今回めっちゃ短いです。ただちゃんと続きますのでご安心を。いや暗黒期の続きとか安心しちゃダメなんですけどね
───少女は眼を見張った。
賛美が舞い上がる。歓喜で包まれる。笑顔で、満たされる。オラリオの一箇所で異様な盛り上がりを見せる場所に興味惹かれ、
金の髪は揺れ、その身体は風を纏い、やがて辿り着いた先に、【
真っ白な雪の様な髪に、白に近い灰色の
一目見て理解した。ああ、あの男の子は巨躯の男に敵わないと。何も適当に見た目だけで判断している訳じゃない。仮にもレベル3に至った観察眼と勘は、相手の適切な実力を測るくらいならば訳もないだろう。だからこそ確信する。絶対に勝てないと。
威圧も風格も巨躯の男の方が圧倒的。にも関わらず、白い光を携える男の子の姿に英雄を重ねた。もしかしたら勝てるのかもしれない。
そしてその答えは、事実として表れる。大剣と短剣。本来であれば打ち合うべきですらない武器同士。受け流していた三分間とは違う、真っ向勝負。到底打ち勝てるはずもない差があった。……のに、男の子は打ち勝って見せた。右腕の骨を軋ませて、激痛に雄叫びを上げながら、小さな体躯で巨躯を吹き飛ばし───そして、勝利の咆哮を上げるが如く炎雷を轟かせる。
爆風に揺れるマフラーと白い髪。威風堂々とは言えない情けない姿。でも不可能を可能にしたその英雄の背中を見て、少女は思う。
───どうしてもっと早く現れてくれなかったの?
上空で猛々しく鳴り響く爆音。耳元で弾ける雷音。閉じてるが為の暗闇の視界に微かに入る光。決して一般人の人達に当たらないように、だが相手には必ず当たるように放たれた速攻魔法。パラパラと瓦礫が落ちる音を耳に、僕は確信した。
───
一般人の人達も、多くの冒険者も、強大な爆発が収まると同時に歓声を上げている。跡形も無く吹き飛ばしたと。でも第一級冒険者を筆頭に確信が頭を占めているだろう。確かに強大な威力、確かに脅威。しかしこの程度で跡形も無く消え去るはずがない。
本来であれば未だ倒れないザルドさんの姿に驚異を見せていた筈の人達が歓声を挙げるなどあり得ないんだ。歓声が上がってるということはザルドさんの姿が無いということ。つまり爆発で全ての人の視界が眩む一瞬で逃げた事に他ならない。
足音は聞こえない。もう遠くに行ったか。それだけの速さで動けるというのなら、満身創痍の僕に止めを刺すなど造作も無いはず。つまりこの一戦は
……本当に、どんな目的があるのか。
とは言え、仮にも勝った身が地に手を着いてばかりでは格好もつかないだろう。情けない勝利だし、一対一はあくまでも我儘。それでも勝った身であるなら、安心感を与える様にしなきゃ。
そして誓おう。今度こそ勝たされるのではなく、勝ってみせると。
また、越えるべき壁が出来た。
「……っ」
意地で立ち上がるけれど、足がふらつく。当たり前だ。体力が尽きてる中で半ば無理やりスキルを発動させ、体力どころか
近くに壁があるのを感じる。地面に頭から突っ込むよりはマシかな。僕は背中を壁の方に向けて倒れ込んでいく。ズルズルと身体は下がり、やがて座る形となった。
「お見事」
「────ッ!? ぅ……」
「ああ、静かにしていろ。気絶寸前を演じ、意識はこちらだけでなく周りに分散。安心しろ、今手を出すつもりはない。……アルフィア、
「……考え込んではいるようだが、我々の存在には気付いていない」
この、声は……。
「……」
「罵倒されるくらいは覚悟していた。……何も言わないのだな」
「……ザルドさんも、貴方も、優しい人……にしか、僕には見えません。それに、誰も殺されてない……ですから。『女の悪戯くらい笑って許せるようになれ』って、教わりましたし……」
「……悪逆非道を『悪戯』で済ませるか」
「ははは、流石英雄は言う事が違う。……アルフィア、お前のお喋りのために俺はここに来た訳じゃないぞ。分かっているな?」
「……勝手にしろ」
僕が寄りかかっている壁……恐らく民家。路地裏近くなのだろう。多くの人が見れない位置にいる二人。いや、一人と一柱。うち一人はザルドさんとの戦闘時にも感じていた通り、あの教会で出会った銀髪の女性。……アルフィアさん。
そしてもう一柱は、男神。仮にも闇派閥の一員であるアルフィアさんと一緒にいると言うことは……闇派閥の主神、だろうか。
「さて、リオンの意思が定まったのはお前の影響だと勝手に判断させてもらう」
「……! まさか、神エレン……」
「ああ、それは偽名だ。正しくはエレボス。暗黒地下の神……まあ今は所詮人の身に過ぎないが」
リューさんから『正義』について問われた時、あの人の意思がそう簡単に揺らぐとは思えなかった。だから原因を探り、輝夜さんとライラさんが推測混じりで話してくれて、『神エレン』が原因だろうと話してくれた。
だから知っていた。二人はキナ臭い神だと言っていたけど……当たっていたようだ。
「……下手な問答をしなくて済むのは此方としても助かる。ここまで言えば分かるだろう、英雄。では問おう。お前にとっての“正義”とは何だ?」
「
───淀みはない。躊躇いはない。僕にとっての正義なんて、最初から決まっている。英雄になりたい意思。
それでも僕の心に従う為に、僕自身すら偽る、そんな偽善者だ。
「……ふぅむ、なるほど。本心から“偽”を語るか。これは面白い」
僕から答えを聞き出したのが満足なのか。でも何処か物足りない雰囲気というか……求めていたのとはまるで違うような、そんな声音。
なぜ正義を語り掛けるのか。そうやって考えていると、フィンさんの声が聞こえてきた。
「っ、
「えっと……一つだけなら! 幾つか必要なら私のファミリアの人達が持っていると思う!」
「いや、一つでいい! 僕達の傷より、先に彼の眼を!」
フィンさんは深い思考に陥っていたのだろう。僕に視線を向けてから、慌ててそれどころじゃないという風にアーディさんへと問い掛けた。
受け答えが終わると、アーディさんの気配が近付いてきた。
「おっと、流石にもう無理だな。……誇れよ英雄、お前は全てを救った」
「……待、て……!」
ヤバい、意識が薄れている。呂律も回せるかギリギリだ。いや、それでもいい。倒れても構わない。でもこの一瞬だけは意識を保つ。その為に
「はは……流石の俺でも、傷ついた眼で睨みつけられたのは初めてだぜ。こんな感じなのか……」
「……見た事ないのか?」
「ない。寧ろあるのかよ、流石の俺でも恐怖を覚えるぜ? ヘラ・ファミリア」
空気が眼の傷口に触れる。ただでさえ感じていた気持ち悪さは倍増。でもこの痛みのお陰で、なんとか意識は保てていた。
この一瞬で、問い掛ける。
「なんで、正義について……訊くんですか……?」
「絶対悪たる俺に対立する正義に興味が湧いただけだ。行くぞ、アルフィア」
遠ざかる足音。開けた視界に映る黒髪の男神と銀髪の女性。意識が薄れる。視界が閉じていく。やがて眼は閉じ。深い眠りへと落ちた。
ああ、丸一日は寝込むかなぁ……───
ご拝読頂き、ありがとうございます。
次回以降についてのご報告を。今回までの経緯を見れば分かると思いますが、ベル君による『エレボス作戦・作戦前提の阻止』が行われた為、アストレア・レコードの様な時間稼ぎの自爆特攻や神送還のカモフラージュが実行されません。
とどのつまり、二部で本来やるべき内容全カットです!
……はい。三部公開まで進展ほぼ無しです。
と言っても更新停止という訳ではなく、恐らく少しは投稿するかと思われます。ほぼ繋ぎ回みたいな形になりますが、それでも良ければこれからも宜しくお願いします。
ではまた次話で!