一瞬だけ、追いついた
「それで、どうだったの?」
いつものように、ベンチに並んでお弁当を食べていると、円香ちゃんが尋ねる。
「え、何が?」
「浅倉じゃなくて、小糸」
面接の話。
言わなくとも、円香ちゃんの瞳がそう語っている。
昨日の面接から一夜明けて、嬉しくて昂ぶっていた感情が落ち着くにつれて現実感がなくなっていった。
昨日はあんなにもドキドキしてなかなか寝付けなかったというのに、今日起きてからは違う意味でドキドキしっぱなし。
「え、えと、受かった……と思うんだけど」
現実感がなくなってくると、本当に合格をもらったのかが不安になってくる。実は一次面接が合格だったとか、実は勘違いだったとかだと恥ずかしい。
「レッスンの予定は今日中に連絡するって言ってたけど……」
ポケットからスマートフォンを取り出して着信履歴を確認してみるが、新着はゼロ。
やはり不安で、休み時間が来る度に確認している。
「え、もうそんな話してるんだ、早いね」
「雛菜まだなーんにも連絡ないよ~」
意外そうに言う透ちゃんに、思わず首を傾げる。
「あ、あれ? プロデューサーさんはみんなと一緒にできるようにって言ってたけど……」
直後に、円香ちゃんの眉間にしわが寄る。
「……」
何を想像したのかは分からないけれども、呆れのような、いらつきのような、そんなとてもではないがポジティブとはいえないため息が漏れている。
プロデューサーさんの話からして、もうみんなはレッスンを始めようとしているのだと思っていた。
みんな受かったのが昨日の今日なのだから、まだこれから予定を決めるつもりと言われても違和感はないけれど。
でも、一つ二つ程度の質問で採用したところから考えると、もしかすると結構適当なのかもしれない。
「で、でも今日中には連絡するって――」
言葉を遮るように、まるでいまの話を聞いていたかのように、スマートフォンが震える。
「ぴゃあっ」
びっくりして思わず落しそうになった。
画面を見ると、プロデューサーさんからメールが届いていた。
「今日の一七時にみんなで事務所に来てほしい。用事があればそっちを優先して」
と、あまり可愛げのないシンプルな文章。
みんなに伝えなきゃと、顔を上げると同時に右から軽快な音楽が聞こえてくる。
「あ、プロデューサーからだ」
「マナーにしときなって」
透ちゃんのスマートフォンのものだった。校則でスマートフォンの持ち込みは許可されているけれども、音が鳴らないようにしておく必要がある。きっと透ちゃんのことだろうから、休み時間だけマナーモードを解除するなんてことはしていない。つまり、午前の授業中にメールを受信していたら先生からお叱りをもらっていたはず。
「あー、忘れてたわ」
あまり反省の色を見せない透ちゃんの横では、円香ちゃんがスマートフォンの画面を見ながら顔をしかめている。
「やは~、みんなで、だって~」
やはり、みんなに同じメールが届いている様子。
みんなで一緒に。
その姿を想像すると、なんだか安心できる。
アイドルとして今後どうしていくのかという課題をプロデューサーさんからもらっているものの、同時にすぐに出るものでもないことも知っている。
今は何よりもみんなで一緒にいられることが嬉しい。
「小糸ちゃん、嬉しそうだね」
「ぴゃあ!」
顔に出てしまっていただろうか。出てしまっていたのだろう。
恥ずかしくて俯くと、雛菜ちゃんの顔が視界の端に入る。
「小糸ちゃん顔真っ赤にしてニヤついてる~カワイ~」
「そ、そんなんじゃないもん!」
ニヤけていたのは嬉しかったからだなんて、それこそ恥ずかしくて言えない。
「ほんとだ、かわいい」
嬉しいのは本当だし、みんながこうやって笑っていてくれるのもちょっとだけ嬉しい。
「……」
でも、笑われるのは、今でもちょっと恥ずかしい。
「ほら、早く食べないとお昼休み終わっちゃうよ!」