ハイスクールD×D~堕ちた聖女の剣~   作:剣の舞姫

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お待たせしました。
GWどこも行けず、執筆が進みました。


放課後のラグナロク
第八十八話 「魔術師アーシア先生」


ハイスクールD×D

~堕ちた聖女の剣~

 

第八十八話

「魔術師アーシア先生」

 

 ディオドラ・アスタロトの騒動から暫く経ち、ようやく日常が戻ってきた。

 アーシア達も普段は学園に通い、授業を受けて、オカルト研究部の部室で過ごしてから帰宅するいつもの生活を送っている。

 そんなある休日の昼間、アーシアは教会に住んでいた時の自室にして、現在の魔術工房たる部屋の机の前で注射器を片手に自身のゴム管で縛られた左腕を見つめていた。

 浮き出た血管の位置を正確に捉え、右手に持った注射器の針を血管に刺してゆっくり少量の血液を抜いていく。

 

「……ふぅ」

 

 注射針を抜いて魔術で止血した後は、抜き取った血液を試験管の中に移して、その後は予め用意していたインクボトルの中に必要な量の血液を加え、中に入っていたインクと自身の血液を混ぜ合わせた。

 

Riempimento(充填)

 

 魔術回路を開いて魔術を使用、血液中の魔力をインク全体に充填、馴染ませると準備は完了だ。

 最後に血液を混ぜた魔力たっぷりのインクと羽ペンを使ってアーシアの退魔礼装たる小型聖書用の紙に内容を書いていく。

 内容は前回、ディオドラに使用した為に消耗したページと同じモノ。つまり今やっている作業は消耗したページの補充だったのだ。

 

「これで、良し」

 

 消耗したページの補充は終わった。

 インクボトルを片付けたアーシアは、試験管に残っている己の血液に視線を向けると、机の引き出しからロザリオを数個取り出して、装飾されている宝石に試験管に残っていた血液を垂らした。

 

「宝石魔術は専門外ですけど、念には念をと言いますしね」

 

 ロザリオに装飾されている宝石には魔術の術式が刻まれている。その宝石に血液を介して魔力を補充しておく事でいざという時の備えとするのだ。

 宝石魔術は専門外とは言っても、使えない訳ではない。寧ろ何回かお世話になっている魔術なので、アーシアの宝石魔術はそれなりといったレベルだ。

 勿論、宝石魔術を専門としている家系……遠坂家やエーデルフェルト家と比べれば雲泥の差なのだが。

 

「あら?」

 

 ロザリオを机の引き出しに仕舞った所で教会内に入ってきた人物に気が付いた。教会は工房として機能している為、侵入者は直ぐにアーシアとアーチャーに察知されるのだが、これは立ち入りを許可している人物の反応だった。

 

「アーシア~、来たわよ」

「桐生さん! いらっしゃいませ!」

 

 アーシアの工房に入ってきたのはクラスメートにして同じマスターである桐生 藍華だった。彼女はアーシアの陣営に加わってからというものの、魔術を学ぶ為に何度もこの部屋に訪れているので、勝手知ったる工房とばかりに気軽に入れる。

 勿論、アーシアが許可しているからこそ出来る芸当なので、許可してない者が侵入しようものなら大変な事になるのだ。

 

「以前お渡ししたルーン文字の書籍、役立ちました?」

「うん、これのお陰でルーンを刻んだ水晶を用意できるようになったから、すっごく助かったわ」

「良かったです。ただ、どうしても現代のルーン魔術は神代のルーン魔術とは違うので、北欧の神々しか知らない神代のルーンなどは載っていないのですけども」

 

 神代のルーン魔術を使用するのは北欧の戦乙女(ヴァルキリー)達くらいだという話だ。

 現状、神代のルーン魔術における魔術基盤は北欧神話が独占している状態なので、藍華が本格的に神代のルーン魔術を覚えるのなら、北欧神話に所属するルーン魔術師に教わる他に無い。

 もっとも、アーシアには北欧神話との伝手が無いので、現状その手段は取れない。なので藍華には現代のルーン魔術を覚えて貰う他にないのだ。

 

「因みに、ルーンを刻んだ水晶には毎日血を垂らしていますか?」

「うん、言われた通りにやってるけど……本当にこれって意味があるの?」

「勿論です。唯の水晶にルーンを刻んで発動するより、魔力を貯め込んだ水晶にルーンを刻んで発動する方が効果も大きくなりますから」

「へぇ……でも、血で魔力を溜めるって、いかにも魔術って感じよね」

「血を含めた体液や髪の毛には魔力が豊富に貯め込まれていますから、魔術の触媒としてはとても優秀なんですよ」

 

 術者の血や髪の毛を素材に使った魔術礼装を作る魔術師の家系もあるくらい、魔術師の体液や髪の毛というのは重要な触媒なのだ。

 他にも体液や毛髪というのは魔力を通しやすい性質も持ち合わせており、魔法陣を描くのに動物の血を使ったり、髪の毛で簡易的な使い魔を作成したりという事も行われている。

 

「ところで、今日は何の魔術を教えてくれるの?」

「そうですねぇ……」

 

 そう言えば、前回藍華が来た時に次回は新しい魔術を教える約束をしていたという事を思い出し、現在藍華が覚えている魔術を思い返した。

 強化、治癒、ルーン魔術、探知、現在藍華が使えるのはこれらの魔術だが、正直治癒魔術に関しては適正が殆ど無かった事から、治癒系統の魔術は除外するとして、藍華の属性である虚数で出来そうな魔術をとなると……。

 

「変化なんてどうですか?」

「変化?」

「はい、物体の形を変化させる魔術です」

 

 こんな感じに、と言ってアーシアは手頃な薔薇の花を手に取り、変化の魔術を掛ける。すると、一瞬にして薔薇は花弁が散って形状を変化させ、茎がナイフのような形状になった。

 

「こんな感じに、物体を変化させるんです。私は有機物に関しては一瞬で変化させられますが、桐生さんは自身の影で物体を包み込んであげればやりやすいかもしれませんね」

 

 言われた通りに藍華は床に置かれた薔薇の花に意識を向けると、魔術回路を起動する。自身の虚数属性と相性が良い影を操り、薔薇の花を影で包み込むと、影の中で薔薇の形を変化させた。

 

「うわ、ちょっとまって」

 

 変化させて、アーシアと同じようにナイフのような形にしようとしたのだが、途中でミスをしたのか出来上がったのは枯れてしまった茎と茶色くなった花弁だった。

 

「いきなり成功はしませんよ。何度も練習して、成功率を上げるのが魔術師というものです」

 

 苦笑しながら藍華の魔術の失敗作である枯れた茎を手に取り、魔術で変化させると、瑞々しい緑色を取り戻した茎がダーツの矢のような形になった。

 

「変化の魔術はイメージが大事ですが、そのイメージも漠然としたものではいけません。変化させる物体の構造を知り、その構造を無理なく変化させる為にはどうしたら良いのか考えなければいけませんし、有機物であれば当然ですが細胞の劣化も考慮に入れなければなりません」

 

 最初は無機物で試した方が良いかもしれませんね。そう言ってアーシアは藍華に手頃な鉄片を手渡し、これで練習するようにと言う。

 

「課題です。その鉄片を変化の魔術でナイフに変化させる事、次回には出来栄えを確認しますね」

 

 言いながら、もう一つ用意した鉄片をあっと言う間にナイフに変化させたアーシアは、そのナイフも藍華に手渡した。

 

「あ、刃は潰してあるので安心してください」

「……芸が細かいわ」

 

 

 その後も藍華の魔術の練習に付き合い、夕方頃には疲弊した藍華をアサシンが背負って帰って行った。

 二人を見送ったアーシアは再び工房に籠り、新しい黒鍵をデスクから取り出して刀身に式典を刻む作業行っている。

 

「土葬式典と鳥葬式典はこれで良いですね、火葬式典は十分数がありますし、風葬式典は……作りましょう」

 

 これまでの戦いを鑑みて、これからの戦闘は更に激化する可能性が高いと予測したアーシアは、以前から黒鍵の強化を試みていた。

 だが、大幅な強化は出来そうにないし、その技術も無いと早々に諦め、ならば手札を増やすべきだと考え、使用出来る式典の数を増やす方へシフトした。

 これまで火葬式典しか使って来なかったが、それでは手札が余りにも弱いと感じ、土葬式典と鳥葬式典を加え、そして今回新たに風葬式典も作る事にしたのだ。

 

「出来れば、こんな式典を使う日が来ない方が良いのですが……」

 

 火葬式典もそうだが、土葬式典も鳥葬式典も、風葬式典も、どれも効果は抜群だが、同時に相手は悲惨な状態になるものばかりだ。

 元来、暴力を嫌うアーシアはこれらの効果を知った時は使う事を躊躇った。だが、アーチャーのマスターとして恥ずかしくない自分になるのだと決めた以上、躊躇いは己に課した誓いに反する感情だと切り捨てたのだ。

 

「……ふう」

 

 一本目の黒鍵に風葬式典の術式を刻み終えて、一息吐いたアーシアは傍らに湯気の立つ紅茶が置かれているのに気付いた。

 どうやらアーチャーが気を利かせて淹れてくれたらしいが、本人の姿は見えない。

 

「邪魔してはいけないと思ったのでしょうか?」

 

 だとしたら、気遣いに感謝して紅茶を一口飲むと、二本目の黒鍵を手に取り、刀身に式典の術式を刻みだす。

 この日、アーシアが作業を終えて工房を出るのは、深夜になってからで、風葬式典の黒鍵は合計で20本作り終えたのだった。




次回は北欧より来日する主神様と、朱乃の父が登場する予定です。
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