GBN総合掲示板のワンナイトハロウィン回( https://syosetu.org/novel/231188/8.html )におけるエキシビジョンマッチですわ。
ハロウィン・フェス。
それはGBN運営が主催となって行われるイベントであり、アミューズメント・パーク・ディメンションの浮島を舞台に設定して開催されている。
参加者は軽いものから拘ったものまで、実に様々な仮装をしてこのイベントを楽しんでいた。
因みに運営主催のものとは別に『エターナル・ダークネス』、『ナイトメアハロウィン』、『ナイトレイド』の三つのフォースによる有志の合同ハロウィンイベント『ワンナイトハロウィン』も同時に開催されており、こちらも浮島の一つを舞台としている。
現在、ハロウィン・フェスの方はただでさえ盛り上がっていた参加者が皆こぞって中継モニターの前に集まり、熱気を帯びた視線を画面に集中させていた。
視線の先に映るのは、ハロウィン・フェス用に用意された特設のバトルフィールドで戦う四機のガンプラの姿が在った。
一機はGBN最強と謳われる現チャンピオンでありフォース『AVALON』のリーダー『クジョウ・キョウヤ』のガンダムTRYAGEマグナム――そんな彼と相対するのは、かのブレイクデカールやELダイバーを巡る事件で活躍したフォース『ビルドダイバーズ』の『リク』の『ガンダムダブルオースカイメビウス』、GPD世界総合大会ではベスト16に輝き、GBNでは個人ランク4位に座するフォース『北宋の壺』の『テトラ』の『ザ・ギャン』、GBN最大規模を誇るフォース『GHC』の『アトミラール』の『フラッグP-38Gライトニング』であった。
彼らが戦っている理由は、これが所謂エキシビジョンマッチであるからだ。
「三対一とか卑怯じゃね?」と思われるかも知れないが、相手がチャンプであるならば、むしろこれでようやく天秤は五分といったところである。
例え個人ランク4位のテトラが味方にいたとしても、高い対応力を有するリクがいたとしても、優秀な指揮能力をもつアトミラールがいたとしても、それでようやくなのだ。
何故ならば、彼らが成長するように、チャンプ――クジョウ・キョウヤもまた、今も成長を続けているからだ。
⁎
『てりゃぁぁぁっ!!!』
『むぅッ!?』
テトラのザ・ギャンからの一撃を回避したチャンプは、反撃に移ろうとした瞬間を狙って斬りかかってきたリクのスカイメビウスのメビウスアロンダイトの一閃を、反撃に使うはずだった左腕のトライアームソードで防ぐ。
さらにその一瞬を突いて繰り出されたテトラの連撃をいなしながら、互いの隙を補うように放たれる二人のコンビネーションに、防戦を強いられていた。
意外かと思われるかも知れないが、チャンプとて一人の人間である。
GBNの頂――一位に座して久しく、常人離れした技量は確かに凄いの一言に尽きるが、それでも無敗ではないし、無敵でもない。
マゼラン大陸のSD限定大規模バトルロワイアル『グレートパンクラチオン』では優勝したものの満身創痍というギリギリの接戦で、第14回ガンプラフォースバトルトーナメントで優勝するまでは多くの強豪に苦渋を飲まされ、それまでに歴代チャンピオンたちの胸を借り、第二次有志連合戦では様々な要因こそあったものの結果的には敗北している。
だからこそ、最強の座を目指す誰も彼もがチャンプの打倒を諦めることなく切磋琢磨し続けていられるのだ。
しかし、そうであったとしてもチャンピオンという称号は伊達ではない。
防戦一方ではあるものの、その動きに焦りや苛立ちといったものはまったくない。
むしろ時間を経るごとに二人の攻撃を捌く動作が効率化しつつあった。
『二人とも、さらにできるようになったか!』
『そっちこそ、あん時より技量爆上がりしてんじゃん!? ――オタクくん!』
『はい!』
感嘆を乗せたチャンプの言葉に、しかしリクは行動で返した。
テトラとは違い、そこに言葉を挟む余裕がリクにはなかったからだ。
それはリク自身がよく理解していた。理解していたからこそ、言葉を行動に代える他なかった。
(これがハイランカー同士の戦い!? 着いていくので精一杯だ!)
あの頃と比べて技量が上達したという自覚はある。強くなったという自負もある。
それでもリクが成長するのと同様に、チャンプもまた成長しているのだ。
ただ、そうであっても、即席で組んだテトラとの連携を目立った粗もなくこなしてみせるのは、流石のものであった。
前衛をテトラ、中衛をリク、後衛をアトミラールが徹底することで、明確化した役割でどう動けばいいのか、自然と頭が理解していた。
それはアトミラールの指示と、テトラの勇猛果敢な斬り込みがあって成立するものだ。
突き出したアロンダイトの刺突を避けられながらも、スラスターを噴射すること機体を制御し、淀みなく横からの斬撃と繋げる。
しかし、チャンプはこの一撃さえも斥力推進によって生じるエネルギーを転用し、フィールドとして腕に纏わせることで素手で掴み取った。
『くっ!』
『いい一撃だが、まだ遅い!』
『うあぁ!?』
膝に蹴りを入れてスカイメビウスの態勢を崩し、アロンダイトを掴んだその手で振り回すことで助けに入ろうとしたテトラにぶつける。
『うっそぉ!?』
衝突の寸前、テトラはビームサーベルのエネルギーを切り、刃を消失させることで同士討ちを免れる。
機体装甲表面が擦れ合い火花が散る。
金属と金属がぶつかりあう鈍く高い音が響く。
二機の態勢が完全に崩れた。
追撃をしようと即座に背面腰部に懸架したトライドッズライフルを構える。
瞬間――
『させんよッ!』
頭上からアトミラールのフラッグP-38Gライトニングがチャンプの頭上を陣取り、76.2㎜リニアマンシンガンを浴びせかかった。
原型機の単発モードをオミットした代わりに、速射モードに絞り込んで強化を施したこの武装は、速射のまま単発モードの2倍の威力を発揮することができる。
しかし、チャンプの斥力装甲を貫くには至らない。
それはアトラミールも重々承知している。悔しいが、それほどまでに性能差がありすぎるのだ。
だが、彼の狙いのチャンプに手傷を負わせることでも、ましてや撃破することはでない。
あくまでもアタッカーとしての役割をこなすテトラとリクの二人をサポートすることが、アトラミールが自身に課した役割だった。
だからこそ、欲張る必要はないと落ち着いた行動ができるのだ。
『その速射性と威力……厄介だな! やはり!』
『何発も受けて平然としているのによくも言う! だがな――』
雨あられの如く降り注ぐ76.2㎜リニアマシンガンの弾丸が射線を変え、トライドッズライフルに注がれる。
いくら堅牢なチャンプのTRYAGEマグナムとて、備えた武装まで堅牢とは限らない。
特に攻撃に用いる武器は、剥き出しの牙だ。
『こちらが狙いか!?』
『そうともさッ!』
弾丸の火力と纏った電磁が内部でトライドッズライフルのエネルギーと接触し、内側から暴走させる。
チャンプはそれを手放し、背面に装備したトライホルダーフレームから展開したビームマントを翻すことで爆発の衝撃から身を守った。
アトミラールはそれ以上の追撃を止め、変形してチャンプの射程外へと離脱する。
『引き際も心得ているか』
『流石に一人で相手取るほどの度胸はなくてね!』
『物は言いよう、かッ!』
体勢を立て直したテトラのザ・ギャンが迫る。
手にはビームサーベルではなく、細身の小型ビームサーベルが握らていた。
指と指の間に挟んで持てるように削られたそれは左右にそれぞれ四本ずつ、合計八本も持てるようになっている。
一本一本は小型であるが、ビームサーベルよりも出力が低いということはなく、むしろ作り込みによって通常のものよりも高い出力を発揮していた。
かつてはビギニングガンダムの使い手が編み出したとされる、その技の名を取って――
『ガンプラ心形流――オロチの型ッ!』
片手で振るわれる斬撃は一度に四つ。両手ならば八つの脅威。
一度でも受ければ連続したビームの刃によって押し切られるのは明白。
そう簡単に受けるわけにはいかないと、回避を選択する。
だが、それは――それこそテトラの領分だ。
『やはりかッ!』
回避先には、斬撃が置かれていた。
須臾とも言えるほどの隙間の中で設置された先の先の一撃。
テトラの持ち得る直感と技量、そして親友『マヒル』の修める真久部流から学び取って可能とさせた御業である。
チャンプでさえそれを明確に見切ることは未だにできないでいた。
だが――
『
チャンプのマニューバを予測し、回避先に置かれたビームサーベルの残撃に対し、見切るのが困難であるのならばあえて真正面から打ち破るというパワープレイで応じた。
斬撃が届く前にビームマントを翻すことで、ビーム斬撃の輪郭を歪ませて無力化する。
その一瞬を狙って放たれたスカイメビウスのビームライフルの一撃も、跳ね上げた爪先で当然のように砕いて散らす。
『二度も同じ手は喰わんよ!』
『だっしょー!』
正面から繰り出されたチャンプの攻撃を頑強なシールドで防ぎながら、テトラは大きく横に移動した。
『これは!?』
視線の先――ザ・ギャンのシルエットに隠れるように位置していたスカイメビウスがハイマットフルバースト形態で構えていた。
チャンプは向けられた砲口の射線から外れようしたが、置かれた斬撃によってマニューバを大きく制限されてしまう。
それならば斬撃の置かれていない空白から離脱しようとするも、ここぞとばかりにアトミラールの76.2㎜リニアマシンガンが連続するスパーク音を立ててそれを阻止する。
『いっけえぇぇぇぇぇぇッ!!!』
リクの叫びと同時に、スカイメビウスの全砲門が吼えた。
吐き出されたビームの光条の群が、チャンプに殺到する。
今さら避ける時間はない。
『ならば正面から受けるッ!』
ビームマントの出力を上げて、上半身を捻って展開する。
チャンプを釘付けにするために射程内に留まり続けたテトラは、持ち前のシールドの頑強さを以て自身に流れてきたビームを防ぐ。
マントとビームの束が衝突し、衝撃がチャンプの臓腑を揺らす。
『この威力……トランザムインフィニティを併用しているのかッ!?』
『その通りですッ!』
エネルギーゲージがオーバーヒートするまで撃つのを止めない。
一発一発が強力なビームの光条でチャンプの動きを止める。
古今東西、上から下まで有効な戦術――それは機動力を削ぐということだ。
かつて第10回ガンプラフォースバトルトーナメントでテンコがドラグーンとifsビットを用いて鳥かごめいた包囲網を敷いたように、第14回でロンメルが狭い建物内に誘い込み回避困難な範囲攻撃で追い詰めたように、アトミラールの分析データを最大限に利用したテトラの先読みとリクの予測撃ちでチャンプの動きを制限する。それが大方の狙いであった。
そして――
『――テトラさんッ!』
『ま・か・さ・れ・たぁッ!』
言葉が発せられる前にテトラは、チャンプの背後にいた。
ビームの威力に押し流されていくように見せかけながら、徐々にそこまで移動していたのだ。
右手の四本のビームサーベルを爪のように見立て、斬りかかる。
『想定済だッ!』
『ッ!?』
殺到するビームの束を隠れ蓑にして射出していた二基のTRYファンネルが殺到し、鳥のような自在なマニューバで一基目が振りかぶったザ・ギャンの腕に突き刺さり、二基目も左胸部に突き刺さる。
『テトラくん!?』
『モーマンタイっしょ!』
アトミラールの声にテトラは堪えた笑顔を浮かべた。
痛くないダメージを受けても、テトラは止まらない。
突き刺ささったTRYファンネルを意に介さず――次に飛来したメビウスビームキャノンの直撃コース上に躍り出た。
『同士討ち? いや、これは――』
テトラのザ・ギャンはその徹底的な作り込みによってヨノモリ塗料やクロマル塗料を不使用のまま、ヤタノカガミの如くビームを反射するほどの装甲性能を有していた。
勿論、これはシールドも例外ではない。
そんな性能を有するザ・ギャンにシールドにメビウスビームキャノンが直撃すればどうなるか?
その答えは直撃したメビウスビームキャノンの一撃が示した。
『ぐぅッ!』
ザ・ギャンの光沢を放つシールドを介して反射、角度を調整して拡散されたメビウスビームキャノンがチャンプに降り注ぐ。
既に正面からのハイマットフルバーストの猛攻に加えて、背後からの跳ね返されたビームの雨。加えて万が一に備えているアトミラールという布陣。
その光景に、観客の誰もが固唾を飲んだ。
「もしかしたら、もしかするのではないか」という一縷の期待が、皆の胸に芽生えた。
『……それでも、なおまだ健在とはな』
上空から俯瞰する形で、戦況データを送り続けながらアトミラールは苦々しく呟く。
これだけの火砲に挟まれながら、チャンプはビームマントとトライアームソードを使い、凌いでいる。
けれど、その全てを凌げているわけではない。
既にTRYAGEマグナムには少なくない損傷が見て取れる。
しかし、それはテトラのザ・ギャンも同じだ。
いくらビームを反射できようが、それにだって限界はある。
リクのスカイメビウスにもオーバーヒートによる強制排熱と打ち止めがくるだろう。
一見して三人に有利な状況に見えるが、要は根競べといった状態にある。
『厄介なTRYファンネルは二基、テトラくんに突き刺さっているが――』
そこで気づいた。
TRYAGEマグナムの肩に残っていたはずのもう二基のTRYファンネルがなくなっていたことに。
『まさか!?』
狙いはリクかテトラか、それとも両方か。
TRYファンネルによって切り裂かれる二人を幻視して、アトミラールは警告を込めて通信を開こうとし――予想の斜め上をいく光景に、一瞬、戦いを忘れた。
『攻撃が――』
『――届かないッ?』
テトラとリクも、状況の異変に気付いた。
理由は明白だった。
円を描くように高速で飛び回る二基のTRYファンネルが、直撃コースのビームの雨をことごとく切り裂いていたのだ。
普通であればありえない光景だが、それを行っているのがチャンプであるならば、認めたくはないが納得はできる。
加速を乗せて鋭利な空飛ぶ刃と化したTRYファンネルが、メビウスビームキャノンの熱さえ切り裂いて払う。
『三人だからこそ成せる連携の技。確かに見事だ。流石に焦りを感じてしまったよ』
バサリ、とビームマントがはためく。
チャンプもまた決して軽くない損傷を与えられていた。
コンビネーションに押されて防戦を余儀なくされ、トライドッズライフルを破壊され、得意のマニューバさえ制限されたのだ。
さらにハイマットフルバーストからの一斉射撃の中で接近戦を仕掛けてくることは想定していたが、まさか味方の攻撃を利用してくるとまでは見抜けなかった。
お陰でTRYAGEマグナムの装甲の一部は焼け、溶け、焦げていた。
『だからこそ、私も全力で応えねばならない』
TRYAGEマグナムのツインアイが力強く輝いた。
チャンプの意思に呼応するように、排熱による熱風がダクトから零れる。
背部のトライホルダーフレームが取り外され、変形と同時に手に握られる。
その時にはビームマントは集束し、ビームで形成された巨大な光刃を伸ばしていた。
トライホルダーフレームの攻撃形態――トライスラッシュブレイドだ。
『――来るッ!』
誰もが予感した。
機体を捻るようにし、トライスラッシュブレイドを水平に構える。
そのまま引き抜くように、横薙ぎに振るった。
瞬間――剣圧によって生じた衝撃が降りかかるビームの雨を消し飛ばした。
衝撃はアトミラールのフラッグをよろめかせ、リクのスカイメビウスをも怯ませて、そして最も近くにいたテトラを打った。
『んなぁッ!?』
先に狙われたのはテトラだった。
チャンプは振り向きざまにブースターを噴射し、急接近をかける。
一連の動作があまりにも流麗で、気が付けば一瞬でテトラを間合いに収めたようにしか見えなかった。
それでもテトラは反応した。彼女もまた伊達に個人ランク4位にはいない。
スラスターを噴射し素早く崩れかけた態勢を整えると、シールドを構えてチャンプを迎えうつ姿勢をとった。
右腕がTRYファンネルによって機能しないことに不安はあったものの、それを気にしているほどの余裕はない。
シールドからミサイルを発射し、迎撃を試みるが、今さらミサイル程度で止められるなど考えていなかった。
事実、チャンプは速度を緩めることなく、一度の斬撃でミサイルを全て斬り払ってみせた。
(右腕は使えない……ダメージ比率も二人より高い……あーしができることは……)
防御に集中し、引きながら時間を稼ぐこと。
そうと決まればやることは単純だ。しかしそれはこの中にいてテトラにしかできない役割でもあった。
迫るトライスラッシュブレイドの刺突をシールドの曲面に乗せて逸らす。
衝撃で指に挟んだ小型ビームサーベルが滑り落ちた。
スラスターを噴射しながら次の一手に備えて姿勢制御を即座に完了させ、突きから払いに転じた斬撃をシールドで受け止める。
『片腕でこうもやるとはッ!』
『伊達に研究はしてないっしょ!』
シールド裏に備えた小型ビームサーベル八本をパージ。
ビットやファンネルほどではないが、間近の距離ならばある程度の遠隔操作も利く。
コントロールスティックを操作し、小型ビームサーベルを起動させる。
発振したビームの光条は、しかしサーベルではなく、ウィップを形成した。
『ビームウィップッ!』
文字通り、伸びたビームの鞭が四方からチャンプを絡めとらんと殺到する。
蛇のようにのたうつ奇抜な軌道は、遠隔操作であってもテトラの操作に可能な限り応えたものだ。
一本を回避しようと二本目が、二本目を防ごうが三本目が――それが八本ともなれば、まさしくヤマタノオロチと言えよう。
自在な軌道を描きながら迫るビームウィップに囲まれながらも、チャンプは冷静に状況を捉える。
トライスラッシュブレイドの集束率を下げ、拡散することで刃の形状がマントのように揺らめく。
ガキン、と刃を形成するための実体パーツが可動し、扇状に展開。
それに合わせてブレイドとマントの中間の拡散率となったトライスラッシュブレイドを機体ごと回転させる。
マントのような柔らかな軌道に、ブレイドの鋭利さを保持した一撃が、瞬間的にビームウィップを本体の柄ごと斬り飛ばした。
『ま・じ・でッ?』
あの一瞬でそこまで判断して、なおかつ実行してみせる度量と技量に引き攣った笑みを浮かべる。
テトラもまたユニの応援を受けていた手前、易々と墜ちる気はないが、さりとてこれ以上戦力となれるほど万全とも言い難い。
厄介な相手から倒す、というのがチャンプの目的なら、最も距離が近く、片腕を失っても厄介でなおかつ余力があるテトラを真っ先に狙うのが丁度よかったのだろう。
釘付けのための行動がここで裏目にでた形だ。
『でも、まぁ、時間は稼げた的な?』
シールドに内蔵したワイヤーを伸ばし、チャンプ目掛けて投擲する。
だが狙いは眼前のチャンプではない。
投擲されたシールドはあっさりと躱され、再び集束したトライスラッシュブレイドの一太刀で、ザ・ギャンは斜めに両断された。
『後は任せたっしょッ!』
ワイヤーごとシールドを切り離し、叫ぶ。
応えるように未だに持続しているトランザムインフィニティ状態のまま、リクのスカイメビウスが脚部に備えた武装スカイレガースのビームフィールドを発振させて投擲されたシールドに向かう。
嫌な予感を覚え、二基のTRYファンネルを迎撃にあてる。
『その脚を切り落とさせてもらおうッ!』
テトラという強力な前衛が墜ちた今、チャンプには若干の余裕ができていた。
(恐らくはあのシールドを蹴り返すことで、ほぼ破壊不能な質量弾として利用するつもりなのだろうが)
ザ・ギャンのシールドの剛性はチャンプも知っている。
EXカリバーの一撃を防ぎ切るほどのあの防御力を、ある種の攻撃力として転化すれば確かに厄介ではある。
しかし――
(本当にそれだけか?)
あまりにも単純すぎる。
ましてやシールドを蹴り返したところで回避するのはチャンプには容易い。
ここにテトラの置き斬撃と先ほどの予測撃ちがあれば話は変わってくるが、あれはどちらか片方では成立しない。二つ揃って初めて脅威となる戦術なのだ。
『――ブラフかッ!』
疑問は確信に変わる。
スカイメビウスは直前で身を捻ることでシールドを回避――だけに留まらず、踏み台として蹴ることで加速に利用する。
『ここだッ!』
スカイレガースの腕部版とも言えるスカイブレイサーをマルチクローモードにして展開。
マニピュレータをビームフィールドで覆い、迫りくるTRYファンネルを掴み取った。
そのままTRYファンネルを砕き、スラスターを噴射することで速度を重ねる。
『来るかッ!』
トライスラッシュブレイドを構え直す。
同時に肩のTRYバードを分離し、上空に飛ばす。
『見えていたかッ!?』
『見えてはいなかったッ! さっきまではッ!』
頭上からの奇襲をかけようとしていたアトミラールの迎撃にあてたのだ。
だが、アトミラールもそれを理解した上で六連装空対空ミサイルポッドを放ち、さらに十六連装無誘導ロケットランチャーを放った。
TRYバードはTRYファンネルほどの迎撃能力はない。ビームガンを連射するも、全てのミサイルを撃ち落とすには至らない。
むしろ貫いたミサイルの爆炎が妨げになってTRYバードの追尾性能ではその全てを認識が困難であった。
TRYバードを通りぬけたロケットランチャーが周囲に着弾し、盛大な爆発とともに炎を煙を巻き上げる。
目隠し。最も解りやすい手段だ。
無論、アトミラールはチャンプにそれが通じるとは思っていない。
『それでも! 視界を一瞬でも塞げたのであればッ!』
フラッグP-38Gライトニングを高機動状態のままMS形態に空中変形させ、流れるような動作で柄を引き抜くと、発生したプラズマを集束させてプラズマソードを形成し、すれ違いざまにTRYバードを斬って落とす。
さらにビームローターをビームシールドとして、もう一基のTRYバードから放たれたビームガンを防ぎ、カウンター気味に連射した76.2㎜リニアマシンガンを浴びせて撃破した。
だが、撃破の寸前、TRYバードが最後に放ったビームガンが76.2㎜リニアマシンガンを撃ち抜いた。
舌打ちを我慢し、76.2㎜リニアマシンガンを投げ捨てる。
『ここまで接近するのに稼いでもらった時間、無駄にはすまいッ!』
黒煙を切り裂いて頭上から迫るアトミラールのフラッグP-38Gライトニング。
爆風で舞い上がった土煙を突き抜けて正面から迫るリクのスカイメビウス。
二機によるほぼ同時の攻撃。
TRYバード、TRYファンネルを失ったチャンプにとっては厳しい局面だ。
(TRYバードはああもあっさり墜とされるとは……。それに、どちらか片方に集中すれば、もう片方からの攻撃を受けるこの状況……)
それでもチャンプは焦ることはない。
カメレオンのように視線を動かして、思考の中で最適解を模索する。
『――ならば同時に対応するのみッ!』
アトミラールの軸に合わせて頭上に掲げたトライスラッシュブレイドの出力を上昇させる。
ブゥン、と音を立てて、ビームの光刃をさらに延長させた。
『なにッ!?』
『トライホルダーはこうも使うッ!』
突如としてリーチを伸ばしたトライスラッシュブレイドに、アトミラールは完全に反射で反応した。
ビームシールドに切り替え、光刃を防ごうとしたのだ。
しかし、出力の差がそれを圧倒する。ビームシールドを突き破り、フラッグP-38Gライトニングを半身に突き刺さる。
このままリクに向かって振り抜くつもりなのだろう。
(このままでは――)
先ほどのテトラの活躍を思い返す。
彼女が持ち堪えて時間を稼いでくれたお陰で、ほぼ安全に接近できたのだ。
被弾することなくTRYバードを撃破できたのも、TRYバードが完全に加速を得れる距離ではなかったからだ。
(それでもああも綺麗に撃破できるとは、自分でも思わなかったが)
自嘲気味に小さな笑みを浮かべる。
しかし、その瞳には諦めの色はなかった。むしろ、熱い闘志の炎が灯っていた。
ダメージを報せる警告音を叩いて黙らせ、コントロールスティックを握る。
『ま・だ・ま・だぁッ!!!』
『むッ!?』
『アトミラールさんッ!?』
嫌な音を立ててスパークを散らすフラッグP-38Gライトニングも、アトミラールの声に、そこに宿った意志に呼応するように、メインカメラを輝かせる。
突き刺さり、今なお身を焼くトライスラッシュブレイドの光刃をそのまま道筋に見立て、スラスターを最大まで噴射して加速する。
振り抜かれるまでの一瞬の行動。意志と意志と読み合いの攻防に――アトミラールはチャンプの一枚上をいったのだ。
『勝ち筋は潰させはしないと言うのだッ!』
ついに完全に断たれた半身を横目に、残った身体でチャンプのTRYAGEマグナムに組み付いた。
特にトライスラッシュブレイドの柄を強く握る右腕をガッチリとようやく動く片腕で絡めとる。
それが可動域の妨げになり、チャンプはトライスラッシュブレイドを振り下ろせないでいた。
『くっ!』
この瞬間、チャンプの目が細まった。
そして、すぐに行動を変える。
トライスラッシュブレイドの柄から手を放し、トライアームブレードを最大出力で発振。
手負いのアトミラールが発揮する底力を、余裕のあるパワーで凌駕し、組み付くフラッグP-38Gライトニングを無理矢理引きはがし、トライアームソードで切り裂く。
『くそぅッ! すまない、後は頼んだぞ……!』
アトミラールの苦々しさを含んだ声を聞き届け、すぐに来るであろう後を頼まれたリクのスカイメビウスに目を向け――眼前に迫ったシールドを認識する。
『な・にっ?』
ゴガァン、と激しい音を立てて激突したシールドがTRYAGEマグナムの右顔面を砕き、衝撃に怯んだことでトライホルダーフレームを取り落としてしまった。
砕いたシールドの正体がザ・ギャンのものであることは、あの一瞬で判別できた。
(だが何故!?)
答えは簡単だった。
切り離されたワイヤーを利用して、チャンプに向かって投擲したのだ。
あの時、ただ足場にするのではなく、ワイヤーを掴んでいたのだろう。
それが果たして本当の狙いであったのか、それともリクの咄嗟の対応だったのかは解らない。
だが――
『してやられたかッ!』
乱れるメインカメラの視界の中でも、トライアームソードを振るう。
対して、スカイメビウスはスラスターを噴射し、トライアームソードを避けると同時に、右側面で回り込んだ。
『その動きッ!? それが――』
『これが、ラッシュポジションですッ!』
ラッシュポジション。
スカイメビウスのバックパックを腰部に下げた格闘に特化した形態である。
これにより機体のもつ重心を変化させ、パワーを代償にスピードを上げることで、より柔軟でしなやかなマニューバを可能とさせている。
反面、通常時と異なる技量を要求させるため、リク以外には十全に扱えない性能となっていた。
リクはこの形態を用い、カメラとしての機能をほとんど喪失したであろう右側に素早く回り込んだのだ。
『もらったッ!』
半身に構え、右拳を突き出す。
パワーは下がっているとはいえ、スカイブレイサーによってビームに覆われた拳だ。
直撃すればチャンプのTRYAGEマグナムとて無傷ではいられまい。
そう、直撃すればだ。
『たかがメインカメラをやられただけでッ!』
右腕を可動させ、トライアームソードが繰り出された右拳とぶつかりあう。
灼熱の火花が散り、二機を照らす。
『この程度のパワーならば、押し返せないことはないッ!』
『くっ!? だけどこれなら――』
右拳――その指と指の間に挟んだ一本の隠し玉を使う。
『それはッ!?』
チャンプの目が見開かれる。
それは細身の小型ビームサーベル。
テトラのザ・ギャンが使っていたものだ。
『アトミラールさんのお陰ですッ!』
『な・にっ? ――あの爆風かッ!?』
あの時、チャンプの周囲に着弾した16連装無誘導ロケットランチャーによる爆風。
それにより土煙とともに舞い上がった小型ビームサーベルを、リクは回収していたのだ。
GBNでにおいて撃破された機体の武装は、完全に消えるまで暫くの猶予が存在する。
これによって『武器を拾って戦う』という戦法も、できなくはないのである。
ただしそれは拾った武器が機体に合うかどうか、使い勝手を知っているかどうかで話は変わってくる。
今回の場合、小型ビームサーベルはザ・ギャン以外も使用できるものであったこと、用途がシンプルであったことから、リクも使い方を把握していた。
柄の底部に存在するトリガーを手の平で押し込み、ビームを発振させる。
突き出るように伸びたビームの直線がトライアームソードの刀身を避けて、マニピュレータを貫いた。
『やったッ!』
『いいや、まだだッ!』
右腕を貫けれてなお、チャンプは冷静に思考を切り替え、TRYAGEマグナムを半回転させてリクを蹴り飛ばす。
予想以上のダメージを受けてしまったが、いずれも致命に至るほどではなかった。
ならば、と考え、残った武装と状況を照らし合わせ、後は純粋に――技量で圧倒するのみとした。
リクがスラスターを噴射し態勢を立て直した時には、既にチャンプが肉薄していた。
警戒すべきは左腕のトライアームソードだけだと判断し、突き出されたそれを回避し、ビームバリアで覆ったマニピュレータで伸びきった腕を掴み取る。
『取ったッ!』
『良い反応だが、まだまだ詰めが甘いッ!』
言うが早いか、スカイメビウスの膝関節に爪先に蹴りによる突きを見舞い、脚部を破壊する。
『こっちがッ!?』
『本命だッ!』
怯んだ隙を突いて、貫かれた右腕で殴りつける。
さながらサザビーを殴りνガンダムの如くに。
衝撃で緩んだ腕の拘束から抜け、次にリクが反応する前に全身のスラスターを噴射し、一回転と同時にトライアームソードで逆袈裟に両断した。
『お見事……です……』
『君たちも、実に素晴らしいバトルだったよ』
感嘆と悔しそうな感情が混ざった声音でリクが呟き、スカイメビウスのがテクスチャの塵となって消えていく。
この瞬間、バトルの終了を告げる音と勝者を告げる電子音声が会場に鳴り響いた。
会場は最高潮に達した熱気と大歓声に包まれながら、互いに健闘を称え合う四人の記念スクリーンショットタイムを迎えた。
GBN運営主催のハロウィン・フェス。
クジョウ・キョウヤvsテトラ&リク&アトミラールによるエキシビジョンマッチは、キョウヤ――チャンプの勝利で幕を閉じた。
この後、テンコ様が参戦したことでハロウィン・フェスの舞台である浮遊島が大変なことになるのだが、それはまた別の話。
塩試合? 結果的に見ればチャンプは右腕と右顔面、そして武装以外は割とピンピンしていたので塩試合ですわね???
笑う男様の二次創作品「『GHC』活動記録」からアトミラールさんをお借り致しましたわ。感謝致します。
次回、ワンナイトハロウィン。
ナイトメアハロウィン団長『マオー・エガオー13世/魔王ガンキラー・ジ・エンド』vsビルドライジングリーダー『ケイ/ガンダムAGE-1スタートダッシュ・フルビルド』
『終わり』と『始まり』の戦い。