遊戯王~(GXの)アカデミアに転生~   作:不可視の人狼

8 / 30
終焉の王

 デュエルアカデミアの月一で行われるテスト。

 筆記試験を乗り越えた昴が実技試験にて相手をすることになったのは、オベリスク・ブルーの女帝、藤原雪乃だった。

 

「何でお前が俺と?まだブルーの生徒は残っているはずだが」

 

「そうね…健全な交渉の結果、とでも言っておこうかしら」

 

 そう言って雪乃が横目で見ているのは、アナウンス室からこちらを見ているクロノスだ。雪乃の視線を感じたのか、ビクッ!と震え上がったクロノスはそそくさと部屋の奥に引っ込んでいった。

 

 一体どんな材料を使ったのかは不明だが、取り敢えず"対等"と呼べるようなものではない──交渉というより脅迫に近かったのでは?ということは伝わった。

 

「そんなことはどうでもいいじゃない。あの夜のように熱い一時をまたあなたと過ごせるのが、私は堪らなく嬉しいの──今度は本気よ。正真正銘、全力でお相手するわ」

 

 雪乃の言葉に、観覧席の最前列で昴を応援している翔や三沢、明日香を始め、周囲の生徒たちがざわめき始める。しかし昴の意識は既にそちらへは向いていない。

 

 目の前の雪乃は表情こそ笑っているが、全身から放たれるプレッシャーは前回の比じゃない。

 女帝と恐れられた彼女の本当の実力が如何程か…果たして勝てるのかどうか、正直不安はある。だが──

 

 

 ──信じて──

 

 

 あの時、そう語りかけてくれた誰かの言葉を、昴は信じようと思った。

 

 

「さあ始めましょう、昴。熱く、激しく──!」

 

「行くぞ、藤原──!」

 

 

「「決闘(デュエル)!」」

 

 

 昴 :LP4000 手札×5

 VS

 雪乃:LP4000 手札×5

 

 

「先攻は私ね。ドロー…手札から【マンジュ・ゴッド】を召喚よ」

 

 

【マンジュ・ゴッド】

 ✩4 天使族 ATK1400 DEF1000

 

 

「召喚時効果で、デッキから儀式魔法【高等儀式術】を手札に加えるわ」

 

 ここまでは前回と同じ……だが油断はできない。その後雪乃はカードを1枚伏せ、ターンを渡した。

 

 

 昴 :LP4000 手札×5

 VS

 雪乃:LP4000 手札×5

【マンジュ・ゴッド】

 伏せ×1

 

 

「俺のターン、ドロー!…魔法カード【強欲なウツボ】を発動。手札の水属性モンスターを2体デッキに戻してシャッフル、その後デッキから3枚ドローする」

 

 やや事故り気味だった手札を交換し、改めて昴も動き出した。

 

「手札1枚をコストに魔法カード【ワン・フォー・ワン】を発動!デッキから【鰤っ子姫(ブリンセス)】を特殊召喚!」

 

 

鰤っ子姫(ブリンセス)

 ✩1 魚族 ATK0 DEF0

 

 

「【鰤っ子姫】の効果。自身を除外して、デッキからレベル4以下の魚族モンスター──【リチュア・アビス】を特殊召喚!」

 

【鰤っ子姫】の手品のような演出により、盛大な水しぶきと共に【リチュア・アビス】と入れ替わった。

 

 

【リチュア・アビス】

 ✩2 魚族 ATK800 DEF500

 

 

「特殊召喚された【アビス】の効果で、デッキから【ヴィジョン・リチュア】を手札に。──その後手札の【シャドウ・リチュア】と【ヴィジョン・リチュア】の効果を発動させ、デッキから【リチュアの儀水鏡】と【ガストクラーケ】を手札に加える」

 

 昴の手札に儀式魔法と儀式モンスターが揃った。この戦いを見ている者は、この先昴が何をするのか、もう分かっている。

 

「【リチュアの儀水鏡】発動!手札の同名カードを墓地に送り、【イビリチュア・ガストクラーケ】を儀式召喚!」

 

 

【イビリチュア・ガストクラーケ】

 ✩6 水族 儀式 ATK2400 DEF1000

 

 

 昴の呼び声に応じて現れた【ガストクラーケ】は、杖の先端に据えられた儀水鏡の光で雪乃の手札を見通す。

 

「【ガストクラーケ】の効果で、中央右側の2枚を公開してもらうぞ──ガスト・スキャニング!」

 

 暴かれた雪乃の手札は【儀式の供物】と【レッド・サイクロプス】。昴が標的としているカードではない。

 

「【儀式の供物】をデッキに戻す。──墓地の【儀水鏡】の効果で、【ガストクラーケ】を回収。魔法カード【サルベージ】発動!墓地の【シャドウ】と【ヴィジョン】を手札に!その効果で【儀水鏡】と【マインドオーガス】を手札に加える!」

 

 

 

「昴君、また儀式召喚を狙う気だ!」

 

「藤原雪乃が手札に加えた【高等儀式術】は、アレ1枚で強力な儀式モンスターに繋がる。出来ればこのターンで処理しておきたいところだが……」

 

「流石に開始1ターン目じゃ、儀式召喚の回数も限られるわね」

 

「大丈夫さ、昴の奴ならきっと当てる!」

 

 

 

「【リチュアの儀水鏡】発動!素材としてフィールドの【ガストクラーケ】を墓地に送り──転生せよ!【イビリチュア・ガストクラーケ】!」

 

 転生を果たした2体目の【ガストクラーケ】は、もう一度雪乃の手札に手を付ける。

 

 それに対し雪乃は、手札を一度シャッフルした上で自ら透過の光に晒した。

 

「さあ、次はどれがいいのかしら?」

 

「……中央2枚だ」

 

 雪乃は昴の選んだ手札を抜き取り、見えるように表返す。

 

 

「──あっ!」

 

 

 客席の方から翔の声が聞こえる。

 露わになったのは先程もピーピングした【レッド・サイクロプス】と──

 

「……見つけたぞ──【高等儀式術】!」

 

「あら、見つかってしまったわ」

 

 雪乃の手札から1枚のカードがデッキに返される。枚数を削れたことも勿論だが、それ以上にあのカードをハンデス出来た事の方がアドバンテージとしては大きい。

 

「バトルだ!【ガストクラーケ】で【マンジュ・ゴッド】を攻撃!──イビル・テンタクルス!」

 

「いいわ昴、とても情熱的よ…!でもだぁめ──罠カード【攻撃の無力化】。【ガストクラーケ】の攻撃を無効にして、バトルフェイズを終了させるわ」

 

「っ……カードを1枚伏せて、ターンエンド」

 

 

 昴 :LP4000 手札×1

【イビリチュア・ガストクラーケ】

【リチュア・アビス】

 伏せ×1

 VS

 雪乃:LP4000 手札×3

【マンジュ・ゴッド】

 

 

「そんな顔しないで、楽しみましょう?私のターン──」

 

 ドローしたカードを一瞥した雪乃は、ぺろりと小さく舌舐めずりする。それを見た瞬間、背筋にゾクリとしたものが走る。

 

「手札から──儀式魔法【エンド・オブ・ザ・ワールド】発動」

 

「っ……来る!」

 

 昴と雪乃の間にジオラマのような街並みが出現。その上空に特徴的な魔法陣めいた紋様が展開される。

 

「2体のモンスターの魂を捧げることで、絶対破壊の王が降臨する──」

 

 雪乃の手札から【レッド・サイクロプス】、フィールドから【マンジュ・ゴッド】の2体が供物として捧げられ、眼前の街一帯が青い光に包まれる。

 墓地に送られた2体のレベル合計は8──今から現れるモンスターの正体を予測していた昴は、ゴクリと唾を飲み込んだ。

 

 

「現れなさい───【終焉の王 デミス】」

 

 

 次の瞬間──青い光と、それに包まれた街全てを飲み込み、黒衣の悪魔が降り立つ。

 この世に破壊と終わりを齎す終焉の王は、手にした戦斧を音高く突き立て、自らの威光を知らしめた。

 

 

【終焉の王 デミス】

 ✩8 悪魔族 儀式 ATK2400 DEF2000

 

 

「…な、なにあのモンスター……!」

 

「わからない…【デミス】は確かに強力なレアカードだが、伝説の三幻神のような特別なカードではないはず……なのに、何なんだこの威圧感は……!?」

 

 翔や三沢と同じように、周囲の生徒も皆言葉を失っている。

 

「(雪乃……本当に本気なのね)」

 

 叫ぶでもなく、暴れるでもない。ただ黙して佇むだけで、その姿を目にした者を畏怖させる。

 そんな不思議な力が、雪乃の【デミス】には宿っていた。

 

「行くわよ昴…私の胸を熱くするこの想い、あなたに受け止めきれるかしら?【デミス】の効果を発動。ライフ2000を代償に──【デミス】以外のフィールドに存在するカードを全て破壊するわ」

 

 

 雪乃:LP4000→2000

 

 

 主の(LP)の実に半分を対価として受け取った【デミス】は、右手に力を集約させ、それを一気に解放する。解き放たれた青い光は放射状に広がっていき、凄まじい衝撃と共に昴のフィールドを余す所なく蹂躙していった。

 

 周辺の生徒たちも余りの威力に揃って顔を覆い、衝撃が止んだ頃には、フィールドに立っているのは【デミス】のみであった。

 

「くっ……!」

 

「あぁ…っこれ…この感じ、久しぶりだわ──全てを消し飛ばすこの快感──何度味わっても止められない」

 

 自分の肩を抱いて身震いする雪乃。そんな彼女を見た昴の顔には、ピンチだというのに笑みが浮かんでいた。

 

「……それが本当のお前か、藤原」

 

「ええ。私、ホントは悪い子なの──幻滅したかしら?」

 

「まさか。寧ろ嬉しいよ。これでようやく、本当の意味でお前と戦える」

 

「随分余裕ね?モンスターもいなければ、伏せカードもないこの状況…しかも私はまだ通常召喚権も残っている」

 

「そうだな。絶体絶命だ」

 

 無防備になった昴へ、雪乃は躊躇なく攻撃を命じる。

 

「バトル。【終焉の王 デミス】でプレイヤーにダイレクトアタック」

 

 主の命により、【デミス】は戦斧を振りかぶり、昴に振り下ろす──!

 

 

 

 

 

 

 ──が、その攻撃は見えない壁のようなものに弾かれた。

 

「お前が【デミス】の効果を発動した時、チェーンして【威嚇する咆哮】を発動させてもらった。このターン、お前は攻撃宣言を行うことができない」

 

「やっぱりね…あなたがこの程度で終わるはずがないもの。いいわ、あなたの番よ」

 

 

 昴 :LP4000 手札×1

 VS

 雪乃:LP2000 手札×1

【終焉の王 デミス】

 

 

「何とかこのターンは凌いだな……」

 

「うん…でも昴君のピンチは変わらないよ」

 

「【デミス】の効果は発動に2000ポイントのライフを支払う必要がある。今の彼女では効果を使えないが……」

 

 三沢の予測では、恐らく雪乃はきちんとその所もケアしているはずだ。例え1ポイントでもライフが2000を上回れば、もう一度あの恐るべき効果を発動できる。

 

 そしてそのことは当然、昴も理解していた。

 以前のデュエルで彼女が使った【ご隠居の猛毒薬】──あの魔法はもう1つ、自身のライフを1200回復する効果を持っている。

 それだけあれば【デミス】の効果を撃つ準備が整うだけでなく、コストで発生したライフ差も縮められるというわけだ。

 

「つまり、昴が取れる戦法は1つだけ──」

 

 

 

「(またフィールドを吹っ飛ばされる前に、ライフを削りきるしかない…!)──俺のターン、ドロー!…よし、手札から【サルベージ】発動!」

 

 起死回生の【サルベージ】で墓地から【シャドウ・リチュア】と【ヴィジョン・リチュア】を、更に墓地にある2枚の【儀水鏡】の効果で【ガストクラーケ】を2体回収する。

 

「【シャドウ・リチュア】を墓地に送り、【リチュアの儀水鏡】を手札に──そして発動だ!手札の【ガストクラーケ】を素材に【イビリチュア・マインドオーガス】を儀式召喚!」

 

 

【イビリチュア・マインドオーガス】

 ✩6 水族 儀式 ATK2500 DEF2000

 

 

「【マインドオーガス】の効果!互いの墓地から合計5枚までカードをデッキに戻す。──マインド・リサイクル!」

 

【マインドオーガス】が杖をひと振りし、互いの墓地のカードが宙に浮かび上がる。

 昴の墓地から【サルベージ】2枚がデッキに戻された。

 

「バトル!【マインドオーガス】で【デミス】を攻撃!──ハイドロ・ガイスト!」

 

 掲げられた儀水鏡の鏡面から、無数の亡霊たちが【デミス】に襲いかかる。

 巨大な戦斧で亡霊たちを薙ぎ払い抵抗を見せた【デミス】だったが、物量で押し切られ、破壊されてしまった。

 

 

 雪乃:LP2000→1900

 

 

「ん……っ!」

 

「ターンエンドだ」

 

 

 昴 :LP4000 手札×2

【イビリチュア・マインドオーガス】

 VS

 雪乃:LP1900 手札×1

 

 

「いいわ…ゾクゾクきちゃう…っ!私のターン──!」

 

 

 

「雪乃……楽しそう」

 

「ん?どうしたんだよ明日香?」

 

 観覧席で2人のデュエルを見守る明日香は、雪乃の心底楽しそうな表情を見て安堵の笑みを零す。

 

「あの娘が最後にああやって笑ったの、随分前のように感じるわ。昴がいなかったら、雪乃ももうこの学園にはいなかったかもしれない……」

 

「へぇ…よく分かんねぇけど、何かすげぇ奴だよな、昴って。俺みたいにひたすらデュエルを楽しんでるのに、でもきっと頭ん中じゃ色んな事考えててさ」

 

「そうね……ある意味、十代と同じかも」

 

「それってつまり……俺頭良いってことか?」

 

「……ま、そういう事にしておこうかしらね」

 

 今十代が言った事は、全てでないにしろ彼自身にも当てはまるはずだ。

 もし十代と昴に違いがあるのだとすれば、デュエルバカの重症度合だろう。もっと言うなら、十代は感覚派。昴は計算型と言うべきだろうか。

 

 かと思えば、昴も昴で思いもよらない事をしでかす。今朝なんて【モリンフェン】のフレーバーテキストを必死に暗唱していたのだから。

 

「本当に…2人して面白い奴」

 

 

 

 ──場面は戻り、昴VS雪乃。

 

「手札から【マンジュ・ゴッド】を召喚。効果でデッキから【高等儀式術】を手札に加えるわ」

 

 しかし攻撃力で劣る【マンジュ・ゴッド】では昴の【マインドオーガス】を突破できない。雪乃はカードを2枚伏せ、ターンを終了した。

 

 

 昴 :LP4000 手札×2

【イビリチュア・マインドオーガス】

 VS

 雪乃:LP1900 手札×0

【マンジュ・ゴッド】

 伏せ×2

 

 

「俺のターン!…墓地の【儀水鏡】の効果で、【ガストクラーケ】を回収。【シャドウ・リチュア】を墓地に送り、今戻した【儀水鏡】を手札に加える」

 

 雪乃の伏せカード…2枚の内どちらか片方は間違いなく【高等儀式術】だ。

 自分のターンにしか発動できないあのカードを何故伏せたのか…それは、【ガストクラーケ】のハンデス効果から逃れる為。当然、昴が【大嵐】(当時まだ禁止になっていない)や【サイクロン】を引き当てたなら除去されてしまう恐れもある。

 

 しかし雪乃はたった1度のデュエルで、昴のデッキの構成についておおよその推測を立てていた。

 

【リチュア】はサーチや回収効果を利用して連続儀式召喚を行うというコンセプトを持っている以上、デッキの大半が展開・カードを回す為のカードに占められる。

 当然、いたずらにデッキ枚数を増やせば手札事故の可能性も高くなるから、いくつかの要素には目を瞑らなければならなくなる。

 

 そう、例えば──伏せカードの除去とか。

 

 この雪乃の予想は的中しており、昴のデッキは伏せ除去のカードが【大嵐】1枚のみ。他は大部分が【リチュア】や儀式関連のカードに占有されている。

 デッキを詰めに詰めてできた空き枠に入れた【威嚇する咆哮】を引けていたのは、めちゃくちゃ運が良かったくらいだ。

 

 つまり雪乃がセットしたカードは基本安全が保証されるということ。であれば、話は簡単だ。

 

「全く、やってくれるよ本当に──【リチュアの儀水鏡】発動!来い、【イビリチュア・ガストクラーケ】!」

 

 このデュエルで何度も登場している功労者である【ガストクラーケ】だが、今回はその力を発揮することができない。

 

 しかしこの場においては、フィールドに出るだけで十分役目は果たせる。

 

「バトルだ!【ガストクラーケ】で【マンジュ・ゴッド】を攻撃!──イビル・テンタクルス!」

 

「罠発動【ドレインシールド】──【ガストクラーケ】の攻撃を無効にするわ」

 

 襲い来る触手は全て半球状の障壁に防がれてしまう。だがこれだけでは終わらない。

 

「──更に、攻撃してきたモンスターの攻撃力分、私のライフを回復させてもらうわね」

 

 

 雪乃:LP1900→4300

 

 

「くっ!【マインドオーガス】──!」

 

【ガストクラーケ】に代わり、【マインドオーガス】が万の腕持つ仏像を粉砕する。戦闘破壊とダメージはきっちり通るが……

 

 

 雪乃:LP4300→3200

 

 

「っふぅ……残念ね。美味しかったわ」

 

「……ッターンエンド」

 

 

 昴 :LP4000 手札×1

【イビリチュア・マインドオーガス】

【イビリチュア・ガストクラーケ】

 VS

 雪乃:LP3200 手札×0

 伏せ×1

 

 

「これが…アカデミアの女帝か」

 

 ライフポイントでも、ボードアドバンテージでもこちらが勝っているというのに、戦況をリードできている気が全くしない。

 

 それどころか、相手に逆転の手段を与えてしまった。

 

「このデュエルも佳境かしら…正直まだ続けていたいけれど……そうもいかないものね」

 

 そう言って雪乃がドローしたのは……

 

「【強欲な壺】を発動よ、デッキから2枚ドローするわ」

 

「ここで【壺】かよ……っ!」

 

 パワーカードの代名詞【強欲な壺】──無条件で2枚ドローという圧倒的強カードだ。前世では強すぎるということで禁止カード(豚箱)送りになっている。

 

 雪乃が壺から引いたカード……極論、その内容で勝負が決まる。

 

「……いい子ね。──私は伏せていた【高等儀式術】を発動するわ」

 

「まさかっ!」

 

「ええ、そのまさかよ──デッキから2体の【レッド・サイクロプス】を墓地に送って、儀式召喚──アンコールよ【終焉の王 デミス】」

 

 

 

「──嘘だろ!?あの状況で引くのかよ!?」

 

「雪乃さんのライフは3200…昴君のモンスターがまた破壊されちゃうよ!」

 

「流石の昴も、もうダメなのか…!?」

 

 皆口々に昴の敗北を予期する。「このまま押し切られる」と。

 

「昴………っ!」

 

 その中で1人──明日香だけは、両手をきつく握り締めて祈る。

 雪乃に負けて欲しいわけではない。それでも、彼が敗北する姿を見るのは、まだ早いと。

 

 

 

「──効果発動。全てを消し去りなさい、【デミス】」

 

 

 雪乃:LP3200→1200

 

 

 再び青い波動が放たれ、昴のフィールドを一掃する。

 

「まだよ──【デミス】に装備魔法【デーモンの斧】を装備。攻撃力が1000ポイント上昇するわ」

 

 巨大な戦斧が次第に醜悪な顔の埋め込まれた悪魔の斧に変貌していく。これにより、【デミス】の攻撃力が3000代に突入した。

 

「バトル──【デミス】でプレイヤーにダイレクトアタック」

 

 振りかぶった悪魔の斧が叩きつけられ、その衝撃が昴の体を叩く。

 

「ぐぅ……っ!」

 

 

 昴:LP4000→600

 

 

「ターンエンド……これがあなたの最後のターンかしら。もっと足掻きなさい、あなたの男を私に見せて」

 

 

 昴 :LP600 手札×1

 VS

 雪乃:LP1200 手札×0

【終焉の王 デミス】+【デーモンの斧】

 

 

「(また捲られた……戦力差は歴然。手札も1枚じゃ……)」

 

 枚数こそ【儀水鏡】で増やせるが、それだけでは意味がない。あの【デミス】を踏み越えられるようなカードでなければ……

 

「……ふぅ……俺のターン」

 

 深呼吸をした昴の脳裏に、あの声が蘇る──

 

 

 ──大丈夫、僕たちを信じて──

 

 

「(頼むぜお前ら──!)──ドローーッ!」

 

 気合一閃、昴が引いたのは……

 

「手札の【ヴィジョン・リチュア】の効果!このカードを墓地に送り、デッキから【リチュア】儀式モンスターを手札に加える。そして──魔法カード【トレード・イン】発動!」

 

 昴がこの土壇場で引き当てたのは【トレード・イン】──手札のレベル8のモンスターを捨てることで、デッキから2枚ドローするカードだ。そのコストになるのは──

 

「俺は今手札に加えたレベル8の儀式モンスターを墓地に送り、2枚ドロー!」

 

 更なるドローの結果は……昴の顔を見れば明らかだった。

 

 

「行くぞ藤原雪乃!魔法カード【サルベージ】発動!」

 

 

 本日3度目の【サルベージ】により、墓地から2体の【シャドウ・リチュア】が引き上げられる。

 

「更に墓地の【儀水鏡】をデッキに戻し、今捨てた儀式モンスターを回収。更にその【儀水鏡】を【シャドウ・リチュア】で手札に!」

 

 流れるような動きでカードを回していく昴。これで準備は整った。

 

 

「【リチュアの儀水鏡】発動!レベル8の【ソウルオーガ】の素材として、手札の【シャドウ・リチュア】を墓地に送る──」

 

 

 

「どういうこと!?儀式召喚って、召喚する儀式モンスターと同じレベルにならないといけないんじゃ……」

 

 翔の言うとおり、昴が墓地に送った【シャドウ・リチュア】はレベル4。レベル8の儀式モンスター召喚には、もうあと半分足りない。

 

 しかし──

 

 

 

「【シャドウ・リチュア】は水属性儀式モンスターの召喚素材となる場合、自身だけで必要なレベルを満たすことができる──」

 

 光を発する儀水鏡を体内に取り込んだ【シャドウ・リチュア】の体が巨大化し、手足から胴体にかけて金属の鎧が纏われていく。

 

 

「──儀式召喚!降臨せよ【イビリチュア・ソウルオーガ】!!」

 

 

【イビリチュア・ソウルオーガ】

 ✩8 水族 儀式 ATK2800 DEF2800

 

 

 猛々しい雄叫びを上げた【ソウルオーガ】は、冷たい目でこちらを見据える終焉の王を真っ向から睨みつけた。

 

「新しい儀式モンスター……確かに素敵だけど、まだ【デミス】を倒すには至らないわ」

 

「いいや、【デミス】にはその王座を下りてもらう!【ソウルオーガ】の効果発動!手札の【リチュア・エリアル】を墓地に送ることで、1ターンに1度、相手の表側表示のカード1枚をデッキに戻す!──ハウリング・ソウル!」

 

【エリアル】によって力を増幅された【ソウルオーガ】の咆哮が、フィールドを睥睨していた終焉の王をフィールドという玉座から引きずり下ろす。

 

 これでもう、雪乃を守るモンスターはいない。

 

「昴、やっぱりあなたは最高よ!──来なさい!」

 

「行け!【イビリチュア・ソウルオーガ】でダイレクトアタック!──リチュアル・ブラスト!」

 

 元術師でもある怪物は、胸元に埋め込まれた儀水鏡の力を球状にして撃ち出す。

 

 雪乃はその攻撃を、自ら迎え入れるように受け止めた。

 

 

「ああああぁ───っ!」

 

 

 雪乃:LP1200→0

 

 

 戦いを終え、その姿を霞のように消していくモンスターたちの中、昴は肩で息をしながら呟く。

 

「──か、勝った……」

 

 それを皮切りに、先程の十代を超える割れんばかりの歓声が体育館に木霊した。

 拍手喝采に口笛──皆様々な形で昴の勝利を称えている。

 

「何とか…なった……!」

 

 緊張の糸が切れたのか、急に膝が笑い、その場にへたり込む。

 そんな彼の元に、十代、翔、三沢、そして明日香が駆けつけた。

 

「やったな昴!すげぇデュエルだったぜ!」

 

「僕なんかまだ手が震えてるよ!」

 

「あの女帝に勝つとは、大した奴だ」

 

 賞賛の言葉と共に十代に背中をビシバシと叩かれる昴。痛みに内心顔を顰めながらも、その言葉はありがたく受け取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、体育館の屋内通路では──

 

「──雪乃、お疲れ様」

 

「明日香…私、負けてしまったわ」

 

「そうね。でも、それがデュエルというものよ」

 

 時に勝ち、時に負ける。そして次こそはと闘志を燃やす──そうやって挑戦を繰り返すうちに、仲間たちと絆を育んでいく。デュエルの持つ不思議な力。

 

 これまで飽きるほどの勝利を掴み、強者に飢えていた雪乃が久しく忘れていた感覚だ。

 

「明日香…あなたにはお礼を言わなければいけないわね。ありがとう、私を彼と引き合わせてくれて」

 

「あら意外。てっきり雪乃のことだから『別に頼んでいないけれど』って続くかと思ったのに」

 

「あなたね…私もそこまで恩知らずじゃないわよ。ちゃんと感謝してるわ」

 

 雪乃は少し照れくさそうにしながら明日香に手を差し出し、明日香もそれを握り返す。

 

「──ここにいたか。少し邪魔するぞ」

 

 そこへ、まだ少しフラついたままの昴がやってきた。

 

「いいデュエルだった。またやろう、藤原」

 

 そう言って雪乃に手を差し出す。小さく笑った雪乃は、その手をしっかりと握り返した。

 

「…ええ。その時の私はまた強くなっているでしょうから、負けないように精進なさい──それと、これからは雪乃と呼びなさい。だってあなた、明日香のことは名前で呼んでいるのでしょう?この娘だけズルいわ」

 

「…雪乃?あの、私と昴はそういう関係じゃ──」

 

「あら、違ったの?だってあなた、随分彼のことを熱弁してくるんだもの。てっきり"そう"なのかと思って、デュエルの後にあんな事までしたのに……」

 

 その瞬間、昴たち周辺の空気がビキッ!という音を立てて凍りつく。

 

「あ、あんな事……?昴、あなた一体この娘に何を……!?」

 

「いや待て!俺は何もしてない!ただデュエルして、勝って、それで……」

 

 と、ここで言葉が詰まってしまう。

 言えるわけがない。雪乃になんかいやらしい雰囲気で間接キスをされたなどと、どう説明すればいいのだ。

 

 問い詰める明日香と、たじろぐ昴。そんな2人を見てクスクスと笑った雪乃は、まだ握手したままの昴の手を引き──

 

 

 チュッ

 

 

 という音を昴の頬に残した。何が起こったのか、脳が処理落ちした昴は茫然とする。

 

「ゆっ…雪乃!?あなた何考えてるのよ!?」

 

 対する明日香は狼狽し、今度は雪乃に詰め寄った。

 

「本当は(コッチ)でも良かったのだけど、あなたの手前遠慮してあげるわ──明日香、優等生もいいけれど、もっと自分に正直になりなさい」

 

「だ、だからそういうんじゃ──っ!」

 

 すぐさま反論しようとした明日香の口元に、雪乃の指が当てられる。以前昴にやったのと同じように。

 

「私を見縊ってもらっては困るわね。これでも幼い頃から両親が生きる芸能界を見てきたのよ?そこの大人達と比べれば、あなたの胸の内なんか手に取るように分かるわ」

 

 最早これ以上取り繕ったところで通じないということを悟ったのか、明日香はヘナヘナと崩れ落ちる。

「別にそんなんじゃ……」と反論自体はまだ続けているものの、先程と比べれば風前の灯。今にも消え入りそうな声だ。

 

 

「フフッ……最大の敵は身内、とはよく言ったものね」

 

 

 そう言い残して去っていく雪乃。それに気づいた明日香は覇気を取り戻し「違うのよ雪乃!」と、めげずにもう一度向かっていく。

 

 そして残された昴が意識を取り戻すのは、たっぷり10分が経った頃だった。

 

 

 

 

 

 

 こうして、残る生徒たちのデュエルも恙無く進行し、昴達新入生最初のテストは幕を閉じたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──余談──

 

 

 テストが終わり、昴が寮へと戻る道中。木々が茂った小さな林で、1人の生徒がひたすら木を殴っているのを見かけた。

 

「──クソッ!クソッ!クソォッ!……何故だ、何故エリートである俺があんなドロップアウトに……!?」

 

「…その声、万丈目か?」

 

「っ──!?なんだ貴様か…惨めに負けた俺を笑いに来たのか?」

 

「いや、偶然通りかかっただけだ。…随分荒れてるな」

 

「当然だっ!俺様は誇り高きオベリスク・ブルーのエリートなんだぞ!クロノス教諭に渡されたレアカードまで使って、戦術にも抜け目は……っ!……いや、原因は俺のプレイミスだ──あそこで【VWXYZ(ヴィトゥズィ)】を召喚せず、【XYZ】の効果で十代のリバースカードを破壊していれば勝てていた!なのに俺は……っ!」

 

 万丈目が召喚した【XYZ-ドラゴン・キャノン】は、手札1枚をコストに相手のカードを1枚破壊する効果を持っている。

 十代の伏せていた【ヒーロー見参】は相手の攻撃宣言時にしか発動できないため、メインフェイズで処理しておけば、そのまま2体のモンスターで攻撃しても良し、その後に【VWXYZ】を召喚しても良し、万丈目の勝利は揺るがなかっただろう。

 

「……気持ちは分かるが、取り敢えず落ち着けよ。手が酷い事になってんぞ」

 

 昴が通りかかるまで何度も何度も木を殴りつけていたのだろう。万丈目の手には血が滲んでいた。

 

「お前のプレイミスは確かにそうだ。けどそれは結果論だし、何よりあのデッキ、ほぼ初見だっただろ?事前情報も何もない新カードでデッキ組んで、調整かけて、ってのを2時間足らずでやって、その上であそこまでぶん回したんだ。素直にすごいと思うがな」

 

 十代の伏せていたカードはあの時点では何かわからなかった。勿論、万丈目が伏せカードを無視して【VWXYZ】への合体に移行してしまった事実は変わらないが、満足なテストプレイができていないデッキであそこまで戦えたのだから、そこは万丈目のセンスを賞賛すべきだろう。

 

 それに………

 

 

「それに【VWXYZ】は強い以前にカッコイイしな。変形合体は男のロマンだ」

 

 

「……なんだと?」

 

「自分じゃ分かってないかもだが、お前エンターテイナーの素質あるんじゃないか?」

 

「ふざけているのか貴様!」

 

「だから…プレミのことはあまり引きずるなって。要は次に活かしゃいいんだ次に」

 

 昴は最後に「手ェちゃんと消毒しとけよー」と言い残し、イエロー寮に戻っていった。

 

 その背中を見送った万丈目はもう一度木を殴りつけようとして、止める。

 

「昴め…この俺に上から物を言いやがって」

 

 そう吐き捨てた万丈目は、大股歩きでブルー寮へ戻っていく。

 その目には先程までの後悔の念はなく、十代を倒すという執念の炎が灯っていた。

 




やはり全体破壊と合体ロボはいい文明。「○○していたのさ!」はいい文明?

現時点では本作史上最もちゃんとしたデュエルだったのではないでしょうか。

前回の時点ではこの戦いで【リヴァイアニマ】を登場させる予定でしたが、どうしても綺麗に決着がつかないので【ソウルオーガ】に前乗りしてもらいました。

また昴のデッキに【大嵐】が入ってる件でジャッジー!と思った方もいるかも知れないので弁明をば。
当時は確か【羽箒】が禁止になっていた記憶があったので、箒と入れ替える為に現地調達したカードということになっています。

じゃあ壷なんで入ってないん?に関しては、まぁ、はい…この先入れると思うんで許してください。

そしてまだ始まって間もないのに雪乃が明日香に宣戦布告的なムーブをかましました。
どーすんだよまた明日香にラッキーSKBさせろってかぁ?(やるとは言ってない)

ゆきのんはアニメに登場しないキャラなんで書いてると段々暴走してくるというか…
私の文才が追いついていない……!?
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。