(頼む、耐えてくれよ、カビゴン……)
粉塵を腕で遮りながら、巨体の影を探す。
――立っている。ギリギリだが、カビゴンはまだ戦える。
(よし……っ)
「カビゴン、なげつける」
最後の力を振り絞ったような雄たけびを上げて、カビゴンが持ち物を思い切り投げた。持たせていたのは“くろいてっきゅう”。なげつけるで最も高い威力を叩き出す道具だ。
空を切り裂く音がして――白煙の向こうに、着弾した鈍い音。
粉塵が晴れる。と、倒れたドラパルトの後ろでダンデが驚愕の表情を浮かべていた。
しかし、
(……喜んではいられないな)
カビゴンの巨体がぐらりと落ちた。ゲンガーのヘドロウェーブでどくをくらっていたのだ。
「お疲れ、カビゴン。――ラストです」
「ああ、クライマックスだ!」
お互いの三匹目は分かっている。
「「リザードン!」」
二体のリザードンが同時にコートへ躍り出た。
「いわなだれ!」
先手を取ったのはマサルのリザードンだった。分かっていた。すばやさはこちらの方がわずかに上である。
「リザードン、ひるむな!」
ダンデが声を張り上げた。
(ひるめ……っ!)
三十パーセントの確率を当てにしてはいない。だが、ひるんでくれれば勝利が確実になるのも確かだ。向こうは間違いなく、一撃で沈められないための対策をしてきている。たぶんきあいのタスキかなにか。
(ひるめばストレートで僕の勝ち。ひるまなくてもこのターン向こうの攻撃を耐え切れば僕の勝ち、だ!)
「リザードンっ!」
ダンデの声に応えるように、リザードンが吠えた。ひるまなかったのだ。
「げんしのちから!」
周囲に巻き散らかされた岩がふわりと浮かんだ。遠吠えに呼応するように、それらが一気に刃となってマサルのリザードンを滅多打ちにする。
マサルのリザードンは大きく体勢を崩して床に落ちた。マサルは一瞬ひやりとした。
(やっぱ、ヨロギの実じゃ無理があったか?!)
敗北の予感にドクン、と心臓が脈打って――だが、リザードンは倒れなかった。
(よし、耐え切った!)
確信する。勝った。これでおしまいだ。
「いわなだれ!」
「げんしのちから!」
同時に下された最後の指示は――
――もう一度浮かび上がった岩が、マサルのリザードンを撃ち抜いた。
ズン、と床が振動する。リザードンの巨体が崩れ落ちたのだ。
戦闘不能。
それを確認したマサルは、信じられないという目でダンデを見た。
ダンデは金色の瞳を爛々と輝かせて、勝者の笑みを浮かべていた。
「オレの勝ちだぜ、チャンピオン!」
ダンデのリザードンが勝ち誇った声を上げた。
それでようやく現実を飲み込んだ。どうして、なんで、なぜダンデのリザードンの方が先に技を出せたんだ? 疑問が脳内をぐるぐると渦巻いて――バトルモードのスイッチがパチンッと落ちた。
(なんにせよ、僕の負け、だ!)
マサルの肩からフッと力が抜ける。
「あー、負けたーっ!」
とその場に大の字に寝転がる。それなりに高いジャケットが砂まみれになるが、そんなこと構っていられない。
リザードンをボールに戻して、マサルはぼーっと天井を見上げた。それでようやく思い至る。
「……そっか、げんしのちから……」
いつの間にかすぐ傍にまで来ていたダンデが、マサルを覗き込んで笑った。
「十パーセントに賭けるのはちょっと怖かったぜ」
「三十パーセントに裏切られた時点で、流れはそっちのもんでしたよね……」
いわなだれを受けてひるむ確率は約三十パーセント。
げんしのちからですべてのステータスが上がる確率は、約十パーセント。
わずかしかないすばやさの差は、これで充分にひっくり返せる。――こういうことがあるから、先にカビゴンで少し削っておいて確実に決めに行きたかったのだが。
(ああ、駄目だった……)
予定が狂うなどよくあること。特にダンデが相手だと、予定なんてあってないようなものだ。彼の実力の前にはそんなもの簡単に覆され、想像も出来なかった光景が目の前に広がる。
悔しい。だがそれ以上に、楽しい。
「運頼みにさせたのは君の実力だ。素晴らしい試合をありがとう、チャンピオン!」
差し出された手を、マサルはしっかりと握り返して起き上がった。
「次は負けませんから」
ダンデは何より嬉しそうに満面の笑みを浮かべた。
こちらは短編「時には真面目にバトルをしようか」の改稿版です。
短編版ではバトルがオールダンデさん視点で感想戦もちょっとだけ書いてます。もしご興味あればぜひこちらへ→https://syosetu.org/novel/229006/