ホラー……が、好き、なので……ゾンビを……愛でたいと……思います   作:寿限夢

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 今回はグロがちょっと多いんじゃよ……

 ※誤字脱字報告ありがとうございます!


ホラー少女と死霊術

「……?」

 

 ゾンビの背中に乗ったまま、紫乃は新しく手に入れたスキルを確認する。

 

 

 【死霊術(ネクロマンシー)

 MPを消費してゾンビを召喚、意のままに操ることが出来る。

 複数召喚可能。

 召喚されたゾンビのSTR・VIT値は、使用者のINT値の30%に依存する。

 習得条件

 闇魔法を習得した上で、アンデッド系モンスターに対し魔法・武器による攻撃を行わなず、一時間抱きつく。

 

 

 どうやら紫乃のスキルと行動が、たまたまスキル取得の条件に合致していたようだ。

 なんという偶然。

 だが、紫乃以外でこの条件を達成できる人間が、果たしてどれだけいるのだろうか。運営の正気が疑われる。

 

「死霊を……呼び出す……」

 

 そんなことより紫乃は、新しいスキルの効果に興味深々だった。

 早速試すべく、ゾンビの背に乗ったまま、しまっていた杖を取り出す。

 

「【死霊術(ネクロマンシー)】……」

 

 紫乃の言葉と共に、地面にドス黒い瘴気を纏った魔法陣が展開される。

 魔法陣から現れたのは、全身傷だらけで、血で汚れた襤褸を纏ったゾンビ。紫乃が抱きついているゾンビとほぼ同じだった。

 

「わぁ……!」

 

 現れたゾンビに、紫乃は喜びの声をあげた。

 すると、現れたゾンビは紫乃の方を向き、フラフラと近づいてきた。

 同時に紫乃の乗っているゾンビもそちらを向き、召喚されたゾンビに向かっていく。

 

「え……?」

 

 突然の両者?の行動に、呆気にとられる紫乃。

 そうしている間にも、二体のゾンビの距離は狭まっていく。

 

 そして、互いに手を伸ばせば触れ合える距離に近づいた、その時。

 

 

 

 

 二体が同時に牙を剥き、向かい合う相手に襲いかかった。

 

「きゃ……っ!」

 

 突然の衝撃で、紫乃は背中から転げ落ち、地面に尻もちをついた。

 その間にも二体は取っ組み合っている。だが、紫乃が召喚した方が強いらしく、今まで乗っていたゾンビが地面に押し倒され、首筋の肉を噛み千切られていた。

 

「あっ……」

 

 噛み千切られたゾンビの方が、光の粒子となって消滅していく。すると、生き残った方のゾンビは立ち上がり、紫乃の元へと近づき、目の前で立ち止まった。

 

「……?」

 

 立ち止まったゾンビは、その場でうめき声を上げながら、紫乃の方を見ていた。

 どうやら、敵意はないらしい。

 その様子を見て、紫乃の中である考えが浮かんだ。

 

「……もしかして……自動、迎撃? 近くの、敵を……自動で、攻撃……してる?」

 

 紫乃の閃きに、ゾンビがうめき声で応える。

 紫乃の予想は正しく、このスキル【死霊術(ネクロマンシー)】で召喚されたゾンビたちは、スキル使用者を中心とした半径30メートル以内の敵を自動で攻撃するよう設定されている。対象外なのは使用者と、そのパーティーメンバーのみだ。

 

「あ……ステータス……見れる……」

 

 スキルの効果なのだろう、自身のステータス表示の下に、もうひとつステータスがある。

 タップして内容を確認する。

 

 

 ゾンビ・トークン

 

 

 HP 100/100

 

 MP 0/0

 

 

 【STR 23】

 

 【VIT 23】

 

 【AGI 0】

 

 【DEX 0】

 

 【INT 0】

 

 

 スキル

 

 【噛み千切り】

 【状態異常無効】

 

 

 以上がゾンビのステータスだ。

 動きが遅く、タフで力が強く状態異常が効かないのは、ゾンビ映画のゾンビをモチーフにしたのか。完全な前衛タンク型である。

 

「わぁ……いかにも……ゾンビ……っぽくて、いい……」

 

 そして、そのスタイルは紫乃には好評価だった。元気に走りまわるゾンビも好きだが、ゆっくり歩きまわるゾンビの方が好き。紫乃の好みはわりと古典的だった。

 

「おいで……」

 

 紫乃がゾンビを手招きする。するとゾンビはそれに従い、紫乃に歩み寄った。

 

「フフッ……いい子……♡」

 

 近づいてきたゾンビの頬に手をあて、優しく撫でる。ついでに頬擦りもする。

 そうして一頻(ひとしき)り愛でている時、紫乃はあることを思い出した。

 

「そうだ……どうせなら、もっと……いっぱい出そう……!」

 

 紫乃が思い出したのは、【死霊術】の説明にあった"複数召喚可能"の項。

 そうと決まれば話は早い。

 持ち前の行動力で、早速召喚した。

 

「【死霊術】……」

 

 地面に、ドス黒い瘴気を纏った魔法陣が展開される。

 現れるのは、目の前にいたゾンビと瓜二つのゾンビ。

 これで二体。

 だが当然、それだけじゃ終わらない。

 

「【死霊術】……【死霊術】……【死霊術】……【死霊術】……【死霊術】……」

 

 一度で終わらず、連続で何度も何度も【死霊術】を使用していく。当然、それなりのMPが消費されていくが、二極振りで初心者にしては膨大なMPを誇る紫乃にとっては、さして問題ない。

 

「【死霊術】……【死霊術】……【死霊術】……【死霊術】……」

 

紫乃の周囲に、魔法陣から吹き出た瘴気が充満していく。辺り一面、ドス黒い瘴気の海と化した。

 

「【死霊術】……【死霊術】……【死霊術】……【死霊術】……」

 

 充満した瘴気の中からは、ゾンビの呻き出す声。それは二重、三重にも重複しており、森のあちこちから響いてくる。

 

「【死霊術】……【死霊術】……」

 

 そうして、ようやく紫乃のMPが底を尽き、充満した瘴気が散っていったその時。

 そこには、10や20では効かないほどの数のゾンビが蠢き、犇めき合っていた。

 

「ん、しょ……」

 

 紫乃が、一番最初(はじめ)に召喚したゾンビに指示し、肩車してもらう。

 

「わぁ……♡」

 

 見渡す限りのゾンビの群れに、紫乃の口から感嘆の声が漏れた。

 右を向いてもゾンビ、左を向いてもゾンビだらけだ。

 

「まわれ……右……」

 

 紫乃が杖で指し示すと、ゾンビが揃って右を向く。

 

「まわれ……左……」

 

 今度は左を指し示す。すると、ゾンビも揃って左を向いた。多少のばらつきはあるが、指示すればすべてのゾンビがちゃんと言うとおり動く。

 

「ワンちゃんみたいで……かわいい♡」

 

 そんな腐った人型の犬は嫌だ。だが、そう突っ込む人間は生憎周りにいない。

 

「進んで……」

 

 森の奥を杖で指差し、紫乃がゾンビたちに指示した。

 指示に従いゾンビたちが、一斉に前進し始める。

 

 

 

 

 そうして、

 

 

 

 

 惨劇の幕が上がった。

 

 

 ざっ、ざっ、ざっ……

 

 

 暗い夜の道を、無数のゾンビの群れが進んでいく。

 最初の犠牲者は、一体の野生のゾンビだった。

 迫りくる無数のゾンビの群れ。

 その先頭の一体に、野生のゾンビが本能のまま襲いかかるが、すぐさま他のゾンビに抑えられ、捕らわれてしまった。

 無数のゾンビの手が、捕まった野生の一体に群がっていく。

 

 くちゃ、くちゃり、くちゃ、ごり、ぐちゃ――

 

 湿った肉と、骨を齧る音が響いてくる。

 抑えこんだ腕や足を、ゾンビたちが、我先にと食らいついているのだ。

 押さえられた一体は声をあげ、懸命に手足を振って逃げようとするが、振りほどけない。

 数が、多すぎるのだ。

 そうしている間にもHPは減り続け、(つい)には0となり、哀れなゾンビは光の粒子となって消えていった。

 

「フフッ……♡」

 

 森のあちこちで、同じようなことが起きている。

 ある(スケルトン)は、腕を武器ごと抑えられ、肋骨(あばら)を一本一本噛み砕かれた。

 ある()は、四肢をもぎ取られ、首をへし折られた。

 ある()は突進した矢先に無数のゾンビにのしかかられ、潰れて身動きがとれないまま腸を貪り食われ。

 またある(ゾンビ)は首をねじ切られ、自身の五体が噛み千切られるのを目にしながら食い尽くされた。

 

 

 ありとあらゆる"死"が、巻き起こっていた。

 

 

「フフッ……ゾ、ゾンビ映画みたい……♡」

 

 そして、それらを見て、紫乃は笑っていた。

 まるで映画のようだと笑いながら。

 

「……か~ごめ、かごめ。か~ごのな~かのと~り~は~……♪

 

 暗い森の中を、透き通った少女の歌声が木霊する。

 歌っているのは、もちろん紫乃だ。

 暇な時、楽しい時に歌を口ずさむのが、紫乃の癖だった。

 

 

「……い~つ、い~つ、でやる。よあけの、ばんに……♪

 

 

 くちゃり、ぐちゃりという、ゾンビが肉を喰らう音を伴奏(バック)にしながら、歌声はどこまでも響いていく――

 

 

「……つ~るとかめが、すべった。うしろのしょうめん、だ~ぁ~れ……♪」

 

 

 

「……フフっ、フフフフフフっ……♡」

 

 

 ――その日、紫乃は思う存分ゾンビを堪能してから、ログアウトした。

 

 その頃、とある掲示板では。

 

 

 【NWO】北の森がヤバい

 

 

 

 1名前:名無しの斧使い

 

 超怖い

 

 

 

 

 

 2名前:名無しの槍使い

 

 kwsk

 

 

 

 

 

 3名前:名無しの魔法使い

 

 どう怖いの

 

 

 

 

 

 4名前:名無しの斧使い

 

 なんかゾンビがゾンビ襲ってた。

 

 

 

 5名前:名無しの使い

 

 は?

 

 

 

 

 

 6名前:名無しの弓使い

 

 

 どういうこと?

 

 

 

 

 

 7名前:名無しの斧使い

 

 なんか、複数のゾンビが群れなして他のゾンビとか襲ってたんだよ。

 

 それも四、五匹とかじゃなくて、何十体も。

 

 

 

 

 8名前:名無しの大剣使い

 

 ゾンビ映画かよw

 

 

 

 

 

 9名前:名無しの槍使い

 

 そんなことあんのか?

 

 

 

 

 

 10名前:名無しの弓使い

 

 いや、どうだろう……

 

 なにかのクエストかな?

 

 

 

 

 

 11名前:名無しの斧使い

 

 後、歌が聞こえた。

 

 

 

 

 

 12名前:名無しの大盾使い

 

 歌?

 

 

 

 

 

 13名前:名無しの斧使い

 

 「……か~ごめ、かごめ……」って、森の奥から小さな女の子の声が聞こえてくるんだよ……

 

 

 

 

 14名前:名無しの弓使い

 

 ひぇっ

 

 

 15名前:名無しの大剣使い

 

 おいおいおいおいおいおいおいおい!

 

 

 

 

 16名前:名無しの斧使い

 

 しかも段々とこっちに近づいて来ててさ……

 

 気がついたときには、全力で逃げてた。

 

 ぶっちゃけ、ゾンビよかそっちの方が怖かった。 

 

 

 

 17名前:名無しの魔法使い

 

 たしかに……

 

 

 

 

 

 18名前:名無しの大盾使い

 

 それは怖いな……

 

 

 

 

 19名前:名無しの斧使い

 

 未だにあの声が耳から離れなくてさ……

 

 今も、耳元で囁かれてる気がして……

 

 

 

 

 20名前:名無しの槍使い

 

 おいお前マジふざけんな勘弁してお願いします。

 

 

 

  21名前:名無しの大剣使い

 

 もうやだ、トイレいけない……!

 

 

 

 22名前:名無しの斧使い

 

 もし、今振り返って何かいたらと思うと……

 

 

 

 23名前:名無しの弓使い

 

 やめろォッ!

 

 

 

 

 

 

 ……こうして、知らぬ間にトラウマ植えつける、紫乃なのであった。

 




 余裕があれば明日の4時にまた一話追加します。
 速筆になりたい……

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