明石「艦娘の夢を操る機械を作って欲しい?」   作:マロニー

3 / 16
虚像を映す霞

 

 

 

明石「さて、次はどの娘にするんですか?

まさかやらないなんて事は無いでしょうし」

 

 

提督「その通り、やらないなんて事は無いぞ。

…次のターゲットはズバリ、霞だ!」

 

 

明石「また駆逐艦の娘ですか…

…ひょっとして提督ってロr」

 

 

提督「違うわ。これはただ駆逐艦の割合が多いだけであって、そこに他意は無い」

 

 

明石「まあそう言う事にしときましょうか。

…ところで、霞ちゃんにやるって事はやっぱり…?」

 

 

提督「…うん。まあぶっちゃけ、霞はこの装置を使う相手の大本命に位置する娘だ」

 

 

明石「…ですよねー…

実際、この装置ってこういう娘を狙い撃ちにするようなものじゃないですか。本当に性格の悪い…」

 

 

提督「作った時点で貴様も同類だろ」

 

 

明石(…何も言い返せないや)

 

 

提督「ま、お前の思っている通りだよ。

この装置は、その娘からの俺に対しての負い目があればあるほど、反応が面白くなる」

 

 

提督「逆に言うなら、素直だったり、あまり迷惑を掛けてないと…少なくとも自分で思ってる娘にはあまり効かない。こんな事はあり得ないと夢と現に区切りをつけれるような娘にも然りだ」

 

 

提督「その点、霞、満潮あたりはトップクラスに負い目もあるし自分自身が罵声を浴びせてるという実感もある。…うーん、最高だな!」

 

 

明石「…そこら辺の娘達は、ボロボロに心が傷付いている様な過去がありますからね?せめてそんな手酷い悪夢は見せないようにしてあげて下さいよ?」

 

 

提督「なぁに、それ位は解ってるとも…

つー事で夢のセッティングを始めよう」

 

 

明石「…あの、因みに霞ちゃんにはどんな夢を?」

 

 

提督「ん。まあ大した物じゃあないよ。ただ普通に」

 

 

提督「霞の度重なる罵倒に耐えかねた俺が霞の目の前で絶望し、拳銃自殺するってだけだ」

 

 

明石「よ、容赦ゼロじゃないですか!!」

 

 

提督「?不服か?」

 

 

明石「いや流石にドン引きっていうか…

もう少しこう、何というか…手心と言うか…」

 

 

提督「痛くなければ覚えませぬ」

 

 

明石(ああダメだ話が通じない… ごめんなさい霞ちゃん、私はとんでもない物を…)

 

 

提督「という訳で、セット完了!

準備オッケー!あそれ、レッツ・ゴー!」

 

 

 

カチリ

 

 

 

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 

 

 

 

【再び翌日】

 

 

 

提督「外はいい天気だよな。

鳥たちは歌い、花は咲き誇る」

 

 

提督「こんな日こそ、霞のような娘には…

悪夢を見てもらうべきだろう。違うか?」

 

 

明石『確実に違うと思います。

ていうか悪夢は既に見てるんでしょうが』

 

 

提督「細かい事はどうでもいいのさ。

という事で今俺は執務室の前にいる。

で、霞は今日秘書艦だ」

 

 

明石『あら、タイミングぴったりですね。

…もしかしてそこらも考えてのセレクトで?』

 

 

提督「いや、ただ都合の良い偶然だよ。

…それじゃあ逝ってくる」

 

 

 

ガチャ

 

 

 

提督「おはよう、霞」

 

 

霞「…ん、おはよ」

 

 

提督(さて、様子はどうかな?)

 

 

提督「いやぁ、相変わらず早いな。

俺も遅れて来たって訳じゃあ無いんだが…」

 

 

霞「少し前に来るくらいが普通なのよ。

あんたも軍人なんだしそれ位しなさいな」

 

 

提督「はは、手厳しいな」

 

 

霞「甘え過ぎなのよ、このクズ」

 

 

 

提督(…ふむ。ざっと見たところ、あまり変わった様子は見られないな)

 

 

提督(…ちょっと顔色が白く見えるか?

でもまあ、それくらいか)

 

 

提督(正直少し意外だ。もっとこう、色々と反応というか影響というかがあると思ったが…)

 

 

提督(…この態度はツンデレのツンじゃあなく、ただ単に俺が嫌いだったのか?うーん、そんな事は無いと考えてたんだがなぁ…)

 

 

提督「済まん済まん…

まあそれじゃ、仕事するか」

 

 

霞「…言われなくても解ってるわよ」

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

提督(…?)

 

 

提督(なんか、霞…今日はミスが多いな)

 

 

提督(勿論支障が出るとかいうレベルじゃ無いが、それでも自他に厳しい霞らしからぬような…)チラリ

 

 

霞「……」カリカリ

 

 

提督(…ひょっとして、あの俺の見せた悪夢のせいで寝不足だったりするのか)

 

 

提督「…なあ霞。お前、大丈夫か?」

 

 

霞「は?何がよ」

 

 

提督「体調が、だ。もしかして体調を崩してたりしてるんじゃないかと思ってな」

 

 

霞「…そんな事無いわ。平気よ」

 

 

提督「そうか?自覚が無いだけで、疲れてるのかもしれない。少し熱があるのかも」

 

 

霞「大丈夫だってば!」

 

 

提督「…本当か?本当は無理して…」

 

 

 

霞「大丈夫って言ってるでしょ!

いちいち構わないでよ!」パシッ

 

 

 

提督「痛っ…」

 

 

 

霞「……ッ!」

 

 

提督(差し出した手を振り払われる、か…

覚悟してたとはいえ、少しは凹むな)ショボン

 

 

提督「…済まない。余計な事をしてしまった」

 

提督「全く、こんなヤツが上司で悪いな。

なんて……」

 

 

提督「…霞?」

 

 

 

霞「…」

 

 

霞「……」

 

 

 

バタリ

 

 

 

提督「!?お、おい!霞!?霞!!」

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

「大丈夫って言ってるでしょ!」

 

 

 

咄嗟に、差し出された手を打ち、振り払った。

 

瞬間。彼の目が、顔が。哀しさを帯びた。

 

ぞくりと悪寒が走るようなそんな顔。

 

それは、つい今朝方に夢にて見た彼の絶望の顔と酷く似通っていた。

 

度重なる罵倒に堪え兼ね、遂に絶望の一線を越えてしまったその顔に。

 

 

本当は全く似てなぞ無かったのかもしれない。

だが少なくとも、彼女はそう思った。

思ってしまったのだ。

 

 

(違う。私は、礼を言わなきゃ。

気を遣ってくれてありがとうって…

気をかけて、心配してくれてありがとうって)

 

 

ざりざりと、悪夢のフラッシュバックが彼女の思考をノイズの様に妨げる。回らせるべき舌は止まり、動かさねばならない唇は動かない。

 

 

 

「…済まない、余計な事をしてしまった」

 

『済まない、本当に済まない…

俺は、いつも余計な事ばかりを…』

 

 

 

彼が、提督が、謝罪を口にする。

 

彼の言う事が、彼女の悪夢と重なる。

 

彼女の見た夢が、彼女の認識を蝕んでいく。

 

 

 

「全く、こんなヤツが上司で悪いな…」

 

『俺のような無能は…

もうお前たちの上に立つべきでないんだ…』

 

 

 

(違う。やめて。違うの、私はそんな。

そんなつもりじゃ)

 

 

心中の訴えを他所に、提督がホルスターから拳銃を取り出し、そして自らの口内へ。上顎へと押し当てる。

 

現実の提督が行っていないその行為を、彼女は夢を記憶した脳と、悪夢を錯覚したその網膜で見ていた。

 

 

(違うの。私は、貴方を責めてはいないの)

 

 

心の中の声は、一言も発す事が出来ない。

身体は、金縛りにかかった様に動かない。

 

 

『こんな俺を…許してくれ…』

 

 

(お願い、銃を下ろして。口からそれを出して)

 

 

『さよならだ』

 

 

(やめて。やめて!やめて!!)

 

 

 

パァン

 

 

 

(あ、あああ、ああああ、あ!)

 

 

 

彼女の耳が、現実では発せられていない銃声を聞き。

彼女の目が、現実では無い飛散する脳漿を見た時。

 

 

彼女の意識は既に夢に連れ去られていた。

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

【in 仮眠スペース】

 

 

 

 

霞「…あれ?」

 

 

提督「よう霞。おはようさん」

 

 

霞「…ごめん。あたし、どれ位寝てた?」

 

 

提督「…安心しろ。そう大して時間は経ってないよ」

 

 

霞「…そ。それじゃあ仕事を再開しましょ」

 

 

提督「今日はお前は非番だ」

 

 

霞「…何ですって?」

 

 

提督「俺がさっきそう決めた。だからお前は今日お休みだ。ゆっくりしてるといい」

 

 

霞「ちょっと、アンタ…」

 

 

提督「そんな顔で仕事をするつもりか?

そんな、ファンデーションだらけの白い顔で」

 

 

霞「…ッ!」

 

 

提督「濃ーい隈を粉塗りたくって何とか隠した、そんな酷い状態で仕事なんて出来る筈が無いさ。だから休んでてくれ」

 

 

霞「でも!」

 

 

提督「…取り繕って何かをしても綻びはいつか出る。なら、綻びなんて作らないようにやった方が良い」

 

 

霞「……」

 

 

提督「…霞。お前は、弱みを見せたくないんだろう。だからそんな白い面をしてでもここに来て、そして何事も無いかのように振る舞った。そうだろ?」

 

 

提督「でも、弱みくらい誰にだってあるんだ。

だからな。隠す必要なんて無いんだよ」

 

 

霞「……」

 

 

霞「…それでも、私がやらないと。

…私がちゃんとしないといけないのよ」

 

 

提督「…」

 

 

霞「それに、私が体調を崩したってどうでもいい。そんな大した事じゃないもの」

 

 

提督「…おい、霞」

 

 

霞「…何?」

 

 

 

ギュッ

 

 

 

霞「きゃっ…!は、離…」

 

 

提督「…お前は色々と背負い込み過ぎだ。

もう少し俺を信用してもいいじゃないか」

 

 

霞「…!」

 

 

提督「言いたくないなら何があったかは言わんでもいい。でも。それで何かがしんどいのなら、そのしんどい物を俺に任せてくれてもいいだろ?」

 

 

霞「…でも」

 

 

提督「そんなに俺が信用ならないか?」

 

 

霞「でも、だって… いいの?」

 

 

提督「勿論。なんてったって、俺はお前たちの提督なんだからな」

 

 

霞「…それのせいでアンタの心が追い詰められちゃったら、どうするのよ」

 

 

提督「そん時はそうなる前にお前にも任せる。

お互い無理しない程度にしてな」

 

 

霞「…私なんかに任せて、いいの?」

 

 

提督「俺は、お前ほど叱咤激励をしてくれるような頼もしい奴を他に知らん」

 

 

霞「こんな、罵倒ばかりの娘が?」

 

 

提督「おや、俺はいつもお前の罵倒で元気を出しちまってたのか」

 

 

 

霞「…」

 

 

霞「……」ギュッ

 

 

霞「…ねえ。信じて、いいのよね」

 

 

 

提督「当たり前だ。

だから今日はゆっくり休め。な?」

 

 

 

霞「イヤよ」

 

 

 

提督「ああ…」

 

提督「…って、えぇ!?

いやいや、ここは頷く流れだろう!」

 

 

霞「うっさいわね、私がやるべき分くらいやんないと寝覚めが悪いでしょ。だからちゃっちゃと終わらせるの」

 

 

霞「どうせアンタの事だし、大して時間は経ってないなんてのは嘘なんでしょ」

 

 

提督「!」ギクッ

 

 

霞「で、私が起きるまでアンタは仕事に手を付けないで、ずっと私の側にいたんでしょ」

 

 

提督「!!」ギクギクッ

 

 

霞「やっぱりね… ほら、今からでもその分も含めてやっちゃうわよ!」

 

 

 

ズルズル

 

 

 

提督「…いや。でも、お前…」

 

 

霞「…ねえ、『司令官』」

 

 

提督「ん?」

 

 

霞「ありがとう。頼りにしてるわ」

 

 

提督「…おう」

 

 

霞「言いたい事はそれだけよ。

それじゃ行きましょ、クズ」ズルズル

 

 

提督「解ったから引きずるのを止めてくれ」

 

 

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 

 

 

明石『…無反応なんて見当違い。でも、霞ちゃんはその苦しみを他人に…提督に見せまいと、取り繕ってたんですね』

 

 

提督「…ああ」

 

 

明石『?どうしたんですか、馬鹿に元気が無い。提督的に今のは成功ではないんですか?』

 

 

提督「いや、その…俺はもっと、罵声が飛んでこなくなるとかの軽いイメージをしてたもんだからさ…その…何というか…」

 

 

明石「…?」

 

 

提督「ちょっと…やり過ぎたっていうか。

少し反省をしてるんだ」

 

 

明石『…成る程。

…では、もうこの機械は使わないと?』

 

 

提督「それはそれとして全然使うけど」

 

 

明石『クズですね』

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。