ホラー……が、好き、なので……ゾンビを……愛でたいと……思います   作:寿限夢

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 ★本日二話目です!
  一話目が未読の方は前からどうぞ!


ホラー少女と死霊の洞穴

「「やああっ!」」

 

 

 薄暗い洞窟に、ふたりの少女の声が響く。

 そこは、深く入り組んだ洞窟の、少し拓けた場所であった。

 壁や天井が、ドーム状に広くなっており、壁には、いくつもの分かれ道が伸びている。

 分岐点――

 さながら、闘技場のようになったその場所で、今、ふたりの少女が、四人の男女に囲まれながら、ひとりの男と戦い……否。

 

 

「おらぁ!」

 

 

 体よく弄ばれていた(・・・・・・・・)

 

 

「きゃあっ!」

 

「お姉ちゃん!?」

 

 

 ふたりの少女のうち、ひとりの黒髪の少女が、大剣の男に吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた。

 少女のHPが急激に減っていく。

 そのまま全損して、少女は光の粒子となって消滅した。

 

 

「うわ、よっわ!?」

 

「一撃とかマジでありえねぇ!」

 

 

 周囲で見ていた、四人の男女が笑う。

 言ったのは短剣使いの女、斧使いの男のふたりの男である。

 残りの槍使いの男と魔法使いの女は、互いに肩を寄せ合いながら、その様子をニヤニヤと眺めている。

 

 

「あ~悪い悪い! おまえの姉ちゃん、先にやっちまったわ!」

 

 

 残った少女へ向け、大剣使いの男がへらへら笑いながら言った。

 

 

「あんまりにも雑魚過ぎるからよぉ、手加減難しいわ~!」

 

「つーか、マジ弱すぎ!」

 

「あ~あ~お姉ちゃんやられて妹ちゃんかわいそう~!」

 

 

 続けて、下卑た笑みを浮かべて、短剣使いの女と、斧使いの男が笑う。

 少女は大槌を手に、ぎりりと唇を噛んだ。

 

 

「まぁ大丈夫! すぐお姉ちゃんのところに送ってやるからよぉ!」

 

おにい(・・・)、はやく終わらせてあげなよ~!」

 

「向こうでお姉ちゃん、きっと泣いてるぞ~?」

 

 

 おどける大剣使いの男に、魔法使いの女と槍使いの男が言う。

 姉をバカにするその言葉を聞いて、少女が吼えた。

 

 

「……やあああっ!」

 

 

 少女が大槌を構え、大剣使いの男へ駆ける。

 だが、その速度は異様に遅い(・・・・・・)

 少女が大槌を振るう、その前に。

 

 

「そらよっ、と!」

 

 

 大剣使いの男が剣を振り、少女を斬り捨てた。

 

 

「あっ……!」

 

「消えな、雑魚が」

 

 

 言いながら男は大剣を振り、血振りするようにして鞘に収めた。

 少女が地面に倒れる。

 倒れたその先で、少女は光の粒子となり、小さなメダルを残して消えた。

 

 

「イェーイ、メダルゲットォ♪」

 

 

 大剣使いの男がメダルを拾い、にたにたと笑う。

 

 

「いや~やっぱオレ強ぇな~!」

 

「よく言うわ!」

 

チートでズルしてる(・・・・・・・・)クセによ!」

 

 

 言いながら、短剣使いの女と斧使いの男が、げらげらと笑い声を上げる。

 その言葉に、大剣使いの男も笑って答える。

 

 

「ハァ~? いやいや! オレの実力だし!」

 

「じゃあその武器使うなよ!」

 

STR+2000(・・・・・・)の大剣持って実力とか!」

 

 

 続けて言ったのは、槍使いの男と魔法使いの女だ。

 

 

「つーか、イジり過ぎ(・・・・・)でしょ!」

 

「おにいは加減できないからね~♪」

 

「ウッセ! オレが作った武器(・・・・・・)なんだから、全部オレの実力なんだよ! つーか、お前らもそうだろうが!」

 

「「「「確かに!」」」」

 

 

 そう言って五人の男女は、大声を上げて笑った。

 彼らの言うチートとは、武器の不正改造(・・・・)。武器のデータをいじり、不正に強化することである。

 それにより五人は、通常では有り得ないほどのステータスを手に入れている。

 

 そしてそれは、今回が初めて(・・・・)ではない。

 

 

「でも、マジで気をつけなよ? 前のゲームでも、それでチートがバレたんだし」

 

 

 彼らは常習的にゲームのデータを改竄して荒らし回る、いわゆるチーター集団であった。

 

 

「あぁ? 別に大丈夫だろ? なんたってこっちには(このゲーム)、公式でチートがいるんだしよぉ?」

 

「あ~なんかいたね~?」 

 

「たしか、メイプル……と、シノ……だったっけ?」

 

「だろ? あんなんが許されるんだから、オレらも何したって許されるべきだろう?」 

 

「「「「確かに」」」」

 

 

 彼らの中では、すでにメイプルや紫乃は、公式御用達のチータ―という認識になっている。

 無論、実際にはそんなことはない。

 メイプルも紫乃も、チーターでも何でもない、至って普通のプレイヤーだ。

 

 だが、そんなことは関係ない。

 

 彼らにとって、自分たちより上というだけで、許せない(認められない)存在なのだ。

 自分こそが一番。それ以外は見下し、卑下する対象。

 そうでないと自身を保てない、醜く汚らわしい、自意識と自尊心(プライド)

 劣等感――その塊なのである。

 

 

「あ~なんだったら今すぐふたりとも見つけだして、どっちもヤッちまうか!」

 

「さんせ~い!」

 

「たしか、ふたりとも金メダル持ってんだよな?」 

 

「なら、他の奴らもやっちまおうぜ」

 

「あ~それなら私、あの“メイプル”とかいうの潰した~い! 『噛んじゃった』とか、ぶりっ子してて、マジむかつくから」

 

 

 言いながら、大剣使い・短剣使い・斧使いの三人は、それぞれが気に入らない相手をチート武器でボコボコにするところを夢想し、下卑た笑いを浮かべる。

 なお、実際にはSTR2000程度の攻撃では、メイプルには傷ひとつつけられないし、物理攻撃無効の紫乃には、なんの効果もない。

 

 

「おい、そこのバカップルふたり!」

 

 

 大剣使いの男が、後ろに向かって声をかけた。

 見れば、槍使いと魔法使いの男女が互いに抱き合い、またイチャついていた。

 

 

「いつまでもイチャついてねーでさっさと行くぞ!」

 

「うっさいなー! ちょっと待ってよ!」

 

 

 そう言って眉を顰めたのは、魔法使いの女である。

 

 

「オレ達のことは気にせず、お先にどうぞ!」

 

 

 続けてそう言ったのは、槍使いの男であった。

 言いながら槍使いの男は、胸に抱いた魔法使いの女を、さらに強く抱きしめる。

 抱かれた魔法使いの女は、うっとりとした顔をしている。

 

 

「ったくよぉ!」

 

 

 魔法使いの女――リアルでの妹のイチャつきっぷりに、大剣使いの男は舌打ちした。

 他のふたりも、やれやれと肩をすくめ、視線をそらしている。

 そんな三人を他所に、魔法使いと槍使いのふたりは互いに見つめ合い、自分たちの世界に浸っていた。

 

 

「ふふ……」

 

「ふふふ……」

 

 

 胸に抱く魔法使いの女の髪を、槍使いの男が、手で漉くようにしてそっと撫でつける。

 女は、恍惚とした表情とした表情を浮かべた。

 そのまま槍使いの男の胸に、顔を埋め、ゆっくりと、瞳を閉じた。

 

 

 ――その時だ。

 

 

 

 ばつんっ

 

 

 

「え?」

 

 

 べき、ごき、ぐちぃ……

 

 

 女の頭上から、酷く奇妙な音が聞こえた。

 重く湿った何かを、圧し潰すような音だ。

 女が、顔を上げる。

 

 

 ぐち、ぐちゃ、くちゃくちゃ……

 

 

 見上げたその先に、槍使いの男の顔はなかった。

 あったのは、下顎から上がなくなった、男の身体だけだ。

 その後ろには、巨大な赤黒いゾンビが、くちゃくちゃと音をたて、何かを咀嚼している。

 

 

 ぐちゃ、くちゃ……

 

 

 その口の中に、槍使いの男と同じ髪色をした、ぐちゃぐちゃの頭部が見えた。

 

 

「い……いやぁああああッッ!!」

 

 

 魔法使いの女が、高い声をあげ叫んだ。

 女は叫びながら、槍使いの男の身体を払いのけ、大剣使いの男たちの方へと駆け寄っていく。

 

 

「な、なんだ!?」

 

「どうした!?」

 

 

 女の声に気付き、大剣使いの男たちも、後ろを振り返った。

 見れば、魔法使いの女が、泣きながらこちらへ走ってくる。

 どういうことなのか、状況を理解しようとした。

 だが、それよりも先に、

 

 

 ごきんっ

 

 

 駆け寄ってきた魔法使いの女の首が折れ、上下反転して、胸元に垂れ下がった。

 分かれ道から現れた、もう一体のゾンビが、女の頭を掴み、首の骨を無理やりにへし折ったのだ。

 女の足は止まらない。

 胸元に首をぶら下げたまま二、三歩走り、それから足をもつれさせ、地面を転がるようにして倒れた。

 

 

「ひっ!?」

 

 

 短剣使いの女が、小さく声をあげた。

 

 

「な、なんだコイツら!?」

 

 

 そう言って震えるような声をあげたのは、斧使いの男である。

 見れば、周囲の分かれ道から、次々とゾンビが溢れ出し、三人を取り囲んでいる。

 

 

「「「「「Guu……」」」」」

 

 

 そして、そのゾンビの姿に、三人は心当たりがあった。

 

 

「こ、コイツら、シノのゾンビだ……!」

 

 

 斧使いの男が、震えながら言った。

 

 

「近くにいるの!?」

 

「わ、わからない……でもネットで見た奴と、同じだし……!」

 

 

 短剣使いの言葉に、斧使いの男が尻すぼみに答える。

 もともとは臆病な性格なのであろう。

 先ほどまで強気でいたが、実際に実物(紫乃のゾンビ)その惨状(知人が殺されるの)を目の当たりにして、心が折れかけていた。 

 

 

「ハッ! ならちょうど良い! だったら今すぐ見つけ出して、ぶっ潰してやる!」

 

 

 言いながら大剣使いの男が、背中に負っていた大剣を構えた。

 自慢のチート武器――STR2000の大剣である。

 

 

「コイツがあれば、おれは負けねぇ! こんな雑魚、すぐ片付けてやる!」

 

 

 そう言って大剣使いの男が、構えた大剣を振り上げながら走り出した。

 狙うのは、一番手前――つい今しがた自身の妹を手にかけたゾンビだ。

 

 

「おらぁっ!!」

 

 

 間合いに入るのと同時に、振りかざした大剣を、真上からゾンビの頭上に打ち下ろした。

 この時、既に大剣使いの脳裏では、頭から真っ二つになったゾンビが夢想されていた。

 

 それ故に、目の前の状況に、理解が遅れた。

 

 

 がしっ、

 

 

「え?」

 

 

 男の口から、間の抜けた声が響いた。 

 というのも、男の大剣は、ゾンビに届いていない――いや、それどころか、振り下ろせてすらいなかった。

 どういうことかというと、男が間合いに入るのと同時に、ゾンビが前に踏み出し、男の両手首を掴んだのである。

 剣を振りかざしたまま、男は、ゾンビに吊りあげられる形となった。

 

 

「な、は、離せっ!!」

 

 

 吊り上げられた姿勢のまま、男が足をばたつかせ、ゾンビを振りほどこうとした。

 が、振りほどけない。

 それどころか、ゾンビはますます強い力で爪を食い込ませながら、掴んだ男の手首を、自身の顔に近づけていく。

 

 

「は、はな――」

 

 

 男が、ゾンビに蹴りを出そうとした。

 だが、それよりも速く、

 

 

 ごりっ

 

 

 男の指に、信じ難いほどの激痛(・・)が走った。 

 ゾンビが、男の指に噛じりついたのだ。

 身体の内側を通って、肉がちぎれ、骨が噛み砕かれる音が響いてゆく。

 

 

「あぎゃああああああっ!!!?」

 

 

 あまりの痛みに男は悲鳴をあげ、ジタバタと暴れ回った。

 口の端からよだれを垂らし、みっともなく泣きわめく。

 だが、ゾンビは手を離さない。

 男の手を掴んだまま、ゆっくりと指を食いちぎる。

 

 

 ぐち、かつん、ごりん……

 

 

「ひいいいいっ!」

 

 

 しばらくして、ゾンビが男の手を離した。

 男が地面に落ち、その場に尻もちを着いた。

 男を見下ろしたまま、ゾンビが口を開き、ぬらりと舌を出す。

 その舌の上に、太い芋虫のようになった、男の指が転がっている。

 

 ごりん、

 

 ゾンビはそれを見せつけてから、ごりごりと音をたてて咀嚼し始めた。

 

 

「ああ、あああああっ……!!」

 

 

 指を食われた男は、地に蹲りながら泣き声をあげていた。

 両手から生じる燃えるような痛み。

 目の前がチカチカとした。

 全身から汗が吹き出し、芋虫のように身体を丸めた。

 

 

 (な、なんで……!?)

 

 

 痛みに悶えながら、男の冷静な部分が考える。

 

 

 (なんで……こんな、痛み(・・)が……!?)

 

 

 通常【NewWorldOn-line】では、痛覚が最低限にまで抑えられている。

 あまりリアルにしすぎると、現実での肉体や精神に、悪影響を及ぼすためだ。

 かといってゼロにしてしまうと、今度は密接した感覚である“触覚”すらも感じられなくなってしまうので、ある一定以上の痛覚は、“衝撃”という形で置換されている。

 

 

(それなのに、なんで……!?)

 

 

 苛む激痛に悶えながら男は考える。

 そして思いつく。

 自身にとって、最悪の原因を。

 

 

(バグ――!?)

 

 

 男たちが行ったのは、不正コードを利用した、既存武器のデータ改竄。

 だが当然、不正規なプログラムでの改竄は、システムにバグを生み出す。

 それによって発生したバグ――そのひとつ(・・・)が、プレイヤー保護の痛覚変換の機能停止(・・・・)

 これにより彼らの痛覚は、現実とまったく同じ(・・・・・・・・)状態になっていたのだ。

 

 

(傷が治らねぇのも、そのせい――)

 

 

 男の手の指は、復元されないまま、いまだに痛みを発している。

 

 

(おれの剣が、受け止められたのも――)

 

 

 男たちの武器は、 確かにチートにより強化されていた。

 だが、しかし、男たちのステータスには反映されていなかったのだ。

 武器の攻撃力が発揮されるのは、攻撃中、武器の刃に触れた対象(・・・・・・)だけ――。

 故に、男の手(・・・)を掴んだゾンビには、その攻撃力が発揮されず、たやすく止めることが出来たのだ。

 

 

(く、くそ……!)

 

 

 探せばいくらでも見つかる、致命的な欠陥。

 しかし、男たちは不幸にも(・・・・)それに気付かないまま、ここまできてしまった。

 自身は優れているという、慢心と傲慢が、男たちの目を曇らせた。

 その付けが巡り巡って、今、最悪の状況となって男たちに襲いかかっていた。

 

 

「いやぁあああっ!!」

 

 

 思考する男の耳に、女の叫び声が届いた。

 見れば、短剣使いの女が、ゾンビに首を捕まれ、壁に追いやられている。

 様子から察するに、男がやられている間にひとり逃げようとしたであろう。

 押しつけられた壁のすぐ横に、洞窟の脇道が見える。

 

 

「GuU……」

 

「ぁああっいやだ!! 離せぇっ!! 離せよぉっ!!」

 

 

 女は押さえつけられたまま、けたたましい声をあげて、ゾンビの手を叩いた。

 腰の短剣にも手を出さず、素手のままで、だ。

 心がパニックを起こし、冷静な判断が出来ないようである。

 

 

「離せぇっ!!」

 

 

 口汚く罵る女の顔を、ゾンビは、黙って見つめている。

 ゾンビが片手をあげて拳を握り、人差し指だけを伸ばした。

 伸ばした人差し指をそのまま、女の左眼の瞼と眼球の間にひと息に捩じ込んむ。

 

 

「いぁああああああっ!?」

 

 

 脳味噌が弾け飛ぶような痛みに、女は獣のような声をあげた。

 ひきつけを起こしたように、全身を強張らせる。

 

 

「ぁあっ!! ひぁああぁああっ!!」

 

 

 喚き続ける女を冷然と見据えながら、ゾンビが突き入れた指を、鉤状に曲げ引き抜いた。

 女の眼球が、ぼろりとまろび出る。

 こぼれ出たその眼球を、ゾンビが口に入れ、女の目の前でくちゃくちゃと噛み潰した。

 

 

「ぁあ、ああああっ!!」

 

 

「うわぁああああっ!!」 

 

 

 それらの様子を見て、斧使いの男が、声をあげて泣いた。

 口からよだれを垂らし、失禁までしていた。 

 腰が引けたまま、むちゃくちゃに斧を振り回した。

 

 

「ああ! く、来るな、くるなァっ!!」

 

 

 まるでだだをこねる子どものように、男は斧を振り回しながら、後方に後退っていく。

 その後方に回りこんだ一体のゾンビのが、斧使いの肩を掴み引いた。

 

 

「あっ!?」

 

 

 後ろから突然、肩を引かれた斧使いが、バランスを崩し、地面に仰向けに倒れた。

 押し倒された斧使いの身体を、ゾンビたちが覆いかぶさるようにと囲取りんだ。 

 

 

「いあああああっ!!」

 

「うわぁああああっ!!」

 

 

「あ、ああ、あああ……!」

 

 

 瞬く間に倒されていく仲間たちを見て、大剣使いの男は愕然とした。

 山のように群がったゾンビたちの下から、仲間(短剣使いと斧使い)の悲鳴が響いてくる。

 自分も、いずれああなるのか。

 男の後ろで、男の指を食ったゾンビがゆっくりと動き出す。

 自身に迫りくる恐怖と絶望を感じ、大剣使いの男は、小さく、ひいっと声をあげた。

 その時だ。

 

 

「ぁああいやだぁあっ!!」

 

 

 むちゃくちゃに振った斧使いの男の腕が、不意に、押さえつけていたゾンビの一体の顔にぶつかった。

 ぶつけられたゾンビの顔が、明後日の方向を向く。

 その拍子に、ゾンビの歯の隙間から、小さな飴玉(・・)がこぼれ落ちた。

 

 

 

 ざわっ、

 

 

 

 その瞬間、その場にいた全てのゾンビの、動きが止まった。

 

 

「は……?」

 

「へ……?」

 

 

「「「「「……」」」」」

 

 

 突然、動きを止めたゾンビたちに、斧使いと大剣使いの男は揃って奇妙な声をあげた。 

 ゾンビたちの視線は、地面に落ちた、飴玉に注がれている。

 

 

「……」

 

 

 落としたゾンビが、落ちた飴玉をつまみ、そっと拾いあげた。

 口の中に放り込み、ばりばりと音をたてて噛む。

 

 

 ごくん……

 

 

 飴玉を食べ終えたゾンビが、ゆっくりと、視線を斧使いの方へと向けた。

 他のゾンビたちも、一斉に斧使いを見た。

 真円に見開かれたゾンビたちの眼に、怯えた斧使いの顔が映り込む。

 

 

「ひっ――」

 

 

 斧使いが、小さく息を飲んだ。

 その次の瞬間――

 

 

 ぐじゃあっ! 

 

 

 凄まじい勢いで、ゾンビの拳が、斧使いの顔面に叩き込まれた。

 斧使いの顔面が潰れ、鼻がひしゃげる。

 

 

「GuooOO!!!」

 

「「「「「GuooOO!!!」」」」」

 

 

 その場にいた他のゾンビたちも皆、一斉に斧使いの男に飛びかかった。

 ゾンビたちの拳が、蹴りが、爪が、男に襲いかかる。

 肉は裂け、骨は砕け、臓物が破けて潰れた。

 上唇に手をかけ、そこから顔面の皮を剥ぎとるもの。

 折れた肋骨を剥ぎとり、まだ動く肺に突き刺すもの。

 斧使いの斧を使い、手足を切り落とし、砕いてばらばらに引きちぎるものや、股ぐらの男のもの(・・)を握り潰し、そこから手を入れ、臓物を引きずり出すものなど、ありとあらゆる暴虐が、斧使いの男の身に降り注いだ。

 

 

「あぎ、ひぎぃああああっ!!」

 

「ひぃぃっ!!」

 

 

 その光景に、大剣使いの男が声をあげた。

 両手を庇いながら、地面から立ち上がり逃げ出した。

 一番近くの脇道へと駆ける。

 傷口が痛み、思うように走れなかったが、ゾンビたちは斧使いの男に集中していて、大剣使いの男には気付いていない。

 脇道の入口に差しかかった。

 その時、男の左手が、誰かに掴まれた。

 

 

「!?」

 

「ま……って……」

 

 

 男が、驚きながら振り返った。

 見ればそれは、短剣使いの女であった。

 

 

「あ()、し……も……」

 

「ひいっ!?」

 

 

 掠れる声ですがる女を見て、男は小さく声をあげた。

 女の容貌は、恐ろしく変貌していた。

 顔の肉が削がれ、頭の皮が半分、頭部からめくれている。

 両の乳房は抉り取られ、左腕が無く、右足は膝の下から、ぐちゃりと潰れていた。

 

 

「たすけ……おね……が、ぃ……」

 

 

 空っぽになった左の眼から、女が涙をこぼした。

 こぼれた涙が、剥き出しになった女の歯と顎を伝い地面へ流れる。

 と、その時、男はゾンビの一体が、こちらを振り向いたことに気付いた。

 

 

「~~ぁああっ!? は、離せぇっ!!」

 

 

 男が腕を振り、女の手を払いのけた。

 ぶちり、と音がした。

 脆くなっていた女の手がちぎれ、男の腕にぶら下がっていた。

 

 

「ああああ~~っ!」

 

 

 男は悲鳴をあげながら、腕についた女の手を引き剥がした。

 引き剥がした手を、地面へ放り投げる。

 そのまま脇目も振らず、脇道の奥へと駆け込んでいった。

 

 

「っ……まっ……て……おいて、かな……っ」

 

「あああ~~! あああ~~!」

 

 

 泣いて縋る女を見捨てて、大剣使いの男は逃げ出した。





 次がラスト!

サービス回……いる?

  • いりゅううう!!(ホラー)
  • いりゅううう!!(セクシー&ギャグ)
  • 要らぬ!!
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