュンコの声を頼りに後を追いかける。

 

 やがて辿り着いたのは、島の端に位置する断崖だった。攫われたジュンコは、猿共々断崖に1本だけ生えた木の上にいる。

 見たところ木が折れるようなことはなさそうだが、あの下は海だ。万が一落ちてしまえば無事では済まないだろう。

 

 何とかして彼女を助ける方法を考えていると、昴達とは別の集団がこの場に現れた。

 

「──やっと見つけたぞ!猿の分際で手間掛けさせやがって、麻酔銃で打たれたくなければ大人しく下りて来い!」

 

「ギギィッ!」

 

 突如現れた黒服の男達は、長銃型の麻酔銃を構えて猿に警告する。果たして猿に言葉が通じているのかは不明だが、この状況を理解したらしい猿はジュンコを海に突き落とすような仕草を取る。人質のつもりだろうか。

 

「イヤーッ!助けて明日香さーん!」

 

「おいあんたら、あの猿について説明しろ!」

 

「フフフ……よかろう。あれはただの猿ではない。我々が訓練を重ねて育て上げた、決闘者猿だ!」

 

 得意げに答えたのは、黒服達と一緒に猿を追っていたらしいスーツ姿の老人だった。

 デュエルをする猿などにわかには信じ難いが、それを裏付けるように、猿の左腕にはデュエルディスクが装着されている。老人が言うには正式名「Super Animal Lerning(スーパー アニマル ラーニング)」を略して「SAL」らしい。

 

「デュエルする猿!?おもしれぇ!なぁなぁ、俺に任せてくれよ!」

 

 十代はあのSALとデュエルすることでジュンコを取り戻そうと考えたらしく、その旨を伝えたのだが……

 

「……キキッ!」

 

「えっ!?」

 

 見事にそっぽを向かれてしまった。

 

「……もしかして、猿に見下されてるんじゃないかしら?彼」

 

 雪乃の冷静な一言で、十代を除く一行は思わず吹き出してしまう。幸い十代がそれに気づくことはなかったが、いきなり出鼻を挫かれてしまった。

 

「……ウキャ、キッキー!」

 

 だがデュエルで決着をつけるという意見そのものは採用したらしいSALは、その相手を自ら指名してきた。猿特有の長い指が指したのは──

 

「──え、俺か?」

 

「ウキッ!」

 

「ご指名よ昴。あのSALと戦って、見事ジュンコを助けてみせなさい」

 

 雪乃に背中を押されて前に躍り出た昴は、やや戸惑いながらもデュエルディスクを起動させる。

 

「SAL!俺が勝ったら人質を解放してもらうぞ。負けたら…──なぁ、負けたらどうする?」

 

「負けられたら困るのだけど……?あなたは私を猿以下に貶めたいのかしら?」

 

「……イエス、マム」

 

 冷ややかな雪乃の声が背中を突き刺す。絶対に勝たなければいけない理由が1つ増えた。

 

「…そういう事だ。全力で行くぞ!」

 

「キキッ!デュエル!」

 

 電子音ではあるが、全身に着けた機械を通してデュエル関連のワードは喋れるらしいSALとの戦いが始まる。先の会話を見ても、意思疎通は問題なさそうだ。

 

 

 昴 :LP4000 手札×5

 VS

 SAL:LP4000 手札×5

 

 

「先攻は俺だ、ドロー!…手札から【リチュア・アビス】を召喚!」

 

 

【リチュア・アビス】

 ✩2 魚族 ATK800 DEF500

 

 

「【アビス】の効果でデッキから【シャドウ・リチュア】を手札に。更にその【シャドウ】を墓地に送って、デッキから【リチュア】儀式魔法を手札に加える!」

 

 昴には珍しく初手がやや事故り気味だった為、カードを2枚伏せてターンを終了した。

 

 

 昴 :LP4000 手札×4

【リチュア・アビス】

 伏せ×2

 VS

 SAL:LP4000 手札×5

 

 

「キキッ!ワタシ ノ ターン!ドロー!…魔法カード【おろかな埋葬】ヲ 発動!デッキ カラ【暗黒の狂犬(マッドドッグ)】ヲ 墓地ニ!ソシテ【怒れる類人猿(バーサークゴリラ)】ヲ 召喚!」

 

 

怒れる類人猿(バーサークゴリラ)

 ✩4 獣族 ATK2000 DEF1000

 

 

「猿がゴリラを召喚……じゃなくて、こいつは獣族デッキか」

 

 名が体を表す激怒した巨大ゴリラを見て、SALの使用するデッキに当たりを付ける。獣族デッキというと【素早いモモンガ】のライフ回復とリクルートが厄介な印象があるが、このSALはどちらかというと攻撃的なスタイルらしい。

 であれば、警戒すべきは【グリーン・バブーン】を始めとした【バブーン】シリーズだろうか。思ったよりも慎重に立ち回る必要があるかもしれない。

 

「バトル!【怒れる類人猿】デ【リチュア・アビス】ヲ 攻撃!」

 

 巨大ゴリラは野生で培われた俊敏な動きで【アビス】に接近すると、握り締めた拳で叩き潰そうとする。

 

「罠発動【フィッシャーチャージ】!魚族である【リチュア・アビス】をリリースすることで、【怒れる類人猿】を破壊!その後1枚ドローだ!」

 

 ゴリラに殺られる寸前、【アビス】の足元が海となり、その中に姿を隠す。手応えが無い事を訝しむゴリラは、水面からミサイルの様に飛び出してきた数匹のコバンザメに胴体を打ち抜かれて絶命した。

 

「ウキィ!コノ瞬間、手札ノ【森の番人グリーン・バブーン】ノ 効果発動!ライフ ヲ 1000ハライ、手札カラ特殊召喚!」

 

「くっ……言った傍から!」

 

 

 SAL:LP4000→3000

 

 

 仲間の獣族が効果破壊されたことで、SALの手札から緑色の番人が姿を現した。ライフ1000のコストは大分重いが、攻撃力は2600と攻守共に活躍できる優秀なモンスターだ。

 

 

【森の番人グリーン・バブーン】

 ✩7 獣族 ATK2600 DEF1800

 

 

「【グリーン・バブーン】デ、プレイヤー ニ ダイレクトアタック!」

 

 木の枝をへし折っただけの粗雑な武器を振りかざして向かってくる【グリーン・バブーン】だったが、昴は冷静に対処する。

 

「罠カード【ガード・ブロック】!戦闘ダメージを0にして、更に1枚ドロー!」

 

 2度の攻撃を躱されたSALは悔しそうにしながらも、伏せカードを2枚伏せてターンを終了した。

 

 

 昴 :LP4000 手札×6

 VS

 SAL:LP3000 手札×1

【森の番人グリーン・バブーン】

 伏せ×2

 

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 昴が引いたのは【リチュア・エリアル】──先程ションボリして引っ込んでいった彼女は、やる気に満ちていた。

 

『さっきは情けない所を見せたからね、名誉挽回させてもらうよ──と言っても、僕自身が何か出来るわけじゃないけどね…ハハ』

 

「それでもお前の存在には助かってるよ」

 

『……ありがと。マスター』

 

「俺は【リチュア・ビースト】を召喚!」

 

 

【リチュア・ビースト】

 ✩4 獣族 ATK1500 DEF1300

 

 

「獣には獣だ──【ビースト】の効果発動!墓地の【リチュア・アビス】を守備表示で特殊召喚!その効果でデッキから【ヴィジョン・リチュア】を手札に加える。更に手札の【ヴィジョン・リチュア】2枚を墓地に送って、【マインドオーガス】と【リヴァイアニマ】を手札に!」

 

 海獣の咆哮ひとつから複数のカード効果を連鎖させ、どんどん手札を整えていく。

 

「【リチュアの儀水鏡】発動!場の【リチュア・ビースト】と【リチュア・アビス】を墓地に送り、儀式召喚──【イビリチュア・マインドオーガス】!」

 

 

【イビリチュア・マインドオーガス】

 ✩6 水族 儀式 ATK2500 DEF2000

 

 

「【マインドオーガス】の召喚時効果!互いの墓地から合計5枚までカードをデッキに戻す──マインド・リサイクル!」

 

 この効果でSALの墓地から【怒れる類人猿】と【暗黒の狂犬】、そして自分の墓地からは【ガード・ブロック】をデッキに戻す。

 そして魔法カード【サルベージ】を発動した昴は、墓地の【シャドウ】と【ヴィジョン】を回収。回収した【シャドウ・リチュア】の効果でデッキから【リチュアの儀水鏡】を手札に加えた。

 

「【リチュアの儀水鏡】発動!手札の【ヴィジョン・リチュア】を素材に、【イビリチュア・リヴァイアニマ】を儀式召喚!」

 

 

【イビリチュア・リヴァイアニマ】

 ✩8 水族 儀式 ATK2700 DEF1500

 

 

 儀水鏡の光から現れたのは、しなやかな身体を持つ竜人。手には儀水鏡を象った片手剣を携え、細い身体に反して力強い産声を上げた。

 

「バトル!【イビリチュア・リヴァイアニマ】で【グリーン・バブーン】を攻撃!」

 

 そして攻撃をトリガーとして、竜人がその力を発揮する。

 

「【リヴァイアニマ】の攻撃宣言時、デッキからカードを1枚ドローして、そのカードが【リチュア】モンスターだった場合、相手の手札をランダムに1枚確認できる──俺が引いたのは【リチュア・アビス】、よってお前の手札を見せてもらう!」

 

 SALの残された手札1枚、その正体は【森の狩人イエロー・バブーン】だった。

 このカードは自分の獣族が戦闘破壊された時に墓地の獣族を2体除外すると特殊召喚できる効果を持っている。最初にSALが発動した【おろ埋】は、この発動コストを確保する為だったのだろう。

 

 もっとも、それを警戒していた昴の【マインドオーガス】によって墓地を空にされてしまったSALはその効果を使うことができないのだが。

 

「行け!──リヴァイアス・ストリーム!」

 

【リヴァイアニマ】が口から水のブレスを吐き、森の番人を押し流そうとする。しかしSALとて何も用意をしていないわけではなかったようだ。

 

「トラップ発動──【幻獣の角】!【グリーン・バブーン】ニ 装備シ、攻撃力 ヲ 800ポイントアップ!」

 

【グリーン・バブーン】の側頭部に1対の鹿の角が生え、森の番人に力を与える。これで攻撃力は3400と【リヴァイアニマ】を上回った。水のブレスを棍棒で防ぎながら突撃し、強烈なショルダータックルで返り討ちにしてしまう。

 

 

 昴:LP4000→3300

 

 

「サラニ【幻獣の角】ノ効果!装備モンスター ガ 相手モンスター ヲ 戦闘破壊 シタコトデ、1枚ドロー!」

 

「ちぃ…っ!猿のくせにやるじゃねーの──墓地の【リチュアの儀水鏡】の効果で【リヴァイアニマ】を回収。カードを1枚伏せ、ターンエンドだ」

 

 

 昴 :LP3300 手札×4

【イビリチュア・マインドオーガス】

 伏せ×1

 VS

 SAL:LP3000 手札×3

【森の番人グリーン・バブーン】+【幻獣の角】

 伏せ×1

 

 

「ワタシ ノ ターン!バトルフェイズ!【グリーン・バブーン】デ【マインドオーガス】ヲ攻撃!」

 

 先程と同じように獲物目掛けて突進する【グリーン・バブーン】。防御姿勢を取る【マインドオーガス】だったが、攻撃力で劣る以上何をしても無意味──成す術なくその身を散らした。

 

 

 昴:LP3300→2100

 

 

 SALは【幻獣の角】の効果で1枚ドロー。これで攻撃は終了かと思われたが、これまで牙を剥いていたSALの口元に笑みが浮かぶ。

 

「トラップカード【キャトルミューティレーション】発動!フィールドノ【グリーン・バブーン】ヲ テフダ ニ 戻シ、同ジレベル ノ 獣族モンスター【森の狩人イエロー・バブーン】ヲ特殊召喚!」

 

 

【森の狩人イエロー・バブーン】

 ✩7 獣族 ATK2600 DEF1800

 

 

 緑の番人と入れ替わり現れたのは、弓矢を携える黄色の狩人。森を守護する獣達の1人だ。

 

「【イエローバブーン】デ プレイヤー ニ ダイレクトアタック!ウッキャー!」

 

 引き絞られた巨大な弓矢が放たれ、人間サイズに換算すると丸太のような矢が風を切って飛来する。

 この攻撃を喰らえば昴のライフはゼロ。ジュンコを助けることができなくなってしまう。

 

「罠発動──【儀水鏡の幻影術】!手札の【リヴァイアニマ】を特殊召喚!」

 

 突如昴の前に現れた竜人が、飛来する矢を剣で弾き飛ばす。【幻獣の角】による強化を受けていない森の狩人では竜人に一歩及ばず、攻撃を断念するしかない。

 

「ギギィ……!ターンエンド」

 

 ターン終了宣言がなされると同時に【リヴァイアニマ】の身体が霞のようにたち消えた。

【儀水鏡の幻影術】は手札からノーコストで【リチュア】の儀式モンスターを特殊召喚できるが、ターン終了時に手札へ戻ってしまう上に、自発的に攻撃することができない。一時的に幻を現出させる罠カードなのだ。

 

 だがそんな実体無き幻のお陰で、ターンは繋がった。

 

 

 昴 :LP2100 手札×4

 VS

 SAL:LP3000 手札×4

【森の狩人イエロー・バブーン】

 

 

「俺のターン、ドロー!…手札から魔法カード──『マスター、ちょっと』─っ、なんだ?」

 

 メインフェイズを開始しようとした昴を止めたのはエリアルだ。彼女が指差す方には背の低い岩があり、その向こうから複数の視線と甲高い鳴き声が聞こえてくる。

 

『これって、もしかしてあのSALの仲間なんじゃないかな?マスターは全然気付いてなかったけど、あのSALは元々この森から連れてこられた実験動物だって、後ろで言ってたよ』

 

 つまりあのSALは仲間の元へ帰りたいがために脱走を図ったということだ。昴自身、何となく妙だとは思っていたが、これでスッキリした。

 

「成る程……勝ちを譲ってやりたいところだが、生憎ジュンコを返して貰わないといけない。悪く思うな──魔法カード【トレード・イン】発動!手札の【リヴァイアニマ】を墓地に送って、2枚ドローする!」

 

 SALを倒す決意を固めた昴は、このデュエルを終わらせるべく動き出した。

 

「墓地の【儀水鏡】の効果発動!このカードをデッキに戻し、墓地から【リヴァイアニマ】を回収。そして手札の【ヴィジョン・リチュア】を墓地に送り、デッキから【ソウルオーガ】を手札に加える──」

 

 昴は続けて、通常召喚した【リチュア・アビス】の効果でデッキから【シャドウ・リチュア】をサーチ。その【シャドウ・リチュア】を墓地に送って、【リチュアの儀水鏡】を手札に加える。

 

 これで準備は整った。

 

「【リチュアの儀水鏡】発動!手札からレベル4の【リチュア・エリアル】と【リチュア・チェイン】を墓地に送り、儀式召喚──【イビリチュア・ソウルオーガ】!」

 

 

【イビリチュア・ソウルオーガ】

 ✩8 水族 儀式 ATK2800 DEF2800

 

 

「【ソウルオーガ】の効果発動!手札の【リヴァイアニマ】を墓地に送ることで、【イエロー・バブーン】をデッキに戻す!──ハウリング・ソウル!」

 

【ソウルオーガ】の咆哮により、森の狩人は強制的にフィールドから飛ばされてしまう。

 これでSALの場のモンスターはゼロ。伏せカードも無く、昴の攻撃を防ぐ手立てがない。

 

 唯一の望みは手札の【グリーン・バブーン】だったが、このモンスターを特殊召喚できるのは効果破壊でのみ……デッキバウンスはその範囲外だ。

 

「バトルだ!【リチュア・アビス】でダイレクトアタック!」

 

【リチュア】の魔術により足元を海に変えてSALの元へ潜行する【アビス】。海面から飛び出すと、鮫の尻尾をSALに叩きつけた。

 

「ウギャァッ──!」

 

 

 SAL:LP3000→2200

 

 

「【イビリチュア・ソウルオーガ】でダイレクトアタック──リチュアル・ブラスト!」

 

 球状に固められ撃ち出された儀水鏡のエネルギーは、守る術を失ったSALを音も無く飲み込んでいった。

 

 

 SAL:LP2200→0

 

 

 デュエルが終了し、モンスター達がその姿を消していく中、敗北したSALは項垂れていた。ヘッドギアのせいで表情がよく見えないが、その感情がどのようなものなのかは、容易に想像できた。

 

「約束だ。ジュンコは返して貰う」

 

「……キキッ、ウキャ」

 

 背後の木へ登っていったSALは震えるジュンコを抱え上げると、木から下ろして身柄を解放した。

 無事の再会を喜ぶジュンコだったが、その表情は浮かない。今しがた自分を下ろしてくれたSALの身を案じているのだろう。

 

「あの猿、また研究所へ連れ戻されちゃうのよね……」

 

 デュエルに集中していた昴は、あのSALがどのような仕打ちを受けてきたのかは分からない。

 だが野生動物を使った生体実験など、どうせ碌なものじゃないことは確かだ。

 

 背後から、SALを捕獲しようと麻酔銃を構えた黒服達が近づいてくる。少し考えた昴は、彼らとSALの間に割り込んだ。

 

「何だお前!?どういうつもりだ!?」

 

「勘違いしてもらっちゃ困る。俺達はあくまでジュンコを助けるのが目的であって、あんたらの為にSALを捕まえようとしたんじゃない。ジュンコが戻ってきた以上、どうしようがこっちの自由だ」

 

 最悪麻酔銃で撃たれる危険性もあったが、昴の予想ではこの男達の研究とやらは恐らく非合法。秘密裏に行われている実験だ。もしこの場の全員が彼らによって監禁でもされれば、学園が捜索に乗り出す筈。そうなれば、いずれ彼らの研究所とやらも発見されることになるだろう。

 

 だがそんなことお構いなしといった様子の黒服たちは昴を押しのけ、ネットでSALを捕獲しにかかる。

 挙句の果てにデュエルを見守っていた仲間の猿達まで捕獲しようとする男達だったが、そこへ現れたレッド寮寮長兼錬金術の講師である大徳寺先生によって、無事にSALの身柄は自然へ返されることとなった。

 

「──ああ、そうそう。万丈目君が見つかったんだニャ」

 

 大徳寺が言うには、万丈目は自分が見つけた時にはもう既に島を出ていたらしい。無事が分かっただけでも良かったが、もう彼はこの島にはいない。

 

「……でもま、退学処分にはなっていないんだろ?だったらいつか戻ってくるさ。『勝負しろ十代!』ってな」

 

「おおっ!その時が楽しみだぜ!」

 




【アクロバットモンキー】なんていなかった、いいね?

今回のSALデュエル、書き始めたときは取り敢えず【バブーン】ぶち込んどけという雑な考えでいましたが、途中で割と殺意高めのムーブが思いついたのでそちらに変更しました。

その結果アクロバティックなロボ猿も野生解放も登場しなくなったわけですが…。
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