お泊り会にて   作:羊皮紙に落ちたインクの一滴

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クリスマス


2018/12/24

「プレゼント交換会をしよう」

「交換会、とは。何、京子と壮一でも呼ぶの?」

「んーん。二人で」

「ほーん。別に良いけど。なんで?」

「クリスマスじゃん?」

 

 そんな感じで、クリスマスお泊り会が決定した。

 これもまた、高二の冬のお話。二人で過ごす機会の減ってきた頃のお話。

 

 

 ●

 

 

 大きな会場でのライブや企画などを熟しているリンリンは、それはもう多忙である。多忙オブ多忙。なんならターボ。休日は勿論、平日も歌や踊りの練習でスケジュールは詰め詰め。勿論配信活動も怠ってはおらず、これだけ多忙でありながらほぼ日配信を心掛けている*1

 私は私で資格試験だとか、見聞を広めるための一人旅だとかで三連休なんかは丸々いないことが多々ある。そんな二人のスケジュールなど合致するはずもなく、あの夏のお泊り会からやろうやろうといいつつ冬まで伸びてしまった。

 

 高二の冬だ。来年度からは受験勉強を含む勉学に熱を入れる期間に入るため、確かにここしかタイミングは無い。それはリンリンもわかっているのだろう、結構強引に、そして強い目で打診して来た辺り、どうしてもやりたい、という意思が伝わってきた。

 中学の頃は壮一と壮一の彼女である志保さん、京子、リンリンと私でクリスマス会をやったものだけど、高校に入ってからは初。ちなみに京子の彼氏はちょっとヤンチャな人なので辞退してくれた。常識のあるヤンチャな人である。

 去年は土日とはいえそれなりにバタバタしていたので中止になったけど、今年は三連休で、余裕がある。

 あの二人を呼べないのはまぁ一応思う所がなくもないけど、どっちも自分の恋人と聖夜を過ごすことでしょう。ご馳走様。

 

「でも、いいの? クリスマスなんて配信やら企画やらの絶好じゃん」

「配信はするよ? というかスタジオ行くし」

「ウェ?」

「流石にクリスマスに何もしないのは無理だよ。リスナーさん達が待ってるし、もう告知もしちゃったし。24日はほとんどスタジオにいると思う」

「じゃあ23日にやるの?」

「お泊り会とプレゼント交換会自体はね。でも、青眼鏡は24日も拘束させてもらいます」

「we?」

「珍しく察しが悪いじゃん」

「ついてきて、っていうんなら断るけど」

「ついてきてって言ってるんだけど」

 

 ふむ。

 ふむ?

 

「確認するけど、22、23はリンリンの家で、24日だけスタジオ? についてこい、って話?」

「22、23、24全部スタジオ詰めになるから、近くのホテルに一緒に泊まって、そこでクリスマス会とプレゼント交換会をしようっていう話」

「ん~~~~~」

 

 何を言ってるのかわからないんだよなぁ。

 

「部屋は?」

「私が出すよ」

「いや本当に行くなら払うけど、いや行かないけど」

「ベッドは一つでいい?」

「二つにしようね。行かないけどね」

「朝はビュッフェ形式らしいんだけど、会社行けばレストランあるからそっちでいいかなって」

「え、あの事務所レストランあるんだ」

「うん。朝8時から開いてるよ。社員の人がよく朝食食べに来てる」

「はえー、流石大手。でも私一般人だし入れないよ」

「マネさんに他社の人とコラボする時用の入館証発行してもらうの取り付けたから大丈夫」

「やめてよそれもう断れない域じゃん」

 

 断るとマネージャーさんに迷惑かけるやつじゃん……。

 いやそんなことで悪印象付かないと思うけど、将来入りたいと思ってる企業のなりたいと思ってる職業の人に迷惑かけるのは色々と……ポクポク。

 メリットデメリットの天秤。

 ……まぁ、然したるデメリットはないか。ホテルに泊まって、朝食を会社に食べに行くだけでしょ?

 

「わかった。じゃあ行くよ。あ、でもホテル代は自分で出すから」

「もう払ってあるし取ってあるからいいよ」

「……ベッドの数は?」

「ないしょ」

 

 内緒、じゃないんだよ。

 まぁリンリンはその辺初心というか臆病なのでちゃんとベッドは二つあるだろう。なんなら部屋も二つ取っている可能性もある。

 ……後で払っておくか。

 

「じゃあ、青眼鏡。プレゼント期待してるから」

「う、そういえばそっちが主旨だった」

「サンタコスしてきてもいいからね」

「全身真っ黒のジージャンで行くわ」

「不審者扱いで捕まりそう」

 

 そんな感じで。口約束で決まったクリスマス会は、なんだか波乱が起きそうな、起きなそうな。

 

 

 ●

 

 

 荘厳──。

 寒空を裂くガラスの柱。超大手事務所のビル。社名の連ねられた看板には、DIVA Li VIVAの文字もある。勿論、だけど。

 勝手知ったる、といった様子で入り口の方へ向かうリンリンに慌ててついていく。流石に来たことの無い場所で、大企業に入るとなれば緊張もする。こちとら高校二年生の女の子だぞ! 

 

「り、リンリン。ちょっと待ってちょっと待って」

「何?」

「ほんとに言ってる? ここ入るの?」

「え、うん。……えー、もしかして青眼鏡、怖がってる?」

 

 きょとんとした顔から一転、ニヤァと口の端を歪めたリンリンが、小首を傾げて覗き込んでくる。うわ、一番見せたくない相手に弱みを見せてしまった。でも緊張するものはすると思うんだ私。

 リンリンはふむ、と一つ思案をしたあと、手を差し出してきた。

 

「怖いなら、手、繋ぐ?」

「なんなら背負ってくれても」

「足持って引き摺って行ってあげてもいいんだけど」

「歩きます」

 

 ちょっと落ち着いた。

 

 自動ドアを抜けて大きなロビーに入る。物凄く開けた場所で、幾つかのエレベーターとエスカレーター、その隣の辺りにInformationがある。冬の空気が唐突に暖房の利いたそれになり、身体がぶるりと震えた。

 リンリンは受け付けにずんずん歩いていくと、二、三、言葉を交わし、首掛けのカードホルダーを受け取った。

 

「はい、これ」

「これがゲスト入館証?」

「うん。ちゃんと首にかけといてね」

「うい」

 

 guestと書かれたそれを首にかける。

 ……これが将来、社員証になるのかなぁ、って。勉強頑張ろう。

 

「青眼鏡?」

「あ、今行くよ」

 

 いつの間にか扉の開いたエレベーター前に移動していたリンリン。その居住まいに不自然な点はなく、堂々としている。あの日完璧に割り切ったからショックは無いけれど、やっぱり私が全てを知っていたリンリンはもういなくて、私の知らない、成長したリンリンになっているんだなぁと、感傷。

 ……なんなら、私なんかよりよっぽど社会経験を積んでいるんだ。少なくともこの場においてはリンリンに習う姿勢で行かないと。こんな……大人たちに囲まれて、日々を過ごしているんだもんなぁ。

 

「青眼鏡、早く乗って」

「うい」

 

 怒られた。

 

 

 

 ●

 

 

 

「美味しい……」

「でしょう」

「何故に自慢気」

 

 案内されて入った社内レストラン。既にまばらに人がいて、皆私を見て眉をひそめたあと、その隣にいるリンリンを見て納得の表情をする。

 

「特にこのサーモンが美味しい」

「うむうむ」

「バイキング形式も出来そうな広さだね」

「歓迎会とか、イベントがあるとビュッフェになるよー」

「……?」

 

 ん。ん?

 

「リンリン」

「なんだね!」

「あぁ、そういう」

「わかっているなら無言が吉!」

 

 こっちが、ここでの"いつものリンリン"なワケね。うん、よく見てる子だ。

 Vの姿になる時だけテンション上げるんじゃなくて、会社に来たら最初から上げてるわけだ。その方が気合も入るだろうし、隙もなくなるし。……というかめちゃくちゃ過激なのは私に対してだけで、学校でもああいうリンリンだから、うん、そう、気を許してくれているのだと思う事にしよう。

  

 顔を上げる。

 そこに、もうめちゃくちゃ"秘書"! って感じの女性がいた。スーツと眼鏡。ちょっと憧れ。

 

「NYMU、ここにいましたか」

「あ、おはようマネさん!」

「おはようございます。それで、そちらの方が……」

「初めまして、NYMUの友人の新舞といいます。この度は入館証の発行、」

「ふふ、そこまでかしこまらなくて大丈夫ですよ。私はNYMUのマネージャーを務めています、麻比奈と言います。新舞さんは今回はNYMUの友人としてきてくださったと聞いています。緊張しているかもしれませんが、リラックスが大事です。イベント、頑張ってくださいね」

「あ、ありがとうございま──イベント?」

 

 ん?

 ん??

 

「あ、ほ、ほらマネさん! 花ホルダーさんに依頼してたヤツどうなったのかな!」

「……NYMU。サプライズと報連相の欠落は違う、と何度も伝えたと思いますが」

「今日! 今日説明するから! ね? 今はね?」

 

 なるほど、犯人はリンリン一人と。マネージャーさんもハメられた側ね。了解。

 さて。

 

「どの暴露がいい?」

「やめて!」

「色々仕入れてまっせ……。直近のだと、体操服後ろ前逆事件とかどうだろう」

「やめてって!」

 

 ふふふ、こちとら友人。ええ、ええ、何でも話せますよリンリンの覚えてない事も。

 

「青眼鏡、あとでね」

「わぁ怖い」

 

 本当に怖い。

 

「申し訳ございません、NYMUがご迷惑をお掛けします……」

「あ、いえいえ。慣れてますので」

「ああ、そうですよね。付き合いで言えば貴女の方がずっと長く……」

「そうなんですよ。リ……NYMUとは中学からの付き合いなんですけど、もう四六時中一緒にいる時もあって」

「ふふ、元気な彼女と一緒にいるのは楽しそうですが、振り回されて大変でしょうね」

「あー、まぁー……大変ですねぇ」

 

 しみじみと。

 ちら、とリンリンを見れば、わぁ冷たい視線。テンション下げ下げじゃないですかぁ。

 

「NYMU、花ホルダーさんの件は資料を送っておきました。依頼は快諾していただけましたので、確認を」

「はーい」

「それでは、新舞さん。是非、楽しい時間を」

「ありがとうございます」

 

 ……うむ。うむ。

 レナさんとも、みくさんとも毛色は全く違うけれど、出来る大人、って感じが凄い。カッコイイ人、って感じで憧れるなぁ。マネージャーって、うん、ああいうイメージあるよなぁ。うん。

 

「じゃ、青眼鏡。食べ終わったらホテル戻ろうか」

「り、リンリンは収録とかお仕事とかないの? 今日」

「あるけど午後だから。ね?」

「……うい」

 

 まぁ、分かっていた事である。

 

 

 ●

 

 

 ドン、と。

 顔の横に手をつかれた。ホテルの部屋に戻ってすぐのことである。

 

「壁ドンとはまたコアなものを」

「暴露、やめてね?」

「えー、どうしよっかなー」

「このお腹に当てた手、どうなると思う?」

「待って待って食べたばっかぐぇぇぇえええ」

「キスもしちゃう」

 

 悲しい事に、押し返せるだけの力が私には無い。リンリンは日々ダンスを含む運動を行っているため、体力も身体能力も非常に高いレベルにまでまとまってきている。一人旅でぶらぶらしている私なんかとは比べ物にならないレベルで。

 そんな彼女に壁ドンされて、その姿勢のまま抱き着かれたら、当然何もできない。

 

 暖房の切っていた部屋はうすら寒く、だからこそ人肌は暖かいのだけど、同性からのキスは普通に嫌悪が勝る。ハグだけならまだ許せるけどキスはやめてほしいと何度言ったらわかるのか。ただ、これで「こっちも尻を揉んでやらぁ!」とか調子に乗ると、ベッドに押し倒される結果になりかねないので我慢。

 

「っぷふぅ……。暴露、やめてね?」

「はい……」

「あと、勿論ね? だまして連れてきたのは悪いと思ってるんだよ、私も。でもあんな公の場で恥ずかしい話をするのは違うと思うんだ。あそこにいた知り合いみーんな、体操服後ろ前逆だったの知っちゃったよね?」

「べ、別にそれくらいカワイイ、で済むんぎゅ」

「やめてね?」

「んんんん」

 

 顔の横に突かれていた手とお腹にあった手、どちらもで私の顔を挟んで、物凄い力で締め付けてくる。小刻みにコクコクと頷くけれど、リンリンはそのままキス顔を作って……ぬあああ。

 

「んー、一般ホテルだけど、ホテルで二人っきりって、ちょっと良い響きじゃない?」

「同意がないので悪い響きです」

「同意するまでキスしてほしいってこと?」

「解放してほしいです」

 

 解放してくれた。

 

「それで、イベントって何」

「あー。まぁ、察してると思うけど、箱内でクリスマス交換会があってね。それが終わった後、サプライズで友人呼んで交換会、みたいな予定だったんだけど……バレちゃったし」

「なるほど。私配信に出たくないって言ったよね?」

「うん。聞いた。だからサプライズ」

「うーんそれはドッキリというんだよなぁ」

 

 それもタチの悪いヤツ。

 

「わかってる上でのサプライズはうーん、だよね」

「まぁ、そう。ぶっちゃけ驚ける自信はない」

「青眼鏡そもそも声に抑揚ないもんね……」

「それは悪口」

 

 人が気にしている事を!

 

「またゲームする?」

「クリスマスにボコボコにされろってこと?」

「いいよ1vs7でも」

「前勝てなかったじゃんそれ」

「じゃあ今から考えてよサプライズ。楽しみにしてるから」

「ん。わかった」

 

 ベッドに寝転がる。結構な緊張から解放されて、疲労が如実である。

 なんというか、リンリンは凄い環境にいるんだなぁという思いと、気軽に送り出したあの時の私に色々思う所がないでもない。

 リンリンも少しの間思案顔だったけど、同じようにベッドに寝転がった。勿論、二つあるベッドのそれぞれに。

 お互い横向きになって、向かい合って。

 

「……ねぇ、青眼鏡」

「何だね」

「さっきの私、変だった?」

「さっきの、っていうと、つまりNYMUちゃんなリンリン?」

「ん」

 

 少しだけ不安そうに。リンリンは問う。

 

「全然。いつも見てるNYMUちゃんだったし、いつも学校で見てるリンリンだったし、私の友人のリンリンだったよ」

「そっか」

「気にしてるんだ、猫被ってる事」

「少しね」

 

 んーっ、と伸びをする彼女は、寝返りをして窓の方を向いた。金髪が揺れる。

 

「別に元気な自分も、冷静な自分も自分だと思うんだけどさ。いいのかな、って思うことは有るかな。なんか嘘ついてるみたいで……」

「でもリンリン、学校でもあんな感じじゃん。アタリきついの私にだけじゃん」

「……でも、ほら、青眼鏡に会う前……友達いなかった頃の私は、もっと暗い性格だったでしょ。みんなの前だから、って理由でキャラ作ってるとも言えない?」

「それが成長じゃないの? 暗い面を見せたって周囲は暗くなるだけだよ。それは知ってるでしょ。だからリンリンの明るい面だけをみんなに見せて、周囲も明るくなってる。それがリンリン、君が成長して獲得したスキルだよ。出来るようになった事。陳腐だけどさ、優しい嘘ってヤツだよ。あるいは需要と供給」

 

 起き上がって、リンリンの方へ。

 頑なに顔を見せない彼女の金色の髪を、サラサラと撫でてみる。

 

「何」

「偉いね、って」

「……」

「なんかさ、レストラン入った時も、受付の時もそうだったけど、社員さんがリンリンの事みると"あぁ、いつものか"とか"NYMUちゃんは今日も元気でいいねぇ"みたいな視線がチラホラあってさ。流石に全員じゃなかったけど、物凄い人数の大人たちがみーんなリンリンの事"元気なNYMUちゃん"で認識しててさ。ホント、すごいなぁって」

「……」

「頑張ってるね」

 

 よしよし、と頭を撫でり撫でり。撫でりこ撫でりこ。

 ぐい。手首をつかまれ、引っ張られた。

 

「ぬわ」

 

 咄嗟に手をつくけど、当然、リンリンの頭部に顔を近付ける形になる。

 金色の髪の毛が眩しい。髪の間から、リンリンの耳が見える。

 

「子供扱いしないでよ」

「まだまだ子供だよ、リンリンは」

「……じゃあ、青眼鏡も子供」

「うん」

 

 その青い目が、可愛い顔が、こちらを向いた。文字通り目と鼻の先に目と鼻がある状態。

 

「大人になっても、一緒にいようね」

「勿論」

 

 二人の顔はそのまま近づいて──あ、起き上がろうと思ったのに腕が、というか首の後ろに手を回されて、あぁっ!

 

 

 ●

 

 翌日の夜。

 結局サプライズはゲームになった。何も思いつかなかったらしい。

 FPSバトロワゲームと、大混戦するスカッシュなゲーム。前者は協力一戦、後者は視聴者参加型で五戦。

 『友人サンタから勝利という名のプレゼントをもぎ取ろう』のコーナーは、サンタの一人勝ちに終わった。1vs7の大混戦FF無し。サンタは一機さえ失わず。圧勝オブ圧勝である。

 その結果に満足いかなかったらしいリンリンはパーティグッズより手錠、足枷、バランスボールなどのリアルハンデをサンタに課すも、敢え無く敗戦。最終的に取り出した伝家の宝刀アイマスクにてようやく辛勝を得た。7人の内の6人が落とされた時点のことである。

 

 クリスマス企画はそれで終わり。勿論締めだとか挨拶だとか告知だとかはちゃんと済ませて、先に帰る……事無く待っていたサンタと共に、ホテルへ帰る次第となった。

 

 

「お疲れ様ー」

「お疲れ」

 

 カチン、とグラスを当てる。勿論ただのジュース。

 窓際に置かれたテーブルと椅子に向かい合って座って、夜景を眺める。ビジネスホテルじゃなくて普通に質の言いホテルだったのがびつくりぎゃうてん。

 ちまちまとお菓子やおつまみをつつきつつ、ゆっくりする。

 

「友達出来た?」

「何にも」

「ああ、まぁ、青眼鏡だもんね」

「なんだとぅ!」

 

 まぁ出来るだけ接さないようにした、というのが大きい。オタクなので、知りたくないという部分が大きい。おかげで怖がられた感じがないでもない。悪印象云々の話はどこへいったのか。

 

「でも楽しかったよ。なんか、異文化交流ってレベルで色々知れた。知識の裏付けになった感じ」

「技術さんに口出しした時少しヒヤッとしたけどね……」

「あの人とは配信始まる前にちょっと話しててさ。唯一口出しにいける人だったのがデカい」

「いつの間に……」

 

 ドマイナー資格試験の同好の士だった。やっぱり自己紹介の時にドマイナー珍妙資格を提示するのは良好なコミュニケーションを作るな、って。

 口出ししたと言ってもちょっと断線箇所の指摘をしただけで、調整だとか修正に横暴な態度を取ったわけではない。そんな知識ないし。いずれは勉強するつもりだけど。

 

「……あー、それでね」

「うん?」

「えーっと」

 

 歯切れの悪いリンリン。ちょっと頬が赤い。

 

「どしたん、湯あたり?」

「あの……その」

「んー、それじゃ、はい」

 

 バッグから、紙袋を取り出す。そういうことでしょ、多分。

 

「う、流石にわかる?」

「まぁね。そもそも最初はそういう話だったし」

 

 あと椅子の下の紙袋見えてるし。

 

「じゃあ、プレゼント交換会。といっても二人だけだから、はい、どうぞ」

「ん。じゃあコレ、どうぞ」

「ういうい」

 

 紙袋を渡し合う。一応ラッピングしてもらったソレは、15x30x8cm程の直方体の形をしている。リンリンから貰ったプレゼントは、何かしらが包まれた赤い袋。紙袋in袋。

 

「開けても良い?」

「もち」

 

 別に良いのに丁寧にラッピングを向き始めるリンリン。そういうところ、律儀だよなぁ。京子辺りならビリッビリに破くだろうに。壮一もこのタイプ。

 私は破きます。

 

「これ……ペンタブ?」

「うん。液タブは流石にプレゼントとして重すぎるし持っていけなかったけど、これならいい感じかなって。配信でお絵描きしたりするの見てるけど、マウスで描いてるじゃん? リンリンの絵は……その、上手いかどうかは置いておいて、そっちのが描きやすいかなって。ちなみにこれ防水で洗えるから」

「……実用性が高すぎる」

「ちなみにお絵かきソフトの利用権3ヶ月分もつけといた。それ以降使うかどうかは任せる」

「ん。ありがとう」

「うい。じゃ、こっちも開けるゾイ」

「開けてー」

 

 大切そうに箱へ仕舞い直してくれる様を見届けつつ、赤い袋に手を掛ける。

 結んである紐をほどいて……ぱぁ。

 

「……オルゴール、かな? 丸いのは初めて見たけど」

「よくオルゴールだってわかったね」

「重さと音でだいたいね」

「それはちょっと怖い」

 

 球形の、ぱかっと開くオルゴール。

 開くと天井側に巻き鍵があったので、一つ、二つと巻いてみる。

 

 流れるのは──。

 

「NYMUちゃんのソロ曲?」

「うん。一番初めに出したオリジナルソング」

「へぇ、こんなのあったんだ。グッズ?」

「んーん。非売品。一点物」

「ワァオ」

 

 付加価値やば。

 いや売らないけどさ。

 

「ありがとう。大切にするよ」

「ん」

 

 この曲好き、って言ってたの、覚えてたのかね。

 リンリンにしてはロマンチックなことをするものだ。とか思っちゃったり。どちらかと言えば私の方がロマンチストだから、なんか新鮮。

 

 互いのプレゼントを丁寧に包装し直して、一息。

 

「もう一回、乾杯しようよ」

「いいね、なんかカッコイイ」

「そう言う事言わない方がかっこいいのに……」

 

 グラスを重ねる。

 

「メリークリスマス」

「ハッピークリスマス」

 

 コツン、とグラスのベルを鳴らした。

 友人に乾杯。

 

 

 〇

*1
移動の関係などで出来ない日もある


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