銀魂:白銀ノ魂録実況プレイ 虚ルート 作:一億年間ソロプレイ
銀魂って主要キャラと絡むとやっぱり会話が多くなりますねぇ…。
人混みが苦手である虚はよく早朝に町を歩き回る。この時間帯を歩くのは夜遅くまで飲んできた酔っ払い、水商売から帰ってきた人間、そしてホームレスくらいしかいないので、無駄な人通りの無いこの時間を虚は気に入っていた。
松陽はよく昼から歩き回ることが多いが、その時間帯にくると虚は家に籠り、日中絵を描く師の傍にいることが多い。
暗器は無理だがと空木に言われ、護身用にと持たされた竹刀袋に包まれた木刀を常に背負い、虚は恒道館道場と木製の札が立てかけられた道場で立ち止まった。
「このような場所に道場があるとは」
今の時分、道場なんぞはあの狸に仕えていた柳生家の流派くらいしか生き残っていないと思っていたが、場末では細々と生きている道場もあるらしい。
物珍しさから立ち止まった程度の興味だったが、それもすぐに失せ足を動かしその場を去ろうとした。
「あら、こんな時間に入門希望者かしら?」
丁度、スナックすまいるから帰ってきた志村妙にその姿を補足されるまでは。
入門希望者(仮)を見つけたお妙の動きは素早かった。仕事で疲れている筈だがそんな様子を一切見せず、あれやこれやと虚を言いくるめた。虚が何か一言を言う前にニ、三言返し、その細身の腕から出されているとは思えない腕力で虚を引き留め、その腕から逃れることも出来ないまま虚は道場の入り口へ案内された。
そしてその中からは誰かの息継ぎと何かが空を切る音が規則正しく聞こえていた。
「丁度この時間だと新ちゃんが鍛錬しているの。良かったら見ていって。はい、これマカデミアンナッツチョコ。
新ちゃーん!入門希望者よー!」
虚にどこからか取り出したマカデミアンナッツチョコを一粒渡したお妙は道場の中で木刀を振るっている新八へ声を掛けた。その間に虚はマカデミアンナッツチョコが溶ける前に口に含んだ。口の中で広がる甘さに顔を歪ませながらチョコに包まれたマカデミアンナッツを細かく噛み砕いていく。
お妙の一言で道場から聞こえていた音が一瞬止まり、ドタバタと慌ただしく地面を踏む音が聞こえてくる。
誰も入門するなんて言っていないと心の中でツッコみながら、虚は片方の眉を上げた。それを言っても無駄なことというのは先程の数分で分かったことだった。
「あ、ああああ姉上!?こんな時間に入部希望者なんて本当………本当にいるゥゥゥゥ!!!」
「新ちゃん将来の門下生の前でうるさいわよ」
「だから入るとは言って「何か言ったかしら?」………」
「ハッ、それもそうですね」
こほん、と一つ咳払いして新八はお妙に連れられた虚を見据える。
「まずはここ、恒道館・天堂無心流の門下生となるなら僕と一試合してもらおうか!」
「…はぁ」
「では、私が立会人をしますね」
そこでやっとお妙の腕が離された。ここで逃げても良いが、目の前でニコニコと笑うお妙のポテンシャルは計り知れないと考え、その試合を引き受けることにした。ひとまずは事を終わらせててそのまま逃げようという算段だ。
背負った竹刀袋から一本の木刀を取り出した。虚の師である空木が枇杷の木を伐採して自ら作製したこの世に二つだけの逸品だ。壊れた場合は空木に言えば木刀は作製してもらえるが、虚も松陽もこの木刀の手入れを欠かしたことはない。
竹刀袋を磨かれた道場の隅に置き、使い込まれた跡を感じる木刀を構える新八と目を合わせ、虚も木刀を構えた。
二人の準備が終わったことを確認し、お妙は手を振り上げた。
「それでは、始めっ!」
その手を振り下ろし、声を張り上げた。
「まずは君から来ていいよ」
余裕を含ませた声で新八は告げた。新入り、しかも同年代くらいの者だと見て侮っているのがありありと分かる。
例え、今は奈落の頭領をしていた頃より身体能力が落ちているとはいえ、五百年ほどに及ぶ経験までが消えた訳ではない。
恐れも知らず、そんな自分へと向けられた言葉に微笑みを零し、虚が動いた。
分かりやすく型を取り、一回で片を付ける為、強く床を踏みしめ新八の元へと距離を詰める。
(突き技か。でも対処法が分かれば……!)
そうして続けることも無く、新八の声が途切れた。そして背に大きな衝撃を受けた。
新八が虚の木刀を避ける前に、その木刀によって壁まで飛ばされたからだ。
カハッ、新八の口から空気が漏れ出る音がした。動く前までに見えた型は突き技だ、しかしその後、距離をどうやって詰めたかまでは見えなかった。…速い!
一瞬の早業に、立会人をしていたお妙は目を見開かせた。「新ちゃん」と出そうになった声と支えようとした動作を咄嗟に抑えた。今の私は試合の立会人だ、志村新八の姉としての態度は見せるべきではない。
「い、一本…!」
お妙が声を震わせながら試合の結末を言い放った。
格が違う、立ち振る舞いも、その手に持つ刀を握ってきた年数も。それらを新八は感覚で悟った。
目の前に立つ人物は銀さんよりも小さいのに、自分と同い年位である筈なのに、このプレッシャーは何なんだ。
得体が知れない、と新八は身を震わせながら目前で見下ろす虚を見上げた。
その様子を見つめる虚は言い放つ。ここではない、遠くの未来で銀髪の侍に言い放った言葉を。
「――君の剣は私には届かない」
虚が最も忌み嫌う男を感じさせる笑顔で、木刀を降ろした。
「……す、凄い!」
はて。虚は今見下ろしている少年が何と言ったか聞こえなかった。
あれだけ脅した筈なのに、最初は怯えを見せた筈の瞳が何処か眩しさを感じさせながらこちらを見上げてきた。
「ははっ!いやー、負けちゃったな…。君、凄く強いね。……って、そう言えば名前聞いてなかったね」
「…虚」
何を言っている?何故負けた筈なのにそのように笑っている?その理由が分からずとも自分の名前を出した。
「そっか、虚くんだね。恒道館の当主として君のような人が入ってきてくれるのは嬉しいな」
「いえ、私はそこの女性に無理矢理連れてこられただけなのですが」
「えっ」
「そして道場に入るつもりも毛頭ありません」
「ちょっと姉上…。どういうことですか?」
「あら、ウチに入ってくれる子だと思って案内しただけよ。それにマカデミアンナッツチョコを食べたからにはもうウチの門下生です。文句は認めません」
「しまった。食べてしまった…!」
「いや門下生ってマカデミアンナッツチョコでなれるモンじゃねーからァ!」
道場に入る前の己の行為を悔やみながら、虚は竹刀袋の元へ寄り、木刀を納めて竹刀袋を背負った。
「すみません。ウチの姉上が……。あ、でも門下生は無理でも講師として来てくれませんか?」
「どうしてそんな話になるんですか」
「いやだって強いし!カッケェし!”君の剣は私には届かない”って!もう痺れますよ!弟子にして欲しいくらいです!!」
「絶っっっっ対にお断りします」
弟子というと私塾を開いていた松陽の顔がチラつき、虚は凄く嫌な顔をして即座に断った。
付き合っていられないとばかりにこの道場から出ようとして、入り口へ戻るのも面倒なので縁側から塀を飛び越えようと敷地を踏んだ時だった。
足元でピッ、と音が鳴った。
「あ、待って下さい!帰るなら玄関から――――」
ドゴォォォォン!!
新八の制止虚しく、恒道館に設置されていた地雷が爆破した。
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「おかえり。…その頭はどうした」
「最近の道場って地雷が張り巡らされているらしいですよ」
「それは物騒だな。さっさと風呂にでも入って着替えておけ」
空木邸に頭がアフロになり、服に汚れを付けた虚が帰ってきた。居間で寝そべりながら寛いでいた空木は虚に浴場へ行くよう促した。
今この場に松陽がいたら鼻で笑っていただろう、そしてそれを虚が取っ掛かって言い合いになるだろうなと思いつつ、昼飯のメニューは何にしようか考えを巡らせた。
カァ、と敷地に植えた木に止まる鴉が一鳴きしていた。
「……そうだな。今日は涼し気な料理にでもするか」
冷蔵庫に何が入っているか確認する為、空木は立ち上がった。
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依頼で町中を歩く銀時に遅れてやってきた新八が隣を歩きながら遅れた理由を話していた。
「…ってことがあったんで遅れました。すみません」
「いや、それどう聞いても門下生がやってきた話じゃなくて無理矢理お前の姉貴に連れてこられた可哀想な被害者の話だろそれ」
「ともかくとても強かったんですよ。同い年位なのに凄かったなぁ…!」
「へーへー」
先程からその人物についての話しかしないことに銀時とその少し後ろを歩く神楽は辟易していた。
「そうそう。あっ!あの甘味処にいました!おーい虚さーーーん!」
"虚"と呼ばれた髪を頭上で一本に縛られた人物が団子を食べながら新八の方を見て、小首を傾げた。
何故かその姿が昔にいなくなった人物をふんわりと連想させた。
(…?)
銀時は目を擦って、その人物を見た。先程見えたイメージは消え、新八と同い年位の少年が団子を食べている。
疲れてるのかもしれないと思い、銀時は今夜居酒屋に行くことを密かに決定した。
「朝振りですね!」
「???」
団子の二つ目を食べようとしていた松陽が疑問符を散らした。今目の前で親しそうに声を掛けてくる新八とは面識は無い筈だが、新八は面識があったように話しかけてくる。
それに「なるほど」と時間が経ってから答えを出した松陽が団子を飲み込んだ。
「いやぁ、すみません。私、虚じゃなくて松陽って言います。虚は私の弟ですよ」
「えっ!?そうだったんですか!?い、いやー!すみません!間違えてしまって!!」
「そういやお前、花見の時に誰か運んでなかったアルか?」
「おや、そういう貴方たちは……?」
「私らは何でもやる万事屋ネ。今は依頼で絵師を探してるアル!」
松陽の中で虚が「違う!私の方が兄だ!!」と言い張っている姿が見えたが、松陽は知らない振りをした。
新八は人を思いっきり間違えたことに顔を赤くしながら松陽を見た。よく見れば、目の前で松陽と名乗った人物は前髪が下ろされている。朝方出会った虚は前髪を上げていたが、降ろしたら目の前の松陽みたいな姿なんだろうかと新八は現実逃避のように考えた。
一方、銀時は眩暈がしていた。
何故か自分の師匠の面影を感じる少年がいて、名前もそっくりそのまま。どういうこったよ……と内心混乱して会話に混ざれずにいた。
「しょーよー、お前ここら辺で腕のある絵師とか知らないアルか?」
「絵師…、絵師ですか?」
「そうなんですよ。僕たち、今依頼で絵師さんを探しているんです」
「心当たりならありますが……案内しましょうか?」
「あっはい!」
「やったネ!思わぬ当たりネ!たまには新八も役に立つアルなー!」
「何その僕がいつも役立たずみたいな言い方止めてくれる!?」
「団子を食べ終わるまで少し待って下さいね」
「ああ、いえいえ!そんな気にしなくて大丈夫ですよ!ゆっくり食べてください!」
「優しいんですね。ではゆっくり食べさせていただきます。…あ、折角なので虚が何をしていたか聞かせてくれますか?」
「はい!」
新八が朝にあったことを話し、それを松陽が微笑みながら聞いて団子を食べている。赤い布が掛けられた縁台に座る松陽の隣に神楽が座って酢昆布を食べている。
松陽が食べ終わった時にようやく銀時は状況が整理できた。
今目の前にいる人物が―――吉田松陽の子供であると。
銀時は松陽の過去をあまり知らない。過去について話してくれたのは、かつて自分にも師がいたことを一回ポロっと喋ったくらいで、それについての追究や以前はどう過ごしていたかなんてことを聞いても笑って竹刀ではぐらかされていた。その時は俺だけじゃなく、ヅラや高杉もいたがそいつらが問い詰めても答えは変わらなかった。
だからだ。自分が父の様に思っていた――今も思っている――人物が意外と遊び人だったという事実を受け入れるのもアイツの弟子として、目の前にいる実子には悪いがアイツに引き取られて育てられた息子の定めってもんだろう、と思考に区切りがついた。
どこかで松陽が「違いますよ!それ私本人…今は言ってはいけないんでした!」と自分が引き取った子供の勘違いに涙している姿が見えた。
「よし、じゃあオメーの言う心当たりのとこに案内してくれねぇか?」
「ええ、もちろん」
己の弟子がそんな勘違いを引き起こしていることにも気付かず、松陽は大きくなった銀時の姿に目を細めた。
||
松陽は空木邸のインターホンを鳴らした。が、そこは自分の家でもあるので扉を開けて入っていく。
「どうしましょう銀さん。滅茶苦茶格式高そうなお家なんですが。菓子折りの何かでも持ってった方が良かったんですかね」
「ば、馬鹿野郎お前。こういうのはビビったら終いなんだよ。いざって時は神楽の酢昆布を渡すからいいんだよ」
「嫌アル!この酢昆布は誰にも渡さないアルよ!!」
「あのー、皆さん?お構いなく入ってきていいんですよ?」
「あの…ここって…」
冷や汗をかきながら門前で躊躇っている万事屋を代表し、新八が平然とした様子で門を開けた松陽に問い掛ける。
「ここ、私というか引き取ってもらっている師匠の家ですから」
「師匠?ってことは松陽も絵師アルか?」
「いいえ、違いますよ。絵師は私の師匠ですよ」
「…?いや、絵師が師匠でお前が師匠って言ってんなら絵の師匠ってことじゃねーのか?」
「違いますよ、絵じゃなくて人生の師匠ですね!」
「へぇ…人生の師匠ですか……」
「紛らわしいアル」
「先程から騒がしいぞ松陽」
門前であたふたしている万事屋一行と松陽に声が掛けられた。
眉を吊り上げながらやってきたのは虚だった。
「やぁ、ただいま虚。師匠は家にいるかい?」
「師匠は私室で絵を描いてらっしゃる……げ」
「虚さん!朝方ぶりですね!地雷は大丈夫でしたか…って聞くまででも無いですよね…。すみません、最近ウチにパンツ泥棒がやってきたもので、その防犯で……」
「…ああはい、特に気にしていないので。ええ」
だからその話題を松陽の目の前で出すな、と語気を強めながら念じた虚だった。それを聞いている松陽は何を考えているか分からない笑顔で虚を見つめていた。
「松陽、こいつらは?」
「絵師を探しているというので、師匠を紹介しようとしていたんですよ」
「ふぅん?」
そうして会話する松陽と虚を目にして、再び銀時は衝撃を受けていた。
――まさかの双子かよォォォォ!!!アイツ何ほっぽって俺を引き取りやがったァァァァ!!!!
知らない内に身に覚えのない所業が加算されていく松陽はそんな銀時の内心を知らず、万事屋を師匠である空木の元へ案内する。それに何故か虚もついていっていた。
居間を抜けて、三部屋通り越す。そうして、空木の私室へと辿り着いた。そこの戸は閉められていた。
「師匠、今良いですか?」
「構わんが…その人数は何だ?」
作業を中断した空木が戸を開けてぞろぞろと連れ立っている万事屋メンバーを見た。
「あのぅー…絵師が本業だったんですか?僕、てっきりあそこの従業員かと……」
「…まぁ、そうだなパー子とやら。俺はあの店の営業とは一切関係が無い。で、何の用だ?」
どこかで見覚えのある人物が目の前に現れて、またもや銀時はパニックになった。
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「なるほど、都鳥という絵師の絵が欲しいとな」
「は、はいぃ。そうなんですぅ。あのうぅ、こう絵師の人脈というもので連絡できる手段とか無いでしょうかぁ」
「そうヨ、みや…、み○ねたかし出せやオラァ!」
「神楽ちゃんそれ違う絵師の人!僕ら丸っこくなっちゃうし!名前も軽率に出しちゃいけないよ!!」
妙にへりくだる銀時に疑問を覚えながら空木は虚の出した茶を飲む。ほどほどに熱い温度だ。
茶を入れるのは美味くなったなと一人感心していた。
「…で、依頼料は?」
「「「へ?」」」
「依頼料はいくら払うんだと聞いている」
「いや、紹介してもらえないかって話なんですけど…」
「俺がその都鳥だ。俺に絵を依頼するなら依頼料を払ってもらわねばな」
「「「えぇぇぇぇぇ!?」」」
驚く様子におやおやと微笑むのが松陽、五月蠅いとばかりに睨むのが虚。
「当たりも大当たりだったアルな!」
「やったぁ!これで依頼料が大量に手に入る!」
「あのー、依頼料ってどのくらい、ですか……?」
言えば言うほど小さくなる銀時の声に空木はうっそりと笑う。
「まずは値段を提示してみろ」
「え、えー?今話題の旅絵師だから…ひぃふぅみぃ、…よし。三百円だな!」
「馬鹿にしているのか!?」
思わず値段の安さにツッコんだ空木だった。今まで提示されてきた値段より最低でもゼロが一つ少ない値段を提示され、空木のプライドが傷付く音がした。
「いやー、だって、ねぇ?話題に上がってるだけで意外と下手って可能性もあるもんなぁ?」
「証拠を見せるヨロシ!」
「あー、そうですね。僕らも実物を知らないので、都鳥さんがどのくらいの腕っていうのも分からないですもんね」
意気揚々と万事屋メンバーは空木の密かに育っていたプライドを折っていく。
知らないと言われるのはまだいい。しかし、「お前の絵にどれだけの金銭価値があるのか?ん?」と問われるのは実に不快であった。
「なるほど。実物を見せれば良いのだな?」
「ああそうよ。それから値段を変更してやらんでもない」
いつの間にか強気になった銀時に、空木は懐から絵を取り出した。一枚だけじゃなく、二枚、三枚と。
合計で五枚の絵が万事屋の前に並べられた。
「こ、これは……」
「…なんか豆粒みたいに人が描かれているアル。気色悪いよー銀ちゃん」
「…ヤベぇな。これ」
素人目でも凄いと分かる絵を提示され、銀時は値段変更するべきか?いや、それだと前払いでくれた金を居酒屋で消費する予定がパーになる。
銀時の中で天使と悪魔が争い始め、決着は悪魔が勝った。
「なんなら美人画でも春画も出してやろう」
「最高だなアンタ!一万は安いぜ!!」
ぺらりと追加で出された美人画と春画に銀時はコロリと意見を変えた。空木なりに神楽へは見せない配置に置かれており、諸に見た新八は鼻血を噴き出した。袂から白いハンカチを取り出し、それを拭う。
「そうですね。個人で依頼って出来ますか?」
「ああ、出来るとも。しかし今は"万事屋"として依頼しているのだろう?それが終わったら俺に依頼してくれ」
「「是非ともさせていただきます」」
空木の折れたプライドが二人の土下座姿に再び蘇った。それから二人の姿勢が直り、神楽は半目で二人を見た。見せられずとも二人がこうも態度を変えさせた絵の種類には心当たりがある神楽であった。
「では依頼料は一万か?」
そっけなく茶を飲み干しながら空木が言った。
「ああ、一万だ」
「すまない、虚。茶をもう一杯注いでくれ」
「はい!」
空木の意図を察した虚が笑顔で茶を淹れる。持っている急須にはまだ一杯ほどお代わりできる量が入っている。
虚は茶をその残りを注ぎ、持久戦に持ち込むため台所へ行った。松陽は困ったように笑っている。
一万、と銀時たちが提示されてから無言の空間が漂っている。空木は値段について何も言わず、茶をちびちびと飲む。
(あれ…。おかしいですね。これって一万って言って、「よし決まった!絵を描いてやる!」みたいな雰囲気になる筈じゃないんですか?)
(お、おい…。まさかあの目は……)
漂い始めた緊張感を感じながら、万事屋メンバーは空木の目を見る。
(まだ、出せるだろう?)
―――コイツ、俺達から搾り取るつもりだ!
その目で察した。動作で金のマークを作っている空木の姿が巨大なイメージとなって鎮座していた。
しかし、通常なら払うことが都鳥への依頼料は払える筈だった。何故なら万事屋には依頼をされた際に前払い兼都鳥への依頼料として多額の金額が支払われたからだ。
だが、銀時はその金の一部を隠し、残った金で万事屋全員焼肉に行った。食べ放題、それから高級そうな部位を多く頼み、その金を全て消費してしまった万事屋。口の中にあの肉の旨味たちが広がっていく。
ここで引き下がる訳にはいかない。しかし、値段を上げなければ奴はいつまでも了承を出さない…!
くっ、銀時の口から音が漏れる。
「……一万三千」
「松陽、茶菓子のかわりを」
「はーい」
(駄目だ。バッサリと斬られた!)
(そりゃそうですよ銀さん!流石にナメすぎですよその値段は!)
(ここは景気良くパーッと値段を上げるネ!)
(だったらお前らが言えよォォォォォ!!!!さっきからプレッシャーパネぇんだよ!アイツの背後のスタンドが首を斬る動作してんだよ変われェェェェェェ!!!!!)
(嫌ですよ!僕だってあんなのに目を付けられたくありませんよ!!!)
(ここは万事屋の主人として、あの焼肉へ誘った本人として責任を取るアル!!)
(お前らだって喜んであの焼肉を食べただろうがァァァァァ!!!!!)
脳内で二人と通じ合うも責任のなすりつけ合いになり、銀時は頭を抱えた。銀時が二人に内緒でひっそりと隠した金額は十万。
致し方ない、あの金を使うしか―――。
そうもやもやと考えている間に、虚は新たなる茶を淹れて戻ってきているし、松陽も茶菓子である煎餅を新たな器に乗っけてやってきた。口元には何故か煎餅のカスらしきものが付いていた。
「松陽食べたな?」
「いいえ、そんなことはありませんとも」
「口にカスが付いているぞ」
「はっ……!」
虚がそう指摘し、松陽はしまったという顔をした。
空木のみならず、双子まで銀時たちにプレッシャーを与えつつ会話を交えている。その姿を見つめ、銀時はゆっくりと口を動かす。
「に、二万でどうだ」
バリッ ボリッ
上品に、だが大きく音を立てながら空木は煎餅を食べる。その目はまだ語っている。
まだ出せる筈だ
背後のスタンドも首を斬る動作から何処かから取り出した刀でペシンペシンと銀時の頭を叩くようになった。もちろん、銀時の感じているイメージであるから本当に起きている訳ではない。
銀時の背が小さくなる。アゴが心なしか尖り始め、鼻や目など顔がシャープな顔付きになっていく。
背にはざわ…ざわ…という効果音が現れていく。
「さ、三万……」
生唾を飲み込みながら、金額を上げていく。銀時の感じる緊張感が横二人にも伝わるのか、彼らも作画:福本○行になって場をざわ…つかせている。
(ぎ、銀さん…!そんな金があるとでも……!)
(ま、まあな……。銀さんのポケットマネーを舐めんなよ)
(銀さん……!)
そう、銀時は空木の掛ける圧のみではなく、あの時消費した以上の金がまだあるということを従業員二人に悟られることへのプレッシャーも感じていた。
このことが知られれば、恐らく己に夜兎族特有の身体能力による尋問が及ぶ可能性は高い。だが、依頼が通れば前払い以上の金が入ってくる。
銀時は尋問と依頼を完遂させた場合の金額を天秤にかける。それはギィィィ……と尋問の方に重さが勝り、………かと思えば金額の方に傾いていく。
ゆらり ゆらり
ペシン ペシン
尋問か、金額か。どちらかに揺れながら、決定的には傾かない天秤。
銀時は多量の汗をかいていた。滝の如く流しながら、シャープなアゴに汗が溜まり、ぴとんと一滴が落ちたその時、―――天秤が金額へと重苦しく音を立てながら完全に傾いた。
「な、七万!七万だ!!それ以上は出せねぇ!!!」
「七万……」
パリポリ、煎餅を齧りながら空木が言った。その表情は依然として変わらないままだ。
(行けるか…?)
パリポリ ババリィ! パリポリ パリポリ バッバリッボリィ!!!
途中、緊張しながらちゃっかりと煎餅はしっかりと食べる神楽の音が混じりつつ、空木が煎餅を食べ終えた。
「…うむ。描いてやろう」
「や、ヤッタァァァァ!!!!」
「ウヒョヒョーイ!また焼肉行けるネ!今度はアネゴも誘うアルー!!」
「やりましたね!銀さん!!でもそのお金ってどこ、……から………」
喜んだのも束の間、その金の出所を怪しんだ新八はその真実に気が付いた。その空気を感じ取った神楽もまた、その真実へと辿り着く。
「銀さん、後でお話があります」
「どうしたんだよ新八クーン?そんな怖い顔しちゃって……」
「…そういや、前払いで渡された金は二十万だったアルな。でも、私らが使ったのは十万……」
スチャ、と眼鏡を輝かせた新八に、ゴキリと拳を鳴らし始めた神楽。
ビクッと体を震わせる銀時。その様子を愉快気に見つめる空木ら三名。
「まぁまぁ、その依頼主がどのような絵を描いて欲しいか俺に伝えてから吹っ飛ばせば良かろう?」
そうしてほんの少しだけ猶予が与えられ、銀時は実にゆっくりと空木に描いて欲しい絵の特徴と期日を伝え、無事神楽に吹っ飛ばされた。
―――そして、新八が空木にとある話を持ち掛けた。
||
それから後日のこと、トントンと万事屋の戸を叩く空木がいた。銀時が吹っ飛ばされた後、新八から万事屋の住所を教えられ、その通りに万事屋へ依頼された絵を持ってやってきた。
「はーい。あっ、空木さんですか!」
「ああ、依頼の絵が出来たから届けに来た。それから依頼料も貰いに」
「はい、少し待って下さいね!」
そう言って玄関で空木の絵を持った新八が万事屋へと戻り、その手に茶封筒を持って帰ってきた。
「確認して見てください」
「ふむ、一、二、三、四……七。提示された依頼料は確かに受け取った」
「あ、それから例の絵って…出来てますか?」
「アレはまだ出来ていない。そちらの絵の完成を優先したからな。…それから納得のいく出来になるまではまだ時間が掛かりそうだ。気長に待ってくれるか?」
「はい、こちらもまだ依頼料払ってないんで…いつでもお待ちしていますよ!」
新八と虚さんという組み合わせは無限大である。ただの人間代表(眼鏡代表)と不老不死の人間というのはかなりそそるものが無いだろうか。
しかし、私の駄文ではここまでのようだ。誰かあの二人の話を書いてくれ。 ~fin~
茶が淹れるのは上手くなった方…なんだか分からない感情が沸いた。これからなんだかんだで新八に声をかけられるようになる。
新八…そいつ、原作でラスボスやってた奴です。でもなんだがコミュ強バリに話しかけに行く。同年代の友達少ないからね、仕方ないね…。
吹っ飛ばされて十万もむしり取られた天パ侍…双子に対して扱いは優しめ兼見守るようになる。あれ、でもこんくらいの年齢であの大きさ……アレ、年が合わなくないか?…ま、どうでもいーか。
とんだ勘違いを引き起こさせた方…かつての弟子にとんだ勘違いをされているとは微塵も思わず優しい目で見つめていた。
空木…神楽と新八も許容範囲内。子供判定は広い。