代わりと言ってはなんですが、今回はあのキャラクターが登場します。
「──以上が、デュエルに於けるカードの分類になります」
「流石はオベリスク・ブルーのエリートナノーネ!シニョーラ明日香には易し過ぎましたーネン」
デュエルアカデミアは"アカデミア"──つまり学校である以上、勿論授業がある。
昴たち新入生のカリキュラムは、まずデュエルに関する超基本的なことの復習から始まった。
座学を始めとする学内での授業は、ブルー・イエロー・レッドの寮の垣根を越えた合同で行われ、今は明日香が担当教師のクロノスから出題された質問に答えてみせたところだ。
「──それでーワ……シニョール加々美!儀式魔法と、ついでに儀式召喚についての説明をお願いしますーノ」
「あー、はい……」
クロノスに指名された昴は、おもむろに立ち上がって回答文を頭から捻り出す。
儀式に関する説明の模範解答など見たことがないし、そもそも【リチュア】を使うにあたって儀式召喚の仕組みを知った時も、「へーこんな感じかー」くらいにしか思っていなかった昴は、どう答えれば正解なのかが分からない。その結果、取り敢えず儀式に関する自分が知っていることを片っ端から言っていくことにした。
「えー…儀式召喚は、融合召喚とは違い、メインデッキ内で完結した特殊召喚法です。基本的には召喚したい儀式モンスターと、対応した儀式魔法、召喚の為の素材、これら3つの要素を手札に揃えることで、初めて召喚可能となります───」
手順としては
①儀式魔法発動
②召喚したい儀式モンスターのレベルと同じになるよう、手札やフィールドからモンスターをリリースする。
③儀式モンスターをフィールドに特殊召喚
というステップを踏む必要がある。
特定のカードと素材モンスターが必要なところは融合召喚と似ているが、儀式召喚は融合召喚よりも要求されるパーツが1つ多いことから、融合以上に手札の消費が激しい召喚法として知られている。
では融合の方が優秀なのかというと、そうではない。メリットは勿論ある。
まず、儀式召喚の際に参照する要素は"レベル"であるため、特定のカード名を要求する融合モンスターと違い、素材の選択範囲がかなり広い。つまりレベルさえ揃ってしまえば、素材は何でもいいというわけだ。
また、融合召喚には【沼地の魔神王】のような素材代替効果を持つサポートモンスターが存在するが、儀式召喚の場合は【儀式の供物】が持つ"1枚で召喚に必要なレベルを満たす"という効果がそれに当たる。その場合、召喚に必要な素材が1枚で済むため、手札を温存することができるのだ。これも先程の幅広い素材選択肢の中に組み込むことができる為、召喚難易度は融合よりもグッと下がる。
「反対にデメリットの話をすると──」
「ストップ、ストップ!そこまでで十分ナノーネ。流石、儀式デッキを使うシニョール加々美でスーノ」
クロノスの制止で席に座らされる。
そこで、自分が周囲の注目を集めていることに気がついた。
「(もしや…やってしまったか!?)」
所謂"オタク特有の早口"的な……先生からの質問に教科書以上のことを答えてしまう的な。
調子に乗ってるとか思われたりしないだろうか……「儀式召喚のことになるとめっちゃ饒舌になるよねー」とか変な印象持たれたら嫌だなと思いつつ、授業は終わりを迎えた。
次の授業は体育。この学園ではデュエルのことばかりではなく、基本教科も軽くではあるが履修するらしい。数学では昴の苦手な確率論をやったり、国語では通常モンスターのテキストを使った文章の読み解きをしたり……大抵のことにデュエルを結びつけてくる辺りは、流石決闘者のための育成施設といったところか。
更衣室に向かい、学校指定のジャージと運動用のシューズに着替える。
とっとと着替えを済ませて体育館で授業開始を待っていると、同じく着替えを終えたらしい三沢が話しかけてきた。
「さっきの授業、驚いたよ。まさか昴があそこまで儀式召喚に精通していたとは」
「いや、別に勉強したとかそういうんじゃないんだが……」
「謙遜することはないさ。デュエルも知識も、負けていられないな」
「だから謙遜でもなくてだな……」
何とか誤解を解こうとする昴を他所に、三沢は新たな話題を持ちかけた。
「──そうだ。儀式召喚と言えば、あの話は知っているか?」
「あの話?……って、どの話だ?」
「知らなかったとは意外だな。オベリスク・ブルーの"女帝"の事だ」
「女帝…?」
三沢の話によると、中等部から上がってきた新入生の中に、相当なやり手の儀式使いがいるらしい。昴達と同じ1年生の女子生徒にも関わらず、男子をも寄せ付けない強さとその美貌から、いつしか付いた渾名が"女帝"なのだとか。
「でも何で"女帝"なんだ?普通そこは"女王"とかだろ」
「ブルーの女王は既にいるだろ?天上院明日香──件の"女帝"は彼女と2人でオベリスクの双璧とすら呼ばれているらしい」
「よくもまあそんなにポンポンと渾名がつくな……」
"女帝"と"女王"に続いて"双璧"ときた。もう"神"とか呼ばれてる者が出てきても驚かない自信がある。
「それで、その儀式使いの"女帝"なんだが──っと、そろそろ授業が始まるみたいだな」
変なところで話を切り上げられると、例え興味がない事柄であってもそれとなく知りたくなってしまうのが人の
三沢にその気があったのかは定かでないが、授業中、頭の中のどこかしらに必ず"女帝"の2文字がちらつく程度には、昴の興味を惹いていた。
「──いたいた。昴、ちょっといいかしら?」
「あ、女帝……」
「誰が女帝よ!──でも、知ってるなら話が早いわ。あなたに頼みがあるのよ、その"女帝"のことでね」
「………?」
「ここじゃなんだし、場所を移しましょうか」
その日最後の授業だった体育の終わりに、明日香に連れられて教室へ来た。
「…で、頼みってのは?」
「──あなたに、デュエルをしてもらいたい子がいるのよ」
「……まさか、それが例の"女帝"か?」
もしやと思ったが、どうやら当たりだったらしい。明日香の話によると──
中等部からの同級生であるその女子生徒は容姿端麗・成績優秀で、将来は女優になることを期待されており、おまけに当時から高いデュエルの実力を持っていた。それだけあって異性同性を問わず告白されることも多かったのだとか。
しかし彼女は「自分より弱い相手と付き合うつもりはない」と、告白してきた相手を片っ端からデュエルで負かし続けた。
中には彼女と同じ儀式召喚を使ってデュエルを挑んだ者もいたが、実力差は歴然──敢え無く敗北。しかし従来とは反応が少し違ったという情報が広まり、以降彼女に恋慕の想いを抱く者は、告白デュエルの際にこぞって儀式召喚を使い始めたらしい。
これまで数多くの決闘者が彼女に挑んだが、付け焼刃同然の戦い方では歯が立たず、依然として勝利できた者はいない。
「──要するに、俺にその"女帝"を倒せ、と?」
「そうよ」
何でも、彼女は「自分を満足させる相手がいないなら学園を辞めて女優の夢に専念する」とまで言い出したらしいのだ。明日香はそれを阻止すべく、こうして昴に声をかけた。
「無理に学園に縛り付ける必要もないだろうに。本人が辞めたがってるなら尚更だ」
「それは、そうなのだけど……でも、前にあの子がデュエルしてるのを見た時、すごく楽しそうにしてたのよ。だからきっと、デュエルが嫌いになった訳ではないと思うの」
勝ち過ぎたが故に飽きがきた…といったところだろうか。つまり、昴がその"女帝"を打ち負かすことで、彼女の乾きを癒すことができれば、明日香の目的は達せられることになる。
「取り敢えず、お前の言いたいことは分かった。けど何故俺だ?ブルーには上級生も含めて強い奴がいるだろうし、それこそお前が相手すれば良いんじゃないのか?」
「それじゃあダメなのよ……元々掴み所のない子だから詳しいことは私にも分からないけど、あの子をただ倒すだけじゃダメみたいなの」
歯切れの悪くなった明日香を訝しげに見つめる昴だったが、ここは渋々納得する。
「……分かった。とにかくやるだけやってみる。でも望んだ結果になるかは保証できないぞ」
「ありがとう。それで十分だわ」
同日、夜──デュエルディスクを持ってイエロー寮を出た昴は、ブルーの女子寮へと向かっていた。
本来なら男子禁制の場所なのだが、明日香直々の頼みとあって、今回は特例として入ることを許される…らしい。とはいえ通行証的な何かを渡されているでもなし、普通に入っていったら事情を知らない女子生徒に痴漢だのなんだので袋叩きにされる可能性も大いにあるのだが。
「(その時は天上院に責任とってもらおう。うん)」
女子寮へ行くにはボートを使って湖畔を渡る必要があり、慣れないオールを漕ぎながら何とか到着した。
以前万丈目に呼び出された時の教訓で時間に余裕を持って出たのだが、今度は逆に早く着き過ぎてしまったようだ。寮の入口で待っているはずの明日香の姿がない。
何気に初めて訪れるブルーの寮を見上げると、他の寮とは大違いだ。イエロー寮も十分立派な建物だと思っていたが、アカデミアのエリートが揃うブルーはその比ではない。一学園にこんな施設があっていいのかと思うほどの豪邸だった。
呆気にとられて周囲を見回していると、視界に謎の人影が映り込む。学園の生徒ならば制服の色でどこの者かわかるはずだが、チラと見た限りはどの色でもない──真っ黒な装いだった。
「まさか…よからぬことを考える輩じゃあるまいな?」
ここはデュエルアカデミアの女子生徒が全員集まる──言わば島の紅一点だ。野郎連中との共同生活で欲望を膨らませた不埒者がここに忍び込んでくる可能性がゼロとは限らない。
昴は意を決し、人影が向かった方向──女子寮の裏手へと歩みを進めた。
「(にしても、わざわざ危険を冒してまで忍び込むとは命知らずな奴もいたもんだ)」
そう言いながら、昴も昴で隠れて周囲を伺うという完全なる不審者ムーブをかましてしまう。
弁明しておくと、一応大義名分があるとはいえ、あまり人目につくのは宜しくないだろう。無用な接触は避けて事を済ませられれば、それに越したことはない。という真っ当な理由からくる行動だ。
茂みの中から慎重に周囲の様子を伺う昴の耳に、楽しげな声が聞こえてきた。
──「明日香さんたらスタイル抜群で羨ましいですわ」「そんなに見ないでよ。恥ずかしいわ」「ももえこそ、また胸大きくなったんじゃない?」「やだ、ジュンコさんたらどこ触ってますの~!」──
「(……え、なにこの会話。それに……水音?)」
キャッキャしたやり取りに被って、大量の水が流れ落ちる音が聞こえる。今しがたの会話の内容と、この水音、そして目の前の建物から立ち上る白い湯気。
これらの情報から導き出される答えは───
「まさか……女子風呂!?」
思わず声を出してしまい、ハッと口を押さえる。……誰かに気づかれてはいないようだ。
「(まずい…この状況は非常にまずいぞ!)」
これでは忍び込んだ不審者を取り押さえるために来た昴の方が不審者扱いされてしまう。冤罪だということを証明しようにも、その為の材料がそもそも見つかっていない。
──「ナーンデーストー!?」──
この場を離れるべきか迷っていると、甲高いどこか聞き覚えのある声が耳に入る。侵入者のものだろうか。
これはチャンスだ。ここで奴を取り押さえることができれば、少なくとも昴が痴漢容疑をかけられる可能性はグッと下がる。
「覚悟しろ……!」
昴が茂みから飛び出そうとした瞬間──
「キャーッ!覗きよ!!」
「げっ──!?」
バッドタイミングで今度は正真正銘、女子の悲鳴が響き渡る。覗きが出たという情報は瞬く間に伝播していき、建物の中からわらわらと部屋着の女子生徒たちが駆けつけてきた。
昴の隠れている茂みに向かって来た女子たちだったが、予想外にも彼女たちはその横を通り過ぎていく。
恐る恐る茂みから顔を覗かせて後ろを見ると、大勢の女子生徒に取り押さえられている誰かが居るようだ。人の隙間から見える制服の色は……赤。一緒に水色の髪も見えた。
「(レッドで水色の髪ってーと……翔!?)」
驚愕に見舞われた昴は開いた口が塞がらない。なにせあの翔だ。気弱で十代のことをアニキと慕っているあの翔が、まさか覗き行為に及ぶとは誰が予想し得ただろうか。
もう一度、見間違いではないか確認するために顔を出すと………
「……あなた、こんなところで何してるのかしら?」
不意に、ものすごく聞き覚えのある声が背後から聞こえる。
その正体が誰なのかを半ば察しつつ、ゆっくり振り返った先には、2人の女子生徒を引き連れたオベリスク・ブルーの女王、天上院明日香様が腕を組んでこちらを見下ろしていた。
「覗きが出たって聞いて来てみれば……まさか、あなたもそうじゃないでしょうね?」
「お、俺は違う!早く着きすぎたから寮の前で待ってようと思ったんだが、こっちに怪しい人影が見えてだな……」
「──明日香さん!この方、ラー・イエローの加々美さんですわよね!?素敵な殿方ランキングで三沢さんと同率ツートップの!」
やや興奮気味に口を挟んできたのは、明日香の後ろにいる女子生徒の片割れ──黒髪の女子だ。
「殿方ランキング……?なんd─「あのっ!」っは、はい!?」
「私、オベリスク・ブルーの浜口ももえと申します。どうぞお見知りおき下さい」
「あ、ああ……よろしく」
明日香達を押し退けて進み出たももえは、両手で昴の手を取って胸の前で握り締める。
その目はキラキラ輝いており、心なしか物理的な距離もどんどん近づいてきている気がする。
「ちょ、ちょっとももえ!少し離れなさい」
「ああん……明日香さんズルいですわ、羨ましいですわ~!私たちより先に加々美さんと仲良くされてたなんて!」
「別にあなたが想像してるような関係じゃないわよ……彼は私が呼んだの。まさかこんな所にいるとは思わなかったけどね……?」
「俺は無実だ……信じてくれ……」
「はぁ……別に疑ってないわよ。
「ねぇ~!僕と昴君でどうしてこんなに扱いが違うのさ~!?」
「翔……何があったかは知らないが、覗きは止めとくべきだったな」
「だから僕は覗きじゃないってば~~~っ!」
「……なぁ天上院。翔のことなんだが……」
「明日香でいいわよ。お互いそこまで他人じゃないんだし──翔くんのことだけど、あんな事をした理由は聞くだけ聞くつもりよ。それが納得できるものなら見逃すわ」
逆に言えば、彼女たちを納得させられるほどの深刻な理由でもなければ翔は
流石に寮の中へ入れるわけには行かず、明日香は昴を入口に待たせて件の"女帝"を呼びに行った。
1人残された昴は、デュエルディスクから引き抜いたデッキを見つめる。
「強き者の悩みか……勝ちに拘って環境デッキばかり使ってた奴も、そんな気持ちだったのかもな」
飽くなき勝利への渇望──環境が切り替わる度に使うデッキを変え、そして自分と全く同じデッキを相手にする。向こうの決闘者達も、"女帝"と同じような気持ちになったりしたのだろうか。
大会に於ける環境デッキは往々にして展開パターンが一定になりがちだ。場面場面で柔軟に動くタイプのデッキであっても、最適解を突き詰める以上は誰もがその
かつて、高すぎる汎用性故にあらゆるデッキを侵食したテーマがあった。そいつらを大会で相手して、尚且つ勝つためには、自身のデッキもまた侵食を受ける必要があった。
勝つ為だけに自分の好きなデッキに異物を紛れ込ませるのが嫌だった昴は、次第に大会には参加しなくなっていったのだが、もう会うことが無いであろうあの顔馴染みたちは、どう思っていたのだろうか。
「"好き"と"強い"のどっちを取るか……昔の俺に聞いたら、どう答えるんだろうな」
いや、答えは分かりきっている。きっとあの頃の昴なら───
「──私を潤してくれるというのは、あなた?」
振り向くと、そこには初めて見る女子生徒の姿があった。
藤色の髪をツインテールに結わえ、こちらをまっすぐ見据える赤いツリ目からはどこか無気力な印象を受ける。それでいて、立っているだけで妖艶な雰囲気を漂わせていた。
「お前がオベリスク・ブルーの"女帝"か?」
「フフッ……そうね、そう呼ぶ人もいるわ。本当は
「……なら藤原、俺はお前とデュエルしに来た。受けてくれるか?」
「これまで坊やみたいな子が何人も私に挑んできたけど……全員期待外れだったわ。坊やは違うのかしら?」
「さてね……正直期待に添えるか、やってみないことには。──けど、やるからには今出せる全力を尽くすさ」
「そう……なら精々頑張りなさい、坊や。これが最後かもしれない──私のデュエルをね」
そう言ってデュエルディスクを構えるも、彼女の目には未だ火が灯っていないようだ。
どうやら明日香の言うとおり、デュエルに対する熱が燃え尽きかけているらしい。最後というのも冗談半分ではないだろう。
昴が彼女の心に火をつけるための着火剤となるかどうか……その答えは、デュエルを終えた先にのみある。
「行くぞ───!」
「「
どうやら本作がルーキーランキングに載っていたようです。
ユーザーさんに言われるまで全く気づきませんでした(だって通知もなにも来ないんだもん)
ランキングとか自分には無縁なものだと思っていましたが、予想以上に多くの方々に読んで頂けているようで…ありがとうございます。
さて、今回の話で登場しました。TFシリーズのキャラクターゆきのんこと藤原雪乃。
皆さんご存知、4~6にかけてとんでもないキャラチェンジ(?)を果たした女の子ですね。TFの人気キャラ筆頭です。
えーそして、GXの話の流れ的に「次は昴と明日香のデュエルか!?」と期待していた方がいらっしゃいましたら、裏切ってしまい申し訳ないっす……。