ソナースコープには4本の魚雷が遠ざかっていくのが見える。しかし、いつまでも雷跡を追うことはせず、続けざまに指示を出した。1番2番魚雷発射管には、最後の魚雷が装填されている。設定自体は直前に発射したものと同じで、狙うのも同一目標だ。
準備が完了次第発射される残りの魚雷も、4本の魚雷を追って遠ざかっていくのが見える。そして目標物である大型戦艦へ、4本の魚雷がそろそろ着雷するところまで来ていた。
私はこの時、油断していた。大型戦艦に注視するあまり、私の周辺への索敵をおろそかにしていたのだ。ソナー妖精さんがヘッドホンを取らないまま、ダイヤルを調整しつつ叫ぶ。
「敵探針音接近ッ!!」
艦内が一瞬で静まり返り、私は急いで周辺の捜索を始めるものの、既に時は遅かった。
右舷側から接近する駆逐艦を数隻確認したのだ。艦底には独特な膨らみを持っており、後部甲板には私にとっての天敵が備え付けられていた。対潜装備艦だ。
軽巡1と駆逐艦2で乱雑に見えつつも、追い込むような形で軌跡を取る艦隊は、頭上でそれを発射する。
対潜爆雷よりも小型なそれは、海面に広く散布されて海中へ沈み始める。
「無数の発射音と着水音!!」
詰まっていた喉が通ったのか、息を飲む。
提督はすぐさま航海長妖精に指示を飛ばした。もう敵艦に補足はされているのだ。離脱を最優先に考えるべき。
「敵対潜装備の艦が接近中。軽巡、駆逐、駆逐の順」
「機関始動! 最大戦速!! 急げ!!」
ソナースコープに無数の海中落下物が艦を取り囲む。刹那、今までで一番激しい頭痛と共に立体映像は完全にノイズに包まれる。
同時に艦体も四方八方、上下から揺さぶられる。捕まっていても振り払われる程に激しく揺れ、浸水や漏電が始まった。
「機関室浸水!」
「第二電池室で火災発生!」
伝声管から次々と損傷報告が入る。機関室では機関長妖精さんが既に消火作業指示を出しており、第二電気室へ増員を送っている。浸水自体も亀裂箇所を埋めて応急処置をするだけでいい。講習も訓練も積んでいる。皆、効率的に作業を進めてくれる筈だ。
第二電気室の火災の臭いが司令室にまですぐに到達し、ディーゼルの排気と混じって名状しがたい臭いに進化していた。口元を押さえて、後で慣れることを祈りながらも、目の前の状況対処を優先する。
「第二波来るぞ!」
提督の声で机を掴んでいた手に力が入る。
頭上では通過した駆逐艦の後続が来ており、同じく後部甲板に"対潜迫撃砲"が搭載されていた。それも、未だに乱れるソナースコープから何とか見ることのできた情報で、以降は吐き気を誘発する程の頭痛に耐えていた。
「くぅぅぅぅ?!?!」
「ローレライ!?」
提督は私の様子に気付いてか、ソナースコープから身体を引き剥がして、身体を抱きかかえる。大きく熱い身体を感じながらも、自分の足で立てない程の痛みに耐えながら、何とか引き離されたソナースコープに近付こうと藻掻く。だが、提督はそれを許さなかった。
「駄目だ!! これ以上は負担になりすぎる!! 見なくても、状況は把握できているんだ!!」
第二射があったとソナー妖精さんからの報告はないが、水雷長妖精さんが時計から目を離してこちらを見た。
「第一射の触雷時間です」
提督の手を振り払い、ソナースコープを覗き込む。遠くに見える大型戦艦の右舷側に大きなノイズが2つ出ていた。そして、艦影の後方に通り過ぎる魚雷が2本見える。
大型戦艦は健在で、傾斜した艦を左舷側の急速注水隔壁に注水して姿勢制御を行ったようだ。触雷した部分の装甲板は吹き飛び、奥の船殻にもヒビが入っている。僅かながらにも浸水は始まっているだろう。
命中した部分から予測するに、弾薬室か燃料タンクの近くであることは間違いない。他の戦艦級ならば、重油漏れをしている筈だからだ。
大型戦艦の様子を見終えると、すぐさま頭上へと立体映像を戻して確認する。対潜迫撃砲で小型爆雷を撒き終わった駆逐艦は離脱しており、後続の駆逐艦が投下位置に近づきつつあった。ノイズが徐々に消えていく中で、艦底に特徴的な膨らみを持っていない艦であることと、対潜装備艦の後をピッタリと追う様子は伝えていないものの、提督は第二射があることを見抜いていた。
「衝撃に備えろ」
チラチラと深度計と水平器を確認しているが、次は修正された設定で投下してくる筈だ。もしその深度設定が当たってしまえば、船殻は圧力に耐えきれずに崩壊してしまうかもしれない。逃げるにも余裕がない。手詰まりに思えた。
進路上に小型爆雷が投下されるのを確認し、ソナー妖精さんも着水音を聞いたようだ。
提督は進路変更を指示し、取舵で避けるように指示を出す。そして思いもよらぬ命令が下された。
「進路そのまま、角材を持て!!」
極度の緊張感で気が触れたか、そんなことを言わずとも雰囲気が伝えてくる。しかし、命令には逆らうことなく、手空きの妖精さんたちは、補修用の角材を持った。提督は隣の第一電池室からモンキーレンチを持って来て言った。
「艦の内殻を叩け!!」
そう言い、パイプの通っていない壁の向こうはバラストタンクになっている部分を叩き始める。カンカンと甲高い音を発しながら、もう一度言った。
「叩け!!!!」
戸惑いながらも、妖精たちは叩いても安全な部分を叩き始める。艦内で叩く音が反響する。
「航海長!! 機関停止、モータも止めろ!! メインタンクインジェクション!! 深度100、ダウントリム3だ!!」
「り、了解!」
轟音を挙げていた主機が停止し、それに続くようにモータも止まる。もう艦内には内殻を叩く音しか聞こえない。
どれくらいか経つと、提督は指示を出す。
「叩くのを止めろ!!」
ピタッと音はなくなり、静寂が訪れる。こだまのように音が何度も聞こえ、その度に小さくなっていき、最後は皆の息遣いだけになった。
数十秒か数分か経つと、私はソナースコープを覗き始める。
立体映像には、変わらず図上を航行する深海棲艦たち。しかし、状況はどうだ。第二射が来ると思われていた、小型爆雷も来なかったのだ。だが、軸線上に捉えたままになっていた大型戦艦は、右舷側57度方向に移動してしまっていた。攻撃するには回頭し、もう一度距離等を図り直さなければならない。
「ローレライ。対潜攻撃は?」
「私たちを見失っているみたい。爆雷投下も取り止めた」
次いでに言うと、さっきまでの提督の突飛な命令で少しだけ休むことができた。しかしそれでも、痛みは残っている。そんな余裕が、提督の命令の意味を考える猶予ができたのだ。
あれは恐らく撹乱だ。大きな音を立てて、あえて敵に自分の位置を知らせる。機関もモータも動いていた状態から、急に静かにすることによって、艦はソナーから消えたのだろう。パッシブソナーではもう捕捉できていない筈だ。そして今、アクティブソナーの探針音も聞こえない。またすぐに探針音が聴こえてくる筈だが、それまでの間に移動してしまえばいいのだ。もし再補足されたとしても、先程とは深度も変わっている。同じ調整をされた爆雷攻撃は、もうまともに食らうことはない。
「よし。面舵80度。ローレライ、目標の方角は右舷側60度辺りか?」
「うん。今59度」
そう言うと、提督は水雷長妖精さんにあることを聞く。
「1番2番発射管の状態はどうなっている? 先程の爆雷攻撃で不調になっていないか?」
伝声管を使って、魚雷室の水雷妖精さんたちに連絡を取るが、非常に不味い自体になっていた。
「2番発射管使用不可。どうやら加圧されて変形し、発射口が開かないみたいです」
「魚雷を抜き取って他の発射管で使うことはできないか?」
「2番発射管に装填されていた魚雷も弾頭が変形してしまって、もう使い物になりません」
提督はすぐに指示を変えた。
「2番発射管は閉鎖。他の発射管から、弾頭が変形した魚雷の投棄は可能か?」
「駄目です。抜くことができないようです」
「じゃあ信管が作動しないようにし、放置する。1番発射管は使えるな?」
「はい。魚雷も使用可能です」
「よし。ローレライ、雷撃準備だ。目標、大型戦艦。当てるのは、前回の攻撃で被弾させた部分がいい。都合よくいけるか?」
ソナースコープの立体映像には、左手から右手に向かって移動する大型戦艦が映っている。ということは、こちらに向いているのは右舷側だ。
「いける」
「よし。発射指示は任せる」
「うん」
大型戦艦は徐々に軸線へと近づき、あと少しのところまで来た。
「1番発射管、発射用意」
用意の号令を出し、目標に注視する。舵を切ることはなく、連合艦隊との砲撃戦で向きを変えることができないのか、近くで砲弾が水柱を挙げている。今がチャンスだ。
「1番発射」
最後の魚雷を発射した。引いて見ると、魚雷が敵艦目掛けて走り去って行くのが見える。調定深度まで浮上していくと、5mの水面を全速を出していく。
視線はすぐさま周辺へと移し、索敵を始める。時々魚雷と大型戦艦を確認しながら、敵の数を数え始めた。
小型艦で構成された外苑艦隊もその数を減らしており、連合艦隊との戦闘でかなりの数が轟沈しているようだ。水上では未だに砲雷撃戦が続いているが、連合艦隊の砲撃が薄くなってきている様子。満載していた砲弾をかなり使ったようで、今は弾着観測射撃にでも切り替えているのだろうか。
連合艦隊の被害状況も、イムヤやゴーヤの安否も確認できない。完全に敵中で孤立しているが、これは百も承知だった。それが、提督が立てた作戦であり、これまで提督が選んできた選択肢だったのだ。
小型艦19、基幹艦隊は健在。それが現状。駆逐艦や軽巡等は大部分を削ることができたが、艦隊中央の配置になっていた艦は健在で、水雷戦闘に参加していない索敵を担当する艦は外苑から中央へと配置を変えていた。
戦闘が続けられる中で再編成が行われた深海棲艦の大艦隊は、意図せずして対潜装備を持つ艦の割合が増加してしまっていたのだ。
「提督。現状報告」
「……あぁ」
音を立てずに潜航する私のことを、深海棲艦は発見できていない。魚雷発射を探知されなかったことが理由としてあるのだろうが、艦の腹に抱えているものは飾りなのだろうか。これだけ密度があれば、普通ならば簡単に補足されてしまうだろう。
「敵深海棲艦の残存25。轟沈したほとんどは小型艦や輸送艦。現在、砲撃戦をしながら序列再編成を行っている。内訳は変わらず、駆逐艦や軽巡が多い。だけど、索敵を行っていたであろう艦が多く残っていることと、水中聴音器や探針器を持つ対潜装備艦は含有割合が多くなった」
「作戦艦隊への警戒度が高くなっているのか。イムヤとゴーヤは捕捉できているか?」
ソナースコープを覗いて、索敵範囲の水中を捜索する。しかし、轟沈艦がノイズは発しており、見えないところが多い。
私は提督の質問に首を横に振って答える。
「分かった」
短く答えた提督は、何かを考え始めた。今は触雷を待つばかりで、それ以降は提督の裁量次第だ。
数十秒程経つと、大型戦艦の右舷に大きなノイズが発生する。数秒遅れてソナー妖精さんも音を捉えたようで、ヘッドホンを外さずに触雷の報告をする。
私はノイズが晴れるのを待ちながら、基幹艦隊の様子を伺っていた。
基幹艦隊は大型空母、大型戦艦の他に空母や戦艦等で固められた、今作戦の第一目標だ。内訳は何度も行った偵察によって明らかになっていることだが、第四波攻撃が始まって以来、全体の様子を確認することができていたとしても、基幹艦隊に焦点を当てていない。大型空母、大型戦艦に意識を持っていかれるばかりだったのだ。
今の状況になる前、敵には空母3と戦艦3が確認されていた。その内の1ずつが特別に船体の大きい艦であった。雷撃目標は大型戦艦。空母に関しては艦載機を失えば、ただの的になるからと放置していた。戦艦はその後の攻撃目標に据えられていた。
大型戦艦を仕留めることはできなかった。正確に言えば、足を止めることには成功したのだ。浸水による傾斜が始まり、真っ直ぐ航行することも困難な状況。艦隊序列からも落伍しており、友軍からこれ見よがしに集中砲火を食らっているようだ。これの援護に、比較的損傷の少ない戦艦が序列から出て応戦している、というのが今の状況だった。
この状況は提督も把握している。攻撃目標は戦闘力を失っており、戦力の分断に成功しているのだ。希望の兆しが見えたような気がした。
「攻撃目標切り替え。大型戦艦は大破したとし、これより敵旗艦への攻撃に移る」
全身の毛が逆立ったように感じた。提督の言葉にいち早く意見したのは、他でもない水雷長妖精さんだった。
「提督!! 現在、本艦に残されている魚雷は、潰れた2番発射管の魚雷のみ!! 斯様な状況で、どう攻撃しろと仰るのですか?!」
掴みかからん勢いで、提督の前に躍り出た水雷長妖精さん。妖精さんの大きさならば、私たち艦娘や提督の身体の大きさは怖い筈だ。それでも、妖精さんは提督の視界に出て、臆することなく提督に言葉をぶつける。
提督は水雷長妖精さんに視線の高さを合わせ、いつもの調子の声で言ったのだ。
「この艦の連装砲は飾りか? それとも花火筒とでも言うのか?」
「ローレライの203mm連装砲は対艦攻撃用です!! 決して飾り等ではありません!!」
「なら攻撃するぞ。俺たちにはまだ手が残されている」
スッと姿勢を元に戻した提督は、艦内に響く大きな声で言った。
「作戦艦隊に潜水艦を起用したのは、最後の一踏ん張りのためだ!!」
刹那、船体を震わす音。アクティブソナーだ。しかし、提督は操艦指示を出すことなく、言葉を続ける。
「艦隊戦に於いて潜水艦は主役にならない。何故か? 空母のように航空戦力を搭載できたとしても、それは制空や攻撃には非力だからだ。戦艦のように巨大な主砲は積めない。巡洋艦や駆逐艦のような、軽快な機動性や汎用性はない。潜水艦は隠密性と浸透攻撃を主に置いた艦船だ」
結露と主機やモータの冷却熱で、真夏の陸よりも数倍ジメッとしている上に臭う艦内は静まり返った。
「負けられない。だから足掻いた。これまでに経験のない状況に、俺は皆の長として勝たなければならない。誰一人失うことなく、生き延びねばならないんだ」
ソナースコープから顔を離し、提督の方を見る。
提督は帽子を深く被り、目元を見えないようにしている。帯刀も拳銃もないベルトに指を掛け、汗で濡れた首筋を拭いながら言うのだ。
「第四波攻撃は、最も勝率の高い作戦を用意した。だが、作戦の中核を担う作戦艦隊の生還率が絶望的なものだった。……状況判断や機を見た攻撃をしなければならない、非常に繊細なポジション。俺の指示に戸惑っただろう。何故今、そこでそうするのか理解を超える命令に怒りを覚えたかもしれない。それでも付いてきた。何故? ローレライが意見しなかったから? 自分たちには俺に意見したところで、代案を用意できないから? 様々あるだろうが、皆は従った。それでいい」
頭が割れそうな程の痛みを感じつつも、ふらつく身体を支えながら聞いた。
「今を取り零したら、何もかもを失うんだ。資源も今までの努力も、仲間も、家族も、帰る場所も」
見なくとも分かる。私を取り巻く状況はよくないことを。
「どれほど確率が低かろうが、生還率が絶望的だろうが、やらなければならない。そして、確率を引き揚げるためにも、生還率を絶望的からもしかしたらというところまで戻すためにも、俺は皆と往くことを決めた。だから今があり、この時がある。魚雷は失った。残る攻撃方法は主砲のみ。水上の状況は分からない。作戦艦隊も散り散りになった。それでも、状況を覆せるだけの力が残っていると信じている。信じて疑わない」
朦朧とする視界の中、揺れ動く提督は帽子を取って被り直す。髪を掻き上げ、帽子で寝かせて額を拭いた。
「ローレライ、状況を教えてくれ」
ソナースコープに取り付き、立体映像を見る。近くに基幹艦隊旗艦が来ており、残存基幹艦隊もいる。今が好機なのだ。
「今が好機」
艦内が震える程の声で、提督は叫んだ。
「バラストタンクブロー!! 浮上し、砲撃戦を行う!! 203mm砲通常弾装填
!! 状況を見て、適宜弾種を交換する!!」
排水弁が開き、艦内の空気をバラストタンクに取り込み、海水を吐き出す。それと同時にモータを動かしながら、海面を目指した。
艦首を空に向けて突如として現れた潜水艦に、基幹艦隊は戸惑いを隠せていない。妖精さんたちはすぐさま気密を解いた連装砲を動かし始める。艦橋には私と、私の身体を支える提督が出てきていた。ハッチも開いており、中に空気を取り込んでいる。
「目標、基幹艦隊旗艦、大型空母!! 攻撃始め!!」
空気を震わす砲撃は、間抜けにも左舷を晒していた大型空母の土手っ腹に突き刺さる。直接照準で狙い、外すことのない距離だ。通常弾は装甲板を吹き飛ばし、船体からせり出た対空銃座や高角砲を吹き飛ばした。続け様に砲門をアイランドへと向け、砲撃。船体よりも薄くはあるが、それでもある装甲板が崩れ、近くの煙突は吹き飛び、マストはぐちゃぐちゃになる。狙えるところならば、どこでも狙い、艦内格納庫の弾薬庫を誘爆させると、砲撃目標を切り替えた。
その頃には砲撃の集中砲火を食らっており、喫水の深く露出部の少ない私の艤装にはなかなか当たらないものの、それでもダメージは与えられていた。それでも、砲撃を止めることはしない。目標を切り替え、残っていた戦艦へと指向。砲撃は艦橋と射撃指揮所があるところへと向けられた。2度の砲撃で両方に命中させ、生きている高角砲へ適当に攻撃すると、今度は空母へと砲を向ける。
『第二電気室浸水! 隔壁閉鎖します!』
『無線使用不可!!』
『第一電気室で漏電!! 手漉きは救助に行け!!』
そんな報告が伝声管から聴こえてくるが、目の前の状況に意識を奪われていた。
海上航行しながらの砲撃戦。やぶれかぶれの攻撃かに思えるが、それでもこれが最善の手であると提督は言った。
潜水艦単独での艦隊中央への強襲攻撃。自殺行為としか言いようがない作戦ではあるのだが、決行する以外に道はなかった。決行できるだけの"ナニカ"が提督にはあったのだ。
『連合艦隊旗艦 赤城より入電! 連合艦隊は健在。弾薬をほとんど失っているものの、一転攻勢に出るとのこと』
通信妖精さんが伝声管を使って、提督と私に通信内容を伝える。
『支援遠征艦隊旗艦 比叡より入電! 支援遠征艦隊は戦闘海域外から距離を保ったまま、戦域への弾着観測射撃中。観測機が基幹艦隊序列内に友軍の潜水艦を確認したため、問い合わせが来たようです。返事は本艦であると返しました』
砲弾の上げる水しぶきを浴びながら、痛む頭の熱を海水が奪っていく。ソナースコープを覗いていなくとも、立体映像がノイズだらけになっているのは自明だった。ワイヤーで繋げられて、海中に漂っているUボートXXVIIB改が音を拾って出力しているのだ。
『連合艦隊、突撃を開始。次々と深海棲艦が沈められていきます』
ギュッと私を抱える手に力が入り、伝声管に声が響く。
「離脱できるか?」
『潜水は可能です。ですが、50までしか潜れません』
「結構。メインタンクインジェクション。急速潜航だ」
『了解』
ふらつく私を支えた提督は、小さく呟いた。
「帰ろう……」
この後、ソナースコープには25の大きなノイズが映った。