セブンスターズ第2の刺客、吸血鬼カミューラ。
闇のカードである【幻魔の扉】を用いた卑劣な策略によって、七精門の鍵が1つ奪われてしまった。
カミューラの次なるターゲットは、自ら相手を名乗り出た雪乃。
帝王を謀殺した吸血鬼に鉄槌を下すべく、アカデミアの女帝のデュエルが始まろうとしていた。
「──逃げずによく来たわね」
「逃げる?一体何から逃げる必要があるというのかしら」
「フン、そういきがってられるのも今の内よ。闇のデュエルの恐ろしさに震えるあなたを見るのが楽しみだわ」
昨日に続き、再び古城に足を踏み入れたアカデミアの生徒達。以前亮が立っていた場所には、雪乃が静かに佇んでいる。
「そうねぇ……3回連続で同じルールというのも芸が無いし、1つルールを追加しましょう。あんたが負けたら、仲間達の前で服を全て脱いで私に土下座してもらうわ。昨日私に生意気な目を向けた罰よ、徹底的に辱めてから人形にしてあげる」
「……いいわ。受けてあげる」
「あら、意外と素直ね。勝って私にさせたい事でもあるのかしら?」
「私がこのデュエルで求めるのは勝利だけ。あなたを倒して、人形になった2人を元に戻す。それ以上は望まないわ──芸も無ければ品も無いあなたと一緒にしないでもらえるかしら、
雪乃のこの言葉で、場の空気が一瞬凍りつく。下で成り行きを見守る昴達も揃って苦笑い──皆一様に難しい表情をしていた。
「この小娘……誇り高きヴァンパイアに喧嘩を売ったこと、後悔させてあげるわッ!」
淡々と言葉を返す雪乃にカミューラは苛立ちを隠そうともしない。デュエルディスクにデッキをセットし、双方スタンバイが完了する。
「命乞いをする準備はいいかしら、小娘!」
「………」
雪乃は眼下で勝負を見守る昴に目を向ける。対する昴も、目線と一緒に頷きを返した。それを見て小さく笑った雪乃は視線をカミューラに戻し、
「──始めましょう」
「「
雪乃 :LP4000 手札×5
VS
カミューラ:LP4000 手札×5
「私の先攻、ドロー ──【マンジュ・ゴッド】を召喚」
【マンジュ・ゴッド】
☆4 天使族 ATK1400 DEF1000
「召喚時効果でデッキから儀式魔法【エンド・オブ・ザ・ワールド】を手札に加えるわ。カードを1枚伏せてターンエンド」
雪乃 :LP4000 手札×5
【マンジュ・ゴッド】
伏せ×1
VS
カミューラ:LP4000 手札×5
「あらあら、威勢のいい啖呵を切っておいて随分消極的じゃない──私のターン!魔法カード【ワン・フォー・ワン】発動!コストとして手札の【馬頭鬼】を捨てて、デッキからレベル1の【ヴァンパイアの使い魔】を特殊召喚!」
【ヴァンパイアの使い魔】
☆1 アンデット族 ATK500 DEF0
「【使い魔】は特殊召喚された時にライフを500払う事で、デッキから【ヴァンパイア】を1体手札に加える事が出来る──【ヴァンパイア・ソーサラー】を手札に」
角を生やした小さなコウモリの導きによって、カミューラの手元に新たな同胞が加わる。
カミューラ:LP4000→3500
「【ヴァンパイアの幽鬼】を召喚し効果を発動!コストとして手札の【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】を捨て、デッキからレベル2の【ヴァンパイアの眷属】を墓地に送り、更にデッキからレベル8の【竜血公ヴァンパイア】を手札に加えるわ」
【ヴァンパイアの幽鬼】
☆3 アンデット族 ATK1500 DEF0
「折角のエースモンスターを墓地に送ってしまっていいのかしら?アドバンス召喚しておけば、私のモンスターを奪えたはずよ」
「あらやだ、小娘はこれだから困るわ。この学園じゃ青い服の子は優秀だって聞いていたけど……戦略を理解出来ないような小娘が優秀だなんて、世も末ね──墓地の【馬頭鬼】は、自身を除外することで墓地にいるアンデット族を1体復活させられるの。だからわざと捨てたのよ」
まるで授業を行うかのような口ぶりで、墓地から【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】を復活させる。
【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】
☆7 アンデット族 ATK2000 DEF2000
「まだ終わらないわよ。永続魔法【ヴァンパイアの領域】発動!当然効果を発動するわ!」
カミューラ:LP3500→3000
ライフを500払った事で、カミューラはもう一度【ヴァンパイア】の通常召喚が可能となった。フィールドにはエースである【ヴァンプ】の他に、モンスターが2体……そして先程手札に加えたのは──
「【使い魔】と【眷属】をリリース──【
【
☆8 アンデット族 ATK2800 DEF2100
「バトルよ!【竜血公ヴァンパイア】で【マンジュ・ゴッド】を攻撃!──ブラッディ・カズィクル・ベイ!!」
【竜血公】の攻撃力は2800と【マンジュ・ゴッド】の2倍だ。このままでは1400のダメージを被るだけでなく、【ヴァンパイアの領域】の効果によってカミューラのライフが回復する。【ヴァンプ】の直接攻撃も合わせれば、攻撃後のライフは雪乃が600に対しカミューラは6400と大幅に差をつけられてしまう。
だが雪乃とて、それを警戒していなかった筈がない──!
「カウンター罠【攻撃の無力化】を発動──【竜血公ヴァンパイア】の攻撃を無効にして、バトルフェイズを終了するわ」
「チッ…生意気──カードを1枚伏せてターンエンド」
雪乃 :LP4000 手札×5
【マンジュ・ゴッド】
VS
カミューラ:LP3000 手札×1
【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】
【竜血公ヴァンパイア】
永続魔法:【ヴァンパイアの領域】
伏せ×1
「凌ぎはしたが……現状、藤原の方が分が悪いか」
「えっ?でも雪乃さん、まだ儀式召喚もしてないし……」
「確かに藤原雪乃の儀式モンスターは強力だが、その攻撃力は2400だ。戦闘を挑むのを躊躇いそうになる、絶妙な間合いと言えるだろう」
雪乃のエースである【終焉の王 デミス】は強力なモンスターだ。しかし翔は万丈目や三沢の考えが上手く掴めず、疑問符を浮かべる。
「攻撃力2400なら、【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】には勝てるんじゃ……?」
「お前、昨日のカイザーのデュエルを忘れたのか?あのドラキュラ女が使っていた罠カードの事だ」
万丈目に言われて、翔は彼らが言わんとするところを理解した。
亮とのデュエルでカミューラが発動していた【ヴァンパイア・シフト】──正確にはそれによって直接発動されるフィールド魔法【ヴァンパイア帝国】は、戦闘を行うアンデット族モンスターの攻撃力を500アップさせる効果を持っていた。例え儀式召喚を行った所で、不用意に戦闘を挑めば返り討ちにされる危険性があるのだ。
「で、でも!だったら【デミス】の効果で全部破壊しちゃえば……!」
「確かにそれなら、ダイレクトアタックを決めることが可能にはなるだろう。しかし……」
「逆にそれで決めきれなければ、藤原はライフを2000失った状態で追い込まれることになる──あのインチキカードでな」
「あっ……!」
時は少し遡り──日が完全に沈み切ろうかという夕刻。
デュエルアカデミアの保健室で、昴と雪乃が真剣な表情で話し込んでいた。
「──とまぁ、カミューラが使う【ヴァンパイア】デッキの厄介な点は、俺が知る限りじゃこんな所だ」
「注意すべきはこちらのターンに召喚してくる【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】によるモンスター奪取と、【竜血公ヴァンパイア】の蘇生効果ね。【高等儀式術】で墓地に送った素材がそのまま使われてしまう」
「加えて、あのフィールド魔法【ヴァンパイア帝国】には、相手のデッキからカードが墓地へ送られると場のカードを破壊する効果がある。【高等儀式術】を使う時は警戒してくれ。それと──」
カミューラとのデュエルはできる限り短期決戦を心掛けたい。特にライフ消費の激しい雪乃の場合"あのカード"を発動されると巻き返しはほぼ不可能と言っていいだろう。
「──問題は【幻魔の扉】ね」
発動時に使用者の魂を三幻魔に預けることで、相手のモンスターを全滅させた上で好きなモンスターを蘇生できる【幻魔の扉】──雪乃の場合、切り札である【デミス】を奪われると極めて厄介だ。【幻魔の扉】の効果範囲外にある魔法・罠カードまで焼き払われてしまう。もっと言えば、カミューラのデッキは【ヴァンパイア】──あのデッキは【デミス】の効果で払ったライフを回復することもできる。
「……まぁ効果以前に、あのカードは使われたら詰みだ。また誰かの魂を身代わりにされれば、手出しが出来なくなる。見た感じ、幻魔に魂を預けるのは発動コストだから、仮に【マジック・ジャマー】なんかで無効にしたとしても、一度払ったコストは帳消しにならない」
【幻魔の扉】──もといカミューラの戦術の最も厄介な点がそこだろう。例え効果が無効になろうとも、発動の為に払った代償は戻ってこない。あのカードを使った時点で、カミューラは仲間の魂という強力な盾を手に出来るというわけだ。
「あのカードを発動される前にとっとと倒せればいいんだが……」
「そう上手く事が運ぶとは思えないわね」
全く同意見だった。最も理想的なのは後攻ワンターンキルだが、【ヴァンパイア】には強力な妨害罠が存在している。いずれのデュエル展開でも必須となる【デミス】の効果を止められてしまえば、一転して雪乃の不利になるだろう。
【王宮の勅命】
【魔封じの芳香】
【魔法族の里】
魔法カードの発動を根本的に封じるこれらのカードは、儀式デッキを使う雪乃自身の首をも締めてしまう。新しいデッキを一から組む時間も無い。
「くそ……どうすりゃいい?何か無いのか……!」
頭を悩ませる昴と雪乃。そんな2人を少し離れた場所で心配そうに見つめているのは、同じく保健室で眠っている兄 吹雪に付き添う明日香だった。
「(ようやく兄さんが帰ってきたのに、今度は亮が犠牲者になってしまうなんて……このままじゃ、雪乃も──)」
「う…ぐ──」
「えっ……?」
不意に聞こえた呻き声。その主は、目の前で眠っている吹雪だった。まさか目を覚ましたというのか?
「兄さん……!?」
切迫した明日香の声を聞きつけ、昴と雪乃も吹雪のベッドに向かう。
「何かあったのか?」
「分からない、けど──」
微かに目を開いた吹雪は、酸素マスクの下で必死に口を動かしているようだった。同時に──
「っ──これは……!?」
吹雪が身に着けているペンダントが淡く光を発している。そして昴の首にあるものも同様に。2つの光はまるで共鳴し合うように明滅を繰り返していた。
「兄さん……何か、言いたいのね?」
明日香は吹雪の着けていたマスクを外す。口元が自由になった吹雪は、弱々しくも懸命に、言葉を紡ぎ始めた。
「っ……カミューラは、セブンスターズの中でも…特に凶悪な闇のデュエリスト──奴は、闇のアイテムを使った卑劣な術を仕掛けてくるだろう」
「闇のアイテム……闇のカードじゃなく?」
あまり無理をさせたくはないが、今は少しでも情報が欲しい。昴の疑問にも吹雪は答えてくれた。
「カミューラの…人の魂を盾にする術は……奴が身に着ける、闇のアイテムによるものだ──」
「……破る方法は、あるのかしら?」
「………ある」
小さく、だがハッキリと聞こえた。意識こそ眠っていたとはいえ、吹雪は元セブンスターズとして闇の勢力に身を置いていた人間だ。憑依されていた間の記憶が朧げながら残っていたのだろう。
「闇のアイテムを使った、闇のデュエル……それを破れるのもまた、闇のアイテム……」
吹雪は震える手でペンダントを外し、昴に差し出した。
「コレを……君が持つ半身と合わせれば、カミューラの術に対抗出来るはずだ……っ」
場面はデュエルへ戻り、雪乃のターン──
「私のターン、【センジュ・ゴッド】を召喚。効果でデッキから儀式モンスターを1体手札に加えるわ」
【センジュ・ゴッド】
☆4 天使族 ATK1400 DEF1000
黄金の仏像によって雪乃の手札に齎された儀式モンスターを見たカミューラは、意味ありげな笑みを浮かべる。
「ようやくお出ましね……」
「儀式魔法【エンド・オブ・ザ・ワールド】発動。場と手札からレベル合計が8になるよう素材をリリースし、儀式召喚──」
雪乃のフィールドの【センジュ・ゴッド】はレベル4、足りないもう半分は手札のモンスターが賄い、雪乃のエースモンスターが姿を現す──!
「現れなさい──【終焉の王 デミス】!」
【終焉の王 デミス】
☆8 悪魔族 儀式 ATK2400 DEF2000
フィールドに降り立った黒衣の悪魔は、赤い月夜に飛び交うコウモリ達を煩わしく思ったのか、手にした戦斧を横薙ぎに振るう。その衝撃で辺りの空気を大きく揺るがせた。
「あ~ら、怖い。でも攻撃力2400じゃあ、私の【竜血公ヴァンパイア】には勝てないわよ?」
「それはどうかしら?【デミス】の効果発動──ライフを2000払い【デミス】以外の全てのカードを破壊するわ──ッ!」
「甘いのよッ!──カウンター罠【ヴァンパイアの支配】ッ!」
この瞬間を待っていたとばかりにカミューラが発動した罠カード。吸血鬼の領域を示す赤い満月から無数のコウモリが現れ、終焉の王に飛びかかる。
「これは……ッ!?」
「驚いたかしら?【ヴァンパイアの支配】は、私の場に【ヴァンパイア】がいる状態で相手の魔法・罠・モンスター効果が発動した瞬間、その発動を無効にして破壊する罠カードよ──」
コウモリ達は王の身体の随所に牙を立てる。抵抗する【デミス】だったが、圧倒的な数の暴力を前に終焉の力を発動させることも出来ず、破壊されてしまう。役目を終えたコウモリ達は闇夜に飛び散っていくかに思われたが──
「──さぁおいで、私の可愛い下僕達」
コウモリ達がカミューラの元へ集まったかと思えば、頭上で凝集して大きな黒い塊となる。大きくなり続けた塊はやがて、限界を迎えた風船のように弾けた。その中から、真紅の粒子がカミューラに降り注ぐ。
カミューラ:LP3000→5400
「あいつのライフ、回復してるよ!?しかもあんな大量に!」
驚愕する翔と心を同じくしている様子の雪乃に、カミューラは嘲るような視線を送る。
「【ヴァンパイアの支配】は、無効にしたのがモンスター効果だった場合、そのモンスターの攻撃力を一滴残らず吸い上げて私に捧げる効果を持っているの──流石は世界を滅ぼす王様ってところかしら、悪くない味だったわ」
「っ……魔法カード【死者蘇生】で、墓地の【デミス】を特殊召喚……ッ!」
雪乃もやられたままでは終わらない。即座に【デミス】を復活させ、反撃を試みるが……
「どうしたの?ご自慢の終焉の力は使わないのかしら?──あぁ、ごめんなさい!使いたくても使えないんだったわねぇ」
【デミス】の力は、2000ポイントもの膨大なライフを払って発動させる諸刃の剣──例え無効にされたとしても、払った代償は戻ってこない。
雪乃:LP4000→2000
「……バトルよ──【デミス】で【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】を攻撃ッ!」
王の戦斧が、吸血鬼の身体を深々と切り裂く。その余波がカミューラにも届いたが、今しがたライフを大量に摂取した彼女にとってはたかだか400のダメージ、かすり傷に過ぎない。
カミューラ:LP5400→5000
「……【マンジュ・ゴッド】を守備表示に変更。カードを2枚伏せて、ターンエンドよ」
雪乃 :LP2000 手札×0
【マンジュ・ゴッド】
【終焉の王 デミス】
伏せ×2
VS
カミューラ:LP5000 手札×1
【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】
【竜血公ヴァンパイア】
永続魔法:【ヴァンパイアの領域】
「ああ、楽しいわ……!デュエルなんて所詮は望みを叶える手段としか思っていなかったけど、こうやって屈辱に歪む相手の顔を眺められるのなら、捨てたものじゃないかもしれないわね」
「ふざけんな!デュエルはそんな事の為にあるんじゃねぇ!もっと真っ向からぶつかり合うもんだろ!」
「お黙り坊や!私は一族の誇りと悲願の為に戦っているの。あなた達が夢中になってる子供のお遊びと同列に語らないでいただけるかしら!」
「あら……昨日、その子供のお遊びで負けそうになっていたのはどこの誰かしら?」
「追い込まれてるのに口の減らない小娘ね……!ドロー!この私に生意気な口を聞いたこと、後悔させてあげるわ──ッ!」
口元を釣り上げたカミューラは、たった今引いたカードをデュエルディスクに装填する。
「魔法カード【幻魔の扉】発動──ッ!」
「っ……!」
カミューラの背後に巨大な扉が出現する。あれこそが、アカデミアの帝王をも下す決定打となった闇のカード──
「このカードの発動後、デュエルに敗北すれば自身の魂を三幻魔に捧げなければならない……でも私は慎み深いから、その役割は他の誰かに譲ってあげる──ほら、選ばせてあげるわ。誰の魂を身代わりにするのかしら?」
扉が開き、中から禍々しい瘴気が溢れ出る。じっとりとまとわりつく様な瘴気は、デュエルを見守る十代や明日香達の体に悪寒と息苦しさを齎した。
「──1人に選べないというなら、いっそ仲間達全員でも構わないわよ?そうすれば残りの鍵も全部手に入って楽だわ」
「………」
「……あくまで自分から仲間を差し出す真似はしたくないってこと。いいわ、今度の身代わりは──」
「──勘違いしないでちょうだい」
カミューラの言葉を遮った雪乃は、制服のポケットからあるものを取り出す。
「私が身代わりを選ばないのは、その必要がないからよ──力の代償は、あなた自身が背負いなさい」
雪乃の手にある2つのペンダント──分たれていた闇のアイテムが合わさり、その力を発揮する──!
「何よこれ!?こんなの聞いてな───アアアアアアァァァッ!!!」
ペンダントの発する眩い光が【幻魔の扉】の瘴気をかき消し、カミューラへと殺到する。光は彼女のチョーカー ──闇のアイテムの力の源であったらしいウジャト眼に大きな亀裂を入れた。これでもう、生贄を捧げる行為を誰かに押し付けることはできない。
「ッ……やってくれたわね──いいでしょう、どの道デュエルは私の優位。勝てば何も問題はないのだから──私は、誇り高きヴァンパイア一族の魂を預けて【幻魔の扉】の効果を発動!相手フィールドのモンスターを全て破壊する──ッ!」
再び開かれた扉から瘴気の奔流が雪乃のフィールドを飲み込む。
「これでアンタの【デミス】を奪い、効果で全てのカードを吹き飛ばして終わらせてあげる!自分の力で敗北するがいいわ──ッ!」
果たして、瘴気が収まったフィールドには──
【終焉の王 デミス】
ATK1800 DEF2000
「なっ……!?どうして破壊されてないの!?」
更地になっているはずの雪乃の元には、未だ【デミス】がその両足でフィールドを踏みしめていた……よく見れば、王の手に何か布のようなものが巻きつけられている。それを起点に発生している結界が、【デミス】を守ったようだった。
「──あなたが【幻魔の扉】を発動した時、速攻魔法【禁じられた聖衣】を発動したわ。これで【デミス】は攻撃力が600下がる代わりに、相手の効果の対象にならず、破壊もされない」
「こッ…の小娘がァ……!私は墓地の【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】を特殊召喚!更に手札の【ヴァンパイア・ソーサラー】を召喚ッ!」
【ヴァンパイア・ソーサラー】
☆4 アンデット族 ATK1500 DEF1500
本来、仲間の【ヴァンパイア】が召喚されたことで【ヴァンプ】の効果が発動し、雪乃の場の【デミス】を装備カードとして奪うことが出来たのだが、現在の【デミス】は【禁じられた聖衣】によって対象に取れず、また攻撃力も【ヴァンプ】のそれを下回っている為、それは叶わなかった。
「バトルよ!【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】!【デミス】を八つ裂きにしてやりなさい──ッ!」
妖艶な吸血鬼は主の命令通り、力の弱まった終焉の王を手刀のひと振りで切り裂いてみせた。同時に永続魔法【ヴァンパイアの領域】の効果で、雪乃に与えたダメージ分、カミューラのライフが回復する。
雪乃:LP2000→1800
カミューラ:LP5000→5200
「更に【ヴァンパイア・ソーサラー】でダイレクトアタック!」
雪乃の残りライフを考えれば【竜血公】のダイレクトアタックで勝利には事足りたはずだが、怒り心頭のカミューラはあくまでも雪乃を嬲り殺しにするつもりらしい。
「っ……!」
雪乃:LP1800→300
カミューラ:LP5200→6700
「これでトドメよ!【竜血公ヴァンパイア】でダイレクトアタック!──ブラッディ・カズィクル・ベイ!!」
【竜血公】の血濡れの槍が、雪乃に迫る──!
「罠発動──【ドレイン・シールド】!【竜血公】の攻撃を無効にして、その攻撃力分ライフを回復するわ」
雪乃:LP300→3100
「いい加減しつこいのよ!このターンを生きながらえた所で、アンタの手札はゼロ!何も出来やしないわ!」
雪乃 :LP3100 手札×0
VS
カミューラ:LP6700 手札×0
【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】
【竜血公ヴァンパイア】
【ヴァンパイア・ソーサラー】
永続魔法:【ヴァンパイアの領域】
「雪乃さん、ピンチだよ……!」
「【幻魔の扉】は破れたが、依然としてカミューラの優位に変わりはない……」
「このままじゃジリ貧で負けちまうぞ……!」
「(雪乃……!)」
「(それでも、お前なら……!)」
彼女と親交の深い明日香と昴は思わず手を握り締める。2人の目に映る藤原雪乃の目は、まだ死んでいなかった。
「私のターン。【強欲な壷】を発動して2枚ドロー ──カードを2枚伏せて、ターンエンドよ」
雪乃 :LP3100 手札×0
伏せ×2
VS
カミューラ:LP6700 手札×0
【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】
【竜血公ヴァンパイア】
【ヴァンパイア・ソーサラー】
永続魔法:【ヴァンパイアの領域】
「(あの小娘……この期に及んでまだ諦めてないって言うの?)──私のターン!」
雪乃が伏せたカードは2枚。アレが果たして攻撃反応系の罠であるかどうかだが……当然、カミューラに攻撃を躊躇わせるブラフの可能性もある。【強欲な壷】で引いた2枚のカードが両方とも──例えば【ミラーフォース】のような一発逆転を狙えるカードであるとは考えにくい。仮にまた攻撃を防いだところで、雪乃の手札は0枚。儀式モンスターを召喚するには圧倒的にカードが不足している。
「(ここはこのまま押し切る!)──バトルよ!【ヴァンパイア・ソーサラー】でダイレクトアタック!」
攻めを選んだカミューラだが、それでも伏せカードが【
「罠カード【和睦の使者】──このターン私が受ける全てのダメージはゼロになる」
舌打ちしたカミューラは、メインフェイズ2に移行して思考を巡らせる。
「(こうもしぶとく踏み止まるってことは、何か逆転のチャンスを待っているという事……?もしまた何かの手札補充カードを使って、その狙いのカードを引かれたら厄介ね……でも──)」
カミューラがこのターンにドローしたのは2枚目の【ヴァンパイアの支配】──自分の場に【ヴァンパイア】がいる限り、このカードで相手のあらゆる効果を潰すことが可能だ。
「(念には念を、やれる事はやっておきましょう──)私は墓地の【ヴァンパイアの使い魔】の効果を発動。場の【ソーサラー】を墓地に送って自身を特殊召喚。続けて【使い魔】のもう1つの効果、ライフを500払ってデッキから【ヴァンパイア・レディ】を手札に加える。カードを1枚伏せてターンエンドよ」
カミューラ:LP6700→6200
これで【ヴァンパイアの支配】に加え、例え強力なモンスターが出てきたとしても、墓地の【幽鬼】の効果で手札の【レディ】を召喚すれば【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】の効果で相手のモンスターを装備することが出来る。備えは万全だ。
「ターン終了時、罠発動──【裁きの天秤】」
ここで雪乃が伏せていた2枚目のカードが発動。【裁きの天秤】は、相手の場のカードの数が自分の場と手札の合計数より多い場合、その差分だけカードをドロー出来る。雪乃の手札はゼロで、場には発動中の【裁きの天秤】が1枚あるのみ。対するカミューラの場には【ヴァンプ】【竜血公】【使い魔】【領域】そして伏せカードが1枚の合計5枚──よって4枚ドローが成立する。
雪乃 :LP3100 手札×4
VS
カミューラ:LP6700 手札×1
【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】
【竜血公ヴァンパイア】
【ヴァンパイアの使い魔】
永続魔法:【ヴァンパイアの領域】
伏せ×1
「【裁きの天秤】で大量に手札を増やしたのは驚いたけど、それでこの場を突破できるのかしら?」
「このままでは無理ね──けれど知ってるかしら吸血鬼さん?女神は、諦めなかった者に微笑むのよ」
「フン!事ここに至って神に縋るなんて、みっともないわね。私はそんなものとうに見限ったわ!──そうよ、我ら一族を見捨てた神なんて……!」
──カミューラ達ヴァンパイアは、かつて中世ヨーロッパにて栄光を極めた誇り高き一族だった。寓話や伝承に伝えられているように、不用意に人間を襲うことはせず、距離を保って孤高に生きていたヴァンパイア達だったが、人間達はヒトならざる力を持つ彼女らを恐れ、戦争を仕掛けたのだ。
ヴァンパイア達は当然応戦したが、そこは伝承通り──日光や聖水、杭等弱点も多く、何より総数で劣っていた彼女らは次第に追い込まれ、遂には滅亡してしまう。唯一生き残ったカミューラはひとり孤独に棺の中で永遠の眠りに就いていたのだが……彼女を目覚めさせ、人類へ復讐するよう嗾けた者がいたのだ。
どれだけ抗おうと、どれだけ懇願しようと、一族への迫害は止まらなかった。神に祈ろうと、その声を聞き届けてはくれなかった──ならば自分の手でやるしかない。闇のデュエルで集めた敗者の魂を用いて一族を復活させ、人類への復讐を果たすのだ──!
「これは言うなれば、人類とヴァンパイアの時を越えた戦い。人間如きが我ら一族に勝てるはずがないのだと証明するのよ!」
「……なる程、そういうこと。ようやく分かったわ──私がなぜ、あなたに挑もうと思ったのか」
「なぜ……?仲間の仇を討つ為じゃないのかしら?」
「私、そういうのは柄じゃないのよ。だから正直、自分でも驚いていたのだけど……私、あなたが気に入らなかったのね」
「……なんですって?」
「確かに、あなたの境遇には同情するわ。一方的に怪物だなんだと指を差されて迫害され、挙句一族は滅びてしまった……生き残りであるあなたの人類に対する怒り、それは凄まじいものなんでしょう──けれど復讐の為に、一族の品格を落とす様は見ていられないのよ」
「何が言いたいのッ!」
「思い出しなさい!あなたは誇り高きヴァンパイアの貴婦人なのでしょう。一族の為にその身一つで復讐に身を投げる程、一族を愛していたのでしょう。負ければ魂を奪われる闇のデュエルと、闇のカード──それを使うのはいいわ。けれどそのリスクを背負わず他者に擦り付ける今のあなたに、誇り高き一族の面影はあるのかしら?」
「っ……たかが十年そこらしか生きていない小娘に何が……ッ!」
「わかるわよ。私も同じだもの──」
世界的に名の知れた俳優を親を持つ雪乃にとって、自分の一挙手一投足はそのまま親の評価に繋がる。逆もまた然り、両親が何か不祥事を起こせば、その娘である雪乃にまで飛び火しかねない。だから雪乃と彼女の両親は、互いの為にある約束を交わしていた。
即ち「欲しいものは娘/両親に頼らず、自分の実力で勝ち取ること」──学校の成績、映画の配役、欲しいカード、そして想い人──姑息な真似はせず真っ向から掴み取る。その為の力なら既にあると、彼女の両親は言った。
──だってあなたは、
以来この言葉は、雪乃の胸に深く刻み込まれている。勝つ事が重要なのではない。例え負けるにしても、両親/娘の顔に泥を塗らない負け方を。胸を張って報告できる、誇りある負け方を。
「──復讐に目が行く余り、愛する一族の誇りを自ら貶めていくあなたを、これ以上看過することは出来ないわ」
「っ……もう遅いわ。私はもう、引き返せないのよ……ッ!」
【幻魔の扉】を発動した時点で、カミューラの魂は既に三幻魔の手の中にある。払った代償を帳消しに出来ない以上、彼女を救うならば雪乃が敗北する他ないが……それは出来ない。
このデュエルで雪乃が求めるものは勝利のみ──すぐそこにある勝利へ伸ばす手を、途中で下ろすわけには行かなかった。
「──だから、私が
流麗ながら力強い雪乃のドローが空気を揺らし、カミューラの頬を撫でる。
「魔法カード【天使の施し】を発動!デッキから3枚ドローして、手札を2枚捨てる──続けて【ソニック・バード】を召喚して効果を発動、デッキから儀式魔法【高等儀式術】を手札に加えるわ」
【ソニック・バード】
☆4 鳥獣族 ATK1400 DEF1000
「速攻魔法【儀式の下準備】──デッキから【エンド・オブ・ザ・ワールド】と、墓地の【デミス】を手札に加える」
これで必要なカードは揃った。ここまでひたすら耐えに耐えてきたアカデミアの女帝の反撃が始まる──!
「儀式魔法【エンド・オブ・ザ・ワールド】発動!私が素材にするのは場の【ソニック・バード】と、墓地に存在する2体の【儀式魔人】──」
「墓地のモンスターを儀式召喚の素材に……ッ!?」
【儀式魔人】モンスターは儀式召喚を行う際に墓地から除外する事で、儀式素材として使用することが出来る。雪乃が【天使の施し】で捨てた2枚──【儀式魔人デモリッシャー】と【儀式魔人ディザーズ】はそれぞれレベル3と1。レベル4の【ソニック・バード】と合わせ、王の降臨に必要な生贄は満たされた。
「今こそ、果てなき戦いに
再びフィールドに降臨した終焉の王。その双眸には、まるで確固たる雪乃の意志が反映されたかのように蒼い炎が滾っていた。
雪乃LP:3100→1100
「【デミス】の効果発動。全てを
「それでも私はッ……一族の復活の為に、負けるわけにはいかないッ!──【ヴァンパイアの支配】発動ッ!」
赤い月からまたも無数のコウモリ達が【デミス】に群がり、その身体に牙を突き立てる。これではまた以前のターンと同じ結果になると、そう思われたが……
「──そう、それでいいのよ。足掻きなさい。例え誇りが欠けていようと、あなたの一族に対する想いは紛れもない本物なのだから。ここで折れることはこの私が許さない、最後の最後まで戦い抜いて、あなたの誇りを示してみせなさい──!」
雪乃の想いに呼応するように、【デミス】が吼える。握り締めた戦斧に己が力を集約させ、一気に振り抜く──!
次の瞬間、辺りは蒼炎の嵐に包まれていた──。
世界の全てを焼き尽くし、一切合切を根絶する終焉の嘆きは、群がっていたコウモリ共々カミューラの場に存在した【ヴァンパイア】達を痕跡の1つすら残さずに消却する。
「馬鹿な……何故!?【ヴァンパイアの支配】を逃れたというの!?」
「いいえ……言ったでしょう、逃げる必要なんてない──あなたの全てを受け止めて、燃やし尽くす。ただそれだけよ」
今の【デミス】は召喚の素材となった【儀式魔人ディザーズ】の効果によって相手の罠カードが通用しない。同じカウンター罠でないとチェーン出来ない【ヴァンパイアの支配】だろうと、決意を新たにした王を止める事はできないのだ。
「我らヴァンパイアはこの程度では終わらない!──墓地の【ヴァンパイアの幽鬼】の効果!ライフを500払い【幽鬼】を除外することで、手札の【ヴァンパイア・レディ】を守備表示で召喚する!」
カミューラ:LP6200→5700
【ヴァンパイア・レディ】
☆4 アンデット族 ATK1550 DEF1550
全てが滅ぼされて尚フィールドに立ち、終焉の王と相対する吸血鬼の貴婦人──その様は、まさに今の雪乃とカミューラそのままだった。
「例えフィールドが全て破壊されようと、ライフはまだまだ私の方が上!たった1人の王に根絶やしにされる程、ヴァンパイアは甘くないわッ!」
「1人じゃないわ──
その言葉と共に発動された【高等儀式術】により、雪乃のデッキから2体の【デュナミス・ヴァルキリア】が墓地に送られる。2つの勇敢なる天使の魂を礎として、今ここに破滅の女神が降臨する──!
「王と共に並び立ちなさい!──【破滅の女神 ルイン】──ッ!!」
【デミス】の横に降り立った赤いドレスの女神。ひたすら苛烈な王のそれに対し、女神はどこか慈悲を感じさせる目をしていた。
【破滅の女神 ルイン】
☆8 天使族 儀式 ATK2300 DEF2000
曰く、世界の終焉とは2種類存在する──文字通り、蒼き炎を以て全てを破壊し根絶する終焉の王。
そしてもう1つ──歴史が正しき道を外れる以前まで時を巻き戻し、全てをやり直す破滅の女神。
2つの
「私は手札の【巨大化】と【ビッグバン・シュート】を──【ルイン】に装備──さぁ、フィナーレよ!」
雪乃のライフは【デミス】の効果コストも相まってカミューラより大きく下回っている。【ルイン】の攻撃力は【巨大化】によって元々の攻撃力の倍──4600となり、そこへ重ねられた【ビッグバン・シュート】が更に攻撃力を400上乗せする。
【破滅の女神 ルイン】
ATK2300→5000
「……来なさい!私は誇り高きヴァンパイアの貴婦人、カミューラ!最後まで戦ってみせるわ!」
カミューラの言葉を聞いた雪乃は、小さく笑みを浮かべた。
「バトル!【破滅の女神 ルイン】で【ヴァンパイア・レディ】を攻撃!──
破滅の女神が錫杖を差し向けると、貴婦人の周囲の時間が急速に巻き戻されていく──やがて【ヴァンパイア・レディ】は、安らかな表情でその体を霧散させた。
加えて【ビッグバン・シュート】の効果で、カミューラに3450の貫通ダメージが与えられる。
カミューラ:LP6200→2750
「【破滅の女神 ルイン】の効果!相手モンスターを戦闘で破壊した場合、もう一度続けて攻撃出来る──誇り高きヴァンパイアに捧げる終焉の一撃、受け取りなさい!──Re:ジェネシス!!」
その一撃に、痛みは無い。女神の齎す優しき終焉は、ただ静かに、カミューラのライフポイントをゼロにした。
カミューラ:LP2750→0
戦いを終え、女神と王が姿を消すと同時に、辺りを渦巻いていた蒼炎も立ち消える。残された雪乃は、敗北して膝をつくカミューラをジッと見つめていた。
「ふふ……この時代で目覚めてから、私は何よりも敗北する事を嫌っていた。同胞達の為にも、負ける事は許されないと──けれど、こんなに気持ちのいい敗北というものも存在するのね。知らなかったわ」
どこか憑き物が取れたような顔で敗北を受け入れたカミューラは、懐から小さな人形を取り出す。
「──約束よ、この子の魂を解放しましょう」
古びた絨毯の上に横たえられた人形が怪しげな光に包まれ、中に封じられていた亮の魂と肉体を解放する──同時に、万丈目が回収していた人形も元のクロノスの姿を取り戻した。
「──そういえば、まだ名前を聞いていなかったわね」
「……藤原雪乃よ」
「雪乃……あなたには、お礼を言うべきかしら。復讐に囚われ忘れていたヴァンパイア一族の誇りを思い出させてくれた事、そしてその誇りを最後まで貫かせてくれた事、感謝するわ──こんな形で出会ってさえいなければ、案外あなたとは気が合ったのかもしれないわね」
「………」
雪乃が返す言葉を選んでいると、突然カミューラの背後に巨大な扉が現れる。
「これは……ッ!?」
「【幻魔の扉】──!」
「そう……もう時間という事。思っていたより、三幻魔というのは空気が読めるみたいね。お陰でお礼も言えたわ──……ぅッ!」
扉が開き、中から白いモヤのようなものが現れる。それはやがて悪魔の手を形作り、カミューラの首を掴み上げた。
「カミューラッ!」
「いいのよ……っ、これは本来、私が負うべきだった闇の力の代償……ッ!私はもう、逃げも隠れもしないわッ!」
そんなカミューラの言葉を聞き届けてか、悪魔の手はカミューラの身体から「何か」を抜き取っていった。
扉が閉じられ、姿を消す。再び訪れた静寂の中で、「何か」が抜き取られたカミューラの身体は、塵となって崩れ去った。
衝撃的な光景に驚く暇も無く、今度は地響きが──主であるカミューラを失ったことで、この古城が崩壊を始めているようだ。
「早く逃げるわよ──雪乃、皆!」
「行くぞ、雪乃──!」
「……ええ」
昴に手を引かれ、雪乃は皆と共にこの城を脱出するのだった。
城が崩れ去り、湖を取り巻いていた濃霧が晴れる──どうやらもう日が昇っていたらしく、暗闇に慣れていた目を朝日が灼いてきた。
「見届けたわよカミューラ……私が保証するわ。あなたは間違いなく、本物のヴァンパイア──その誇りを取り戻した」
鍵こそ1つ奪われてしまったものの、無事に亮とクロノスの魂を取り戻せた事でその場を良しとし、一同は解散。亮は念の為検査を受けに行くということで、翔と明日香と共に保健室へ。昴は雪乃をブルー寮まで送り届けてから保険室に戻ることにした。
その道中──
「──それにしてもヒヤっとしたぞ。かなりギリギリだったろ」
「あら。そう見えたなら、私の
カミューラとのデュエル前、保健室で吹雪から闇のアイテムを受け取った後の事だ──
──カミューラを倒すなら、今までみたいな少しずつライフを削って攻めてく方法じゃダメだ。
── 一気にライフを削りきれるだけの火力を手札に揃えなきゃならない。
──その為にだ、とにかく耐える。攻撃封じ、ダメージカット、攻撃吸収なんでもいい。
──とにかく耐えて、待つんだ。少なくとも奴が【幻魔の扉】を発動するまでは。
実際、カミューラはやり手の決闘者だった。遅まきながらも雪乃が手札にカードが揃うのを待っている事を見抜き、それに対する備えを施せる判断力が序盤から発揮されていては、雪乃は速攻を仕掛けられて負けていただろう。
そこで雪乃は「追い詰められる演技」をすることを提案した。露骨過ぎても、余裕が見え過ぎてもいけない。今まで培ってきた女優の卵としての全てを注ぎ、全力で「カミューラの手の上で転がされる獲物」を演じきった。明らかに誘導されていた【デミス】の効果を【ヴァンパイアの支配】で無効にされたのも、その一環だ。
これが実を結んだのは、正しく【幻魔の扉】が発動したターン。あの時カミューラには【幻魔の扉】を発動する前に攻撃するという選択肢もあった。そこで雪乃が精一杯の虚勢を張り(という演技)、カミューラを煽ることで視野を狭め、雪乃を更なる絶望に突き落としてやる、という嗜虐心めいたものを引き出す事に成功。闇のカードをやり過ごすことが出来た。
「──【強欲な壷】でドローしたカードが【和睦】じゃなければあのターンで負けてたし、【裁きの天秤】だってドロー枚数は相手依存だ。ここまで来ると、運が良いなんてレベルじゃないぞ」
「そうね……でも私からしてみれば、やっぱりあれは必然だわ」
「……その心は?」
足を止めた昴に、少し先を歩く雪乃は振り返り──
「だって、信じていてくれたでしょう?必ず私が勝つって──あなたがそう信じてくれたのなら、
思わぬ返答に、昴は目をパチクリさせる。
「だって──私は藤原雪乃なのだから」
何故だか不思議と、納得できた。
「それより昴、覚えているかしら?」
「……何を?」
「私、言ったわよね。"頑張ったいい子にはご褒美を"──私、とても頑張ったわ。ご褒美をくれてもいいと思うのだけど?」
「ご褒美、って言われてもな……」
天下の女帝様のお眼鏡にかなうものなどあっただろうか……と考えていると、気付けば目の前に小さく頬を膨らませた雪乃の顔が。
「……わざとやっているのなら、随分と意地が悪いわね──」
そう言って、昴の前で瞳を伏せ、口を小さく突き出してきた。
この行動が一体何を意味しているのか、流石に分からないということはない。命をかけた闇のデュエルを戦い勝利したのだ、確かに褒美の1つくらい要求して然るべきだが……
「(いや、いいのか本当に!?もしまたからかわれてるだけだったら滅茶苦茶恥ずかしいんだが……ッ!)」
葛藤に続く葛藤の末、昴は──
チュッ
緊張で身体を強ばらせながらも、雪乃の額に軽く口づけを落とした。
「昴……」
「だっ……だって前に言ってたろお前。"自分は実は悪い子だ"って──悪い子にはそれで十分だ」
ふと脳裏に過ぎった実技テストでの雪乃とのデュエル。その時の彼女の言葉を思い出した昴は、出だしから噛みつつも小粋な返しをすることに成功。我ながら悪くないのでは?等と思っていると──
「ん──ッ」
「ッ……!?」
不意に顔をむんずと掴まれたかと思えば、下へと引き寄せられ──昴の唇に、雪乃のそれが重ねられた。
触れていたのはほんの1秒程度、すぐに昴は解放される。突然のことで呆然とする昴に雪乃は、
「──悪い子だもの、これくらいしてもいいわよね?──明日香には内緒よ」
と、昴の口に指を立てて口止めする。
「ここまででいいわ。あなたも早く保険室に戻りなさい」
女子寮に程近い場所で別れた雪乃は、今しがた触れ合った唇──ではなく、額をそっと撫でる。
「(初めて、彼からしてくれた……!)」
──雪乃は1つ、嘘をついた。
カミューラとの闇のデュエル。ああも事が上手く運んだのは必然だった、と彼女は語ったが……心の底では、常に敗北の恐怖と戦っていた。カードの巡りが悪ければ、自分は間違いなくここにはいなかっただろう。
それでも……それでもだ。
自分を頼りにしてくれる仲間の──親友の──想い人の前では、誰にも負けない気高き女帝でいようと、そう決めているのだ。
ゆきのんのヒロイン力が限界突破しております、計測不能です。
…あの、明日香さんがここから巻き返すにはどうすればいいですかね?