それは、ある日の放課後のこと。
教室の掃除を担当していた僕と友達数人は、不真面目にも、掃除をさぼって談笑していた。
窓越しに、屋上から聞こえてくる美しい歌声と、エアコンの排気音をBGMに、くだらない話で盛り上がっていた。
会話の内容は覚えていなけれど、やけに鮮明に、その歌声とエアコンの音だけは覚えている。
僕は、窓の硝子にずっしりと寄りかかって、けらけらと笑っていたんだ。
屋上からの歌声が一度止み、少しすると、がしゃん、と乾いた大きな音がスローに聞こえてきた。
気がついたら、僕は日差しがかんかんと照る、教室の外へと放り出されていたんだ。
入道雲と目配せを交わすと、あの歌声の聞こえてきていた屋上が目に入った。
そこには、僕と同じ学級の、薄気味悪い、どこか不思議な威圧感のある女子が僕を見下げていて、少し驚いたような表情を浮かべていた。
それを見て、その女子が僕を落としたに違いない、と確信した。
勿論根拠はあって、その女の子が授業中に咳き込んだら、近くの窓が割れた、という事件が以前にあったからだ。
その時はただ偶然としか思って居なかったけれど、今回はあまりにもタイミングができすぎている。
そうやって憎しみを抱く間もなく、屋上に近い階の窓から、僕は地面に叩き落とされた。
いや、ただ叩きつけられたことはなく、僕は植えられていた木の枝をクッションにしながら落ちていたおかげで、全身がボロボロになるだけで済んだのだけれど。
とにかく、なんとか一命をとりとめた僕は、血の熱さと外気温の暑さを味わいながら、件の少女のもとへと向かった。
手には割れた硝子の破片を持ちながら、明確な殺意を持って、まともに動かない右足を引きずりながら、一心不乱に屋上へと登って行った。
バリアフリーとやらがこれ程までにありがたく感じたのはこれが初めてで、スロープなんてあんまり意識したこともなかったけれど、足を引きずっていると階段なんて使えないからね。
凄く短いようで長い距離を、スロープを使って登り、ちっぽけなガラス片をも取り落として、ようやく屋上へと続く扉へとたどり着き、ドアノブに手をかけた。
扉の向こうからは、また歌声が聴こえてくる。
人を一人落としておいて、呑気に歌なんて歌ってやがる、とおもって、ぶち破らんほどの勢いで、ドアノブをひねって、体で扉を押し開けた。
それが体力の限界だったのか、扉が開かれるのと同時に、僕の体はもう一度地面に叩きつけられた。
それでも、溢れ出んばかりの殺意を込めて、その女子の方を睨みつけた、と、同時に、それまで意識の端の方へと追いやられていた、歌声が耳に入り込んできた。
歌声を聴いた途端に、どうも殺意なんて失せてしまって、ただその場で、屋上の床と抱き合いながら、その子がこちらに気がつくまでそうやって聞き惚れていたんだ。
そう、その女子こそが、あの世界的なシンガー「うた」というわけさ。
僕だって、事故とは言え僕を殺しかけた女の子のファンになるとは思っていなかったさ。
ああ、そうそう、うたがこちらに気がついて、一言目に何を言ったと思う?
正解は、「大丈夫?」だよ。
意外と心配してくれるんだなって、なんでか、そのときは泣いちゃったね。
以上、同級生の方へのインタビューでした