遊戯王~(GXの)アカデミアに転生~   作:不可視の人狼

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帰ってきたあの男

 デュエルアカデミアノース校との戦いを翌日に控えたある日──教室の一角で、ウンウンと唸り声が渦を巻いていた。

 

「どうするかな……コイツを入れたらこっちは要らないし、逆にコイツを入れたらコイツは要らないし──」

 

「魔法罠の比率、少し見直した方がいいか……?いや、必要なのは新しい戦力か……えーっと、調整カード調整カード──」

 

 紆余曲折あって学園代表に選ばれた十代と昴は、ここ数日デッキ調整に明け暮れている。基本的にモンスター達を魔法罠でサポートして戦う十代は勿論、昴も三沢との戦いを教訓に新たな戦力の投入に踏み切るかどうかを悩んでいた。

 

 そしてそんな彼らの周囲では……

 

 

「──ねぇねぇアニキ、昴君。僕の【パワー・ボンド】入れてみない?」

 

「いやいや、ここは俺の【ウォーター・ドラゴン】だろう!炎属性相手には効果抜群だぞ!」

 

「昴、私の【エトワール・サイバー】なんてどうかしら?ダイレクトアタック時の威力も高いわよ!」

 

「【デス・コアラ】もおすすめなんダナ」

 

 

 と、外野たちが挙って自分たちのカードをデッキに投入するよう売り込みをしていた。

 当然入れるわけがないのだが、デッキを弄り始めてからずっと耳に入ってくる彼らの言葉に昴と十代のイライラも際限なく上昇している。

 

「あーもう、うるさい!お前ら邪魔すんなよ!」

 

「いや、何も邪魔をしているわけじゃ…ノース校との戦いは、学園の名誉を賭けた重要な戦いじゃないか。だから俺たちも一緒に闘おうと──」

 

「ああ…その気持ちはありがたいさ、気持ちはな?でもな三沢、一度冷静になって考えるんだ。お前らがやっている事の無意味さが分からないか?」

 

 普段常識人な三沢や明日香までもがこんな状態になってしまったことに、昴は内心で頭を抱える。

 

「……ったく、百歩譲って代表になったはいいとしても、何でこんな事になっちまったんだ」

 

「昴の言うとおりだ!大体、俺は学園なんかの為に戦うんじゃない!自分の為に楽しいデュエルがしたいんだ!」

 

「分かるぞ、デュエルは人の為にするものじゃない。自分の為にするものだもんな。──だが!俺の【ウォーター・ドラゴン】も入れてくれないか?ほら、昴なら同じ水属性で相性もバッチリじゃないか!」

 

「なら私は【ブレード・スケーター】も付けるわ!」

 

「アニキ!やっぱり【パワー・ボンド】だよ!」

 

「【デス・コアラ】──」

 

 再びやいやいと始まったカードの押し売りにしびれを切らした昴は、ガタッと音を立てて立ち上がる。

 

「……三沢、お前の【ウォーター・ドラゴン】、入れるなら当然【オキシゲドン】と【ハイドロゲドン】と【ボンディング】も入れなきゃいけないんだぞ。そんな枠が俺たちのデッキに余っていると思うか?」

 

「う……それは……」

 

「明日香、お前の【エトワール・サイバー】と【ブレード・スケーター】も、正直言って俺のデッキと噛み合わ無さ過ぎる。儀式素材が関の山だし、手札事故率が上がるだけだ」

 

「そ、そうね……」

 

「翔。俺達のデッキには機械族融合モンスターが入っていないのに【パワー・ボンド】なんざ入れてどうする?」

 

「うぅ……」

 

「隼人。【デス・コアラ】はこの中じゃ1番まともだが、適当に突っ込んでいい働きができるとは思えない」

 

「その通りなんダナ……」

 

 静かに4人を論破してみせた昴は、しょんぼりする明日香達を見て嘆息する。

 

「あのな、ただ強いカードをデッキに入れるだけじゃダメなんだぞ?シナジーを考えたり、それを活かす構築をしなきゃ事故の元だ。それはお前らだって分かってるだろうに」

 

「だが、俺達も何か力になりたいんだ!」

 

「じゃあとりあえず、ここから出て行け。集中させろ」

 

 ぴしゃりと言い放った昴は、再びデッキ調整に戻る。少し言葉が強すぎたかと思いつつも、今はとにかく目の前の事に集中することにした。

 

 

 

 

 

 数時間後──デッキの調整を終わらせ十代と別れた昴は、ブルー寮の自室で独りテストプレイをしていた。

 

「んー…ま、こんなところか。新しく入れたコイツも、俺のデッキなら腐ることもないだろ」

 

 何度か1人回しをしてデッキの動きに問題がないことを確認すると、広げていたカードを纏めて一息つく。

 明日の対抗戦、一体どんな相手と当たるのか皆目見当がつかないが、とりあえず勝ちを目指して戦うだけだ。勝てど負けれど、結果は神のみぞ知るといったところか。

 

「ふあ……ぁ……寝よ」

 

 大きな欠伸をした途端に眠気が押し寄せてきた。机の卓上灯を落とした昴は、目が冴えてしまわない内にベッドへと潜り込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日──昴は島の西側にある港に立っていた。

 前方では学園の責任者である鮫島とクロノスが並び立っており、ジッと海を見つめている。後方に大勢の生徒達が控えている様は、さながら大きな合戦の幕開けを予感させた。

 実際この印象は間違っておらず、昴達アカデミア本校の面々は、対抗戦の相手であるノース校の出迎えに赴いているのだ。

 

「……で、あのドロップアウトボーイは一体どこで油を売ってるノーネ?」

 

「さあ…?翔が探しに行ったみたいですし、まぁその内来るでしょう」

 

「む……どうやら来たようですね」

 

 鮫島の声で海に視線を戻すが、そこには波打つ海面が広がるだけで、船らしきものは見えない。訝しむように眉をひそめた瞬間だった──

 

 突如海面が盛り上がり、中から黒い何かが浮上してくる。丸みを帯びたフォルムのそれは、中型の潜水艦だった。船頭にはぎらりとした眼が描かれており、恐らく【要塞クジラ】でもイメージしたのだろう。

 

「遥々ようこそ。市ノ瀬校長」

 

「暫しウチの悪童らが世話をかけます」

 

 開かれたハッチから現れたのは、ノース校の校長である市ノ瀬。鮫島とは旧知の仲らしく、互いに握手を交わしていた。

 何もせずずっと立ちっぱなしだった事もあり、昴が襲いかかってきた欠伸を噛み殺したところで、後ろから人混みを掻き分けて前に出てくる人影が……

 

「なぁなぁ!話はその辺でいいだろ?早く俺の相手紹介してよ!」

 

「十代…そう思うならせめてもう少し早く来い。流石に行儀悪いぞ」

 

「でもさぁ…早く対戦相手に会いたいじゃんか。昴は気になんないのか?」

 

「まぁ気にならないわけじゃないが……」

 

「──おお、君が遊城十代君か。話は聞いているよ」

 

「よろしく、オッサン!で、俺の相手は誰なんだよ!?」

 

 礼儀も遠慮もなく十代にオッサン呼ばわりされた市ノ瀬はガクッと肩を落とす。鮫島も流石に語調を強めて窘めたが、当の十代はお構いなしだ。デュエルバカ此処に極まれり。

 

 そんなイマイチ締まらない空気を切り裂くように、何者かの声が飛んできた。

 

 

「──貴様の相手は俺だ」

 

 

 どこか聞き覚えのある声。潜水艦のハッチへ目を向けた先には、数人のノース校生徒を従えた男──万丈目の姿があった。

 

「ま…万丈目!万丈目じゃんか!」

 

「万丈目"さん"だ」

 

 今や懐かしく感じるこのやり取り…間違いなく万丈目だ。思いもよらぬ彼の登場に、昴も驚きを隠せない。

 

「まさか、俺の対戦相手って万丈目か!?」

 

「万丈目"さん"だっ!」

 

「てめぇ、さっきからサンダーさんのことを呼び捨てにしくさって!いっちょシメてやろうか!」

 

 万丈目の新たな取り巻き──というより子分や舎弟という方がしっくりくるか──が十代にガンを飛ばすが、万丈目本人によって制止される。

 

「意外な巡り合わせ…ってこともないか。まあいい──それで、俺の相手は誰だ?見た感じあんたがNo.2っぽいが」

 

 ノース校の生徒全員を打ち負かして代表の座を勝ち取ったというなら、恐らく万丈目の近くにいる連中は全員上級生と思っていいだろう。名実共にノース校最強である万丈目が十代と戦うのなら、昴の相手はその次点っぽそうな大柄な生徒──先ほど十代にガンを飛ばしていた男と考えるのが自然だが……

 

 

「……何だと?どういうことだ」

 

 

 万丈目から返ってきたのは、疑問形だった。

 一体どう言うことなのか。そもそも昴が代表になった経緯が、ノース校側が代表を2人選出したからだ。であれば、万丈目がそのことを把握していないはずはない。

 

 お互いに戸惑いを隠せない中、唯一事情を知っていたらしい市ノ瀬が口を開こうとした瞬間だった──

 

「──うわ……っ!?なんだ急に!?」

 

 突然、港周辺を強風が吹き荒れる。同時に、バタバタバタという喧しい音が十代達の耳を叩いた。何事かと上空を見上げると、港に設置されたヘリポート上に2機のヘリが滞空してるのが見える。

 

 外観こそ見慣れた一般的なヘリコプターだが、機体の腹にはでかでかと「万」の字が。

 

「アレは……万丈目グループのマーク!」

 

「え、だs……万丈目ってことは、つまりそういうことか?」

 

 ……あのマークを見て一瞬「ダサい」と思ってしまったのは、昴だけの秘密だ。

 

 着陸したヘリから降りてきたのは、万丈目長作(ちょうさく)と万丈目正司(しょうじ)──いずれも万丈目の兄だ。

 

「久しぶりだな準。元気にやっているのか?」

 

「何しに来たんだ兄さん達!」

 

「お前の勝利を祝福しに来たのさ。手土産も持ってきてやったぞ!」

 

「手土産だと……?」

 

 その答えを示すように万丈目兄弟に続いてヘリから降りてきたのは、学ラン風の服に身を包んだ大柄な男だった。その姿はさながら喧嘩番長を彷彿とさせる。

 

「あの男…確か重村武蔵(しげむら むさし)。短期間だがプロリーグに出場経験もある、元プロデュエリストだ」

 

 三沢が言うには、自己流デュエルを貫き過ぎたせいでスポンサーとの契約を打ち切られ、そのまま引退に追いやられてしまった過去を持つらしい。

 

 愕然とする万丈目に、市ノ瀬が小声で耳打ちする。

 

「…すまない万丈目君、もっと早く伝えておくべきだった。君が我が校の頂点に君臨して間もなく、どこからか情報を掴んだらしい君のお兄さん達が、あの男を代表にするよう無理を押し通して来てね。私も説得を試みたんだが、代表を君と合わせて2人にするのが精一杯だった」

 

「お前の勝利を確たるものにする為に態々雇ってやった実力者だ!わかっているな準!?必ずこの戦いに勝利し、万丈目グループの名を天下に知らしめるのだ!」

 

 そう言い放った万丈目兄達の正面には、リフトに乗ってカメラを構える撮影スタッフの姿が。気が付けば、港には中継車をはじめとする諸々の撮影機材を乗せた車や人でごった返していた。

 どうやら、これも万丈目兄達の差金らしい。万丈目が勝利する光景を全国ネットで生中継することで、万丈目グループの名をアピールしようとしているのだ。

 

「……なんか、いつの間にかとんでもない事になってきたな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あーもう、どうすんだよ!テレビ中継するなら先に言っといてくれなきゃ困るぜ!はっ、そうだ!寝癖とか直してこねーと!」

 

 控え室でギャーギャーと慌てふためく十代は、整髪スプレーとブラシを持ってトイレにダッシュしていく。そんな彼を見て呆れ混じりのため息を漏らした昴もまた、試合前のトイレを済ませておこうと控え室を出た。

 

 最寄りのトイレを目指して廊下を歩いていると、トイレの入口で立ち止まった十代が目に入る。

 

「どうした?まさか全部使用中とかじゃ──っと……?」

 

 話しかけた瞬間、十代に静かにするよう指を立てられる。行動の意図を測りかねた昴だったが、それもすぐに分かった。

 

「くぅっ…勝て!勝て、勝て、勝てぇっ!…あの男を呼んだ時点で、兄さん達が端から俺に期待などしていないのは分かっている!だがっ……それでも俺は!兄弟の落ちこぼれなんかじゃない!勝ってそれを証明するんだ!俺は…勝たなきゃならないんだっ!」

 

 兄達から都合よく向けられるプレッシャーと戦いながら、無人のトイレで独り嘆いていた万丈目。十代はそこに鉢合わせたのだろう。

 

「……別のとこ行くぞ十代」

 

「……ああ」

 

 万丈目に気づかれないよう足音を殺してトイレを離れた昴は、十代と別れて別のトイレに向かう。時間を見て足を速めた昴は、程なくして無事にトイレに到着したのだが……

 

 

「…………」

 

「(……き、気まずい……!)」

 

 

 その中で、今度はあの元プロデュエリスト──重村と鉢合わせてしまった。今は沈黙の中、便器数個分の距離を空けて用を足している。

 

 特に何をしたわけでもないのだが、服装と外見がマッチしすぎて近くにいるだけで威圧感がすごい。

 とっとと控え室に戻ろうと、用を済ませた昴が手を洗っていると……

 

「……今回のデュエル。よろしく頼む」

 

「えっ…!?あ、ああ…こちらこそ」

 

 いつの間にか自分の横で同じく手を洗っていた重村から渋い声で短く発せられた言葉は、思いの他友好的なものだった。人を見た目で判断してはいけないとよく言うが、その通りかもしれないと反省した昴は、試合前の交流を図る。

 

「あー…重村、さん?は、どうして今回のデュエル、引き受けたんですか?」

 

「深い意味はない。俺はただ雇われただけだ。報酬として、勝てば俺をプロモートすると言うのでな」

 

「あー、そういうことですか……」

 

 邪な理由、とは言うまい。詳しいことは知らないが、一度は立ったプロの舞台に復帰したいと思うのはおかしいことではないのだから。

 

「えー……と、知り合いから聞きました。色々あったみたいですけど、これまでは何を?」

 

「……故郷の町で、子供達にデュエルを教えていた」

 

 その見た目で!?と思いこそすれ、口と表情には出さなかった昴を誰か褒めて欲しい。

 

「……今回の戦い、手加減など不要だ」

 

「は……?」

 

「どのような事情があろうと、デュエルは真剣勝負が常。俺は貴様を全力で倒しにかかる」

 

 その一言で、空気が張り詰めるのを感じた。

 

「…分かりました。なら俺も、あなたを倒すことでそれに応えます」

 

「……言うまでもないことだったな。失礼する」

 

 カラカラと下駄を鳴らして自分の控え室へ戻っていった重村。1人になった昴は、今しがた用を足したばかりだというのにもう一度催す錯覚を覚えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いよいよ訪れた、試合開始時刻。前哨戦として最初に行われるのは、昴VS重村のデュエルだ。

 

 見慣れたデュエルフィールドの周囲には中継カメラがスタンバイしており、この戦いが始まる瞬間を今か今かと待ちかねている。

 

 ──時は来た。

 

 

「「それでは!これよりデュエルアカデミア本校・ノース校の対抗試合を始める!!」」

 

 

 客席に並ぶ両校の校長の号令によって幕を開けた対抗戦。進行を務めるクロノスによって、決闘者の紹介が行われる。

 

『まず紹介するノーハ、本校期待の新星!オベリスクブルーの加賀美昴!』

 

 昴の名が呼ばれた瞬間、本校側の客席から激励の声が投げかけられる。

 

 

「昴君がんばれー!」

 

「気張レー!」

 

「頑張れよ昴!」

 

 試合開始ギリギリまで十代と共にフィールドの外で応援する翔と隼人。そして客席の中段では、明日香、雪乃、亮、三沢の4人が固唾を飲んで見守っていた。

 

 

『その相手を務めるノーハ、なんと元プロ決闘者!重村武蔵!』

 

 

 またも歓声が沸き起こるが、昴の時と比べると些か熱量に欠ける。本来なら行われるはずのなかった戦いである上に、片方はデュエルアカデミアの学生ですらないのだから、当然といえば当然ではあるのだが。

 

『尚、この戦いは2対2なノーデ、勝敗が並んだ場合、双方で白星を上げた決闘者同士で最終戦を行うノーネ!』

 

 クロノスの説明が終わると、昴と重村はデュエルディスクを起動する。

 

「……先程、1つ言い忘れていた。俺に敬語は不要だ。決闘者たる者、デュエルフィールドでは対等なのだからな」

 

「……ならお言葉に甘えさせてもらう。行くぞ、重村武蔵──!」

 

 

「「決闘(デュエル)!」」

 

 

 昴 :LP4000 手札×5

 VS

 重村:LP4000 手札×5

 

 

 デュエルディスクが判定した結果、先攻を取ったのは重村だった。

 

「俺のターン、ドロー!俺は【超重武者ワカ-O2(オニ)】を召喚!」

 

 姿を現したのは、青い金属質の装甲に身を包んだ機械武者。特徴的な両腕は江戸時代の傘を模した巨大なガントレットで固めている。

 

 

【超重武者ワカ-O2】

 ☆4 機械族 ATK0 DEF2000

 

 

 

「攻撃力0のモンスターを攻撃表示で召喚するなんて…あの人、ホントに元プロなんスか?」

 

「実力は確かだったはずだ。プロとしての活動期間が短かったから、俺も正確には覚えていないんだが……」

 

「一度でもプロの道を歩んだ決闘者だ。意味の無いことはしないだろう」

 

「ええ。思い出してみて翔君、昴だって攻撃力0のモンスターを使っていたでしょう?」

 

 亮と明日香の言葉を受け、翔は昴のこれまでのデュエルを思い返してみる。だが、2人の言わんとしてることは理解できていないようだ。見かねた雪乃が、翔に代わって答える。

 

「──つまり、攻撃力が低いモンスターは往々にして特殊効果を持っている傾向が多いということよ」

 

 

 

「──【ワカ-O2】の効果発動。召喚成功時、守備表示となる。更にコイツは戦闘では破壊されない。俺はこれでターンエンドだ」

 

 雪乃の言った通り【ワカ-O2】を始めとする【超重武者】達は、その大部分が召喚後に表示形式を変更する効果を持っている。

 この場合、守備力2000の戦闘破壊耐性というだけでも中々に厄介なのだが、これは【超重武者】本来の力ではない。そのことを昴は理解していた。

 

 

 昴 :LP4000 手札×5

 VS

 重村:LP4000 手札×5

【超重武者ワカ-O2】

 

 

「まさかここで【超重武者】と戦うことになるとはな……俺のターン!」

 

 重村の使用する【超重武者】相手に長期戦は愚策。できる限り早く決着をつける必要がある。

 

「手札から【リチュア・アビス】を召喚!」

 

 

【リチュア・アビス】

 ☆2 魚族 ATK800 DEF500

 

 

「召喚成功時、デッキから守備力1000以下の【リチュア】を手札に加える。そして今手札に加えた【シャドウ・リチュア】を墓地に送り、デッキから【リチュア】の儀式魔法を手札に!」

 

 続けて【ヴィジョン・リチュア】の効果でデッキから【ガストクラーケ】をサーチしたことで、儀式召喚の準備は整った。

 

「【リチュアの儀水鏡】発動!手札にいる同じ【ガストクラーケ】を素材に、儀式召喚──【イビリチュア・ガストクラーケ】!」

 

 

【イビリチュア・ガストクラーケ】

 ☆6 水族 儀式 ATK2400 DEF1000

 

 

 水飛沫と共に姿を現した異形の少女は手にした杖を掲げ、先端の儀水鏡から怪しげな光を重村の手札に照射する。

 

「【ガストクラーケ】の効果発動──ガスト・スキャニング」

 

 重村の5枚ある手札の内、両端の2枚が昴にも見えるように透過される。暴かれた重村の手札は【超重武者装留ダブル・ホーン】と【超重武者テンB-N】。昴は【ダブル・ホーン】をデッキに戻した。

 

「墓地の【リチュアの儀水鏡】をデッキに戻し、その効果で墓地から素材となった【ガストクラーケ】を手札に戻す。カードを2枚伏せてターンエンド」

 

 

 昴 :LP4000 手札×2

【リチュア・アビス】

【イビリチュア・ガストクラーケ】

 伏せ×2

 VS

 重村:LP4000 手札×4

【超重武者ワカ-O2】

 

 

「手札破壊か…なるほど、急遽とはいえ学園代表の座を掴んだだけのことはあるようだ。俺のターン!【超重武者ダイ-(ハチ)】を召喚!」

 

 

【超重武者ダイ-8】

 ☆4 機械族 ATK1200 DEF1800

 

 

 大量の荷物を載せた荷車を引き、小型の機械武者が現れた。外見は強そうに見えないが、その実非常に優秀な効果を持っている。

 

「【ダイ-8】は自身の効果で守備表示となる。──バトルだ。【超重武者ダイ-8】で【リチュア・アビス】を攻撃!【ダイ-8】が守備表示で攻撃する場合、守備力をそのまま攻撃力として扱う!」

 

 

 

「──ええぇっ!?守備表示のまま攻撃なんてできるのぉっ!?」

 

「十代の【ランパートガンナー】も似た効果を持っているが、重村のモンスターは召喚に掛かる手間が殆どない。まさか、あんなモンスターが存在していたとは……」

 

 客席でデュエルを見守る翔達は驚きが隠せない。「モンスターは攻撃表示でなければ攻撃できない」というルールを破ってきたのだから、無理もないだろう。

 これこそが【超重武者】の強みの一つである、高い守備力を生かした攻防一体の戦術だ。

 

 

 

【リチュア・アビス】は疾走する荷車に轢き潰され、1000のダメージが昴を襲う。

 

 

 昴:LP4000→3000

 

 

「メインフェイズ2、【ダイ-8】の更なる効果を発動!自身を攻撃表示に変更することで、デッキから【超重武者装留】を手札に加える。俺が引き込むのは【超重武者装留イワトオシ】だ」

 

「っ……面倒なのが入ったな」

 

【超重武者】は、特殊な効果発動条件を持つが故に全てモンスターで構成される稀有な一団だ。魔法罠に代わって、多彩な誘発効果を持つモンスターや、ユニオンのように装備カードとしても利用できる【超重武者装留】を有している。

 今重村がサーチした【イワトオシ】は、装備した【超重武者】に貫通効果を与える他、場から墓地に送られるとデッキ内の【超重武者】をなんでも持ってこれるという超広範囲サーチカードなのだ。

 

「そして俺は、手札の【イワトオシ】を【ダイ-8】に装備!ターンエンドだ」

 

 

 昴 :LP3000 手札×2

【イビリチュア・ガストクラーケ】

 伏せ×2

 VS

 重村:LP4000 手札×4

【超重武者ワカ-O2】

【超重武者ダイ-8】+【超重武者装留イワトオシ】

 

 

「俺のターン、魔法カード【サルベージ】!墓地の【シャドウ・リチュア】と【ヴィジョン・リチュア】を回収し、効果発動!デッキから【リチュアの儀水鏡】と【ソウルオーガ】を手札に加える。更に罠発動【儀水鏡の瞑想術】──手札の儀式魔法を公開し、墓地から2体の【リチュア】を回収。もう一度【ヴィジョン・リチュア】の効果で、デッキから【リヴァイアニマ】を手札に加える」

 

 初見ならまず目を剥くであろう【リチュア】デッキの高速回転を見ても、重村は動じない。丸太のような両足で床を踏みしめ、堂々と仁王立ちしている。

 

「【リチュアの儀水鏡】発動!手札の【リヴァイアニマ】を墓地に送り、儀式召喚──【イビリチュア・ソウルオーガ】!」

 

 

【イビリチュア・ソウルオーガ】

 ☆8 水族 儀式 ATK2800 DEF2800

 

 

 現時点の昴のデッキでは最大の攻撃力を誇る【ソウルオーガ】の登場で、アカデミア本校側の応援組から歓声が上がる。

 

「墓地の【儀水鏡】の効果で【リヴァイアニマ】を回収し、【ソウルオーガ】の効果発動!【リヴァイアニマ】を墓地に送って、【ワカ-O2】をデッキに戻す──ハウリング・ソウル!」

 

 青武者が海竜の咆哮によってデッキに追いやられ、残るは弩弓を携えた荷車引きのみが残される。

 

「バトル…っ【ソウルオーガ】で【ダイ-8】を攻撃──リチュアル・ブラスト!」

 

 

 重村:LP4000→2400

 

 

 打ち放たれた儀水鏡のエネルギー弾は、機械仕掛けの荷車を跡形もなく破壊する。モンスターを撃破し、戦闘ダメージも与えたに関わらず、昴の表情に勝ち誇ったような笑みは見られない。

 

「…自分の墓地に魔法・罠が存在しない状態で戦闘ダメージを受けた時、手札の【超重武者ココロガマ-A】の効果発動!守備表示で特殊召喚し、このターン【ココロガマ-A】は破壊されない」

 

 

【超重武者ココロガマ-A】

 ☆3 機械族 ATK100 DEF2100

 

 

「更に、装備されていた【イワトオシ】が墓地に送られたことで効果発動。デッキから【超重武者】を手札に加える!」

 

「……ターンエンド」

 

 

 昴 :LP3000 手札×3

【イビリチュア・ガストクラーケ】

【イビリチュア・ソウルオーガ】

 伏せ×1

 VS

 重村:LP2400 手札×4

【超重武者ココロガマ-A】

 

 

「俺のターン、ドロー!……加賀美昴、貴様は確かに腕のある決闘者だ。このような場ではあるが、貴様と戦えたことを誇りに思う──行くぞ!手札の【超重武者装留チュウサイ】を【ココロガマ-A】に装備!」

 

「【チュウサイ】……来るかっ!」

 

「【チュウサイ】の効果発動!装備モンスターをリリースし、デッキから【超重武者】を1体特殊召喚する!──我が戦いに刃は不要(いらず)!最強の盾こそ最強の矛也!【超重武者ビッグ・ベン-K】!!」

 

 

 重村が呼び出したのは、太い手足と巨大な体躯を持つ機械仕掛けの僧兵。刺股を携えてこそいるが、重村はこれを守備表示で召喚した為、その先端は昴達に向けられていない。

 

 

【超重武者ビッグ・ベン-K】

 ☆8 機械族 ATK1000 DEF3500

 

 

「バトルっ!【ビッグ・ベン-K】で【イビリチュア・ソウルオーガ】を攻撃!」

 

「やはり狙いはこっちか!」

 

「まだだ!その身に刻むがいい、貴様に手向ける一撃の重さを!──ダメージステップに、手札から【超重武者装留バスター・ガントレット】の効果を発動!自分の墓地に魔法・罠カードが存在しない場合、戦闘を行う【超重武者】の守備力を2倍にする!」

 

守備力(攻撃力)7000……っ!」

 

 僧兵の左腕に無骨な籠手が装着され、一層巨大となった拳が大地を打つ。豪腕から繰り出される一撃は地を割り、その衝撃が【ソウルオーガ】に襲いかかった。この攻撃を通せば、昴のライフが例え全快であったとしても一撃で消し飛んでしまう。

 

 だが昴とて、当然それを許すはずもない。

 

「罠発動──【ガード・ブロック】!戦闘ダメージを0にして、1枚ドローだ」

 

「だがモンスターは破壊させてもらうぞ!」

 

 致命の一撃を退けることには成功したが、【ビッグ・ベン-K】に対処する力を持っていた【ソウルオーガ】が破壊されてしまった。【バスター・ガントレット】による強化はこのターンで終了するが、残された【ガストクラーケ】では素の状態の【ビッグ・ベン-K】にも及ばない。

 

「メインフェイズ2。手札から【超重武者装留グレート・ウォール】を【ビッグ・ベン-K】に装備する」

 

 これにより【ビッグ・ベン-K】の守備力が常時1200上昇。守りをより磐石にした重村は、ターン終了を宣言した。

 

 

 昴 :LP3000 手札×4

【イビリチュア・ガストクラーケ】

 VS

 重村:LP2400 手札×2

【超重武者ビッグ・ベン-K】+【超重武者装留グレート・ウォール】

 

 

「俺のターン!…っ、これは──」

 

 この局面で昴が引き当てたのは、この対抗戦に備えて新しく投入したカードだった。そしてこれこそ、この局面を打開する力を秘めた1枚──

 

「──【リチュア・ビースト】を召喚!召喚時の効果で、墓地の【リチュア・アビス】を守備表示で特殊召喚!」

 

 

【リチュア・ビースト】

 ☆4 獣族 ATK1500 DEF1300

 

 

「そして復活した【アビス】の効果で、デッキから【ヴィジョン・リチュア】を手札に。更に手札の【シャドウ】と【ヴィジョン】を墓地に送って効果発動。デッキから【マインドオーガス】と【リチュアの儀水鏡】を手札に加える」

 

 このターンで決めに行くにはまだ足りないカードが1枚だけある。そのカードを引き入れる為、昴は相棒を召喚する。

 

「【リチュアの儀水鏡】発動!──場の【ガストクラーケ】を素材に儀式召喚!──【イビリチュア・マインドオーガス】!」

 

 

【イビリチュア・マインドオーガス】

 ☆6 水族 儀式 ATK2500 DEF2000

 

 

 万を辞して登場した昴のエースモンスター。その力で、昴と重村の墓地に存在するカード達を人魂のように浮かび上がらせる。

 

「【マインドオーガス】の召喚時効果。あんたの墓地に存在する5枚のカード全てをデッキに戻してもらう!──マインド・リサイクル!」

 

 重村の墓地に眠っていた【ダイ-8】、【イワトオシ】、【ココロガマ-A】、【チュウサイ】、【バスター・ガントレット】がデッキに還される。

 

「更に墓地の【儀水鏡】をデッキに戻し、墓地の【リヴァイアニマ】を回収。これをコストに【トレード・イン】を発動!デッキから2枚──ドローするっ!」

 

 このドローで全てが決まる。昴の右手にある2枚のカードは──

 

「……来た!俺は魔法カード【カード・アドバンス】を発動!デッキトップ5枚を確認し、好きな順番で戻す」

 

「何をしようと、貴様のモンスターでは【ビッグ・ベン-K】の守備力を超えられん!残った手札も僅か2枚では、さっきの様な搦手も使えまい」

 

 今の【ビッグ・ベン-K】は【グレート・ウォール】の強化もあり、守備力4700。昴のデッキにその守備力を上回るモンスターは存在しない。

 

「今更搦手なんか使わないさ。正々堂々、正面から押し通らせてもらう!【カード・アドバンス】にはもう1つ効果がある。このターン、俺は通常召喚に加えて、1度だけアドバンス召喚を行える!──俺は、場の【マインドオーガス】、【リチュア・アビス】、【リチュア・ビースト】の3体をリリース──!」

 

 水の力を宿す3体のモンスターが上空で混じり合い、鮮やかな蒼い光球を作り出す。

 

 

「蒼の光芒と共に来たれ、冷然たる水星の使徒──!」

 

 

 音もなく胎動する光球は表面に亀裂を走らせ、内部から眩い光を溢れさせる。

 

 

「アドバンス召喚──【The tripping MERCURY(ザ・トリッピング・マーキュリー)】!!」

 

 

 光球を内側から割り砕き現れたのは、二振りの剣を携えた水星からの使徒。マントに覆われた体は女性的なラインを描いており、口元の笑みから見て取れる妖艶さの中にも気品のようなものが感じられる。

 

 

The tripping MERCURY(ザ・トリッピング・マーキュリー)

 ☆8 水族 ATK2000 DEF2000

 

 

「レベル8にも関わらず3体のリリース…面白い。ならば見せてもらおう、そのモンスターの力とやらを!」

 

「【MERCURY】の効果発動!アドバンス召喚成功時、相手モンスター全てを攻撃表示へと変更する!」

 

「なにっ!?」

 

「同時に2つ目の効果!モンスター3体のリリースでアドバンス召喚された【MERCURY】が存在する限り、相手モンスターの攻撃力は元々の数値分ダウンする!──Atmospheric Disseverance(アトモスフェリク ディサフェランス)

 

 ここまで不動の守りを貫いてきた【超重武者】が立ち上がり、攻撃態勢を取る。機械仕掛けの武者達はその性質上守備力に秀でている反面、攻撃力は総じて低い。いくら強固な守備力を持っていようと、表示形式を変更されてしまってはそれを発揮することもできない。

 

 挙句の果てには攻撃力すら0となり、無防備を晒してしまう。

 

 

「バトルだ!【tripping MERCURY】で【ビッグ・ベン-K】を攻撃!──Temperature Change(テンパラチャーチェインジ)!」

 

 

「させん!【超重武者装留グレート・ウォール】の効果!装備モンスターが攻撃対象となった時、装備状態のこのカードを墓地に送ることで、その攻撃を無効にする!」

 

【ビッグ・ベン-K】の左腕に装備された大盾が、背面のブースターの推進力を利用して打ち出される。凄まじい勢いで飛来した大盾を水星の使徒は豆腐のように斬り裂くが、その刃は本命には届かない。

 

「これで貴様の攻撃は終了だ。次のターン、【ビッグ・ベン-K】が再び守備表示になった瞬間、貴様の敗北は決する!」

 

【MERCURY】の効果は召喚時のみで、相手を攻撃表示のまま固定しておくことはできない。素の打点で劣っている以上、次の重村のターンで再び守備表示に戻されてしまえば、一転して昴が追い詰められてしまう。

 

 ……だが、昴はそこも織り込み済みだ。

 

「【tripping MERCURY】の更なる効果!一度のバトルフェイズ中に、2回攻撃できる!」

 

「っ…しかし!俺のライフは400残る!」

 

「ダメージステップに手札の【水精鱗-ネレイアビス】を墓地に送り、効果発動!手札の【リチュア・エリアル】を破壊し、その攻守を【MERCURY】に加算する!」

 

 ふわりと重力を感じさせずに着地した【MERCURY】は、間髪入れずに再び【ビッグ・ベン-K】に向かっていく。もう攻撃を防ぐ盾は持っておらず、攻撃力も0。正真正銘、丸裸も同然だ。

 

「これで最後だ、行け!【MERCURY】──!」

 

 振り下ろされた双剣の片割れを、【ビッグ・ベン-K】は刺叉で弾き飛ばす。返しの反撃を繰り出すも、上空に跳んで軽々とそれを回避した【MERCURY】は、逆手に持ち替えた剣を突き下ろす。

 

 手札誘発によって上昇した攻撃力は3000──青白く光る刀身は僧兵の胸を深々と貫き、その躯体を爆散させた。

 

「ぐ……ぬうぅ……っ!!」

 

 

 重村:LP2400→0

 

 

 爆発の衝撃が収まった後にはモンスターたちの姿は無く、無言で向かい合う昴と重村の姿だけがあった。

 

「……見事。このデュエル、貴様の勝利だ」

 

 重村のこの一言を皮切りに、客席から歓声が湧き上がる。

 

 これでアカデミア本校側の1勝。次の十代が万丈目に勝利すれば、ストレート勝ちとなる。逆に万丈目が雪辱を晴らすことに成功した場合、昴は万丈目と戦う事になるのだが……

 

 

 

 

「──いけぇ、【フレイム・ウィングマン】!【アームド・ドラゴン Lv7】を攻撃!──フレイム・シュート!」

 

 放たれた爆炎が、万丈目のモンスター──十代の罠カードによって攻撃力を下げられた【アームド・ドラゴン Lv7】を焼き尽くす。

 500の戦闘ダメージに加え、【フレイム・ウィングマン】の効果による1600のダメージが万丈目に襲いかかった。

 

「ぐあああああああぁぁぁ───っ!」

 

 

 十代 :LP300 手札×0

【E・HERO フレイム・ウィングマン】

 VS

 万丈目:LP1600→0

 

 

「ガッチャ!」

 

「やったな。これで2勝…俺達の勝ちだ」

 

 勝利のハイタッチを交わした十代と昴の元へ、重村がやってくる。

 

「加賀美昴。改めて、いいデュエルだった。見事な勝利だ」

 

「あんたこそ。ライフでは勝っちゃいたが、【超重武者】の前じゃいつ削り取られてもおかしくなかったさ」

 

 差し出されたゴツイ手を握り返し、しっかりと握手を交わす。

 

「あんたとはまたいつか戦いたいもんだ」

 

「いや。恐らくもう会うことはないだろう」

 

「…どういうことだ?」

 

「俺はこれまでずっと、プロ決闘者に対する未練を捨てきれずにいた。今回この場に来たのも、その踏ん切りを付ける為だった」

 

 勝てばもう一度プロとしての道を歩み始めることができ、負けたとしてもそれはそれでいい幕引きになる。

 お互いに全力で戦った末の結果であるなら、重村としてはどちらに転んでも受け入れるつもりでいたのだ。

 

「これからは、本格的に子供達にデュエルを教えようと思う。俺のような出来損ないのプロでも、未来を担う若者達に伝えられることがあるはずだ」

 

「そうか……正直残念ではあるが、あんた自身がそう決めたなら無理には止めない」

 

 そう言って手を離した瞬間だった──

 

「──準!貴様何をやっているんだ!自分が何をしてるか、分かっているのか!」

 

「万丈目の名に泥を塗りおって!」

 

 そんな罵詈雑言を万丈目にぶつけているのは、彼の兄達だった。その足元では、悔しげに歯を食い縛る万丈目の姿が。

 

「すまない…兄さん達……っ」

 

「俺たちが渡したカードはどうした!?何故使わなかった!?あの大量のレアカードを使っていれば、もっと強いデッキが作れたはずだ!」

 

「俺は…自分のデッキで勝ちたかったんだ……!」

 

 怒りのゲージが振り切れたのか、次男・正司は万丈目の胸ぐらを掴み上げる。

 

「こっ…の馬鹿弟がァ!!そんなくだらん理由で俺達に恥をかかせたのかっ!」

 

「だからお前はいつまで経っても落ちこぼれなんだ!一族の恥曝しめ!」

 

「──その辺にしておけ。実の弟相手にそこまで言うこともあるまい」

 

 万丈目兄達を制止したのは、意外なことに重村だった。

 

「負けた貴様が口を挟むな!元とはいえ腕のあるプロだと聞いたから貴様に声をかけてやったんだぞ!だというのにあのザマだ!」

 

「大体、何なのだあの巫山戯たデッキは!我々とてデュエルのルールくらい理解している。そして貴様のデッキがデュエルに於いて必須である魔法・罠カードの入っていない欠陥デッキだということもな!」

 

 あくまで兄弟の問題だからとここまで不干渉を貫いてきた昴だったが、長男・長作のこの言葉を聞いて、流石に我慢が限界に達する。

 

「おいあんた達、いい加減に──!」

 

「──万丈目長作。今の言葉、訂正を願おう」

 

 食ってかかろうとした昴を制止したのは、またも重村だった。声音こそ落ち着いたままだが、その内側には確かな怒気が見て取れる。

 

「訂正だと?事実ではないか!準だけでなく、貴様にもレアカードを渡してあったはずだ。なのに貴様もくだらんプライドでそれを使わなかった!あんな欠陥デッキでは勝てる戦いも勝てないはずだ!あのような学生程度、我らのカードを使っていれば造作もなく──」

 

 

「──黙れッ!!」

 

 

 言葉を遮って放たれた重村の怒号に、あたりはシンと静まり返る。

 

「俺自身の事は何とでも言うがいい。俺のデッキに対する悪態も、負けた手前飲み込んでやろう。だが!俺と戦い、勝利した彼を侮辱するような物言いは断じて許さんっ!!」

 

 先程昴と話していた時とは大違いの剣幕に、さしもの長作もたじろぐ。

 

「大体、レアカードを使えば勝てるなど笑止千万!デュエルはそのような浅いものではない!決闘者のデッキは、自分の手で組み上げた戦略と信念の結晶であり、己が魂も同然!その在り方をも否定する事は、例え実の兄弟といえどあってはならん事だ!」

 

「そのオッサンの言うとおりだぜ!万丈目…サンダーは、持てる力の全てを出して戦った!どうしてそんな風に扱えるんだ!」

 

「我々は過程になど興味はない。結果を問題にしているのだ!」

 

「そうだ!我々兄弟にとって結果こそが全て!勝利こそ全てなのだ!大体、たかが一学園の一デュエルの為に、どれだけの金をつぎ込んだと思っている!?」

 

「それでも!…それでも、サンダーはアンタ達には勝った!アンタたちが向けてくる下らないプレッシャーと戦った!アンタ達の手は借りずに、最後まで自分自身の手で戦い抜いたんだ!」

 

 

「──止せ、十代……これ以上、俺を惨めにしないでくれ」

 

 

 俯いたまま十代を制止した万丈目は、口元を歪めながら続ける。

 

「兄さん達…帰ってくれ……っ!」

 

 搾り出すように発せられたこの一言は、大きさに反して会場内の全員に伝わったらしく──

 

 

 ──「そうだー!」──

 

 ──「帰れー!」──

 

 ──「万丈目サンダー!よくやったぞー!」──

 

 ──「さすがサンダーだー!」──

 

 

 ──万丈目サンダアアアアアアアアアアアァァァ!!!──

 

 

 止まないサンダーコールに居心地を悪くした万丈目兄弟は「見損なったぞ」という捨て台詞を残して去っていく。万丈目がその背中を見送ることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──ノース校に帰らない?」

 

「ああ。俺はまだやり残したことがあるからな──そういうことだ校長、また世話になる」

 

 場所は港へと移り、ノース校のメンバー達が潜水艦に乗り込んだ所。残すは市ノ瀬と万丈目だけだったのだが、万丈目はこれを拒否。再びデュエルアカデミア本校に身を置くことに。鮫島もこれを快諾した。

 

「……重村(アンタ)も、兄さん達の勝手に巻き込んですまなかった」

 

「気にするな。俺の方こそ、助けになれずすまなかった」

 

「それこそ気にするな。元々アンタにそんな義理はないからな」

 

 最後に「頑張れ」という一言を残し、重村は故郷行きの船に乗って島を出て行った。

 

 その様子を少し離れた場所で見ていた昴の元へ、亮、明日香、雪乃の3人がやってくる。

 

「お疲れ様。昴」

 

「いいデュエルだった」

 

「お前ら──って、何で雪乃は不機嫌なんだ?」

 

 普段通りな亮と明日香とは逆に、雪乃はさっきから腕を組んで目を伏せたままだ。ムスっとした表情からは、いつものようなイタズラっぽい笑みの欠片も見られない。

 

「実は雪乃、自分が代表戦に出られなかったのが悔しいんですって」

 

「悔しいとは言ってないわ。ただ、百歩譲って対抗戦には出られないにしても、代表選抜デュエルにすら出られなかったのが納得いかないだけよ」

 

「仕方ないじゃない。レッスンとか、色々重なっちゃってたんでしょ?」

 

 雪乃は決闘者であると同時に、人気俳優を両親に持つ女優の卵だ。将来は女優としての活躍も期待されている彼女は、定期的にオンラインで演技やポージングのレッスンを受けており、そのことは学園側も把握している。

 何かとスケジュール調整の難しい芸能界に配慮し、特例で進級・卒業に必要な出席日数が多少免除されていたりするのだが……レッスン続きで雪乃に疲れが溜まっているのを、ブルー女子の寮長である保険医・鮎川は見逃さなかったのだろう。彼女の体調優先で、代表に推薦するのを反対したらしい。

 

「完璧に隠していたはずなのに、まさか鮎川先生に見破られるとは思ってなかったわ……」

 

「気持ちは察するが、無理して出るようなもんでもなかったろ。コレ──っと!?」

 

「分かってないわね昴。今日、あの会場にはテレビカメラが来てたのよ。つまり、私があの舞台に立っていれば、未来の女優決闘者として世間から注目を浴びることができたの。芸能界において、知名度が大きな影響力を持つことくらいわかるでしょう?」

 

 ズイと至近距離まで肉薄してきた雪乃は、余程悔しかったのかいつもと比べて饒舌になっている。

 

「あー、そういうことか……言ってくれりゃ全然代わったんだが」

 

「それはダメよ。あの場に立ちたかったのは事実だけど、その権利を譲り受けるのは私の主義に反するわ。私は──」

 

「──"欲しいものは実力で勝ち取る"…だろ。段々お前の考えることが分かってきたぞ」

 

 彼女の思考を先読みすることで普段の意趣返しでもしてやろうかと思った昴だったが……

 

「っ……!そっ、その程度で私の心を見通した気になられては困るわ。…でも、いい傾向よ。精進なさい」

 

 そう言ってそっぽを向く雪乃だが、突然の反撃に照れが隠せていない。

 いつも昴を振り回す妖艶でイタズラ好きな彼女とは打って変わり、年相応の可愛らしい一面を垣間見た瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 ──尚、この対抗戦を制した学校には褒美が与えられるらしいのだが、その褒美は勝った学校の校長がトメさんから頬にキスをしてもらえる。という、なんともガッカリなものだった。

 昴も十代も、こんなものの為に戦わされたのかと肩を落としたのは想像に難くない。

 

 そして……

 

「あー、そうそう。万丈目君は3ヵ月間授業に出ていないので、出席日数と単位、その他諸々の不足でオベリスク・ブルーでは進級できないのにゃ」

 

「な、何だとぉ……っ!?」

 

「進級したければ、出席日数の関係ないオシリス・レッドに入るしかないのにゃ」

 

「こ、この俺がっ…オシリス・レッドに……!?」

 

「よーっし!それじゃ、万丈目の入寮を祝して───!」

 

「おい、勝手に決めるな──!」

 

 

『一!』

 

『十!』

 

『百!』

 

『千!』

 

万丈目サンダー!

 

 

 ──万丈目サンダアアアアアァァ!──

 

 万丈目の帰還を喜ぶ生徒達の中、しゃがみこんで頭を抱える万丈目本人は、

 

 

「クッソーーーーーっ!」

 

 

 と、その思いを夕焼けの空にぶつけることしかできなかった。

 




お久しぶりです。生きてました。
リアルが忙しかったのと、スランプ気味だったこともあり、約2ヶ月ほど更新止まってました。まだスランプ抜けきってないかもですけどね…

さて、オリキャラ重村武蔵についてです。
デッキは未来テーマである【超重武者】を【ベン-K】軸にすることで登場させました。
他にもキャラとデッキの候補は色々考えてみたんですが、最終的にこのような形に落ち着きました。

この場を借りて、バックボーンの解説をしておきましょう。
短期間とはいえ元プロの重村は、【超重武者】という初見ではまず対応が難しかろうなデッキを使っていますが、逆に過去に対戦経験があったり、前もって対策をされてしまうとあっさり負けてしまうことがありました。
スポンサー側としても勝ってもらわなければ困るので、魔法罠を入れられるデッキに変えるよう掛け合ってみましたが、重村はそれを聞き入れず、【超重武者】を使い続けました。結果、スポンサーに見切りをつけられてプロの世界から姿を消した……
という過去を持っています。

この先再登場するかは…正直わかんないっすね。出たとしてもデュエルするかどうか。
一応「出るならこんな感じかなぁ(デュエルするかはともかく)」っていう構想はあるにはあるので、その時はその時で。


更新が止まっていた間もお気に入り登録や評価をしてくださった方々がいるようで、思いの外たくさんの方々が読んで下さってるんだなと、正直意外でした。

今後の更新ペースはどうなるかわかりませんが、気楽に読んで頂ければ幸いです。



お気に入り登録・評価等くださった方々、ありがとうございます。
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