RFT   作:Tank0328

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#1 始まり 《白河愛理》

 ここは現代的な高いビルに囲まれた都市、時刻は太陽が高く昇った昼頃。今私が歩いているのは、どちらかといえば人通りの少ない路地だ。

 私の名前は白河(しらかわ)愛理(あいり)。一応、警視庁の刑事という立場にいる。

 

 今は巡回という名目の休憩(サボり)の帰りだ。多分、3ヶ月前までの私ならばこんなことはしなかっただろう。それも、全てあの配属先のせいだ。

 ちなみに、人通りが少ないとはいえ、人がいない訳ではない。この近くに住んでいるであろう三人の主婦が世間話をしていたり、休息を終えた背広姿の中年男性が自分の働く場所へ歩んでいるのが見える。

 

 平和だな…と思った矢先、背後より高い声が響く。

「誰か、ひったくりよ!」といった声に反応し振り向くと、20代程のOLと思わしき女性が地面にへたれこんでいた。きっと彼女がひったくられたのだろう。

 そして、その前方より走ってくる十台後半と見える若者、右手に小さなハンドバッグを持っている事から、彼がひったくりの犯人だと推測される。

 この時、私が私服では無く制服を着ていたなら、こんな事は起こらなかっただろうな、と若干後悔する。だが、今はこの現状を解決しなければならない。

 振り向いた私を見て、犯人は僅かに顔を(しか)めたが、その脚を止めることはない。

 犯人とすれ違う瞬間、拳を握り締め鳩尾に叩き込む。振りかぶらずに素早さを求めた一撃。犯人は完全に不意を付かれたようで、この一撃で犯人は失神してしまう。

 力が抜けた犯人の手からバッグを取り戻し、被害者である女性の元に返す。

「あ、ありがとうごさいます!」女性は感謝や尊敬で目を輝かせながら、私の手を取り上下に振ってくる。

「いえいえ、仕事ですから」少々オーバーな行動で感謝を示した女性に、定型文で返す。

 失神した犯人は、女性に警察を呼んで貰い、その警察に全て任せる事にする。かなり回りくどいが、それでも避けたいものがあるため、致し方ない。

 その後私は、事務所へ戻ることにした。

 

 

 ある三階建ての小さなオフィスビル、その三階が私達が事務所と呼んでいる場所だ。

 戸を開けて中に入る。中にいるのは仲間の二人。

 

 一人目はソファに腰掛けて携帯端末を眺めている、黒いパーカーにジーンズという格好で癖の強い黒髪の童顔・低身長の男だ。名前は片桐(かたぎり) 義我(ぎが)。陽気な性格だが、思考は狂人に近く、同じ署の警察官からは主に爆弾魔として恐れられている。そのせいか、今まで病院送りにした数はゆうに30人を超えるという。あくまで記録上だが。

 ちなみに、見た目はとにかく幼いと言えるもので、中学生、最悪小学生と見紛う程。本人はそれを気にしている様で、その事に対して少しでも触れると手榴弾をお見舞いされる。あと『義我』という名前も気に入っていない様で、その名前で呼ぶとあからさまに不機嫌になった。

 

 二人目は部屋の横隅の方でパソコンと向き合っている、紺色のTシャツからプレイド柄のシャツを羽織り、下は深緑のボトムズを穿いている、不健康そうな細いシルエットをした男、こちらの名前は石田(いしだ) 和義(かずよし)という。

 どう見てもオタクだ。

 彼は機械に強く、それに関連した作業は目を見張るほど速い。よって、彼の主な仕事は記録や書類業務となっている。

 だが、机の上に良く分からない女の子のフィギュアがあったり、業務用のパソコンを使い、現在進行形でゲームをやっていたりするのはどうかと思う。仕事はどうした。

 後は、たまに変な機械を作ったりしている。これは彼の趣味の一つらしい。

 

 さて、自由人に怠け者というメンバー。そして署から離れたこの職場。普通の警察署じゃありえないこのシステムはどういう事か。説明しよう。

 

 まずこの二人、片桐と石田は決して無能ではない。むしろ能力や成果だけならエリートと同等かそれ以上だと思う。だが、どちらも行動が悪かったのだ。片桐は警察官であるにも関わらず、躊躇い無く人を傷つけていたらしいし、石田の方は、やるべき仕事を終わらせているものの、勤務時間の大半をゲーム等の趣味に費やす。

 そのせいで周りの仕事能率に影響が出る、との事で、現警視総監からそういう者を隔離するため、警視庁刑事部にこのRisk Factor Team(危険因子の集い)、省略して『RFT』が加えられたらしい。

 

 しかし、私は今まで、ずっと真面目に働いて成果を出してきたつもりだ。ただ、それ故なのか、私の周りには敵意の視線がずっと突き刺さってきた。そしていつの日か、その敵意は行動となって現れた。

 

 今から3ヶ月程前の事だ。殺人の容疑で取り調べられていた男が、警察官の手によって殺害された事があった。結論として、その男は無実だった。その警察官の早とちりで、急ぐあまり感情的になって拳銃を取り出し…。という事だ。

 その時私は、署で書類業務をしていたのだが、その翌日、私は署長室に呼び出された。

「なんて事をしてくれたんだ!!!」私が入室した途端、机を叩いて署長は怒鳴り散らした。何の事ですか。と聞いたら、一部の新聞を突きつけ、一つの記事を指差した。全ての内容は憶えていないが、長月署の女性警察官が誤認逮捕の末、男を殺害。その女性警察官の名前が白河愛理。みたいな内容だった。

 もちろん私は、人を殺した事など無い。しばらく呆然と記事を眺めて、察した。

―――ああ、濡れ衣を着せられているのか。

 その後、当然無実を訴えたが、味方してくれる者は誰一人として居なかった。撃たれた弾を調べれば、撃った者が分かるのだが、その弾は何処にも見当たらなかった。

「まったく、署の評判を落としやがって……。君の能力だけは買っていたな。免職だけは勘弁してやる。その代わり、君にはここに所属して貰う。君は真面目みたいだから、彼等もきっと見習ってくれるだろう。精々、頑張りたまえ」署長は顔を嘲笑で歪めながら、一枚の紙を投げてくる。拾って読んでみると、転属辞令と書いてあった。

 

 本日を以って警視庁刑事部RFT勤務を命じます、と。

 

 まあそんな訳で、ここに配属されている。

 それはさておき、私は石田のもとへ歩み寄った。

「頼んでおいた資料、あれは出来た?」

「ああ、今さっき終わったよ。あの棚にあるから、左上の方」画面の奥から目を離さず、端的に資料の場所を指差す。私はその棚の方へ赴く。

「えーと、左上…。ああ、これね」棚のファイルを手に取る。

「確かに受け取ったわ。ありがとう」

「お礼なら、貴女の体というこ…」と言いかけた所で言葉は途切れる。理由は私が石田の頭に付きつけた拳銃だ。

「そういう気持ちの悪い台詞は画面に向かってだけにしてくれないかしら?」半分殺意、半分呆れの表情で石田を睨む。

「冗談冗談」石田は両手を上げ、降参の意を示す。

「白河にそんな価値ねえって。そんな外見も中身も男みたいな奴に」後ろのソファにもたれかかっている片桐がけらけらと笑いながら言ってきた。後でぶっ飛ばす。おっと、いけない。ここに配属されてから、思考が暴力的になってきた気がする。意識して制御しなければ。

 ともあれ資料だ。棚から出した資料に目を通す。

 内容は、ある犯罪組織についてだ。

 最近になって、強盗等の犯罪が例年に比べ増えてきた。ここ1ヶ月だけで、銀行強盗が3件、誘拐が2件、恐喝が6件、殺人が4件あり、そのどれもが非合法の銃器を使用したものだ。そのため警察では、その銃器を横流ししている組織があるとみて捜査しているのだが、捜査一課の者達でも、組織の存在しか掴めていない。よって、署からこちらへ丸投げされたのだ。

 こちらから断る事は出来ないし、一応ボーナスとして報酬も出る。一人当たり75万円、まあ悪くないかなと思う。

 

 石田の調べた事は、

 

・組織の本部はここ、東京都にあるらしい。

・基本的に、2~8人程度の人数で行動している。単独は少ない。

・そして得た金の2割を彼等で山分けをする。(自分達だけで1回成功させるよりも、組織に入って5回以上成功させる方が可能性が高い、という事らしい)

・組織のボスは、五十嵐(いがらし) 龍一(りゅういち)という名前らしい。

・様々なマフィア等と手を組み、銃器を下へ流している。

・下っ端だけでも総勢500人は下らないらしい。

 

 といったものだ。

「とりあえず市と区までの本部の場所、あと五十嵐 龍一のプロフィール及び記録、そして手を組んでいるマフィア等の詳細を調べてくれる?」今の所はこれで捜査を進めるつもりだが、もっと詳しい情報はあった方が良い。

「僕に出来ないとでも?」

「ならばお願い。遅くても、明後日までにはまとめといて」

「りょーかい」

 とりあえず、今ある情報を元に、行ってみるかな。

「片桐、行くわよ」

「あいあいさー」ソファから体を起こし、片桐はドアへ向かう。私も、それに付いて行く。

 

 ただ、これだけで見つかるとも思えないので、今日はあてを探す程度になるだろう。

 道なりに歩いていると、後方から一台のパトカーがやってきて、私達の横で止まる。助手席の方の窓が開けられ、二人の女性が顔を覗かせる。それらの顔には見覚えがあった。長月署での元同僚、川島と西原だった。

「白河じゃない、久しぶりね。随分とあそこに慣れてるみたいね、とてもお似合いだわ」

「あとぉ、隣のチビはぁ…片桐ぃ?なんですかぁ?平日の真昼間に二人でデートですかぁ?暇で羨ましい限りですねぇ。()()()()働いている私達には、そんな時間取れませんからねぇ」川島は蔑みの眼光を、西原は嘲りの表情を私達に突きつける。

「西原さん。言うのは勝手ですが、程々にしておきなさい」

「えぇー?そもそもそんなの考える必要ありますかぁ?」

「白河も一応人間よ。尊厳って物があるでしょう」

「あぁ、ありましたねぇそんなの。すっかり忘れてましたぁ。気をつけまぁす」そして、川島は表情を変えずに毒を吐き、西原は直接皮肉を放つ。

「あっれぇ、そういえば片桐はどこ行ったんですかねぇ?あぁそこでしたかぁ。チビだから見つけられませんでしたぁ。すぐどっか行っちゃうんですからぁ。ダメですよぉ」その後、まるで反省していない口ぶりで、西原は片桐の頭に手を乗せる。

「あーあ、ちょっと前に移動するのもダメなんて、世知辛い世の中だな」だが片桐の方も余裕の表情のまま右手で西原の手を払う。

「あれあれぇ?こんな事していいんですかぁ?」

「強がるのは弱者の証拠ね。もう行きましょう。私達も暇じゃないので」

「そうですねぇ。暇じゃないですものねぇ」この二人の方が、よっぽど暇なんじゃないかと思ってきた。

 彼女等の罵りを聞き流し続けている内に、彼女等も飽きた様で、窓を閉めて、走り出す。

 

 いくら片車線で車二台分あるとはいえ、車道の脇に車を止めて長話。あっちの方が非常識ではないのだろうか。等と考えていると、前方で何かが擦れる音の後に大きめの衝突音がした。目を向けると、歩道脇の塀に衝突している一台のパトカーが。

 周りの人間は、驚きと困惑の表情をしているのに対し、片桐はすっきりした様な満足顔、私は呆れ顔で片桐の左手にある赤い物質を見ていた。

 その赤い物質は、縦に長く丸っこい形をしており、片面に十字の模様の付いている、俗に十得ナイフと呼ばれる物だ。それで片桐は何をしたか。恐らく、誰にも気付かれずにそのナイフをタイヤに突き立て、パンクさせたのだろう。タイミングとしては、西原の手を払った時だろうか。加害件数が多すぎて今更止める気にもならないが、胃にあまり宜しくない。車に手榴弾を投げ込まれるよりはましだけど。

「いやー、人の事見てすぐチビとか、流石に無いよね」片桐の方は、やはりいつも通りの顔、いつも通りの軽さで言葉を放つ。

「怒る所はそこなの?」

 相変わらず、片桐の考える事は訳が分からない。




大体こんな感じでいきます。

メインキャラよりモブの方がキャラが立つ不思議。
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