音崎リタさんのhenceforthを聞いて妄想が爆発したので、此処に書きなぐりました。

過度な期待はしないでください。

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henceforth

そこには少年と少女が二人で向き合っていた。

小さな神社。笑っている少女。

何かを話しているようだが、その声は俺に届く事は終ぞ無い。

最後は、少女が空に指を差して、何かを呟く。

 

『――――』

 

いつもと同じ夢を見た。

俺の夢。俺の希望。最後に見たあの光景が瞼の裏側から離れない。

あれから何年も経っていると云うのに、俺はあの夏を忘れる事が出来ないでいた。

 

暗い部屋から窓の外を眺める。外は雨が降っていた。

 

 

--------

 

 

音崎リタと云う少女がいた。

家の近くの小さな神社。そこに住んでいる青い巫女。

年が近い事も有り、仲良くなるのは時間の問題だった。

 

「君の夢は何?」

 

石の階段に座って、彼女と雑談するのは俺の日課だった。

そんなある夏の日、彼女に聞かれた何気ない質問。

 

「私は歌手になりたいんだー。歌うのが好きだから!」

 

聞いてもいないのに夢を語る彼女はとても楽しそうで、俺には眩しい笑顔だった。

 

「君の夢は何?」

 

「俺の夢は・・・。空を、見たいんだ。世界中のいろんな空を」

 

俺は生まれつき色が分からなかった。夕焼けの憂いを知らない。木々の緑を知らない。桜の美しさを知らない。

色が分からない俺は、世界の異物だと思っていた。けれど、空だけは俺に様々な表情を見せてくれていた。

泣いている空。元気な空。憂鬱な空。星々で着飾った空。

俺は空の表情を見るのが好きだった。だから世界中の空の表情を見たかった。

俺にとってその夢は恥ずかしい物だった。だけど、

 

「すごい夢だね!君になら出来るよ!」

 

その笑顔を見た時、俺の夢は誇りに変わった。

 

「じゃあ、俺も君の歌を聞きたいな」

 

照れ隠しで話を変える。耳が少し熱を持った。

多分、その時初めて俺は存在を認められたのだろう。

 

彼女は恥ずかしそうに「じゃあ一曲だけ」と、その場に立って歌いだした。

歌には力があると、そう嘯く者がいる。

彼女の歌には、確かに力があった。

一瞬。ほんの一瞬だったが、黒と白以外の色が見えた気がした。

空の色が、見えた気がした。

 

その日から、俺は彼女に毎日歌をせがみ、その『()』を見る事が楽しみになっていた。

 

 

一年が経った。

 

 

その日は神社からあまり出ないと言う彼女を外に連れ出した。

空の表情を見せたかった。梅雨明けの、虹がかかるこの空を。

案の定、彼女の両親にはこっ酷く叱られたが、特に罰はなく、彼女の両親も外にあまり連れ出してやれない事を申し訳なく思っていたらしい。

 

「いつか言っていた君の夢、私の夢にするよ」

 

ふと、彼女はそう口から溢した。

 

「歌手の夢はいいの?」

 

「夢は一つじゃなくても良いでしょ?何個も持っていた方がきっと楽しいよ!」

 

彼女は笑ってそう言った。

 

「なにそれ」

 

思わず笑ってしまう。

彼女といるのはとても楽しい。そして生き方の勉強にもなる。

誰に言われるでもなく、”夢は一つだけ”と云う固定観念に囚われていた。

まさに目から鱗だ。

 

「空を見てる君の顔は、そうやって笑ってた。その笑顔、私は好きだよ。私にも”空の表情”が分かるかな」

 

「君になら分かるよ」

 

あぁ、顔が熱い。

面と向かって恥ずかしい事を言う少女だ。俺のぎこちない笑顔を好きと言ってくれるのは彼女だけだろう。

これまでも、これからも。

 

こんな夏がいつまでも続いて欲しかった。

変わらない今日みたいな日常が続けばいいと願った。

 

どうやら、その願いは神には聞き入れられなかったらしい。

 

 

一年が経った。

 

 

彼女が事故にあったと聞いたのは六月。丁度梅雨の時期だった。

その日から、俺は空の『()』が見えていない。

梅雨明けは訪れなかった。

 

一年が経った。

 

一年が経った。

 

一年が経った。

 

一年が経った。

 

一年が経った。

 

 

いつもと同じ道、同じ風景。変わらない日常。

毎日繰り返している小さな旅。一つ一つ、歩みを踏みしめる。

誰に言われないでも分かっている。

こんな事をしても彼女は帰ってこないと。足繁く通った所で彼女と会話が出来ないと。

 

あぁ、それでも願ってしまう自分の弱さが嫌になる。

引きこもって腐りはてるよりも、ずっと建設的で健康的だろうと自分を納得させる。

そうしないと、今にも泣き叫びそうだった。

 

傘の中からそれを見つめる。手を触れる。

此処に彼女が眠っていない事も、こうした所で彼女に触れる事が出来無い事も知っている。

それでも、この純粋で濁りの無い闇(無色)を払いたかった。

 

だから。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・。

 

そうして何分経っただろうか。

笑顔が見たい。歌が聞きたい。また一緒に空を見たい。

様々な思いが胸に宿る。この思いを吐き出すことはしない。彼女の困る顔が目に浮かぶからだ。

その気持ちを押し殺し、帰ろうと踵を返す。

 

その時だった。

 

『その歩み()を止めないで!』

 

そんな声と共に背中を押された。

彼女の笑う姿。瞼の裏に幻視する。

 

あぁ、あの夢は俺の夢じゃなかった。

あの夢は―――。

 

俺は振り返らずに歩き出した。闇を振り払うように。

泣いている空。心配はない。泣いた()後は必ず笑顔(晴れ)になる。

君に会うのは随分と先の事だろう。だけど、君にいつでも会えるように何時でも笑っていよう。君が好きだと言ってくれたこの笑顔で夏を迎えよう。

夢の中で何度も言ってくれた言葉を背にして。

 

「その夢をもう一回」

 

傘を閉じる。

俺の目には、その『()』が眩しいほどに、笑って(輝いて)いた。

 

あぁ、

 

『今日、梅雨明けが発表されました!』

 

夏を今もう一回!

 

 

 

 

 

 


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