今話に関してはこうだと断定した上で話を進めていきます。二部以降に『違う』と判明してしまったらもうどうしようもないので、そういうオリジナル設定として組み込むか、潔く失踪します。
……まあわざわざ『北西区画』とか載せる必要ないし、意図的だと思うから、合ってるとは思うんですけどね。ぶっちゃけこれが外れてたら今後の展開がパァになるので困るのです。
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独自解釈
惨殺。人々が殺されゆく。悲鳴。オラリオは火の海に包まれる。数多の建物は崩壊し、この世の終焉を告げる様な地獄絵図。そんな想像。
その中に埋もれゆくだろう一つの教会を思い───
この暗黒期に降り立ち、2日が経過した。昨日はギルドに冒険者登録をしにいき───受付人は訝しげに見ていたが───パトロールをしていた。多分エイナさんが居ないかと探ってたのがバレたんだと思う。エルフの人はいたけど、ハーフエルフらしき人は見えなかったし……容姿がどうの問題じゃなくて、単純にまだ配属されてないんだろう。
エイナさん、確か19歳だったっけ……だから七年前の今だと12歳になる。……エイナさんが年下っていうのはあまり想像がつかないけど。僕にとっては『お姉さん』という言葉が一番しっくりくる人だから。
昨日は特に問題もなく、パトロールは終えた。アストレア様が「目立つ装備は避けるように」って言ったから、渡されたローブを着て歩いてたけど……これ不審者扱いされないかすごい不安。アストレア様の神威に押されて無理やり着せられたけど、これどういう意図なんだろう……?
そして今日。相変わらずローブは着けたまま、僕はパトロールから離脱していた。もちろんアリーゼさんに断りを入れてから。というのも、少し思い出した事がある。僕とヘスティア様が二ヶ月以上共に過ごしていた、かつてのヘスティア・ファミリアホーム───教会の地下。アポロン・ファミリアに壊されてしまった僕らのホームが、きっとあるのではないかと思ったから。
もしかしたら何処かの人がこの教会で過ごしてるかもしれない。この教会を身寄りにしているかもしれない。シルさんが定期的に訪れる、あの孤児院の様に。それでも僕が過ごし、七年後の僕が過ごすあの教会に、少しでも祈りを捧げられたら……そんな、ただの感傷。
市民の安全見回りを断ってまで訪れる事だろうか? きっと違うだろう。でも僕の足は、北西と西のメインストリートの区画に存在する教会へと向かっていた。
やがて訪れた、教会の入り口。ほんの少しだけ扉が開いている。扉を開け───真正面に存在している人物に、目を奪われた。フードを被ってはいるが、“綺麗”というのはそう簡単に抑えられるものでもない。全身甲冑でもない限り、雰囲気は誤魔化せないから。
垂れ流れる銀髪は、微かに輝いて見えた。
「……お前は」
「あっ、え、えっと……」
「何をしにここに来た?」
……かつてのファミリアの住処に祈りを捧げに来た、なんて言ってもきっと無駄だ。彼女はここに縁がある人物。ここにいる事になんの違和感もない様な、自然体の姿。何処か愛おしく見つめる様子を見ている限りでは、「いつお前がこんな場所で?」と返されるに違いない。
「……た、大切な場所なんです。正確には、ここの隠し地下というか……」
言い訳が思いつかない。だから、あくまでも事実だけを伝える。
「……よほど入念深く調べなければ見つからないと思っていた場所か。なぜお前が知っている……と聴きたいが、嘘を言ってる素振りでもない。そうか。妹以外にもここを愛した者はいたか」
「えっと、貴方は……?」
「…………お前こそ、何者だ? その雰囲気、たかだか第三級でも第二級でもあるまい。お前の様な存在を、私は知らない」
「べ、ベル・クラネルです。レベルは5で……その、都市外から来たので」
「…歳は15より下に見える。それでここを大切な場所と称し、レベル5か。矛盾だらけ、信じられる話でもない。が、嘘を付いている様子もない。……そうか。お前の様な人物もいたか。多少ではあるが、『絶望』は薄らいだ。既に英雄に足る人物が居たのは朗報だ。……目的は変わらないが」
彼女はフードをめくり、その奥から瞳をこちらに向ける。
「
「あ、はい。もし掃除できたなら掃除しようと思っていただけなので、気にしないでください」
「………変なヒューマンだな」
……最近の僕はなじられる体質なのだろうか。輝夜さんのゴミを見るような目といい、この人の冷淡な目といい、僕にそんな趣味はないんだけど。そんなに変な事を言っているのかな? 自覚がないのは流石にマズい。『でりかしー』を守ると毎度の如く変な目で見られるから、もしやそれが原因……? いやでも話したくない事を無理やり話させても変な話だし……。
ヴェルフが居てくれたら何か言ってくれそうなんだけど。人生経験はヴェルフの方が上だし。
「すみません、お邪魔しました!」
ここはあの人の大切な場所みたいだし、そこを横取りしても仕方がないだろう。……でも七年後の『半教会の地下部屋』には、あの人の姿形が見えた事はない。もしかしたら、この暗黒期で───。
だとしたら、なんとしてでも助けたい。
「……本当に、変なヒューマンだ」
女性は呟き、目を瞑り、
ふと顔を上げ、教会の窓から差す光を見つめる。眩しさに片目を閉じ、口を開いた。
「吟遊詩人などという柄でもないが、一つ語り歌いたい気分だな」
「魔石の調達……ですか?」
「そう、ギルド直々の
ダンジョン都市オラリオ……この街は、魔石を資源として稼働する道具が殆どだ。冒険者という種はそれを集める為の仕事。魔石の純度が高ければ高いほど高値が付くし、例え上層程度でも魔石である限りはお金になる。
でも冒険者蔓延るこの街で魔石調達の依頼って、相当珍しいんじゃ……?
「うんうん、その気持ちはよ〜く分かるわ。けどこのご時世だと、ダンジョンに出る冒険者もかなり減っちゃっててね。フリーのサポーターを雇ったら闇派閥でしたって例もあるから、出れる冒険者もかなり限られちゃってるのよ。その点私たちは総出でいけるし、レベルも申し分なし! ロキ ・ファミリアやフレイヤ・ファミリア程の重要視されるファミリアでもないから、こういった依頼は定期的にくるのよね」
僕が疑問を抱いた顔をしたからだろう。アリーゼさんは頷いて肯定し、現在状況を説明した。
そっか……初期の僕の様にソロで活動する冒険者は、フリーのサポーターを雇う事が多い。それが闇派閥でしたって例があれば、当然殆どの冒険者は警戒する。大半がレベル1───よしんばレベル2だとしても、闇派閥だってそんなに弱くないと聴いた。……僕が直接対面したのは、ジュラと呼ばれたあの男くらいだけど、あのマジックアイテムを見れば凶悪さは理解できる。
だとしたら、レベル3が揃っているこのファミリアに依頼されるのも納得だ。
「……ちなみに、17階層にいる
「ううん。つい最近にロキ ・ファミリアがぶっ倒しちゃったから、再度出現するまでは一週間以上はあるわ」
「そうでしたか…」
ゴライアスを倒せば魔石が手に入り、依頼には沿った上で『強敵との戦闘』が行える。単身とは言えレベル4が一度の討伐で莫大な経験値を得れる程だ。ゴライアス相手ならばこの『ズレ』を直すのに最適だと思ったけど……悉く外れていくなぁ。
アリーゼさんやリューさんの鍛錬に付き合って身体は動かしているけど、やっぱり何処か無意識にセーブが働いてしまう。レベル6が相手ならば見知った顔でも全力で打ち込めると思うけど……僕の鍛錬に付き合ってくれた『剣姫』のアイズさんはまだいない。フィンさん達だって忙しくて僕の相手をする暇などないだろう。そもそも僕の事を知らない訳だし……。
レベル5やレベル6なんてそうそう出会えるものでもない。でも下層レベルの相手をする余裕も今はないからなぁ。
「兎君は出られそう? さっき言ってた用事とか」
「あ、はい。用件も済みましたので、いつでも大丈夫です!」
「ならみんなを集めてダンジョンに行きましょー!」
……こうして他のファミリアの団長を身近で見ていると、参考になることが多い。それぞれのファミリアによって性格は様々だと分かっているけれど、それでもやらない理由にはならないから。
アリーゼさんは王道的な団長だ。精神的支柱であるけど、決して頭を使わない訳ではない。でも任せる時に任せ、かつ自分の意思は曲げない『正義』に相応しい団長。……余計な一言を除けば、だが。
数十分後、アストレア・ファミリア総員が揃った。バベルの塔付近、下の広間。アリーゼさんは振り返り、強気な笑みで言葉を発した。
「さ、行きましょう」
───ああ、やっぱり『経験』の差は、そう簡単に埋まるものでもないようだ。
「ふ───っ!」
疾走。武器を両手に、ミノタウロスの間を走る。刻まれた恩恵が身体を発熱させ、いつも以上に身体が動く。三匹のミノタウロスは瞬く間に魔石を残して塵と化した。
「ファイアボルト!」
振り向きざまに魔法。かつてレベル1の頃は軽い威力で大して効いている様子もなかったが、レベル5に至り
爆風と共に鋭い雷霆が体を貫き、ミノタウロスは容易く消滅する。
「……アリーゼさん達は」
僕はソロだからこそステイタスを発揮できる。それに一緒に鍛錬したとはいえ、せいぜいが1日2日。連携するには経験が浅すぎるから、僕は遊撃として動いた。取り敢えず四匹のミノタウロスを引き連れて、三匹を向こうに任せたけど……。『精癒』の
アリーゼさんがミノタウロスの持つ
コンビネーションというよりは、一人一人が全力を振るい、それのカバーに入るイメージ。それぞれが実力を余すことなく使えているからすごく強い。
「よぉし、終わった終わった! 魔石回収! あ、兎君は私と見張りね! リオン、ライラ、魔石回収はそっちに任せるわ!」
「……」
「なにをジェラシー感じているのやら……あれは団長さんなりに気軽に接することが出来るようにしているだけでしょう。そっちの気でもあるのですか? 百合妖精ですね」
「か、輝夜はいちいちあだ名でもつけなければ気が済まないのですか? 別にそういう訳では……」
「ああ、それともベルですか? 一回手を握られてから凄く意識しているようですし。手を繋がれただけで意識するとかどこの男児ですか。それとも発情妖精?」
「その言い方を止めろぉ!」
……うん、アリーゼさんについていこう。ここにいては変な巻き込まれ方をする予感がある。もう確信に近いかもしれない。
「うわ、この魔石の純度凄いな……つかドロップアイテムもあるし」
「純度が高いの、全部
ライラとネーゼが話しながら魔石とドロップアイテムを回収しているのを端目に、リューと輝夜は拾った魔石を見つめ、話し合う。
「この魔石も気になりますが、それ以上に……。気付きましたか? 輝夜」
「あなたが気付いて私が気付かない筈がないでしょう。……あの短剣とナイフ。1、2回程度の切り込みでは、ミノタウロスを両断出来るほどの長さがありません」
「ええ。つまり彼は、
武器の性能もあるだろう。輝夜が一度刃のない武器として見た『ヘスティア・ナイフ』は、ベルが使うことで第一等級武装に等しい能力が付与されていると思われる。しかしそれ以上に、ベル自身の速さが、レベル5の中でも飛びぬけているように見えた。速さ、正確さ、技術……疑う余地もなく、第一級冒険者のそれだ。
「……お伽噺から出てきたような存在ですね。クラネルさんは」
「まったくです。都市外にあのような人物がいたなどとは、とても信じられませんね。アストレア様の言葉を信じない訳ではありませんが……アレはアストレア様が例として出しただけで、事実に迫るモノは何一つとして話していない」
内通者なんて考えはもうない。それでもベルが不思議で強い人物だからこそ、その存在を気に掛ける。真実を知りたい訳ではないが、それでも興味が出てしまうのは、下界の子供の
輝夜はそっと目を閉じ、開き、止めていた足を進め始めた。
「早く集めましょう。知れない事を考えても時間の無駄です」
「……ええ」
リューは自分の手を眺めた後、同じように魔石を集め始めた。
(確信はないから輝夜には言わないが……クラネルさんの動き、このダンジョンに初めて来る人のそれではない……様に見えた。知識ではなく、体感として頭に入っていると言った方が正しいか。それに、外にいるであろうモンスターとの落差に全くの動揺がない)
勘違いで済ますには違和感があり過ぎた。ベルの動きは、ダンジョン探索に慣れている人物の動きのそれだ。今日初めてダンジョンに潜った人物が行えるモノではない。
(……本当に御伽話から出て来たみたいだ)
───アーディが読んでいた『アルゴノゥト』という童話に、こんな人物がいたのだろうかと、ほんの僅かに興味を抱いた。
アストレア・ファミリアの人物達の描写……アリーゼ・リュー・輝夜・ライラ・ネーゼ以外の行動描写がありませんが、こちらはアストレアレコードでも描かれていなかったので、同様に書いていません。一応戦闘はしています。
流石に名前だけだと性格や喋り方を判断するのは難しいので……。なので、ノイン・リャーナ・アスタ・セルティ・イスカ・マリューは、出るとしても名前だけになると思います。ご了承願います