この半人半霊の庭師に祝福を!   作:心紅 凛莉

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第八話 邂逅 『スキマ妖怪 八雲紫』

 

 

――正直に言えば予感はあった。

 

この少年、サトウカズマの私を見る目は純粋なものではなかったから。なんらかの疑惑の目があることはわかっていた。

とはいえこれは私自身の落ち度である。明らかに油断していた、私がこの世界で何も違和感なく過ごせていたかと聞かれたら答えはNOとしか言えないだろう、それは自他共に見ても間違いの無い事だ。

 

だからそれに関しては仕方ない。問題はその疑惑を向けられた上でどうすればいいのか、だ。

 

ただ見る限り彼は私に対して敵対している訳では無い、なので斬れば済む訳でもない。いや勿論そんな気はないが。

何よりも私は私の事をどこまで彼に話せるのだろうか?これが今の私にはわかっていない。

 

……やれやれ、交渉の類はあまり得意ではないのだけど。

 

 

「…カズマさん、その…この世界、とは一体どういう意味ですか?」

 

流石に話の内容が内容なので私はカズマを連れてギルドを出て人の少ない裏路地にきている。一応仲間達にも断りをいれてはいるので怪しまれたりとかはないと思う。

 

「…やっぱり少し動揺してるよな?あのさ妖夢、別に聞いたからといって俺達がどうこうしようとは思ってないんだ、ただ……そう、せっかく同じパーティ、仲間になったんだから、その仲間の事を知りたいと思うのは別におかしな事ではないだろ?」

 

言葉を探しながらのカズマの言葉を私は黙って聞いていた。それでいて考えるそぶりを見せながら。

 

そして実際に考えていた。私は本当の事をカズマに話していいものなのだろうかと。

別に隠す必要はあまりないのだが、内容としては魔王とやらを倒す事だ、特に悪い事をしようとしている訳では無い。

だが私がこの世界の人間、もとい人間ですらない半人半霊であり冥界出身である事、そしてその魔王を倒す事になった経緯まで、全てを話してもいいのだろうか、あるいは話す必要性はあるのだろうか。

 

 

そんな事を考えていて――

 

 

私の思考は停止しかけた。

 

 

 

 

「あらあら、こんな裏路地で若い男女で密会だなんて♪妖夢も隅には置けないわね〜♪」

 

「「!?!?」」

 

それは女性の声、突然として現れた。全く人の気配などしなかった所から突然だったのだ、それは私は勿論カズマも声を出せずに驚愕してしまう。

 

ではそれが誰なのか、私の名前を知っていてかつ私と親しい女性となるとこの世界ではかなり限定される。そして私はこの声をよく知っている。

 

十六夜咲夜、ではない。アクアでもめぐみんでもダクネスでもない。

 

この声は……!!

 

私はカズマの事など気にもせずに周囲を見渡す。だが誰もいない。

 

「何処を見てるのかしら?私はこっちよー?」

 

「!?」

 

声の聞こえた方向は…上だ。そう思うと瞬時に私もカズマも空を見上げるように仰いだ、そうすれば――。

 

私をこの世界に送り出した張本人、紫様がスキマを開いて笑顔で手を振っていたのだから――。

 

 

 

 

……

 

 

 

 

 

「……う、うわぁぁぁ!?!?」

 

かなりの空白があったが、空を見上げたまま固まっていたカズマはようやく驚愕を声に出す事に成功した。同時にその場で見上げたまま腰が引けて尻もちをついてしまう。

 

ようやく全体像をこの場に曝した紫色の鮮やかなドレスに白い日傘、腰まで伸びた長い綺麗な金髪。

 

「……紫様、お戯れはおやめください」

 

「何言ってんのよ妖夢、私達の存在は人間を驚かしてなんぼでしょうに」

 

どうやらカズマの驚く様にかなり満足したようで紫様の表情はとても上機嫌に見える。そして私が溜息ながらも紫様と会話をしたのを見た事でカズマは私と紫様の顔を交互に見回していた。

 

「……それより、このタイミングで貴女が出てきたという事は……」

 

「…ふふっ、妖夢にしては察しがよくなったわね♪」

 

口元を扇子で隠した状態で紫様は尻もちをついて座り込んだままのカズマの前でしゃがみこむ。

 

「知りたいんでしょう?妖夢の事。なら教えてあげるから、私の頼みも聞いてくれないかしら?」

 

「……た、頼みっていうのは……?」

 

カズマの心境は正直理解が容易い。見ただけで全てが分かってしまう。

普段のカズマなら紫様ほどの美貌の持ち主の女性が目の前にいたなら情けない顔に鼻の下を伸ばしていたかもしれない。男性とはそういうものだと幽々子様が以前言っていた事もあるしそうなったとして私としては特に気にする事はないのだけど……今のカズマはそうじゃない。

 

おそらく、紫様に恐怖、萎縮してしまっている。

 

確かに紫様ほどの妖力の持ち主であればそれを感じ取れるならそうなるのは当然である。私ですら仮に紫様と敵対した事を想定した場合真っ先に死を覚悟してしまう程なのだから。

ただカズマはそんな力を感じたとかそういった類ではなく、単純に雰囲気に臆したのだろう。紫様の持つ美貌の裏に見え隠れする何とも形容し難い異様で異質な何かに。

それは話慣れた私ですら時折感じる事があるくらいなのだから初対面のカズマからしたらより強く印象に残るだろう。

 

……それ程までの、存在感を紫様は持っているのだから。

 

 

「簡単よ、貴方の相方も交えて、話がしたいのよね♪今貴方の相方の女の子は言ってしまえば貴方の所有物のようなものなんでしょう?なら一応持ち主の許可くらいは取っておかないとね♪」

 

「…カズマさんの相方の女の子…?それに所有物とは一体…?」

 

「いや、あの…!?なんでお姉さんがそれを知ってるか知らないですけど言い方考えてもらえませんかね!?妖夢さんの俺を見る目がゴミを見る目になっているように見えるんですよ!!完全に誤解されてるんですよ!!」

 

必死になって猛抗議しているカズマだが私はそんな目を向けていたのだろうかと疑問にも思う。ただ誰の事を言っているのか気になっただけなのだけど。

 

「あら?別に私は何一つ嘘は言ってないわよ、それと拒否はしないでもらいたいのよね。こちらが調べた内容だとかなりめんどくさい状態になってるからちゃんと確認をとりたいのよ」

 

飄々とした態度は崩さない紫様ではあるが、その内容について一切の冗談はないようにも思えた。

さて、カズマの相方とは誰の事だろうか、と考えたところ、私としては思い当たる節は一人しかいない。私と合流してから出逢っためぐみんやダクネスを除いてしまえば最終的にアクアしか該当する人物はいないのだから。

 

「…えっとその…俺としては構わないんだけど…それはアクア次第としか言えないって言いますか…その」

 

 

私は見逃さなかった。

 

カズマが「構わないんだけど」と言った途端に紫様の口元が緩んだことに。

 

「そう、なら交渉成立ね♪とりあえずお話の場につきましょうか」

 

紫様がそう言うなり……私達は絶句する。

 

「……え?」

 

カズマの間抜けな声が聞こえたと同時に、私とカズマの足元には一瞬で大きな穴が広がった、そしてそれに落とされてしまったのだから――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―とある和室―

 

紫様のスキマに引き込まれたと思えば、即座に景色が変わり臀部に衝撃が走る。痛みに耐えながらも目に意識を向ければそこは広い室内、古くも綺麗に掃除されている畳、障子と襖、掛け軸に飾り壺、そして一部開けているところに見えるは枯山水。それは私にとって非常に見慣れた和室……というよりも白玉楼の応接間そのものであった。

 

「……帰って……来た?」

 

それはごく自然に私の口から出てきた。故郷を憂う喜びからではない、ただ漠然としたまま無意識に発した言葉だった。

 

「もちろん、話が終わったらまたあの世界に戻るのだけどね、妖夢♪」

 

当然のごとく即座に釘を刺される。そんな事は分かっている、だからこそ内心大きな溜息を漏らしたかった。

 

「ちょっとここは何処なのよ!?めぐみんは!?ダクネスは!?」

 

「……は?……え?……お?」

 

そしてそんな私の内心の溜息すら吹き飛ばしそうな困惑した悲鳴のような叫び。勿論アクアである。カズマに至ってはその場で尻餅をついたまま固まってしまっているがこれは仕方ないだろう。紫様のスキマによる移動は云わば瞬間移動に等しい。文字通りあっという間に自身のいた背景が変わってしまうのだ、こればかりは何度経験してもそう慣れるものではないのだからそれが初体験であるカズマからしたら尚更だ。

 

「さて、これで当事者が揃いましたね」

 

応接台を挟んだ先に見据えるのは四季映姫様、そしてその隣には幽々子様もいる。映姫様は何時にも増して厳格な様相をしている、一体何の話が始まるのか私には分からない。しかしこれは只事ではない、そう結論付けると自然と生唾を飲んだ。

 

 

 

 

 

 

「……なんだこの偉そうな子供は?」

 

不意に放たれたカズマの疑問の言葉に、場の空気が急激に凍りついた気がした――。

 

 

冷静になって考えたら映姫様の外見は私よりも幼いし身長も低い。なので年齢はめぐみんと同じかそれ以下に見られても仕方ない――のだが。

 

ここは空気を読んでもらいたい、そんな私の想いもまた現状を作り出しているのだろう。

 

 

 

 

……

 

 

 

 

 

 

 

「……えっと…つまり貴女は閻魔様で……妖夢は人間じゃなくて…、今いる此処は冥界で……え?え?」

 

紫様が一通り説明を終えたところでカズマを襲ったのは、言うまでもなく混沌だろう。ちなみに今この場にいるのは私、紫様、幽々子様、四季映姫様、そしてアクアとカズマだ。つまり私が人間じゃないというか、カズマ以外が人間ではない。

 

「私は半分は人間ですけどね、半人半霊ですから」

 

説明するのが容易くなると思い、あの世界ではずっと透過して隠していた自身の半霊を、今は惜しむことなく視覚できるようにしてある。カズマは無言で呆気に取られたままそれを目で追っていた。

 

「悪いけど理解できてなくても話は進めさせてもらうわよ、カズマ君、貴方に私達の事を説明する為にここまで運んだ訳ではないのよ」

 

持っていた扇子を閉じるとともに紫様はカズマの隣にいるもう1人に目を向ける。その視線に釣られるようにビクリと反応したのは…

 

「ちょ、ちょっとなんなのよ一体!?私が何をしたって言うの!?」

 

「あらぁ?何かしちゃったって自覚はあるのねー?」

 

幽々子様はクスクスと穏やかに笑いながらもその目は笑っていない。

 

整理するとどうやら話の本題はアクアにあるようだ。カズマはあくまでアクアの契約者…付き添いのようなものだろうか。私としてはカズマとアクアの関係をイマイチ把握できていないのでそこは判断に困るところなのだけど――

 

そして、私はその内容を聞いた時に、今まで向けた事のない目をアクアに向けることになるだろうとは、この時は思いもしなかったのだった――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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