これからもがんばります!!
「え、えと、その……」
ライブのリハーサル前。最近ライブに向けて一緒にレッスンすることも多かったけれど、それ以外の時間はほとんど別行動していた。
「じ、実はね、最近一緒に遊べなかったのは……」
「一人でレッスン、してたんでしょ?」
透ちゃんに遮られて、みんなのことを見ていなかったことに気がつく。それどころか、俯いてしまっていた。みんなに伝えなければならないのに。
顔を上げると、みんな笑っていた。
「知ってた」
いたずらっぽく、透ちゃんが笑う。
「え、えっと、お仕事とかも迷惑かけちゃって……」
「別に、というかラジオ収録には来てたし、迷惑もかかってない」
円香ちゃんが、呆れた表情でため息を吐きながら言う。
「まあ、誰かさんの面倒見るのは大変だったけど」
「ほんとにね~」
雛菜ちゃんが楽しそうに笑う。
「二人に対してだけど?」
「えっ、私も?」
思わぬところから流れ弾を受けた透ちゃんが、それでも嬉しそうに驚く。
「ご、ごめんね……?」
それはわたしがいなくても同じな気がするので、謝っていいものか分からず、ついつい疑問系になってしまった。
「別に」
たった二週間だったけれど、こんなやり取りが懐かしくて、また一緒にこうやってお話しをできることが嬉しい。
やっぱり、わたしはみんなと一緒にいたいのだと、改めて思うことができた。
「それで、見つかった?」
一応、簡単な事情はプロデューサーさんさんから教えてもらっているはず。プロデューサーさんがどこまで伝えているか分からないけれど、何かを探しているということは伝えてあるようだ。
「わ、分からない……」
「えっ」
でも、答えはまだ分からないから。透ちゃんの問いには、こう答えるしかない。
「わ、分からないけど、これから確かめるから……!」
「あ、なんだ」
嬉しそうに笑う透ちゃんの横では、円香ちゃんが見たことのない笑顔を見せていた。嬉しいとも、面白いとも違うけれど、どこか楽しそうで、それは初めて見る円香ちゃんだった。
「じゃー大丈夫だね~」
「だ、だからこれから確かめるから、まだ大丈夫かどうかは――」
本当に、雛菜ちゃんは人の話を聞いていない。まだ大丈夫かどうかは分からないと言っているではないか。
「ノクチルのみなさーん、準備お願いしまーす」
と、スタッフさんに呼ばれた。もうリハーサルが始まるようだ。
「じゃ、確かめにいこっか、みんなで」
ステージへ向かうみんなの背中は、前より少しだけ、大きく見えた。
けれども、大きく見えたのは距離が縮まったからだと、みんなを追いかけて気がついた。
◇◇◇
ライブは無事終わった。といっても、無事だったのは曲の部分だけで、トーク部分ではイヤモニ越しにスタッフさんの悲鳴が聞こえてくるほど長引いてしまったが。
それでもなんだかんだで、スタッフさん含めて、あの場にいた全員が笑ってくれていた。
そんな大成功のライブから一週間経って、今日はラジオの収録。
ファンレターもたくさんもらったけれど、それはあくまでライブ前のもの。ライブが過ぎてから、ファンの感想を聞くのは、このラジオが初めてになる。
昨日は、緊張でまともにご飯が食べられず、お母さんを心配させてしまった。どうせなら今日が来なければいいのになんて思いながら、朝まで熟睡していた。
「はい」
透ちゃんから回ってきたラジオ宛のお便りを、円香ちゃんが渡してくる。この紙に何が書いてあるのか。気になる反面、不安でもある。
固唾をのんで紙を受け取り、内容を読んでいく。
「ライブ、すっごく楽しかったです」
「なんか雰囲気変わった……けど、前より好きかも!」
「なんとなくで行ったけれど、思わず見とれちゃった」
やはり、お便りはライブの感想がほとんどだった。
「うわー」
透ちゃんが、手紙を読みながら唸る。
なんだろうと、円香ちゃんが読むのを待ってから、手紙を受け取って私も読んでみる。
「僕は転校続きで、あまり友達がいません」
手紙はそう始まっていた。出だしから重い内容だと分かってしまい、透ちゃんが唸るのも頷ける。
でも、その内容は、私にとっては特別なものだった。
「ね、ねえ。わたし、これが読みたいな……!」
そう言うと、円香ちゃんがあからさまに不満そうな表情を見せる。
「重くない?」
「で、でも、これってすごいことだって思って……」
でも、円香ちゃんの言うとおり、これを読めばラジオの雰囲気は一気に落ち込む。いつもの賑やかさは薄れてしまうだろう。
「いいじゃん、読もうよ」
賛同してくれたのは、透ちゃん。
「なんか、いいことした気分にならない?」
「……別にいいけど」
ため息をつきながらも、円香は許しを出してくれた。
「ぶー」
と、鳴き声が聞こえたので、声の主を見ると、机に突っ伏してこれでもかというほど頬を膨らませていた。
「まだ雛菜見てないー!」
◇◇◇
「それでは次のお便りです」
「ラジオネーム、きゅうりさんから……好きなの?」
「え、えと……。僕は転校続きで、友達があまりいません。そんな中で、ふと聞いたノクチルのラジオがきっかけで、この前のライブに行きました。周りは知らない人だらけだと思うと怖かったけれど、どうしても見たかったので頑張って行こうと思いました」
「わ~頑張ったね~」
「ね、頑張った」
「そ、それで、ライブを見ていて、ノクチルの四人と一緒にいるような、不思議な感覚になりました。まるで、皆さんと友達になったような感じで、とっても嬉しかったです。本当にありがとうございます。……だって」
「なんか、いいことした気分になるね」
「浅倉、それさっきも言ってたけど」
「だっけ?」
「で、でも、透ちゃんの言ってること、分かるよ!」
「雛菜も、幸せな人が増えたら嬉しいな~」
「まあ、いいけど」
「で、ライブさ、めっちゃ疲れるよね」
「浅倉」
「え、疲れない?」
「つ、疲れるけど、今はそういう話じゃなくて……」
「でも、楽しいよ~」
「うん、めっちゃ楽しい」
「会場が青色に染まってて~」
「う、海みたいだよね!」
「分かる~!」
「海……行きたいね」
「もう冬だけど?」
「人いないから、独占できるかもよ?」
「あは~それ楽しそう~」
「う、海で、屋外ライブとか……?」
「おー、すごそう」
◇◇◇
「あれ、プロデューサーまだ来てないの?」
横たわる雛菜ちゃんの頭を膝に載せて宿題を進めていると、透ちゃんがやってきた。透ちゃんと円香ちゃんは一限だけ多かったので、雛菜ちゃんと一緒に、先に事務所に来ていた。
ライブが終わって一段落して、気は緩めていないけれど、いつも通りの毎日が戻ってきたように思う。
「ち、ちょっと遅れるって連絡あったよ……!」
言うと、透ちゃんはスマートフォンを取り出す。
「ほんとだ」
隣で円香ちゃんが眉間にシワを寄せながらソファの横に鞄を置く。
円香ちゃんがソファに座ってすぐ、外から階段を駆け上がる音が聞こえてくる。
事務所のドアが勢いよく開いて、プロデューサーさんが駆け込むように入ってくる。
「いい加減時間を守ることを覚えません?」
そういう円香ちゃんも、かなりギリギリだったのだけれど。
「す、すまん……」
プロデューサーさんは息を切らしたまま、円香ちゃんに軽く一礼すると、今まで見たことがないくらいの、とびっきりの笑顔で言う。
「みんな、聞いてくれ!」
声の大きさに、少しだけ驚いてしまった。
そのせいもあったのかもしれない。プロデューサーさんの言葉を、すぐには理解できなかったのは。
「WING本選に、出場が決まったぞ!」
数秒……いや、十秒以上かもしれない。沈黙が続いた。
「あ、あれ……みんな、嬉しくない……のか?」
WINGという単語を、随分久しぶりに聞いた気がする。そういえばわたしたちノクチルの最初の目標は、そのWINGで優勝することだった気がする。ノクチルが結成されて、最初の頃にプロデューサーさんから言われた……ような気がする。
WINGの優勝が目的ならば、本選に出場するのはまず一歩進めたということだろうか。
「えっと、それってすごいやつ?」
「お、おう。めっちゃすごいやつ」
そのめっちゃすごいやつで、優勝を目指していたなんて、今まで意識したことはなかった。それはプロデューサーさんのせいであり、プロデューサーさんのおかげなのかもしれない。
わたしが相談したときでさえ、WINGの名前を出さなかったのだ。きっと、意図して意識しないようにしてくれていたのだろう。
「じゃあ、やばいじゃん」
「おう、やばいぞ」
「あは~雛菜は楽しければなんでもい~よ~」
WINGについては、当時調べた記憶がある。
結成して一年以内の、活動歴も一年以内の人間のみで結成されたユニット、または個人だけが出場資格がある、国内最大の新人オーディション。
年末にオーディションがあり、半年近く前から逐次審査が行われる。
知らない間に、審査をくぐり抜けていた。
そして、そんな大きなオーディションに、出場が決まっていた。
思い出せば思い出すほど、理解すればするほど、胸が高鳴る。手が震えて、足も震えてくる。
「ぴ……」
「ぴ?」
首を傾げるプロデューサーさん。視界の端では、耳を塞ぐ円香ちゃんの姿も目に入った。
そんなすごいことになっていたなんて、思いもしなかった。考えてもいなかった。
その感情は、全て口から溢れ出てくるのだ。
「びえええっ!?」
最初サブタイトルが「テスト」だったんですけど、ただのテスト投稿になりそうなんでちょっとだけ変えました。あまり印象変わらなくて泣きました