遊戯王~(GXの)アカデミアに転生~   作:不可視の人狼

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フィアンセの座

 年が明け、冬休みも終わったデュエルアカデミアには、すっかり元の活気が戻っていた。

 相変わらず授業を受けて、時にデュエルして、寮に戻って眠る毎日──今日も今日とて学園に行き、体育の授業を受けている最中だ。

 

「──よっ、と!」

 

 ジャージ姿となった昴がラケットを振るい、黄色いボールを際どい位置に打ち返す。アウトになるかどうかを見極めていたせいで反応が遅れた相手は、何とかギリギリのところでボールを返した。

 

「ナイスだ昴──!」

 

 弧を描いて戻ってきたボールに走るのは、昴とダブルスを組んでいる三沢。勢いのない甘い球を見逃さず、見事なカーブショットでゲームセットに持ち込んだ。

 

「いい一撃だったな、流石文武両道の優等生」

 

「お前の方こそ。速度といい狙いといい、絶妙なレシーブだった。アレがなければ俺だって決められなかったさ」

 

 今日の体育はテニス。各自でペアを組んだり、シングルスで試合を行っている者もいる。昴は前者の中の1人で、三沢と組んで現在5連勝記録を打ち立てている。

 

 スポーツドリンク片手に5連続試合を終えた体を休めていると、体育館の一角で十代と翔が何やらワイワイと騒いでいる。傍らには先程まで彼らと試合をしていたジュンコとももえのペアがおり、今は昴達と同じく休憩中のようだ。

 

「──よっしゃあ!行くぜ翔!必殺、ダブルサーブ!」

 

 おふざけのつもりなのだろう。十代はボールを2つ一度にサーブする。宙に舞う2つのテニスボールを見事に捉えたまでは良かったのだが、ボールがラケットから離れた途端、あらぬ方向へと飛んでいってしまう。

 

 嫌な予感を素早く察知した昴は、ラケットを持って走った。

 

 威力だけは凄まじい2つのボールが向かう先では、ジャージにショートパンツというラフな格好をした明日香が雪乃と試合をしており……

 

「──避けなさい明日香っ!」

 

「え──っ?」

 

 雪乃の声でボールの接近に気づく明日香だったが、今からでは間に合わない。そんな彼女とボールの間に割り込む影があった。

 

「───っく!」

 

 先んじて走り出していた昴は、時間差で迫る2発の内手前の1発をラケットで上に打ち上げた。残る1発も打ち落とせれば良かったが、間に合わないと判断した昴は空いた左手で叩き落とそうと試みる。

 

 しかしそれよりも一瞬早く、突然飛び込んできた昴とは別のラケットが左手を掠めてボールを打ち返した。

 呆然とする明日香の元へ、ジュンコとももえが駆け寄ってくる。

 

「明日香さん、大丈夫ですか!?」

 

「えぇ。私はどうとも……」

 

 そのまま昴とすれ違うように着地した何者かは何でもない様子で立ち上がると、やたら芝居がかった動きで明日香達の方へ振り向く。

 

「大丈夫?怪我しなかった?」

 

 その男は、イケメンであった。

 惜しげもなく晒された鍛えられた手足、整えられた茶髪。意志の強い眉と、その下で爛々と煌く瞳──絵に描いたようなさわやか系イケメンというやつだ。その証拠に、面食いなももえだけでなくジュンコまでもが目をハートにして黄色い声を上げている。

 

「あの、ありがとうございます。助かりました」

 

 礼を言う明日香を見たイケメンは彼女の美貌に見蕩れていたらしく暫く無言だったが、意識を取り戻すなり照れくさそうにはにかむ。

 

「いやぁ、失敬失敬。知らなかったよ、我がオベリスク・ブルーに君みたいな美しい人がいたなんて」

 

 会話にかこつけて明日香の手を取るイケメン。

 

「あっ!ごめんよ、ちょっとキザだったかな?いきなり女性の手を握るなんて……」

 

「いえ……あ、手と言えば──」

 

 イケメンの言葉で何かを思い出したらしい明日香は、踵を返して昴の元へ向かう。

 

「な、何だ急に……?」

 

「手、見せなさい。怪我してたら大変でしょ」

 

 反論する暇も与えず、ソっとではあるが無理矢理昴の手を取ってジッと見回す。男にしては比較的白い昴の手の甲には、うっすらと赤い跡が出来ていた。

 

「念の為に鮎川先生に診て貰った方がいいんじゃ……」

 

「ラケットが掠った程度で大袈裟だ。水で軽く冷やしとけば大丈夫だろ」

 

「いや、これは僕にも責任がある。テニス部部長として、不慮の事故とはいえ怪我をさせてしまった以上はキチンとした手当てを受けてもらうよ」

 

 会話に入ってきたイケメンと明日香の2人に詰め寄られた昴は、観念して鮎川の元へ行き、氷嚢を貰って来た。

 

「大事無いようで良かったよ。にしても君、良い瞬発力を持っているじゃないか。どうだい?我がテニス部に入部しないか!?」

 

「いえ、遠慮しときます……」

 

「そう言わずに!僕達と一緒に一度しかない熱い青春を謳歌しようじゃないか!」

 

 何度断っても退かないイケメンに根負けした昴は、今日1日だけという条件の下、テニス部に仮入部をする羽目に。

 

 

 尚、昴とイケメンが弾いたボールは不運にも全て、鮎川と共に現場監督をしていたクロノスに命中していたことを知る者はまだいない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「次いくぞぉ!───でやぁっ!」

 

「くっ──!」

 

「──まだまだ!」

 

「──はぁっ!」

 

 同日放課後──体育の授業が終わり、テニス部が使用するグラウンドで、一部のコートだけが一際熱を帯びている。

 

 コートに立っているのは、強引に仮入部させられた昴と、クロノスの顔に青痣を作った罰を受けている十代。そしてそんな2人を扱きに扱いているのは、例のテニス部部長──オベリスク・ブルーの3年、綾小路ミツルだ。

 コートの横には罰則を受ける十代を案じて様子を見に来た翔と、綾小路目当てで駆けつけたジュンコとももえの姿もある。

 

「ぜぇ…ぜぇ……くそぉ…クロノスの奴、覚えてろよ……!」

 

 肩で息をしながら悪態をつく十代の横では、同じく疲労困憊状態で荒い息をつく昴の姿が。

 

「まだ特訓は終わってないぞ2人共!この程度で挫けていてはダメだ!今頑張らなくてどうする!?今日という日は今しかないんだぞ!?」

 

「こんなキャラだったか……?」

 

「無駄に暑苦しい上に言ってること訳分かんねぇ……」

 

「そして"明日"とは"明るい日"と書くんだ!さぁ、明日の為にあと50球だ!どうだい、元気が出てきたろ!僕と一緒に頑張るんだ!汗と涙は明日の糧になる!美しき青春、万歳!」

 

「マジかよ……」

 

「明日の為を思うならこの辺にしとかないと筋肉痛がやばそうなんですが……!?」

 

「それもまた青春だ!行くぞぉ──!」

 

 グラウンドに昴と十代の悲痛な叫びが響き渡った。

 

 

 

 それから数十分後──宣言通りキッチリ50球ずつを打ち終えた昴達は息も絶え絶えで大の字に倒れる。

 

「ぜぇ……っはぁ……お、終わった……」

 

「絶対明日ヤバイって……クールダウン追いつかないぞ……」

 

 激しい運動をした後はストレッチをすることで翌日残るダメージを軽減できると聞いたことがあるが、どれだけ入念に体を伸ばそうとどこかしらに痛みが出るであろうことは間違いないだろう。

 

 昴が最後に打ったボールがコロコロと転がった先には、遅れてコートへ到着した明日香の姿があった。

 彼女に気付いた綾小路は嬉しそうな爽やかスマイルで明日香を迎えようとするが……

 

「──やぁ明日香君!嬉しいなぁ、来てくれるなん……えっ?」

 

 当の明日香は、綾小路を無視してコートに入っていく。その視線は、未だに荒い息をつく昴達に向けられていた。

 

「──昴、十代。ちょっといいかしら」

 

 閉じていた目を開けると、真剣な面持ちでこちらを見下ろす明日香が目に入る──よりも先に、女子制服のやけに短いスカートの中が見えそうになり、昴は慌てて体を起こした。

 

「さっき大徳寺先生に聞いたんだけど、万丈目君を見たって人がいるらしいのよ」

 

「万丈目を?」

 

 数ヶ月前、三沢と一悶着あったことで学園を去った万丈目の行方は未だに分からないままだったのだが、ついに目撃証言があったらしい。詳しい話を聞こうとした昴らだったが……

 

「離れたまえ明日香君!あまりこういうことは言いたくないが……明日香君、オベリスク・ブルーの妖精のような君には、オシリス・レッドの生徒は似合わない!」

 

「……?あの、別に明日香と十代はそういう関係じゃ……」

 

「では君か!?君が僕の恋敵なのか!?」

 

「はぁ!?」

 

 突如会話に割って入ってきた綾小路によって、真剣な話は一転、訳の分からない話にもつれ込む。

 

「明日香君、君には僕のような男こそ相応しい!確かに昴君はテニスのセンスもあるし、この僕と共に君を危険から救った同志でもある──しかァし!所詮はブルーに入ってきたばかりの新参者!運動神経抜群、容姿端麗、成績優秀、将来安泰のこの僕の方が君を幸せに出来るに決まっている!」

 

「いや、どうしてそうなる!?そもそも俺と明日香は──」

 

「今更言い訳など見苦しいぞ!昴君っっっ!」

 

「だから言い訳とかじゃなくて情報整理をだな……」

 

 1人勝手にエキサイトしている綾小路をどうにかして落ち着かせようとする昴だが、当の本人に聞く気が全くない。

 

「そぉか、明日香君を呼び捨てか…もうそこまで深く関係が進展していたとは……!かくなる上は──昴君!僕とデュエルだ!」

 

「えっ?」

 

「君も決闘者なら、潔くデュエルで決着をつけようじゃないか!」

 

「決着って…何の?」

 

「決まっている!ズバリ──勝った方が明日香君の婚約者(フィアンセ)になるのだ!」

 

 とんでもないことを言い出した綾小路に、昴はいよいよ言葉を失う。一体ここまでのやり取りのどこをどうしたら昴と明日香が恋仲だと解釈できるのだろうか。

 

「あ、明日香!お前からも何か言ってくれ!」

 

 唯一綾小路に対抗できそうな人物がいるではないかと、明日香に助け舟を求める昴だったが、その希望はあっけなく塵と消える事になる。

 

 

「……まぁ、そうね。いきなり婚約というのは流石に一足飛びだと思うわ。こういうのは、やっぱりちゃんと交際を重ねて、お互いのことを深く知ってからじゃないと……」

 

 

「あ…明日香、さん?」

 

 頼みの綱の常識人、明日香も機能不全を起こしたことで、もう綾小路を止められる者はいない。結局、半強制的にデュエルをすることとなった。

 

 取り敢えずこの戦いに勝てば、少なくとも綾小路の暴走は止められるはずだ。

 

 腹を括った昴はデュエルディスクを装着し、デッキをセットする。

 

「行くぞ昴君!明日香君の幸せは僕が守る!」

 

「……もうややこしくなるから何も言わん!」

 

 

「「決闘(デュエル)!」」

 

 

 昴 :LP4000 手札×5

 VS

 綾小路:LP4000 手札×5

 

 

 

 よく分からない流れで開始した2人のデュエル。

 その行く末を見守る十代や明日香達の元へ、新たな見物人が加わる。

 

「──これは一体どういうことかしら?」

 

「雪乃さん!聞いてくだい、綾小路先輩と加々美さんが明日香さんを巡って戦っているのですわ!」

 

 興奮気味なももえの説明は重要な部分が省かれていたが、雪乃は幸いにも事の大まかな経緯を察してくれたらしい。あのいたずらっぽい笑みを浮かべると、隣にいる明日香に耳打ちする。

 

「で、明日香。あなたはどっちに勝って欲しいのかしら?」

 

「べっ、別に興味ないわよ。ただ、綾小路ミツルのデュエルの腕はカイザー亮に匹敵すると言われているし、その実力を見せてもらいたいだけ」

 

「相変わらずお堅いわね──けど、そうやって誤魔化すのも今日が最後になるかもしれないわね

 

 最後にボソリと呟いた雪乃の言葉は誰の耳にも届くことはなかった。

 

 

 

「先攻は僕だ!ドロー!先手必勝、魔法カード【サービスエース】発動!」

 

「何だアレ……知らんカードだ」

 

「このカードはね、ボクが手札から選んだカードの種類を君が当てるギャンブルカードさ。魔法・罠・モンスターカード──見事当てれば何も無し、だがもし外した場合、君はダメージを受けることになる」

 

「バーンカードか……面白い!」

 

 綾小路が手札から1枚のカードを引き抜き、昴の前に突き出す。

 現状綾小路のデッキがどのようなものなのかは分からない。魔法罠を使ったバーンカード主体のデッキであると仮定するならば、あのカードは魔法罠のどちらかである可能性は高いだろう。

 

「……魔法カードだ」

 

「ほう…本当にいいのかい?変えるなら今の内だよ?」

 

「それでいい。面倒な心理戦に付き合うつもりはないからな」

 

 ヒュウ、と口笛を吹いた綾小路が選択したカードを表返す。カードの枠の色は───黄色。

 

「残念!モンスターカードだ──【サービスエース】の効果で、この【メガ・サンダーボール】を除外し、相手プレイヤーに1500のダメージを与える!」

 

「なっ……1500だと!?」

 

 昴目掛けて光の球が勢いよく射出され、着弾と同時に大爆発を起こす。

 

 

 昴:LP4000→2500

 

 

15 - 0(フィフティーンラブ)──更に僕はカードを1枚セットして、ターンエンドだ」

 

 

 昴 :LP2500 手札×5

 VS

 綾小路:LP4000 手札×3

 伏せ×1

 

 

「さしずめ向こうはバーン主体のテニスデッキってとこか──俺のターン、ドロー!…手札の【ヴィジョン・リチュア】を墓地に送って、効果発動。デッキから【ガストクラーケ】を手札に加える。続けて儀式魔法【リチュアの儀水鏡】を発動!手札の同名カードを墓地に送り、儀式召喚──【イビリチュア・ガストクラーケ】!」

 

 

【イビリチュア・ガストクラーケ】

 ✩6 水族 儀式 ATK2400 DEF1000

 

 

「【ガストクラーケ】の効果発動!儀式召喚成功時に相手の手札を2枚確認し、内1枚をデッキに戻す──ガスト・スキャニング!」

 

【ガストクラーケ】が掲げる儀水鏡から光が照射され、綾小路の手札を透過させる。

 暴かれたカードは【メガ・サンダーボール】とこれまた初見の装備魔法【パワー・ガット】。

 

「……その装備魔法をデッキに戻してもらうぞ」

 

「へぇ…ハンデス効果か。さしずめ【サービスエース】の効果を警戒してのことかな?」

 

「分かってるなら話は早いな──!【ガストクラーケ】でダイレクトアタック──イビル・テンタクルス!」

 

【ガストクラーケ】の下半身から伸びる触手が綾小路に殺到する。

 

「罠カード発動──!【レシーブエース】!デッキを上から3枚墓地に送ることで、ダイレクトアタックを無効にして相手に1500のダメージを与える!」

 

「おい嘘だろ──ぐぅっ!?」

 

 凄まじい防風が綾小路を守る盾となって、異形の触手を阻む。その衝撃は昴の元へも届き、またライフを大きく削った。

 

 

 昴:LP2500→1000

 

 

「これで30 - 0(サーティラブ)──僕の勝利も見えてきた。明日香君は僕と一緒に幸せを掴むんだ!」

 

「……メインフェイズ2、魔法カード【儀水鏡との交信】を発動。相手のデッキを上から2枚確認し、好きな順番で元に戻す」

 

「……僕のデッキトップを操作する気かい。いいだろう」

 

 両者がセンターコートに歩み寄り、昴は綾小路のデッキから2枚を引いて確認する。だが特に順番を弄るわけでもなく、そのまま元に戻した。

 

「モンスターをセットしてターンエンドだ」

 

 

 昴 :LP1000 手札×1

【イビリチュア・ガストクラーケ】

 セットモンスター×1

 VS

 綾小路:LP4000 手札×2

 

 

 

「──昴君、大丈夫かなぁ?あっという間にライフが1000になっちゃったよ」

 

 ハラハラしながらデュエルを見守る翔達。そんな中、ワナワナと肩を震わせていた明日香は……

 

 

「ああもうっ……しっかりしなさい昴!私がその人のフィアンセになってもいいわけ!?」

 

 

 と、大きな声で昴に発破をかけた。そんな彼女を見て呆気にとられる翔達。その中で唯一、雪乃だけが口元を押さえて笑いを堪えている。

 当の明日香は感情のままに今の言葉を発したらしく「全く…」と嘆息していた。

 

「……なぁ翔。さっきから言ってる"ふぃあんせ"って何のことだ?」

 

「アニキそこからぁ……?」

 

 

 

 一方、デュエルは綾小路のターン──

 

「僕のターン、ドロー!行くぞ!魔法カード【スマッシュエース】発動!」

 

「またバーンカードか……!」

 

「その通り、生憎これが僕のスタイルでね。【スマッシュエース】はデッキトップのカードを捲り、それがモンスターカードだった場合、相手に1000ポイントのダメージを与えるカードさ」

 

 勝ちを確信した様子の綾小路がデッキを捲る。そのカードは──

 

「──残念。魔法カードだ」

 

 表返されたカードを見て、翔達は安堵の息を漏らすが、昴は当然とでも言いたげな顔をしている。

 実際、前のターンに発動した【儀水鏡との交信】で綾小路のデッキトップ2枚は割れていた為、この効果が外れることは分かっていたのだ。

 元々は【サービスエース】対策で手札に入るカードを把握するために発動したのだが、これは嬉しい誤算だった。

 

「リバースカードをセット、僕はこれでターンエンドだ。やるじゃないか昴君!それでこそ我が恋敵でありライバル──好敵手と書いてライバルだ!ハッハッハッハッハ──!」

 

「え……いや…えぇ……?」

 

 昴の意思はガン無視で次々と称号が上塗りされていく。百歩譲って恋敵というのは……この戦いに勝てば誤解も解けるだろうからいいとして、昴と綾小路はライバルという間柄ではない。絶対にない。

 

 

 昴 :LP1000 手札×1

【イビリチュア・ガストクラーケ】

 セットモンスター×1

 VS

 綾小路:LP4000 手札×1

 伏せ×1

 

 

「最早ツッコミするのも疲れる……俺のターン──セットしていた【リチュア・エリアル】を反転召喚し、リバース効果でデッキから【リチュア】モンスターを手札に加える。続けて【トレード・イン】発動!レベル8の【リヴァイアニマ】を墓地に送って、デッキから2枚ドロー。更に墓地の【リチュアの儀水鏡】をデッキに戻し、【ガストクラーケ】を回収する」

 

 

【リチュア・エリアル】

 ✩4 魔法使い族 ATK1000 DEF1800

 

 

 その後、昴は【エリアル】でサーチした【シャドウ・リチュア】の効果で【儀水鏡】をサーチ。儀式召喚の準備を整えた。

 

「まーた手札破壊かい?同じことを続けてばかりじゃないか」

 

「バーンしかしてないあんたが言うな!【リチュアの儀水鏡】発動!転生せよ【イビリチュア・ガストクラーケ】!」

 

 場に存在する同類を礎に生まれ変わった異形の少女は、綾小路に残された手札1枚をデッキに戻す。これで向こうは手札0枚──動きが大きく制限されるはずだ。

 

「バトル!【ガストクラーケ】でダイレクトアタック!」

 

「ぐああああ──っ!」

 

 

 綾小路:LP4000→1600

 

 

「続けて【リチュア・エリアル】でダイレクトアタック!」

 

【エリアル】が魔法陣を展開し、強烈な水流を放った。

 

 

 綾小路:LP1600→600

 

 

「くぅ……!僕のライバルたる者、そうこなくては!速攻魔法【フェアプレー】発動!自分のライフポイントが相手より下回っている場合、相手と同じになるまでライフを回復。その後、お互いのプレイヤーは手札が3枚になるようカードを捨てるか、ドローしなければならない!」

 

 今の状態だと、綾小路はライフを回復した上で3枚ドロー。昴も1枚引けるものの、得られるアドバンテージとしては向こうの方が大きい。

 

「条件付きとはいえ3枚ドローて……カードを1枚伏せて、ターンエンド」

 

 

 昴 :LP1000 手札×2

【イビリチュア・ガストクラーケ】

【リチュア・エリアル】

 伏せ×1

 VS

 綾小路:LP1000 手札×3

 

 

「僕のターンだ、ドロー!…この瞬間を待っていたよ──僕は永続魔法【デュース】を発動!」

 

「デュース…って、あのデュースか?」

 

「そう!このカードはお互いのライフが同じ1000ポイントの時に発動できる永続魔法──発動すると、互いのプレイヤーはバトルフェイズ中に1体のモンスターでしか攻撃できず、以降ライフの数値に関わらず、先に2回連続で相手にダメージを与えたプレイヤーの勝利となる」

 

 勝利条件の変更……特殊勝利とはまた違う、昴も初めて見るタイプのカード効果だ。ライフが0になっても敗北しない代わりに、どんなに微々たる数値だろうと2回連続でダメージを入れれば勝ち。テニスや卓球のデュースと同じというわけだ。

 

 

「そしてこのデュエルはここで終わりにさせてもらう!【伝説のビッグサーバー】を召喚!」

 

 綾小路の前に、身体の随所を機械に改造された長髪の大男が現れる。大男は昴を威嚇するように、右腕と一体化したテニスラケットをひと振りした。

 

 

【伝説のビッグサーバー】

 ✩3 戦士族 ATK300 DEF1000

 

 

「このモンスターは相手モンスターを無視してダイレクトアタックが可能!行け!【伝説のビッグサーバー】!──ビッグサーブ!」

 

【ビッグサーバー】は刺付き鉄球をトスすると、明らかに人を殺せそうな威力のサーブを繰り出した。これぞ正に殺人サーブ──伝説の名は伊達ではないということだろうか。

 

 昴にはそのサーブを返す手段はなく、鉄球はコートにバウンドするなり大爆発を起こした。

 

「うあぁ……っ!」

 

 

 昴:LP1000→700

 

 

「フフン……アドバンテージ・綾小路──永続魔法【デュース】の効果で、もう一度君にダメージを与えれば僕の勝ちだ」

 

「ちぃ……だが、これでもう攻撃は終わりだ。次のターンで俺が攻撃すれば、デュースのポイントはリセットされる」

 

 昴の言う通り、【デュース】による勝利条件は"相手に2()()()()()ダメージを与えること"だ。つまり次のターン、綾小路は攻撃力僅か300の【ビッグサーバー】で自身を守り抜かねばならない。

 

「確かにそうだ。だがそれは、君に次のターンが来ればの話だけどね──【伝説のビッグサーバー】が相手に戦闘ダメージを与えたことで、効果が発動!デッキから魔法カード【サービスエース】を手札に加える──」

 

「……そういうことか!」

 

 2回連続でダメージを与えなければ勝利できない【デュース】だが、そのダメージの形態は問われていない。戦闘ダメージだろうが効果ダメージだろうが、とにかくどんな手を使ってでも2回連続で相手のライフを減らせばいいのだ。

 

 極端な話、【デュース】発動後に【火の粉】を2回撃つだけで勝ててしまう。

 

 綾小路はそれをダイレクトアタックによる堅実な戦闘ダメージと魔法カードのバーンダメージで達成しようとしているのだ。

 

「【ビッグサーバー】の効果で、君はカードを1枚ドローできるぞ。さぁ、引くといい」

 

 綾小路に流され、昴は静かにデッキから1枚をドローする。

 

「そしてこれが、この戦いに終止符を打つラストショットだ!魔法カード【サービスエース】発動!」

 

 綾小路の2枚ある手札の内1枚が選択され、昴の前に突き付けられる。これを外せば、昴は【デュース】の効果によって敗北してしまう。

 一見確率の勝負に見えるこの賭けだが、昴の口元には不敵な笑みが浮かんでいた。

 

「この瞬間、罠発動──【水霊術-「葵」】!」

 

「何っ!?」

 

 このタイミングで昴が発動したのは、相手の手札を全て確認できるピーピング・ハンデス効果を持つカード。

 

「【リチュア・エリアル】をリリースすることで、相手の手札を全て見た上で1枚を墓地に送る。さぁ、見せてもらおうか」

 

「くっ……卑怯な!」

 

 公開された綾小路の手札は【神聖なる球体(ホーリーシャイン・ボール)】と装備魔法【デカラケ】。昴は迷うことなく装備魔法を墓地送りにした。

 

「……それで、確かお前が手札から選んだカードの種類を当てるんだったな?──モンスターカードだ」

 

「ぐぬぅ…っ正解だ……!」

 

 カードを当てた時の効果処理として、綾小路の【神聖なる球体】は墓地に送られる。手札をすべて失った綾小路には、もう出来ることがない。エンドフェイズを経て、昴にターンが渡った。

 

 

 昴 :LP700 手札×3 カウント:

【イビリチュア・ガストクラーケ】

 VS

 綾小路:LP1000 手札×0 カウント:○

【伝説のビッグサーバー】

 魔法罠:【デュース】

 

 

「しかし!【デュース】の効果で君はモンスター1体でしか攻撃できない!僕の場に【伝説のビッグサーバー】がいる以上、僕にもまだ次のターンにチャンスがある!」

 

「確かにな。だがそれは、次のターンが来ればの話だ──俺のターン!俺は手札1枚をコストに【閃光の双剣-トライス】を発動!【ガストクラーケ】に装備する!」

 

【ガストクラーケ】は触手を使い、細身の双剣を構える。本来装備魔法は装備したモンスターの攻撃力を上昇させるものが多いが、【トライス】の場合はその逆──攻撃力を500下げる効果を持っている。

 

 だが、当然それだけではない。

 

「【トライス】を装備したモンスターは、攻撃力が下がる代わりに2回攻撃が可能となる──バトルだ!【ガストクラーケ】で【伝説のビッグサーバー】を攻撃!──イビル・ブレイドダンス!」

 

 目にも止まらぬ速さで振るわれた閃光の双剣が、【ビッグサーバー】を斬り刻む。

 

 

 綾小路:LP1000→0

 

 

 この攻撃でライフは0となったが、永続魔法【デュース】の効果により2連続ダメージが入らない限り勝敗が決することはない。

 

「これでゲームセットだ!【ガストクラーケ】でダイレクトアタック!」

 

「ぐああああああああ──っ!」

 

 

 ──Game won by Subaru. Game count 1Game──

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……勝ったか。これで後は誤解さえ解けば──」

 

「うっ…うぐうぅっ!僕が…この、僕がっ!負けるなんてええええええええぇぇぇ──ッ!」

 

 改めて対話を試みようした昴だったが、デュエルに敗北したのが余程ショックだったのか、綾小路は情けなく泣き叫びながらグラウンドから走り去ってしまう。

 これまでの熱血爽やかスポーツマンの面影を毛ほども感じさせずに遠のいていく彼の背中を、呆然と見送る。そこへ、観戦していた翔や十代達が歩み寄ってくる。

 

「やったじゃんか昴!おもしれぇデュエルだったぜ!」

 

「まぁ確かに、色々新鮮なデュエルだったよ──って、雪乃。いつの間に?」

 

「丁度デュエルが始まった辺りからよ。思ったよりも苦戦したみたいね?」

 

「仕方ないだろ…あんなカード見たことないし。バーンデッキって苦手なんだよ」

 

 この言葉に偽りはない。綾小路のテニスデッキは【サービスエース】等、手札を絡めたバーン効果だったからまだ付け入る隙があったが、もっと単純明快なロックバーン相手では一方的にやられていてもおかしくなかった。

 

「そうかしら?私は結構簡単に勝てたのだけど」

 

「……え?お前、あの部長と戦ったことあったのか?知り合い?」

 

「知り合いもなにも、私に告白してきた1人よ。確かに面白いデッキだと思ったけど、そんなもの全て吹き飛ばせば済む話だもの」

 

 ということは、綾小路は雪乃の【デミス】に立ち向かった数少ない決闘者というわけだ。確かに【デュース】を発動されようと、ライフさえ回復してしまえば【デミス】の効果で永続魔法諸共フィールドを更地にできる。書き換えられたルールごとぶち壊して勝利を掴むのは、どこまでも我が道を征く雪乃らしいと言うべきか。

 

「……でも、加々美さんが勝ったって事は──」

 

「そうですわ!明日香さんがフィアンセに!」

 

 ジュンコとももえが振り向いた先では、赤くした顔を俯けてソワソワしている明日香の姿が。

 

「ほら、行ってきなさい」

 

 雪乃に背中を思いっきり押され、たたらを踏みながら明日香の前に躍り出た昴。

 

「あー……一応、俺が勝った訳なんだが……」

 

「……ええ。そうね」

 

 デュエル中に発破をかけた時の威勢は何処へやら。途端にしおらしくなった明日香を見ている昴の方も、なんだか照れくさくなってくる。

 

「ま、まぁ何だ。あまり気にすることでもないだろ。勝手にフィアンセとかお前だって迷惑だろうし……」

 

「──ない─」

 

「ん?今何か……」

 

 

「──迷惑じゃ、ない……」

 

 

「っ………!?」

 

 ポツリと呟いたその一言に、昴は耳を疑った。

 

 迷 惑 じ ゃ な い?その言葉が意味することは一体何だろうかとやや現実逃避気味に思考を巡らせる。だが話の流れといい目の前の明日香の表情といい、もう完全に「そういう意味」としか脳が処理をしてくれない。

 

「……っ……ぁ…ぅ……っ!」

 

 とにかく何か話さねば息が詰まりそうだと口を開くも、声にならない掠れた空気が出るのみで、結果口をパクパクするだけという何とも間抜けな様を晒してしまう。

 

 そんな昴を見た明日香は──

 

 

「──ふふっ、ばか」

 

 

 小さな笑みと囁かな一言を残し、グラウンドを出て行く。

 そんな彼女を見送るジュンコとももえは揃って「キャー!」という黄色い声を上げており、翔は翔であんぐりと口を開けている。その横では未だにフィアンセの意味を理解していない十代が首を傾げている。

 

 そして雪乃はというと……

 

「……全く、本当に世話が焼ける親友ね。これでようやく同じラインに立てたかしら……?」

 

 誰にも聞こえない声でそう独りごちてはクスクスと笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の夜、昴の部屋───

 

『いやぁ~マスターも隅に置けないじゃん。このこの~』

 

「エリアル…頼むからもう止めて」

 

『あの時のあの子の表情といい、あの言葉といい……これはもう完全に脈アリだね。やったじゃん。これから安心してこれまでみたいな事できるよ』

 

「何だよ、これまでみたいな事って」

 

『ほほぅ…?マスターは覚えてらっしゃらない?僕はデッキの中からしっかり見てたよ…テスト前、人気の無い場所で天上院明日香の柔らかさを堪能してる現場を──具体的には彼女のおっ』

 

「アレは事故だったんだって!俺は悪くない!」

 

『しかも押し付けるだけでは飽き足らず、遂には顔を埋めちゃったもんねぇ~』

 

「それも事故……いや、悪いとは思ってるが!」

 

『しかも廃寮での一件では彼女の乙女心を擽るようなイケメンムーブまでかましちゃって……』

 

「……それは何のことだ?」

 

『うわ、これが無自覚系主人公ってやつ?……まぁいいや。ともかくおめでとう。天上院明日香と藤原雪乃──マスターに春が来て僕は嬉しいよ』

 

「春……か、やっぱりそうなのか?……って、今雪乃って言ったか?」

 

『言ったけど?マスターを取り合う2人の美少女』

 

「……えっ?」

 

『えっ……?』

 

 2人の間に暫し沈黙が流れる

 

「いや……雪乃のアレは単に俺をおもちゃにしてからかってるんじゃないのか?」

 

『…………嘘でしょマスター………』

 




皆さんに、お詫びしなければ、いけないことが、あります。
私は、この作品に、オリカを出さないと、決めたにも関わらず、今回、オリカを出してしまいました。誠に、申し訳、ありません。

……こうなるとは思ってなかったんです!本当なんです!信じてください!



はい、茶番おーわりっと。



明日香!ヒロインッムーブッ!やりました!やったぞー!イヤッフウウウウウウウ!
最後の明日香との会話をやりたいが為に書きました!



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