とある組織の暗躍によって、あの出来事は少し変わった展開となる。結末は、その『目』で確かめろ!
「……フーちゃん……フーちゃん……フーちゃん!」
私は暗くなった街中でその名前を呼びながら走り続けていた。何度転んでも、何度人にぶつかっても、起き上がって走り続ける。息も切れそうになりながら。
人の波を抜けたところで大きなフュージョンが見えたので、建物沿いに左へ曲がる。
その時上からプリキュアの子が降ってくるのが見えた。
その子は再び飛び上がり、叫んだ。
「プリキュア・スパークリングシャワー!」
それと同時に多くの音符の形をした弾がフュージョンを覆い、囲むように丸くなった。が、フュージョンはそれを飲み込み、さらに大きくなった。
「ダメだわ、全然通じない」
「私たちのパワーを吸収して、どんどん大きくなってる」
その言葉を聞いて、私の脳裏にあるシーンが浮かんだ。
(いっぱい食べれば大きくなれるよ)
私がフーちゃんに言った言葉だ。きっとフーちゃんはその言葉を真に受けてこうしているんだ。じゃあ、つまり……。
「……私のせい……?」
その時、さっき出会ったプリキュアのハッピーが走ってきた。
「……あ、あゆみちゃん」
私に気がついたハッピーは私の元に駆け寄ってきた。
それに続くように他の四人もやって来た。
「あなたのフュージョンはどこ?」
「あの塔の上にいるのが、そうなんですか?」
そう言われ、私は思わず黙ってしまう。
そして塔の上にいるフーちゃんが頭をよぎり、五人を振り切って走ろうとすると、ハッピーが声をかけてきた。
「あゆみちゃん、私たちに言いたいことあるんじゃない? だから来たんでしょ、あゆみちゃん」
その言葉に、私はもう何もかもが抑えられなくなって、涙を流しながらこう言った。
「……お願い……助けて下さい。フーちゃんを止めて。私全然そんなつもりなかったのに……全部無くなっちゃえば良いなんて、本気で言ったんじゃないのに……フーちゃんは私の望みを叶えるって、誤解なのに……」
そんな私の肩にハッピーは手を置いて、こう言った。
「よし、じゃあ本当のことフーちゃんに言おう」
「そんなの、無理……。だって何度も呼びかけたのに、全然届かないみたいで……」
私がそう言うと、他のプリキュアの人たちが次々に言い始めた。
「だったら、もっとおっきい声で言ったらええやん」
「伝えたいことは、ちゃんと言わないと伝わらないよ」
……やっぱり、プリキュアは凄いよ。そんなことをサラッと言えるなんて。私には、プリキュアのような強さも何も無いのに……。
「私は、あなたたちとは違うんです。あなたたちはプリキュアだから、強いから……」
「それは違うわ」
私の声に反応するように、また別の声が聞こえてきた。右を向くと、さらに別のプリキュアがやって来るのが見えた。
「私たちは強いからプリキュアになったんじゃない。大切なものを守りたい、だからプリキュアになったの」
「フュージョンは、あなたの大切な友達なんでしょ?」
そう言われ、私の頭の中にフーちゃんとの楽しい思い出がフラッシュバックしてきた。
フーちゃんが私のことを友達と言ってくれたこと、一緒にアイスを食べたこと、横浜マリンタワーを見たこと、一緒に歩いたこと……。
思い出すにつれ、だんだん涙が溢れてきた。
「友達が悪い事したり、間違った事をしたら、それを止めるのも友達だと思うよ」
「私、フーちゃんに言いたい……。私の気持ちを……ちゃんと伝えたい……」
私の言葉に、ハッピーが手を大きく振りながら言った。
「伝えに行こう。私たちが手伝うよ。ねぇ?」
ハッピーの言葉に、皆が頷く。
「一緒に頑張ろう!」
その言葉に、私はもう頼ることしか出来なかった。
そして、プリキュアの皆に深く頭を下げてお願いした。
「……よ、よろしくお願いしま……」
(なんなら、私が手伝ってあげようか?)
「……え?」
*
どこからか女の子の声が聞こえてきた。勿論全然知らない声だ。
私は辺りをキョロキョロと見回したが、私とプリキュアの皆以外誰もいない。
「あゆみちゃん、どうしたの?」
「今、どっからか女の子の声が……」
「え? 私は聞こえなかったけど……」
「……え?」
他の皆も聞こえてないみたいだった。それじゃあ気のせい……?
(気のせいじゃないよ)
やっぱり聞こえる。しかも何だか私の心の声が聞こえてるみたいだ。
何度辺りを見回してもそれらしい子は見当たらない。
(あ、今私の姿は君からは見えないよ。君の脳内に直接語りかけてるから。だから他の子は私の声が聞こえない)
脳内に……直接? そんな、超能力でもあるまいし……。でも、確かに周りにはいないし……。
「どうかしたの?」
「なんか今、女の子の声が聞こえるんです。というより、脳に直接届いてるみたいな感じで……」
あぁもう! 何を言ってるんだ私は。そんなこと言ったって伝わるはずないのに……。
プリキュアの皆も首を傾げている。けど、こんなことどう説明したらいいの?
私が困っていると、再び声が聞こえてきた。
(悪いんだけど、私も時間が無いの。だから要件だけさっさと済ませたいんだ。君、フーちゃんって子に気持ちを伝えたいんだよね? 私は今君にやってるみたいに、君の気持ちをその子に伝えることが出来るんだ)
よく分からないが、とりあえずこの人は私の気持ちをフーちゃんに伝えることが出来るらしい。やっぱり超能力ってやつなのかな……?
とりあえず私はプリキュアの皆に今起きたことを話してみることにした。
「……ふ〜ん、その子が、ねぇ」
「はい、私もよくわからないんですが……」
やはり皆困惑しているようだった。まぁ私が一番困惑してるんだけど……。
「……あゆみちゃんはどうしたいの?」
「え……」
いきなりハッピーに聞かれ、少し迷ってしまう。こんな正体も分からないような人を信じてもいいのだろうか。
けど、実際に私にだけ言葉が届いてるし、もしかしたら出来るのかもしれない。だったら……!
「……私は、この人を信じてもいいと思う。この人に頼んでみます」
(ふふ、そう言ってもらえて嬉しいなぁ)
私の声に反応して、また声が聞こえた。そして、さらに言葉が続いた。
(それじゃあ、フーちゃんに言いたいことを強く思って)
私はそう言われ、フーちゃんに伝えたいことを心の中で強く思った。
(……フーちゃん、私の為にこんなことさせちゃってごめんね。でももういいの。悪いのは全部私。それに、もう願いは叶ったんだ。フーちゃん、私と一緒にお喋りしてくれたよね。私、そんな友達が欲しかったの。それが私の望みなの。フーちゃん、友達になってくれてありがとう)
「……あゆみ」
私がそう願った直後、フーちゃんの声が聞こえた。
そして私は察した。このフーちゃんの声もさっきの子が伝えてくれているんだと。
「あゆみ、大丈夫か? 怖くないか? 寂しくないか?」
その声に答えるように私も心の中で言葉を紡ぐ。
(大丈夫。だって、私にはフーちゃんがいるから。
フーちゃん、大好き!)
そして次の瞬間、塔の上が激しく輝き、街中の闇が取り払われていった。
「……あゆみ」
「フーちゃん!」
街が元に戻った直後、私の目の前にフーちゃんが現れた。
私は急いでフーちゃんの元に駆け寄り、抱きかかえた。
「フーちゃん……大好き!」
お互い顔が見える状態でもう一度気持ちを伝える。
するとフーちゃんも笑い返してくれた。
よかった。これで無事街も救われて、フーちゃんとも和解できて、これで全部……。
「リセット……リセット……!」
突如後ろからフュージョンが現れ、私とフーちゃんを飲み込もうと襲ってきた。
「リセットはしない。あゆみの望みはもう叶った」
「リセット‼︎」
フーちゃんの声もお構い無しに、そいつは私達をまとめて飲み込もうとしてくる。
あぁ、せっかくフーちゃんに伝えられたのに、ここで終わるんだ。このまま……。
「ふ! ……はぁ!」
私達とフュージョンの間にハッピーが入ってきて、私達を守る。
直後、他の四人もやって来て結界のようなものを展開する。
でも、敵が強すぎて五人だけじゃ力尽きそう……。
やばいと思った瞬間、フーちゃんが光の粒になり、プリキュアに降りかかる。
「フーちゃん!」
私がそう叫ぶと、フーちゃんの声が聞こえてきた。
「プリキュア……あゆみを守って!」
「ハッピーエンドを……邪魔しちゃダメ!」
ハッピーがそう叫ぶと同時に、プリキュアから光の柱が立ち上る。
それと同時に大きな爆発音が鳴る。
「はあぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」
プリキュアの声と同時に再び爆発音が鳴り、敵が消え去った。
プリキュアの皆は喜んでいるが、私は一つ気がかりなことがある。
フーちゃん、あのまま消えちゃた。もう、会えないのだろうか。
「フーちゃん……」
私がそう呟いた直後、フーちゃんの声が聞こえてきた。
(フーちゃんは、あゆみが住むこの街にいる。ずーっとあゆみの傍にいる)
「ありがとうフーちゃん……ありがとう……!」
(あゆみとは、いつでも会える。未来もずーっと、友達!)
フーちゃんの気持ち、ちゃんと伝わったよ。フーちゃんのおかげで、私もとても楽しかった。
フーちゃん、ありがとう!
「あゆみちゃ〜ん、行くよ〜!」
みゆきちゃんが呼んでいる。私も行かなくちゃ。
「うん、わかった‼︎」
みゆきちゃんの声に元気よく返事をして、私は皆を追いかけた。
*
「ふぅ、終わった終わった」
「お疲れ、姉さん」
「お疲れっす!」
「つぼみと幸助もお疲れ様〜」
一仕事終えたところで二人とグータッチ。
「ふぅ、とりあえずこれで、メカクシ完了だな」
私たちメカクシ団は今、横浜に遊びに来ている。既に中華街や横浜ランドマークタワー、八景島シーパラダイスなどいろんな場所を回った。どれもすっごく楽しかったよ。
そして次の目的地はみなとみらい! 早速向かおうとした時に……。
……事件は起こった。
突然、横浜の街が黒い雲に覆われ、巨大な怪物が現れたの!
勿論現場は大ピンチ。街の人達は大慌て。
けどそんな時には、必ずヒーローが現れて街を救ってくれるって相場が決まっているんだ。
そして本当にヒーローが現れちゃったの。名前はプリキュア。世界を救ってくれる女の子たち。彼女たちが来てくれたから、街はもう大丈夫!
……と思ってたんだけど、今回はちょっとややこしいことになっちゃったんだ。
今回の事件の黒幕、フュージョンって言うんだけど、その子の友達だっていう子がプリキュアの前に現れたの。
その子は「自分のせいで街がこうなっちゃった」って言ってるみたいで、街に来てフュージョンを止めようとしていた。
けど、いくら叫んでもフュージョンに声が届かなくて、どうしようかと思っていたらしい。
……と、ここまでは幸助に『盗んで』もらって聞いた話。
この話をメカクシ団の皆で聞いていたら、シンタローがある提案をしてきたんだ。
「お前のその能力、それ使えるんじゃねぇか?」
それを聞いて私はハッとした。私の『目をかける』能力は、記憶と想いを直接伝えることができる力だ。これを使えば今回の事件を解決することができるんじゃないか、そう思った。
そして私たちは早速作戦を立てた。その内容はまずつぼみに姿を隠してもらいながら彼女に接近。見えないようにするのは私の力を実際に見せるためなのと、プリキュアに見つかった場合力を使うと怪しまれると思ったから。
そして幸助に状況を教えてもらいながら私が能力を使って彼女に話しかける。説明が終わったら私の能力で彼女の想いをフュージョンに届ける、というものだ。
少々の不安はあったもののいざ作戦を実行すると、思ってたより上手くいった。すんなり私のことを信用してくれたし、フュージョンに『伝える』のも成功。
その後の展開は予想外だったけど、流石はプリキュア、流石はヒーロー。跡形もなくやっつけちゃった。
そんな感じで、この事件は無事に解決したんだ。
「団長さ〜ん、セトさ〜ん、アヤノさ〜ん」
後ろから知っている声が聞こえてきたので振り返ると、モモちゃんが手を振りながら走って来るのが見えた。それに続いて他の人たちもこっちに来ている。
「上手くいったみたいですね」
「うん。思ってたよりもすんなりいったよ」
団員全員で今回の作戦の成功を喜び合う。
私たちは特に危ない目に遭った訳では無いけど、やっぱり嬉しいものは嬉しい。
それに街の平和を守るお手伝いが出来たと思うと、自然と口角がつり上がる。
「まぁ、最後の方は少し焦ったけどな」
「いいじゃないですか! 最終的には上手くいったんですし」
「うん。ハッピーエンドになって良かった〜」
……ハッピーエンド。
さっきもプリキュアの子が言っていた。「ハッピーエンドを……邪魔しちゃダメ!」って。
プリキュアはヒーローだ。人々の平和を守る存在。ハッピーエンドにする存在。
だったら、私たちが繰り返したバッドエンドもハッピーエンドにして欲しかったなぁ……なんてね。
私たちは長い長い夏を超えて未来を、ハッピーエンドを掴み取ったんだ。今更どうこう言うようなことじゃない。
手に入れた幸せを噛み締めないと。
「よし、それじゃあ横浜観光再開しようか」
私がそう言うと、皆も「おぉー!」と言ってくれた。
綺麗に晴れた横浜の空は、いつもより輝いている気がした。
キュアエコーとアヤノってなんか波長が合ってる気がするんですよね。
ほら、二人とも「想いを伝える」ですし。