福丸小糸は失敗れない   作:300円

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補習勉強あと幽霊

 誕生日から二日。一つ歳をとったからといって、何かが変わるわけではない。

 

 そして同じように、学年が変わるなんてこともありえない。

 

 学校を休む日が増えて、出席日数が足りていないと言われてしまった。幸いなことに成績は問題ないらしく、形だけだけれど補習をすると言われた。

 

 学校としては当然の考えだと思ったので、申し訳なさそうに言われて少し困ってしまった。

 

 そうそう補習が必要な人がいるはずもなく、今日の補習は雛菜ちゃんと二人だけ。

 

 勉強の内容は、ものすごく圧縮した授業といった感じで、要点だけを伝えられて、簡単な小テストを繰り返しやっているだけ。

 

 わたしは予習ができているので、内容に関しては何も問題ないけれど、雛菜ちゃんは大丈夫だろうか。

 

 隣に座っているはずの雛菜ちゃんをみると、目が合った。

 というより、ずっとこっちを見ていたような気もする。

 

 そもそも遅刻が多い雛菜ちゃんは、わたしより多く補習があるのかと思いきや、そういうわけではないらしい。そのあたりの細かいことはよく分からないけれど。

 

「ねえ~雛菜もう飽きた~」

 

「で、でも、ちゃんと受けなきゃ進級できなくなっちゃうよ?」

 

 雛菜ちゃんとの距離はあまり遠くはなくて、こっそり話す分には先生に気づかれないくらいの声量で話せる。

 

「それもやだ~!」

 

 静かにジタバタと足を動かすなど、器用なことをしている。

 

「ら、来週は試験だから、そ、それまでの我慢だよ」

 

 学期の真ん中に、一つ試験がある。中間テストなどといわれているその試験は、直接進級に影響するものではないけれど、噂によると進級が危ういときの救済措置にもなるらしい。

 

「あは~それなら早く帰れる~」

 

「も、もう! ちゃんと勉強しないとまた補習だよ!」

 

 確かに試験期間中は半日だけしかないので、学校は早く終わる。けれども、試験の成績が悪ければ、結局今と同じように補習を受けなければならない。

 

 わたしだって、予習しているとはいえ、いつ忘れてしまうかという不安がいつもあるのに。

 でもきっと、雛菜ちゃんは上手くやる。わたしみたいにたくさん頑張らなくても、もっと効率が良くて、ちゃんと成績を維持する方法を知っている。そして、その方法が使える人間なのだ。

 

「じゃあ、透先輩の家行こ~?」

 

「べ、勉強会? いいよ!」

 

「ん~? じゃあそれで~!」

 

 勉強の話だったので、そういうことだと勝手に思ったけれど、どうやら違ったらしい。とはいえ、勉強会をするということで雛菜ちゃんが納得してくれるなら、それでもいいと思う。

 

 結局、効率がどうとかいう問題ではなくて、どういう名目で集まるかなのだから。

 

「おい、二人とも」

 

 意識の外から聞こえてきた声は、とても低くて、まるで唸っているかのよう。

 そもそもこの部屋には三人しかいない。わたしと、雛菜ちゃんと、補習を担当する先生。

 

「今は、補習中、なんだが?」

 

「やは~。せんせーすごい顔~」

 

 このあと、補習とは別に一時間ほど説教されてしまったのは言うまでもない。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 家とは違う環境で、周りの目もある。適度な緊張感というのは、集中するには最適な環境だとわたしは考える。

 

 そういう点では、透ちゃんの家は真逆かもしれない。家のようにリラックスできるし、周りの目は知っている人ばかり。

 

 集中できないから問題が解けないのかといわれれば、そんなことはない。そもそもいま解いている問題集だって、一度やったことのあるものだ。それでも間違えはするけれども。

 

「ね、この問題どう解くの?」

 

「日本語読めれば解けるんじゃない?」

 

「ふふ……現国だしそりゃそう」

 

 なんて透ちゃんの質問を受け流す円香ちゃんは、数学をやっている。

 

「ね、これは?」

 

「漢字知らないなら解けないから諦めて」

 

「えー」

 

 円香ちゃんはため息をつくと、机に置かれたスマートフォンを手に取る。

 

「ね、これ……」

 

「少しは自分で考えたら?」

 

 苛つきの混ざった声にも、透ちゃんは動じることなく両腕を組んでうーんと唸る。

 

 そして数秒、数回唸ってから、両手を上げる。

 

「さっぱり分からん」

 

 円香ちゃんは再びため息をつくと、スマートフォンを透ちゃんに突きつける

 

「自分で考えないからでしょ」

 

「……ふふ、教えてくれるやん」

 

 こういうやり取りに、目が行ってしまうから、集中できないのだ。分かっていても、気がついたら見ているのだから仕方ない。

 

「あ、雛菜ちゃんそこ間違ってるよ!」

 

「え~どこ~?」

 

 問題集に視線を戻すついでに、雛菜ちゃんの問題集を見てみると、計算間違いをしていた。

 

「ほ、ほらここ。直角じゃないから三平方の定理じゃないよ!」

 

「え~直角ぽくない~」

 

「で、でも、直角の記号がないから……」

 

 もしかすると、問題集のミスだったり……するはずがなかった。

 問題のすぐ隣には正弦定理の説明が書かれている。

 

「ほ、ほら、ここの式使えば解けるよ!」

 

 問題を確認して、当てはまる公式を指さす。

 しかし、どうやら雛菜ちゃんは納得できなかったようで、頬を膨らませて眉尻を上げている。

 

「覚えること多すぎ~!」

 

 叫んで、透ちゃんのベッドに飛び込んでしまう。

 

「ひ、雛菜ちゃん! ちゃんとやらないとまた補習だよ!」

 

 雛菜ちゃんは、透ちゃんのベッドシーツを体に巻いて隠れてしまう。

 

「それもや~だ~!」

 

 もしかしてわたしの教え方が良くなかったのだろうか。少しだけ偉そうに言ってしまったかもしれない。

 

「ね、小糸ちゃんこれ解ける?」

 

 謝ろうと、シーツに手を伸ばしたところを、透ちゃんに遮られた。

 

「こ、これは……こう、だよね」

 

 透ちゃんの教科は、いつの間にやら国語から物理に変わっていた。

 内容も簡単で、ただ公式を答えるだけだったので、ノートに書いてから見せる。

 

「おお~。じゃあ、これは?」

 

「それは今の応用で……」

 

 今の公式に数字を入れるだけだったのだが、代入する数字を確認する前に問題集が飛んでいってしまった。

 

 

「ぐぇ」

 

 

 カエルでも鳴いたかのような声を上げて、透ちゃんは仰け反った。

 

「なにしてんの」

 

 円香ちゃんは透ちゃんの襟口を勢いよく引っ張ると、わたしに目配せしてくる。

 

 ――雛菜も起こして。無理やり

 

 多分そう言っていた。違うかもしれない。まあいいや。どちらにしても、雛菜ちゃんを起こさないといけないのは変わらないし。

 

「ひ、雛菜ちゃん起きなきゃ……だめだよ!」

 

「あー!」

 

 シーツは、ほとんど抵抗なく引っ張ることができた。中から出てきた雛菜ちゃんは、宙に浮いたシーツに手を伸ばすけれども、もう届かない位置まで上がっていた。

 

「小糸ちゃんスパルタ~!」

 

「樋口スパルター」

 

 不満そうな雛菜ちゃんの声に続けて、苦しそうに叫ぶ透ちゃん。

 

 持ち上げたシーツは、重力と空気抵抗によって、縁をひらひらとたなびかせながら、ゆっくりと落ちてきた。

 

 

 持ち上げたあとのことを、考えていなかった。

 CMとかで、勢いよくやっているところを見て、自分もやってみたかった。それだけなのに、そのあとにこんな展開が待っているなんて、テレビは教えてくれなかった。

 

「わ、わ……っぷ」

 

 逃げる時間も、逃げる場所もなく、シーツはわたしの視界を奪うと、全身を包み込んでしまう。

 

 なんとかどかそうと、布を前に前に送っていくけれども、いつまで経っても終わりは来ない。

 

「あ、あれ、あれ?」

 

「ふふ、小糸ちゃんおばけみたい」

 

「小糸ちゃんみたいなおばけなら大歓迎~!」

 

 雛菜ちゃんの声とともに、後ろから何かが抱きついてきた。

 

「おばけ捕まえた~!」

 

 シーツごと抱きつかれてしまったので、これ以上手繰り寄せることができない。

 

「ひ、雛菜ちゃん離してぇ!」

 

「やだ~」

 

 一応引っ張ってみたけれど、ピンと張った布はびくともしない。

 

「小糸、だいじょ……大丈夫?」

 

「ま、円香ちゃん今笑ったでしょ! 早く助けてー!」

 

「笑ってないから……」

 

 嘘だ。声が震えている。

 

 結局、円香ちゃんが剥がすまで雛菜ちゃんは離れてくれなかった。

 

 やっとのことでシーツを取ると笑い転げる二人と、笑ってはいないけれど顔を真っ赤にして笑いをこらえる円香ちゃんがいた。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 結局こうなると、なんとなくそんな予感はあった。

 

 やはり、勉強会というのはただの口実でしかない。

 

「あー、円香先輩雛菜のポテト取ったー!」

 

 一度でも脱線すれば、もう戻ることはない。だから脱線する前に、少しでも多く詰め込む必要があった。もちろん、わたしにではなくて雛菜ちゃんに。

 

 幸いなことに、透ちゃんが休憩を提案するより前に、最低限の内容は詰め込めたので、いつも通りなら試験も問題ないだろう。

 

「は? 誰のとかないでしょ」

 

 そして今は、透ちゃん以外の三人がお皿に盛られたポテトを囲ってくつろいでいる。もちろん雛菜ちゃんのものではない。

 

「……ちゃんと考えてる?」

 

 透ちゃんはといえば、延長戦が開催されていた。主催は円香ちゃん。あまりにも考えていなさすぎる透ちゃんは、円香ちゃんに言われて居残りしている。

 

「うん……あ、違った」

 

「どっち」

 

「来週のこと考えてた」

 

 この場合の来週とは、平日のことではない。来週末……つまり、WINGのことを考えていたと。

 

「考えても仕方ないでしょ」

 

 円香ちゃんはため息をつくと、お皿へと手を伸ばして、雛菜ちゃんの手を掴んだ。

 

「それ、私のなんだけど?」

 

 雛菜ちゃんは笑顔を変えずに、腕に力を込める。けれども円香ちゃんの手は離れず、雛菜ちゃんの表情から、みるみるうちに笑顔が消えていく。

 

「円香先輩理不尽~! きらい~!」

 

「はいはい、どーも」

 

 そう言うと、円香ちゃんは手を離した。結局、なにをしたかったのだろうか?

 

 ようやくポテトにありついた雛菜ちゃんは、一口で食べきると、再び笑顔に戻る。

 

「雛菜は楽しみだよ~」

 

「わ、わたしも、楽しみ……かな!」

 

 本当は、少しだけ、ほんの少しだけ怖いけれど。

 いや、少しではない。ものすごく怖い。けれど、楽しみであることも本当のこと。この前のライブみたいに、キラキラしていてたくさんの人と、みんなと同じ時間を一緒に過ごせるのだと思うと、期待せずにはいられない。

 

「あ、そだ」

 

 透ちゃんはシャーペンを立てると、指揮棒のようにくるくると回し始めた。

 

「終わったらさ、あそこ行こうよ、レストラン」

 

 レストランと言われて、最初に思い浮かんだのはプロデューサーさんに連れて行ってもらったレストラン。

 

 外から見れば少し洒落た一軒家で、中に入れば場違い感しかない高級感のレストラン。いまでも、あのハンバーグの味は忘れられない。

 

「そんな金ないでしょ」

 

 やはり、あのレストランのようだ。

 メニューには値段が書いておらず、プロデューサーさんがいくら支払ったのかも知らないけれど、絶対高い。学生のわたしたちが払えるような金額ではないことは間違いない。

 

 

「私らっていくら稼いでるんだっけ?」

 

 

「知らない、そんなの」

 

 そういえば、一応曲を歌ったりテレビに出たり、ライブをしたりと、お金に繋がりそうなことはいろいろとしてきている。けれども、プロデューサーさんからお金の話は聞いたことがない。オーディションを受けたときから、たったの一度もだ。

 

「実はプロデューサーがくすねてたり」

 

「え、ええっ!?」

 

 プロデューサーさんに限ってそんなことはしない……と思う。人はお金が関わると大きく変わってしまうと聞いたことがある。多分どこかのテレビ番組だったと思うけれど。

 

「ごめん、冗談冗談」

 

「も、もう透ちゃん! 冗談でもそんなこと言っちゃだめだよ!」

 

 本気でそんなことを言うわけがないと、冷静になって気がついた。プレゼントを渡そうとしているような相手に、そんな不信感を抱いているとは思えない。

 

「知らないけど、知らないってことは、良くてゼロなんでしょ」

 

「あは~ゼロだ~」

 

 良くてゼロ、ということは、良くなければマイナスということになってしまう。事務所に入っていて、他のユニットもいるのだから、わたしたちが赤字だから即倒産なんてことにはならないだろうけれども、足を引っ張っているかもしれない、というのはどうにも息苦しい。

 

 赤字だとか、黒字だとか、よく聞く単語ではあるけれども、実際のところどうなったら黒字になるのだろうか?

 そういうことを、少し勉強してみてもいいかもしれない。

 

 でも……。

 

「お、お金の心配より、今は勉強だよ、透ちゃん!」

 

「うへーい。みんなスパルタだなー」

 

「えー、雛菜は透先輩側だよ~」

 

 

 ◇◇◇

 

 

 試験初日。試験期間中は午前中しか学校がないため、お昼前には下校できる。普段であれば下校したあとにみんなで集まって勉強会……なのだけれども、今回の試験期間は別の時間に割り当てようということになった。

 

 今週末はいよいよWING本選。一昨日の勉強会で一通りは試験範囲を網羅できているはずなので、この時間はレッスンに充てようと提案したら、特に反対もなく受け入れてもらえた。

 

「小糸、この前変えたとこ遅くなってる」

 

「あ……ご、ごめんね」

 

「あは~円香先輩きびし~んだ~」

 

 確かに円香ちゃんの言うとおり、先週ストレイライトの人たちに教わって変えた部分にまだ慣れていない。みんなは教わってすぐに綺麗にこなせているというのに。

 

 やはり、もっともっと努力しないといけないようだ。

 

「雛菜もテンポ揺れてる」

 

「……円香先輩きびしーんだー」

 

 雛菜ちゃんは頬を膨らませると透ちゃんに抱きつく。

 

「雛菜、透先輩に教えてもらうもんねー!」

 

「その浅倉も遅れてるんだけど?」

 

 どうやら、円香ちゃんからすればみんなはまだまだ及第点に達していないらしい。

 

「え、樋口と合ってるはずだけど」

 

「…………そういうことなんでしょ。大丈夫なの、これ」

 

 つまり、みんなまだできていない部分があるようだ。わたしからしてみればみんなすごく上手にできているし、確かに若干のズレはあるかもしれないけれど、指摘するほどではないように思える。

 

 それはあくまでわたしの考えであって、わたしたちの考えではない。みんなで決めたことなのだから、みんなが納得できる形にしなければ。

 

「まあまあ、一度休憩したらどうだ?」

 

 誰一人として大丈夫だと言い切れない中で、休憩を提案してきたのはいつの間にかレッスン場にやってきていたプロデューサーさん。

 プロデューさんは両手に四本のペットボトルを掴んで、軽く左右に振っている。

 

「俺は今のも好きだけどな」

 

「甘やかさないでもらえますか? 図に乗る人が居るので」

 

 即座に円香ちゃんからお叱りを受けてしまう。

 

「ぷ、プロデューサーさん。それ、もらいます」

 

 プロデューサーさんが持っているペットボトルを受け取って、みんなに配っていく。

 配り終わってすぐに、自分の分を開けて飲む。中に入っている水は、ただの水だけれども、冷たい水は火照った体を冷ましてくれる。

 

「いやいや、本音だぞ。みんなが踊るところを見てると、俺も一緒に踊りたくなってくるもんな」

 

「ふふ、いいよ。踊ろ」

 

 透ちゃんの返事が予想外だったのか、プロデューサーさんは一瞬だけきょとんとした表情を見せてから、苦笑いで応える。

 

「あはは、邪魔になっちゃうから遠慮しておくよ」

 

 きっとそれは、プロデューサーさんなりの気遣いだったのだと思う。WINGが近いことや、わたしたちがレッスンを頑張っていることを知っているから、その邪魔になってはいけないと、そういう考えだったのだと思う。

 

 でも、その瞬間、間違いなくプロデューサーさんの一言が、この場の空気を大きく変えてしまった。

 

「邪魔だと思う?」

 

 だから、その透ちゃんの一言に、びっくりしてしまった。

 とても真剣で、重くて、少しだけ怖かったから。

 

「そりゃあ、素人が一緒に踊ったら邪魔だろうな」

 

 そんな変化に気がついていないのか、プロデューサーさんはあははと笑いながら応えている。

 とてもではないけれど、笑っていられるような雰囲気ではなかった。少なくとも、わたしにとってはそうだった。

 

「…………そっか」

 

 そう言うと透ちゃんは肩を落として水を飲む。すると、それを見た雛菜ちゃんが、ペットボトルの蓋を閉めて笑う。

 

「ん~雛菜、今日はもう十分かなって思う~!」

 

 誰の賛同を得るよりも先に、雛菜ちゃんはペットボトルを床に置いて、透ちゃんの手を取った。

 

「透先輩~帰りにフラッペ飲も~」

 

「あー、いいね」

 

 雛菜ちゃんは透ちゃんの手を引っ張って、レッスン場を出て行こうとする。

 

「え、まだ時間は……」

 

 プロデューサーさんの言葉を遮るように、円香ちゃんがわざとらしくため息をついた。

 

「そういうことなんで、失礼します」

 

 そして円香ちゃんもレッスン場を出て行って、残されたのはわたしとプロデューサーさんだけ。

 つい数十秒前まで賑やかだったレッスン場は、外の車の音がうるさく感じるほど静かになってしまった。

 

「あ、あれ……」

 

 今の透ちゃんの反応で、確信した。

 

 透ちゃんは、プロデューサーさんと一緒にやりたいのだ。ノクチルという四人のユニットとしてアイドルをしたいのではなく、プロデューサーさんも入れた五人で……いや、もしかすると、ファンの人も含めたもっと多くの人たちと一緒にアイドルをしたいのだ。

 

 だから、わたしの誕生日プレゼントにノクチルのグッズを選んだ。だからそのグッズをプロデューサーさんにも渡そうとした。

 けれど、プロデューサーさんは違う。そう言われてしまったから。

 

 ――でも、それって……わたしと同じじゃないかな

 

 わたしとお母さんとの、少しだけ前までの関係に、少しだけ似ているような気がした。

 ただ、互いに噛み合っていなかっただけだと、互いに理解し合えていないだけではないかと、そう思った。

 

 それを、直接伝えていいものなのだろうか。

 

 わたしがそうだと言ったところで、それでプロデューサーさんの気持ちを変えられるとは思えない。プロデューサーさんに、どうにかしてそう思ってもらうしかない。

 

「あ、あの、プロデューサーさん」

 

 わたしの声に振り向いたプロデューサーさんの表情は、どこか歪んでいて、少しだけ怖かった。

 

「た、多分なんですけど、透ちゃんは一緒にやりたい……んだと、お、思います」

 

 プロデューサーさんは、歪んだままの表情で苦笑いをして応える。

 

「でも、もうすぐWINGだし、邪魔するわけには……」

 

 その表情は、少しだけ狂っているように見えた。それが怖くて、逃げるように一言、伝えてからその場を去ることにした。

 

「そ、その問題って……本当に合ってるんでしょうか……?」




洗剤のCMであるような布の動きすごいですよね
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