福丸小糸は失敗れない   作:300円

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ぜ~んぶまとめて

「お姉ちゃん大変! 荒れてる!」

 

 真っ先に思ったことは、うるさいなあということ。優勝できなかったとはいえ、昨日は朝から晩までライブの準備と本番だったのだから、疲れているのだ。

 

 もうすこし静かにしてもらいたいなあと思いながら、紗織の表情に焦点を合わせて、ぎょっとする。

 

 紗織はわたしの肩を前後に激しく揺さぶると、悲痛な声で訴える。

 

「早く起きて~!」

 

 紗織がここまで焦っているのを、初めて見た気がする。というより、紗織が焦っているのを今まで見たことがなかったかもしれない。

 

「わ、分かったからちょっと待って!」

 

 紗織を引っ剥がしてからベッドを出て、服を着替える。その間もずっと紗織は落ち着きがなくて、それほど慌てているのだから、余程大変なことなのだろうと息を呑む。着替え終わるとすぐさま紗織はスマートフォンをこちらに向ける。

 

「ほら、これ!」

 

 画面を見ると、よく見るツイスタの画面だった。投稿が流れるスピードが早くて、すべて読めるわけではないけれども、かい摘んで読んでみても、なんとなく状況は理解できるものだった。

 

 

『ノクチルが一位じゃないのはおかしい』

 

『あの状況で良判断をしたノクチルの恩を運営は仇で返した』

 

『買収なんじゃねえの?』

 

 

 それが昨日のWING決勝に対するコメントだということは、すぐに理解できた。そして、それがわたしたちノクチルに対する擁護だということも。

 

 けれど、違うのだ。

 

 それでは駄目なのだ。わたしは昨日の結果を飲み込めた。飲み込めたからこそ今日をこうして迎えられているし、落ち込むよりも前を向こうと思えている。

 

 だから、その事実を否定なんてされたくない。それに、そんなことをして、待っている未来は明るくない。わたしがなりたいのは、ひとりにならない場所を作れる人間であって、今の状況は逆に肩身が狭いひとを作ってしまう状況。だから、なんとかしたいと、そう思った。

 

 けれど、わたし一人ではなにも思いつかない。一人で分からないなら、助けを求めればいい。相談すればいい。この半年間で学んできたことだ。

 

「紗織、ありがとう。わたし、行ってくるね!」

 

 わざわざ起こしてくれた紗織に感謝しながら、わたしは駆け足で事務所へと向かった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

「正直言って、何をしても裏目にしか出ない」

 

 事務所に着くと、もうみんな揃っていた。今日は遊ぶ約束はしていないし、休日に事務所を待ち合わせ場所にする必要もない。もちろんレッスンもない。

 

 理由はどうあれ、みんな揃っていたのは都合が良かった。すぐにプロデューサーさんに相談して返ってきた返答がこれだ。

 

 プロデューサーさんがこういった状況に慣れているかは分からないけれど、少なくともプロデューサーさんの方が長く生きていて、わたしたちより多くの経験を積んでいる。

 

 答えを出してくれなくても、何かきっかけをくれるかもしれないと信じていたこともあり、その返答に驚きを隠せなかった。

 

「で、でも……っ!」

 

「ああ、なにかしたいよな。だから一緒に考えよう」

 

 プロデューサーさんの机の周りに集まっていたわたしたちだけれど、プロデューサーさんの言葉を受けて、まず透ちゃんが動いた。といっても、ただソファーに座っただけ。

 

 続くように、円香ちゃんも雛菜ちゃんもソファーに座ったので、わたしも同じように座ることにした。

 

「みんな面白いのかなー?」

 

 真っ先に声を上げたのは、雛菜ちゃん。しかしその表情は納得がいかないといった様子。

 

「面白がってるなら、たちが悪すぎ」

 

「多分、みんなのためだと思ってるんだよ。本人たちは、良かれと思ってる」

 

「そっちのがたち悪いじゃん」

 

 悪意はないからこそ、咎められない。単純にやめてくれと言っても、誰かに言わされたと思ってしまうかもしれない。

 

「えー、じゃあこの人たち悪くないってことー?」

 

「良い悪いというより、ノクチルの……俺たちの意思には沿っていないということかな。それを理解してもらえれば良いんだけど……」

 

 つまり、わたしたちが今この状況にどう思っていて、どうしてほしいのかを伝えればいい。と、ことはそう簡単ではない。

 

「多分、それを説明したところで、業界の圧力だとか、事務所が言わせただとか言われちゃうだろうな。それは避けたい」

 

 もちろん、他人に迷惑をかけるのは良くない。だからこそ、プロデューサーさんは何をしても裏目に出ると言っていたのだ。

 

 なんとか、わたしたちの気持ちを、わたしたちの考えを、誤解されずに伝える方法……。

 

「そんなこと、できないのかも」

 

 つい、口から溢れてしまった。

 でもそれは、諦めの言葉ではない。今ここにいる四人ならば、分かってくれるはず。顔を上げてみても、みんなはわたしの言葉を待っていてくれている。

 

「で、できないから、何をしても一緒なら……や、やったほうが良いって思うんです……けど……」

 

「具体的には?」

 

 しまった。そこは何も考えていなかった。円香ちゃんの質問に、何か応えなければと思って、咄嗟に出た答えは。

 

「な、生放送……緊急生放送……とか?」

 

 あまりにもありきたりすぎると、言ってから自分でも思った。だから、透ちゃんの笑い声が聞こえてきても、そうだよねと納得するしかなかった。

 

「いいじゃん、ドッキリみたいで」

 

 でも、続く言葉は否定的ではなかった。

 

「仕掛けられる側のすることじゃない」

 

 そんな円香ちゃんも、楽しそうに笑っていた。

 

「なにそれ~楽しそ~!」

 

 そして自然と、みんなの視線はプロデューサーさんへと向けられる。結局、プロデューサーさんが許可を出さない限りは実現しないことだから。

 

 プロデューサーさんは、いたずらっぽく、子供のような笑みを浮かべると、立ち上がる。

 

「よし、じゃあ準備するか!」

 

 

 ◇◇◇

 

 

「あ、あーマイクテスト!」

 

 生放送が決まって、各所に連絡を送ってから四時間後。わたしたちはレッスン場に集まっていた。

 

 その間も、特に何を話すかという話はなかった。ただただ他愛のない話をして、時間までいつも通り過ごしていただけだ。

 

「小糸、もう始まってる」

 

「ぴええっ!?」

 

 そういえば、そんなことをプロデューサーさんが言っていたような気もする。いや、でも、マイクテストは大事だから。うん、ちゃんとしておかないと。

 

「ふふ、面白いじゃん」

 

 レッスン場の壁を背にして、目の前にはカメラと、大きなディスプレイが斜めに立てかけられている。

 

 その画面には、数分前からたくさんのコメントが流れている。

 

「あーえと、ノクチル緊急生放送~」

 

「わー!」

 

 透ちゃんがタイトルコールのような何かをすると、雛菜ちゃんが拍手で応えた。

 

「えー、何言おう?」

 

 これは駄目だと即座に判断した。コメントで笑いの声が流れてくるよりも先に手を打つことにする。

 

「え、えっと、ネットの反応、見てます。わたしたちも……悔しいです」

 

 WINGに優勝できなくて、わたしは悔しいけれど、他のみんなは分からない。そう思ったけれど、そもそも違うならば今日ここに集まっていないはずだと考えた。

 

 

「で、でも、これで終わりじゃないって、みんなが教えてくれたんです……! まだまだ先があって、もっとたくさんの景色が見られるって! 間違っても、上手く行かなくてもそれは必要なことだって思えたんです! だから、今のこの時間を、嘘だって言われたくないんです……!」

 

 

「……全部言うじゃん」

 

 勢いに任せて出てきた言葉は、もう覚えていない。何を言ったか覚えていないけれど、この気持ちに嘘はないのだから、間違ったことは言っていないはずだ。

 

「ご、ごめんね……」

 

「んいや、いい、いい」

 

 透ちゃんは言うと、雛菜ちゃんを跨いでわたしの頭を撫でてくる。それも、ものすごい雑だ。

 

「と、透ちゃん……!」

 

 これが全国に流れていると思っただけで、顔が熱くなる。

 

 逃げても追ってくる手は、間に入ってきた雛菜ちゃんによって止められた。

 

「雛菜もやって~!」

 

 透ちゃんの腕の下から頭を入れることで、半ば強制的に頭を撫でさせている。

 

「よしよし」

 

 透ちゃんもそれでいいと思ったのか分からないけれど、標的はわたしから雛菜ちゃんに移っていた。

 

「……はあ。だから、他の悪口言うのはやめてくださいってことです」

 

 円香ちゃんはカメラに視線を戻すと頭を下げる。

 

 間の二人がいつの間にか撫で合いに発展しているけれども、無視してわたしも頭を下げる。

 すると、コメントが目に入る。

 

 

『こんなこと言わせるとか事務所クソだな』

 

 

「い、言わされてるわけじゃないです!」

 

 

 咄嗟に出てしまった。

 

「小糸、落ち着いて。……でも、小糸の言う通りです。じゃなきゃ、真ん中の二人がおかしいでしょ」

 

 わたしが叫んだことで、一瞬だけ動きが止まったものの、すぐに撫で合いを再開してしまった。

 

 その後、数秒だけ沈黙が続くと、コメントは笑いで溢れていた。そうだろう、真面目な話を両端でしているなか、真ん中二人は謎の撫で合いをしているのだから。正直わたしも何をしているのかよく分からない。

 

 そんななか、またしても一つのコメントが目に入った。

 

『海行った話気になる』

 

 そういえば昨日突発で行ったトークで、その話題を出した気がする。海に行った理由は、あまり他人に言いふらすような内容ではない。

 

「え、えっと、海は……ちょっとした反省会みたいな感じだったんです」

 

 それで終わらせてしまおうと、そう思った。そもそも、このコメントに返答する必要があるのだろうか?

 

 気になってプロデューサーさんを見てみるけれども、コクリと頷くだけだ。

 

「……ご飯の方が気になるって」

 

「え、ええっ!?」

 

 コメントを見ると、たしかにご飯についての詳細を求めるコメントが多かった。

 

 ああ、そういえばトークではご飯が美味しかったとか、お味噌汁がどうとかいう話をしていたかもしれない。

 

「あ、え、えっと、たまたま見つけた宿に泊まって、食べたご飯なんですけど……」

 

「あとはねー、お刺身とか美味しかった~!」

 

 いつの間に撫で合いが終わったのか、雛菜ちゃんが割り込んできた。

 

「わかる、醤油が神」

 

 そこで、本題から大きく逸れていることに気がついた。今日の生放送の目的は、みんなの誤解を解くことで、思い出話をするためではない。

 

 なんとか話を戻さなければとプロデューサーさんに助けを求めるけれども、返ってきたのは親指を立てた右拳だけ。

 

 結局、そのままただの雑談生放送として二時間もの間、コメントを読みながら色々と回答していくだけの時間になってしまった。

 

 終わってからようやく、これで良かったのかもしれないと思えた。

 

 透ちゃんの言ったとおり、言いたいことはわたしが全て言ってしまったのだ。あとは、それがわたしたちの声だと信じてもらえればいい。残りの時間は、その証明。

 

 これがわたしたちの生放送で、わたしたちが自由にする時間だったということ。その中でのわたしたちの言葉は、すべてが本当のはずだ。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 生放送の翌日、珍しく登校中に雛菜ちゃんと合流できたと思ったら、校門では透ちゃんと円香ちゃんが待っていた。行き交う人たちが声をかけようか迷いつつ、なんども二人を見ながら通り過ぎていく。

 

「お、おはよう!」

 

「おはよー」

 

「おはよ」

 

「おはよ~」

 

 挨拶を交わすけれども、これが異常であることには変わりない。雛菜ちゃんが起きてきたのはまだたまにあることだけれども、二人が校門で待っている理由にはならない。

 

 透ちゃんが何かを言おうと口を開いて、止まる。

 

「あれ、なんだっけ」

 

「集会」

 

 円香ちゃんが短く返すと、透ちゃんが再び口を開けて頷く。

 

「おーそれそれ。先生がさ、今日の集会でなんか話せって」

 

「な、何かって?」

 

 何かと言われても、そうそう誰かに何かを語れるものは持っていない。学校として、何かを喋って欲しいのかもしれないけれど、お題の一つくらいくれてもいいではないか。

 

 しかし、わたしの問には透ちゃんは首を傾げ、円香ちゃんは首を横に振るだけ。なんてひどい学校だ。

 

「なんでもいーのー?」

 

「いいんじゃない。なんかだし」

 

 雛菜ちゃんのなんでもに、嫌な予感がした。しかし先に円香ちゃんが許可を出してしまうものだから、雛菜ちゃんは続けてしまうのだ。

 

「じゃあ、今度どこ遊びに行くか話そ~」

 

「なにそれ、おもしろ」

 

 それに、透ちゃんが面白がって乗っかる。

 

「え、えっ……!?」

 

 そんな予想の斜め上どころか、線で繋がってすらいないところから出てきた意見に、頭がついていくはずもなく、混乱してしまう。

 

「なんかだし」

 

 一度面白がった円香ちゃんが止めるはずもなく、あれよあれよと話が進んでしまう。

 

 気づいたときには、もう遅い。

 

 もちろん、このあと集会でただの雑談を繰り広げて、先生が慌てて止めるのを透ちゃんと雛菜ちゃんが笑い転げて、わたしがたくさん謝ることで集会は終わった。

 

 そんなときでも、会場には笑いが溢れていた。




どうも300円と申します。
初めましての方は初めまして。そうでない方はご無沙汰しております。
まず最初に。
本当にチラ裏レベルのお話なので、暇な人だけどうぞ。
あと、感想いただけるとめっちゃ喜びます。良かったところ気に入らなかったところなんでもください!!
なんでも!!感想!!!ください!!!(飢え

1年とちょっとだと思っていたら、投稿を始めてからはまだ1年経ってないんですね。1年って長いなあ……。
そもそも、僕がこのお話を書き始めようと思ったのは、小糸のWINGを優勝してからです。
先に断っておくと、これは当時の妄想ですし、個人の解釈があっていいと思っています。むしろ色々みなさんの考えを聞きたいとも思っています。
真っ先に思ったのは「えっ、こいつ絶対このあと苦しむじゃん」ということでした。そのときは特に具体的な何かがあったわけではなくて、直感的にそう思いました。

WINGを優勝してしまった小糸は、失敗することを知らないのです。
失敗することに怯えながらこれからも生きていかなければならない。常に崖っぷちから逃げるように走り続けなくてはならない、そう思いました。
なのでこの作品では、失敗できない小糸が失敗を受け入れられるようになって欲しいと思って書き始めました。最終的にどうだったかはみなさんのご想像にお任せします。
余談ですが、WINGをプレイした次の日に小糸の母親についてアレコレと考え、文字を起こしたものがpixivさんにあったりします。

で、大まかな道筋を立てていくわけですが、これはどう考えても数万文字で終わらないぞと。
であれば、連載という形にして徐々に展開、同時進行で話を組み立てていこうと思いました。
連載は初めてで、続けるということがとにかく苦手は僕ができるのか……? という不安が……不安だけしかありませんでした。
でも、エタるのだけはぜっっっったいに嫌だったので、反響がどうとか、話の面白さがどうとかは気にせずに、とにかく完結させることだけを目標にしました。
結果として、20万文字を超える文字を書いたのだからよく頑張った。褒めて!もっと褒めて!
実は、1ヶ月ほどお休みをもらっていた時期がありました。あれ、実はまったく休んでいなくて、3章終わった時点で4章のプロットが真っ白だったんですね。でも4章って小糸というより、ノクチルにとってとても大事な話だったので、一度連載を止めて、じっくり練ることにしました。

今回連載をやってみて、色々と勉強になりました。
連載を続けるのは、モチベを保つのはすごく難しいだとか、次話への繋がりを意識して書かないといけないとか、純粋に時間がめっちゃ持ってかれるとか……。
でもその分、○文字を超えた時とかはテンション上がりますし、嬉しいです。
小説において文字数は大して重要じゃないと思ってはいるんですけど、僕にはこれしかないとも思っているので(あと定量的なので)、文字数とみなさまの評価、コメントでモチベーションを維持していました。本当にありがとうございます。

長くなってしまいましたが、ここまで読んでくださったみなさま、本当にありがとうございます。いつか本にして出せたらいいななんて思っていますので、その時はよろしくお願いします。

さて、次ですが、色々と考えてはいます。やるかどうかはまだ分かりません。
・オリジナルの何か
・今作のモブのその後みたいな話
・ひたすらゲームする
さて、どうしようかな~~~~
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