忘れられた頃にこっそり投稿。内気の方も書かないと……
あ、あけましておめでとうございますm(*_ _)m
―アクセルの街・酒場―
テーブルには妖夢とめぐみん、アクアだけが残り、カズマはクリスに盗賊スキルを伝授して貰う為にギルドの外へと出ていった。
盗賊と聞いて妖夢が一番に顔を思い浮かべるのはやはり霧雨魔理沙だろうか。手癖が悪く、紅魔館や守矢神社で珍しいものを見つけるなり借りるだけだと言ってほぼ一方的に盗んでいくという噂は何度か聞いた事があった。流石に冥界にまでそのような事をする為に来訪してはこないが、魔法使いを名乗る人間の第一印象が盗賊というのもどうなのだとも思う。
そんなくだらない事を考えながらも、妖夢は果実を搾ったジュースを飲んでいた。騒がしい日常ではあるが、退屈はしない。見るものも新鮮で、楽しささえ覚える事もある。
妖夢としてはそんな風にゆっくりしている余裕など全くないのだが、現状この世界の魔王とやらを倒そうにもどうにもならないという現実があり、手をこまねいてる。勿論いずれは元いた世界に帰って西行寺幽々子の従者として勤めなければならないのだが、今はただこうしてゆっくり過ごす時間を楽しんでいた。
…しかしそんなゆったりとした時間が長く続かない事は……幻想郷でもこの世界でも変わらないらしい。
『――えっ?何よこれ、これを読めばいいの?…何?もうマイクが繋がってる?どういう事?マイクって何よ?』
突如として町中に鳴り響く声。それは冒険者ギルドからのアナウンスだった。
だがいつもそれを担当するルナは今日休んでいる。よって代役でアナウンスしているのが…。
『…緊急ミッション、冒険者の皆さんは至急アクセルの街の正門前へと集合してください』
緊急と言いながらも淡々とした緊張感の欠片もない落ち着いた棒読みな声が木霊する。誰がどう聞いてもカンペを読んで言ってる事は明らかすぎた。勿論その声は十六夜咲夜である。
「これは…?何故咲夜さんの声が…?」
妖夢は困惑して周囲を見渡す。幻想郷にマイクや拡声器、スピーカーなどがあるはずもない、妖夢にとっては勿論咲夜にとっても未知な技術であろう。困惑するのは当然だった。
「そういえばぼちぼち時期でしたね」
「時期?」
「おや?ご存知ありませんか?……まぁ説明するより実際に見た方が早いと思いますよ。すぐに正門前へと行きましょう」
めぐみんがそう言うとすぐに立ち上がり冒険者ギルドを出ようと動く。ふと周囲を気にすればギルドにいた冒険者達も続々と冒険者ギルドを出ていっていた。
――
―アクセルの街―
街の玄関口となっている場所には多くの駆け出し冒険者が集まる。その中には途中に合流したカズマとダクネスも含まれる。
「…それで、何が始まるんです?」
妖夢は周囲を見渡す。辺り一面には数多くの冒険者達が気合充分の様子だ。どうやらこれから何が始まるのか理解できていないのは妖夢、そしてカズマだけのようだ。
「おいおい、一体なんなんだ?」
「……ちょっと待ってください、何か騒がしいような…」
困惑していたカズマと妖夢だったが次第に異変に気が付く。同時に人混みに押されるかのように街の入口へと向かう事になった。
アクセルの街の正面玄関ともいえるその場所からは、普段なら街道からの一面の広大な草原、奥には森などが見える見晴らしの良い場所である。
しかしながら今その草原の奥に見えたのはそれだけではなかった。
「……なんですかあれは…?大量の何か緑色の物が……」
「ななな……」
妖夢は落ち着いた様子のまま見据える反面、カズマは驚愕の表情で固まってしまった、言うまでもない、妖夢の言う緑色の何かが原因である。
「なんじゃありゃああああ!?!?」
「んん?カズマはともかく、妖夢も知らないの?この世界では常識よ?」
不可解な様子からのアクアの説明は妖夢にとってもわかりやすいものだ、それが納得できるかはさておき、世界が違えば常識が違うのは当然である。
街があって、お金が存在して、と基本は同じであろうとも冷静になれば違いがない方がおかしいのである。
この世界のキャベツは飛ぶのだ。そして必死に逃げるのだ。
如何に食べられまいと奮闘するのだ。それもそのはず、この世界のキャベツは非常に美味、豊潤な葉を何枚も持ったキャベツは日本の出身者からは想像もつかないくらいの味と食感。貴族ですら惚れ込むそのキャベツは冒険者にも例外ではなく、食べるだけで経験値を得る事が可能。故に高級食材として名高い。
「…今年のキャベツは特に育ちが良く1玉一万エリスでの買取りとなってます、冒険者の皆様!奮って収穫してください!!」
「「「うおおおおおっ!!!!」」」
街の入口に集まった冒険者のテンションは最高潮である。誰もが我先にと武器を手に、網を手に、籠を手に、大きな袋を手に走り出す。逆にアナウンスした咲夜のテンションはだだ下がりである。自分も参加していいのかギルド職員に聞いて却下されたのだろう。彼女の能力を考えればキャベツの捕獲など文字通りあっという間だったであろうことを考えると却下した職員は勲章物の功績者かもしれない、その職員に自覚は全くないだろうが。
「……少し驚きましたがよく考えたら幻想郷にも毛玉とかよくわからない妖怪がいましたね、そういえば」
それを連想すれば妖夢にとって今のキャベツの大群はカズマほど驚くものでもなくなってしまった。違いがあるとするなら毛玉は食用にはならないがあのキャベツは高級食材だという、ならば変に切って価値を下げる訳にもいかない。峰打ちでやるしかないかと妖夢は考えていたが、考えながらボヤいた為に余計な事まで言ってしまう。
「…げんそうきょー??けだま??」
「…いえ、なんでもありません、私達も行きましょう」
「そうよ!!細かいことは後で考えるの!!今は一心不乱にキャベツ狩りよ!!」
つい幻想郷の名前を出してしまったことにバツが悪そうに口を閉じる妖夢だが、それをまったく気にしないアクアの叫びで疑問に思ったカズマも頭を切り替えた。そう、内容はともかくこれは一攫千金のチャンスである。カズマのパーティもまた現状懐に余裕がある訳では無いのだ。初日に紫からお金をもらった妖夢でさえそれは変わらない。お金は限られているのだから、いずれ限界はくる、ならば稼げる時に稼がなくては。それが冒険者の在り方でもある。
そうこう話しているうちにもキャベツの大群はどんどん接近してきていた。
「そういう事なら私に任せてくれ!!」
「お、お前は」
前線に登場したのはダクネス、カズマとしてはあまり関わりたくない人物である。自信満々の表情のダクネスがデコイと唱え身構えれば、一部のキャベツの群れはまるでダクネスに吸い込まれるように方向転換し、ダクネスへと襲い掛かる。
「ぐはっ…!?いいぞ!もっとだ!!もっとこい!!デコイ!!デコイ!!」
すると出来上がったのは大量のキャベツに体当たりされて恍惚とした表情のダクネス。これには周囲もドン引きである。関わりたくないのか、カズマ達のパーティ以外の冒険者達は自然と離れていく。
…ただこの状況、ドン引きではあるのだが――。
「……よ、よし、あれだけキャベツが集まってるなら取り放題だ!行くぞお前ら!!」
傍から見ればドン引きな光景でしかないのだが、その状態は実に理にかなっていた。本来逃げ惑うキャベツが、ダクネスに向かってきているのだから。来るべき場所がわかるのだから難易度は圧倒的に下がるのである。
妖夢は峰打ちにより次々とダクネスに向かい来るキャベツを落としていく、それをめぐみんが拾い回収。カズマもスティールなどを駆使して次々にキャベツを捕獲していく。
「我が爆裂魔法の出番がないのは納得いきませんが…これは凄いですね!おそらくどこよりも効率良くキャベツを収穫しているのは私達のパーティではないでしょうか?」
1玉一万エリス、その魅力は計り知れない。キャベツを集めるめぐみんの目はキラキラと輝いていた。それはアクアも同じであった。
「一万エリスが取り放題…!!高級なシュワシュワ…、リッチな食事…豪華な宿屋…!!」
「…お前完全に自分の立場忘れてないか?」
「うるっさいわね!!元はと言えばカズマがこの女神の私に貧相な生活させてるのが行けないんでしょ!?謝って!女神に対して人並みな生活すらさせてないことに謝って!!」
口喧嘩しながらも二人してキャベツの捕獲する手が止まらないのは何気に流石である。恐るべきお金への執着。
栄養満点の空飛ぶキャベツ……幽々子様が聞いたらどう思うのだろうか、と思うも、食べたいから取ってきなさいと言う姿が即座に浮かんでしまい妖夢は内心苦笑する。思えば永夜異変の頃に夜雀を食べる為に捕まえてきなさいなんて言われた事もあったのでそう連想してしまうのは自然な流れであった。
そんな事を考えた事が――、フラグだったと知るのはこの後の話である。
……
―アクセルの街・冒険者ギルド―
「「「乾杯ーーー!!」」」
その併設された酒場で明るく活気のある少女達の声が心地よく響く。キャベツの後を追ってきたモンスターの群れなどのイレギュラーはあったものの、めぐみんの爆裂魔法により一掃、大部分がそれに倒されて残った僅かなモンスターも妖夢を筆頭に他の冒険者達が何事もなく撃退した。キャベツだけでもかなりの報酬なのに大量のモンスターを討伐したことによりカズマのパーティは追加報酬を受け取ることになり、まさに一攫千金を得たのだった。その結果にパーティ一同は大満足である。
……大満足ではあるのだが。
「それにしても見事だったわよダクネス!!貴女があそこまでキャベツを引き付けてくれなかったらあそこまでの収穫はできなかったわ!」
「キャベツもですが後から来たモンスターの群れもですね、ほとんどがダクネスに向かってきていたので我が爆裂魔法の狙いを定めることは実に簡単でしたよ、これからもよろしくお願いします」
「ほ、本当にいいのか!?あぁ、こちらこそよろしく頼む!」
アクアやめぐみんによりダクネスのパーティ加入が決定的になりつつある事だ。確かに大きな助けになったのは事実なのでカズマとしても文句のつけようがない。
「……まぁ一役買ってくれたのは事実ですし……、剣でしたらこれから上手く扱えるように私が教える事もできますよ」
「……師匠……悪い…よろしく頼む…」
とはいえ妖夢が扱う武器は刀であって剣ではない、ましてや両手剣でもない。似て非なるものである。まぁ基本は同じようなものだろうと思うことにした。
「にしても師匠って本当に凄いんだな、まさか魔法まで使えるとは思わなかったよ」
「……魔法?」
「え?あれって魔法だろ?キャベツの後に出てきたモンスターにぶつけてたやつ、そういえば初めて会った時に助けてもらった時も使ってたよな」
「あれは魔法ではありません、弾幕です」
妖夢はモンスターの群れを攻撃する際に遠距離攻撃として霊力を使った斬撃風の弾幕を放ち撃退していた。当たり前のように使っていたのだがそれは見る方向によっては魔法のように見えたのかもしれない。
「弾幕……?魔法とどう違うんだ?」
「どうと言われましても…確か魔法とは基本的に詠唱を必要としたはずですが弾幕にそんなものは必要ありませんし」
説明しながらも妖夢は内心舌を巻いていた。またやらかした、と。
できる限り目立つような事は避けたいのに非常時になればそれを忘れてつい幻想郷にいた時と同じノリで行動してしまっている。
「口で説明するのは難しいですね、そういう技能だと思ってください」
「それってさ、俺でも使えるようになったりは…?」
カズマも男の子である。某アニメのように剣から斬撃を飛ばしたりする事に憧れがないとは言いきれない。むしろある、日本の男の子なら当然である。
「……無理とは言いきれませんが……」
「歯切れが悪い言い方だな、何が問題なんだ?」
「弾幕は自身の魔力や妖力、霊力などを飛ばす技法です、カズマさんですと元になる魔力が……」
「……あー、その辺は魔法みたいなものなんだな……その妖力や霊力ってのは魔力とどう違うんだ?」
「基本は同じようなものという認識でいいと思いますよ、ただカズマさんにはその力のどれもほぼないといった感じですから…」
これもまた説明が難しい。もとい説明はできるのだが説明したところで余計にややこしくなる、妖夢はそう感じていた。
つい口を滑らしたものの、魔力はこの世界では一般的かもしれないが霊力や妖力はそうでもない。霊力は霊的なものの源であり、妖力に至っては妖怪がもつ特有の力である。どの力も妖夢はある程度感じることができるが、現状この世界で魔力以外を持つ者を確認できていない。
やはりこの世界が異世界なのだと再認識できた瞬間でもある、生きていく上であまり困りはしないが自身が当然と思っていた事が当然のように違っていたりする、今日のキャベツがいい例なのかもしれない。
「ところでさ、師匠」
「…あ、はい?どうしました?」
ふと気付いたらカズマは妖夢に近付き小声で話していた。他の人には聞かせたくない話なのだろうかと、妖夢は特に警戒はしていなかった。
「……師匠…、いや、妖夢ってさ、この世界の人間じゃないよな?」
「……っ!?」
そんなカズマの言葉に予想だにしていなかったのか、妖夢は完全に面食らってしまうのだった――。