遺跡を見学する課外授業のはずが、どういうわけか命懸けのデュエルを行う運びとなった昴は、今はこの墓の中で最も高い建物の上で長と向かい合っている。
中央が四角く吹き抜けになっているその建物の下には明日香や十代が閉じ込められた例の柩があり、もし敗北すれば昴もあの仲間入りというわけだ。しかも生きたまま内臓を抜かれるという超嬉しくないおまけ付きで。
何はともあれ、この戦いは絶対に負けられない。なんとしてでも勝たねばならない。
「──準備はいいな?」
「ああ……待ってろ皆。必ず助ける──!」
「「
昴:LP4000 手札×5
VS
長:LP4000 手札×5
「先攻は儂だ。ドロー」
独自の形状のデュエルディスクからカードを引いた長は、手馴れた様子でターンを進めていく。
「モンスターを裏守備表示でセット。ターンエンドだ!」
昴:LP4000 手札×5
VS
長:LP4000 手札×5
セットモンスター×1
「俺のターン、ドロー!…手札の【リチュア・ビースト】をコストに、魔法カード【ワン・フォー・ワン】を発動。デッキからレベル1の【
【鰤っ子姫】
✩1 魚族 ATK0 DEF0
「召喚時効果で自身を除外し、デッキからレベル4以下の魚族モンスター【リチュア・アビス】を特殊召喚!」
【リチュア・アビス】
☆2 魚族 ATK800 DEF500
【アビス】の効果によって昴はデッキから【ヴィジョン・リチュア】を手札に加え、 効果でデッキから【リヴァイアニマ】をサーチ。更にそれをコストに発動した【トレード・イン】で、2枚ドローした。
「【リチュア・チェイン】を通常召喚。召喚時効果で、デッキトップ3枚を確認し、その中から【マインドオーガス】を手札に加える」
【リチュア・チェイン】
☆4 海竜族 ATK1800 DEF1000
残った2枚をデッキの上に戻し、昴は先生攻撃を仕掛ける。
「バトル!【リチュア・チェイン】で裏守備モンスターを攻撃──!」
「甘いわ!セットしていたのは【墓守の番兵】──守備力1900だ!」
【墓守の番兵】
☆4 魔法使い族 ATK1000 DEF1900
【チェイン】が投擲した鎖は【番兵】によって弾き返され、鎖の先端が昴を掠める。守備表示モンスターとの戦闘であるため戦闘破壊はされないが、僅かながらの反射ダメージを食らってしまった。
昴:LP4000→3900
「更に、【墓守の番兵】のリバース効果発動!【リチュア・チェイン】を手札に戻す──墓守の結界波動!」
【番兵】が放った赤い衝撃波を受けた【チェイン】が昴の手札へと叩き返されてしまう。昴の場にはもう攻撃可能なモンスターがおらず、ターンを終了した。
昴:LP3900 手札×6
【リチュア・アビス】
VS
長:LP4000 手札×5
【墓守の番兵】
「儂のターン!【墓守の
【墓守の暗殺者】
☆4 魔法使い族 ATK1500 DEF1500
「あんたは……!」
『………』
召喚に応じフィールドに現れた女暗殺者──フードと覆面で顔を隠しているが、背格好や目つきがサラと酷似している。まさか、隠れていた昴達が見つかったのは彼女が…?そんな憶測が脳裏を過る。
「行け!【墓守の暗殺者】で【リチュア・アビス】を攻撃!──
投擲され、風を切って襲いかかる短剣が【リチュア・アビス】をいとも簡単に破壊し、昴の場をガラ空きにする。
更にモンスターを突破した【暗殺者】の刃が、昴にもダメージを与えた。
昴:LP3900→2900
「──ぐっ!?ぅ……っ!」
突然脇腹に走った痛みに、顔を歪ませる。思わず右手で押さえた
「続け【墓守の番兵】!──番兵旋風撃!」
間髪入れず、無防備になった昴の体を三叉槍が貫く。再び走った激痛に、食いしばった歯の隙間から苦悶の声が漏れ出た。
昴:LP2900→1900
「…っはぁ…ッ!この痛み…ソリッドビジョンじゃない……ッ」
昴や十代が行ってきたこれまでのデュエルでは、ソリッドビジョンによる体感システムで衝撃を感じたり、鈍い痺れを感じることはあったが、ここまで明確な痛みは発生してこなかった。
これと似た事例として思い起こされるのが、冬休みに起きた十代とサイコ・ショッカーのデュエル。あの時、十代はダメージを受ける度に苦しそうな呻き声をあげていた。
「……なるほど。これも闇のゲームの1つってわけだ」
「怖気付いたか?余計な苦しみを味わいたくなければ、敗北を宣言しても良いのだぞ?」
「まさか。丁度、こんなデュエルをしてみたかったところだ。サレンダーなんて勿体無いだろ」
「フン…その空元気がどこまで保つか、見ものだな。見るがいい──!」
長が指し示した先で、明日香達が閉じ込められた柩の蓋が少しずつ閉じていく。どうやらあの柩は昴のライフと同期しているらしく、昴がダメージを受ければ受けるほど柩も閉ざされていくようだ。当然空気穴など用意されているはずもなく、蓋が完全に閉じれば中の皆が窒息死してしまうだろう。
「面倒な真似を……!」
「これは儀式だと言っただろう。儀式には生贄がつきものだ。ターンエンド」
昴:LP1900 手札×6
VS
長:LP4000 手札×5
【墓守の番兵】
【墓守の暗殺者】
「俺のターン、ドロー!」
正直この戦い、昴は分が悪い。
先ほどはあんな事を言ってみせたが、ダメージを負う度にあのような激痛が走るようでは、最悪デュエル中に意識を失う可能性も考えられる。
加えて、長の使うデッキは【墓守】──あのデッキは【リチュア】との相性がよろしくない。ガンメタとまではいかないが、三沢が以前使った【封魔の呪印】と同じように、【リチュア】の強みを打ち消すことのできるデッキだ。
加えて、そのキーとなるカードを処理する方法も昴には限られている。しかも運の悪いことに今現在の手札では速攻を仕掛けるのにカードが足りないのだ。
「──魔法カード【強欲なウツボ】を発動。手札の水属性モンスターを2枚デッキに戻してシャッフル。その後3枚ドローする」
デッキに戻したのは【リチュア・チェイン】と【リチュア・ビースト】。新たに引いた3枚を確認した昴は反撃に出る。
「手札の【シャドウ・リチュア】を墓地に送って効果発動、デッキから【リチュア】の儀式魔法を手札に加える。そして【リチュア・ビースト】を通常召喚!」
【リチュア・ビースト】
☆4 獣族 ATK1500 DEF1300
【ビースト】の能力で先程破壊された【アビス】が守備表示で墓地から復活。昴の手札に新たな仲間を呼び込んだ。
「儀式魔法【リチュアの儀水鏡】発動!手札の【マインドオーガス】を素材に【イビリチュア・ガストクラーケ】を儀式召喚!」
【イビリチュア・ガストクラーケ】
☆6 水族 儀式 ATK2400 DEF1000
「【ガストクラーケ】の効果発動!相手の手札を2枚見て、内1枚をデッキに戻す──ガスト・スキャニング」
儀水鏡が変じた杖から怪しげな光が発せられ、長の手札を透過させる。暴かれた長のカードは【墓守の司令官】と【ネクロバレーの玉座】。どちらも【墓守】のフィールド魔法をサーチすることができるカードだ。
「……戻すのは【玉座】だ」
手札を1枚削られた長だが、さしたる損害とは見ていないようで、表情にはまだまだ余裕がある。
「バトルだ!【ガストクラーケ】で【墓守の暗殺者】を攻撃!──イビル・テンタクルス!」
迫り来る触手が【暗殺者】の華奢な体を縛り上げ、そのまま握り潰すようにして破壊する。
「ぬぅ……っ!」
長:LP4000→3100
「続け【ビースト】──!」
牙を剥いた海獣は、獰猛な唸り声を上げ【番兵】に飛びかかる。三叉槍で何とか応戦した【番兵】だったが、【ビースト】の鋭い爪と牙の前には力及ばす、体を引き裂かれ破壊されてしまった。
長:LP3100→2600
「これでターンエンドだ」
昴:LP1900 手札×3
【イビリチュア・ガストクラーケ】
【リチュア・ビースト】
【リチュア・アビス】
VS
長:LP2600 手札×4
「儂のターン!──ライフポイントこそ私が上回っているが、フィールドの状況を覆して見せたことは賞賛しよう。だが!我々墓守の一族の力はこんなものではない!私は手札の【墓守の司令官】の効果を発動!」
先ほど昴が【ガストクラーケ】でピーピングした長のカード【墓守の司令官】は、昴の【シャドウ・リチュア】のように手札から捨てることで、デッキから【墓守】達のホームグラウンドたるフィールド魔法を手札に加える事ができるのだ。
「これこそが、我々墓守の一族の聖地!自らの愚かさを悔いるがいい!──フィールド魔法【王家の眠る谷-ネクロバレー】発動!」
地鳴りと共に、地の底から無数の岩がせり上がってくる。岩々はやがて巨大な渓谷を作り上げ、辺り一帯を冷ややかな空気で満たした。
「魔法カード【強欲な壷】を発動し2枚ドロー!更に【墓守の霊術師】を召喚する!」
【墓守の霊術師】
✩4 魔法使い族 ATK1500 DEF1500
「【霊術師】……まさか!?」
「【墓守の霊術師】の効果発動!王家の聖地たる【ネクロバレー】より力を授かり、融合の儀式を行う!」
【墓守の霊術師】は自分の場に【ネクロバレー】がある場合、魔法使い族融合モンスターの素材として【霊術師】自身と手札・フィールドのモンスターを墓地に送ることで、融合召喚を行うことができるのだ。
無論、素材に必ず【霊術師】を含む必要があったり、他の素材も召喚する融合モンスターの素材指定に従う必要があるが、普通に融合するよりもカード消費を少なく済ませられるのは大きなアドバンテージだ。
「儂は場の【霊術師】と手札の【偵察者】、2体の墓守モンスターを墓地に送り、融合召喚──いでよ【墓守の異能者】!!」
力の渦の中より現れたのは、膨大な力を纏った1人の青年。手にした杖を音高く地面に突き立て、昴達を鋭く睨みつけた。
【墓守の異能者】
✩7 魔法使い族 融合 ATK2000 DEF2000
「【墓守の異能者】の攻撃力と守備力は、融合素材となったモンスターの元々のレベルの合計×100ポイントアップする」
素材となった【霊術師】と【偵察者】の合計レベルは8。よって【異能者】の攻守は共に800ポイントアップするが、これで終わりではない。王家の聖地たる【ネクロバレー】が、この場所を守護する【墓守】の一族に力を与える。
「更に【ネクロバレー】の効果により、儂の場に存在する【墓守】モンスターの攻撃力と守備力が500ポイントアップだ!」
これで【異能者】の攻守は3300。彼の【
「【墓守の異能者】よ!【リチュア・ビースト】を消し去れ!──波動封滅陣!」
【異能者】が杖を媒介に術を発動させ、【ビースト】を文字通りフィールドから消し去ってしまう。大きく開いた攻撃力の差分、昴のライフが削られていく。
昴:LP1900→100
「エンドフェイズ時に【墓守の異能者】の効果が発動する。デッキから【墓守の呪術師】を手札に加え、ターンエンドだ」
昴:LP100 手札×3
【イビリチュア・ガストクラーケ】
【リチュア・アビス】
伏せ×1
VS
長:LP2600 手札×3
【墓守の異能者】
フィールド魔法:【王家の眠る谷-ネクロバレー】
第6ターン目にして追い込まれてしまった昴。
このターンで決着をつけるか、せめてライフを回復しなければ、次のターンに長が召喚するであろう【墓守の呪術師】の効果によって500ポイントのダメージを受け敗北が決してしまう。
幸いにも現在長の場に伏せカードは無い。ドローするカードによっては一気に勝負を決めることもできるだろう。
「……俺のターン!」
引いたカードを確認した昴の顔は浮かない。歯噛みしながらもやれる事をやる。
「モンスターをセット。【ガストクラーケ】を守備表示に変更。カードを1枚伏せてターンエンドだ」
昴:LP100 手札×3
【イビリチュア・ガストクラーケ】
【リチュア・アビス】
セットモンスター×1
伏せ×1
VS
長:LP2600 手札×3
【墓守の異能者】
フィールド魔法:【王家の眠る谷-ネクロバレー】
「万策尽きたといったところか。儂のターン!【墓守の呪術師】を守備表示で召喚!」
【墓守の呪術師】
✩3 魔法使い族 ATK800 DEF800
「召喚成功時に効果発動!貴様に500ポイントのダメージを与える!──衰弱の呪文!」
【呪術師】が昴には意味不明な呪文を紡ぎ、風前の灯となったライフを削りにかかる──!
「罠カード【神の氷結】!俺の場に水属性モンスターが2体以上存在する場合、相手モンスター1体の効果を無効にし、攻撃不能にする!」
詠唱を続けていた【呪術師】の体は一瞬で氷漬けになり、昴の首筋に手を伸ばしていた敗北もその動きを止める。だが依然として昴が不利なのは変わらない。
何せ【ネクロバレー】の効果によって、墓地に干渉するカードの効果が一切封じられているのだ。お得意の【サルベージ】によるループコンボも、【儀水鏡】による儀式モンスターの回収もできない。
更にその【ネクロバレー】も、【異能者】の効果によって守られ破壊できない。と、ないない尽くしだ。
「無駄な足掻きを──【墓守の異能者】!【ガストクラーケ】を攻撃しろ!」
【異能者】の攻撃で為す術もなく破壊される【ガストクラーケ】。守備表示故にダメージは入らないが、やはり3000を超える攻撃力を抑え込むことはできない。
「最早貴様のライフは虫の息。さしずめ、貴様には【墓守の異能者】を超える攻撃力を持つモンスターがいないと見た。儂は再び【異能者】の効果で【呪術師】を呼び寄せ、次のターンに貴様のライフを削り取る算段がついておるぞ」
そうでなくとも【月の書】などで一度【呪術師】を裏守備表示にしてしまえば情報がリセットされ、反転召喚でもう一度効果を発動できる。ゲームエンドのトリガーを握っているのは長だ。
「これが命とか掛かってないデュエルなら潔く負けを認められるんだが……生憎俺だけじゃなく皆の命もかかってるんでね。諦めるわけにはいかない」
「そうか…ならば精々死の淵で藻掻いてみせるがいい。ターンエンドだ」
ターン終了と同時に長の手札へ2枚目の【呪術師】が加わる。昴のカードでは凌げてあと1ターン。どうにかしなければ……!
昴:LP100 手札×3
【リチュア・アビス】
セットモンスター×1
伏せ×1
VS
長:LP2600 手札×4
【墓守の異能者】
【墓守の呪術師】
フィールド魔法:【王家の眠る谷-ネクロバレー】
「俺のターン!……魔法カード【強欲な壷】発動!デッキから2枚、ドローする!」
前世では使えなかった禁止カードの強さを身に染みて感じながら引いた2枚。このカード達が勝負を分ける。
「これなら…!──セットしていた【リチュア・エリアル】を反転召喚!リバース効果を発動する」
【リチュア・エリアル】
✩4 魔法使い族 ATK1000 DEF1800
【エリアル】の効果で手札に呼び寄せたのは、この状況を打開できる存在──【ソウルオーガ】だ。
「続けて手札の【シャドウ・リチュア】を墓地に送り、デッキから【リチュアの儀水鏡】を手札に加える!」
【ネクロバレー】の影響下にある限り、墓地に送られたカードは再利用できない。よって長に手札誘発系のカードで妨害されてしまえば、今度こそ昴に勝ち目はなくなる。
だがそれを恐れていてもどのみち敗北してしまうのだ。ならばここは突き進むのみ──!
「【リチュアの儀水鏡】発動!手札の【ガストクラーケ】と場の【リチュア・アビス】を素材にして儀式召喚──降臨せよ!【イビリチュア・ソウルオーガ】!!」
【イビリチュア・ソウルオーガ】
✩8 水族 儀式 ATK2800 DEF2800
猛々しく咆哮する【ソウルオーガ】を興味深そうに見る長だが、まだ危機感は抱いていないようだ。自身の召喚した【墓守の異能者】の効果によって【ネクロバレー】が存在する限り、長の場のカードは効果で破壊されない。しかもその要である【異能者】は3300と最上級クラスの攻撃力を誇り、戦闘での正面突破は困難を極める。おまけに守備表示の【呪術師】も【ネクロバレー】の効果で守備力が上昇しており、【エリアル】では戦闘破壊できない。
だがそんな状況を突破するだけの力が、この【ソウルオーガ】には秘められているのだ。
「【ソウルオーガ】の効果発動!手札の【リチュア・チェイン】をコストに、相手の場の表側表示のカードを1枚デッキに戻す!俺が選ぶのは──【ネクロバレー】だ!」
「何だとッ!?」
【ソウルオーガ】の咆哮が、周囲に聳える渓谷を跡形もなく吹き飛ばす。辺りに元の光景が戻ってきたと同時に、【ネクロバレー】がバウンスされたことで【異能者】の攻撃力が2800にダウンする。
「これで墓地のカードに干渉できる──墓地の【リチュアの儀水鏡】の効果発動!こいつをデッキに戻し、墓地の【リヴァイアニマ】を手札に加える!更に魔法カード【サルベージ】発動──!」
【サルベージ】で墓地の【シャドウ・リチュア】と【ヴィジョン・リチュア】が引き上げられ、【シャドウ】の効果で新たな【儀水鏡】が昴の手札に加わる。
「再び【リチュアの儀水鏡】発動!手札の【ヴィジョン・リチュア】を素材に、儀式召喚!──降臨せよ【イビリチュア・リヴァイアニマ】!!」
屈強な【ソウルオーガ】の横に並び立った、対照的に細身の体の竜人。腰の剣を抜刀し、両翼を大きく広げ雄叫びを上げる。
【イビリチュア・リヴァイアニマ】
✩8 水族 儀式 ATK2700 DEF1500
「バトルだッ!【ソウルオーガ】で【墓守の異能者】を攻撃!──リチュアル・ブラスト!」
球状となって撃ち出された儀水鏡の波動を、【異能者】は結界を張ることで受け止める。
攻撃を受け止められたと見るや、【ソウルオーガ】は巨体に似合わぬ俊敏さで敵に接近し、握り締めた拳で波動弾を殴りつけた──!【異能者】の結界が限界を迎え、表面に罅が入る。
次の瞬間──儀水鏡の波動弾が爆発を起こし、【ソウルオーガ】共々【異能者】を飲み込んだ。閃光と爆風が収まった後には、両者の姿は影も形も無くなっていた。
呆然とする長を待たず、昴は次なる攻撃に移る──!
「次!【リチュア・エリアル】で【墓守の呪術師】を攻撃──!」
杖を構え念じた【エリアル】の前に、青い魔法陣が出現。その奥から凄まじい勢いで水流が放たれる。【エリアル】も【呪術師】も、お互いに正面戦闘は不得手だったが、ここは僅かに攻撃力で勝る【エリアル】に軍配が上がった。
「ダイレクトアタックだ!【リヴァイアニマ】!──リヴァイアス・ストリーム!!」
竜人は剣の鍔に据えられた魔導鏡の力を刀身に収束させ、それを振り抜くと同時に解放する──!
青と赤の入り混じった力の奔流は長を飲み込み、残っていたライフポイントを余すことなく奪い去った。
長:LP2600→0
「──長っ!」
デュエルが終了し、モンスター達が姿を消していく中。墓守の面々は膝をつく長の元へ駆け寄った。
ダメージが現実のそれとなって襲いかかる闇のデュエルで受けた痛みだ。残りライフ僅か100まで追い詰められた昴も、その凄絶さは身を持って実感している。
だからこそ、安否を確認しようと昴も長達の元へ向かったのだが……
「貴様ッ!長に近づくな!」
と、兵たちが武器を突きつけてそれを許してくれない。どうしたものかと思っていると、彼らを制止する長の声が飛ぶ。
「止めろ、お前たち。──少年よ、見事な
「あんたの方こそ。とても面白いデュエルだった」
「……魂を賭けた闇のデュエルが面白かった、だと?」
「あー、まぁ流石に命を懸けるのはできれば勘弁して欲しいが……それはそれとして、本物のデュエルの精霊達とこうして戦うのは初めてだったからな。他じゃ得がたい、とても貴重な経験をさせてもらったよ。礼を言う」
最後の感謝の言葉は長ではなく、その傍らに佇む【墓守の暗殺者】──サラに向けた言葉だ。
先程から申し訳なさそうにしてこちらを見ようとしてなかったことからも、デュエル冒頭の昴の推測は当たっていたようだ。
「これまでにこの試練を乗り越えたものはただ1人……その者でも、お前のように礼を言える程の余裕はなかった……」
そう言いながら、長は懐から取り出したある物を昴に渡す。受け取ったのは、円形と思しきペンダント──その片割れだった。中央部には赤い石がはめ込まれている。
「これは……もう半分はどこに?」
「言っただろう。お前の前にもこの世界を訪れ、儀式に勝利し生還した者がいる。と…もう半分はその者が持っている。これから先、お前が再び闇のデュエルを戦わざるを得なくなった時、そのアイテムがきっと力を与えてくれるだろう」
「……そういうことなら、ありがたく貰っておく」
昴がペンダントに首を通したのを見届けると、長はフィールドの奥底──明日香や十代が閉じ込められていた石棺に手を翳す。すると重い音を立てながら柩の蓋が開き、皆の顔が見えてきた。同時に拘束も解けたようだ。
残りライフ100ポイントとなっては、柩はほぼ閉まっているも同然。その中に身動き出来ない状態で閉じ込められていた彼らの気持ちは筆舌に尽くしがたいものがある。
「ヒヤヒヤさせないでよ昴君!棺の中、めちゃくちゃ怖かったんだからね~!?」
「悪かったって翔……」
「でも、今こうして話せるのはあなたのお陰よ。ありがとう、流石昴ね」
王家の墓の前で棺から解放された一同と合流した昴は、肝心な事を質問する。
「この世界から戻るには、具体的にどうすればいい?」
「──天の3つの光、1つに重なり 光の幕が現れる前に、王家の墓の門よりいでよ──」
「門……あのアーチか」
「さあ、仲間達と共に元の世界へ帰るがいい」
最後に一言礼を言って帰ろうとした昴達だったが、その行く道を墓守の兵士達が遮った。
「お前達、何をしている──!?」
「王家の墓を暴きし者には、裁きを!」
──裁きを!──
「止めろ!この者は掟に従い、儀式を乗り越えたのだ!」
どうやら長の意思に反し、この兵士達はあくまでも掟を遵守するつもりらしい。昴が勝利したデュエルも、その掟のひとつだった気がするのだが……
──裁きを!──裁きを!──
──裁きを!──裁きを!──
長の言葉も最早聞く耳を持たない兵士達は、一斉に武器を構えてこちらへ迫ってくる。
槍の穂先が昴の頬を掠めようとした瞬間──鋭い音と共に槍がはね除けられた。
思わず閉じてしまった目を開くと、そこには両手に短剣を携えたサラの後ろ姿があった。
「貴方達の世界に帰ったら、そのアイテムの半身を持っている人にこう伝えて──サラは、例え異世界にいても貴方の事を忘れません。またいつかお会いできる日を信じています──と」
その言葉の真意を確かめるよりも早く、サラが言葉を続ける。
「──長の言葉が聞こえなかったか!この少年は儀式に勝利したのだ!神聖なる墓守の誇りを忘れたかッ!彼らに手を出すならば、私が相手になる!」
サラの言葉に気圧された兵士達は、不承不承といった様子で道を開ける。
「さあ早く!行って!」
「助かる、ありがとう──!」
左右の兵士達を警戒しながら、一同は門に向かって走り出した。上空では、3つの太陽が既に重なり始めている。急がなければ帰るタイミングを逃し、場合によっては二度と帰れないなんてことも考えられる。
「急げ──っ!」
時間がないという事を察した他の皆も走るペースを上げるが、最後尾を必死に追い縋っていた隼人が段差に躓き転んでしまう。
「隼人!大丈夫か?」
「うぅ…大丈夫じゃ、ないんダナ……」
どうやら足をやってしまったようだ。これでは歩けても走るのは無理だろう。歯噛みする昴達の頭上では、太陽が完全に1つに重なり、周囲に光の幕が現れ始めているところだ。
『ちょっとどいてマスター。痛みを和らげるから』
実寸大の大きさに体を戻したエリアルが、隼人の足に手を翳して淡い光を発する。きつく顰められていた顔はすぐに落ち着きを取り戻した。だが完全に痛みが取れたわけではないらしく……
「俺のことはいいから!早く逃げるんダナ!」
「そんな訳にいくか!ほら立て!」
十代と昴が肩を貸し、隼人の巨体を協力して支える。立ち上がることはできたが、移動速度は牛歩の如く落ち込んでしまう。
それでもとにかく進まなければ……その時だった。隼人の腰のデッキケースから光が。やがてその光は大きさを変え、隼人のお気に入りのモンスターである【デス・コアラ】が姿を現した。
突然の事に唖然とする皆を尻目に隼人をおぶったデス・コアラは、コアラらしからぬ速度で走り始める。
『──急いで!もうすぐ門だよ!』
ようやくたどり着いた墓の門。一見出口のようなものが出現しているようには見えないが、昴たちが近くに足を踏み入れた瞬間、石畳の隙間から、ここに来た時と同じように緑色の光が。
どんどん激しさを増していく光はすぐに全員を飲み込み、昴達の意識はホワイトアウトした。
──不意に、そよ風が頬を撫でる。
『起きて、マスター。マ~スタ~、お~い』
澄んだ声で目を覚ました昴は、古びた遺跡に背中を預ける形で意識を失っていたらしい。隣には昴に凭れるようにして明日香が眠っており、周りには十代達や大徳寺の姿もある。目の前のアーチが半壊していることから、どうやら無事に元の世界へ戻ってこれたようだ。
足元に落ちていた【エリアル】のカードを拾い上げた昴は、果たしてアレは現実に起こった事だったのかと思考を巡らせる。
「王家の墓での出来事は全部夢……なわけないか」
墓守の長との闇のデュエルで受けた痛みの感覚は今も鮮明に覚えているし、何より昴の首からぶら下がるペンダントが、あのデュエルは現実のものであることを裏付けていた。
「……墓守の長は、俺がまた闇のデュエルを行う時、このアイテムが力を貸してくれるって言ってたよな」
『うん。そしてそのアイテムの半分は、マスター達よりも前にあの世界を訪れた誰かが持ってる』
言葉だけを見るなら、このペンダントは記念にもらったお守りくらいに思える。だが昴は長の言葉の真意に1つの推測を立てていた。
「……つまり、闇のデュエルは精霊達だけのものじゃない。こっち側の世界にも存在する。ってことか」
胸の内に一抹の不安を遺した今回の騒動。
その不安が現実となる時は、そう遠くないのかもしれない。
みなさんお久しぶりです。そして、明けましたねおめでとございました。
今回の話でGXストーリーの中では一応1区切りがついた感じになります。次回からはいよいよセブンスターズ編が始まりますが…次の更新はいつになるか不明デス。
お気に入り登録や感想くださった方々。ありがとうございます!