機械仕掛けの科学者たちは神話を語る。
 ……グリムロックは恐竜の夢をみたか?

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第1話

 視力(オプティックセンサー)の異常に気が付いたのは、司令官たちが哨戒に向かってからだった。時すでに遅しといった所だろうか、私は胸部のフロントガラスを撫で降ろす他なかった。

 

「下手に動くのもな……おーい、誰かいないか?」

 

 声は金属の壁面に響き渡ったが、私の発した音声をキャッチする仲間はいなかったようだ。

 

 やれやれ困ったものだ、これじゃ頼まれていたダイノボットの修理もできやしない。第一、見回りならそんなに人員を割かなくてもいいと考えられるのだが──

 

「オレグリムロック、呼んだか?」

 

「あ、ああ、グリムロック、君か」

 

 ……こういうのを人間は泣きっ面に蜂というらしい。知能の怪しい彼に診てくれなんて言えないし、言いたくもない。そこには、軍医としての矜持が私にインプットされているからでもある。

 

 頭脳回路が未熟なこの恐竜君に、何と説明すれば下手を打たずに済むだろうか。少なくとも、呼んでしまった以上こうして診察台で寝たふりをしてやり過ごすのは下策だと判断した。

 

「ちょっと目が見えなくなってね」

 

「ウウー……目が見えない、それはこうか?」

 

 グリムロックは小さい両手で自分のレンズを遮ってみせた。

 

「ああ、そう、そんな具合だよ。ハハハ、早くホイルジャックが帰ってくるといいんだが」

 

 パーセプターはアダムスの救出に向かっていたな。そうだ、スパークプラグなら基地に残っていたはずだ。不用意なマネだが、グリムロックに指示する他ない。

 

「なあグリムロック、スパークプラグをここに連れてきて欲しいんだが」

 

「そういう時は……戦略ゲーム」

 

「何?」

 

「戦略ゲームのように、座標、を描く……ウウ」

 

 グリムロックまでリペアの必要がありそうだ。確かに彼は普段から何を考えているのか判然としないが、こんなに具体的な案を出すような人物ではなかった。

 しかし、私は自然と脳裡にマトリクス状のグリッド線を描いていた。古臭い戦略ゲームを──

 

「まあ、やってみたが。これでどうすればいい?」

 

「わ、ワカラナイ……オレ、グリムロック、最近ヘン」

 

 こんな事だろうと思っていたので、私は笑ってみせた。彼を安心させるワケではなく、自分を慰めるために。

 

「ハッハッハ。お前は相変わらずだな。腕っ節はいっちょ前なのに」

 

「オレ、グリムロック……たまに知らない奴の思い出、知ってる」

 

「おいおい、そりゃいつからだい……君は外傷のリペアもあるってのに」

 

「ワカラナイ」

 

 パーソナルコンポーネントの異常だろうか。安易に診断はできないが。

 

「まあいいさ。それにしても、ゲームなんてしている余裕はないんだがな。ああ、そういえば」

 

 記憶の異常は、恐らくパーソナルコンポーネントに保存されたスパークによる可能性もあるとホイルジャックが呟いていたのを思い出した。グリムロックに移植したものが該当するかも知れない。

 

「うん? 何をしているんだ」

 

 飄々とした声を我々の聴覚回路に与えたのは、スパークプラグだった。ああ、助かった。

 

「ああ、ちょっと診てくれないか、目が見えなくてね」

 

「レンチを借りに来たんだが、まあいい。そら、グリムロック、どいておくれ」

 

 スパーク、か……

 

 

*

 

 

「災難だったなラチェット君」

 

「まあね。それより、彼の記憶回路に異常はあったかい?」

 

 私はスパークプラグによる意外にも危なげない修理を終え、安堵の証拠とも言える雑談をホイルジャックと交わしていた。

 

「それがまっさらで何もないんだよ。やはりスパークがエラーを起こしているんじゃないかね」

 

 ホイルジャックは顎を擦りながら、側頭部を光らせて応じる。

 

「スパークは解剖できるようなものではないから、これは俗説なんだが……スパークは『どこか』を経由して循環しているという話を知っているか?」

 

「もちろんだとも。それがどこなのかは我々が知る由もないが」

 

 技術によって解明できる謎に限度があるのを知らされるのは口惜しいが、事実として認めなくてはならない。だから我々は神話を創造した。

 

「アストラル層に還り、そこでスパークの保有する記憶が『なにか』に対してフィードバックされる」

 

「そしてまたスパークはやってくる、という話だろう? 吾輩は馬鹿げていると思うがね、でも筋の通った正解も与えられはしない。むず痒いものだ」

 

 欲しいものを諦めたような口ぶりで、有数の科学者は述懐する。彼をして、この謎を解き明かすのを禁じられている風に感じられた。

 

「ま、それ以外に原因は考えられんよ。ひょっとして、その『どこか』から妙な記憶を持ってきてしまったんだろう。ハッハッハッ」

 

 吐き捨てて、ホイルジャックは腰に手を当ててテレトラン1のほうへ向かっていった。

 

 悩む姿をあまり見られたくないのだろうか、こんな絵空事でも彼は本気でスパークについて究明しようとしているのが伝わった。

 

「記憶、か」

 

 グリムロックの事だ、きっと凄まじい戦争だとか、高名な戦士だとかの記憶を好んで持ってきたに違いない。




グリムロックとラチェットのお話。
パーセプターがアダムスの救出に向かっているのは、第32話「スカイゴッド」中の出来事だからです。
(戦略ゲームは、ライノックスが視力を失ったサイバトロンたちに教えたアレです)

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