妖精と白兎の愛育日記   作:護人ベリアス

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希望を守る旅へ

 月の光に照らされたリュー・僕・シルさん・リリの四人は迷宮都市(オラリオ)の郊外の森の中にいた。

 

 シャクティさんと約束した日の夜、無事予定通りシャクティさんの手回しのお陰で迷宮都市(オラリオ)を出ることができたのだ。

 

 だが迷宮都市(オラリオ)を無事出れたからと必ずしも油断して良い…という訳ではなかった。

 

「ね?リューにベルさん?そろそろ休憩を挟んでもいいんじゃないかなーって思うんだけど、どう?結構迷宮都市(オラリオ)を出てから休みなしに歩いてると思うんだけど…」

 

 そう愚痴を漏らしたのは僕達に同行すると早くから宣言していたシルさんであった。

 

 だがシルさんの愚痴を即座にリリとリューが封じる。

 

「ダメです。シル様。万が一に備えて迷宮都市(オラリオ)からできる限り離れなければならないんです。ギルドやヘルメス様が何か行動を起こす可能性も完全に消滅した訳でもありませんから」

 

「アーデさんの仰る通りです。神ヘスティアやシャクティ、アンドロメダの口添えのお陰で一応は問題ないとお聞きしていますが、万が一には備えるべきかと。なので申し訳ありませんが、シル?もう少し頑張ってください。夜が明けるまでに近くの街に入ることができれば休めますので」

 

「うーん…了解。私的には問題なんて起きない気がするけど…まぁいいよ。アーデさんとリュ―の言う通りにして頑張るよ」

 

 二人の言葉にシルさんは愚痴を封じ込められ、納得した様子。お陰で僕が口添えする必要もなかった。

 

 そのため引き続き誰一人歩みを止めることなく歩き続ける。

 

 リューの言う通り近くの街に入ることができるまでは完全に安心する訳にもいかず僕達は少々先を急ぎながら進んだ。

 

 そしてリューの言う通り今こうして何事もなく迷宮都市(オラリオ)を出ることができているのは神様やシャクティさん、アスフィさんのお陰。

 

 シャクティさんが迷宮都市(オラリオ)を出るために門の警備に手を回してくれたのは周知の事実だから話の向く先はまずは神様に関してであった。

 

「それにしてもヘスティア様がよくベルさんと一緒に迷宮都市(オラリオ)を出るっていう話にはならなかったですよね~ヘスティア様ならお引止めになるか絶対に付いていこうとするかと」

 

「それは…ヘスティア様が私とベルの愛の巣を邪魔をしてはいけないとお気遣いなさって…」

 

「あとは迷宮都市(オラリオ)に残る皆のためという意味もありますね。ギルドへの対応でも神様が残った方が良いと話し合いの結果なりました」

 

 シルさんが意外そうに神様が同行しなかったことに関して触れ、その理由はリューと僕が説明した通り。

 

 リューの言ったリューと僕の愛の巣の邪魔はできないと凄く渋々としか言いようがない表情で神様が言ったのも事実。

 

 僕が言った通りヴェルフ達みんなが迷宮都市(オラリオ)に残る以上僕が迷宮都市(オラリオ)を出るからと神様が同行する訳にはいかないというも事実。

 

 特に戦力の流出を嫌うギルドに対しては僕一人の流出はともかく【ヘスティア・ファミリア】全体の流出は断固反対するであろうという観点からの判断であった。

 

 ギルドに関しては神様がウラノス様と直々に話を進め、僕が迷宮都市(オラリオ)を出ることを認めてもらうことができており、ギルドは僕達が迷宮都市(オラリオ)を出ることは暗黙の了解…ということになっているはず。

 

 そして神様はギルドとの交渉を引き受け僕達四人だけで迷宮都市(オラリオ)を出ることを認める代わりに一つだけ条件を付けていた。

 

「代わりに一カ月に一度はヘスティア様達に連絡をするように仰せつかっています。さらに定住する場所を決めた際にはお会いしたいとのことでその場所をお伝えするという話になっています」

 

「身の危険を考えるなら本当は誰にも居場所を知られないようにしなければならないと思うんですけどね…」

 

「確かにリリの言う通りかもしれないけど、神様達も心配するだろうからね?」

 

「それに私達としても親しくしてくださった方々と永久の別れというのは流石に辛いものがあると言いますか…」

 

「ベル様とリュー様お二人の言い分は当然リリも理解するのですが…」

 

 神様の出した条件とは定期的に連絡をし、住む場所が決まったらきちんと伝えること。

 

 僕とリリの恩恵は神様に残してもらったままで神様に僕達の安否は分かるとは言え、心配なものは心配と言われてしまい、神様の条件に従うことになった。

 

 この点に関してはリューも僕も賛成。

 

 なにせ迷宮都市(オラリオ)を出るのはリューの事情もあって住み心地が良くないからにすぎず、本当は親しかったみんなと別れるのは不本意だったのは揺らがない。

 

 そのため僕は神様やファミリアのみんなへの連絡を約束してきている。

 

 それはリューも一緒の訳だが、リューに関しては一抹の不安とも言うべき部分があり、リリはその点を触れない訳がなかった。

 

「ただ…【ヘルメス・ファミリア】にお伝えする点はどうにも気になります。リュー様のご友人だからという事情は十分理解しますが…」

 

「その点はどうかご了解ください。アーデさん。アンドロメダはただ私の友人だからというだけでなく今回の神ヘルメスの不穏な動きを封じるために手を打ってくださった恩があります。そんな彼女の恩に報いるため…そして彼女がこれからも私との友情を維持していきたいと仰ってくれた以上、私には断る訳にはいきません」

 

「僕も確かに不安はない訳ではないですが…それでもアスフィさんならきっと大丈夫だと思うよ?邪神ヘルメスをあれだけボコボコにして僕達の前に引きずり出してくれたんだから」

 

「あぁ…あれは見てて本当に爽快だったけど…うん。きっとアスフィさんなら大丈夫だね」

 

「あれはあれで問題だったと思うんですが…」

 

 リリが触れたのはリューがアスフィさんとの連絡を維持することに決めた点に関して。

 

 アスフィさんの主神である邪神ヘルメスが僕に歪んだ執着を見せていた以上、連絡を維持して僕達の居場所を知られるのは問題だというリリの言い分は当然理解するのだが…

 

 邪神ヘルメスの脅威は現状では杞憂と見て問題ないというのがリューと僕の見解で、僕達四人全員の頭に浮かんだのは二日前のある事件であった。

 

 その事件とはアスフィさんが僕達の家に邪神ヘルメスを連れてきたこと。

 

 それも縄で縛って身体中痣だらけにされた状態の邪神ヘルメスを。

 

 シルさんの言ったように爽快だったとか清々したとかいう思いがなかった訳でもなかったが、当初は何事かと居合わせたシルさんとリリ含めた四人で反応に窮すしかなかった。

 

 ただその後加えられたアスフィさんの説明によれば邪神ヘルメスはならず者を雇って僕達を襲撃することを企んでいたとか云々。

 

 そしてアスフィさんが主神の不穏な振る舞いを関知して事前に防いだ上で謝罪のためにわざわざ僕達の家まで訪れてくれたそうだ。

 

 当初リューの命を狙った邪神ヘルメスを許す理由もないと僕が神殺しも辞さないという考えで処断を主張し、リリも後顧の憂いは断つべきとの理由で何らかの処置を主張した。

 

 だがシルさんは神殺しを行えば迷宮都市(オラリオ)を出るだけでは収拾が付かなくなると主張し、心優しいリューもアスフィさんの謝罪もあって邪神ヘルメスを許すように僕に言った。

 

 そのため僕達四人の考えは二分され膠着状態になるかと思われたが、先に譲ったのは僕の方であった。リューにとっての大切な友人であるアスフィさんの誠意を無碍にする訳にはいかなかった。

 

 結果邪神ヘルメスは何事もなく放免ということになり、未然に不穏な動きを防いでくれたアスフィさんにリューは多大な感謝を覚え今後も友人関係を維持しようとリューとアスフィさんが誓い合う感動的な話が展開されたのだが…

 

 リリが一抹の不安を覚える理由も分かるし、僕としても本心では邪神ヘルメスという不安要素を残したのは些か気掛かり。

 

 ただリューがアスフィさんとの友情を維持できたことに心から安堵している様子だったので僕からはその後加えて言い募ることはなかった。

 

 ちなみに言うとリューが連絡を維持することに決めたのはアスフィさんに加えて『豊穣の女主人』の皆さんとシャクティさん。

 

 僕は僕で連絡を維持しようと決めた親しい人達がいる以上、リューの親しい人達との連絡を止めるのも不公平だというのが僕の中での一応の結論だった。

 

「…リュー様が必要以上の事柄をお伝えしなけらば多分大丈夫でしょう。ヘルメス様もあの場では妙な企てを起こさないと神の名に誓って仰ってましたし」

 

「そうそう。ヘルメス様に関してはご心配なく~私的にもヘルメス様はずーっと余計なことをベルさんやリューにしているのが目障りだったんですよねーアスフィさんの制裁程度じゃヘルメス様は懲りないと思うので少し『手配』をしておいたのでもう心配はいりません!」

 

「…シル?あなた今度は一体何を手配したんですか?」

 

「ふふっリューが心配するようなことは一切してないから大丈夫だよ?ちょっと釘を刺しておいただけだから」

 

「…シル…あなたという人は…」

 

 リリの渋々の納得にシルさんは目が笑っていない薄ら寒くなるような笑みで何かを『手配』したと宣う。

 

 シルさんの言葉にリューは元より僕も表情が引き攣るが、シルさんは笑みを崩さずその『手配』の具体的な内容は言葉にしない。

 

 そのためシルさんの『手配』はシルさん自身が話題を変えたことによって僕達に若干の恐怖を感じさせつつも闇に葬られることになった。

 

「ちなみにリュー?ベルさん?今更ですけど、一つお聞きしても良いですか?」

 

「「何です(か)?シル(さん)」」

 

「ふふっ…またハモりましたね?」

 

「それはもう私とベルは以心伝心の仲で…」

 

「リューと僕の心はいつでも繋がってますから!」

 

 シルさんの質問にリューと僕は同時に返事をして、僕達の様子にシルさんはクスリと笑う。

 

 そしてリューも僕もさも当然だと胸を張って僕達の以心伝心具合を誇っていると、シルさんは僕達の瞳を交互に見つめた後一つの確認を言葉にした。

 

 

迷宮都市(オラリオ)を出てリューもベルさんも後悔してないですか?」

 

 

 シルさんが言葉にしたのは迷宮都市(オラリオ)を出て後悔がないかという最終確認。

 

 リューも僕も迷宮都市(オラリオ)でずっと冒険者を続けてきた訳で…

 

 迷宮都市(オラリオ)を出るということは冒険者を本当の意味でやめることと同義と言っても良いのかもしれない。

 

 それはこれまでの人生の価値観が大きく変わり得る契機とも言えて。

 

 この判断を下して後悔する可能性がない…とは言い難いと評すべきなのかもしれない。

 

 リューと僕は互いの顔を見合わせお互いが何を考えているか無言のまま視線を交わすことで理解しようと試みる。

 

 そうして少なくともリュ―の瞳は後悔のような負の感情は一切映していないように見受けられた。

 

 リューが一切負の感情を抱いていないならリューの幸せを願う僕が負の感情を抱く可能性など寸分たりともあり得ず。

 

 互いの考えを暗黙のうちに通わせた僕達はシルさんに視線を戻すと、それぞれの言葉でシルさんの最終確認への答えを紡ぎ出した。

 

「私が後悔することなどあり得ませんよ。シル?迷宮都市(オラリオ)を出ることは私とベルの正義(希望)を守るために不可欠な行動でした。私とベルの愛を守るため…そしてアリーゼを守るため。私は今後決して迷宮都市(オラリオ)を出たことを後悔しないと誓いましょう」

 

「僕も後悔することなどあり得ません。シルさん。迷宮都市(オラリオ)に留まり続けることがリューとアリーゼの幸せの障害になるならば、出るというのが当然の判断です。それに親しいみんなとは距離が離れても永遠の別れでもないですし、そこまで大きな苦痛でもないと言うか」

 

「その点はベルと同感です。だからこそ気掛かりなのでがシルとアーデさんです。…その私達の個人的な都合で迷宮都市(オラリオ)を出ることになってしまい…後悔していませんか?」

 

「あっ…そうです。シルさんの質問に質問を返すようですけど…僕からもその点は確認しておきたいと…思ってしまいますね」

 

 リューも僕も自分達自身と大切な子供であるアリーゼのためという確固たる理由があるから迷宮都市(オラリオ)を出ることに戸惑いはない。

 

 だがシルさんとリリの場合はどうか?ついついその点で揃って不安を抱いてしまったリューと僕。

 

 そんな僕達二人にシルさんもリリも表情を綻ばせながら答えてくれた。

 

「ふふっ…私は私で伴侶(オーズ)を探すために迷宮都市(オラリオ)を出てきたんだから、私が後悔する訳ないでしょう?それに私はリューとベルさん、そしてこれから生まれてくるアリーゼちゃんがどう成長していくのかすっごく楽しみにしてるの。だからリューとベルさんが気掛かりに思う必要なんてないよ?」

 

「リリは…そもそも迷宮都市(オラリオ)に留まることに執着する理由がありません。ベル様がお幸せになる手助けができれば良いと言うか…あとはそうですね。シル様と似ていてベル様とリュー様のお子さんがどのように成長していくか関心はあります。少なくともリリは進んでベル様とリュー様に同行しています。なのでリリが後悔することだけはあり得ません」

 

 シルさんとリリの返してくれた答えはそれぞれ後悔がなく自分達の目的の元で僕達に同行してくれているということ。

 

 そして何よりアリーゼの成長を楽しみにして同行してくれているという言葉はリューにとっても僕にとってもとても嬉しい言葉であった。

 

 

 アリーゼが生まれてくることをみんなが楽しみに思ってくれている。

 

 

 この事実はこれから生まれてくるアリーゼにとっても親としてリューと僕にとっても幸せで尊いこと。

 

 僕は改めてアリーゼに会える日を待ち遠しく思う気持ちが強くなった気がした。

 

 こうしてリューも僕も二人の意志を改めて知ることができたことで不安を打ち消すことができた。

 

 だが実は僕達の心を蝕みうる要素が未だ残っており、今はリューも僕も目を逸らしているだけだったのだ。

 

「それでベル様もリュー様も未だにお話を聞いていないのですが、迷宮都市(オラリオ)を出た後どうなさるおつもりで?」

 

「…」

 

「…」

 

「…まさか結局結論が出なかったのですか?」

 

 リリが青ざめつつそう尋ねてくるが、リューも僕も答えることができない。

 

 確かに迷宮都市(オラリオ)を出た後親しかったみんなとの連絡を取るという話はすることができて、リューも僕も安堵することができた。

 

 だが一時の別れを名残惜しむあまり迷宮都市(オラリオ)を出た後どう生活していくかの具体的な相談をする機会を二人揃ってすっかり逸してしまったのである。

 

 そのため結局リューも僕も迷宮都市(オラリオ)を出た後の考えはないと言っても過言ではなくリリが僕達の無思慮に青ざめるのはある意味仕方ない所があった。

 

 このように事実上無計画で迷宮都市(オラリオ)を飛び出してしまったリューと僕はこの後またも問題に直面することになってしまうのである。




改訂
この物語を終えるタイミングを考えていたのですが、このタイミングを逃すとキリ良く終わるタイミングがないのでここで打ち切りとします。
書き溜めは一応八話分あることにはあるのですが話が中途半端に終わり、その上作者は多忙により書き溜めの追加の継続が厳しいためキリが良い今回で終えるのが一番と判断しました。
ということで八ヶ月間お読み頂きありがとうございました。


さらに追記
ご要望を頂いたこともあり、書き溜め分はpixivで投稿することにしました。
もし宜しければ…

https://www.pixiv.net/novel/series/1514962
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