「もっと仲良くしようよ、あん時みたいにさ」
「黙れ」
「なんだい、つれないなあ」
「師匠を殺したのによくそう笑ってられるな、貴様というやつは……!」
白髪の少年は蒼い瞳を怒りに燃やし、褐色の外套の背中の鞘から片手剣を抜き、正面に向ける。その剣は、旅立ちの時に貰った剣がさらに鍛えられたもの。あの頃はそこらの弱小魔獣の棍棒と競り合う程度だったが、今では斬鉄もたやすいほどに研ぎ澄まされていた。
「あぁ、もしかしてアレかい?『信じていたのに』ってやつかい?君はあの酷い性善説まで師匠を受け継いだのかい」
片や少年の視線の先にたたずむ、少年に笑いかける黒髪糸目の青年は、「羨ましいや」とこぼす。
「旅先で何に出会い、何を知るか、何に気づき、何を得るか、それは人によってそれぞれだ。けれども、君は何かを得たかな?」
「……何が言いたい?」
「師匠の教えを敬虔に信じて、その様子じゃ旅をしても師匠以外を受け入れなかったと見えるんだよ。何かを知った。何かを見た。何かと出会った。それは見えるんだよ?その格好、たたずまいからしてね。君は本当に『表面は』成長した」
これが青年の特徴である。無自覚に煽り立てる口調は聞く者の神経を逆撫でする。
「君は他の人間の在り方を理解せずに来たんじゃないか?本当に得たものがあるなら、『どうして』を訊くはずだ。だが訊かなかった。それは『師を殺めた奴には死以外ない』と思ってるからだ。昔と本当に変わらない。一見すれば悪なものをを絶対悪として突っ込んで」
「それは今とは関係ない!」
「例えば師匠が世界を破滅に追いやろうとしたとして、僕がそれを食い止めるために師父殺しの汚名をかぶったとしたら、君はそれでも糾弾するのかい?」
「……それはっ……!」
「ほら、そういった可能性を考えなかった。罪があると疑わしい時点でそこまで怒れるなんて。ひどい奴だよ」
「じゃあ、なんで殺したんだ」
手玉に取られる苛立ちを抑えて、少年は問うた。
「すくなくとも褒められた理由じゃないなあ。まあ一言でいえば、愛しいからだ」
「……は?」
少年の思考は真っ白になる。
「師匠は立派な人だった。あの人こそを親父とか、父さんだとかいうのだろうね。僕は師匠を愛しく思っていた。死んで欲しいなんて思いもしなかった。でも、死は誰にも等しく訪れる。師匠が誰かに害されるのは、たまらなく許せなかった」
「……だから殺したっていうのか……お前のそんな下らないエゴで……!」
「下らない?下らないものか。僕からしたら至上命題だよ。一番守りたいものを、一番敬えるものを、どうしたら救えるかというひとつの解だ。天寿なんて神による殺害だ。絶対にそんなことは許さない。愛しいものは例外なく、その一切を僕が殺す。最期の時間を僕だけが知る。それがどれだけ尊いことか、理解しようともしないくせに」
全身の毛が逆立った。何を言っているんだ、コイツ。少年は悟った。コイツは理解できるものじゃない。人の面を被った悪魔か何かだ。
「お前の言っていることは正しいこともあるだろ、それはわかった」
理解なんて要らない。少なくとも、怖気のするほど歪んだ心は理解しないほうが良い。
「だけど、お前の思想は歪んでる。壊れてる。そんなクソみたいなエゴを、愛の裏返しだなんて飾り立てるな。俺はお前を絶対に許さない」
剣を構える。刃は光を受け、蒼く反射する。その構えは幾多の戦いの中で洗練された、対魔獣剣術の極地に至っていた。
「やっぱりわかってくれないようだね。まあ許されることではないだろう。わかった」
対する青年はダガーをすらりと取り出す。いつも一人で生きてきた彼は、幼少の頃からダガーで獲物を暗殺してきた。しかし、今青年の握るダガーは新しい。それは、師父殺しの汚名を被ったダガーだった。
「君との腐れ縁も、これまでということだ。そんなわけだから、愛しい君よ、死んで僕の目に刻んでくれ」
少年は、一歩踏み込んだ。