銀魂:白銀ノ魂録実況プレイ 虚ルート 作:一億年間ソロプレイ
でも中身は粗末ゾ(絶望)
父も母の顔も知らず、赤子の頃からぽつりと村に置かれていたのが私だった。みなしごである私を村は受け入れ、普通の子供として育ててくれた。
同年代の子と追いかけ合い、私は酷い転び方をした。肌が擦り切れ、皮膚に石がのめり込むほどの怪我であった。しかし、そんな傷は心配して私の元へ来てくれた子供の目の前で治った。
そこからが悪夢の始まりであった。
そのことを子供は言いふらし、私は気味悪がられるようになった。その子から遊ぶ誘いも無く、人の視線に貫かれる日々だった。みなしごである私を受け入れてくれた、家族と呼んでいた人からもその視線は注がれ続け、時には手をあげられた。
日々が過ぎるにつれ、私には視線だけではなく石が投げつけられるようになった。初めて私に石を投げたのはあの日共に遊び、私がこのような状況になった原因の子供であった。
石を投げつけられることが普通になり、次第に村人たちから暴力を振るわれることが私の日常となった。
痛かった。投げられた石は頭に当たり、皮膚を容易に切り裂いた。向けられた暴力で骨は何度も何度も折れた。首の骨を折られた時、初めて死亡した時には意識が暗く落ちて…また目が開けられることに絶望した。霞んだ視界でも怯え歪んだ村人の顔はよく見えた。口が僅かに動き「鬼」と言われたことも聞こえた。
そこからは村人総出で私の殺し方を模索するように、私は何度も殺された。薪割り用の重たい斧の刃で首を切られた。頭を棒で殴りつけられ中身が出ても構い無しに叩き込んだ。心臓を抉り出されて目の前で握り潰された。
殺し方を模索するというより、村人たちは楽しんでいた。それと同時に私を恐れていた。だからいつも縄で縛られて身動きの取れない私を甚振った。目玉を抉られた、耳を削がれた、足を潰された、気絶するまで体中を殴られたこともあった、痛みに震える私を面白がったのかゆっくりと刃物を突き刺されたこともあった。
長く続く暴力に疲弊して叫ぶのを止めた。何をされようともどうでも良いと思った。
しかし、村人たちにとって反応が無くなるのは困る事だった。私は丸太に括られ焼かれることになった。未知の痛みに私は久方ぶりに叫び声をあげた。皮膚がちりちりと徐々に爛れていく、何とも言えない匂いが辺りに充満した時だった。
見慣れない人を見た。顔が俯いており、剥き身の刀を引き摺って歩いていた。髪が無造作に伸びてその人の陰気さを一層醸し出していた。
「おうなんだテメェはよ」
「なんならテメェも混ざるか?死なねぇ"鬼"殺し」
村人が気安く声を掛けた。その人は少し顔を上げ、髪で隠れていた緑の目を露出させた。じぃっと三人の村人の顔を眺めてから、ゆっくりと顔を横に振った。
村人はやれやれと溜息を吐いて、燃やされる前まで私を殴ることに使っていた鍬を構えていた。危ない、逃げて、と言おうとしたが声は掠れて届かなかった。
「テメェを薪にしてやるよ!」
その人はそっと瞬きをして手に持つ刀を振るった。その刀が村人の右腕をそっと撫ぜた瞬間だった。
「あがぁぅぁっっ!?」
口から血を吐き出しながら村人の体が崩れた。たった一振りのことだった。見覚えのある顔が白目を剥きながら、私と同じように体を虫の如く震わせて止まった。からんと落ちる鍬の音だけが響き、二人が怯えたようにその人を見ていた。緑の目がまたもゆっくりと瞬きをし、その二人を捉えていた。
「や、弥吉が死んだぁ!!」
「この人殺しっ!!」
悪態を吐きながら二人が逃げるのを許さず、目にも見えぬ速さで近付き、弥吉と呼ばれた村人と同じ様に首や左腕を刀で撫ぜて、その二人も同じように死んでいった。
呆気ない終わりだった。私を今まで苛んできた者を容易く振り払ったその人は、燃えている私に気付いたのか私を括りつけた縄ごと丸太を斬った。地面に崩れ落ちた私をその目が見つめていた。
…その人の目でなら何度も蘇る私を殺してくれるのだろうかと思えた。
「……だれ?」
せめて名前だけでも聞きたかった。そんな思いを抱いた。…その時の私は自分の状態を忘れていた。足元は火傷跡まみれだった。燃やされている間、何度も火傷が治ってはまた火傷を負うことの繰り返しだった。私を燃やしていた火が無くなった今、火傷は治るだけであった。
その様子をその人の目が見つめていた。皮膚が蠢き、元の白さに戻っていく悍ましい光景すら瞬きせずにずっと見つめられ、私の胸は曇るばかりだった。
「ご、ごめんなさい…。気持ち悪かったですよね…。
なっ、殴らないで………」
一歩動いたその人に身構えた。頭を殴られるのはいつも痛い、腕を顔の前に出して殴られても大丈夫なように構えを取った。
目を瞑り、痛みに耐えようと心構えを決めていた。しかし、いつまでたってもそれはやって来ず、ちらりとその人を見た。その人の緑の目と視線が合って、顔を横に振られた。
嘘のようだ。あんな光景を見たから、自分は叩かれる物だと私は認識していた。
「な、なぐらないの?それできったりもしない…?」
愚かにも私は質問を投げ、その人は顔を横に振った。口を一切動かさず、動作のみでその人は私と対話していた。僅かに眉を下げていた、そんな気がした。
その人は喋らなかった。何も、叫びも呻き声も無く、互いの呼吸音と燃える丸太がぱちりと火の粉を散らす音だけがその場にあった。その人の様子に、私は一つの考えが浮かんだ。
「…しゃべれないの?」
その人は顔を縦に振った。――ああそうなんだ。この人もなんだ。そんな根拠のない自信が私にその言葉を告げさせた。
「あの…。
……ついていっても、いいですか…?」
その人が顔を縦に振り、私の悪夢が終わった。
村が燃える火はあんなに綺麗だったのかと感じた。体に、心全てが喜んでいる様だった。
久しぶりに自由に障害物の無い道を歩いた。体を動かせることに喜びを感じた。そんな私を緑の目が…、初めて見た時よりも柔らかい印象を与える様になった目が見つめていた。
その人は私に文字を教えてくれた。それによってその人と言葉を交えることが出来た。
その人は私に知識を与えてくれた。物、花、たまに出会う怪異について知っていることを教えてくれた。ニーアはレプリカントが一番最高だと教えてくれた。ニーア、レプリカントというのは分からなかった。
その人は私に物を与えてくれた。『アッガイ』と呼ばれる機体が初代の作中で一番可愛いものだと教えてくれた。初代というのが何なのかは分からなかった。
その人は私に秘密を話してくれた。視界が人より違うのだと、それによってあの村人らも消してくれたのだと教えてくれた。
その人は色々な物を私に与えてくれた。失っていた物を取り戻したかのような、充足した日々だった。
私は常に楽しくて堪らなかった。もっとこんな日が続けばいいのにと願っていた。
しかし、唐突にしてそれは崩れた。月も見えぬ夜空の中、不思議と馬の足音が聞こえていた。
「逃げろ」
たったの三文字の言葉だった。初めて聞いたその人の声だった。それでも有無を言わせぬ力があって、私はその場を離れた。…離れてしまった。
逃げろと言われて、人から見えぬ場所、草が方々と生い茂る場所へ無理矢理掻き分けながら進んだ。足を進める度に夜が深くなっていく。進む度に縋りつきたくなる気持ちになっていった。それでも「逃げろ」と言われたならば逃げなければならなかった。…しかし、私は身に走る恐怖に負けて道を戻った。
遠目から、その人が――師が、誰かと戦っている姿が見えた。師はいつも一振りで賊も、怪異も薙ぎ倒していたから少しばかり新鮮だった。草葉に隠れながら見る闘いは、やはり師の方が優勢であり見事にその首を討ち取った。師は凄いお人なんだ。そう思って、その姿に駆け寄ろうと足を動かした、その時だった。
師の腹から刃が生えていた。赤い、幼き頃に何度も見た血が、流れて地に落ちていた。
それを行った無粋者は、次に師の首を斬った。滑らかに、高らかにその御首が飛んでいた。斬られた黒髪が夜に溶けながらも揺れ、その…忘れがたき緑、蒼とも呼べる瞳が、真中に深淵を映した瞳が私を捉えた。
無様に震えた私を見て、諦念の色を浮かべて閉じられた。
弧を描いて飛んだ師の御首は無粋者の手に収められ、そいつが獣の様に興奮しながら雄叫びを上げていた。そのまま馬で駆けていく姿を横目に、私は震えながら首の無い師の元へ寄った。周囲には伸ばされていた黒い髪がくるりと円になりながら落ちていた。それを集めながら、首の無い師を揺さぶった。
「ね、ねぇ…起きてください、起きてください」
揺さぶっても師は起きない。師はいつも私より早く起きていたからだ。
私は師の名前を知らなかったことを、その時に気が付いた。私は隣にいながらも、師について何も、名も経歴も知らなかった。…師が寝ていなかったことにすら、師の隣で惰眠を貪っていた私はまったく気が付かなかった。
「起きて、ください」
師は起きなかった。
私は遺体を土に埋めようとしたが、私の腕の力は酷く弱いものだった。せめてもの、師の代わりとして師がよく扱っていた刀を持ってその場から逃げた。
行き先なんて分からず、月の光も差さない道を歩いた。何日も、日が昇ろうと月が満ちようと歩き、私は倒れた。
その先で村に拾われて、受け入れられた。…だが、そこでも私はまた不死を露呈させた。
救いだったのはそこの村人は私を痛めつけようとしなかったことだ。近くの洞に木の檻を建て、そこに私を入れて鍵を掛けられた。入れる際に師の刀を取り上げられようとした。私は無我夢中になりながらその村人たちの手から逃げて、自ら檻に入ることを選択した。
一日ごとに脱走しないか見張る気配がした。しかし、それが段々三日、七日と間が空いていった。出る隙はいつでもあった、師の刀を振るえば木の檻だって切れた。それでも私は逃げなかった。
逃げても逃げなくても、私の傍に師がいない。そんな生を生きることが辛く感じた。
長く、長く、自らの記憶を反芻した。あの悪夢から救い出してくれた師を思い、何度も何度も私は反芻した。
その後は酷く苦しい物だった。師は傍におられない、師が亡くなられた。傍で見つめるあの瞳はもういない。
ことり。私の呼吸しか響かぬ洞に音が響いた。それは檻の鍵が腐り落ちた音だった。
記憶の反芻は、師への想いと、苦しみを与える人間への憎しみへと変わり、私を分裂させた。
ある私が外に出て、殺戮の限りを尽くした。且て、師が行っていたように村を焼き、人を殺した。身分関係無く、人の姿が見えるのなら師の刀で斬った。私がされた様に、焼いた、斧で切った、目玉を抉った、頭を潰した。
私は捕まった。そして三羽鴉の仮面を与えられ、時の権力者の元でこの刃を振るう事となった。
天照院奈落、その組織の頭領として幾つもの私が過ごし、死んできた。
何度も死を偽装し、頭領となっただろうか。その中でも手に握る刀と、根深く刻まれた記憶だけは変わらず、私に幻想を抱かせた。
弱い私は現実を見ようとせず、その願いを抱いた。今まで死んできた私にも、今の私にも……全ての私の根底に共通する願い。
師はまだ生きている。
そんな筈は無いというのに。眼前で空を舞う首と流れる黒髪を目に焼き付けておきながら…愚かにも私はあの姿を、時代が幾つも変わろうと探していた。
そんな折だった。
「…師がおられた」
本日の仕事途中。醜い狸の謀反を企てた者らも最早暗闇の中、事切れた死体と誰もいなくなった屋敷の中にて零れた。
そうしてふと過ぎった。先刻、隣を過ぎたあの瞳は誰ぞと。あの目、あの緑色の目を。私の中で、その目をするのはただ一人だけだった。
「師が、おられた」
あの日々の記憶は年月が経つほど鮮明に、色濃く私に刻まれる。
見間違える筈もない、常人には見えぬあの瞳の輝きを。奥深くに潜む暗き深淵を。
「師がおられた」
首元に不愉快な傷跡を残しながらも、記憶の中と寸分違わぬ姿でおられた。目の色彩も隈の濃さも変わらず。
その身に纏う血の匂いだけは依然として濃く、それでも背丈すらも変わらずに!
変わらず、変わらず、変わらず変わらず、変わらず変わらず変わらず変わらず変わらず変わらず変わらず!
「は、はは、ははははは、はははははははははははははははははは、ははははははははははははははははははははははははははははははは、はははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは、はは…!」
笑いが止まらない。ああ、いたのだ!私の幻想は幻想では無かった!!
私と同じであったのだ!同類であったのだ!!!
今まで私と同じ時を生きておられたのだ!!!!
「…必ず見つけ出しますとも」
私は見た。あの人の存在を知った。一度は逃したが、二度は逃さない。
そしたら、今度こそは。今度こそはその名を聞きたい。
もう師の死体を動かせぬ程非力であった昔の私ではないのだから。草の葉の陰で震えて師の死を待つ程脆弱ではなくなった。体も成長し、幾度も人を殺す技術を鍛えてきた。
だから、どうか―――
ちなみに彼にとってはもうどうでもいいことですが、弥吉は彼を受け入れて育ててくれた親代わりの人でした。悲しいかな…(無常)