ホラー……が、好き、なので……ゾンビを……愛でたいと……思います   作:寿限夢

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ホラー少女と黒い羽

 

『『『『『GUOOO!!』』』』』

 

 

 襲いかかる人形の群れに、ゾンビたちが正面からぶつかっていく。

 剣や槍、拳が交差する。

 互いに撃ち合い、乱戦となったエントランスの中を、銃を構えたメアリーが駆け抜ける。

 

 

「ハッ!!」

 

 

 駆け抜けたメアリーが、ドレスの人形に向かって発砲する。

 

 

『ちぃっ!』

 

 ぎゃりん!

 

 

 しかしその攻撃を、ドレスの人形は側にいた盾を持った人形を前に出して防御した。弾かれた銃弾が、明後日の方向へ飛んでいく。

 

 

『バカが! 同じ手にかかるかよ!』

 

 

 言いながらドレスの人形がメアリーへと右手を振るう。すると、周囲にいた弓や杖を持った人形たちがメアリーに向け一斉に構えた。

 

 

『死ねっ!』

 

 

 大量の矢や魔法が、メアリーに向け放たれる。

 向かってくるそれら攻撃を、メアリーは乱戦するゾンビや人形たちの間を走りながら避け、避けきれないものには銃撃して相殺していく。

 

 

『きゃははははっ!! ほらほらはやく逃げないと、お友達にぶっ殺されちゃうよ!!』

 

 

 人形が甲高い笑い声をあげる間も、魔法や矢の弾幕は徐々に増え、エントランス中を埋め尽くすように降り注いでいく。周囲のゾンビや味方の人形にも当たっているがお構い無しだ。

 しかし、それでも肝心のメアリーには当たらない。

 

 だが、メアリーを狙うのは、なにも矢や魔法だけではない。

 

 

「シッ!」

 

 

 顔面にきた矢を避けたメアリーが、鋭い呼気と共に背後に裏拳を放った。

 ぐしゃり、という音と共に、剣を振りかぶった人形の顔面が潰れ、光の粒子となって消滅した。

 

 そう、ゾンビと乱戦している剣や槍を持った人形も、隙を見て攻撃してくるのだ!

 

 

『きゃはははッ!』

 

 

 メアリーが迎撃している間にも、矢や魔法の弾幕がさらに苛烈さを増していく。それと同時に、剣や槍を携えた人形たちもゾンビたちを無視して、メアリーに集中して襲いかかり始めた。

 

 

『きゃははははッ!』

 

 

 

 ……だが、しかし。

 

 

 

「――おい、いいのかァ?」

 

『ああッ?』

 

 

 

 人形たちは忘れていた。

 

 

 

 

よそ見しててよ?(・・・・・・・)

 

 

 

 ここには、紫乃がいる(・・・・・)

 

 

 

「……【嘆きの妖精(バンシー)】……」

 

 

「いやぁああああああああああああああッッッッ!!!」

 

 

 紫乃の言葉と共に、死を招く女の悲鳴がエントランス中に響き渡る。

 それによりエントランスにいた人形たちのほとんどが動きを止め、あるいは絶命し、光の粒子となって消えていった。

 

 

『が、ァ……!?』

 

 

 そしてそれはドレスの人形も同じであった。

 ボス故の耐性により即死こそしなかったが、【恐怖】によりその場から動けなくなった。

 当然、

 

 

『ァ……ぐぎゃッ!?』

 

 

 そんな隙を、メアリーが見逃すはずもなく――

 

 

「Hey,DOLL?」

 

 

 ドレスの人形に蹴りを入れそのまま踏みつけにしたメアリーが、人形の眉間に二つの銃口を押し付ける。

 

 

「ご機嫌なルームサービスの時間だぜッ!!」  

 

 

 そして、そのまま無慈悲に引き金を引きまくる。

 

 

 

『ァァアアアッ!!?』

 

 

 

 押し付けられた二つの銃口から、大量の銃弾の雨が人形に叩きつけられていく。悲鳴をあげるドレスの人形の顔が粉々に砕け散り、内側から赤い肉のようなものが散らばった。

 

 

『ァァァアアアアアアッ!!』

 

『『『『『GUOOO!!』』』』』

 

 

 そして、それに呼応するように周囲にいたゾンビたちも暴れ回った。拳や脚を振り、【恐怖】で動けなくなった周囲の人形の頭を砕き、叩き、壊し、止めを刺していく。

 

 エントランス中に銃声と人形の悲鳴と粉砕音、ゾンビの咆哮が響き渡る。

 

 

 

 

 そして、人形のHPが半分になった時点で、それは起こった。

 

 

 

『ガァァァアアアッ!!』

 

「ッ!」

 

 

 突然、ドレスの人形が獣のような雄叫び声をあげ、自身の周囲へ向け衝撃波を放った。

 いち早くそれを察知したメアリーは、攻撃を一旦止め、迫りくる衝撃に合わせて飛び退き、人形から距離を取った。

 

 

『クソがぁあッ!! 調子に乗りやがってぇぇえッ!!』

 

 

 ドレスの人形が凄まじい怨嗟の声をあげながら、空中へふわりと浮かび上がる。それと同時に、周囲にいた人形たちも浮かび上がり、ドレスの人形へと集まっていく。

 

 

『ァアアアアアッ!!』

 

 

 ガシャガシャと音を立てながら、人形たちの体が積み上がり形を成していく。

 やがてその姿は、無数の人形で出来た皮膚を持つ、巨大な赤ん坊のような形になった。

 

 

『潰レロォオオッ!!』

 

 

 巨大な赤ん坊――その額に位置したドレスの人形の咆哮と共に、巨大な赤ん坊が拳を振り下ろす。

 

 

「おっと!」

 

「……!」

 

 

 振り下ろされた腕に対して、メアリーと紫乃はそれぞれ右と左に飛んで回避した。

 赤ん坊の拳が床にぶつかる。

 衝撃でエントランス中が揺れ、避けきれなかったゾンビが何体か地面に転がった。

 

 

「シッ!」

 

 

 すかさず攻撃を避けたメアリーが反撃。無数の弾丸が、赤ん坊の額のドレスの人形へと向かっていく。

 

 しかしその攻撃を、赤ん坊は片手で顔を覆うだけで防御した。

 

『無駄無駄無駄ァッ!!』

 

 

 防御した人形が、かん高い声をあげて言った。事実人形――赤ん坊のHPは、攻撃を受けたのにまったく減っていない。見れば、赤ん坊の両手の甲は、先ほどメアリーの攻撃を防御した、盾を持った人形たちで形成されていた。

 

 

『死ネェェェッ!!』

 

 

 赤ん坊が今度はメアリーひとりに向け、真っ直ぐ拳を打ち下ろしてくる。

 

 

「チッ!」

 

 

 打ち下ろされた拳を、メアリーは地を這うように駆け回避。

 すかさず反撃して、今度は振り下ろされた赤ん坊の拳の手首へと銃撃する。

 

 

「……【閻王】……!」

 

 

 それと同時に紫乃もまた、振り下ろされた手首へと向かい漆黒の閻弾を放って攻撃する。

 ふたりの集中攻撃を受け、赤ん坊の手首を形成する人形がボロボロと崩れ落ちた。

 だが、肝心のHPは、少しも減っていない。

 

 

『無駄ナンダヨォッ!!』

 

 

 叫びながら赤ん坊が反対側の腕を振り、エントランス中を横切るように薙ぎ払った。

 メアリーは跳躍し、紫乃もゾンビに抱えられて咄嗟に跳ねて避けたが、何体かのゾンビがタイミングを見誤って避けそこない、壁に叩きつけられた。

 

 

「「「「「GuOOO……!」」」」」

 

「……ゾンビ……!」

 

 

 壁に叩きつけられたゾンビが、小さくうめき声をあげる。

 

 

「シッ!」

 

 

 そんなゾンビを横目に見つつも、着地したメアリーがすぐさま反撃して先ほど攻撃した手首を銃撃した。

 すると、攻撃された手首の人形が全て壊れ、ガシャリとエントランスの床に音を立ててこぼれ落ちた。

 

 だが、

 

 

『アヒャヒャ残念(ザァンネ~ン)ッ!!』

 

 

 ドレスの人形が笑うのと同時に、赤ん坊の背後の空間が歪み、中から新たな人形たちが現れた。

 現れた人形たちは、壊れた赤ん坊の手首へと集まり、新たな赤ん坊の手を形成していく。

 

 

「ハァッ!? おいおいマジかよ!!」

 

 

 復活した手を見て、思わず声をあげるメアリー。そのメアリーへと向け、赤ん坊が再生したばかりの手を振り下ろした。

 

 

「っと!」

 

 

 振り下ろされた手をバク宙しながら避け、メアリーが紫乃の隣に並び立った。

 

 

「チッ! 野郎、思ったより面倒くせぇぜ!」

 

「……」

 

 

 振り下ろした手を戻す赤ん坊をにらみながら、メアリーがそう吐き捨てる。

 

 実際、人形の戦法は非常に性質が悪い。

 人形による人海戦術から、合体による巨大化――しかも、本体以外は攻撃してもHPが減らない鬼畜仕様である。加えて本体を狙おうにも、単調な攻撃では盾を装備した両手に阻まれ、両手を撃ち落としてもまたすぐ回復する。

 

 口の悪さ……もとい、攻撃的な口調に対して非常に防御力に特化したボスだった。

 

 

「どうする!?」

 

「……じゃあ……」

 

 

 問いかけるメアリーに、紫乃がぽつりと呟く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……回復、が……追いつかない(・・・・・・)……ように……する、ね……」

 

 

「……なに?」

 

『『『『『Guu?』』』』』

 

 

 紫乃の言葉に、メアリーとゾンビが思わず首をかしげる。

 一瞬の隙。

 その隙をついて、巨大な赤ん坊がふたりに襲いかかってきた。

 

 

『死ネッ!!』

 

 

 巨大な拳がふたりに迫っていく。

 だが、その拳は――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……【死者の翼】……」

 

 

 

 

 バサッ

 

 

 

 ふたりに、触れることはなかった。

 

 

 

『ナッ!?』

 

 

「ハァッ!?」

 

『『『『『Gua!?』』』』』

 

 

 赤ん坊とメアリー、それとゾンビたち全員が、揃って驚きの声をあげた。

 その視線は、エントランス上空。

 

 

 

 バサッ――

 

 

 そこには、背中に漆黒の翼を生やした紫乃が、メアリーと手を繋いだまま、宙に浮かんでいた。

 

 

『『『『『GUOOO!?』』』』』ト、トンデル--!?

 

「紫乃! お前、飛べたのか!?」

 

「……うん……」

 

 

 親友が空飛んでる状況に驚くメアリーに、紫乃がこくりと頷く。

 

 

「……でも……あんまり……速く、飛べ……ないし……飛んでる、間は……MP、も……どんどん……減っちゃう……」

 

『『『『『Guu?』』』』』

 

「? じゃあなんで……」

 

「……それは、ね……」

 

 

 紫乃が囁くように説明する間も、紫乃の翼からは黒い羽がはらはらとエントランスへ舞い落ちていく。

 そのうちのいくつかの羽が、ふわりと赤ん坊の腕や肩に触れた。

 それと同時に、

 

 

バキンッ

 

 

 触れた箇所の人形がひび割れ、バラバラに崩れ落ちた。

 

 

『ナ……ァアッ!?』

 

 

 赤ん坊の本体であるドレスの人形が眼をカッと見開き、驚きの声をあげた。 

 人形が驚く間にも、崩れた人形が繋いでいた赤ん坊の腕が自重に音を立てて崩れ、光の粒子となって消えていく。

 

 

『グッヴゥ!』 

 

 

 両腕を失った赤ん坊はバランスを崩し、地面へうつぶせに倒れ込んだ。

 

 

『グ、オォ……!』 

 

 

「……【死者の翼】から……散った羽……に、触れた物は……急速に、【劣化】していくの……飛ぶのは、そのついで……」

 

「oh……」

 

 

 あんまりなスキルの効果に、思わずメアリーは声をこぼした。要するにこのスキルに対峙した者は、装備に【破壊成長】や【破壊不可】がついてない限り、空中から一方的に装備を破壊されるということだ。

 

 

「装備に金掛けてる奴は絶叫ものだな……」

 

「……さすがに……(プレイヤー)のは……壊れ、にくいと思うけど……ね…………でも……」

 

 

 紫乃の視線が、眼下の赤ん坊へと移る。

 地に倒れ伏すその様は、さながら神に許しを乞う、罪人のようであった。

 

 

「……あなた、には……覿面みたい、ね……?」

 

 

 天上から見下ろしながら、紫乃が呟く。

 その言葉に、人形がキレた。

 

 

『ッ!? ク、クソガッ! 調子二乗ッテンジャネェ!!』

 

 

 人形がぎりりと歯を噛みながら、紫乃へと向かって吼えた。

 その言葉とともに、赤ん坊の背後の空間が歪み、新たな人形が現れる。

 

 

『アヒャヒャ! ソウサ! 代ワリノ腕ナンテイクラデモアルノサ!』

 

 

 現れた人形が、赤ん坊のなくなった腕へと繋がっていく。

 だが、それと同じくして、

 

 

バサッ

 

 

 紫乃の翼がはためき、エントランス中を黒い羽が舞った。

 

 

『ナッ――』

 

「……こっちも……おかわり……できるよ……?」

 

 

 言いながら紫乃が、何度も翼をはためかせ、さらなる黒い羽を飛ばしていく。

 エントランス中を覆い尽くすかのようなその圧倒的な羽の量に、ドレスの人形が唖然とした。

 

 

『『『『『GUOOO!!』』』』』

 

 

 だが、人形の絶望はまだ終わらない。

 むしろ、始まったばかりであった。

 それまで静観していたゾンビたちが一斉に吼え、唖然とする人形――その赤ん坊部分へと襲いかかってきた。

 

 

『ァアッ!?』

 

 

 正気に戻った人形が腕を振り、群がってきたゾンビたちをはねのけようとした。だが、振った腕に羽が触れ、そこからがらがらと音を立て、直したばかりの腕が欠片となって散っていった。

 

 

『ア、ァアアアッ!!』

 

 

 壊れた腕を直そうと、人形がさらなる人形を召還する。だが、今度はその現れた人形を狙って、何体かのゾンビが同時に襲いかかった。

 

 

『ヤ、ヤメロォッ!!』

 

『『『『『GUOOO!!』』』』』

 

 

 ドレスの人形の制止も虚しく、呼び出した人形が壊れ、光の粒子となって消えていった。

 

 

『ア、ァアアアアアアッ!!』

 

 

 人形が声をあげる間にも、空から羽が降り、赤ん坊の体へと降り注いでいく。

 羽が触れた箇所から赤ん坊の体にひびが入り、ボロボロと崩れていく。

 

 

『ア、アアッ! アァアアァアッ!?』

 

 

 その崩れた体を登って、ゾンビたちが、地面から額のドレスの人形へと迫っていく。

 徐々に迫っていく、ゾンビの群れ。

 その後ろでは呼び出した人形が頭を捕まれ、無残に握り潰されていた。

 

 

『アアアアアアアッ!!!』

 

 

 ジャキ、

 

 

『ッ!?』

 

 

「――HEY」

 

 

 絶え間なく恐怖の悲鳴をあげるドレスの人形の前に、無骨な赤色の銃口が構えられた。

 空中から飛び降りたメアリーが、人形の前に落ちてきたのだ。

 

 

「……チェックメイトだ」

 

 

『ヒッ!?』

 

 

 慌てた人形が小さく悲鳴をあげ、近くにいた人形を前にかざしてその陰に隠れた。

 かざしたのは、盾を持った人形。

 つい先ほど、メアリーの銃撃を防いだものだ。

 

 ――これならば、一撃だけでも防げる。

 

 勝敗の決まった今、それは、もはやなんの意味もない時間稼ぎであった。

 だが、わずかな時間でも、生き永らえるというその事実が、壊れかけた人形の心に、確かな安堵を生んだ。

 

 だが、

 

 

「――【徹甲弾】」

 

 

 その思いは、かざした盾の人形と共に、脆くも砕け散った。

 

 

『アッ?』

 

 

バキンッ

 

 

 盾の人形と共に、人形の鼻から上が砕け、光の粒子となって消えていく。

 人形が間の抜けた声を上げたまま、カシャンと後ろに倒れた。

 

 

「――別に、壊せねぇとは言ってないぜ?」

 

 

 倒れた人形の残骸へ向け、メアリーがそう言い放つが、人形は言葉を返さない。

 そのまま光の粒子となって、静かに消えていった。

 

 

サービス回……いる?

  • いりゅううう!!(ホラー)
  • いりゅううう!!(セクシー&ギャグ)
  • 要らぬ!!
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