この小説での妖夢→未熟といえど実力は確かだが幸運値が低めで割と酷い目に合いがち。性格は一見大人しめで冷静。大抵の場面で敬語。
咲夜→瀟酒。冷酷冷静沈着ながらツンデレ。優しい時は優しい。
妖夢は咲夜に自身がこの世界にいる事情を話した。
閻魔である四季映姫直々の命令であることから、今ここに妖夢がいる理由までの全てを。話を聞けば聞くほど、それは咲夜には関係のないものだった。
「後…私がお風呂に入ってる間に…脱衣所の籠に私の着替えとこの手紙が…」
見れば妖夢の服装はいつもと変わらない、しかしあの短時間で洗濯などできる訳がないのでおそらく紫が手配したのだろう。咲夜は無言で妖夢から手紙を受け取ると…それを読むなり破り捨てた。
「…とりあえずさっきの子達のところに戻りましょう?」
破られた手紙の内容は妖夢が見ても咲夜が思わず破り捨てる気持ちがわかるものだった。何故なら、妖夢1人だと大変だから手伝ってあげてー、あ、貴女のお嬢様には許可とったから♪といった簡潔なものだったのだから。
まずあのレミリアが許可などするはずがない、大方紫が弾幕ごっこでも焚き付けてレミリアを負かせて強引に話を進めたのだろう。幻想郷ではよくあることとはいえ、咲夜がイラつくのも無理のない話である。
……
「冒険者登録?」
冒険者ギルドの酒場に戻り、カズマやアクアと改めて自己紹介を交えて話すと、そんな話題が出てきた。冒険者とはこの世界における何でも屋のような認識だそうで、自身のステータスに基づいて職業を選び、レベルを上げて、スキルを覚えて強くなる。冒険者カード自体が身分証明の役割も果たすのでとっておいて損はないとのこと。
そんな話を聞いていたのは妖夢だけであり、咲夜はというと話には興味なさそうにこの冒険者ギルドの内部を見回している。そして立ち上がると受付窓口の方に歩いていった。
「なんか無愛想なメイドさんねー、あの人苦手だわ私」
「…まぁあれがメイドと言えるのかはさておき」
確かにパッと見はメイドに見えなくもない咲夜の衣装はスカートが短く、太もも付近にはナイフが見え隠れし、エプロンドレスのリボンはかなり長い、カズマに言わせたら改造しすぎとしか言えないものだった。格好云々はさておきメイドと聞いて連想するのは慎ましく、清楚で、控えめで愛想良くといったのがカズマの想像だった。だがあの自称メイドはどうだろう、まず愛想などない、ツンとした態度、視線は冷たい、というか怖い。言ってしまえば不良メイドだ。メイドより冥土に送る方が似合ってそうだ。そんな思いをカズマが寄せている中、妖夢は悩むように考えていた。
「…冒険者ですが…正直よくわからないのですがなるだけなってみようと思います」
登録するのに1000エリスが必要とも聞いたが紫から貰ったお金はまだ余裕があるので問題ない。カズマとアクアに一瞥すると、妖夢は立ち上がり咲夜が向かった冒険者ギルドの受付窓口へと歩を進める。
「咲夜さん?」
「あぁ、妖夢?私ここで働くことにしたから」
「…え?」
意味が分からない。それが率直な妖夢の感想だ。確かに魔王を倒すのに協力的になってくれるとは思ってはいなかったし、まさか常に行動をともにするとまで妖夢は考えていない。幻想郷で異変が起きたら基本的に集団で行動することなどまずないのだから。例外として言うならここにいるのが妖夢ではなくレミリアなら咲夜は率先して着いてくることになっただろう、過去の永夜異変のように。だが妖夢と咲夜はそこまで親しい間柄でもない。
だからと言ってここで働くとはどういうことなのか、独自に魔王を探すとかならまだしも、それでは完全にやる気が感じられない。
「聞きなさい、これは情報収集の為よ」
「情報収集……ですか?」
「ええ、私達に1番に足りないのはこの世界の情報、ここは酒場なのでしょう?なら自然とあらゆる情報が入るわ、そんな訳だから私は冒険者にはならないわ、心配しなくても魔王とやらが見付かれば手伝ってあげてもいいわよ」
言われて見ればわからなくもないが妖夢は納得いかない様子でいた。とはいえ元より妖夢は1人でやるつもりだったので問題自体はないし頼りにするつもりもあまりなかった。
「いらっしゃいませ、ご要件はなんでしょうか?」
「…冒険者登録というのをお願いします」
咲夜がそのまま窓口からどいたので妖夢はそのまま目の前の窓口の女性に話しかける。受付の女性は営業スマイルで対応し、妖夢の冒険者登録は進んでいった。
「…ソードマスター…?」
「剣を極めた者って意味かしら?それでいいんじゃない?」
ステータスをカードに表示して受付の女性がそれを見るなり驚愕の声をあげた。どうやら幸運値が低めなこと以外はかなり高水準だったらしい。知力と魔力が平均的なので魔法職は難しいが前衛上級職なら軒並みなれるという結果だった。
ならば剣を使う妖夢はソードマスターという職業に目をやったものの、意味を聞くなり微妙な顔をした。
妖夢は自他ともに認める未熟者である、そんな妖夢が剣を極めた者だなんて名乗るのは烏滸がましいにもほどがあるのではないかと。
「私が名乗るには少し荷が重い気がするのですが…」
「そんなんだからあんたは未熟って言われるのよ、気に入らないならその職業の名に恥じないようにするくらいの気概を持ちなさいよ」
その言葉は妖夢にナチュラルに突き刺さった。いくら自他ともに認めていても他人に未熟と言われて喜ぶような人はまずいない。だが咲夜の言葉ももっともだと、妖夢は渋々ながらソードマスターになることにした。
……
3日後。
冒険者になりたての妖夢は成り行きながら出会えたカズマやアクアと夜以外の行動を共にしていた。まずはカズマへの剣の稽古。剣術指南役という肩書きをも持つ妖夢にとって他人に剣を教えることなど難しいことではない。元々は形式的には助けられもしたので義理返しの趣向でやったのだが妖夢から見たカズマは残念ながら剣の才能はほぼ皆無であった。
「まず筋力が足りません、それに体力もです、それらを鍛えることから始めた方がいいと思います。走ったりして基礎的な鍛錬から始めた方が良さそうですね」
つい数日前まで完全な引きニートであったカズマにとってその言葉は逃げ出したくなるのも仕方ないものだ。とりあえず腕を見たいからかかってこいと言う妖夢に戸惑いながらも安物のショートソードで立ち向かったが当然の如く妖夢はカズマの攻撃の全てを華麗に受け流していた。ジャイアントトードに捕食されたとは思えないその力量にカズマは為す術もなく、妖夢から反撃をもらうまでもなく疲労からその場に倒れていた。
なおアクアはそれを見て楽しそうに心無い応援という名のヤジを飛ばしていた。
「なっさけないわねー、悔しくないの?女の子に手も足も出なくて悔しくないの?ぷーくすくす」
「ぐぬぬぬ…」
「挑発にいちいち反応しないで…、まずは平常心を心掛けましょう?」
「…うっす」
意外と妖夢相手には素直に対応していたカズマの心境は真面目なものだった。アクアと違い妖夢は真面目に接してくれている、それもカズマからみた妖夢は見た目同年代で控え目に見ても美少女だ、彼の男としての何かが真面目に取り組もうと思わせるのか、基本的に嫌がる素振りは見せるものの逃げたりすることは1度もなかった。
そんな朝稽古が終わり、冒険者ギルドに来た3人、とりあえず何をするにしても衣食住は安定させなければどうしようもならないのでやれる仕事を探しにきたのだがギルドに入るなり3人は驚愕で絶句した。
「いらっしゃいませ♪冒険者ギルドへようこそ…って妖夢じゃない、なら説明はいらないわね」
ブラウンと白のウェイトレス服に身を包んだ咲夜は可愛らしい営業スマイルから妖夢達とわかるなりいつもの咲夜に戻る。そして手に持つ大量のジョッキをテーブルに運んでいた。
「お待たせしました♪ご注文のシュワシュワになります、ごゆっくりお寛ぎください♪」
明るい笑顔で妖夢達の視線を気にすることなく接客に徹する咲夜はどのウェイトレスよりも目立っていた。
セクハラをしようとする酔っ払い冒険者には即座にナイフが飛び、気がつけば刺さったナイフはどこにも見当たらない。
厨房の人手が足りなければ即座に対応し、料理の注文を間に合わせる。妖夢からしてみれば当然の光景でもあった。彼女は紅魔館の宴会の時でも100に近い人妖の料理を1人で切り盛りし、普段から使えない妖精メイドに指示を出して紅魔館の家事全般をこなす。たった3日しか経っていないのに十六夜咲夜はまるでこの冒険者ギルドのチーフでもあるかのように他のウェイトレスに指示をだし、その美貌と完璧な仕事ぶりから他のウェイトレスは嫌な顔を1つせず、むしろ羨望と憧れの目で咲夜を見つめている。
当然客側の冒険者からも大盛況で、彼女はあっという間にこの冒険者ギルドの看板娘になっているように見受けられた。
完璧な料理、完璧な接客、完璧な営業スマイル、まさに完璧で瀟酒なメイドの為せるものであった。
「…おい、誰だあの人は…」
「私が聞きたいわよ…てか気持ち悪いんですけど、あの人がいるとよく背景がモノクロになって人が動かなくなるのが気持ち悪いんですけど」
「はぁ?なんだそれ?」
カズマは奇怪なものを見るようにアクアを見るがとうのアクアはその現象によりノイローゼのようになっていた。にも関わらず未だに咲夜が時を止めていると気付かないのはアクアの知力の低さ故のものなのか。
一方妖夢は当然咲夜の能力を知ってはいるがわざわざ教える必要性も感じないし教えたことであの不良メイドからイチャモンをつけられるのも面倒でしかないので黙秘を貫くことに決めていた。それ以前にアクアに咲夜の能力が効かない点には素直に驚かされていた。そのアクアの異質性は特に絡む必要性を感じない妖夢がこの2人とともにいる理由の1つでもあったのだから。
とりあえず何のクエストを選ぶかと考えていた3人はまだ気が付かない。3人の元へと1人の少女が近づいている事に。