朝日がまだ昇り切らないような朝。
ペコリーヌは、ベッドの上で一人ごちる。
「ん~……もう朝ですか……」
朝とはいっても、まだ時間は午前5時。起床するにしてはいささか早すぎる時間帯だ。
寝ぼけまなこを擦りながら、ペコリーヌは部屋を出る。こんな朝早くから起きているのには理由があった。
いつもの服――王族の装備に着替えてから厨房に立つ。
「よし。えーっと、お肉お肉……」
そういって、ペコリーヌは肉の塊を取り出した。
「ふふ。やっぱりラースドラゴンのお肉は美味しそうですねぇ……!」
そういって、じゅるりと涎をすする。
ペコリーヌがこんな時間帯に起きてまで厨房に立っている理由は、このラースドラゴンの肉にあった。
肉が厚く、脂身もほどよくあり引きしまった美味しいこの肉は、調理に少々手間がかかるのだ。
そこそこ値段の張ったこの肉を美味しく調理するには、ある程度の時間が必要だった。それに――
「キャルちゃん、コッコロちゃん、ユウキくん……みんな喜んでくれるでしょうか」
ギルドの仲間たちにはこれを秘密にしていた。今まで色々と助けてくれたみんなへの、ささやかな恩返しがしたかったからだ。みんなにばれないように調理するには、誰も起きていないこの時間帯が最善だとペコリーヌは考えていた。
「……っと、考えてても仕方ないですね。早く調理を始めないと時間が足りなくなっちゃいます」
ペコリーヌが肉に手をかける。
今回、ラースドラゴンの肉を使って作る料理は、素直にただ肉を焼いたステーキ。焼いただけでも、ラースドラゴンの肉はとても美味しいらしい。素朴なのもそれはそれで美味しいだろうと、ペコリーヌはまたもや涎をすすった。
包丁を手に取り、肉に刃をあてる。グッと押し込むと、厚い肉がゆっくりと切断されていった。さすがの肉の厚さに驚きつつ、そのまま四等分に分ける。
それらに適当に切り込みを入れて、塩とコショウを振った。これだけでもなかなかおいしそうだと、ペコリーヌが頷く。
フライパンに火をかけ油を敷いて、十分に熱されたあたりで、肉をその上に放り込んだ。ジュウっといい音が鳴って、フライパンの上で油が跳ねる。
「これは美味しくなりそうです……!」
ペコリーヌが目を輝かせる。
ラースドラゴンの肉は、火が通るまでに時間がかかる。これはラースドラゴンに火属性の耐性があるせいらしい。市販のフライパンではかなりかかると店主から聞いていたペコリーヌは、少し心配しつつも肉が焼けるのを見守る。
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2時間ほど待って、外が明るくなってきた。そのあたりでようやく火が通りいい色になったステーキを、ペコリーヌが皿に盛り付ける。炊いた米も茶碗によそって、テーブルに並べる。
ペコリーヌがその光景を満足げに見ていると、階段の方から足音が鳴った。
「あ、コッコロちゃん。おはようございます!」
「ペコリーヌさま。いい匂いがしたので降りてきたのですが、これは……?」
コッコロがテーブルの方を見て、小首をかしげる。
その後ろから、キャルも降りてくる。
「ん~……ペコリーヌ、朝から何作ってるの?」
かなり眠そうだが、美味しそうな匂いにつられて降りてきたようだ。しっぽがゆらゆらと揺れていた。
「ふふふ。聞いて驚かないでください? これはラースドラゴンのお肉です!」
ペコリーヌが自慢げに言う。
「ラースドラゴンと言うと……古くから伝承に伝わる、あの?」
「はい! なかなか美味しいらしいので、奮発して買っちゃいました!」
一呼吸おいて、ペコリーヌが続ける。
「ほら、わたし、みんなにいっぱい助けてもらってるじゃないですか。なので、その恩返しということで!」
ペコリーヌがにっこりと笑って言う。
「あんたねえ……そんなこと言って、自分が食べたいだけじゃないの?」
「えへへ。ばれちゃいましたか? 実は、それもちょっとだけあったり……」
「ほんとにもう……」
口ではそういいつつも、キャルは満更でもなさそうに笑った。
「じゃ、冷めないうちに食べちゃいましょ」
キャルがそう言うと、コッコロも嬉しそうに笑いながら言う。
「それでは、わたくしは主さまを起こしてまいりますね」
コッコロが2階に上がっていく。ペコリーヌとキャルが机に座って待っているとすぐに二人が降りてきた。
「ユウキくん、おはようございます」
「おはよー」
ペコリーヌとキャルが声をかけると、ユウキも眠そうに目を擦りながら答える。
「おはよう、ペコリーヌ、キャル」
ユウキとコッコロがテーブルに着くと、キャルがユウキに言う。
「これ、ペコリーヌが私たちへの恩返しにだって」
それを聞いて、ユウキは驚いたような表情になる。相変わらず感情が分かりやすい少年だ。
「ありがとう、ペコリーヌ」
「いえいえ、そんな、こちらこそですから!」
ペコリーヌが言うと、ユウキが親指をたてた。それを見て、三人が笑う。
しばらくして、キャルが慌てたように言った。
「ちょ、こんなことしてたらせっかくのお肉が冷めちゃうじゃない」
「あはは、そうですね」
ペコリーヌが笑って、それではと手を合わせる。他もそれに続いて手を合わせた。
「それじゃあ、いただきます!」
「「「いただきます」」」
四人は、美味しそうに肉を頬張った。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
プリコネアニメ終わっちゃいましたね。喪失感パナイです。