遊戯王~(GXの)アカデミアに転生~   作:不可視の人狼

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異形と女神

 デュエルアカデミア、オベリスク・ブルー女子寮──表向きには女子風呂を覗いた不埒者が出た!と、ちょっとした騒ぎになっているが、その裏では、2人の決闘者によるデュエルが行われていた……

 

 

「先攻は俺だ──ドロー!……モンスターをセット、カードを1枚伏せて、ターンエンドだ」

 

 

 昴:LP4000 手札×4

 セットモンスター×1

 伏せ×1

 VS

 雪乃:LP4000 手札×5

 

 

「私のターン、ドロー……手札から【マンジュ・ゴッド】を召喚するわ」

 

 雪乃の前に現れたのは、夥しい数の腕を持つ仏像。長らく儀式デッキにおける万能サーチャーとして重宝されてきたモンスターだ。

 

 

【マンジュ・ゴッド】

 ✩4 天使族 ATK1400 DEF1000

 

 

「召喚成功時、【マンジュ・ゴッド】の効果でデッキから【高等儀式術】を手札に──カードを1枚伏せて、ターンエンドよ」

 

 

 昴:LP4000 手札×4

 セットモンスター×1

 伏せ×1

 VS

 雪乃:LP4000 手札×5

【マンジュ・ゴッド】

 伏せ×1

 

 

「(動いてこない…儀式体を引き込めて無いのか……?)俺のターン、ドロー」

 

 雪乃が手札に加えた【高等儀式術】は、条件こそあるものの儀式のネックである手札消費を抑えて召喚を行えるという強力な儀式魔法だ。それを使ってこなかったのは、単純に儀式モンスターが手札にいないか、もしくは昴の伏せカードを警戒しているかのどっちかなのだが……

 

「俺はセットしていた【リチュア・エリアル】を反転召喚。リバース効果で、デッキから【シャドウ・リチュア】を手札に加える」

 

 

【リチュア・エリアル】

 ✩4 魔法使い族 ATK1000 DEF1800

 

 

 姿を現したとんがり帽子の少女が杖をひと振りし、新たな同胞を昴の手札に呼び寄せる。

 

「手札から【シャドウ・リチュア】を墓地に送って、効果発動。デッキから【リチュアの儀水鏡】を手札に加える。続けて【ヴィジョン・リチュア】の効果、同じく墓地に送って、デッキの【リチュア】儀式モンスターを手札に」

 

 昴が手札に加えた【儀水鏡】と【ガストクラーケ】見て、雪乃は小さな反応を見せる。

 

「ふぅん……坊や、儀式使いなのね。それもこれまでとは違う、本物の……」

 

 どうやら微かにではあるが、図らずも彼女の興味を引くことには成功したようだ。

 

「【リチュアの儀水鏡】発動!手札の【マインドオーガス】を墓地に送り、儀式召喚!──現れろ、【イビリチュア・ガストクラーケ】!」

 

 

【イビリチュア・ガストクラーケ】

 ✩6 水族 儀式 ATK2400 DEF1000

 

 

 儀水鏡の輝きより現れ出たのは、赤い髪の少女の下半身に烏賊を結合させた異形の存在。

【ガストクラーケ】が杖を振りかざすと、先端に取り付けられた儀水鏡から、雪乃の手札に光が照射される。

 

「【ガストクラーケ】は儀式召喚成功時、相手の手札を2枚確認して、そのうち1枚をデッキに戻すことができる。対象は右側の2枚だ」

 

 鏡から放たれた光が雪乃の手札を2枚捉え、その正体を暴き出す。

 露わになったのは【ソニックバード】と【デーモンの斧】──前者は儀式魔法のサーチ効果を持っており、後者は言わずと知れた攻撃力アップの装備魔法だ。

 

「あらあら…乙女の秘密を覗き見るなんて、イケナイ子ね」

 

「…【ソニックバード】をデッキに戻してもらう」

 

 クスクスと意地悪に笑う雪乃は、ピーピングハンデスをものともしていない様子だ。

 

「けれど、代償は高くつくわよ?──罠発動【狡猾な落とし穴】。これで【ガストクラーケ】とはさよならね」

 

「そうはさせない──!こっちも罠発動【儀水鏡の反魂術】!【ガストクラーケ】をデッキに戻し、墓地の【リチュア】を2体手札に戻す」

 

 3つの効果でチェーンが組まれ、昴の【反魂術】から処理がなされていく。

【狡猾な落とし穴】は【ガストクラーケ】を逃したが、【エリアル】を飲み込んでしまう、そして雪乃の手札が1枚デッキに戻された。

 

「残念。落とし損ねちゃったわね……それで?もう終わりかしら?」

 

「まさか。墓地の【儀水鏡】の効果発動、自身をデッキに戻して、墓地から【マインドオーガス】を回収する。もう一度【シャドウ】と【ヴィジョン】の効果発動!デッキから【儀水鏡】と【ガストクラーケ】を手札に加える。再び【リチュアの儀水鏡】を発動!」

 

 先程と同じように儀式召喚された【ガストクラーケ】により、さらにもう1枚、雪乃の手札が削られることに。

 

「次は左端の2枚だ」

 

 公開された手札は儀式モンスターをサーチする【センジュ・ゴッド】と、バーンかライフ回復のどちらか選んで効果を使える【ご隠居の猛毒薬】の2枚。

 

「一度だけじゃ満足できないのね。いたいけな少女の全てを覗き見ようだなんて…フフッ、案外欲望に忠実だったりするのかしら?」

 

「一々変な言い回しをするのは止めてくれ……戻すのは【センジュ・ゴッド】だ」

 

 5枚あった雪乃の手札はこれで残り3枚。できればもう1~2枚くらい抜いておきたいところだが、今の昴の手札ではこれが限界だ。

 

「【リチュア・チェイン】を通常召喚。効果でデッキトップを3枚確認して、その中に儀式魔法か儀式モンスターがあれば手札に加えられるが……このまま何もせず、好きな順番でデッキの上に戻す──バトルだ!【リチュア・チェイン】で【マンジュ・ゴッド】を攻撃!」

 

 

【リチュア・チェイン】

 ✩4 海竜族 ATK1800 DEF1000

 

 

【チェイン】が投擲した鎖により仏像はギリギリと縛り上げられ、やがて砕け散る。

 

「っん……!」

 

 

 雪乃:LP4000→3600

 

 

「続け【ガストクラーケ】!──イビル・テンタクルス!」

 

 雪乃の元へ殺到した烏賊の触手が叩きつけられ、直接雪乃のライフを削りにかかる。

 

「あん……ッ!」

 

 

 雪乃:LP3500→1200

 

 

 妙に扇情的な声でダメージを受けた雪乃が顔を上げると、端正な顔にはこれまでとは違う──妖艶な雰囲気はそのままに、不敵な笑みが浮かんでいた。

 

「フフフ……本当にイケナイ子。私を困らせないで?こんな攻撃受けたら…私もつい、熱くなってしまうわ……!」

 

 昴を真っ直ぐに見据える赤い双眸は、獲物を狙う狩人…いや、どちらかというと女豹を思わせる。

 妖艶さの中でも圧倒的な存在感を放つプレッシャーに、昴は思わず身構えてしまう。

 

「空気が変わった……」

 

 先程発動した【リチュア・チェイン】の効果はトップを確認して戻すのが強制、その中のカードをサーチするのは任意効果だ。

 結果から言えばハズレ。儀式魔法もモンスターもいなかったが、言葉回しで「無かった」ではなく「敢えて何もしない」という風に匂わせておいた、しかもカードを加えない場合は捲ったカードを公開する必要もないため、相当な実力者と謳われる雪乃ならばデッキに戻したカードに何かあるのではと勘繰ってくれる可能性はある。

 

 負けの濃い賭けとはいえ、少しくらい警戒してくれるといいのだが。

 

「(盤外戦術には盤外戦術…って程でもないが、何かしらのアクション起こしてくれよ…)──墓地の【儀水鏡】の効果で【マインドオーガス】を回収。カードを1枚伏せてターンエンドだ」

 

 1番手札から抜いておきたかった【高等儀式術】で出してくるモンスターは一体何なのか。それによって、昴が取る選択も変わってくる。

 

 

 昴:LP4000 手札×2

【イビリチュア・ガストクラーケ】

【リチュア・チェイン】

 伏せ×1

 VS

 雪乃:LP1100 手札×3

 

 

「いいわ…この感じ久しぶり……!明日香の話を聞いたときはどうせいつもと同じだとばかり思っていたから、全力のデッキじゃないのが残念だけれど…それでも──少しだけ本気、出したくなっちゃったわ」

 

「…お前、いつからだ──」

 

「何の事かしら?」

 

「いつからデッキを変えていた?まさかこのデュエルが初めてじゃないだろ」

 

「そうね……私に告白してくる男子たちが10人を超えたあたりだったかしら。それがどうかした?」

 

 ドローフェイズでカードを引きながら、なに食わぬ顔で答えた雪乃を昴は努めて冷静に諌めようとする。

 

「確かにお前にとっては退屈なデュエルだったかもしれない。それでも、向こうは一世一代の覚悟で告白してきてたんだ。お前はその想いに全力で向き合わなきゃいけないんじゃないのか」

 

「明日香から聞いてないのかしら?私は強い男が好きなの。でもあの子達は全員、全力の私には勝てなかった……途中からデッキを弱体化させたのは、ハードルを下げてあげたつもりだったのだけど?」

 

 雪乃からしてみれば、手加減をした自分にすら勝てないようでは論外だと言いたいのだろう。しかし当初本気のデッキと戦ったという10人前後の男子たちはともかく、その後に続いた者たちがそれを聞いたらどう思うだろうか?

 

 為人も知らない内から舐めて掛かられていたのだから、当然いい気持ちはしないだろう。

 例えそれでデュエルには勝てたとしても、それは自らの力で勝ち取ったのではなく、雪乃によって与えられた勝利に過ぎない。

 

 真実を知れば、男としてのプライドが大いに傷つけられるのは間違いない。

 

「……分かった。そういうことなら、お望み通り倒してやるよ。後で負け惜しみ言うなよ──!」

 

「あなたも熱が入ってきたみたいね…いいわ、私の攻撃を受け止めてご覧なさい。──儀式魔法【高等儀式術】を発動。デッキからレベル4の【デュナミス・ヴァルキリア】を2体墓地に送って、儀式召喚を行うわ──」

 

 両者の間に古びた祭壇が出現し、2体のモンスターの命が捧げられる。すると祭壇から青白い光が放たれ、視界を白く染め上げた。

 

 

「──おいでなさい、【破滅の女神 ルイン】!」

 

 

 光の中から現れたのは、赤いドレスを身に纏った貴婦人。視る者全てに畏怖の念を与える美しくも鋭い瞳は、どこか雪乃と似通っている。

 

 

【破滅の女神 ルイン】

 ✩8 天使族 儀式 ATK2300 DEF2000

 

 

「さらに装備魔法【デーモンの斧】を発動。【ルイン】の攻撃力を1000ポイントアップさせるわ」

 

 これで攻撃力は3300──昴のモンスターの攻撃力を大きく上回った。

 

「踊りましょう…激しく、ね──バトル、【ルイン】で【ガストクラーケ】を攻撃するわ」

 

 ルインが手に持った斧を振りかぶり、【ガストクラーケ】に襲いかかる。

 最初こそ応戦していた【ガストクラーケ】だったが、やがて身体を深々と割断され、その身を消滅させてしまう。

 

 

 昴:LP 4000→3100

 

 

「【ルイン】の効果発動、相手モンスターを戦闘で破壊した場合、続けてもう一度攻撃できる」

 

「くっ……!」

 

「フフッ。そんな顔しなくても大丈夫、痛いのは最初だけ……もう一度【ルイン】で攻撃よ。【リチュア・チェイン】にお相手願おうかしら」

 

 またも振るわれた不気味な斧の前に昴のモンスターが破壊され、フィールドが更地になる。

 

 

 昴:LP3100→1600

 

 

「更に手札から速攻魔法【ご隠居の猛毒薬】を発動。もう少しだけ頂くわね」

 

【ご隠居の猛毒薬】の効果により、昴のライフが更に800減少。あっという間にLPでも逆転されてしまった。

 

 

「はい、坊やのターンよ。ここから私を倒せるかしら……?」

 

 

 昴:LP800 手札×1

 伏せ×1

 VS

 雪乃:LP1100 手札×0

【破滅の女神 ルイン】+【デーモンの斧】

 

 

 状況はハッキリ言って劣勢だ。打開の糸口が見えていたこれまでのデュエルとは違う。

 装備魔法によって強化された【ルイン】の攻撃力3300──あれを越える方法は、結論から言えばある。

 だがその為には引かねばならない……デッキに1枚だけ(ピン差し)のあのカードを。

 

 現在昴の手札・フィールド・墓地にあるカードは合計8枚。逆算して、デッキの残数は残り32枚。

 その中からたった1枚のカードを次のドローで引き込まなければ、十中八九昴は敗北する。運良く生き延びれたとしても1ターンが関の山だろう。

 

「(くそ…ここに来て循環系コンボの欠点が…)」

 

 かつて昴が使っていたコンボデッキの代表格は、この【リチュア】の他に【インフェルニティ】がある。

 どちらも同じ、カードを高速回転させる所謂ソリティアデッキだが、今昴が使っているタイプの【リチュア】と比較した場合、前者と後者では小さな──しかし決定的な違いがある。

 

【インフェルニティ】は手札を0枚にして墓地を肥やし、リソースを増やしながら展開していくのだが、今の構築の【リチュア】では1ターン中にデッキから供給できる展開札が無いに等しい。だから少ないカードを循環させてコンボを繋いでいく必要がある。

 

 つまるところ、デッキの圧縮ができないのだ。ドローカードも入っているには入っているが、このドローで引いてしまうとぶっちゃけ逆に詰みかねない。目的のカードをピンポイントで狙わなければ……

 

「どうしたのかしら?あれだけの啖呵を切っておいて、まさか負けを認めるなんて無様な真似はしないでしょう?私にあなたの男を──強さを見せて」

 

 雪乃に促されるがまま、昴の右手がデッキに触れる。

 

 ここで負ければ、彼女はデュエルアカデミアを去る……つまり、もう二度と藤原雪乃とデュエルができないということだ。

 

 

 それは即ち──

 

 

「──勝ち逃げされるってことじゃねぇか……」

 

 デッキに触れた手が、指先が、次第に熱を帯びていくように感じる。前世じゃまず感じなかった感覚だ。

 

 後になって、昴はこの現象をこう解釈している。

 

 

 ──デッキが応えてくれた。と──

 

 

「俺の…ターン───ッ!」

 

 

 気合と共に引いたカードが何なのか、確認する必要はない。代わりに昴の顔には、不敵な笑みが浮かんでいた。

 

「墓地の【リチュアの儀水鏡】の効果発動!このカードをデッキに戻し、墓地から【マインドオーガス】を回収。続けて罠カード【儀水鏡の瞑想術】を発動!手札の【リチュアの儀水鏡】を公開し、墓地の【シャドウ・リチュア】と【ヴィジョン・リチュア】を手札に回収。【シャドウ】と【ヴィジョン】の効果で、デッキから【リチュアの儀水鏡】と【テトラオーグル】を手札に──!」

 

「いいわ…ゾクゾクする……!そうよ、この感じだわ……!」

 

「【リチュアの儀水鏡】発動!手札の【ガストクラーケ】を墓地に送り、儀式召喚!」

 

 昴の頭上に現れた儀水鏡に魂が吸い込まれ、異形の力が産声を上げる。

 

「現れろ、【イビリチュア・テトラオーグル】!」

 

 儀水鏡より現れたのは、コートを纏った赤い髪の海竜。その身体に、バラバラになった白い正四面体が鎧のように装着されていく。

 

 

【イビリチュア・テトラオーグル】

 ✩6 水族 儀式 ATK2600 DEF2100

 

 

「【テトラオーグル】の効果発動!カードの種類を1つ宣言し、お互いのデッキから宣言した種類のカードを1枚墓地に送る。俺が宣言するのは魔法カード…これに対し、相手は手札を1枚捨てることで効果を無効にできるが──」

 

 今雪乃の手札は0枚、効果を止める術はない。

 

【テトラオーグル】の力で雪乃のデッキからは【大寒波】が、そして昴のデッキからは【リチュアの儀水鏡】が墓地に送られる。

 

「墓地に送られた【儀水鏡】をデッキに戻し、【ガストクラーケ】を手札に。そしてもう一度【リチュアの儀水鏡】を発動!手札の【ガストクラーケ】を生贄に──!」

 

 再び魂が捧げられた儀水鏡より光が放たれ、リチュアの紋章を浮かび上がらせる鏡面から異形の怪物が姿を現す──

 

「儀式召喚!【イビリチュア・マインドオーガス】!」

 

 

【イビリチュア・マインドオーガス】

 ✩6 水族 儀式 ATK2500 DEF2000

 

 

 フィールドに降り立った【マインドオーガス】は杖の先端にある儀水鏡を掲げ、互の墓地に眠るカードたちを呼び起こす。

 

「【マインドオーガス】の召喚成功時、互いの墓地から合計5枚までカードをデッキに戻す。──マインド・リサイクル!」

 

 この効果で昴は自分の墓地にある【儀水鏡の瞑想術】と【儀水鏡の反魂術】の2枚をデッキに戻した。

 

「あの状況から連続の儀式召喚…お見事ね。けれど、その子達には他に何ができるのかしら?攻撃力ならまだ【ルイン】の方が上よ」

 

「確かに【リチュア】の儀式モンスターたちは、各々できることが限られてる。だからこうするのさ──装備魔法【リチュアル・ウェポン】を【マインドオーガス】に装備!」

 

【マインドオーガス】の左腕に流麗な弓が装備され、攻撃力を1500アップさせる。

 この装備魔法はレベル6以下の儀式モンスターでしか装備できないという制約を持つ代わりに、1500ポイントという大幅な攻撃力アップの恩恵を齎すのだ。

 

「攻撃力4000……やっぱり、あなたが──」

 

「──バトルだ!【イビリチュア・マインドオーガス】で【破滅の女神 ルイン】を攻撃!──ハイドロ・ガイスト!」

 

 儀水鏡から発せられる力を込めた光の矢が、必殺の一撃となって破滅の女神を射貫く──!

 

 

 雪乃:LP1100→400

 

 

「とどめだ──【イビリチュア・テトラオーグル】!プレイヤーにダイレクトアタック!──カオス・ブラスト!」

 

 両肩の砲門から二条の閃光が放たれ、雪乃を飲み込んだ。

 

 

 雪乃:LP400→0

 

 

 光が収まり、デュエルの終了を告げるブザー音が鳴り響く。黙して佇む雪乃は、伏せていた瞳をゆっくりと開いた。

 

「決まりだな」

 

「ええ…私の負け──と言いたいところだけど、それは次に持ち越しね」

 

「えっ?何でだよ!?俺勝ったろ!」

 

「確かにこのデュエルでは負けたわ。でも言ったでしょう?本気のデッキじゃなかったのよ、私」

 

「なんだよそれ……って、さっき"次"って言ったか?じゃあ──」

 

 不意に、雪乃の細く白い指先が昴の口の動きを止めた。そのまま焦らすように指先を動かし、唇を艶めかしくなぞる。

 

「ウフッ、その程度の女心も分からないようじゃまだまだね。でも……久しぶりに楽しいデュエルだったわ。坊や──いえ、昴」

 

「え、なんで俺の名前……!?」

 

「野暮なことは聞かないものよ。──取り敢えず強さは及第点といった所かしら。あとは女心をもう少し理解できるよう調教すれば……」

 

 何やら最後に物騒なワードが聞こえた気がしたが、それも雪乃のとある行動で一気に吹き飛ぶ。

 

 

「これからも精進なさい。私の伴侶になるのだから、まだまだ学ぶべきことは沢山あるわよ」

 

 

 そう言って、雪乃は昴の口元から離した指先を自らの唇にそっと触れさせた。極めつけにウィンクを残して去っていく彼女の背中を見送る昴は、茫然自失として声も出ない。

 

 唯一、頭を駆け巡っていたのは、

 

 

「(い、今のって…か、かかかかかかか間接──!?)」

 

 

 という、彼女いない歴=年齢な年頃の男子学生にありがち(?)なパニックだった。

 




この話を書くにあたってTFのゆきのんボイスをめっちゃ聴きまくりました……
矯声とか書いたことないので上手く出来てますかね。

恐らく勘のいい方とか目聡い(失礼)は気づかれてるかもですが、今回のデュエル、無駄な行為が含まれてます。
最後のターンで昴が【テトラオーグル】を出してましたが、ぶっちゃけアレ出さなくても【ガスクラ】で事足りてました。わざわざ【テトラオーグル】を出したのは、単純にここらで出しとかないと永遠に出す機会無いんじゃないのと思ったからです。

……プシュケローネ?知らない子ですね。

しばらく更新が止まっていましたが、その間にもお気に入り登録や評価、感想を下さった方々、ありがとうございます。

次回更新を気長に待ってもらえればと思います。

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