RFT   作:Tank0328

3 / 3
#2 情報収集 《白河愛理》

 西側の空がオレンジ色に染められる夕暮れ時。特に目立った成果も得られず、私達は捜査を明日へ持ち越す事にした。

 強いて言うなら、2時間程前に片桐が万引き犯を捕まえていた事が成果といえなくもない。

 一旦事務所に戻ってから、二人に別れを告げ、車を出し、家に向かって走り出す。

 

 

 次の日、また同じように捜査を続けていた。事務所を出て、もう2時間にもなる。今は昼時。太陽が高く昇る頃だ。この時間帯になると、お腹が空いてくる。

 今、手持ちでいくらあったかな、と思い、見てみると、どうやら財布の方も空腹らしい。こんな立場なので、もちろん捜査報償費なんて出ない。仕方が無いので、片桐に断りをいれて、駅前の銀行に寄る事にした。

 昼時の所為か、全てのATMが埋まっていた。

 そういえば、『組織』の方でも銀行強盗の例があったな。ふと、そんな事が頭によぎる。そんな時だった。

 前の人の引き出しが終わり、次は自分の番というタイミングで、後ろから銃声が鳴り響いた。振り向くと、黒い目出し帽を被り、白い手袋をした三人の男が入り口前に佇んでいた。中心の一人はマシンガンの様な物を高く掲げており、後の二人は片手に拳銃を、片手にバッグを持っていた。

 中心の男は、掲げたマシンガンを前方に向ける。それを合図として、両辺の二人がカウンターへ向かう。

「手を頭の後ろに回して奥に行け!早くしろ、撃たれたいのか!!」中心の男は低い声で叫び、銃口を向ける。中に居た客達は、恐怖に顔を歪ませながら、我先にと奥へ向かう。

 まあ、一応従っておくとしよう。撃たれたら困るし。

 その間に、カウンターへ向かった二人は従業員にバッグを渡し、一人は彼等に銃を向けて催促、もう一人は客の監視に入る。

「ビンゴだな、こりゃ」横合いから声がする。

「片桐、来てたの?それより、ビンゴって…」

「あれだよ、あれ」と言って、片桐は中心の男を顎で差す。

「コルトガバメントならともかく、M4A1カービンまで持ち出してやがる」

「コルトガバメント?M4A…なに?」

「あいつ等が持ってる拳銃と、アサルトライフルの名前だ。拳銃位なら個人で何とか出来るだろうが、アサルトライフルはそうはいかない。入手は面倒臭いし、何より意味が無い。拳銃だけで事足りるものを、アサルトライフルまで持ち出した。こりゃ、武器を簡単に入手出来るルートがあると考えるのが妥当だな」片桐は饒舌になって話す。

「……つまり?」途中から何言っているのか分からなくなってきた。

「あれに俺等の追っている『組織』が関係している可能性が高いって事だ」

「なるほど…。捕まえて聞き出せば、『組織』の情報が手に入る。というわけね。片ぎ…」名前を呼び始めた頃には、片桐の姿は無かった。

 目を走らせる。意識すればすぐに見つかった。客の監視をしている男の後ろに居た。中心の男とカウンターにいる男は従業員と札束に、片桐が後ろに立っている男は外のほうに意識を向けていた為、三人の誰も、片桐には気付かなかった。無論客はその異質な行動に目を向けていたが、口に出す者はいなかった。相変わらず、何考えてんだか。

 

 片桐の行動は早かった。まず後ろに立った男の肩を叩く。その男が首を後ろに向けて後ろを窺うと同時、片桐は低めの体制を取る。身長差も相成ってその男の目に片桐は映らなかった様で、体ごと後ろに向けようとする。しかし、片足を地面から離したと同時に、片桐が軸足を払い、地へ倒す。どすん、という音が出る間もなく右手の拳銃を奪い取る。

「どうした!?」アサルトライフルだっけ?を持っている中心の男が声を上げ、男を含めその場の全員が注目する。片桐はそんな事も気にせず、奪った拳銃を握り、中心の男の右手に銃口を向け、発砲する。少し経ち、重々しい金属音と共に言語を成さない絶叫が響いた。中心の男は右手を押さえ、蹲る。そこから溢れ出す赤褐色が生々しく、周りは最早、言葉を失い絶句していた。

 さらに、倒れている男が起き上がろうとしたが、それに反応した片桐が銃口を側頭部に向け、動きを静止する。そして、その頭めがけて発砲した。様に見えたが、銃口は床を向いている。威嚇のための射撃だった様で、男は失神したようだ。

 それを見ていたカウンターの男が片桐に銃を向ける。

 正直、他人のふりをしていたかったが、片桐にこれ以上怪我人を増やされるのは不味い。という想いで、ため息交じりで地を蹴り走り出した。

 カウンターの男は、身に迫る危機を感じ取ったようで、こちらに銃を向けるが、引き金は引かれない。きっとその男は素人だろう。人を殺してしまう、という別種の恐怖から引き金を引くことを躊躇したのだろうか。男の下へはすぐに行けた。そこから銃を叩き落として男の右腕を後ろに回し、足を掛けてうつ伏せに倒す。そして手錠を取り出し、男の両手首に掛ける。地味に感じてしまうのは、片桐との相対的なものだろうか。

 銀行強盗を捕らえた、という功績は出来たが、状況が状況なので、賞賛も拍手も無い。あるのは驚愕と怯えの表情だけだ。深いため息が出る。

 

 数分後、近くの葉月署からの警官数名と救急車が銀行に到着した。

 そのタイミングで私達は銀行から出る。出てきた所で警官から耳当たりの良くない小言が聞こえてくるが、気にしてもしょうがない。

「警視庁RFT所属の片桐です。葉月署の皆、毎度ご苦労なこった。銀行強盗の3人、全員行動不能。全員強盗未遂と銃刀法違反の現行犯という事になるな。解決した訳だし、切符よろしく」片桐は、その中で一番階級の高い階級である警部の下へ行き、軽々しい口調で報告をする。

 ちなみに切符というのは、RFTでの仕事の成果を示す物となる。RFTは他の刑事部とは違い活動が表沙汰にはならないため、成果の報告を証明する物が必要となる。そのため、警部以上の人間は単語帳の様な紙に事件の概要を書き込み、千切って渡す事を義務付けられている。それを無視した例もあったらしいが、その人がどうなったかは定かではない。以降、それに関しては逆らわないというのが警官内での暗黙の了解となっている。

「ったく、今日はついてねえな。こんなクズ共の相手しなきゃならないなんて」警部は切符にペンで書き込みながら、冷ややかな侮蔑を浴びせかける。

「そんで、その『クズ共』に先越された気分はどうだ?」片桐は嘲笑を込めた言い方で返す。

「五月蝿え、ガキが粋がってんじゃねえぞ。もう二度とその汚え面見せんな」書き終えた切符を切り離し、放り投げる。それにしてもこの警部、口調が警察官のそれでは無いのだが。そして片桐に向かってガキって…。

「そっか。じゃ、別れの品としてこれを」切符を受け取った片桐は、警部の掌を上にしてあるモノを乗せる。

「なんだ?菓子折り渡して機嫌取りか?実にクズらしい発………っ!」警部は、そのモノを見て驚愕する。

 それは、パイナップルの様な形をした深緑の楕円球の先端に特異な形をした金属パーツの付いていて、元々輪状にしたピンの付いていた物。ある程度知識がある者なら誰でも分かるだろう。そう、手榴弾だ。

「うあああああぁぁぁぁぁ!!!!」という周囲無視の絶叫を上げながら、警部は首を回し辺りを見回す。そして、空に向かって手榴弾を思いっきり投げる。それから1秒としない内に閃光を起こし、轟音と熱風を撒き散らす。上に投げたのは、被害を抑えようと思考した結果だろうか。とか考えていると、不意に肩を叩かれ、右を向くと、片桐が「行くぞ」と言って、一台のパトカーを指差す。そして片桐は走り出し、騒ぎを聞いてそのパトカーから出てきた警官達の首筋に黒い物を押し当て、次々と倒していった。三人全員倒した所で、パトカーの後部座席に入り込んだ。運転は私がするのか。

 私も運転席に乗り込み、シートベルトを締める。キーは刺さっていたから、それを回し、車を発進させる。

「通りは野次馬が多いから、そこの路地裏に入れ。そして出た所を右」後ろの片桐がそう言ってきたので、銀行のほぼ真向かいの路地裏に入る。

「ちなみに、どこへ行くの?」少し落ち着いた所で、片桐に聞いてみる。

「今はちょっと言えないな。とりあえず俺の指示に従ってくれ」つまり、言ったら私に反対される様な所へ行くんだな。

「…止めていい?」

「駄目」きっぱりと言われた。

 何故片桐はこのパトカーを選んだのか。そんな疑問が頭を過ぎるが、バックミラーを見たら解決した。

「片桐の隣の男、あの銀行強盗の一人?」

「うん。そーだよ」

「…随分と怯えてるみたいだけど」

「さあ、何ででしょうねー」明らかに目を逸らしながら棒読みで言う。片桐の手から、黒光りする何かが男の腹辺りに押し付けられている。

「あ、そこの信号左ね」結局、私は色々と分からぬまま、片桐の目指す場所へと車を走らせた。

 

 

1時間後

 

 車を止めた先は、取り壊し予定のある廃ビルだ。取り壊しまでまだ期間があるのか、ビルの所には誰も居なかった。

 コンクリートが剥き出しになった壁、ガラスが取り外された窓、染みと埃の散らばった床、灰色のビニールシートが覆われて暗くなった室内。この部屋の環境が、怪しい雰囲気に拍車をかけている。

 

 前方にいるのは片桐と『組織』の一員の可能性がある男。客観的に見れば、歳の離れた兄弟にさえ見えるが、今現在あるのは歴然とした『主従』の関係だ。

「大声を上げるとか、仲間と連絡を取るとか、俺に飛び掛るとか、そういった行動はしないで欲しいな。そんな行動の前兆でも見せた途端、俺はこの引き金を引く。『自分が貴重な情報源だから自分はきっと殺されない』とか思っているのであれば、忠告しよう。情報を探るのは別にお前である必要は無い。『組織』の連中は大量にいる。俺がお前を殺そうが、お前自身が自害しようが、俺等に与える影響は精々『情報の入手が少し遅れる』程度だ。こんなもの誤差にも入りやしない。自分の命という対価でお前はそれをするのか?それが出来るなら、お前は良い映画のモブになれるよ」と片桐にそう諭されれば、流石に男も従順になるだろう。まあ、無駄な抵抗をされたり、無駄に多く傷を付けたりするよりはましだけど。

 

 それから少しして、私達は三階に着いた。手短な壁に男を座らせ、念のためだとか言って足にまで手錠を掛け、準備を整えた。

「で、これからこの男をどうするの?」答えは予測出来ているが、一応聞いてみる。

「決まってんだろ」片桐は、いつにも増して悪い顔で言う。

「ちょっとした拷問だよ」

 拷問、その単語を聞いて、男はピクリと肩を震わせた。

「というか白河、お前はここに居る必要は無いから、外出てていいぞ」そんな事は気にも留めずに片桐は私に話しかける。

「いや、遠慮しておくわ。あんたが暴走しないように見張っておく必要があるから」

 片桐はそうかい、とだけ言って男の方へ向く。

「俺の聞きたい事は一つ。お前の所属している組織の事全てだ。拒否すれば……は言わなくていいよな?」片桐はあくまでゆっくりと、少年の様な高い声で語りかける。

「誰が話すか……っ!」と言った男の顔は、先程に比べ安堵の色が浮かんでいた。そして、視線は私の方へ向いていた。

「うーん。それなら仕方無いか」片桐は男の左手の小指を掴む。

「な、何を………」男は困惑しながらすがる様にこちらに視線を寄越す。

 そして片桐は問いに答えず、握った指を少しずつ、普段曲げる時とは間逆の方向へ曲げていく。数秒後、男の口から悲鳴が聞こえ、

 

 

 そして、ポキリと軽い音がして、指が折れた。

 

 

 その後、音は無かった。あるのは小指を抱え、脂汗を流しながら蹲る男と、さっきから全く表情を変えない片桐と、若干しかめっ面の私だけだった。

 数分経って、痛みが少しは和らいだのか、不規則な呼吸をしながらこちらの方を睨む。だが男が睨んだのは加害者の片桐ではなく、付き添いの私だった。まるで約束が違うではないか、とでも言いたげに。

 つまり、ストッパー役の私が片桐を止めなかった事に対して、怒りと憎しみを持っているのだ。

 このままでは埒が明かない。と判断し、男にとって絶望的な言葉を放つ。

「私達は一応、警察という役職です。しかし少々特殊な立場にありまして、期限内に職務を果たすためなら、多少の手荒な処置も容認しているんですよ。私が止めるべきは無駄な傷害。今貴方が受けているのは必要な処置となります。少なくとも、今この現状では」

「そういうことだ。それを含めまだ意地を張るか?お前が話すまで俺は拷問を続ける。指はまだ9本ある。9回分だ。それが終われば次は腕だ。こちらは肘と肩、左右合わせて4回分。その次は脚。(すね)脹脛(ふくらはぎ)の骨でまた4回。後合計17回分。それまで耐え切ったらジュースの一本でも奢ってやるよ。まあ、その後に耳と目が各2回分。次はアバラでも折るか。何回出来るか知らねえけど。ああ、歯でもいいな」諭した私に便乗して、片桐はさらっと恐ろしい事を言う。

 男の顔はみるみる青ざめ、やがて、諦めた様に口を開く。

「……何が聞きたい?」

「お前の組織の名前は?」

「…『シークレットライン』とホームページには書いてあった」

「『シークレットライン』ねえ。ぴったりなネーミングだ。ホームページって事は、そこから入ったのか?」

「そうだ。よくある会員登録の方式で入った」

「武器はどうやって?」

「武器はリーダーが入手してたが、リーダーがメールを送る事で届けられたって言ってた」

「リーダーはどうやって決めるんだ?」

「会員限定のコミュニティがあるんだ。そこでグループを作り、リーダーを決めるんだ」

「本部の場所は?」

「知らないな。俺等はただ手に入れた金を事務所に渡して、後日銀行に金が振り込まれてるだけだからな」

「…嘘は言っていないようだな。ならその事務所の場所だ」

「その事務所なら、東京都の千代田区にある。東京駅から徒歩20分位だ。紙とペンさえあれば地図も書ける」

「至れり尽くせりだな。じゃあ、なんでお前はこんなペラペラと情報を離すんだ?いくら話す様に誘導したとはいえ。しかも騙す様な素振りも無い。少し不可解だぜ?」

「単にあんた達に対する恐怖もあるが、もう吹っ切れたよ。元々そこまで思い入れも無いしな」

「ならばこの世に思い入れは?」

「………無いな。犯罪にも手を染めてるし、お袋に合わせる顔もねえよ」

「そうか」片桐はそう言うと、手の拳銃を男に向けた。

「片桐、それはやりすぎよ」私はその片桐の手を掴む。今まで黙っていたが、流石にそこまでは容認できない。

「あー、お前はそういう奴だったな。だが大丈夫」片桐は言って、私の耳へ顔を寄せる。

 

「――――――………

 耳元で片桐は囁く。

 

 

「―――はあ…。分かったわよ。私は去るから、後は勝手にやって頂戴」渋々ながらも片桐の要求を呑む。そして、後ろを向き、歩き出す」

「つー事で、腹括れや」背後から、そういう声が聞こえる。

 二階まで降りた所で、弾ける様な鋭い音がする。

 出口まで出た所で、先程の片桐の言葉を思い出す。

『―――絶対に殺しはしない。ちょいと利用するだけだ。一度痛い目を見てんだ、嘘は付かないさ。まあ外に出てろ。後は俺がやって置く。パトカーもそのままでいい』さっき片桐はそう囁いた。

 いつも嘘ばかりで、信用ならない片桐でも、こういった言い回しの時は必ず本当の事を言っている。

 片桐が一度遭った痛い目。加害者は私で、被害者は片桐。原因は片桐にあった―――

 と、ここまで思い出して、俯いた。あの事を思い出すと、酷く罪悪感に苛まれる。

 そんな事より今は捜査だ、と割り切って、この後の行動を考える。

 男の言っていた『事務所』というのが気になる。きっと『シークレットライン』とやらの本部に繋がっているだろう。

 そういえば、昼食を取っていなかった。色々あって忘れていたが、本能には逆らえない。東京駅の付近では値段がかなり高くなるので、ここで済ませることにする。

 近くで見つけたコンビニで某ブロック状バランス栄養食とペットボトルの緑茶を購入し、外で食べる。即席で腹を満たすためのセットだ。

 食べ終わった直後じゃ満たされる事も無いが、直に膨れてくるため、気にせず最寄の駅まで向かうとする。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。