「明日香、雪乃。ちょいとお願いがあるんだが──」
「何かしら?」
「お前達の持ってる使わないカードの中に、コレとコレがあったら、貸して貰えると助かる──あぁ、あとコレもあったら」
「えっと……確かこっちのカードなら持ってたはずよ。それとコレはももえが余らせてたはずだから、後で聞いてみるわね」
「なら私はコレを貸してあげる。使えそうだったけど、イマイチ合わなかったのよね」
「悪いな。時間ある時に渡してくれればいいから」
去っていった昴の背中を見送りながら、明日香は安堵の息をつく。
「良かった。デッキ作り、順調みたいね」
「ええ──ところで明日香。最近、昴の前だと少し落ち着きがないようだけど?」
「えっ?そ、そんなこと……気のせいじゃないかしら?」
「言ったはずよ、あなたの気持ちは手に取るように分かるって──何をしたのかは聞かないでおいてあげる」
「も、もう雪乃……ッ!」
時間は少し前──レッド寮に戻り、枯れ井戸から回収したカードを確認していた時に遡る。
「──本当にいいのか?」
「構わんと言っている──お前は俺よりも余計にハンデを負っているんだ、デッキのモンスターが3種類だけとなれば、重要なのはその組み合わせになる。だからお前が先に選べ。俺は余ったカードでデッキを組む」
「……分かった。そんじゃありがたく」
ひとまずカードの束をざっと広げ、その中に効果モンスターがいれば能力に目を通していく。万丈目の言う通り、昴のデッキに採用できるモンスターは僅か3種類のみ。どうせならモンスター同士でシナジーのあるものが望ましい。並んだカードを流し見していく中、昴はあるカードに目を止めた。
「こいつは……待てよ、確か……!」
昴は急ぎカードの束を遡り──目的のカードを見つけた。
「──見つけたぞ万丈目。これならいけそうだ……!」
主軸になるカードを見つけた昴は、差し当たって必要になった魔法・罠カードを集めるフェイズへ移行し、勝負を翌日に控えた今に至る。
「えー…っと、コレが3枚揃って、こっちは2枚でよくなったから──よし。後は明日香達に頼んだカードが入れば一旦完成か」
三沢や隼人、亮など──所持していないカードは持てる限りの人脈を使ってかき集めた。貸してくれた皆には枚数1枚につきブースターパック1つを渡すべく、カードの持ち主のリストを確認していると……
「──いたいた。昴、頼まれてたカード、持ってきたわよ」
「助かる。手間をかけて悪かったな」
「学園の未来が掛かってる以上、私達だって無関係じゃないわ。協力するのは当然よ。──さ、あなたも渡しなさい」
「ん──?」
明日香と雪乃からカードを受け取った昴の前に、3つ目の人影が飛び出してくる。その人物は昴の空いている手を取り、胸の前で握り締めた。
「──加々美さん!明日香さんからお話は伺いましたわ!なんでも私のカードが必要だとか…!私のカードでよろしければ是非使ってくださいまし!なんなら2枚だけと言わず、10枚でも20枚でも──!」
「落ち着きなさい、ももえ!──ごめんなさい。カードの事話したら、直接渡すって聞かなくて……」
「だって、明日香さんと雪乃さんばかりズルいですわ!確かに、日頃のお2人と加々美さんの蜜月な関係の中に加わるには、私では実力不足です。だからこそ、素敵な殿方とお近づきになれるこのようなチャンスを逃す手はありませんでしょう!?」
「みっ、蜜げ…ももえあなた、自分が何を言ってるのか分かって──!?」
「──えぇ、そうよ。私達は昴と連日連夜、情熱的な夜を過ごしているわ」
「「雪乃ッ……!?」」
これには明日香だけでなく、ももえの迫力に圧倒されて言葉を失っていた昴も声を上げた。
「ちょっと、状況をややこしくする様な事言わないでよ……ッ!」
「そういう冗談はもっと冗談と分かるように言え!信じたらどうするんだ!?」
「あら、十分分かり易いと思ったのだけど」
「あなたは雪乃で、相手はももえなのよ!?この子、あなたの言う事は驚く程あっさり信じちゃうんだから!」
「えっと、浜口。今の雪乃の言葉は全部冗談だから、くれぐれも真に受けるなよ?」
「加々美さん、私のことは他人行儀な苗字ではなく、是非ももえとお呼び下さい!」
「よし、聞いてなかったらしい。明日香、こっちは取り敢えずオーケーだ」
「昴、一応万丈目君とデッキの相談した方がいいんじゃないかしら?」
「そ、そうだな──カードありがとう、ももえ。今度お礼はさせてもらう」
「きゃ~!加々美さんにお礼を言われてしまいましたわぁ~!」
益々混沌と化していく状況から逃げるよう提案してくれた明日香に感謝しつつ、昴はレッド寮へ向かう。万丈目の部屋をノックすると、中には真剣な表情でデッキを確認する万丈目の姿が。
「──デッキ、出来たのか?」
「む……なんだお前か。ノックもせずに」
「いやノックはしたんだが……余程集中してたらしいな」
「フ、俺様の手にかかれば、雑魚カードでデッキを組む程度容易い事だ──それより、お前の方は大丈夫なんだろうな?」
「ああ、上手いこと形になったよ。皆の協力のお陰だ」
「よし、見せてみろ。この万丈目サンダーが出来を見てやる」
「そうだな…折角だ、頼む。──俺もお前のデッキ見ていいか?」
「好きにしろ」
昴は万丈目とデッキを交換し、互いに互いの作ったデッキを確認することにした。
「ふむ……悪くない。だがいくらなんでもピーキー過ぎる、この構築で、攻め込まれたら守りきれるのか?」
「その為のコレとコレだ。向こうはデュエルの素人で、態々こっちに低ステータスオンリーって縛りをつけてくるからには、攻撃力というアドバンテージをフル活用してくるはずだ。そうなれば、このカードなんかぶっ刺さるだろ」
「確かに有効に働くだろうが、伏せカード破壊ですぐ瓦解するぞ。こいつを頼りに戦うなら──コイツを使ってみろ」
「……いやでもコレも大概だろ。【サイクロン】とか【砂塵】には無力だ」
「だったらコイツも貸してやる。俺のデッキには枠が足りなくて入らなかったカードだ。終わったらちゃんと返せよ」
「なる程、コレなら……ありがたく使わせてもらう──それはそうと、お前のデッキだけどな──」
「なんだ、俺様の完璧な構築に文句をつける気か?」
「重箱の隅をつつくようで悪いが、【サクリファイス】入れるならちゃんと出せる様にしてもいいんじゃないのか?除去とアタッカーを両立できる優秀なカードだろ。手札に引いて腐らせるのは勿体無い」
「バカ者、【マンジュ・ゴッド】が使えないんだぞ?いつ手札に来るかもわからない儀式魔法なぞ入れられるか」
「ははーん。さてはお前【下準備】持ってないな?俺から雪乃に言って借りてきてやろうか」
「キサマも持ってないんだろうが!大体、レディにカードをたかりに行くなど、そんな恥知らずな真似出来るか!」
「……今言外に俺の事ディスったか?」
「自覚があったとは驚きだな」
「よしデュエルだ、試運転がてら捻ってやる!」
「フン!いいだろう、このデッキの錆にしてくれる!」
流石にソリッドビジョンを使うのは時間的に憚られた為、ベッドの上でテーブルデュエルの準備を始める2人だったが……
「……よく考えりゃ、泥仕合になる予感しかしないな。このデッキじゃ」
「……そうだな。俺もお前も対兄さん達用にカードを選んでいる。弱小デッキ同士で戦った所で、弱点を洗うことも出来ん、か」
急に頭が冷えた2人は、そそくさと片付けを始めた。
「……【下準備】、三沢も持ってたはずだから、借りて来てやろうか?」
「要らんといったはずだ!」
斯くして、夜は更け──デュエルアカデミア買収を賭けた勝負の日がやってくるのだった。
勝負当日──デュエルフィールドには、大勢の生徒達が戦いの行く末を見届ける為に集まっていた。
中央で皆の視線を集める昴と万丈目。そんな2人と相対する万丈目兄弟──次男の正司が前に進み出る。どうやら初戦は昴と、ということらしい。
「……言うまでもないだろうが、万が一キサマが負ければ、その瞬間終わりだ。俺の努力を水の泡にしてくれるなよ」
「……そこは素直に"負けるなよ"でいいだろ」
「うるさい。とっとと行け!」
何ともひねくれた激励を背中に受け、フィールドに上がる。
「兄者が出るまでもない。この戦いで貴様を倒し、この学園は万丈目帝国の礎となるのだ!」
「気が早いぞ兄さんよ。俺達はあくまで前座だ。前座は前座らしく、真打の為にさっさと舞台を空けてやろうじゃないか」
「フン!その余裕がいつまで持つか、見ものだな」
「デュエルの前に1つだけ──アンタ達が俺に課した2つのハンデだが、先に宣言しておくよ。俺のデッキにはモンスターが2種類しか入っていない。勿論、攻撃力は500未満だ」
昴の宣言に、会場がどよめき始める。
「なんだ、予め宣言しておけば手心を加えて貰えるとでも思ったか?」
「是非そうしてくれ。こっちも楽出来ていい」
「減らず口を──捻り潰してくれる!」
「「
昴 :LP4000 手札×5
VS
正司:LP4000 手札×5
いよいよ幕を開けた万丈目グループとのデュエル。先攻を取ったのは昴だ。
「俺のターン、ドロー!──俺は、カードを4枚伏せる。ターンエンドだ」
昴 :LP4000 手札×2
伏せ×4
VS
正司:LP4000 手札×5
「やはりモンスターの数を制限されている以上、ああする他ないか……!」
客席でデュエルを見守る仲間達。三沢の言葉に、亮も頷く。
「だが、昴もその程度の事は理解した上でデッキを組んだはずだ。となると、あの伏せカード達は……」
昴の出方を予測する中、正司のターンが始まる。
「私のターン、ドロー!──私は【メカ・ハンター】を召喚!」
【メカ・ハンター】
☆4 機械族 ATK1850 DEF800
「──ねぇ、あのモンスターなんか変じゃない?」
翔の言う通り、正司が召喚した【メカ・ハンター】は姿形こそ普通だが、妙に煌びやかな虹色のオーラを纏っていた。
「恐らくだが……あの2人のデッキは全てパラレルレアのカードで構成されているんだろう」
「金にものを言わせただけあるなぁ……」
ゲンナリとする観客達。一方の正司は光り輝くモンスターを従えてご満悦の様子だ。
「やれ!【メカ・ハンター】でダイレクトアタック!」
剣と槍で武装した球体型のメカが昴に攻撃を仕掛ける──!
「永続罠発動──【グラヴィティ・バインド-超重力の網-】!」
昴の発動した罠カードにより、フィールド全体に大きなネットが出現。その下の空間に発生した強力な重力が【メカ・ハンター】の動きを止めた。
「何……ッ!?」
「【グラヴィティ・バインド】は、お互いにレベル4以上のモンスターの攻撃を封じる永続罠──あんたのデッキに、この網をすり抜けられるモンスターはいるか?」
「小賢しい真似を……私はターンエンドだ」
昴 :LP4000 手札×2
永続罠:【グラヴィティ・バインド-超重力の網-】
伏せ×3
VS
正司:LP4000 手札×5
【メカ・ハンター】
「俺のターン、ドロー!カードを1枚伏せてターンエンド」
昴 :LP4000 手札×2
永続罠【グラヴィティ・バインド-超重力の網-】
伏せ×4
VS
正司:LP4000 手札×5
【メカ・ハンター】
「私のターン!…フフフ、先程言っていたな、私のデッキに貴様の網を抜けられるモンスターがいるのか、と──」
「まさか……!」
「私は【機械王-プロトタイプ】を召喚!」
正司が呼び出したのは、試作状態のロボット。そしてそのレベルは……
【機械王-プロトタイプ】
☆3 機械族 ATK1600 DEF1500
「レベル3のコイツならば、問題なく攻撃できる!──ダイレクトアタックだ!」
「ぐッ……!」
【機械王-プロトタイプ】は、自身以外の場にいる機械族1体につき攻撃力が100上昇する。正司の場に【メカ・ハンター】がいることで、昴は1700のダメージを受けることに。
昴:LP4000→2300
「ターンエンドだ!」
昴 :LP2300 手札×2
永続罠:【グラヴィティ・バインド-超重力の網-】
伏せ×4
VS
正司:LP4000 手札×5
【メカ・ハンター】
【機械王-プロトタイプ】
「俺のターン、ドロー!罠カード【活路への希望】を発動!──自分のライフが相手より1000以上低い場合、更にライフを1000払う事で、ライフ差2000につき1枚、ドロー出来る」
昴:LP2300→1300
「自分のライフを削るとは血迷ったか!これで次のターン、私の攻撃で勝利が確定したぞ!」
「俺は【活路への希望】にチェーンして【強欲な瓶】を発動!」
「チェーンだと…何をするつもりだ!」
「まだまだ!【強欲な瓶】にチェーンして【無謀な欲張り】!更にチェーンして──【積み上げる幸福】を発動する!」
「罠カードの連続発動……ッ!?」
昴が発動したカードは4枚──チェーンの逆順処理によって、最後に発動した【積み上げる幸福】から効果が処理されていく。
「チェーン4以降に発動出来る【積み上げる幸福】の効果で2枚ドロー。続いて【無謀な欲張り】の効果──俺は以降2ターンに渡ってドローフェイズを放棄する代わりに、2枚ドロー。そして【強欲な瓶】で1枚、最後に【活路への希望】で1枚ドローだ」
引いたカードを確認した昴は、尚も手札を増やしにかかる。
「魔法カード【マジック・プランター】発動。俺の場にある永続罠【グラヴィティ・バインド】を墓地に送り、2枚ドローする」
現状、昴の生命線とも言える【グラヴィティ・バインド】だが、【活路への希望】でライフを払った事と、正司の場にはレベル3の【機械王-プロトタイプ】がいる。出せる壁モンスターがいない以上、ドローのコストにして選択肢を増やすべきだと判断した。これで手札は10枚。初期手札を含めて合計16枚、デッキを掘っている訳なのだが……
「(これだけ引いてまだ揃わないか……ッ!)──俺はカードを2枚伏せ、魔法カード【手札抹殺】を発動!お互いに手札を全て捨てて、同じ枚数分ドローする」
追加の7枚ドロー。これで22枚──デッキ40枚の内、半分は引ききった事になる。
「……もう2枚、カードをセットしてターンエンドだ」
昴 :LP1300 手札×5
伏せ×4
VS
正司:LP4000 手札×5
【メカ・ハンター】
【機械王-プロトタイプ】
「自分で自分のライフを削るだけではなく、生命線すら断ち切るとはな!これでこちらは総攻撃を行えるようになった。一気に畳み掛けさせてもらうぞ──私のターン!」
ドローしたカードを一瞥した正司は、ニヤリと笑みを浮かべる。
「まずは、その邪魔なカードを片付けるとしよう──魔法カード【大嵐】発動ッ!貴様の伏せカードを全て吹き飛ばしてくれる!」
フィールドを強烈な風が吹き抜け、昴の前に並んだカード達がガタガタと震え始める。
「そうはさせないッ──カウンター罠【大革命返し」!」
フィールドのカードを2枚以上破壊する効果に対してのみ発動し、それを無効に出来る【大革命返し】は、防御面を【グラヴィティ・バインド】を始めとする魔法・罠に依存せざるを得ない昴のデッキに、【マジック・ジャマー】等と違いノーコストで使えるカードとして万丈目が採用を促した1枚だ。同時に──
「ならば【サイクロン】発動!伏せカードを1枚破壊するッ!」
「させないと言った!カウンター罠【魔宮の賄賂】発動!【サイクロン】を無効にし、相手は1枚ドローする」
──このように、単発除去カードには無力だという昴の意見も踏まえて、【魔宮の賄賂】も採用してある。同じ効果でありながらバーンダメージも狙える【アヌビスの裁き】も候補だったが、魔法にしか対応できないという点で惜しくも採用が見送られたのは余談である。
「──悪いな、そう来るだろうってのは予想してたんだ」
「ちっ…ならば、こちらも総力を以て攻め入る!私はもう1体【機械王-プロトタイプ】を召喚し、魔法カード【
【機械王】
☆6 機械族 ATK2200 DEF2000
「更に【死者蘇生】で、墓地からこのモンスターを蘇らせる──いでよ【パーフェクト機械王】ッ!!」
【手札抹殺】で墓地に送られていた中から正司が復活させた、彼のデッキの最強モンスター ──数多の機械族を従える機械王の真の姿である。
【パーフェクト機械王】
☆8 機械族 ATK2700 DEF1500
「見るがいい!そして慄け!これこそが、万丈目正司の光り輝く機械兵団だ!」
「うおぉ……かっけぇ……!!」
並び立つ4体の【機械王】──中でも虹色に輝く【パーフェクト機械王】を見て、それに負けず劣らず瞳を輝かせる昴。そこへ、
「おいキサマァ!感動しとる場合か、デュエルに集中しろォーッ!!」
と、セコンドの万丈目から檄が飛んできた。
「わ、分かってるって……仕方ないだろ、ロボットとドラゴンに血が騒ぐのは男の性だ」
「なんだ、話が分かるではないか──それに免じて、一撃で終わらせてやろう」
正司がバトルフェイズに移行した事で、昴も思考のスイッチを入れ直す。
相手の場にいる4体の機械王達は、どれも自身以外の機械族モンスターの数だけ攻撃力をアップする効果を有している。これにより【プロトタイプ】は1900、素の【機械王】は2500、そして1体につき500アップの【パーフェクト機械王】は攻撃力4200と、王を名乗るに相応しい攻撃力を獲得していた。
「やれ、【パーフェクト機械王】!──エレクトリック・ブラスター!!」
両の拳を突き合わせ発生させたエネルギーが、ビームとして放たれる──!
「罠発動──【ホーリーライフバリアー】!手札を1枚捨て、このターン俺が受ける全てのダメージはゼロになる!」
昴の周囲を青白い障壁が囲い、敵の攻撃を一切シャットアウトする。これにより、正司は残るモンスターで攻撃を重ねようと昴を倒す事は出来なくなった。
「まだ耐えるかッ……カードを1枚伏せ、ターンエンドだ」
昴 :LP1300 手札×4
伏せ×1
VS
正司:LP4000 手札×1
【パーフェクト機械王】
【機械王】
【機械王-プロトタイプ】
【機械王-プロトタイプ】
伏せ×1
「昴君…防戦一方だけど、大丈夫かなぁ……?」
「昴のデッキに入っているという2種類のモンスター達……それは恐らく、この状況を打開する力を秘めたモンスターのはずだ」
「ああ。そしてそれは、単体では力を発揮することが出来ないんだろう。だから昴は、大量のドローソースでデッキを回していた」
「だけど逆転に必要なカードはまだ揃っていない──【無謀な欲張り】のデメリットで、昴はこのターンまでドローフェイズが来ないわ。あの4枚の中に、まだ手札を増やす手段が残っていればいいけど……」
三沢と亮、そして明日香の見立てはいずれも的を得ている。昴が描く逆転のコンボには、必要なカードがまだ1枚足りない状態だ。全てしっかり3枚投入しているはずなのだが、こうも揃わないとは思っていなかった。
「俺のターン──罠カード【アポピスの化身】を発動。コイツは発動後、罠モンスターとして俺のフィールドに特殊召喚される」
【アポピスの化身】
☆4 爬虫類族 ATK1600 DEF1800
「そして魔法カード【馬の骨の対価】。俺の場にいる通常モンスター ──【アポピスの化身】を墓地に送り、2枚ドローする」
昴がこのターンに切れるドローソースはこれだけ。そして手札にある防御札は最早意味を成さない【グラヴィティ・バインド】のみだ。このドローで必要な最後の1枚が揃うか、せめて【和睦の使者】辺りを引けなければ本格的にマズい。緊張の面持ちで昴が引いたのは──
「──やっと来たか……!」
逆転のカードが揃ったのだという事を察した明日香達も、顔を輝かせる。
「俺は手札の【アンブラル・ゴースト】の効果を発動!」
「手札からモンスター効果を発動だと……!?」
「俺はこのターン、通常召喚が出来なくなる代わりに、手札から【アンブラル・ゴースト】ともう1体──レベル4以下の悪魔族モンスターを特殊召喚する」
「デッキに入っているという2体のモンスターか……なんだろうと、攻撃力1000にも満たない弱小モンスターで私の機械兵団を破れるものか!」
「やってみせるさ!手札から【アンブラル・ゴースト】を特殊召喚!」
【アンブラル・ゴースト】
☆2 悪魔族 ATK200 DEF200
ボロ布を纏った影の幽霊は、その力で手札にいるもう1体の仲間を連れてくる。
「来い!──【マスクド・チョッパー】!!」
【マスクド・チョッパー】
☆1 悪魔族 ATK100 DEF100
満を辞してフィールドに現れたのは、両手に肉切り包丁を携えた小太りなマスクマン。しかし悲しいかな、攻撃力は100と泣ける程低い。隣の幽霊にすら劣っている。
「ハ…ハハハハハッ!何が出てくるかと思えば、そのようなデブに何が出来るというのだ!」
「出来るさ──これからアンタを、ぶった斬る!!」
これこそ、昴の逆転に必要だった最後の1枚──!
「魔法カード【ミニマム・ガッツ】を発動ッ!」
「【ミニマム・ガッツ】……?」
「これは散々ゴミだカスだと足蹴にされてきた雑魚カード達の底力──1人じゃ何も出来ないコイツらも、力を合わせれば王様だって倒せるという事を証明してやる!──【ミニマム・ガッツ】は俺の場のモンスターを1体リリースすることで、相手モンスター1体の攻撃力をこのターン中ゼロにする!」
その対象は勿論【パーフェクト機械王】──究極の【
「【マスクド・チョッパー】!【パーフェクト機械王】を攻撃!──ブレード・チョップ!!」
大きく跳び上がったマスクマンは肉切り包丁を振りかざし、すっかり意気消沈した機械王を力任せに叩き斬った。
正司:LP4000→3900
「だ、だがッ!攻撃力がゼロになった所で私が受けるダメージはたったの100!次のターン、残った【機械王】達がその雑魚を踏み潰すぞ!」
「そんなものは来ないさッ!【ミニマム・ガッツ】によって攻撃力の下がったモンスターが戦闘で破壊された場合、その元々の攻撃力分のダメージを相手に与える!」
真っ二つにされた【パーフェクト機械王】の残骸が正司の上に崩れ落ち、その攻撃力分──2700のダメージが発生する。
正司:LP3900→1200
「ぐぬぅ…ッ!しかし、私のライフはまだ……ッ!」
「【マスクド・チョッパー】の効果発動──」
「ハ……ッ!?」
気づけば、正司の背後に目を血走らせたマスクマンが佇んでいた。両手の包丁を頻りに擦り合わせる嫌な金属音が、正司の背筋に冷たいものを走らせる。
【マスクド・チョッパー】は戦闘で相手モンスターを破壊した場合、相手に2000ポイントのダメージを与える事が出来る──さながらホラー映画の如き悲鳴を残し、正司のライフはゼロになるのだった。
正司:LP1200→0
「正司ィィィィ──!!」
大歓声の中、白目を剥いて倒れた弟を助け起こす長男の長作は、喝采を浴びる昴を恨みがましい目で睨む。
「弟の仇、必ずや──準!私とデュエルだ!」
「いいだろう。来い、長作兄さん──!」
──そうして始まった万丈目vs長作のデュエル。
開幕から融合召喚した【キング・ドラグーン】の効果により、ドラゴンの大量展開で最初こそ優位に立っていた長作だったが……
万丈目:LP1600 手札×5
VS
長作 :LP4000 手札×2
【竜魔人 キング・ドラグーン】
【エメラルド・ドラゴン】
【ダイヤモンド・ドラゴン】
【サファイア・ドラゴン】
「──俺は魔法カード【魔の試着部屋】を発動!デッキを上から4枚めくり、その中にいるレベル3以下の通常モンスターを全て特殊召喚出来る」
果たして、万丈目のデッキから公開された4枚は──
「ふっ──対象外の【強欲な壷】はデッキに戻し、おジャマ三兄弟を特殊召喚!」
『『『どうも~ッ!』』』
試着室から飛び出してきた【おジャマ】達は、肩を組んで長作に挨拶する。しかし返って来たのは、やはりと言うべきか嘲笑だった。
「何かと思えば、そのような雑魚に私のドラゴン達を倒せるわけがなかろう!」
「正司兄さんと昴のデュエルから、何も学んでいないんだな──コイツらを馬鹿にする事は、この俺が許さんッ!」
『ア、アニキ…ッ!』
『俺達のことをそこまで…!?』
「確かにコイツらは、攻撃力も低けりゃ特殊能力も無い。挙句見てくれと性格すら最悪な、救いようのない雑魚共だ!」
歯に衣を着せぬ万丈目の物言いを受け、怒りに肩を震わせるおジャマ三兄弟だったが……
「だが、俺はコイツらに教えてもらった──!」
「そんな弱小モンスターから何を学んだというのだ!?」
長作の問いかけに、【おジャマ】達は胸を張って答える──
『兄弟の絆を、さ!』
『力を合わせれば!』
『何だってでき──』
「──下には下がいるという事をッ!!」
ズコー!という効果音が聞こえそうな勢いで、おジャマ三兄弟は盛大にコケる。
「見ろ!コイツらに比べたら、今の俺なんか全然マシだッ!」
「黙れ準ッ!何をしようと落ちこぼれは落ちこぼれ、エリートには敵わんのだッ!」
「ならばその身を以て知るがいい!落ちこぼれの意地ってやつを──!」
そんな言葉と共に、万丈目は1枚のカードをデュエルディスクにセットする──!
「魔法カード発動!行けェ雑魚共──ッ!!」
『『『うおおおおおおぉぉぉ──ッ!!』』』
最早ヤケクソ気味に気合を発しながら、おジャマ三兄弟は大きく跳び上がる。
これこそ、【イエロー】【ブラック】【グリーン】──3体の【おジャマ】達が尻を突き合わせる事で繰り出される必殺技──!
『くらえー!』
『必殺!』
『『『おジャマ・デルタ・ハリケーン!!!!』』』
3匹の弱小悪魔達によって引き起こされた巨大な竜巻が、長作の場にいた煌びやかなドラゴン達を飲み込み、大爆発を引き起こす。
「馬鹿な…ッ!私のドラゴン達が、全滅だと……ッ!?」
「見たか、これが落ちこぼれの力だ!──【おジャマ・デルタ・ハリケーン】は、3匹の【おジャマ】達が場に揃うことで相手フィールドのカードを全て破壊出来るのだ!」
『その通り!』
『あ、俺たちがいる限りィ…!』
『万丈目サンダーはむてき──』
「魔法カード発動──【サンダー・クラッシュ】!!」
見栄を遮って発動された新たな魔法カード。後ろを振り向いた【おジャマ】達は、その効果に目を通す。
『えー、なになに──"自分フィールド上の全モンスターを破壊する。破壊した数×300ポイントのダメージを相手プレイヤーに与える"──自分フィールドってこたァつまり……』
『『『俺達ィ~~~!?』』』
「攻撃力ゼロの役目は終わりだ!──くらえ、【サンダー・クラッシュ】!!」
否応なしにコストとしてくべられた【おジャマ】達。それを燃料として放たれた3つの雷が、ここまで無傷だった長作のライフを削る。
「ぐおおぉぉ……ッ!」
長作:LP4000→3100
「くっ…いい気になるなよ。モンスターが全滅したとて、私の優位に変わりはない!」
「──何を勘違いしているんだ?」
「なに……ッ!?」
「俺のターンはまだ終了しちゃいないぜ!──いでよ、【カオス・ネクロマンサー】!!」
このターン未使用だった通常召喚権を用いて呼び出された死霊術師。このモンスターこそ、今回万丈目が作り上げたデッキに於ける切り札──!
【カオス・ネクロマンサー】
☆1 悪魔族 ATK0 DEF0
「【カオス・ネクロマンサー】は、俺の墓地に存在するモンスター1体につき、攻撃力が300ポイントアップする──今、俺の墓地には11体ものモンスター達が眠っている。よって攻撃力は3300だッ!」
無残にも葬られてきたモンスター達の魂が呼び起こされ、死霊術師に力を与える。
【カオス・ネクロマンサー】
ATK0→3300
「なん、だと……!?」
「バトルだ!【カオス・ネクロマンサー】の攻撃──ネクロ・パペットショー!!」
墓地に眠る怨霊達が次々と長作に突撃していき、ライフがみるみる削られていく。最後におジャマ三兄弟がパンチ、キック、ヒップドロップをお見舞いしたところで、長作のライフはゼロになった。
長作:LP3100→0
「やったな万丈目!」
「フン、当然だ」
──万丈目!万丈目!──
──加々美!加々美!──
大きなハンデをものともせず勝利してみせた万丈目と昴に、会場中からコールが響き渡る。
「──おい皆。気持ちは嬉しいが、名前を間違えてるぞ!」
「そうだ!しっかりとその胸に刻み込め!俺の名は──!」
『一!』
『十!』
『百!』
『千!』
「「万丈目──サンダーッ!!!」」
──サンダー!──
──サンダー!──
『万丈目サンダァァァァァ!!!!』
「準……」
壇上で万来の喝采を浴びる万丈目の姿は、兄達の目にとても大きく映っていた。
斯くして、無事にアカデミア買収の話は取り止め。万丈目兄弟達も弟の実力を認め、今後は落ちこぼれ呼ばわりしないということを約束したのだった。
翌日──昴は、デッキ構築にあたってカードを貸してくれた生徒達へ、返礼品の最新カードパックを渡して回っていた。
「えー、残りは……三沢とカイザーはさっき渡した。ももえはさっき見かけた時に渡して、雪乃には1番最初に渡したから……あとは──」
「──あら、昴じゃない」
「お、丁度良かった──明日香、これ。借りてたカードと、そのお礼だ」
「ありがとう。わざわざお礼まで……」
「なぁに、ほんの気持ちだ──改めて、本当に助かった。こちらこそありがとな」
「少しでも助けになれたなら、良かったわ」
「──そうだ、万丈目を見なかったか?」
「万丈目君?放課後になってからは見てないけど……もう寮に戻ってるんじゃないかしら」
「分かった、行ってみる。またな明日香」
明日香と別れた昴は、校舎を出てレッド寮へと足を向けた。
「万丈目、いるかー?」
ノックしても返事がない。そっとドアを開けてみると……
「ぐああ~~!うるさいぞキサマら!ただでさえ部屋が狭いんだ!少しは大人しくしろ~!」
枯れ井戸にあったカードを一手に引き受けた万丈目の部屋は、今や精霊達の集合住宅となっていた。ましてや雑魚カードである自分達を用いて強力なモンスター相手に打ち勝ってみせたのだ。本人達としても鼻高々、といった心持ちだろう。
「……随分大所帯になったな」
「昴!キサマまたノックせずに──いやもうそれはいい!とにかく、コイツらを半分持って行け!」
「いや、でも皆万丈目に懐いてるみたいだし……なぁ?」
そう呟く昴の傍らには、無言で頷きまくる【マスクド・チョッパー】と、同じく無言で親指を立てる【アンブラル・ゴースト】の姿が。デュエル後に万丈目にカードが渡った彼らも、ここで暮らしていた。
万丈目としてはせめて昴が使っていたこの2体だけでも押し付けたいところだったのだが、困った事に精霊達の中で1番静かなのもこの2体。望み通り静かにしている者を他所へ追いやり、結果騒ぐ者だけが残るのも御免だった。
「ちっ、まぁいい……それで、何か用か?」
「あ、そうそう。
「殊勝で結構だ。用が済んだらとっとと出て行け」
「へいへい──じゃあな」
一方その頃──昴と別れてから自室に戻った明日香は、貰ったパックを早速開封していた。
その中に、気になるカードが1枚──
「このカード……」
明日香が引き当てた【機械天使の儀式】──このカードが彼女にとっての大きなターニングポイントになるのは、もう少しだけ先の事である。
専ら月鏡の盾&オートクレールとセットで使われるマスクド・チョッパーですが、4000ライフならこうしてワンパン火力を叩き出す事も可能です。マスクド・チョッパーデッキを組んでる方は結構いますが、アンブラル・ゴーストあまり使われてないんですよね…アームズホールとの噛み合いもよくていいと思うんですが。そもそもガチるデッキじゃないですし。
次男の正司のデッキは、重村のデッキが超重武者ということもあってまず機械族に、そこからなんかいい感じのモンスターをということで、パーフェクト機械王に白羽の矢が立ちました。どうせならゲットライドでヘビーウェポンとか付けたかったんですが、アニメの長作兄さんのデュエルを見るにそんなテクい真似してこないだろうということでボツになりました。