遊戯王~(GXの)アカデミアに転生~   作:不可視の人狼

17 / 30
非力な私を許してくれ……


恋する乙女達

『えー今年も、毎年恒例の北にある姉妹校──デュエルアカデミア・ノース校との友好デュエルが近づいてきました。昨年は2年生だった丸藤亮君が見事勝利し、本校の面目躍如となりましたが、今年の代表はまだ決まっていません。誰が選ばれてもいいように、皆さんよく学び、デュエルの腕を磨いておいてください』

 

 とある休日の朝──集会が終わり、教室からゾロゾロと出ていく生徒達。その流れに倣おうとした昴を呼び止めたのは、十代と翔だった。

 

「なぁ昴!お前も代表目指すんだろ?一緒に頑張ろうぜ!」

 

「代表戦ねぇ……俺はそんなに興味ない」

 

「えぇっ!?何でだよ?もしかして、ビビってんのか?」

 

「違う。こういうのは大体上級生が選ばれるのがセオリーだろ、どうせカイザー辺りが続投するだろうさ」

 

「ほら昴君だってこう言ってるじゃん!やっぱり今年もお兄さんが代表に決まってるんスよ」

 

 翔にそう言われて膨れる十代。その後ろに、見慣れない人物が1人いることに気がついた。

 

「──なぁ、後ろのそいつは?」

 

「ああ、昨日編入してきた早乙女レイ君。成績はいいんだけど、編入の生徒は全員レッドからのスタートなんだって」

 

「編入生か……オベリスク・ブルーの加々美昴だ、よろしく頼む」

 

「あっ……よ、よろしく」

 

 男にしては随分小柄なレイは、目深に被った帽子で目元を隠しながら、昴の差し出した手を握り返す。その感触に違和感を覚えた昴だったが……

 

「昴!先生が授業課題の件で呼んでるわよ」

 

「あ、ああ……今行く」

 

 入口から顔を覗かせた明日香に呼ばれ、その違和感について言及せず教室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 暫し時は経ち、時刻は昼──

 

「はぁ……こないだのレポート、一部修正とはいえ全部書き直すのキツかった……」

 

 昴が呼び出された理由は、以前授業の課題として提出したレポートにOCG用語が紛れており、意味が分からないから修正するようにとお達しを受けたのだ。

 いざ返されたレポートには意味不明箇所がチェックしてあるでもなく、書いた昴自身内容もうろ覚えだった為、頭から読み返してOCG用語を見つけてはわかりやすい言葉に修正する作業がついさっき終わったのだ。

 

 正門を出たところで昴の消耗を知らせるようにぐぅ、と声を上げる腹の虫。それを宥める為に一度購買に戻って何か買ってこようかと考えていると、視界の端に何かが映った。

 

 茂みに隠れてコソコソと移動するグレーの帽子にオシリス・レッドの制服、そして翔をも超える小柄な体格──

 

「もしかしてさっきの──確か早乙女レイ」

 

 レイと思しき人影は、そのままブルー寮の方へと向かっていく。怪訝に思った昴は、その後を追った。

 

 

 

 

 

「確かこっちに……」

 

 昴がたどり着いたのは、ブルー男子寮の裏手。部屋に面して生えている大きな木の上に、レイが小柄な体を利用してよじ登っている。やがて3階の高さまで登ったレイは、枝伝いに木の正面にある部屋のベランダへ飛び込んだ。そのまま勝手に他人の部屋に入っていったレイを見た昴は、彼女を止めるべく自分も木を登ってベランダから部屋の中を伺う。

 

「ったく……ブルー寮に用があるなら言えば案内したんだが──って、何してんだあいつ」

 

 誰の部屋かは不明だが、レイはベッドの脇に設置されたサイドテーブルを物色していた。やがて中から1つのデッキケースを見つけ出すと、中に入っているカードを確かめる。そして──あろう事かデッキに頬擦りをし始めたではないか。

 

 レイの奇行に唖然としていた昴は、外からわいわいと話し声が近づいて来るのに気がつく。体を屈めて外を見ると、数人のブルー生徒を引き連れた亮が戻ってきていた。

 

「マズイな……」

 

 小さく呟いた昴は、自身も部屋の中に入ってレイを連れ出そうと試みる。

 

「お楽しみの所悪いが、すぐにここを出た方がいいぞ」

 

「お前……っ!」

 

 何が目的だったのかはよく分からないが、どっちにせよ他人のデッキを勝手に盗み見るような真似はマナー違反だ。加えて、編入してきた時期的にノース校のスパイと疑いをかけられる危険性もある。

 

「僕はスパイなんかじゃ……!」

 

「それは今どうでもいい。とにかくここを出ろ!家主が帰ってくる」

 

 昴の言葉を裏付けるように、ドアの向こうから楽しげな話し声が聞こえてくる。

 あの集団の中にこの部屋の利用者がいるかどうかは不明だが、ここから避難するに越したことはない。

 レイの手を取って走り出そうとした時、デッキケースが手から滑り落ち、中身が床に散らばる。そのカードを見た昴は、息を呑んだ。

 

「【サイバー・ドラゴン】に【パワー・ボンド】──ってことは、ここはカイザーの部屋か……!」

 

 ならば尚の事、今すぐここから逃げなくては。何せすぐそこまで亮は迫ってきているのだ。

 

 気を持ち直した昴はレイの方を向き直る。そこで、再びの驚愕に見舞われた。

 

 さっきデッキを落とした時、一緒にレイが被っていた帽子も落ちたのだが──その中から、紺色の長い髪が下りてきたのだ。この髪といい、帽子の下に隠れていた可愛らしい容姿といい、これではまるで──

 

「早乙女、まさかお前……!」

 

「っ──!」

 

 焦りの表情を見せたレイは、落ちた帽子を拾い上げると昴を押し退けて窓へ走る。そしてヒョイと身軽な動きで木に飛び移り、さっさと逃げていってしまった。

 

「……って、俺も行かないと──!」

 

 意識を取り戻した昴だったが、時既に遅し───

 

「おい!カイザーの部屋で一体何してる!?」

 

「お前確か──前に下克上とか言ってカイザーに挑戦しようとした1年!」

 

「あ、ああ……その節はどうも」

 

 どうやら以前の制裁タッグデュエルの折、亮に会おうとした十代に水をぶっかけた上級生だったらしく、彼らの中には昴の言葉も刻まれていたらしい。

 

「──おい見ろ、カイザーのデッキが!……貴様スパイだな!?」

 

「あーそうなるのか……!」

 

「最低な奴め!職員室に突き出してやる!」

 

「お前なんか一発で退学だ!仮にもオベリスク・ブルーのくせに、この面汚しめ!」

 

「いやこれは違うんだ。その、窓が空きっぱなしになっていたから閉めておこうと……」

 

 苦し紛れの言い訳をする昴だったが、当然聞き入れてもらえるはずもなく、両足を掴まれズルズルと引き摺られていく。

 

「おい!せめてもう少し人道的に連行して欲しいんだが……っ!」

 

 

「──離してやれ、デッキの中身も無事だ。昴、今度このようなことがあればブルー寮の管理人に伝えることだな」

 

 

「カイザー……悪い、助かった」

 

 拘束から解放された昴は、軽く制服をはたいて部屋を出る。

 

「ふぅ……とんでもない目に遭ったな。──それはそうと、早乙女の事…どうしたもんか」

 

 恐らく学校側も気づいていないのだろう。レイの秘密を知っているのは現状昴だけのはずだ。しかし事情を聞かないことには力を貸すこともできない上に、聞いたところでレイが素直に話してくれるかどうか……

 

「うーん……しゃあない。餅は餅屋、だ」

 

 昴は自分の部屋に戻ると、PDAでとある人物に連絡を取る。

 

「──あ、俺だ。唐突で悪いんだが、1つ頼まれてくれ。──いやお前口硬そうだからさ──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の夜──昴は明日香と共に、島の港へ向かっていた。

 

「──あなたから呼び出すなんて珍しいわね。亮」

 

「すまない明日香──ん?今日は昴も一緒なのか」

 

「まあ色々あってな。話してる間は邪魔にならないようにしとくから、気にしないでくれ」

 

「……いや、これはお前にも話しておいた方がいいだろう」

 

 亮はポケットから取り出した何か──女物の髪留めであるバレッタ──を見つめながら、ゆっくり語り始めた。

 

 

 

 

 

 それから暫く経ち、場所はレッド寮前の岸壁に移る。

 

「──あなたが早乙女レイね。私は天上院明日香。昴に頼まれて、あなたとデュエルをさせてもらうわ」

 

 海を横に向かい合うのは、帽子の下で髪を纏める為にオレンジのスカーフを巻いたレイと、昴の要請を受けた明日香だ。崖の上では昴が腰を下ろし、2人の様子を見下ろしている。

 

「何で僕がお前と……?」

 

「早乙女。お前が一体何の理由でそんな真似をしたのかは分からないし、多分聞いたところで話してくれないだろうから、女同士なら多少は気が楽になるだろうと思ってな」

 

「お前、まさか昼間の事を話したのか……!?」

 

「昴から詳しいことは聞かされてないわ。だから私としても、あなたから直接聞かせて欲しいの。その為のデュエルよ」

 

「……もし僕が勝ったら、何も聞かずに協力してくれるってことでいいんだな?」

 

「えぇ。デュエルすれば、事情を聴く必要もなくなるしね」

 

「……分かった」

 

 レイは明日香からデュエルディスクを受け取り、デッキを装填する。

 

 

「「決闘(デュエル)!」」

 

 

 明日香:LP4000 手札×5

 VS

 レイ :LP4000 手札×5

 

 

 

「──やっぱりレイって女の子だったのぉ……!?」

 

「今明かされる衝撃の真実なんダナ……」

 

「お前ら…来てたのか」

 

 デュエル開始を見届けた昴の後ろでは、レイの秘密に勘付いた翔と隼人が目を丸くしていた。そこへ少し遅れて十代が合流する。

 

「男のフリなんかしてる理由も気になるけど──それより、レイがどんなデュエルをするのか楽しみだぜ!」

 

「アニキ…そんなことよりもレイが男装してまでここに来た理由の方が重要じゃないっスか?昴君も、あんなことするより普通に話を聞けばいいんじゃ……」

 

「──いや、十代の言う通りだ。デュエルには決闘者の心の有り様までもが如実に現れるからな」

 

「お兄さんまで……デュエルって、そんなに奥が深いんだなぁ」

 

 と、翔や亮はこのような事を言っているが、実のところ昴もよく意味が分かっていない。

 デュエルするだけでその人間の為人や心の有り様まで分かるなんてそんなことが本当にあるのだろうか……その理論で行くと大会の環境デッキ使いたちは皆同じ心の在り方をしているということになるのだが…当然そんな筈はない。

 

 最終的に──この世界にはこの世界の法則的なアレがあるのだろう。寧ろこの戦いでその法則的なアレを掴めるかも知れない──と、半ば無理矢理に自分を納得させた。

 

 

 

 そして、肝心のデュエルはと言うと……

 

「──先攻は僕だ、ドロー!…【恋する乙女】を攻撃表示で召喚!」

 

 

【恋する乙女】

 ✩2 魔法使い族 ATK400 DEF300

 

 

 レイが召喚したモンスターは、お嬢様風のドレスに身を包んだ可愛らしい少女だった。ステータスも低く、攻撃表示で出すモンスターとは思えない。

 ということは、何かしらの効果を持っていると考えるべきだろう。

 

「これでターンエンドだ!」

 

 

 明日香:LP4000 手札×5

 VS

 レイ :LP4000 手札×5

【恋する乙女】

 

 

「私のターン、ドロー!…【ブレード・スケーター】を召喚するわ!」

 

 

【ブレード・スケーター】

 ✩4 戦士族 ATK1400 DEF1500

 

 

「【ブレード・スケーター】で【恋する乙女】を攻撃!──アクセル・スライサー!」

 

 まるで滑るような動きで接近した氷上の舞姫は、非力な乙女にも容赦のない攻撃を叩き込む。

 

 

 レイ:LP4000→3000

 

 

「くぅ……っ!攻撃表示の【恋する乙女】は、戦闘では破壊されない」

 

 攻撃を受けながらもなんとかフィールドに留まったか弱き乙女は、打ちひしがれたような目で相手を見る。

 

「更に、【恋する乙女】を攻撃したモンスターには【乙女カウンター】を1つ乗せる!」

 

 少女が胸の前で両手を握り締めると、手の中に小さなハートのマークが出現する。独りでに浮遊したそのハートは、【ブレード・スケーター】の左胸に刻み込まれる。

 

「【乙女カウンター】…?一体どんな効果が……私はこれでターンエンドよ」

 

 

 明日香:LP4000 手札×5

【ブレード・スケーター】(乙女カウンター×1)

 VS

 レイ :LP3000 手札×5

【恋する乙女】

 

 

「僕のターン!手札から【キューピット・キス】を発動!【恋する乙女】に装備する!」

 

 少女の周囲に弓矢を持った天使が現れ、【恋する乙女】の頬に祝福の口づけを残す。だがそれによって攻撃力が変動することはなく、一見すると何の効果もない装備魔法に見えるのだが……

 

「バトルよ!【恋する乙女】で【ブレード・スケーター】を攻撃!──一途な思い!」

 

 攻撃力の差が大きいモンスターに対する自爆突攻──いくら【恋する乙女】に戦闘破壊耐性があろうと得策とは思えない。

 

 一体レイは何を狙っているのかと首を傾げた次の瞬間、昴の視界が突如ピンク色の空間に変貌し、眼下には花畑が──

 

 

 

『はあ…はあ…【ブレード・スケーター】さ~ん!私の一途な思い、受け止めて!』

 

『えっ……?』

 

 花畑の中を嬉しそうな顔で【ブレード・スケーター】に駆け寄る少女だが、当の【ブレード・スケーター】は困惑した様子で少女を躱す。駆け寄る勢いのまま抱きつこうとしたのか、少女は躓いて転んでしまった。

 

『ううっ……酷い、酷いわ……!』

 

『えぇっ!?ご、ごめんなさい。私そんなつもりじゃ……!』

 

 途端に泣き出した少女を見て狼狽する【ブレード・スケーター】は、アワアワしながらもどうにか少女を泣き止ませようとする。

 

 ──それが罠だった。

 

【恋する乙女】は至近距離まで接近した【ブレード・スケーター】に投げキッスを飛ばすと、ハート型のオーラが氷上の舞姫の顔の前で弾けた。すると──

 

『ありがとうございます、優しいお姉さま。どうか謝らないで?どうしてもと言うなら…私のお願い、聞いてくださる?』

 

『…えぇ、勿論ですとも。今宵は貴女だけを想い、貴女の為に舞いましょう』

 

『じゃあ、明日香を攻撃して?』

 

『貴女の為ならば──っ!』

 

 

 

 そう言って、突然【ブレード・スケーター】が主である明日香にその刃を向けた。

 

「く──ぅっ!」

 

 

 明日香:LP4000→2600

 

 

「どういうこと?一体何が……!?」

 

「装備魔法【キューピット・キス】は、【乙女カウンター】の乗っているモンスターに装備モンスターで攻撃して、自分が戦闘ダメージを受けた時、その相手モンスターのコントロールを得られる!そっちがどれだけ強いモンスターを出してきても、キューピットの祝福を受けた【恋する乙女】には勝てないよ!」

 

 その後レイはカードを1枚伏せ、ターンを終了した。

 

 

 明日香:LP2600 手札×5

 VS

 レイ :LP2000 手札×4

【恋する乙女】+【キューピット・キス】

【ブレード・スケーター】(乙女カウンター×1)

 伏せ×2

 

 

「私のターン!──流石は恋する女の子かしら。とても真っ直ぐなデュエルね──でも、ただ真っ直ぐなだけじゃ意中の相手は振り向いてくれないものよ」

 

「……もしかして、お前も?」

 

「まぁね。私自身こういう気持ちは初めてだから、まだまだ勉強中だけど」

 

 当人達だけに聞こえる声で交わされているこの会話は、上にいる男子陣には届いていない。

 

「……ごめんなさい、話が逸れたわ。デュエルを続けましょう──私は手札から【エトワール・サイバー】を召喚!」

 

 

【エトワールサイバー】

 ✩4 戦士族 ATK1200 DEF1600

 

 

 新たなモンスターを召喚した明日香だが、攻撃力で勝っているのは【恋する乙女】のみ。しかもその【恋する乙女】は攻撃してきた相手に【乙女カウンター】を置き、次のターンには装備魔法の効果でコントロールを奪われてしまう。

 

 ならば、【恋する乙女】は無視してダメージを与えるしかない。

 

「バトル!【エトワール・サイバー】で【ブレード・スケーター】を攻撃!」

 

「えっ!?攻撃力は【ブレード・スケーター】の方が上なのに──!」

 

「──この瞬間、手札から速攻魔法【突進】を発動!【エトワール・サイバー】の攻撃力をこのターン中700ポイントアップさせるわ!」

 

 これでレイに奪われた【ブレード・スケーター】の攻撃力を上回った。ライフが既に半分削れているレイにとって、戦術的にも500の戦闘ダメージは軽視できない。

 

「無駄だよ!──罠カード【ディフェンス・メイデン】!更にチェーンして【攻撃の無敵化】を発動!」

 

 明日香の【突進】と合わせた3枚のカードでチェーンが組まれ、最後に発動されたレイのカードから効果が処理されていく。

 

「【攻撃の無敵化】によって、このバトルフェイズで僕が受けるダメージは0になる。そして【ディフェンス・メイデン】は、相手モンスターの攻撃対象を【恋する乙女】に移す罠カード!」

 

【ブレード・スケーター】に迫っていた攻撃は、彼女の前に身を投げ出した少女が代わりに受ける。戦闘ダメージこそ入らなかったが……

 

 

 

『エトワール・サイバー!こんな幼気な少女を傷つけるなんてどういうつもり!?』

 

『しかし…これはデュエルであってだな……!』

 

『そういう話ではないの!私たちはステージの上で舞い、見ている人を笑顔にするのが役目でしょう!?なのにあなたは……っ!』

 

『うっ…そ、そうだな。すまない、お嬢さん。私とて望んでやったわけでは……』

 

『自分を責めないで?戦うことは、宿命なのだから……』

 

『っ……!なんて、なんて健気な少女なんだ……!』

 

 

 

 というやり取りを再び見せられた昴は、半ば脳死状態でエリアルに語りかける。

 

「……なぁエリアル。あの乙女の技名って"一途な思い"だったよな?」

 

『あ~。だねぇ……』

 

「で、次のターンになったらあの乙女は【エトワール・サイバー】に攻撃するんだろ?」

 

『だろうねぇ……その結果、またコントロールが奪われちゃう』

 

「……それって二股では?どこが一途なんだ」

 

『あぁ……アレなんじゃない?所謂サークルクラッシャー』

 

「……なるほどねぇ」

 

 

 

「──私はカードを2枚伏せて、ターンエンド」

 

 

 明日香:LP2600 手札×2

【エトワール・サイバー】(乙女カウンター×1)

 伏せ×2

 VS

 レイ :LP2000 手札×4

【恋する乙女】+【キューピット・キス】

【ブレード・スケーター】(乙女カウンター×1)

 

 

「僕のターン、ドロー!…魔法カード【至高の木の実(スプレマシー・ベリー)】!自分のライフが相手より少ない場合、ライフを2000回復する!」

 

 

 レイ:LP2000→4000

 

 

 ここまでの【恋する乙女】の戦闘によって発生したダメージがこれで帳消しになり、明日香が徐々に押され始める。

 

「女の子は恋をすれば強くなる……不可能なんて無いんだから!バトルよ!【恋する乙女】、天使の祝福を受けた貴女の思いを届けて──!」

 

 胸にハートを刻まれた【エトワール・サイバー】へ、魔性の乙女が迫る。先のターンの舞姫と同じ結末を辿るかに思われたが、それを許す明日香ではなかった。

 

 

「罠カード、オープン!──【ドゥーブルパッセ】発動!【恋する乙女】の攻撃は私が受けるわ」

 

 

 誘惑を振り切った【エトワール・サイバー】が自分をヒラリと躱したことに頬を膨らませた乙女は、自らを祝福しているキューピットに明日香への攻撃を命じる。

 

 小振りな矢に射抜かれた明日香のライフが、僅かに減少した。

 

 

 明日香:LP2600→2200

 

 

「【ドゥーブルパッセ】は、相手モンスターの攻撃を自身への直接攻撃に変えることで、攻撃対象になったモンスターの攻撃力分のダメージを与えることが出来る。【エトワール・サイバー】の攻撃力──1200ポイントのダメージを受けてもらうわ!」

 

 

「きゃぁっ──!」

 

 

 レイ:LP4000→2800

 

 

【恋する乙女】の効果はモンスター同士の戦闘でしか発動しない。明日香の【ドゥーブルパッセ】は、図らずもレイのデッキに対するメタカードとしての役割を果たしたのだ。

 

「だったら!【ブレード・スケーター】で【エトワール・サイバー】を攻撃!──アクセル・スライサー!」

 

「罠発動──【強制脱出装置】!【ブレード・スケーター】は返してもらうわよ」

 

 再び明日香に刃を向けた氷上の舞姫は、突然地面から出現した砲台に詰め込まれて上空へと射出される。落下してしてくる頃には、その姿はカードとなって明日香の手に戻った。

 

「うう……っターンエンド」

 

 

 明日香:LP2200 手札×3

【エトワール・サイバー】(乙女カウンター×1)

 VS

 レイ :LP2800 手札×4

【恋する乙女】+【キューピット・キス】

 

 

「私のターン、ドロー!……確かに、恋をした女の子は強くなれる。どんな困難も乗り越えられるような気さえするわ。けど、だからといって何をしても許される訳ではないのよ」

 

「な……何が言いたい!」

 

「言ったでしょう。ただ真っ直ぐなだけじゃ誰も振り向かせられない…時には回り道をすることも必要なのよ──手札から【ブレード・スケーター】を召喚!」

 

 フィールドに揃った明日香の【サイバー・ガール】達。その美しくも堂々とした姿に、レイと【恋する乙女】は気圧されている。

 

「バトル!【ドゥーブルパッセ】の効果で、【エトワール・サイバー】はこのターン直接攻撃できる──アラベスク・アタック!」

 

 自らを惑わした乙女を飛び越え、レイに肉薄する踊り子。その効果によって、ダイレクトアタック時に攻撃力が500アップ。しなやかな体から1700のダメージが繰り出される。

 

「くうっ──!」

 

 

 レイ:LP2800→1100

 

 

「更に手札から速攻魔法【瞬間融合】発動!フィールドの【エトワール・サイバー】と【ブレード・スケーター】を融合するわ──!」

 

 2人の踊り子が手を取り合い、目の前に出現した力の渦へと飛び込む。やがてその渦は2つの力を混ぜ合わせ、新たな姿を形作った。

 

 

「──来なさい!【サイバー・ブレイダー】!!」

 

 

 明日香の元に降り立ったのは、長い髪を靡かせた美しきプリマ。【サイバー・ガール】達の象徴と言うに相応しい存在感を惜しげもなく放っている。

 

 

【サイバー・ブレイダー】

 ✩7 戦士族 融合 ATK2100 DEF800

 

 

「これで終わりよ!【サイバー・ブレイダー】で【恋する乙女】を攻撃!──グリッサード・スラッシュ!」

 

【サイバー・ブレイダー】の両足に履かれた流麗なブレードが、【恋する乙女】を斬り裂いた。硝子のように散っていく乙女の後ろで、レイもその攻撃を余波を浴びる。

 

「キャア──ッ!」

 

 

 レイ:LP1100→0

 

 

 

 

 

 

 

 衝撃で帽子とスカーフが脱げたレイは、顔の横から紺色の髪を垂らして膝をつく。

 

「デュエルは私の勝ちね。面白いデュエルだったわ」

 

「明日香…さん、僕は……」

 

「言わなくても分かってるわ。あなたを騙す形になってしまって悪いけど、実はあなたのこと、全部聞かされてたのよ。あなたが初恋の相手を追いかけて、難関と言われているアカデミアの編入試験をクリアしてまでここに来たって事を。亮からね」

 

「亮様が……?」

 

「──レイ」

 

 目を丸くするレイの元へ、上で観戦していた男子陣がやって来る。その先頭に立っていた亮は、戸惑いながらもレイと正面から向き合う。

 

「亮様…昼間、寮に忍び込んだのは僕だったんだ。昴はそれを止めようとして……」

 

「……ああ、分かっている」

 

「亮様がデュエルアカデミアに進学なさってから、逢いたくて逢いたくて……やっとここまでやって来たの。デュエルには負けたけど、亮様への想いは誰にも負けない──お願い、乙女の一途な想いを受け取めて!」

 

 亮へ思いの丈を伝えるレイに、【恋する乙女】の姿が重なり──なるほど、デュエルが人柄を表すというのはこういうことか。と納得する昴。

 

 長年の疑問が解消されたことでスッキリした笑みを浮かべた昴は、ここぞとばかりに亮を弄る。

 

「おやおやァ?アカデミアの皇帝・カイザー亮といえど、色恋沙汰にはタジタジですねェ?」

 

「からかうのは止せ……」

 

 そんな2人を見て笑う十代も、会話に加わった。

 

「にしてもすっげー迫力だな。上で見てたけど、デュエルの時と同じだぜ!」

 

「恋はデュエルじゃないもん……!」

 

「そうね。さっきも言ったけど、デュエルと違って、本物の男性を振り向かせるにはウインクや投げキッスじゃダメなの。デュエルにせよ恋にせよ、お互いの心が繋がって初めて実るものなんじゃないかしら?」

 

 深い格言を残した明日香だったが、ここからレイの反撃が始まる。

 

「さっきから何なの!?まさかあなたも亮様が好きな訳!?」

 

「そ、そんなんじゃないわよ……」

 

「じゃあ誰が好きなのさ!?それともデュエル中のあの言葉は、私を言い包める為の嘘だったの!?」

 

「違うわよ!そんな嘘つくわけないじゃない!」

 

「じゃあ誰なのさ!」

 

「それは……えっと」

 

 執拗に問い詰めてくるレイに気圧され、明日香はつい視線を左に向けてしまう。その先にはタジタジの明日香を見て楽しんでいる昴と十代の姿が。

 

「……ふーん。なんだかんだ、あなたも恋に迷ってるのね」

 

「な、何のこと……?」

 

 レイの猛攻でたじろぐ明日香を見かねたのか、亮がその会話を打ち切って本題に戻す。

 

「レイ。今の俺にはデュエルが全てなんだ。お前の気持ちは嬉しいが、それに応えることはできない──お前は明日の船で、故郷に帰るんだ」

 

 レイが部屋に落としていったバレッタをそっと握らせた亮は、この島を出るよう言いつけた。失恋してしまったレイは目尻に涙を浮かべている。

 

 彼女に代わって亮に食い下がったのは、十代だった。

 

「おい、そこまで言うことないだろ!レイだって、ちゃんと女子寮に入れば……!」

 

「レイはここにはいられない。その理由があるんだ」

 

 男に扮していた以外にもまだ彼女には秘密があるというのか。「男のフリをした女と見せかけて実は男」という見当違いの予想をする十代に皆揃って「そんなわけあるか」と苦笑いしたところで、亮の口から衝撃の真実が語られる──

 

 

「レイはまだ11歳──小学5年だ」

 

 

 小 学 5 年 生──その言葉を聞いて、ブルーの3人を除いた全員が驚きの声を上げる。

 

「じゃあ明日香は小学生に苦戦してたってことか?」

 

「何よ?デュエルに年齢も性別も関係ないでしょ!」

 

「お、おう。そうだな……じゃあレイ、次は俺とデュエルしようぜ!」

 

「十代と……?」

 

「ああ!明日にはもう帰っちまうんだろ?戦うなら今の内じゃんか!」

 

「流石はデュエル馬鹿……荷造りの時間もあるんだ、1戦だけだぞ。早乙女、いいか?」

 

「……うん、やろう!」

 

 

「「決闘(デュエル)!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その翌日──港では、朝一のフェリーの出航時刻が迫っていた。亮、昴、明日香の3人がレイの見送りに来ている。

 

「レイ。忘れ物はないな?」

 

「大丈夫です。亮様……無茶なことして、ごめんなさい」

 

「済んだ事だ、気にするな」

 

 そこへ、寝坊した十代達3人も合流した。

 

「レイ。昨日のデュエル、すげー面白かったぜ!」

 

「うん。僕も楽しかった!」

 

「また会えたら、その時は俺ともデュエルしてくれ」

 

「うん。……昴も、色々とありがとう。迷惑かけちゃってごめん」

 

「ま、お陰で面白いもん見れたからいいさ。──お前がカイザーのデッキにあわやキスしかけたことは黙っておいてやる

 

「ほ、ホントに黙っててよ……!?」

 

 亮達との別れを済ませたレイは、最後に明日香の前に立つ。

 

「明日香さん。昨日のデュエルは負けちゃったけど、今度は僕が勝つから!」

 

「えぇ、またいつか戦いましょう。私も負けてあげるつもりはないから」

 

 暫し火花をバチバチと散らしたレイは、思わず小さく吹き出した。

 

「ふふっ、デュエルって楽しいね!」

 

「そうよ。昨日はあんなこと言っちゃったけど、デュエルも恋も本質は同じ──お互いに心と心でぶつかり合えば、きっとレイちゃんの恋も実る時が来るわ」

 

「うん。頑張る!……明日香さんの恋も実るといいね」

 

 港に出航数分前を告げる汽笛が響き渡る。最後に「またね!」と告げたレイは、船内へと乗り込んでいった。

 

 

 

 やがて船が出航する中、デッキから顔を覗かせたレイは、昴達に向かって手を振る。

 

 

「来年卒業したら、またテスト受けて入学するからねー!」

 

 

「だってよカイザー?」

 

「その時俺は卒業して、学園にいないがな」

 

 流石に耐性がついたのか、十代の弄りを上手く躱してみせる亮。その横で、昴は素朴な疑問を口にする。

 

「来年入学と言っても……中等部って確か島外じゃなかったか?」

 

「この学園には飛び級制度があるからな。求められる水準は非常に高いが、中学生以上で諸々の条件を満たせば高等部に進学できる」

 

「かなり難しい編入試験を合格したレイちゃんなら、間違いなくここに来るでしょうね」

 

 

 恋の力、恐るべし。

 

 

「絶対にまた会いに行くから!だから待っててね──十代、昴ーっ!」

 

 

「「「………えっ!?」」」

 

 

 その言葉を聞いて、3人の口から同じ言葉が溢れる。

 

 1人は十代、もう1人は昴。そしてもう1人は……

 

「……良かったわねー。あんな可愛い子に好かれたみたいで」

 

 と、小さく頬を膨らませる明日香だった。

 

「ちょっと待て、おかしくないか!?おかしいだろ!」

 

 十代はまだ分かる。昨日のデュエルで彼に惚れたのだろうという立派な理由があるからだ。しかし昴はどうだ?彼女から好意を向けられるような理由が一切見当たらない。

 

 いやそもそもそれ以前にだ。これはLoveではなくLikeの可能性だってあるではないか。よって十代にはLove、昴にはLikeという式(?)が成り立つ。これでQ.E.D(証明完了)

 

 言葉の真意はもはや本人にしか分からない闇の中だが、取り敢えず今ひねり出したものを正解として脳内に処理した昴は、十代共々ぎこちないながらもレイに手を振り返すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、当のレイはというと……

 

「デュエルも恋も、お互いの心を通じ合わせるもの──十代とのデュエルはすっごく楽しくて素敵だった。またやりたいって思った。昴は…結局戦えなかったけど、何だか話してると落ち着くっていうか……よし!恋もデュエルも、もっともっと勉強して強くならなきゃ!」

 

 尚、レイは明日香の恋の相手が昴と十代のどっちなのかは分かっていない。もし自分と同じ相手を好きになった暁には、今回のリベンジも兼ねてデュエルで勝ち取るつもりでいる。

 果たして彼女(レイ)が恋の矢を立てるのは十代と昴のどちらなのか……それが分かるのは、もっと先の話である。

 




デュエルは人の心を写す鏡──であれば、コントロールという結構いやらしい部類のデッキを使う昴がレイと戦った場合、一体彼女は何を思うのか……

それはさておき、結局レイの処遇は十代に寄せつつ保留という形になってしまいました。私の中の「話としてスッキリさせたい欲」と「レイをヒロインにしたい欲」が戦った結果です、非力な私を許してくれ……(二度目


そして皆さんお気づきでしょうか。今回明日香の初デュエルでした。
早く【機械天使】出したい…その為にもまずはセブンスターズ編まで書き続けなくては。


感想・評価・お気に入り登録頂いた方々、ありがとうございます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。