「緑に塗り込められてはいるがここは地獄に違いない」
つまりこうだ、ナムがクメン。
ジャングルが燃えている。
否、燃えているのはジャングルに墜落したヘリコプターだ。
そして携帯式短距離地対空誘導弾にテイルローターを吹っ飛ばされ、ジャングルに不時着したヘリコプターから気絶した美人秘書を担いで燃料タンクが爆発する直前に脱出したのはクメン共和国大統領ポル・ポタリアである。
「なんてことだ」
ジャングルに身を潜めたポタリアは派手に炎上するヘリコプターを眺めて呟いた。
炎上するヘリコプターから脱出できたのはポタリアと美人秘書のみ。
操縦士と副操縦士と護衛と女体盛り職人は全員殉職確定。
ナムアミダブツ!
ヘリを撃墜した正体不明の武装勢力はまだ近くにいるだろう。
そして今のポタリアは拳銃一丁持ってはいない。
いや、たとえ機関銃と手榴弾と聖なるヌンチャクで武装していたとしても戦って血路を開くことなど不可能だろう。
かつてのポタリアは荒くれ者揃いの傭兵部隊にあってエースと謳われた腕利きのボトムズ乗りであった。
だが政治家に転身し、銃を手にしたゲリラではなく書類を手にした官僚や札束を手にした政商と戦っている間にその牙は鋭さを失い、カラテは弱体化していた。
そして墜落のショックで意識を失い、未だ目覚めぬ美人秘書のモニカがいる。
勿論かつてポタリアの腕の中で息絶えた少女ゲリラとは偶々名前が一緒なだけの別人である。
脇役の名前を考えるのが面倒くさかったわけでは断じてない。
とにもかくにもポタリアは進退窮まっていた。
「くそ、一体どうすれば…ッ!」
「ドーモ、お困りのようだなポタリア=サン」
そこに現れたのは陰険そうなキツネ顔の男であった。
我々はその底意地の悪そうな小悪党面を知っている!
「貴方は…カン・ユー大尉!?!」
ポタリアは驚愕した。
「馬鹿な!死んだはずでは?」
「残念だったな、トリックだよ」
クエント人傭兵ル・シャッコの卑劣な裏切りによって崩壊するカンジェルマン宮殿の地下深くへと消えたカン・ユー。
だが彼は死ななかった。
宮殿の崩壊によって永きにわたる封印から解放された最凶のゲリラ戦士グエン・ニンジャのソウルが命尽きようとしていたカン・ユーにディセンションしたのだ。
「そんな事が…」
ポタリアは改めてカン・ユーを凝視した。
顔は確かにカン・ユーだがスゲガサを被り、迷彩柄の道中合羽を羽織り、背中にタケヤリを装備した姿はかつてのカン・ユーよりも更に剣呑なアトモスフィアを増し、サワタリめいた狂気すら発散させている。
さらにその背後に複数の人影。
「ドーモハジメマシテ、ノトーリアスです」
アイサツを決めたのは四本の腕を生やした野性的な美女だ。
やたら肌色面積の大きなニンジャ装束に包まれたホットな肢体からポタリアは急いで視線を外した。
「ドーモハジメマシテ、ディスターブドです」
続いてアイサツを決めたのは全身が使い古した一円玉めいたくすんだ水色をした幻想的な美女だ。
やたら肌色面積の大きなニンジャ装束に包まれたホットな肢体からポタリアは急いで視線を外した。
「ドーモハジメマシテ、ハイドラです」
続いてアイサツを決めたのは額に第三の目を持つ背徳的な美女だ。
やたら肌色面積の大きなニンジャ装束に包まれたホットな肢体からポタリアは急いで視線を外した。
「ドーモハジメマシテ、K1です」
「K2です」
「K3です、チョコ持ってる?」
最後に連続アイサツを決めたのは三つ子の少女だ。
その抱き心地がよさそうでいい匂いがしそうな小動物めいた肢体を凝視してポタリアはだらしなく表情を緩ませた。
アイエエ、ロリコン!
カン・ユーは背後に控えた六人の美女・美少女を振り返った。
「俺の部下だ」
彼女たちは崩壊するカンジェルマン宮殿の地下深くにあった秘密結社の実験施設で休眠状態にあったところをカン・ユーによって救出された局地戦用バイオニンジャ-もとい、パーフェクトソルジャーの試験体であった。
新たな部下を得たうえニンジャソウルに憑依された影響で自我に重篤な分断と改竄が発生したカン・ユーはアッセンブルEX-10及びそのスポンサーであるクメン政府との雇用契約を一方的に打ち切った。
そして誰も知らないジャングルの奥地に潜み、来たるべき世界最終戦争に備えてカラテを磨く日々を送っていたのだ。
「ではアイサツも終えたことだし状況説明を要求する」
「うむ、実は…」
ふいに前方の茂みをかき分けてカーキ色の野戦服を着た男が現れた。
前をはだけた野戦服の下には「コカイン」とプリントされたTシャツを着用している。
あからさまに麻薬戦争の末端兵士に偽装した暗殺者なのだ!
コカインはポタリアを見るなり銃を構えた。
「イヤー!」
カン・ユーはタケヤリを投擲。
「アバー!」
タケヤリがコカインの胸板を貫通!
即死!
カン・ユーは死体から奪った銃を手に取った。
銃身に弱音器(消音器と呼ぶのはトウシロウだ)が取り付けられ、メーカーとシリアルナンバーは標準アストラギウス語ではないオデンめいた象形文字で刻印されている。
「K-45sか」
それは旧式だが構造が単純で信頼性の高い短機関銃で、ギルガメス・バララント両陣営の二百を越す惑星でコピー品が製造されている。
そしてメルキア情報省が国籍を隠し紛争地帯で活動する暗黒非合法工作班の装備として好んで使用する武器でもあった。
「CIAめ、相変わらず汚い手を使う」
カン・ユーは銃を地面に落とすとマッチ棒のように蹴り折った。
それと同時にカーキ色の野戦服の前をはだけ、「コカイン」とプリントされたTシャツを着用した男達が次々と茂みをかき分けて現れる。
「馬鹿な!もうテト攻勢が始まったのか?」
カン・ユーは叫んだ。
「空軍に連絡だ!ファントム編隊を呼んで奴らを石器時代に戻してやれ!」
ナム妄想だ!
男達はポタリアを見るなり一斉に銃を構えた。
「大将のいつもの発作だ!総員各個に応戦!」
ノトーリアスの号令一下、パーフェクトソルジャーたちは非実在通信兵に命令を叫び続けるカン・ユーをサクっと無視して行動開始。
実際毎度のことなのであろう。
「イヤー!」
ノトーリアスがカタナを振るう。
「アバー!」
四本のカタナによって横一文字に五等分されコカインは即死!
「イヤー!」
ディスターブドが寄生獣変形させた両腕を伸ばす。
「アバー!」
全身を貫かれコカインは即死!
「イヤー!」
ハイドラが跳躍する。
「アバー!」
鋭いかぎ爪を生やした右手に心臓をえぐり取られてコカインは即死!
「イヤー!」
「イヤー!」
「イヤー!」
カマイタチ三姉妹がサッチウィーブめいた三次元高速交差機動を繰り返しながら両肘のバイオブレードを振るう。
「アバー!」
全身を切り刻まれてコカインは即死!
あからさまに麻薬戦争の末端兵士に偽装した暗殺部隊は一発も撃たずに全滅した。
なんたるカラテ!
グエン・ニンジャが憑依したカン・ユーに鍛え上げられた彼女たちはパーフェクトソルジャーをも超越した半神的存在なのだ。
「これがサイゴン・ロアだ、24時間360度死は至る所から忍び寄り気がつけば昨日までの友は死体になっている」
さりげなく正気(?)に戻っているサワタリ-もとい、カン・ユーはポタリアに向き直った。
「ナムは地獄、そして地獄に適応できぬものには死あるのみ」
「アッハイ」
ポタリアはブリキのロボットめいてぎこちなく首肯する。
「撤収する!」
分隊はジャングルの行軍で足手まといになることが明らかなポタリアといまだ失神中のモニカを担ぎ、迅速に移動した。
正面ゲートに意外と達筆なミンチョ体で「ダッジシティ」と記された木札が掲げられたニンジャと局地戦用パーフェクトソルジャー達のベースキャンプ。
山の斜面には美しく手入れされた棚田が広がり、水路脇の草地では虹色水牛がのんびりと草を食んでいる。
一見のどかな集落に見えるここは、ベトコン仕込みのブービートラップに囲まれたうえ地下に秘密のショーユ工場まで備えた危険な隠し砦である。
キャンプに帰投した局地戦用パーフェクトソルジャー達はシフト表をチェックすると奥ゆかしく脱衣し、兵舎の裏に設置された露天風呂で天然ヂヂリウムを豊富に含んだ温泉に輝くばかりの裸身を浸した。
ノトーリアスとディスターブドとハイドラは当然のごとくもれなく豊満。
カマイタチ三姉妹は当然のごとく発展途上ながら発育の良さはJSとしては規格外だ。
「あのポタナントカって人、大将と二人きりにして大丈夫かな」
「相変わらず心配性だなディスターブド=サン、放っとけばいいと思うぞ」
「相変わらず無責任だなハイドラ=サン、だが賛成だ。古い知り合いのようだし我々は邪魔しないほうがよかろう」
「流石ノトーリアス=サン、ソンケイに値する洞察力だ」
「でもさー、大将って昔の話を振るとよく発作起こすよー?」
「大将の自我が心配だー」
「心配だー」
口では心配と言いつつその表情は明らかに面白がっているカマイタチ三姉妹。
欺瞞!
その頃カン・ユーとポタリアは作戦室兼集会所として使われている掘っ立て小屋の中で卓袱台を挟んで対峙していた。
「お前が大統領とはな」
「私も貴方が生きていたとは驚きだ」
ポタリアは床に敷かれたタタミやタイガーが描かれたフスマ、そしてトレーニング用の木人に目をやった。
「おまけにニンジャとは」
「お互い様というわけか」
カン・ユーは慣れた手つきでチャを入れると「ストロングスタイル」の文字が入ったユノミをポタリアに渡し、自らは「革命戦士」の文字が入ったユノミを手にした。
「それで-」
スパルタ人めいた双眸がポタリアを見据えた。
「なぜ命を狙われた?」
「心当たりが有り過ぎる」
ポタリアは苦笑した。
国境問題、少数民族問題、国民皆保険に自然保護、ポタリアを政治的かつ物理的に排除したい勢力は数え上げれば両手の指ではとても足りない。
正義を行えば世界の半分を怒らせるのだ。
「だが最大の理由となるとやはりアレか」
それは国防軍次期主力ATの選定にまつわるスキャンダルであった。
現在クメン共和国の主力機はメルキアのアデルハビッツ社が生産するATM-09-WPHMCマーシィドッグ2である。
そこに新規参入してきたのがバララントから分離独立した惑星バキアスロに本社を置くダスコ社である。
ダスコ社の商品であるB-ATM-04チャビィーの湿地戦型はマーシィドッグを性能面で若干上回るうえ機体単価と維持費も実際安い。
そこに割り込んできたのがかつてアッセンブルの主力だったATH-06-WPの近代化改修型を引っ提げたレメンブルグ社である。
最後発のレメンブルグ社は遅れを取り戻すためクメン政府にコネのあるフリーランスの武器商人を現地の代理人にしたのだが、この代理人が下院の国防予算委員会で議長を務めるオコワ議員にウド仕込みのいかがわしい接待をしているところをスクープされてしまう。
オコワの不正蓄財が議会で追求されると芋蔓式に悪事が発覚してしまう汚職議員たちは自分たちとズブズブのメルキアの軍産複合体に働きかけ、軍産複合体が自分たちとズブズブの政府高官に働きかけた結果、情報省の暗黒非合法工作班が動いたのだ。
この事態を収拾するにはポタリアが大統領府に生還し、汚職議員どもを政治的かつ物理的に一掃するしかない。
「ニイタンの町なら救援を呼べる、そこまでの護衛を頼みたい」
狂気のニンジャに率いられた異能集団とは今すぐサヨナラしたいものの背に腹はかえられぬ。
「受ける義理は無いな」
カン・ユーは即座に拒否した。
「我々は間近に迫ったホーチミンと毛沢東の総攻撃に備えなくてはならん、余計なイクサに費やす戦力は無い」
だが今のポタリアは数々の政局を乗り越え清濁併せ呑んできた海千山千のネゴシエイターである。
「親メルキア派が政権を取れば連中はクメンの国土を切り売りするだろう、ここにも開発業者が押し寄せるぞ」
「ヌウー!」
カン・ユーは呻いた。
「だ、大統領…」
そこにエロい声がした。
「いけません…こんなところで……」
モニカが寝言を言っていた。
「ああ、そんな…でも、あ…ダメ、止めないで……」
エロい声とエロい仕草でモニカは悶えた。
タイトなスカートが際どいところまで捲れ上がり、ブラウスのボタンは今にも弾け飛びそうだ。
カン・ユーは生暖かい視線で大統領をじっと見つめた。
ポタリアは目を泳がせた。
「ンアー!ンアー!」
寝ぼけたモニカは訓練用の木人に抱きついて激しく動いた。
ほとんど違法行為!
「ちょっとやめないか」
ポタリアはモニカの首の後ろの急所にチョップを落とした。
モニカは沈黙した。
カン・ユーはチャを啜った。
シシオドシがキャバァーン!と鳴った。
「また此処に戻ってきたか…」
カン・ユーは万感の想いを込めて呟いた。
カン・ユーと部下の局地戦用パーフェクトソルジャーたち、そして大統領&美人秘書を乗せた平底船は焼玉機関をポンポンと駆動させながらムナメラ河をのんびりと下っていた。
「HAHAHA!楽しい船遊びときたもんだ」
下の腕を折り畳んで厚着をすればなんとかモータルに見えるノトーリアスが露天式の操舵室に立って舵輪を握っている。
体育会系な見た目のとおり威勢がよくて声がデカい。
「ミナサマ、右手に見えますのがかの有名なラモー寺院でございます」
頭に巻いたバンダナで第三の目を隠し、両手のかぎ爪を手袋で隠したハイドラがツアーガイドめいた講釈を垂れている。
耽美な見た目に反して隙あらばネタに走る女なのだ。
「……………」
流体バイオ金属のボディを持ち、どう頑張ってもモータルに化けることは不可能なディスターブドは全身を硬化させ、使い古した一円玉めいたくすんだ水色の裸婦像に擬態して船倉に鎮座している。
「サカナだー!」
「網!網!」
「それよりコイツで!」
「馬鹿!バクダンは最後の武器だー!」
「我々はニンジャ部隊だー!」
「だー!」
カマイタチ三姉妹は一秒もじっとしていない。
モニカは船縁に身体を預け、河の流れを見つめている。
タイトなビジネススーツからカン・ユーが略奪してきた農民服に着替えていても理知的な美貌は隠せない。
船縁を掴むモニカの手に、ポタリアの手が重ねられた。
「こんな事に巻き込んで済まないと思っている」
「いいんです」
モニカはニッコリと笑った。
「大統領は貧民街の孤児だった私に新しい世界を開いてくれました」
ポタリアはモニカを正面から見つめた。
「来年の選挙で私が再選されたなら、その時は…」
その時である。
耳障りなサイレンを鳴らしながら接近してくる船影アリ。
クメン王国時代から酷使されてきたくたびれきった二百トン級河川砲艦だ。
『停戦せよ!』
船橋に立つ艇長が拡声器を使用。
「お迎えじゃないのか?」
「いや、今はまだ正体を明かしたくない」
ポタリアは手拭いを頬被りして顔を隠した。
賄賂や縁故採用が横行する田舎では、地方軍が地元政治家の私兵と化している可能性は決して低くはない。
安全が確認されるまではそこは敵地なのだ。
カン・ユーは険しい表情で頷いた。
「つまりここは狂ったグリーンベレーの大佐に率いられた反乱軍の勢力圏なのだな」
彼は狂っていた。
エンジンを止め、錨を下ろした平底船に河川砲艦が横付けする。
「責任者は誰か?」
横柄に乗り込んできた艇長が横柄に言った。
「へえ、あっしでごぜえやす」
ニコニコと笑顔でオジギするカン・ユー。
流石のニンジャ演技力だ。
「船内を検める、積荷を見せろ!」
「へえへえご苦労さまなことで」
艇長を先導しながら抜かりなく河川砲艦の武装配置を確認する。
船首の単装両用砲は十二時を、船尾の連装機関砲は六時の方向を向いている。
平底船を射界に納めているのはキャットウォークの単装機銃のみ。
そして射手はヒマそうにガムを噛んでいる。
「ただのカカシですな」
「何か言ったか?」
「へえ今日はほんにええ天気で」
カン・ユーは船倉を開けた。
中にはジャングルに放置された戦争遺物から回収した錆びた基盤や燃料ポンプといったガラクタが積み込まれている。
「え、ニイタンの蚤の市で売る鉄屑でございますよ」
そして鉄屑の山に囲まれたグラマラスな女体。
ディスターブドである。
「コイツは何だ?」
使い古した一円玉めいたくすんだ水色の美しすぎる裸婦像は艇長の興味を大いに引いた。
「へえ、それは廃業した農園主から譲り受けた値打ちものでございまして、ご覧のとおり大変に結構なシロモノなので床の間に飾って長らく目の保養にしていたのですが、先日可愛い一人娘が病に倒れまして、薬代のために泣く泣く手放すことに…」
葛飾柴又出身のテキヤめいた名調子。
流石のニンジャ詐欺話術である。
「ふ~む」
粘液質な艇長の視線が両手を頭の後ろに回し、腰をひねったセクシーポーズの裸婦像をねっとりと視姦する。
「見事だ、実に見事だ」
そして胸と尻を撫で回しはじめた。
「ムッ!」
艇長が顔色を変えた。
ポタリアはステテコの中に隠したチャカを握った。
「だんだん柔らかくなってきたような気がするぞ?」
艇長はジュラ紀の地層からゴジラザウルスの化石を掘り出すような手つきでディスターブドの滑らかな肢体に掌を這わせる。
「へえ、ソイツは人肌の温度でやわっこくなる特殊な素材で作られた逸品でして」
さすがにそれで誤魔化されるマヌケはいないのでは?
「なるほど納得した」
だがマヌケは見つかった。
「いい、実にいい」
さらに力を込めて胸を揉み、尻をまさぐる。
いまやディスターブドは切なげに眉根を寄せ、薄く開いた唇から悩ましい吐息を漏らしている。
気づかれるのは時間の問題だ。
「は…あ……っ!」
その時である。
「ナニしやがるー!」
ノトーリアスの居合い一閃。
艇長の首が飛んだ。
切り飛ばされた首はクルクルと回転しマストにぶら下がった編み籠にホールインワン。
ポイント倍点!
「アタシだってやりたくても我慢してるディスターブドにー!」
頭を失った艇長の亡骸は怒りに我を忘れたノトーリアスによって三枚どころか三の三乗枚に下ろされてしまう。
ここまでされる謂われははない!
「イヤー!」
カン・ユーが跳躍した。
「アバー!」
河川砲艦の銃座に飛び移るとククリナイフを振るい機関銃手を斬殺。
奪取した機関銃で甲板を掃射。
水冷式機関銃から発射された大口径機関銃弾が乗組員をネギトロめいた死体に変えていく。
あるいは彼らは邪悪な艇長に従っているだけの無実の一般兵かもしれないがそれはカン・ユーの知ったことではない。
「イヤー!」
ハイドラも飛び移ってきた。
ニンジャ筋力でハッチをこじ開け、風車の弥七ご用達の由緒正しいニンジャ火薬玉を機関室に放り込む。
河川砲艦は爆発炎上!
その時である。
水面を割って姿を現したスタンディングタートルが平底船に向けてロケット弾を発射!
そのボディには派手な字体で「コカイン」とペイントされている。
あからさまに麻薬戦争の末端兵士に偽装したメルキア軍なのだ!
「脱出しろ!」
カン・ユーが叫んだ。
全員が河に飛び込むと同時に平底船は爆発四散!
水面に燃え広がる重油を隠れ蓑にしてカン・ユーとパーフェクトソルジャーたちは素早く河岸の葦の茂みの中に身を潜めた。
「誰かポタリアを見たか?」
「秘書さんと一緒に反対側の岸に向かってたような?」
「あ、あそこ」
ボディにコカインとペイントされた水陸両用ATの腕の中に二人はいた。
「サインをお願いします大統領閣下」
後ろ手に手錠をかけられ、椅子に座らされたポタリアの前に署名欄が空白の書類が置かれた。
ポタリアの目の前には薄汚いマネーに染まった汚職議員の筆頭格。
その名はオコワ下院議員。
そして得意げなオコワの背後ではモニカが壁に磔にされている。
状況を整理しよう。
大統領&美人秘書は旧アッセンブルEX-10に近い政府軍基地に監禁されている。
そこはオコワをトップとした親メルキア派に掌握されていた。
公式にはポタリアはヘリで移動中に事故死と発表される。
そしてもしもの時に備えて用意していた覚え書きにより政権はオコワをトップとした親メルキア派に委譲される。
そういう筋書きであった。
「絶対にノウ!」
当然のごとくポタリアは拒否。
「そう言うだろうと思っていたぞ」
オコワは上着を脱いだ。
「女を裸にしろ」
ワイシャツとランニングも脱いだ。
「ワシが直々に女体盛り器研修してくれるわ」
「アイエエエ!」
モニカは絶叫した。
「ヤメロー!ヤメロー!」
暴れるポタリア。
「ムッハッハッ!無駄無駄無駄ァ」
勝ち誇るオコワ。
その時である。
「ジェロニモ!」
壁を突き破って突入してきたのは四本ワイパーの重厚なAT輸送トレーラーだ。
そのボンネットには当然のごとく仁王立ちするカン・ユーの姿。
ハンドルを握るのはノトーリアス。
エンジンを直結したのは意外とメカに強いハイドラだ。
たちまち始まる大乱戦。
飛び交う銃弾。
飛び散る血飛沫。
鳴り響くサイレン。
続々と駆けつける兵士たちをトヨタの組み立てラインめいた流れ作業で死体に変えていくニンジャとパーフェクトソルジャーたち。
悪鬼羅刹のごとく戦うカン・ユーの姿に恐れ戦き、サラリマン兵士は武器を捨てて逃亡!
炎の匂いしみついてむせるカン・ユーの前に一機のマーシィドッグが立ちはだかる。
「何がニンジャだふざけやがって!」
オコワであった。
「テメエなんざ怖かねえ!」
薄汚いマネーに染まる前のオコワはビーラーゲリラと渡り合った政府軍のタフなボトムズ乗りだったのだ。
「野郎ブッ殺してやる!」
ローラーダッシュしつつマシンガンを連射。
だが薄汚いマネーに染まった汚職議員の身勝手な怒りなどカン・ユーに取り憑いた狂気の前では屁の突っ張りにもならぬ。
「サイゴンを知っているか?貴様にナムの地獄の一端を見せてやろう」
厳かに宣言したカン・ユーの両眼がカッと光った。
「ディスターブド=サン、あれをやるぞ!」
カン・ユーは跳躍した。
「大将ガッチャ!」
ディスターブドも跳躍した。
ディスターブドのボディがギュリギュリと捻れながら引き延ばされる。
カン・ユーはジャンプの頂点でくすんだ水色の長槍となったディスターブドを大きく振りかぶった。
両肩の筋肉が縄めいて盛り上がる。
「イィィィィィィヤァァァァッ!」
「アバー!」
ゴウランガ!
恐るべきパワーで投擲されたディスターブドはクエント製ATのヒサツ・ワザめいてマーシィドッグの前面装甲を貫通、パイロットを絶命せしめた。
その時である。
ローター音も高らかに北北西から飛来する武装ヘリ多数。
カマイタチ三姉妹に援護されたモニカが通信室から首都に連絡。
大統領警護隊の精鋭がおっとり刀で駆けつけたのだ。
「空挺軍スペツナズだ!総員撤収!」
時速96キロでジャングルへと走り去るニンジャとパーフェクトソルジャー達の後ろ姿を寄り添って見送るモニカとポタリア。
「また会えるかしら?」
「それは勘弁」
トンビがくるりと輪を描いた。