明石「艦娘の夢を操る機械を作って欲しい?」 作:マロニー
提督「夢、夢、夢か…」
明石「ん?何です?」
提督「いやな。こうやって色々と夢を見せてきた訳だけど、結構奥深いというか複雑だと改めて思ってな」
提督「古来から夢は霊的な物とも結び付けられて考えられてきた。予知夢や吉兆を表す夢で民族を成り立たせるなんてのもあった程だ。今はそれ程じゃないがそれでも、占いとかじゃあ夢占いはポピュラーだ」
提督「で、夢ってのはまた、今でも何で見るかっていう確たる正解は無いらしい。故に神秘性があるんだろうな」
明石「…?うんちくタイムですか?」
提督「語れる程知りやしないがな…
まあ要は俺たちは未だに『夢』に対して、どこか特別視をしているって事さ」
明石「…成る程だから今までの…その、実験でも。突拍子が無かったり、あり得ない物であっても見た内容を意識してしまうんですかね?」
提督「ああ…だから、な。あんまり他の娘を出す悪夢を見せたくは無い。出すにしてもその絆が確たるものである姉妹とかだった」
明石「確かに、そういえばそうでしたね。
考えての行動だったんですか?」
提督「一応。…で、それを今言ったのは。
今度はある娘に見せる夢に、姉妹以外の他の娘を登場させるからだ」
明石「…相手を聞いても?」
提督「北上だ」
明石「…あー、成る程」
提督「だからその…もし何かまずい事になっちまったら尻拭い頼む」カチャカチャ
明石「嫌ですよ!?
…ってああ!もうやってる!」
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
北上は無干渉だった。
何事にも過度に干渉せず、かといって不干渉ではなく、故に無干渉である。
そんな生き方を旨にしていた。
北上は無干渉だった。
色恋沙汰など稚気じみた妄想であると考えていたしそうであると考えられるその自分が、自分にとっての理想の形であると思っていた。
––––……は……だな…!
––– ……とう…います……北上さん…!
…北上は無干渉『だった』。
北上は無干渉でありたかった。
それこそがきっと、周囲の全てが上手くいく暮らし方だったから…
彼女は、その親友の白無垢が赤く染まっていく姿を見下ろしながらそう考えていた。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−–
提督「さて、北上は…と。
どっかにいるはずなんだが」
明石「あれ、まだ居たんですか?
てっきりもう出たのかと」
提督「もうじき出るつもりだよ。ただ北上が何処にいるかなーなんて当たりをつけてただけだしな」
明石「え?今日…というより昨日、見せたんですか?その、夢を」
提督「?ああ。で、いつも通り見せた翌日にはその娘の予定を一日オフにして…」
明石「…!提督、急いでください!
止めに行かないと!」
提督「?何だ、何をそんなに焦って」
明石「さっき見たんです!!出撃に向かってる北上ちゃんを!だから早く!!」
提督「!?…分かった!」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北上「いやー、ごめんね提督。
あたしったらすっかり勘違いしててさ」
提督「…そうか」
北上「うんうん。…だからさ、そんな顔よしなって。幸せが逃げちゃうよー」
提督「……嘘つきめ」
北上「?」
提督「お前は…」
提督「……」
北上「何?そこまで言ったんならさ、全部言っちゃいなよ」
提督「…そうだな」
提督「お前は…何にも本気じゃないよな」
北上「うわ、急に貶してくるじゃん…」
提督「いや、貶しなんかじゃ無い。…寧ろその逆だ。何かに手を抜くでも、何かにだけ力を入れるでもなく平等に力を抜いて。それで尚全てに対して必要とされている働き…いや、それ以上をするんだ。それは本当に凄い事だと思う」
提督「…本当に、凄い事だ。好きなものにしか情熱を抱けない俺からすりゃ理想的とも言える」
北上「いやー、そんなつもりじゃないんだけどね。あたしはいつだって全力だよ?」
提督「は、どの口が言う」
北上「あはは、酷いなぁ」
提督「…お前、さっき本気で死のうとしたんじゃないのか」
北上「……」
提督「…明石が、言ってたよ。
弾薬から装備まで全部演習用の物だったってな。それを持って海域に出て、出来ることなんて自死くらいだろうが」
北上「とんだ誤解だよ提督。さっきも言ったじゃん、すっかり勘違いしてただけ」
北上「…聴きたい事はそれだけ?ならスケジュール通りの休日を楽しんでくるね〜」
ガシッ
北上「……ねぇ、離してほしいんだけど」
提督「…」
北上「今は手を掴むのだってセクハラになるんだよ。ほらほら、汚名を被りたくないなら早く離してってば」
ダキッ
北上「…ッ!?…ちょっと、離…!」
提督「…お前に居なくなられてほしくない。
それだけなんだ」
北上「…」
ギュッ
北上「…だいじょぶだよ」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北上「さーて、一旦落ち着いた所で。
何か言う事は?」
提督「急に抱きついてすいませんした」
北上「よろしい、許してしんぜよう。
…でさ。私もちょっと弁解っていうかさ」
北上「…別に、死のうとなんてしてないよ。
今回のは本当にうっかりっていうか、腑抜けてただけだから」
提督「…え、本当に?」
北上「ほんとほんと。まあそんな大ポカかましちゃうくらいにぼけっとしちゃう出来事が有ったのもそれはそれでマズイんだけど」
提督「まあ確かにな…しかし、そうなると思い込みでお前の事とやかく言っちまったのか。…すまない」
北上「…まあ心配してくれての言葉だし、別にいいよー」
北上「あとそれと…」
提督「…?それと、何だ」
北上「…やっぱいいや」
提督「おいおい、そこまで言ったなら言えよ」
北上「んー、やっぱり面倒くさいし…
多分提督なら解ってくれるだろうから」
提督「…また無理難題を言うな。お前が心の中にしまったままの事を理解しろって?」
北上「でも、きっとやってくれるんでしょ?それに…」
北上「…あたし。
提督になら裏切られてもいいからね」
提督「…はぁ、またよくわかんない事を。
俺がお前たちを裏切る訳無いだろうが」
北上「……♪」
提督「?何だよ」
北上「何でも。…んじゃあねー」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北上(…『あとそれと』。
あたしは平等に手を抜くなんて器用な事が出来る奴じゃない。…あたしは何かに本気にならないんじゃなくって、なれないだけ)
北上(本気になって、何かを本気で信じて、その本気を裏切られるのが怖くて。怯懦した挙句、いつのまにか本気になれなくなってただけなの)
北上(何かに本気で取り組んで、努力して、失敗してその努力を裏切られたり…)
北上(……本気で、誰かに友愛を抱いて。勝手に誰かを愛して。それが裏切られて…手前勝手に裏切られたその自分が、今朝見た悪夢のような事をしてしまうのかって事が心底恐ろしくて堪らないだけ)
北上「…でもそれでも。ようやく、何かを真剣に好きになれそうなんだよ、提督」
北上(…『裏切られてもいい』か。
我ながら何て重い一言なんだか)
北上「………」
北上「…あー、恥ず。帰って寝てよっと…」
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−–
提督「…ってな感じでな。
何とか事無きを得たよ」
明石「…あの。事無き得てますか、それ?
ていうかそんなにまで気を抜かせたのってほぼ間違いなく…」
提督「まあ、うん。そうだろうな…」
明石「ですよね…
…あの、そろそろ止めときません?これで何か艦隊の方に支障が出てしまったら元も子もないじゃないですか」
提督「バカ言え、やめてたまるか!今回の失敗は…確かにその、酷い物だが。それなら今回の失敗を教訓にすりゃいいだけだろう!」
明石「このクサレ…!
北上ちゃんに言ってた一言は嘘ですか!」
提督「…いや、まあ…お前たちには居なくなって欲しくないってのは本心だけどさ…」
明石「へ?あ、ああ、そうですか…」
提督「…あー、なんかすまん…」
明石「い、いえ…」
提督「…それとこれとは話が別だからな!」
明石「この外道!!」