あたしには彼氏が居る、とてもカッコよくて、大好きな彼氏が。
彼と一緒に居るのは楽しかったし、幸せだった。
ちょっとした事で笑わせてくるし、不意に撫でてくるし、愛を囁いてくれる。
あたしには勿体無い、素敵な彼氏。
こんな人にはもう二度と出会えないかもしれないくらいの、彼氏。
時にはすれ違いもあったし、喧嘩もした。
でもそれを乗り越えて、より親密な関係になっていった。
ずっとこんな時間が続くと思ってた。
でも、幸せな時間は終わりを告げた。
あたしが引っ越す事になったから、場所も言えないくらい遠い所へ。
打ち明けるのは嫌だった。
打ち明けたら彼は悲しむし、きっと止める。
あたしも離れたくなかった、でも、行かなくちゃいけなかった。
勇気を振り絞って打ち明けた時、やっぱり彼は悲しんだ。
「行かないでくれ、離れないでくれ、ずっと一緒に居たい」
そんな言葉ばかりだった。
苦しかった、それでも何時かは話さなきゃいけなかった。
引っ越す事になってからは何度も泣いた、彼と別れて家に帰ると何時も泣いてた。
幸せだからこそ、離れるのがこんなにも辛い。
彼と過ごす最後の日、あたしはめいいっぱい甘えた。
彼は受け入れてくれた、あたしが抱き着いても離れなかったし、抱き返してくれた。
いっぱい愛を囁いたし、キスもした。
ちょっとだけ彼の手つきがいやらしかったけど、あたしは気にもとめなかった。
翌日
彼と別れる時が来た、あたしはどんな表情をしているだろうか。
彼は…無理に笑顔を作っている感じだった。
無理もない、今日でお別れなのだから。
でも最後は笑顔でさよならを言いたい、あたしのわがままだ。
荷物を持ち、駅まで向かう。
あえて徒歩で向かう、少しでも長く一緒に居る為に。
道中会話は無かった、でもただ隣に彼が居るだけで、あたしの心は満たされていた。
駅に着いた、そろそろお別れの時間。
彼の顔を見るのが怖かった、何とか普段通りの表情を保とうとしているけど、あたしの顔は泣きそうになっているだろう。
それでもあたしは彼と向かい合った、最後に彼の顔をしっかりと目に焼き付ける為に。
彼にあたしという存在を忘れないでもらう為に。
「行ってくるね」
あたしは今出来る精一杯の笑顔でそう言い、改札へ向かう。
切符を通そうとした瞬間後ろから衝撃が起き、切符を落としてしまった。彼が後ろから抱き着いてきた。
彼の腕は震えていた、「行かないでくれ」と言わんばかりに。
それでもあたしは行かなくちゃいけない。
「大丈夫、あたしが居なくても貴方は強く生きていける。
それに、もう二度と会えない訳でも無い、そうでしょ?
きっとまた会えるから。
あたしは貴方の事をずっと大好きだよ、もしまた会えて、貴方もあたしの事をまだ好きで居てくれたなら…その時は結婚したいな」
彼に振り向いてそう告げた、彼の顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃだった。
笑顔でお別れしたかったから、ハンカチで拭いてあげた。
そしてそのハンカチを彼に渡した。
「これは約束、また会えたら、このハンカチを返して。絶対よ?」
折角拭いたのに彼の顔は涙でぐちゃぐちゃになった、最後くらい…笑い合いたいのに…
「○○」
あたしは俯いてた顔を彼に向けたと同時に、唇に柔らかい感触が伝わった。
何時もは私からキスするのに、彼からキスしてくるのは初めてだった。
「っ…!ばか…あたしまで決心鈍っちゃうじゃん…!」
結局あたしもその場で泣き出してしまい、乗る予定だった電車には乗れなかった。
次の電車を待つ間で、あたし達は冷静になっていった。
彼はずっとあたしに抱き着いて離れなかった、普段なら嬉しいのに今は心が少し苦しかった。
電車が来る10分前、今度こそ電車に乗らないといけない。
これ以上ずっと居たら、もっと別れが辛くなるから。
「それじゃあね、元気でね」
荷物を持って今度こそ改札を通る、今度は切符をちゃんと入れて通る事が出来た。
これで、お別れ…
「○○!」
振り向くと、彼が駅員に止められながらも改札を進もうとしていた。
「○○、大好きだ!ずっと、ずっと大好きだから!愛してる!」
ばかだなって思ってしまった。
そんな事言われなくても…分かってるのに…
「…」ニコリ
あたしはただ笑顔を向け、ホームへ向かっていった。
階段を降りている時、涙が頬をつたっていた。
彼と別れて数ヶ月が経った。
あたしはというと毎日が忙しかった、慣れない土地での生活もあるが、周りの人達とのコミュニケーションも中々とれない状況だ。
それでも、自分が望んだ事だから。
自分の限界に挑戦したかったから。
それでも今少し、挫け始めていた…
そんなある日、一通の手紙が届いた。
差出人は、父からだった。
なのに筆跡は…彼だった。
○○、元気か?
手紙を出そうにも、○○が何処に行くのか教えて貰ってなかったから、親父さんに頭下げて送らせてもらってます。
○○を見送った後暫くは泣きまくった日々だった、ふとした時に○○と過ごした日々が頭に蘇るくらいに。
辛かった、苦しかった、○○に会えないのが嫌だった。
でも、○○も辛く、苦しかったのかと思うと泣いていられないと思ったんだ。
俺に打ち明けるまでに沢山悩んだだろうから…
それでさ、○○も頑張ってるって思うとさ、俺も1つ頑張ろうと思ってるんだ。
○○と会う前に諦めた夢があってさ、それに向けて今色々とやってるんだ。
また○○に会えた時に、胸を張って自慢出来るようにしたいからさ。
だから、心配しないで?
俺はこっちで、頑張るから、立派に生きるから。
無理しちゃダメだよ?ちゃんと睡眠もしっかりとってね。
食事もきっちりね、俺と会った時に不健康だったら怒るからね。
何時かまた会える日まで。
ずっと大好きだよ、○○、愛してる。
彼からの手紙を何度も読み返した。
何度も、何度も。
読む度に涙が出てきた。
彼を残して来たことが心残りだった。
ずっと幸せな日々を送ってたから、突然その幸せが無くなったのだから。
それでも彼は頑張る道筋を見出した、再会を夢見て。
あたしも、彼に相応しい女性にならなきゃと思う。
何時再開出来るかも分からない、もしかしたらもう永遠にそんな未来が来ないかもしれない。
それでも、あたしは成長したい。
再開した時に、あたしも胸を張って会いたいから、がっかりして欲しくないから。
彼があたしの事を好きでなくても、アンタはこんな素敵な女性の事を振ったのよって、そんな事を言えるくらいになりたい。
彼があたしを好きじゃなくなった事を考えるのは辛いけど。
彼の事をあたしはずっと愛している、この気持ちは未来永劫消えないだろう。
あたしは頑張る、未来に向けて。
どんなに時間がかかろうとも、あたしは夢を実現してみせる。
そして、何時かまた彼に会うんだ。
恋する乙女の行動力は凄いのだから。