正直不安しかありません!頑張ります
この間に引き続き、錬金術の授業を受けていた昴達。
例の如く居眠りをしている者もいる中、教室に授業終了のチャイムが鳴り響くと、待っていましたとばかりに伏せていた頭を起こす生徒がいた。言わずもがな、遊城十代だ。
トメさん印の特製弁当を満面の笑みで開ける十代だったが……
「──遊城十代君。お昼はちょっと待ってください。先に私と校長室へ行くのだにゃ」
「んぇ?校長室?」
「十代、お前また何か怒られることしたのカ?」
「いや、んな記憶ないんだけどなぁ……」
「フン。お前のような万年デュエルバカの頭じゃ、自分がしでかした事も覚えられないようだな。短い付き合いだったが、これでサヨナラだ」
と、後方の席から野次を飛ばしたのは最近本校に復学した万丈目。かつてはオベリスク・ブルーだった彼も、今や出席日数の関係で十代達と同じオシリス・レッドの一員となっている。
「万丈目君。あなたも来て下さい」
「えぇ…っ!?」
「それから三沢君に昴君、明日香さんも」
「俺たちも……?」
何かと教師(主にクロノス)の悩みの種となりがちな十代だけならいざ知らず、成績優秀な模範生である三沢や明日香までもが一緒に呼び出されたということは、少なくとも退学だなんだという話でないのは確かだ。
他の生徒たちが教室を後にする中、昴達は大徳寺に連れられ、校長室へ向かった。
「あの、大徳寺先生。このメンバーが呼び出された理由は何なんですか?」
「さぁ…?実を言うと、私も詳しくは聞かされてないのにゃ」
訝しみながらも大徳寺の後について行った昴達。校長室の前に到着したところで、向かいから歩いてきたクロノスと亮の2人と鉢合わせた。
「カイザー…まさか、お前も校長室に?」
「ああ、呼び出された。理由はクロノス教諭も知らないようだが」
いよいよもってキナ臭い事になってきた。ここに集まっているのは、学園でも指折りの実力者達だ。そんな彼らを集めて、鮫島校長は一体何を考えているのだろうか?
「何はともアーレ、校長の話を聞けば分かることでスーノ……しかし、これは間違い探しか何かデスーノ?1人だけ場違いな仲間はずれがいるノーネ」
クロノスの視線は明らかに十代に向けられているが、当の十代は
「気にするなよ、サンダー」
「お前の事だ!」
と、素なのかよく分からない反応で見事に躱してみせた。
そんな茶番を経て、いざ校長室に集まった8人。
席を立ちジッと外を見ていた鮫島は、このメンバーを招集した理由について、ゆっくりと語り始めた──
この島の地下深くには、【三幻魔】と呼ばれる古より伝わりし3枚のカードが封印されている。
島に伝わる伝説によると…三幻魔が世に放たれれば世界は魔に包まれ、混沌が世を覆い、人々に巣食う闇が解放され、やがて世界は破滅し無に帰す…そんな力を持ったカードなのだそうだ。
「──その三幻魔の封印を解こうと、挑戦してきた者達が現れたのです。七精王──セブンスターズと名乗る7人の決闘者達が」
「どこの誰かはわかってるんですか?」
「いいえ。名前も容姿も、素性が一切知れない謎の集団ですが…既にその1人がこの島に足を踏み入れています」
三幻魔が封印されている地下の遺跡──そこでは「七精門」という7本の巨大な石柱が、カードを守っている。封印を解く為には、7つの鍵によってロックされた七精門を全て開かなくてはならない。
「そしてコレが、その7つの鍵です。セブンスターズはこの鍵を奪おうと我々に挑んでくるでしょう。そこで──あなた達にこの鍵を守って頂きたい」
「守るも何も……三幻魔の封印を解かせたくないなら、いっそその鍵を破壊してしまえばいいのでは?」
昴の言うことも尤もだ。話を聞いた限りでは、三幻魔はどのような状況化であっても解き放たれてはならない、永久的に封印されるべき存在。その門を開くための鍵が失われれば、封印が解かれることはないはずだ。
「そういう訳にも行きません。この鍵は、七精門の石柱から削り出されたものです。この鍵を壊すことは、門を壊すことと同義。正規ではない方法で無理矢理目覚めた三幻魔の力がどのような影響を及ぼすか分からない以上、セブンスターズ側としても、あくまで鍵を奪いに来るでしょう」
そしてその方法は──
「勿論──デュエルです」
鮫島の言葉を聞いた一同は、ハッと目を見開く。
「七精門の鍵を奪うには、デュエルで勝ち取る他無い…これも古より、この島に伝わる約定。だからこそ、学園でも屈指の決闘者であるあなた方に集まってもらったのです。──まぁ、約1名程数合わせに呼んだ者もおりますが」
鍵の数は7個。ここに集まった人数は8人。その内生徒である昴達6人は確定として、アカデミアの実技担当最高責任者であるクロノスも、デュエルの実力は非常に高いが……まさか彼が数合わせだろうとは言わぬが花だろうか。
「セブンスターズは鍵を持つ者に挑戦してきます。いつ、どのような状況で襲って来るかわかりません。あなた方に、セブンスターズと戦う覚悟を持って頂けるなら……どうか、この鍵を受け取って欲しい」
デスクに置かれた小箱。その中には、パズルのように分割された7つの鍵が収められていた。
「………」
余りにも突飛な話過ぎて、三沢も明日香も万丈目も、すぐには決断ができないようだ。亮も昴も、慎重に考えた上で答えを出そうとしている。そんな中、十代だけは真っ先に鍵を手に取った。
「おもしれえじゃん。やってやるぜ!」
「ふっ…そうだな。デュエルを挑んでくるというなら、返り討ちにするだけだ」
十代に続き、亮も鍵を受け取る。そこから更に三沢、明日香、万丈目と鍵を取り、残りは2つ。
正規メンバー最後の1人である昴が、意を決して鍵に手を伸ばした瞬間──
「──その話、私も混ぜてもらおうかしら?」
不意に背後から聞こえた妖艶な声。振り返った先には、腕を組んで佇む雪乃の姿があった。
「雪乃……どうしてここに?」
「あなた達が校長室へ呼び出されたと聞いたものだから。興味本位で来てみれば……随分と楽しそうな話をしてるじゃない。私を除け者にするなんて酷いですわ、校長先生?」
「しかし……君には芸能界の事もあるでしょう。ご両親に何も言わず、危険な戦いに巻き込むわけには──」
「それは私に限った話ではないでしょう。まさか、昴や明日香は巻き込んでもいい…なんて仰るつもりかしら?」
ただでさえノース校との学園対抗戦で戦えなかったことを根に持っているのだろう。頑として譲らない雪乃の弁舌に鮫島も反論できない。
「それに、私を外したから数合わせの先生が入ったのでしょう?それが元に戻るだけ…何の問題もないはずよ」
学内の実力者を集めたならば、自分がいなければおかしい。そう言い切れる大胆不敵さ。これこそが藤原雪乃という女だ。
「むぅ……分かりました。藤原雪乃くん。あなたにも、セブンスターズとの戦いに力を貸して頂きたい」
「ええ。もちろんですわ校長先生」
満足げに笑みを浮かべた雪乃は、残った2つの鍵の内1つを手にした。最後の1つを改めて昴が受け取ったことで、鮫島が当初予定していたメンバーに七精門の鍵が行き渡る。
「ちょちょちょ!ちょっと待つノーネ!?それデーワ、私が呼ばれた意味がなくなりまスーノン!?」
クロノスが受け取るはずだった鍵が雪乃へ渡ったことで、数合わせだったクロノスは完全にお役御免となってしまった。少し考えた鮫島は、クロノスと大徳寺に新たな役目を言い渡す。
「先生方には、セブンスターズとの過酷な戦いに身を投じる彼らのサポートをお願いします。生徒達のことを支えてあげてください」
「そういうことなら、お任せアーレ!しかし校長、変に生徒達を脅かすのはいけませんノーネ。要するに、学園の看板を道場破りが奪いに来ると考えればいいノーネ!」
「まあ……
「道場破りかぁ……俺だったら一番強い奴から戦うだろうな──俺ってか?」
「それは断じて違いますノーネ!実力から言えばこのワタクシーか、或いはカイザーことシニョール丸藤亮ナノーネ!」
冗談めかして自分が一番強いと言った十代の言葉を一蹴したクロノスだが、彼自身は鍵を持っていない為セブンスターズの標的には成り得ないはずだ。
「それに遊城十代!私の調べによれば、あなたは以前の学園代表選抜デュエルでシニョール加々美にコテンパンにされただけでな~ク、カイザー亮にもボコボコに負けているノーネ!」
痛いところを突かれた十代は、ギクリとする。
「そういう
「ギクッ!そ、それとこれとは別問題なノーネ!?」
万丈目からの思わぬ意趣返しを食らったことで、これ以上クロノスの十代いびりが続くことはなかった。
「──ありがとう。今この瞬間から戦いは始まっています。どうか、いつでもデュエルのスタンバイをしておいてください。そして必ずや【三幻魔】のカードを──七精門の鍵を守りきってください」
「──ってなわけで…その鍵を守る7人に俺と昴が選ばれたんだ」
その日の夜──夕食を終え、早い者はベッドに潜り込む時間に、昴はレッド寮にある十代達の部屋を訪れていた。
「アニキも昴君も凄いよ!あの校長先生から直接頼まれたんでしょ!?」
「でも俺は、その三幻魔のカードに興味があるんダナ。一体どんなカードなのか、一度見てみたいんダナ」
「ああ、どんなスゲーカードなんだろうな……昴も気になるだろ?」
「──ん?あ、ああ…そうだな」
ここにいる面子の中では、唯一昴だけが三幻魔のカードの詳細を知っている。
それぞれ単体で強力な効果を持つ反面、召喚が中々難しく、3体の幻魔を同一デッキ内に共存させることはほぼ不可能と言われていたのはよく覚えているが……確か、昴がこの世界に来る少し前に三幻魔の強化があったはずだ。しかし身内で【三幻魔】使いがいなかったこともあり、肝心の内容を覚えていない。
「……どうかしたのか?さっきから黙ってばかりだけど」
「いや、何でもない。それよりセブンスターズだが、最初は誰の所に来ると思う?」
「さぁな。一番強い奴の所に行くんじゃないかってのは変わんないけど、クロノスが言うには一番強いのは俺じゃなくてカイザーらしいし。あー、俺んとこに来ねーかなぁ」
「どうだかな……案外来るかもしれないぞ」
「え?なんで?」
「それってやっぱり、俺が一番強いってことか!?」
昴の言葉に、十代は期待に満ちた顔で詰め寄る。
「誰が一番強いかはともかく、だ。今現在、七精門の鍵が一番多く集まっているのはどこだ?」
「えっと……」
現在鍵を持っているのは昴、十代、亮、万丈目、三沢、明日香、雪乃の7人。
その中で、三沢はイエロー寮におり、万丈目はレッド寮の下の部屋。亮はブルー男子寮。明日香と雪乃は女子寮。昴と十代はこうしてレッド寮にいる。
現在鍵が多く密集しているのは、明日香や雪乃のいる女子寮と、昴と十代、万丈目がいるこの寮。そして2つの鍵がすぐ手の届く距離にある場所は、この部屋だけだ。セブンスターズにとって、これほど狙うのに好条件な場所は無い。
敵としても学園に実力差カーストがあることくらいは調べているはず。であれば、外部の人間から見て最も弱い十代がいて、しかも上手くいけば鍵が一気に2つ手に入るこの部屋こそ、セブンスターズの刺客に襲撃される可能性が最も高いということだ。
「……何か俺しれっと馬鹿にされてないか?」
「気のせいだろ。ま、あーだこーだ言っても実際どうなるかはその時にならないと分からんさ。──そうだ、十代。少し話がある」
小首を傾げる十代を連れて、昴は寮の廊下に出る。
「何だよ急に?」
「これは、めちゃくちゃ外れて欲しい俺の予想なんだが……七精門の鍵を巡る戦い、その中で行われるのは、闇のデュエルかもしれない」
「闇の、デュエル……」
十代の脳裏に、冬休みに行われたサイコ・ショッカーとのデュエルが思い起こされる。あれは十代の体が透ける現象といい、ダメージを受けた時の痛みといい、通常のデュエルとはかけ離れたものであったことは確かだ。
「俺がここに来たのも、それが理由だったりする。多分、鍵を持ってる決闘者の中で闇のデュエルを経験したことがあるのは、俺とお前だけだからな」
一切の情報が不明なセブンスターズとの初戦。万が一闇のデュエルであった場合でも、事前にそうと構えておけば精神的な面で多少は違うはずだ。
「そういうことだったのか……でもまあ、そんなに気にしなくても大丈夫だと思うぜ?あいつら全員、強いんだしさ。まっ、俺程じゃないけどな!」
眠いし早く戻ろうぜ。と、大きな欠伸をしながら部屋に戻っていった十代。昴は
「……俺の杞憂で済めばいいんだけどな」
と、独りごちた後に、十代の後を追った。
時は進み、深夜──来客用の布団など無い為、壁に背中を預けた状態で座って眠る昴の耳元で、澄んだ声が聞こえた。
『マスター起きて!マスター!』
「ん……っエリアルか?一体どうし……っこれは…!?」
目を覚ました昴が見たのは、部屋の中に出現した光のドームだった。
「──うおっ!?なんだこれ!?」
十代もハネクリボーに起こされたらしく、この状況を見て驚愕の声を上げる。
「おい翔!起きろ!隼人も!」
セブンスターズの刺客が本当にやってきたのだと察知した十代は、翔と隼人を逃がそうと布団の上からビシバシ叩くが、寝息が聞こえるばかりで全く反応がない。
十代の代わりに周囲を警戒していた昴は、首に下げたペンダントが光を発していることに気づく。墓守の長は、昴がまた闇のデュエルを行う時にこのペンダントが力を発揮すると言っていた。つまり……
「油断するなよ十代!向こうが何をしてくるかわからないぞ!」
「くそ……ああ!」
一方──ほんの少し時は遡る。
深夜に1人女子寮を抜け出した明日香は、レッド寮へ向かっていた。
「(十代はああ言ってたけど…やっぱり普通は倒し易い者から潰していくのがセオリーだわ)」
寮を出る前に昴にメールで連絡してみたが、返信がない。もしや、十代の予想通りに……そんな嫌な予感が頭を過るが、昴ならば大丈夫だと自分を納得させる。
目的のレッド寮がすぐ前に見えてきた時だった。部屋の1つから、怪しげな光が漏れ出ているのが目に入った。
「あの部屋は……十代の!」
危機を察知して走り出す。階段を駆け上がり、十代達が寝ているはずの部屋のドアを勢いよく開ける。
「──無事なの十代っ!?」
「明日香!」
「お前なんでここに…!?」
「昴…!あなたこそどうして──!?」
明日香がドームの中に足を踏み入れた瞬間──昴達の視界は白く埋め尽くされた──。
視界が晴れると、そこは灼熱だった。
今の今まで昴達がいたレッド寮の部屋とは似ても似つかぬ、熱風渦巻く地獄の入口──ここは島にある火山の火口だ。その上に昴、十代、明日香の3人は立っている。
不意に、煮え滾る溶岩の中から炎が噴き上がった。その炎は長い身体の竜を形作り、昴達の前に舞い降りる。燃え盛る炎の中から、仮面で顔を隠し、漆黒のロングコートに身を包んだ人影が現れた。昴は身構えながら口を開く。
「──お前がセブンスターズからの刺客か」
「察しがいい──我が名はダークネス。セブンスターズの1人。私の最初の相手はお前だ」
「へぇ…!やっぱり俺が一番強いってことか!相手になるぜ!」
「違う」
「えっ──?」
意気揚々と進み出た十代だが、ダークネスの仮面の下の視線は最初からまっすぐ1人だけを捉えていた。
「加々美昴。お前が私の相手だ」
そう言って、ダークネスは首に下げたペンダントを握り締める。すると、七精門の鍵と一緒に昴の首に下がっているペンダントが光を発し始めた。ダークネスのペンダントも同様に。
「これは……」
「何故だか分からんが、このペンダントの光に導かれた。妙な縁もあるものだ──だがそんな事はどうでもいい。私が欲しいのは、お前の首に揺れる七精門の鍵!お前からそれを奪ってみせよう…闇のデュエルでな!」
「やはり闇のデュエルか……っ!」
「そうだとも。そして闇のデュエルは既に始まっている」
どういうことかと聞き返そうとした矢先──
──アニキー!明日香さーん!──
──十代!昴!──
どこからか、翔と隼人の声が聞こえた。十代と明日香も辺りを見回すと……
「──あっ!あそこよ!」
明日香が指さした先では、溶岩に浮かぶ岩の上に取り残された翔と隼人の姿があった。
「今はまだ光の檻で守られているが、時が経つに連れて檻は消えていく。デュエルが長引けば、彼らはマグマの中だ」
「戦いに無関係な者を巻き込む気か!」
「生半可な事を言うな。七精門の鍵を賭けたこの戦い、お前には骨肉の一片、血の一滴に至るまで力を絞り尽くして戦ってもらう。これはその為に態々用意した舞台だ」
「そんな事をせずとも、俺は──ッ!」
昴の言葉を無視し、ダークネスは続ける。彼の手には、禍々しいオーラを放つ1枚のカードがあった。
「更に、このデュエルに敗北した者はその魂をこのカードに封印される。お互いの魂──文字通り命を賭けて、我々はこの戦いに臨むのだ。それこそが私の闇のデュエル!」
ダークネスの言葉を後ろで黙って聞いていた明日香は愕然とする。デュエルで命のやり取りをするなど、今まで聞いたことがない。
「ねぇ十代…コレは現実なの?」
「……もしかしたら、夢や幻かもしれねぇ。けど、俺や昴は以前にもこんな戦いを経験したことがあるんだ。もし負けていたらどうなったのかは分からない。でもデュエルそのものは間違いなく現実だった!だから今回も……!」
「そんな……っ!」
息を呑んだ明日香は、目の前でダークネスと対峙する昴を見る。まさかとは思うが、以前見た異世界に迷い込んだ夢──あれも現実だったというのか。
「昴……っ!」
「──いいだろう。このデュエル。受けて立つ!」
「ほう、思っていたより決断が早いな。勇猛なる決闘者は私としても好ましい。──ならば始めよう!お互いの命を賭けた、血湧き肉躍る闇のデュエルを!」
「待ってろ、翔、隼人…絶対に助ける!来い、ダークネス──ッ!」
「「
幻魔を封じる七精門の鍵と、熱き決闘者達の命を賭けた戦いの火蓋が切られた──。